(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELや液晶等を用いた表示デバイスについて、軽量化および薄膜化、さらにはフレキシブル化の観点から、プラスチック薄板又はプラスチックフィルムを
基材として用いる方法が開発、提案されている。表示部の視認性を維持しつつ、かつ、
基材表面上に形成した素子部の酸化劣化防止の観点から、酸素および水蒸気バリア性の非常に高いガスバリア性を有するガスバリア膜が求められている。また、太陽電池についても発電層や電極等の劣化を防ぎ、長寿命化の観点から、高いガスバリア性とフレキシブル性の両方を兼ね揃えたガスバリア膜が求められている。
【0003】
高いバリア性を示すガスバリア膜は、有機物層と無機物層、若しくは無機物層同士の積層構造でプラズマCVD法により形成する方法が一般的となっている。
【0004】
特許文献1には、プラズマCVD法により、プラスチック基材表面に、密着性及びバリア性の高いバリア膜を形成する方法として、第1層としてケイ素(Si)、炭素(C)及び酸素(O)からなる重合体被覆層、第2層としてSiO
X(X=1.5〜2.0)で表される酸化ケイ素化合物層を形成することが提案されている。また、特許文献2には、プラズマCVD法により、プラスチック容器などの基材表面に、密着性及びバリア性の高いバリア膜を形成する方法として、第1層としてケイ素(Si)、炭素(C)及び酸素(O)から成る密着性強化層、第2層としてケイ素酸化物から成るバリア
膜を形成することが提案されている。
【0005】
しかしながら、上記の
バリア膜は、プラスチック単一の基材に対しては良好な密着性を発揮するものの、水分や酸素に対して弱い有機EL素子や太陽電池セル等、バリア膜を形成する面にプラスチック(有機物)と金属(無機物)が混在、露出している基材に対しての密着性は不十分であり、かつケイ素(Si)、炭素(C)及び酸素(O)のみから成り立つ膜は、一般に密度が高くフレキシブル性にも欠けるためバリア膜の破断が生じやすいという問題があった。
【0006】
特許文献3には、プラスチックフィルムや有機EL等の電子デバイス上に、プラズマCVD法により、水素元素を含むガスとシリコン元素を含むガスとを用い第1薄膜を形成し、バリア機能を有する第2薄膜を、前記第1薄膜上に形成することで、高い密着性とバリア性能を有したシリコン系薄膜が形成できるようになると記載されている。具体的には、酸素原子を含有しない有機ケイ素化合物であるヘキサメチルジシラザン(以下、HMDSと称する場合がある)及びH
2とArとの混合ガスを用いて膜を形成している。しかしながら、この膜では、特に有機EL素子や太陽電池等に存在する透明導電膜や金属膜との密着性が十分ではなく、バリア膜の破断が生じやすいという問題があった。
【0007】
さらに、よく知られた方法として、非特許文献1のp262の18行目〜25行目に記載されているように、バリア膜を形成する前にプラズマを基材に照射し、表面を活性化、改質することによりバリア膜と基材の密着性を向上させる方法がある。しかしながら、有機EL素子や太陽電池等に対しては、基材の劣化(酸化劣化等)が顕著に生じ使用できない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)化学蒸着膜(密着層)
本発明の化学蒸着膜は、プラズマCVD法により形成され、ケイ素原子、酸素原子、炭素原子及び水素原子を含み、酸素原子の濃度が10〜35元素%である。水素原子を含有させ、さらに酸素原子濃度を上記範囲とすることにより、基材上に形成された場合に、基材における無機物と有機物の両物質に対して、優れた密着性を得ることができる。上記酸素原子の濃度は、10〜25元素%であることが好ましく、10〜20元素%であることがより好ましく、10〜15元素%であることがさらに好ましい。上記基材における有機物としては、PETフィルム等のポリマーフィルムが挙げられる。また、無機物としては、Ag、Al、Mo、又は、ZnO、ITO、BZO、AZOならびにGZO等の透明電極膜などが挙げられる。
