特許第5967976号(P5967976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東光学株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967976
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】照明光学系および照明装置
(51)【国際特許分類】
   F21S 2/00 20160101AFI20160728BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20160728BHJP
【FI】
   F21S2/00 355
   F21S2/00 330
   F21Y115:10
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-44397(P2012-44397)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-182717(P2013-182717A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227364
【氏名又は名称】日東光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史紀
(72)【発明者】
【氏名】岩本 尚志
【審査官】 柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−247438(JP,A)
【文献】 特開2001−125196(JP,A)
【文献】 実開平02−133804(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から順に配置される、第1のレンズと、第2のレンズと、第3のレンズと、
前記第2のレンズを光軸方向に沿って移動させる移動機構と、
を有し、
前記第1のレンズは、正のパワーを有するレンズであり、前記光源から出射され、前記第1のレンズを透過した光を、光軸上の光線を含む内側光束と、前記内側光束の外側に位置する外側光束とし、前記内側光束と前記外側光束とが平行でな互いに交差しない非交差領域を有するように出射し、
前記第2のレンズは、前記非交差領域を光軸方向に移動することが可能であり、前記非交差領域における前記内側光束および前記外側光束が透過する口径を有する、
ことを特徴とする照明光学系。
【請求項2】
請求項1に記載の照明光学系において、
前記第1のレンズは、
光軸上に配置され前記内側光束を出射する正のパワーを有する内側レンズと、
前記内側レンズの外側に配置されるリフレクタ部と、
を有することを特徴とする照明光学系。
【請求項3】
請求項1または2に記載の照明光学系において、
前記第2レンズは、
正パワーを有し、
少なくとも一面は非球面レンズであり、
前記外側光束が透過する領域は、前記内側光束が透過する領域に比べて、正のパワーが弱い、
ことを特徴とする照明光学系。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の照明光学系において、
前記第3のレンズの少なくとも一面は非球面レンズであり、前記光軸から離れるにしたがって負のパワーが強くなる、
ことを特徴とする照明光学系。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の照明光学系において、
前記第3レンズの出射側に光を拡散させる手段を配置する、
ことを特徴とする照明光学系。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の照明光学系において、
前記第3のレンズは光散乱機能を有する、
ことを特徴とする照明光学系。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の照明光学系において、
前記第3のレンズの出射側にフレネルレンズを配置する、
ことを特徴とする照明光学系。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか1項に記載の照明光学系において、
前記第2レンズおよび前記第3レンズの少なくとも一方はフレネルレンズである、
