【課題を解決するための手段】
【0010】
これまで、複数種類の濾過材を濾過槽内に充填する濾過装置においては、例えば日本水道協会が発行している水道施設設計指針に記載されているように、濁質の捕捉効率を維持するために濾過槽内で濾過材同士が混合せずに分離した状態にすることが推奨されてきたため、互いに隣接する濾過層を構成する濾過材同士が混合しないように、各濾過材の密度や粒径が決定されてきたが、本願出願人は、濾過装置の濁質の捕捉効率をさらに向上させるべく、当業者におけるこれまでの常識とは相反する、濾過槽内で濾過材同士が混合された混合層が形成される状態についても検討すべく実験を行った。
【0011】
以下に実験の結果を示す。
図2は互いに隣接する濾過層を構成する濾過材同士が分離した状態を示す図、
図3は互いに隣接する濾過層を構成する濾過材同士が混合された混合層が形成された状態を示す図、
図4は濾過材の深さ毎の濁質捕捉状態を示すグラフ、
図5は
図4のグラフの数値を示す表である。
【0012】
実験の内容については、2つの濾過層111、112のうち上層112の濾過材の密度を変え、互いに隣接する濾過層を構成する濾過材同士が分離する場合(混合層無)と、互いに隣接する濾過層を構成する濾過材同士が混合された混合層が形成される場合(混合層有)とで、実験用の原液(カオリン(和光純薬)により濁度20度に調整し、凝集剤としてPAC(ポリ塩化アルミニウム)を2mg/l添加した水)を濾過槽内に投入した際の濾過材の深さ毎の濁質捕捉状態を測定して比較を行った。
【0013】
なお、混合層無の場合の上層112は、密度1.44g/cm
3、粒径1.2mm(有効径1.2mm−均等係数1.4)のアンスラサイトからなる深さ20cmの濾過層であり、混合層有の場合の上層112は、密度1.62g/cm
3、粒径1.2mm(有効径1.2mm−均等係数1.4)のアンスラサイトからなる深さ20cmの濾過層である。
【0014】
下層111については、両方ともに密度2.63g/cm
3、粒径0.6mm(有効径0.6mm−均等係数1.3)の濾過砂からなる深さ40cmの濾過層である。
【0015】
混合層無の場合は
図2に示すように、下層111と上層112とが完全に分離した状態となり、混合層有の場合は
図3に示すように、下層111と上層112との間に2種類の濾過材同士が混合された混合層113が形成される。
【0016】
図4は濾過材の深さ毎の濁質捕捉状態を示すグラフ、
図5は
図4のグラフの数値を示す表である。
図4のグラフの横軸は上層112表面からの深さ(mm)、縦軸は圧力(MPa)を示しており、圧力が高い程その深さ位置において多くの濁質を捕捉できていることを示している。
【0017】
混合層無の場合、0mmと
200mm、すなわち上層112表面付近と下層111表面付近のみ圧力が上昇し、それ以外の部分ではほとんど圧力が上昇していない。これは、上層112表面付近と下層111表面付近以外の部分の濾過材ではほとんど濁質を捕捉できておらず、濾過材が有効に活用されていないことを示している。従って、混合層無の場合における濁質捕捉領域(有効領域)は
図2中でグレー表示している部分のみとなる。
【0018】
これに対して、混合層有の場合、0mmと
200mm、すなわち上層112表面付近と下層111表面付近のみならず、
50mm〜
150mmの間でも圧力が上昇し、さらにこの影響で0mmの圧力が非常に高い値となっている。これは、上層112表面付近と下層111表面付近だけでなく、その間に形成された混合層113でも濁質を捕捉できていることを示している。
【0019】
なお、混合層有の場合については、上記以外にも上層112の濾過材の密度や粒径を変えて混合層の状態を変化させてみたが、その結果、混合層113内においてほぼ均等に2種類の濾過材同士が混ざり合うのではなく、2種類の濾過材同士の境界面が縞状に複数積層された状態となるようにした場合に、濁質の捕捉効率がより高まることが分かった。
【0020】
これは混合層無の場合の実験結果からも分かる通り、2種類の濾過材同士の境界面付近のみしか効果的に濁質を捕捉できないため、このような境界面が縞状に複数積層された状態にすることで、濁質の捕捉領域を増やせるからと考えられる。
【0021】
以上のことから、上記の混合層有の場合の実験については、2つの濾過層111、112の濾過材について、混合層113において2種類の濾過材同士の境界面が縞状に複数積層された状態となる濾過材の組合せとしている。従って、混合層有の場合における濁質捕捉領域(有効領域)は
図3中でグレー表示している部分となる。
【0022】
さらに、実験用の原液を連続的に濾過槽に注水し、濾過後の液体の濁度が1.0度を超えるまでの時間を計測すると、混合層無の場合は9時間、混合層有の場合は15時間となり、明らかに混合層有の場合で濁質の捕捉効率が高まっていることが分かった。
【0023】
すなわち、これまで推奨されてきた仕様とは異なり、濾過材同士が混合された混合層が形成される状態、さらに好ましくは、混合層内において2種類の濾過材同士の境界面が縞状に複数積層された状態とした方が、濁質の捕捉効率を向上させられることを見出した。
【0024】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、本発明による濾過装置は、複数種類の濾過材から各々なる複数の濾過層を内部に有する濾過槽を備え、供給された原液を複数の濾過層により濾過する濾過装置であって、互いに隣接する濾過層同士の少なくとも1つの境界部分に、隣接する濾過層の濾過材同士が混合された混合層が構成されていることを特徴とする。
【0025】
なお、混合層については、濾過槽内に複数種類の濾過材を投入した後、濾過槽内で逆洗等を行って濾過材を移動可能な状態にすることで、各濾過材の密度差による移動が生じた結果、自然に層成されるものである。なお、本明細書において「密度」とは、物質の単位体積あたりの質量を指しており、「比重」と同義である。
【0026】
また、この混合層は、混合層を構成する2種類の濾過材のうち、粒径が大きい方の濾過材の粒径の50倍以上の厚さであり、かつ、その層内のどの部分においても混合される2つの濾過材のうちのいずれか一方の濾過材が、粒径が大きい方の濾過材の粒径の10倍以上の厚さ当たりで少なくとも全体の10%以上含まれる状態のものを意味し、従来の濾過層同士の境界近傍で若干発生する混合領域とは異なるものである。
【0027】
本発明の濾過装置では、混合層を構成する2種類の濾過材の密度は、互いに異なるものとしてもよい。
また、混合層内において、混合層を構成する2種類の濾過材同士の境界面が縞状に複数積層された状態に構成されていることが好ましい。