【0019】
無機物との密着性については、例えばAgの場合には、Ag−O−SiやAg−O−O−Si−のような酸素原子を介した状態で結合・密着すると推測できる。化学蒸着膜の酸素原子(O)の濃度が10元素%
未満で密着性が悪くなる理由としては、膜中にOが少ないと、その結合量も少なくなるため密着性が悪くなると考えられる。また、Ag等の無機物が触媒活性を有する影響も考えられ、酸素原子の濃度が10元素%以上であることが必要になると考えられる。一方、酸素原子の濃度が35元素%
を超える場合には、膜中の酸素が多すぎて表面の酸化が進みすぎ、膜にダメージを与えてしまい、抵抗率増大等の性能劣化が生じる。また、外観も黒色化する。
【0020】
有機物との密着性については、例えばPETの場合には、表面に存在するOH基やCOOH基を介して結合・密着すると推測できる。Ag等の無機物の表面にもOH基やCOOH基は存在するが、有機物の場合には、Ag等の無機物に比べて少ない量でも、密着性良好になりやすい。このような違いは、PET等の有機物では触媒活性がないためとも考えられる。一方、酸素原子の濃度が35元素%を超えると、膜の組成がSiO
2に近づくため、膜密度が高まり、フレキシブル性のない膜となり、密着性が悪くなる。このような膜では、膨張や収縮、フレキシブル性の大きいPET等の有機物と相性が悪くなるためと考えられる。
【0021】
本発明の化学蒸着膜の組成としては、酸素原子が10〜35元素%であり、ケイ素原子が例えば10〜30元素%、炭素原子が例えば10〜30元素%、水素原子が例えば10〜50元素%とすることができる。窒素原子は含まれていなくてもよい。このような組成の場合に、特に有機物と無機物の両方の基材に対する密着性が優れ、好ましい。
【0022】
上記化学蒸着膜の膜厚は、例えば5〜400nm、好ましくは5〜200nmである。また、上記化学蒸着膜の密度は、例えば1.7〜1.9g/cm
3が好ましい。
【0023】
(1−1)酸素原子濃度の測定方法
本発明において、化学蒸着膜中の酸素原子の濃度は、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)、及び、水素前方散乱分析法を用いた組成分析(HFS)により決定できる。ケイ素原子、炭素原子の濃度も同様に測定できる。水素原子についてはRBSでは分析できないため、HFSにより測定する。
【0024】
RBSでは、試料に高速イオン(He
+、H
+等)を照射して、試料中の原子核により弾性(ラザフォード)散乱を受けた入射イオンの一部について、散乱イオンのエネルギーと収量とを測定する。散乱イオンのエネルギーは、対象原子の質量及び位置(深さ)により異なるため、この散乱イオンのエネルギーと収量から、深さ方向の試料の元素組成を得ることができる。HFSでは、試料に高速イオン(He
+)を照射することにより、試料中の水素が弾性反跳により前方に散乱されることを利用して、この反跳水素のエネルギーと収量から水素の深さ分布を得る。
【0025】
本発明の化学蒸着膜は、プラズマCVD法において、供給ガス及びプラズマ電力(投入パワー)を調整することにより、酸素原子の濃度を10〜35元素%に制御して形成できる。
【0026】
原料ガスとしては、酸素原子を含有する有機ケイ素化合物を使用する。具体的には、HMDSO単体、HMDSO+Ar/H
2、HMDSO+O
2、HMDSO+HMDS、HMDS+O
2等が挙げられる。なかでも、HMDSO単体が好ましい。
【0027】
(2)積層体
本発明の積層体は、上記の化学蒸着膜(以下、密着層と称する場合がある)、第2化学蒸着膜(以下、フレキシブル層と称する場合がある)及び第3化学蒸着膜(以下、バリア層と称する場合がある)とを備えている。化学蒸着膜の一方の面上に、第2化学蒸着膜と第3化学蒸着膜とが、それぞれプラズマCVD法により形成される。密着層上にフレキシブル層が、さらにフレキシブル層上にバリア層が形成されていても良く、また、密着層上にバリア層が、さらにバリア層上にフレキシブル層が形成されていても良い。