ことを特徴とする照明光学系。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の照明光学系を有することを特徴とする照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光学系および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット照明等に好適なように、光照射エリアの拡縮調整が可能な照明装置が提案されている(たとえば特許文献1参照)。特許文献1の照明装置では、光源の前に配置された凹レンズを光軸に沿って移動させることにより、光源から照射される光束の広がり具合を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4376289号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の照明装置では、当該文献の図11(b)または図21(b)などに示すように、壁面へ照射される光束には粗い部分と密な部分とを有し、照明のムラが生じていることがわかる。特許文献1の照明装置は、当該文献の段落「0009」などに記載のように、製品検査や植物育成のための光源を想定し、光源からの光をロス無く光照射エリアに導くことが目的である。このため特許文献1の照明装置では、照射される光束に照度ムラが生じることはさほどの問題ではない。
【0005】
一方で、特許文献1の照明装置をディスプレイ照明や室内照明として用いようとすると、照射される光束に照度ムラが生じることは大きな問題になる。たとえば光の照明領域にドーナツ状の光の輪が生じたり、反対に、光の照明領域の中心付近の照度が極端に高くなるなど、ディスプレイやインテリアのデザインの観点からすると好ましくない。
【0006】
また、特許文献1の照明装置は、負のパワーを有する凹面レンズだけを用いるので、光源から出射した光束が凹面レンズで発散する。このような構成では、発散する光束を妨げないように照明装置の口径が大型化される。これによれば照明装置の小型化、軽量化、および低コスト化の妨げになる。
【0007】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、照射される光束の照度ムラを低減させると共に、照明領域を狭い範囲から広い範囲まで連続的に変更させること、または装置の構成を小型化、軽量化、および低コスト化すること、のいずれか1つまたは複数を達成することができる照明光学系および照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のひとつの観点は、照明光学系としての観点である。本発明の照明光学系は、光源から順に配置される、第1のレンズと、第2のレンズと、第3のレンズと、第2のレンズを光軸方向に沿って移動させる移動機構と、を有し、第1のレンズは、正のパワーを有するレンズであり、光源から出射され、前記第1のレンズを透過した光を、光軸上の光線を含む内側光束と、内側光束の外側に位置する外側光束とし、内側光束と外側光束とが平行でな互いに交差しない非交差領域を有するように出射し、第2のレンズは、非交差領域を光軸方向に移動することが可能であり、非交差領域における内側光束および外側光束が透過する口径を有するものである。
【0010】
また、第1のレンズは、光軸上に配置され内側光束を出射する正のパワーを有する内側レンズと、内側レンズの外側に配置されるリフレクタ部と、を有することが好ましい。
【0011】
また、第2レンズは、正パワーを有し、少なくとも一面は非球面レンズであり、外側光束が透過する領域は、内側光束が透過する領域に比べて、正のパワーが弱いことが好ましい。
【0012】
さらに、第3のレンズの少なくとも一面は非球面レンズであり、光軸から離れるにしたがって負のパワーが強くなることが好ましい。
【0013】
また、第3レンズの出射側に光を拡散させる手段を配置することもできる。あるいは、第3のレンズは光散乱機能を有するようにしてもよい。もしくは、第3のレンズの出射側にフレネルレンズを配置するようにしてもよい。
【0014】
あるいは、本発明の照明光学系において、第2レンズおよび第3レンズの少なくとも一方はフレネルレンズであるようにしてもよい。
【0015】
本発明の別の観点は、照明装置である。本発明の照明装置は、本発明の照明光学系を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、照射される光束の照度ムラを低減させると共に、照明領域を狭い範囲から広い範囲まで連続的に変更させること、または装置の構成を小型化、軽量化、および低コスト化すること、のいずれか1つまたは複数を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一の実施の形態に係る照明光学系の構成図であり照明光学系の照射角が狭角の場合のレンズ位置を示す図である。
図2】本発明の第一の実施の形態に係る照明光学系の構成図であり照明光学系の照射角が中間角の場合のレンズ位置を示す図である。
図3】本発明の第一の実施の形態に係る照明光学系の構成図であり照明光学系の照射角が広角の場合のレンズ位置を示す図である。
図4】本発明の第一の実施の形態に係る照明光学系を有する照明装置の斜視図である。
図5図4に示す照明装置を照明光学系の光軸を含む平面にて切断した断面図である。
図6図1に示す照明光学系の狭角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図7図1に示す照明光学系の狭角のレンズ位置における1m直下の照度分布を示す図である。
