特許第5967983号(P5967983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5967983シリコン含有膜及びシリコン含有膜形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967983
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】シリコン含有膜及びシリコン含有膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/50 20060101AFI20160728BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20160728BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20160728BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160728BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   C23C16/50
   C23C16/42
   H01L31/04 140
   H05B33/14 A
   H05B33/04
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-50961(P2012-50961)
(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公開番号】特開2013-185207(P2013-185207A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121120
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100094145
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 由己男
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅充
(72)【発明者】
【氏名】藤元 高佳
(72)【発明者】
【氏名】岩出 卓
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/150692(WO,A1)
【文献】 特開2003−340971(JP,A)
【文献】 特開2011−238355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
H01L 51/46
H01L 51/50
H05B 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リコン濃度が10元素%以上20元素%未満であり、水素濃度が30元素%以上55元素%未満であり、炭素濃度が20元素%以上35元素%未満であり、酸素濃度が10元素%以下である、第1化学蒸着層と;シリコン濃度が30元素%以上35元素%未満であり、水素濃度が5元素%以下であり、酸素濃度が35元素%超70元素%以下である、第2化学蒸着層と;を備えたシリコン含有膜であって、
該第1化学蒸着層の厚み(L1)と該第2化学蒸着層の厚み(L2)の比L2/L1が1.5〜9である、シリコン含有膜。
【請求項2】
該第1化学蒸着層の厚み(L1)が5〜400nmであり、該第2化学蒸着層の厚み(L2)が5〜500nmである、請求項1記載のシリコン含有膜。
【請求項3】
前記第1化学蒸着層と第2化学蒸着層とが交互に複数層形成された、請求項1又は2記載のシリコン含有膜。
【請求項4】
前記複数の第1化学蒸着層のトータルの厚みが5n〜500(nm)[nは第1化学蒸着層の層数]である、請求項3記載のシリコン含有膜。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のシリコン含有膜と、基材とを備えた、積層体。
【請求項6】
前記基材が、Ag、Al、Mo、ZnO、ITO、BZO、AZOならびにGZOからなる群から選択された何れかの電極膜を含む、請求項5記載の積層体。
【請求項7】