【0028】
図1に、本発明の一実施形態に係る積層体10を概略的に示すと、2は密着層、4はフレキシブル層、6はバリア層である。このような構成とすることにより、有機物と無機物を含む基材
(図示せず)との密着性に優れ、且つ水蒸気を効果的にバリアできる積層体
10が得られる。
【0029】
各層はケイ素原子を含んでいる。酸素原子の含有量は、密着層
2では上記の通り10〜35元素%であり、フレキシブル層
4では0元素%以上10元素%未満、バリア層
6では35元素%超70元素%以下である。酸素原子の含有量は、上記の方法で測定できる。
【0030】
第2化学蒸着膜(フレキシブル層
4)は、ケイ素原子と酸素原子とに加えて、炭素原子を含んでいても良い。本発明において、第2化学蒸着膜の組成は、酸素原子が10元素%未満であり、ケイ素原子が例えば10〜20元素%、炭素原子が例えば20〜35元素%であってもよい。さらに、水素原子を例えば30〜55元素%含んでいても良い。窒素原子は、例えば、10元素%以下(0〜10元素%程度)含んでいてもよい。
【0031】
上記第2化学蒸着膜の膜厚は、例えば5〜1000nm、好ましくは5〜500nmである。また、上記第2化学蒸着膜の密度は、1.7g/cm
3未満(例えば1.2g/cm
3以上1.7g/cm
3未満)が好ましい。
【0032】
第3化学蒸着膜(バリア層
6)は、酸素原子が60〜70元素%であり、ケイ素原子が例えば30〜35元素%であってもよい。さらに炭素原子を含んでいても良い。さらに、水素原子を例えば5元素%以下(0〜5元素%程度)含んでいても良い。窒素原子は含まれていなくてもよい。
【0033】
上記第3化学蒸着膜の膜厚は、例えば5〜1000nm、好ましくは5〜500nmである。また、上記第3化学蒸着膜の密度は、1.9g/cm
3超(例えば1.9g/cm
3超2.2g/cm
3未満以下)が好ましい。
【0034】
本発明の積層体
10の、各層の組成の例を表1に示す。
【表1】
【0035】
本発明の積層体では、上記第2化学蒸着膜と第3化学蒸着膜とが交互に複数層形成されていてもよい。
図2に本発明の他の一実施形態に係る積層体20を概略的に示すと、8はプラスチックフィルム等の有機物基材であり、9はAg等の無機物基材である。これら
からなる基材
7上に、密着層2、フレキシブル層4、バリア層6がこの順に積層されている。そして、その上にさらにフレキシブル層4とバリア層6が交互に各n層ずつ、複数層積層され、封止膜1を形成している。密着層
2上にこのような封止膜
1を設けることにより、密着性と水蒸気バリア性に優れた膜とすることができる。
図2において、フレキシブル層4とバリア層6が密着層2上に形成される順序は逆でもよい。nとしては、1〜10の整数とすることができ、フレキシブル層
4/バリア層
6の積層数が、6/6、7/7、8/8などが好ましい。
【0036】
(3)有機エレクトロルミネセンス素子または薄膜太陽電池セル
本発明の有機エレクトロルミネセンス素子または薄膜太陽電池セルは、上記積層体
20を含んでいる。このため、密着性とバリア性に優れている。具体的には、有機EL素子や太陽電池等に存在する透明導電膜や金属膜との密着性に優れ、バリア膜の破断も生じにくい。
【0037】
図3に、本発明の一実施形態に係る薄膜太陽電池セル50の断面を概略的に示すと、21はプラスチック基板、22はITO電極、23は発電層(有機系発電層又は無機系発電層)、26はAg電極である。これらの、有機物と無機物を含む
基材(プラスチック基板21、ITO電極22、発電層23及びAg電極26)上に、密着層2を介して封止膜1が積層されている。
【0038】
(4)積層体の製造方法
本発明の積層体の製造方法は、基材上に、酸素原子を含有する有機ケイ素化合物からなる原料ガスを用いてプラズマCVD法により化学蒸着膜を形成する第1工程と;第1工程で形成した化学蒸着膜上に、有機ケイ素化合物と水素原子を含有する化合物とからなる原料ガスを用いてプラズマCVD法により、第2化学蒸着膜を形成する第2工程と;第