図8図1に示す照明光学系の中間角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図9図1に示す照明光学系の中間角のレンズ位置における1m直下の照度分布を示す図である。
図10図1に示す照明光学系の広角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図11図1に示す照明光学系の広角のレンズ位置における1m直下の照度分布を示す図である。
図12】本発明の第二の実施の形態に係る照明光学系の構成図であり照明光学系の照射角が狭角の場合のレンズ位置を示す図である。
図13図12に示す照明光学系の狭角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図14】比較例として拡散シートを用いない場合の図12に示す照明光学系の狭角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図15】本発明の第二の実施の形態に係る照明光学系の構成図であり照明光学系の照射角が中間角の場合のレンズ位置を示す図である。
図16図15に示す照明光学系の中間角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図17】比較例として拡散シートを用いない場合の図15に示す照明光学系の中間角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図18】本発明の第二の実施の形態に係る照明光学系の構成図であり照明光学系の照射角が広角の場合のレンズ位置を示す図である。
図19図18に示す照明光学系の広角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図20】比較例として拡散シートを用いない場合の図18に示す照明光学系の広角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図21】本発明の第三の実施の形態に係る照明光学系の構成図であり照明光学系の照射角が狭角の場合のレンズ位置を示す図である。
図22図21に示す照明光学系の狭角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図23】本発明の第三の実施の形態に係る照明光学系の構成図であり照明光学系の照射角が中間角の場合のレンズ位置を示す図である。
図24図23に示す照明光学系の中間角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
図25】本発明の第三の実施の形態に係る照明光学系の構成図であり照明光学系の照射角が広角の場合のレンズ位置を示す図である。
図26図25に示す照明光学系の広角のレンズ位置におけるファーフィールド配光分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第一の実施の形態)
本発明の第一の実施の形態に係る照明光学系1および照明装置について図1図11を参照しながら説明する。
【0019】
図1図3に示すように、照明光学系1は、LED(Light Emitting Diode)である光源2の側から順に、第1レンズとしてのリフレクタタイプのレンズ3と、第2レンズとしての凸レンズであるレンズ4と、第3レンズとしての凹レンズであるレンズ5と、レンズ4を光軸方向に沿って移動する移動機構6とを備えている。
【0020】
図1は、照射角が狭角のときの照明光学系1のレンズ4の位置を示している。この場合、照明光学系1から所定の距離だけ離れた位置にある投影面Sにおける照明領域は照明領域L1となる。図2は、照射角が中間角のときの照明光学系1のレンズ4の位置を示している。この場合、照明光学系1から所定の距離だけ離れた位置にある投影面Sにおける照明領域は照明領域L2(>L1)となる。図3は、照射角が広角角のときの照明光学系1のレンズ4の位置を示している。この場合、照明光学系1から所定の距離だけ離れた位置にある投影面Sにおける照明領域は照明領域L3(>L3)となる。なお、図1図3は、説明を分かり易くするために、光束を構成する光線のうち特徴的なものだけを抜粋して示している。よって、実際には、図中に「…」で示すところにも多数の光線が通っている。
【0021】
レンズ3は、正のパワーを有するレンズであり、光源2から出射された光を、光軸上の光線を含む内側光束7と、内側光束7の外側に位置する外側光束8とし、内側光束7と外側光束8とが互いに交差しない非交差領域Nを有するように出射する。さらに詳しく説明すると、レンズ3は、光軸上に配置され内側光束7を出射する正のパワーを有する内側レンズ部9と、内側レンズ部9の外側に配置されるリフレクタ部10と、を有する。レンズ3の材質は、光源2の発熱に耐え得るものでなければならない。たとえばレンズ3の材質は、ポリカーボネイトである。ポリカーボネイトは、常用耐熱温度が130度以下であるため、レンズ3の材質として適する。