請求項1〜6記載のシリコン含有膜を含む、有機エレクトロルミネセンス素子または薄膜太陽電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン含有膜及びシリコン含有膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜太陽電池モジュール等の薄膜デバイスにおいては、デバイスへの水分侵入を防止し、経時変化で剥がれが発生せず、安定したバリア性を有する封止膜が求められている。薄膜太陽電池モジュールは、基板上に、透明電極膜、機能膜(発電層)、電極膜をこの順に積層し構成する。この薄膜系の太陽電池モジュールにおいて安定した発電効率を維持するためには、例えば、太陽電池セルへの水分侵入を防止することが挙げられる。すなわち、太陽電池セルは、水に曝されると腐食し劣化する性質を有しており、太陽電池セルの劣化は発電効率の低下を招く。そのため、太陽電池セルは、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱硬化性樹脂からなる封止層と、フッ化ビニル樹脂製若しくはフッ化ビニル樹脂を含む複合フィルムを用いた保護層とを積層する。そして、封止層を加熱溶融して架橋硬化させ、真空ラミネート法などで封止することにより太陽電池モジュールを構成し、これらの封止層及び保護層により太陽電池セルに水分が浸入するのを防止している。しかしながら、太陽電池モジュールに封止層、保護層を設けた場合でも、太陽電池セルへの水分の侵入防止は十分ではないという問題があった。
【0003】
すなわち、EVAは光劣化により、耐水性、耐湿性、耐アルカリ性といった耐候特性が低下するため、長期的な使用によりEVAが徐々に劣化すると太陽電池モジュールの側面から水分が浸入し、太陽電池セルが水分に曝される。太陽電池セルが水分に曝されると、太陽電池セルが劣化することにより発電効率が低下してしまうという問題があった。
【0004】
特許文献1では、無機材料膜(バリア層)と有機材料膜の積層膜において、無機材料膜厚の5倍以上であることを特徴とした有機材料膜厚の構造の有機エレクトロルミネセンス表示パネルが記載されている。使用される封止膜としては、酸化シリコン(SiO2)や窒化シリコン(SiNx)などの無機膜と、ウエット法により製膜される有機膜が記載され、膜厚が無機膜の厚みの5倍以上の有機膜厚で構成される積層膜が記載されている。
【0005】
ここで、有機膜を5倍以上としていることに関し、特許文献1には、無機膜をドライ製膜法で行うと異物が付着しやすいため(P5の上から5行目)との記載がある。これに関し、ドライ製膜法により異物が付着しやすいのではなく、無機膜と有機膜の製造工程が、真空と大気のやりとりを必要とし、真空引き、大気解放という工程が必要となり、その雰囲気環境を変えるために流出入する気体により異物が浮遊しその異物が基板に付着し、その異物をカバーする必要があるため、有機膜を厚く積む必要が生じると考えられる。
【0006】
特許文献2では、熱膨張によるクラックを防止するため、応力緩和層の熱膨張係数に範囲を持たせることが記載されている。各層の膜厚は、ガスバリア層は30nm〜1000nmが好ましく(段落0047)、応力緩和層は1000〜10000nm(段落0129)の場合に平滑性が良好と記載されている。
【0007】
しかしながら、300時間後の評価との記載があるが試験環境の記載は無く、大気中での評価と考えられる。通常太陽電池の評価の場合、JIS C 8991の85℃、85%RHであり、上記評価では不十分であり、また評価結果からするとJIS評価に及ばないと考えられる。また、有機ELディスプレイにおいても、より長寿命のものが求められるため、上記記載の85℃、85%RH環境の試験は必要と考えられる。
【0008】
特許文献3では、無機酸化物層とアクリル樹脂層の積層体が記載され、無機酸化物層の膜厚は1.0〜300nmで、好ましくは10〜150nm(段落0022)、アクリル樹脂層は10nm〜10000nmとするとよく、好ましくは200〜1000nmが良好(段落0036)と記載されている。
【0009】
しかしながら、上記の積層体では、密着性の問題に対し、無機膜よりも応力緩和性のある有機膜を厚くすることで課題を解決するとの記載がされているが、実施例において、40℃、90%RHでの評価であり、JIS C 8991の85℃、85%RH環境の試験は行われておらず、また評価結果からするとJIS評価に及ばないと考えられる。
【0010】