2工程で形成した化学蒸着膜上に、有機ケイ素化合物と酸素原子を含有する化合物とからなる原料ガスを用いてプラズマCVD法により、第3化学蒸着膜を形成する第3工程とを含んでいる。第2、3工程を交互に複数回行うことにより、複数層の第
2化学蒸着膜と第
3化学蒸着膜が交互に積層された積層体を得ることができる。
【0039】
上記第2、3工程では、酸素原子を含有しない有機ケイ素化合物を使用することが好ましい。また、酸素原子を含有する有機ケイ素化合物としてはヘキサメチルジシロキサンが好ましく、酸素原子を含有しない有機ケイ素化合物としてはヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0040】
図4(側面断面図)と
図5(
上面図)に膜形成装置の構成図を示す。膜形成装置30には、成膜室31である真空チャンバーと、ロータリーポンプおよびターボ分子ポンプを備えた排気系45と、プラズマ発生用の高周波電源36と、各種ガスを導入するフランジが配置されている。
【0041】
成膜室31は、排気系45、製膜ガスタンク46、O
2供給タンク47、H
2供給タンク48、Ar供給タンク49に接続される。排気系45は、流量制御バルブ41を介して成膜室31に接続される。製膜ガスタンク46は流量制御バルブ42を介して、O
2供給タンク47は流量制御バルブ43を介して、H
2供給タンク48及びAr供給タンク49は流量制御バルブ44を介して、それぞれ成膜室31に接続される。成膜室31の内部には、ループアンテナ33が設けられている。
【0042】
ループアンテナ33は、プラズマを生成する手段であり、絶縁チューブ34と導電性電極35とにより構成される。絶縁チューブ34は、成膜室31内に互いに2本対向して平行配設される。導電性電極35は、2本の絶縁チューブ34に挿設され、
図5のように平面視が略U字形を呈するように成膜室31の互いに対向する側壁を貫通し、高周波電流を供給する高周波電源36に接続される。高周波電流の周波数は13.56MHzであることが好ましい。なお、使用するプラズマはCCP、ICP、バリア放電、ホロー放電などでもよい。
【0043】
基材の固定台32上に、膜を形成する
基材7を、蒸着面がループアンテナ33側に向くように配置した後、排気系45により成膜室31の内圧が好ましくは9.9×10
−5Pa以下になるまで減圧する。
【0044】
成膜室31内の減圧が完了後、流量制御バルブ42〜44を開くことにより、原料ガスを成膜室31に導入する。原料ガスは、化学蒸着膜が、ケイ素原子、酸素原子、炭素原子及び水素原子を含み、該酸素原子の濃度が10〜35元素%となるように、適宜選択できる。原料ガスとしては、具体的には、HMDSOガスの単体、HMDSO+Ar/H
2、HMDSO+O
2、HMDSO+HMDS、HMDS+O
2等が挙げられる。なかでも、HMDSOガス単体が好ましい。ガスの導入速度は、3sccm〜45sccmとすることができる。
【0045】
続いて、高周波電源36からループアンテナ33に高周波電流を流し、ループアンテナ33の周辺にプラズマを発生させる。このときのプラズマ電力は1kW〜10kWとすることができる。
基材7の表面では表面反応が行われ、
基材7上に化学蒸着膜が形成される。所定時間の経過後、流量制御バルブ42〜44を閉じることによりガスの導入を停める。
【0046】
化学蒸着膜(密着層
2)の形成後、上記と同様に、例えば、第2化学蒸着膜(フレキシブル層
4)を形成する。まず、流量制御バルブ44を開いて例えば、H
2ガスとArガスの混合ガスを成膜室31に導入する。同時に流量制御バルブ42によりHMDSガス等の原料ガスを導入する。このときの各ガスの導入速度は、H
2ガスとArガスの混合ガスについては20sccm〜40sccm、HMDSガスについては3sccm〜20sccmとすることができる。続いて、高周波電源36からループアンテナ33に、プラズマ電力が0.1kW〜10kWとなるように高周波電流を流し、ループアンテナ33の周辺にプラズマを発生させる。