【0022】
レンズ4は、移動機構6により上述の非交差領域Nの範囲内を光軸方向に移動することが可能であり、非交差領域Nにおける内側光束7および外側光束8が透過する口径を有する。さらに詳しく説明すると、レンズ4は、正パワーを有し、少なくとも一面は非球面レンズであり、外側光束8が透過する領域は、内側光束7が透過する領域に比べて、正のパワーが弱い。
【0023】
レンズ5は、レンズ4から出射した光束が透過する口径を有する凹レンズである。レンズ5の少なくとも一面は非球面レンズであり、光軸から離れるにしたがって負のパワーが強くなる。
【0024】
レンズ4,5の材質は、レンズ3のように高い耐熱温度を必要としないため、アクリル(常用耐熱温度90度以下)などでもよい。
【0025】
図4および図5に示すように、照明光学系1は、レンズ4を光軸方向に移動する移動機構としてレンズ移動鏡筒Zを用いて構成することができる。レンズ3,4,5は、レンズ移動鏡筒Zの内部に配置される。レンズ移動鏡筒Zは、直進溝12が形成される固定筒13と、この固定筒13が取り付けられる台座部17と、カム溝14が形成されるカム筒15を有する。図5に示すように、レンズ4の外周には、突出部16が取付けられており、突出部16が直進溝12およびカム溝14に嵌め込まれている。ここでカム筒15を周方向に回転させると、突出部16は、直進溝12により光軸方向前後にガイドされながら、カム溝14により該前後方向への駆動力を得て、前後方向部直線移動することができる。突出部16の移動と共に、レンズ4も光軸方向に移動する。
【0026】
図4および図5に示すように、照明光学系1に光源ユニット19を備えることで、照明装置11として構成することができる。光源ユニット19は、リベット20によって台座部17に取り付けられる。さらに、レンズ5の出射側には、保護レンズ21が設けられている。保護レンズ21は、たとえば透明な平板であり、光学的にはニュートラルなレンズである。保護レンズ21の材質は、アクリルなどでよい。また、保護レンズ21は省略してもよい。
【0027】
図6は、図1に示したレンズ4の位置(狭角位置)における照明光学系1のファーフィールド配光分布を示している。ここでファーフィールド配光分布とは、照明光学系1の大きさを無視し、1点からの発光とみなす点光源が無限遠にあると仮定し、どちらの方向にどれくらいの強度で光るのかを示す分布である。図6は、照明光学系1の光軸と光測定方向との(同一平面上の)角度を取り、縦軸は、照度強度を最大値で正規化したものである。なお、図1に示したレンズ4の位置(狭角位置)における照明光学系1の測定光強度が光軸位置での最大の測定光強度の半分の値になる配光角である、いわゆる半値配光角は13.5度である。
【0028】
図6に示すように、図1に示したレンズ4の位置では、照明光学系1の光軸方向から見た照射光強度が最も強く、光軸と成す角度が大きくなると急に光強度が低下している様子がわかる。
【0029】
図7は、図1に示したレンズ4の位置(狭角位置)における照明光学系1の光源2から1mの距離における照度分布を示している。図7の上段の左側の図は、投影面Sに投影された照明領域L1を示している。図7の下段の図は、横軸に、投影面Sに投影された照明光学系1の光軸からの距離(mm:ミリメートル)をとり、縦軸に、照度(Lux:ルクス)をとり、照明領域L1におけるX方向の照度分布を示している。また、図7の上段の右側の図は、図7の下段の図における照度測定位置とは光軸の周りに90度ずれた位置(すなわち、照明領域L1におけるY方向)における照度分布を示している。縦軸に、投影面Sに投影された照明光学系1の光軸からの距離をとり、横軸に、照度をとっている。
【0030】
図7に示すように、図1に示したレンズ4の位置では、照明領域L1の中心部付近に照度の高い小さい領域30(光軸から半径約10mm程度)があり、領域30の周囲には、領域30よりは照度が低く領域L1の大部分を占める領域31(光軸から半径約50mm程度)があり、領域31の周囲には、領域31よりも照度が低い小さい領域32がある。なお、領域32の周囲にも僅かに照度を有する領域があるが図7での図示は省略する。図7の上段の右側の図の配光分布と図7の下段の図の配光分布とはほぼ同じである。
【0031】
図8は、図2に示したレンズ4の位置(中間角位置)における照明光学系1のファーフィールド配光分布を示している。なお、図2に示したレンズ4の位置(中間角位置)における照明光学系1の半値配光角は20度である。図8に示すように、図2に示したレンズ4の位置では、図6に比べて照明光学系1の照明強度が最も強い範囲が広がると共に、配光分布曲線の裾野部分が広がっていることがわかる。すなわち照明領域L2は照明領域L1に比べて広範囲となっている。
【0032】