特許文献4には、基板60と、この基板上に、光を透過させる透明電極膜61と、光を受光して発電する発電層62と、裏面電極63とがこの順に積層されて形成される太陽電池素子70と、太陽電池素子70を保護する保護層66と、保護層66と基板60との間に充填される樹脂製の樹脂層65とフレーム67とを有し、基板60側から光を取り入れる太陽電池モジュール600が記載されている。太陽電池素子70は、薄膜を複数層積層させて形成される封止膜80で覆われており、封止膜80は、その上層が下層を覆って形成され、各層の外周端部は基板60に接する部分を有しており、封止膜80の上から樹脂層65及び保護層66で覆われている(図7参照)。
【0011】
この封止膜に関する技術は、単層構造のものと積層構造のものがある。単層構造のものは膜厚を大とすることによって、バリア性を向上させることができるが、製膜する際に膜内部に応力が生じ、かかる応力によりクラックが生じ、良好なバリア性が得られないという問題がある。そのため、その膜内部応力を緩和するための応力緩和層81を入れ、積層構造とすることでバリア層82の内部応力を緩和させ、また積層数を増やすことにより、トータルでの封止膜のバリア性を向上させることができることが記載されている(図参照)。なお、高いバリア性を有するバリア層を得るためには、スパッタリング法やCVD法が好適に用いられる。
【0012】
しかしながら、太陽電池に要求される封止膜の密着性は、長期にわたり少なくとも10年以上である。そのため、製膜直後は密着性が良好で剥がれが発生しなかった封止膜が、太陽電池モジュール内部に浸入してきた水分により、封止膜の積層膜内部に水分が浸入し、それが原因で封止膜が膨張し、それにより膜応力が増え、封止膜に剥がれやクラックが発生し、バリア性が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO2007/032515号公報
【特許文献2】特開2011−238355号公報
【特許文献3】特開2005−7741号公報
【特許文献4】特願2009−149170号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って本発明の課題は、低応力かつ水分吸収の少ない封止膜構成にすることにより、経時変化で剥がれが発生せず、安定したバリア性を有する膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、バリア層と応力緩和層ともに真空での一貫製膜工程とすることにより、上記のような異物が付着しやすいという問題が生じず、従って応力緩和層を厚く積む必要がないことを見出した。さらに応力緩和層とバリア層とを特定の関係を満たすように積層することにより、応力緩和層を厚く積まなくても、85℃、85%RH環境の試験において水分浸入により封止膜が膨張することを防ぐことができ、長期安定する封止膜を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、プラズマCVD法により形成された第1化学蒸着層及び第2化学蒸着層とを備えたシリコン含有膜であって、第1化学蒸着層の厚み(L1)と第2化学蒸着層の厚み(L2)の比L2/L1が1.5〜9である、シリコン含有膜を提供する。第1化学蒸着層は、シリコン元素を含み、酸素濃度が0元素%以上10元素%未満である。第2化学蒸着層は、シリコン元素を含み、酸素濃度が35元素%超70元素%以下である。
上記第1化学蒸着層の厚み(L1)は5〜400nmであり、上記第2化学蒸着層の厚み(L2)は5〜500nmであることが好ましい。
さらに、上記第1化学蒸着層と第2化学蒸着層とが交互に複数層形成されていることが好ましい。
上記複数の第1化学蒸着層のトータルの厚みは、5n〜500(nm)[nは第1化学蒸着層の層数]であることが好ましい。
本発明の積層体は、上記シリコン含有膜と、基材とを備えている。
上記基材は、Ag、Al、Mo、ZnO、ITO、BZO、AZOならびにGZOからなる群から選択された何れかの電極膜を含んでいてもよい。
【0017】
また、本発明は、上記シリコン含有膜を含む、有機エレクトロルミネセンス素子または薄膜太陽電池セルを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低応力かつ水分吸収の少ない封止膜構成を実現した、経時変化で剥がれが発生せず、安定したバリア性を有するシリコン系薄膜及びシリコン系薄膜形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るシリコン含有膜100を含む積層体1Aを概略的に示す図である。