【0047】
基材7の表面では表面反応が行われ、
図2に示すように、密着層2を被覆するようにフレキシブル層4を形成する。所定時間が経過した後、流量制御バルブ42、44を閉じることによりガスの導入を停める。
【0048】
第2化学蒸着膜(フレキシブル層
4)の形成後、上記と同様に、第3化学蒸着膜(バリア層
6)を形成する。まず、流量制御バルブ43を開いて例えばO
2ガスを成膜室31に導入する。同時に流量制御バルブ42によりHMDSガス等の原料ガスを導入する。このときの各ガスの導入速度は、例えばO
2ガスが20sccm〜1000sccm、HMDSガスが3sccm〜20sccmとすることができる。続いて、高周波電源36からループアンテナ33に、プラズマ電力が0.1kW〜8kWとなるように高周波電流を流し、ループアンテナ33の周辺にプラズマを発生させる。
【0049】
基材7の表面では表面反応が行われ、
図2に示すように、フレキシブル層4を被覆するようにバリア層6(シリコン酸化膜)を形成する。所定時間が経過した後、流量制御バルブ42、43を閉じることによりガスの導入を停める。このシリコン酸化膜は、SiとOとをSi:O=1:1.9〜2.1の組成比で含むことが好ましい。
【0050】
上記フレキシブル層4とバリア層6で行った処理をn回(nは上記と同様、例えばn=7)繰り返す。その結果、
図2に示すように、密着層2が
基材7上に積層され、その上に、シリコンを含むフレキシブル層4上にシリコン酸化膜(バリア層6)を積層した積層体が7段形成される。
【0051】
以上のように、先ず、原料ガスとして、HMDSOガス等を用い、
基材7上にプラズマCVD法により密着層2を形成し、次いで、HMDSガス、HMDSOガス等を用い、フレキシブル層4を密着層2の上に形成できる。さらに、HMDSガス、HMDSOガス等を用い、バリア層6をフレキシブル層4の上に形成できる。なお、ここでは密着層、フレキシブル層、バリア層の順での膜形成を示したが、バリア層を密着層上に形成後、バリア層上にフレキシブル層を形成してもよい。また、NH
3ガスとSiH
4ガスなどを用いてシリコン窒化膜を中間層として積層してもよい。
【0052】
本発明の方法は、従来とは異なりエッチング処理等を用いないため、太陽電池セルなどの
基材にダメージを与えることがない。また、密着層2とフレキシブル層4とバリア層6との積層体は、
基材7の上に化学的に気相成長するに従い、太陽電池セルなどの
基材をプラズマエネルギーから保護する機能も有するため、プラズマエネルギーによるデバイスへのダメージが少なくて済む。また、密着層2の形成とフレキシブル層4、バリア層6の形成とが同室(成膜室31)内で行われるため、装置構造を簡易にできる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
実施例1
プラスチックフィルムの表面の一部に、厚さ200nmのAg層を形成した。このフィルムを、Ag層を有する面がループアンテナ側に向くように、成膜室内の
基材固定台上に配置した。次に排気系により成膜室の内圧を9.9×10
−5Pa以下になるまで減圧した。成膜室内の減圧が完了後、HMDSOガスを成膜室に導入した。HMDSOガスの導入速度は、3sccm〜45sccmとした。
【0055】
続いて、高周波電源からループアンテナに高周波電流を流した。このときのプラズマ電力は1kW〜10kWとした。
基材の表面では表面反応が行われ、Ag層を有するプラスチックフィルムを被覆する密着層が形成された。1分後、流量制御バルブを閉じ、HMDSOガスの導入を停めた。
【0056】
密着層の形成後、HMDSガスとH
2ガスとArガスの混合ガスとを用いてフレキシブル層の形成処理を行った。このときHMDSガスの導入速度は3sccm〜20sccm、H
2ガスとArガスの混合ガスの導入速度は20sccm〜40sccm、プラズマ電力は0.1kW〜10kWとした。