図9は、図2に示したレンズ4の位置(中間角位置)における照明光学系1の光源2から1mの距離における照度分布を示している。図9の上段の左側の図は、投影面Sに投影された照明領域L2を示している。図9に示すように、図2に示したレンズ4の位置では、照明領域L2の中心部付近にその周囲よりも照度の高い領域40(光軸から半径約100mm程度)があり、領域40の周囲には、領域40よりはやや照度が低い領域41(光軸から半径約150mm程度)がある。なお、領域41の周囲にも僅かに照度を有する領域があるが図9での図示は省略する。図9の上段の右側の図の照度分布と図9の下段の図の照度分布とはほぼ同じである。図7と比べると照度の異なる領域の数が減少し、照度が広い範囲で均等化していることがわかる。
【0033】
図10は、図3に示したレンズ4の位置(広角位置)における照明光学系1のファーフィールド配光分布を示している。なお、図3に示したレンズ4の位置(広角位置)における照明光学系1の半値配光角は32度である。図10に示すように、図3に示したレンズ4の位置では、図8に比べて照明光学系1の配光分布曲線の裾野部分がさらに広がっていることがわかる。すなわち照明領域L3は照明領域L2に比べて広範囲となっている。
【0034】
図11は、図3に示したレンズ4の位置(広角位置)における照明光学系1の光源2から1mの距離における照度分布を示している。図11の上段の左側の図は、投影面Sに投影された照明領域L3を示している。図11に示すように、図3に示したレンズ4の位置では、照明領域L3の中心部付近にその周囲よりもやや照度の高い領域50(光軸から半径約80mm程度)があり、領域50の周囲には、領域50よりはやや照度が低い領域51(光軸から半径約300mm程度)がある。さらに、領域51の周囲には、領域51よりはやや照度が低い領域52(光軸から半径約400mm以上)がある。なお、図11の上段の右側の図の照度分布と図11の下段の図の照度分布とはほぼ同じである。図9と比べると照度がさらに広い範囲で均等化していることがわかる。
【0035】
以上説明したように、照明光学系1は、光源2の側から順に、レンズ3、レンズ4、レンズ5を備え、レンズ4が移動機構6(レンズ移動鏡筒Z)により光軸方向に移動可能に構成されている。係る構成においては、レンズ4が移動することで、レンズ3とレンズ4の間隔、およびレンズ4とレンズ5との間隔が変化し、照明光学系1の配光角(照明領域の広さ)を変化させることができる。すなわち、レンズ4およびレンズ5の間隔を変化させることで、レンズ3の前側の焦点距離を変化させることができる。そのため、照明光学系1から出射する光の照明領域(配光角)を連続的に変化させることができる。
【0036】
また、照明光学系1のレンズ3は、正のパワーを有するレンズであり、光源2から出射された光を、光軸上の光線を含む内側光束7と、内側光束7の外側に位置する外側光束8とし、内側光束7と外側光束8とが互いに交差しない非交差領域Nを有するように出射できる。具体的に説明すると、レンズ3は、光軸上に配置され内側光束7を出射する正のパワーを有する内側レンズ部9と、内側レンズ部9の外側に配置されるリフレクタ部10と、を有するので、内側光束7と外側光束8とを良好かつ高効率に分離することができる。なお、レンズ3は、光源2から出射された光を平行な光束として出射することができるレンズあるいはリフレクタであってもよい。レンズ3から出射する光を平行な光束とすることで、内側光束7と外側光束8とを非交差の状態とすることができる。
【0037】
これによれば、内側光束7と外側光束8を次段のレンズ4の異なる部分に透過させることができ、レンズ4の設計において、レンズ3から出射された内側光束7と外側光束8とを分離して制御するように設計が可能になる。すなわちレンズ4の形状を設計する際に、レンズ3から出射された内側光束7は、レンズ4の中央部付近の曲率を調整することで制御し、レンズ3から出射された外側光束8は、レンズ4の外周部の曲率を調整することで制御することができる。このため、照明光学系1では、照射される光束の照度ムラを低減させるようなレンズ4の形状の設計を容易に行うことができる。
【0038】
さらに、レンズ4は、上述の非交差領域Nの範囲内を光軸方向に移動することが可能であり、非交差領域Nにおける内側光束7および外側光束8が透過する口径を有する。つまり、レンズ4が非交差領域Nを光軸方向に移動しても、内側光束7と外側光束8はレンズ4の異なる部分を透過する。すなわち、内側光束7は中央部付近を透過し、外側光束8はレンズ4の外周部を透過する、これにより、照明光学系1によれば、照射される光束の照度ムラを低減させながら照明領域を狭い範囲から広い範囲まで連続的に変更することができる。
【0039】