図2】本発明の他の一実施形態に係るシリコン含有膜200を含む積層体1Bを概略的に示す図である。
図3】本発明の別の一実施形態に係るシリコン含有膜300を含む積層体1Cを概略的に示す図である。
図4】膜形成装置30の側面断面の概略図である。
図5】膜形成装置30を上から見た概略図である。
図6】本発明の一実施形態に係る薄膜太陽電池セル20の断面を概略的に示す図である。
図7】従来例の太陽電池モジュール600の断面図である。
図8】従来例の基板と太陽電池セルの境界部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)シリコン含有膜
本発明のシリコン含有膜は、プラズマCVD法により形成され、第1化学蒸着層と、プラズマCVD法により形成された第2化学蒸着層とを備えている。第1化学蒸着層と第2化学蒸着層は、交互に複数層(n層)設けられていてもよい。nは、1以上の整数であり、好ましくは1〜10の整数、より好ましくは1〜7の整数とすることができる。また、第1化学蒸着層と第2化学蒸着層との間には、他の層が形成されていてもよい。具体的には、nが7の場合には、シリコン含有膜は、交互に設けられた各7層の第1化学蒸着層と第2化学蒸着層とを有する(7層/7層)。また、応力緩和層n層とバリア層n+1層が交互に積層されていてもよく、バリア層が2層に対して応力緩和層が1層積層されたような形態でもよい。また、応力緩和層n+1層とバリア層n層が交互に積層されていてもよく、応力緩和層が2層に対してバリア層が1層積層されたような形態でもよい。
【0021】
(1−1)第1化学蒸着層
第1化学蒸着層(以下、応力緩和層と称する場合がある)は、シリコン元素を含み、酸素濃度が0元素%以上10元素%未満である。応力緩和層は、ケイ素原子と酸素原子とに加えて、炭素原子を含んでいても良い。本発明において、応力緩和層の組成は、酸素原子が10元素%未満であり、ケイ素原子が例えば10〜20元素%、炭素原子が例えば20〜35元素%であってもよい。さらに、水素原子を例えば30〜55元素%含んでいても良い。窒素原子は、例えば、10元素%以下(0〜10元素%程度)含んでいてもよい。
【0022】
応力緩和層の単層の厚みは、1μm以下とすることができ、好ましくは600nm以下、さらに好ましくは400nm以下(例えば5〜400nm)とすることができる。応力緩和層の単層の厚みが1μmを超えると、水分吸収量が多くなり、剥がれやすくなる。
【0023】
応力緩和層が複数層ある場合、全ての応力緩和層のトータル厚みは、例えば1μm以下であり、400nm以下(例えば5〜400nm)が好ましく、5〜100nmがより好ましい。複数の応力緩和層のトータルの厚みは、5n〜500(nm)[nは応力緩和層の層数であり、nは1以上の整数である]であっても良い。nは、上記と同様である。例えば、シリコン含有膜が2層の応力緩和層を有する場合、応力緩和層の1層の厚みは、それぞれ200nm程度であっても良い。また、例えば、1層が50nm程度で、他の層が300nm程度であっても良い。応力緩和層が複数層ある場合、各層の厚みは同程度であることが好ましい。応力緩和層のトータル厚みが1μmを超えると、水分吸収量が多くなり、剥がれやすくなる。
【0024】
(1−2)第2化学蒸着層
第2化学蒸着層(以下、バリア層と称する場合がある)は、シリコン元素を含み、酸素濃度が35元素%超70元素%以下である。バリア層は、酸素原子が60〜70元素%であり、ケイ素原子が例えば30〜35元素%であってもよい。さらに炭素原子を含んでいても良い。さらに、水素原子を例えば5元素%以下(0〜5元素%程度)含んでいても良い。窒素原子は含まれていなくてもよい。
【0025】
バリア層の単層の厚みは、1μm以下とすることができ、好ましくは700nm以下、さらに好ましくは500nm以下(例えば5〜500nm)とすることができる。バリア層の単層の厚みが1μmを超えると、割れやすくなる。バリア層が複数層ある場合、全てのバリア層のトータル厚みは、例えば1μm以下であり、700nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、400nm以下(例えば100〜400nm)がさらに好ましい。バリア層が複数層ある場合、全てのバリア層のトータル厚みは、特に限定されない。
【0026】