【0057】
フレキシブル層の形成後、上記と同様に、HMDSガスとO
2ガスとを用いてバリア層を形成した。このときHMDSガスの導入速度は3sccm〜20sccm、O
2ガスの導入速度は20sccm〜1000sccm、プラズマ電力は1kW〜10kWとした。このシリコン酸化膜は、SiとOとがSi:O=1:1.9〜2.1の組成比であった。
【0058】
上記フレキシブル層とバリア層の形成処理を7回繰り返した。その結果、
図2に示すように、密着層
2上に、フレキシブル層
4とバリア層
6を積層した積層体が7段形成された積層体を得た。密着層
2、フレキシブル層
4、バリア層
6の1層の膜厚は、それぞれ、128nm、180nm、390nmであった。
【0059】
得られた積層体中の各元素の濃度を、上記のラザフォード後方散乱分光法(RBS)、及び、水素前方散乱分析法(HFS)により決定した。その結果、密着層では、酸素原子濃度が12元素%、ケイ素原子濃度が17元素%、水素原子濃度が44元素%、炭素原子濃度が27元素%;フレキシブル層では、酸素原子濃度が7元素%、ケイ素原子濃度が15元素%、水素原子濃度が50元素%、炭素原子濃度が22元素%、窒素原子濃度が6元素%;バリア層では、酸素原子濃度が64元素%、ケイ素原子濃度が32元素%、水素原子濃度が4元素%であった。
【0060】
実施例2
実施例1において、フレキシブル層とバリア層を、HMDSOガス(導入速度3sccm〜30sccm)を用いて形成した以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚及び各元素の濃度は、実施例1と同様であった。
【0061】
実施例3
実施例1において、フレキシブル層を、HMDSOガス(導入速度3sccm〜30sccm)を用いて形成した以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚及び各元素の濃度は、実施例1と同様であった。
【0062】
実施例4
実施例1において、バリア層を、HMDSOガス(導入速度3sccm〜20sccm)を用いて形成した以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚及び各元素の濃度は、実施例1と同様であった。
【0063】
実施例5
実施例1において、密着層をO
2ガス(導入速度20sccm〜1000sccm)とHMDSOガス(導入速度3sccm〜20sccm)を用いて形成した以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚は実施例1と同様であった。元素濃度は、密着層の酸素元素濃度が25元素%、ケイ素原子濃度が15元素%、水素原子濃度が40元素%、炭素原子濃度が20元素%であった。
【0064】
実施例6
実施例1において、密着層をO
2ガス(導入速度20sccm〜1000sccm)とHMDSガス(導入速度3sccm〜20sccm)を用い、プラズマ電力を0.1kW〜0.5kWとした以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚は実施例1と同様であった。元素濃度は、密着層の酸素元素濃度が30元素%、ケイ素原子濃度が22元素%、水素原子濃度が30元素%、炭素原子濃度が18元素%であった。
【0065】
実施例7
実施例1において、密着層をO
2ガス(導入速度20sccm〜1000sccm)とHMDSガス(導入速度3sccm〜20sccm)を用い、プラズマ電力を0.6kW〜0.9kWとした以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚は実施例1と同様であった。元素濃度は、密着層の酸素元素濃度が35元素%、ケイ素原子濃度が22元素%、水素原子濃度が28元素%、炭素原子濃度が15元素%であった。
【0066】
比較例1
密着層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚及び各元素の濃度は、実施例1と同様であった。