また、レンズ4は、正パワーを有し、少なくとも一面は非球面レンズであり、外側光束8が透過する領域は、内側光束7が透過する領域に比べて、正のパワーが弱いようにしている。レンズ4を正パワーとすることで、レンズ3から出てくる光を広げる(発散させる)ことが無いため、レンズ5の口径を小さくすることができる。つまり、照明光学系1の全体の径を細くすることができる。これによれば照明装置1を小型化、軽量化、および低コスト化することができる。また、レンズ4を非球面レンズとすることにより、レンズ4の外周部の非球面係数の調整を行うことができ、レンズ3から出射された外側光束8をより制御し易くなり、レンズ4の移動範囲の広い範囲に亘って照度斑の低減を図ることができる。また、レンズ4を透過した後においても、なお内側光束7と外側光束8とが非交差である領域を多く作ることができる。これによれば上述のレンズ4の形状の設計と同様に、少なくとも一面は非球面レンズであるレンズ5の形状の設計についてもレンズ4から出射された内側光束7は、レンズ5の中央部付近の曲率を調整することで制御し、レンズ4から出射された外側光束8は、レンズ5の外周部の非球面係数を調整することで制御することができる。このため、照明光学系1では、照射される光束の照度ムラを低減させるようなレンズ5の形状の設計を容易に行うことができる。
【0040】
さらに、レンズ5の少なくとも一面は非球面レンズであり、光軸から離れるにしたがって負のパワーが強くなるようにしているので、レンズ5を透過した後においても、なお内側光束7と外側光束8とが非交差である領域を多く作ることができる。このようにして照明光学系1によれば、照射される光束の照度ムラを低減させながら照明領域を狭い範囲から広い範囲まで連続的に変更することができる。
【0041】
(第二の実施の形態)
本発明の第二の実施の形態に係る照明光学系1Aを図12図14を参照しながら説明する。照明光学系1Aは、照明光学系1と一部が異なる。よって、以下では、照明光学系1Aが照明光学系1とは異なる部分について主に説明し、照明光学系1と共通の部分については説明を省略または簡略化する。
【0042】
図12に示すように、照明光学系1Aは、照明光学系1のレンズ5の出射側に光束を拡散するための拡散シート60を有する。なお、図4および図5に示した照明装置11では、保護レンズ21の代わりに拡散シート60を設けてもよいし、あるいは保護レンズ21の出射側にさらに拡散シート60を設けてもよい。また、照明光学系1Aの拡散シート60のヘーズ値(拡散の度合い)はおよそ35%とした。また、拡散シート60における光束の拡散によって、照明領域L4の照度ムラの低減を図ることができる。
【0043】
図13は、図12に示したレンズ4の位置(狭角位置)における照明光学系1Aのファーフィールド配光分布を示している。なお、図12に示したレンズ4の位置(狭角位置)における照明光学系1Aの半値配光角は14度である。また、図14は比較例であり、図12に示したレンズ4の位置(狭角位置)における照明光学系1Aから拡散シート60を取り去った場合のファーフィールド配光分布を示している。図13に示す配光分布では、図14に示す配光分布と比べて、光軸方向付近での光の照明強度の変化が緩和されていることがわかる。
【0044】
図16は、図15に示したレンズ4の位置(中間角位置)における照明光学系1Aのファーフィールド配光分布を示している。なお、図15に示したレンズ4の位置(中間角位置)における照明光学系1Aの半値配光角は25度である。また、図17は比較例であり、図15に示したレンズ4の位置(中間角位置)における照明光学系1Aから拡散シート60を取り去った場合のファーフィールド配光分布を示している。図16に示す配光分布では、図17に示す配光分布と比べて、光軸方向付近での光の照明強度の変化が緩和されて均等化されていることがわかる。すなわち、拡散シート60における光束の拡散によって、照明領域L5の照度ムラの低減を図ることができる。
【0045】
図19は、図18に示したレンズ4の位置(広角位置)における照明光学系1Aのファーフィールド配光分布を示している。なお、図18に示したレンズ4の位置(広角位置)における照明光学系1Aの半値配光角は36度である。また、図20は比較例であり、図18に示したレンズ4の位置(広角位置)における照明光学系1Aから拡散シート60を取り去った場合のファーフィールド配光分布を示している。図19に示す配光分布では、図20に示す配光分布と比べて、光軸方向付近での光の照明強度の変化が緩和されていることがわかる。すなわち、拡散シート60における光束の拡散によって、照明領域L6の照度ムラの低減を図ることができる。
【0046】
このように、照明光学系1Aは、レンズ4のいずれの位置(狭角位置、中間角位置、広角位置)においても光軸方向付近での光の照明強度の変化が緩和されていることがわかる。また、照明光学系1と比べて照明光学系1Aの半値配光角は大きくなっている。これによれば、照明領域の中心部付近に照度が高い領域が出現し難くなると共に中心部以外の領域での照度変化が緩和されるので、照明光学系1Aは、照明光学系1よりもさらに照射される光束の照度ムラを低減させながら照明領域を狭い範囲から広い範囲まで連続的に変更することができる。また、照明光学系1Aによれば、全体の配光角を14度〜36度とし、照明光学系1の全体の配光角13.5度〜32度に比べて広くしている。照明光学系1Aによれば、配光角を広げた場合に生じ易くなる光束の照度ムラを拡散シート60によって解消することができる。
【0047】
(第三の実施の形態)
本発明の第三の実施の形態に係る照明光学系1Bを図21図26を参照しながら説明する。照明光学系1Bは、照明光学系1と一部が異なる。よって、以下では、照明光学系1Bが照明光学系1とは異なる部分について主に説明し、照明光学系1と共通の部分については説明を省略または簡略化する。
【0048】
図21に示すように、照明光学系1Bは、照明光学系1のレンズ5に換えてフレネルレンズ70を有する。図22は、図21に示したレンズ4の位置(狭角位置)における照明光学系1Bのファーフィールド配光分布を示している。なお、図21に示したレンズ4の位置(狭角位置)における照明光学系1Bの半値配光角は15度である。図22に示す配光分布では、たとえば図13に示す配光分布と比べて、光軸方向付近での光の照明強度の変化が緩和されていることがわかる。
【0049】
図24は、図23に示したレンズ4の位置(中間角位置)における照明光学系1Bのファーフィールド配光分布を示している。なお、図23に示したレンズ4の位置(中間角位置)における照明光学系1Bの半値配光角は23.5度である。図24に示す配光分布では、たとえば図16に示す配光分布と比べて、光軸方向付近での照度変化がさらに緩和されていることがわかる。
【0050】
図26は、図25に示したレンズ4の位置(広角位置)における照明光学系1Bのファーフィールド配光分布を示している。なお、図25に示したレンズ4の位置(広角位置)における照明光学系1Bの半値配光角は32度である。図26に示す配光分布では、たとえば図19に示す配光分布と比べて、光軸方向付近での照度変化がさらに緩和されていることがわかる。
【0051】
このように、照明光学系1Bは、レンズ4のいずれの位置(狭角位置、中間角位置、広角位置)においても光軸方向付近での照度変化がさらに緩和されていることがわかる。これによれば、照明光学系1Bは、照明光学系1Aよりもさらに照明領域の中心部付近に照度が高い領域が出現し難くなるので、照明光学系1Aよりもさらに照射される光束の照度ムラを低減させながら照明領域を狭い範囲から広い範囲まで連続的に変更することができる。すなわち、照明光学系1Bは、照明光学系1Aと同様に、配光角を広げた場合に生じ易くなる光束の照度ムラをフレネルレンズ70によって解消することができる。また、フレネルレンズ70を用いることで、照明光学系1Bの小型化および軽量化を図ることができる。
【0052】
(その他の実施の形態)
上述した実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り様々に変更が可能である。たとえば、レンズ4を正のパワーのフレネルレンズとし、レンズ5を負のパワーのフレネルレンズとしてもよい。これによれば、レンズ4,5の厚さを薄くできるので、照明装置1の軽量化、小型化およびコストダウンを図ることができる。あるいは、レンズ4またはレンズ5のいずれか一方だけをフレネルレンズとしてもよい。
【0053】
また、上述の第二の実施の形態に係る照明光学系1Aの拡散シート60を用いずに、レンズ5自体を光散乱体を含有した合成樹脂などで形成してもよい。これによれば拡散シート60を用いずともレンズ5自体で光束を拡散することができる。
【0054】
また、照明装置11のカム溝14の角度を一定とすれば、カム筒15の回転に従って狭角〜広角までの照明領域の大きさがスムーズに変化するが、カム溝14の角度に変化を持たせてもよい。たとえば照明装置11の照明領域が狭角〜広角まで変化する途中に、比較的配光分布のムラ(照度ムラ)が生じ易い範囲が分かっている場合には、その範囲では急速に照明領域が変化するようにする。これによれば配光分布のムラが生じ易い範囲をユーザが使用しないようにできる。さらには、狭角〜広角の照明領域の変化を無段階的ではなく段階的に行うようにし、上述の比較的配光分布のムラが生じ易い範囲を飛ばして照明領域が変化するようにしてもよい。
【0055】
また、レンズ3については、ポリカーボネイト製などで内側レンズ部9とリフレクタ部10とが一体に成形されたものを例示したが、リフレクタ部10に相当する位置に鏡面の反射板を置くことにより、外側光束8を得るようにしてもよい。この場合、内側光束7は、光源2から直接出射された光束として得ることができる。これによれば、レンズ3を1枚の反射板によって置き換えることができる。
【符号の説明】
【0056】
1…照明光学系、2…光源、3…レンズ(第1レンズ)、4…レンズ(第2レンズ)、5…レンズ(第3レンズ)、6…移動機構、7…内側光束、8…外側光束、9…内側レンズ、10…リフレクタ部、11…照明装置、N…非交差領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26