【0067】
比較例2
密着層形成の代わりに、フレキシブル層の蒸着前に
基材にO
2プラズマ処理をした以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚及び各元素の濃度は、実施例1と同様であった。
【0068】
比較例3
密着層形成の代わりに、フレキシブル層の蒸着前に
基材にAr+H
2プラズマ処理をした以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚及び各元素の濃度は、実施例1と同様であった。
【0069】
比較例4
密着層形成の代わりに、フレキシブル層の蒸着前に
基材にN
2プラズマ処理をした以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚及び各元素の濃度は、実施例1と同様であった。
【0070】
比較例5
実施例1において、密着層をO
2ガス(導入速度20sccm〜1000sccm)とHMDSガス(導入速度3sccm〜20sccm)を用い、プラズマ電力を1kW〜10kWとした以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。各層の膜厚は実施例1と同様であった。元素濃度は、密着層の酸素元素濃度が64元素%、ケイ素原子濃度が32元素%、水素原子濃度が4元素%であった。
【0071】
基材との密着性評価
実施例1〜
7ならびに比較例1〜
5で得られた積層体の基材との密着性を、以下のようにして評価した。
図6にテープ剥離試験方法の概略を示す。テープ剥離試験は、まず、
基材51上に形成された密着膜及び封止膜の積層体60に、粘着力2.7N/10mmのカプトンテープ
52を貼着する。このカプトンテープ
52を、引張速度20mm/minで垂直方向上向きに、基材
51に対して90度の角度で引っ張る。この場合に、積層体
60の剥がれの程度を観察した。このテストを、
基材51のAg層上の積層体
60と、プラスチックフィルム表面上の積層体
60について、カプトンテープ
52を貼り付けて以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
◎:全く剥離していない
○:ほとんど剥離していない
△:半分程度剥離した
×:全て剥離した
【0072】
バリア性評価方法(Caテスト)
実施例1〜7の積層体について、バリア性の評価を行った。バリア性の評価は、Caテストにより行った。Caテストは、カルシウム(金属色)がガスバリア膜を通過してきた水分と反応して水酸化カルシウム(無色透明)になることを利用し、色の変化(=透過してきた水分量)からガスバリア膜の水蒸気透過度(g/m
2/day)を算出する方法である。色の変化の化学式を以下に示す。
Ca(金属色)+2H
2O→Ca(OH)
2(透明)+H
2
実施例1〜4ならびに比較例1〜3の各条件で、
図7に示すようなバリア性評価用のサンプルをそれぞれ作製し、Caテストを行った。
図7において、
53はガラス基板、
54はCa蒸着膜、70は評価する膜である。結果は、実施例1の積層体では9.0×10
−5g/m
2/day、実施例2の積層体では3.0×10
−4g/m
2/day、実施例3の積層体では2.0×10
−4g/m
2/day、実施例4の積層体では1.8×10
−4g/m
2/dayであった。実施例5〜7の積層体においても、バリア性はいずれも優れていた。
【0073】
【表2】
【0074】
上記の結果より、密着層としてHMDSOガスを原料として作成した蒸着膜において、酸素濃度を10〜35元素%の範囲とすることができ、この場合に最も密着性が高くなることを見出した。有機物(例えばPETフィルム)と無機物(例えばAg)の両方に密着性の良い膜とするためには、酸素濃度を10〜35元素%の範囲にする必要がある。さらに、この密着層を含む積層体のバリア性を評価し、高いバリア性を示すことが確認できた。