(1−3) 第1化学蒸着層の厚み(L1)と第2化学蒸着層の厚み(L2)の比L2/L1
本発明のシリコン含有膜では、第1化学蒸着層の厚み(L1)と第2化学蒸着層の厚み(L2)の比L2/L1が1.5〜9である。L2/L1がこのような範囲にあることにより、低応力でかつ水分を吸収を少なくできる。L2/L1は、1.8〜8であることが好ましく、2.5〜8であることがより好ましい。L1、L2は、単層の厚みであっても良く、または、トータル厚みであっても良い。
【0027】
(1−4)酸素原子濃度の測定方法
本発明において、上記の各層及び膜中の酸素原子の濃度は、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)、及び、水素前方散乱分析法を用いた組成分析(HFS)により決定できる。ケイ素原子、炭素原子の濃度も同様に測定できる。水素原子についてはRBSでは分析できないため、HFSにより測定する。
【0028】
RBSでは、試料に高速イオン(He+、H+等)を照射して、試料中の原子核により弾性(ラザフォード)散乱を受けた入射イオンの一部について、散乱イオンのエネルギーと収量とを測定する。散乱イオンのエネルギーは、対象原子の質量及び位置(深さ)により異なるため、この散乱イオンのエネルギーと収量から、深さ方向の試料の元素組成を得ることができる。HFSでは、試料に高速イオン(He+)を照射することにより、試料中の水素が弾性反跳により前方に散乱されることを利用して、この反跳水素のエネルギーと収量から水素の深さ分布を得る。
【0029】
各層及び膜中の酸素原子の濃度は、プラズマCVD法において、供給ガス及びプラズマ電力(投入パワー)を調整することにより、酸素原子の濃度を所定の範囲に制御して形成できる。原料ガスとしては、酸素原子を含有する有機ケイ素化合物が使用できる。具体的には、HMDSO単体、HMDSO+Ar/H2、HMDSO+O2、HMDSO+HMDS、HMDS+O2等が挙げられる。
【0030】
本発明のシリコン含有膜の、バリア層、応力緩和層、及び後述の下地膜の組成の例を表1に示す。
【表1】
【0031】
(2)積層体
図1〜3に本発明の一実施形態に係るシリコン含有膜100、200、300をそれぞれ含む積層体1A、1B、1Cを概略的に示す。図1の積層体1Aでは、シリコン含有膜100は、各1層の応力緩和層4、バリア層2から構成される。8は基材であり、この基材上に、下地膜6、応力緩和層4、バリア層2がこの順に積層されている。図2、3の積層体1B、1Cでは、シリコン含有膜200、300は、各2層の交互に積層された応力緩和層4、バリア層2から構成される。そして、基材8上に、下地膜6、応力緩和層4、バリア層2、応力緩和層4、バリア層2がこの順に積層されている。積層体1Cは、積層体1Bと比較して、バリア層の厚みが広い例を示している。積層体において、下地膜は設けなくてもよい。また、応力緩和層とバリア層の積層順は任意であり、基材上にバリア層が積層され、その上に応力緩和層が積層されていてもよく、その逆でもよい。
【0032】
本発明の積層体としては、例えば、応力緩和層とバリア層が交互に積層された、下記の構成が例示できる。
(i) 基材/(下地膜:設けなくても良い。以下同じ)/応力緩和層/バリア層/・・・/応力緩和層/バリア層
(ii) 基材/(下地膜)/バリア層/応力緩和層/・・・/応力緩和層/バリア層
(iii) 基材/(下地膜)/応力緩和層/バリア層/・・・/バリア層/応力緩和層
(iv) 基材/(下地膜)/バリア層/応力緩和層/・・・/バリア層/応力緩和層
【0033】
(2−1)基材
上記基材としては、有機物からなる膜、無機物からなる膜、有機物と無機物の双方を含む膜が挙げられる。基材における有機物としては、PETフィルム等のポリマーフィルムが挙げられる。また、無機物としては、Ag、Al、Mo、ZnO、ITO、BZO、AZO、ならびにGZO等の電極膜などが挙げられる。
【0034】
(2−2)下地膜
上記下地膜としては、プラズマCVD法により形成され、ケイ素原子と酸素原子とを少なくとも含んでおり、酸素原子の濃度が10〜35元素%である膜等が挙げられる。下地膜は、主として、シリコン含有膜と基材との密着性を向上させるために設けることが出来る。
【0035】
(3)積層体の製造方法
上記積層体の製造方法は、基材上に、酸素原子を含有する有機ケイ素化合物からなる原料ガスを用いてプラズマCVD法により下地膜を形成する第1工程と;第1工程で形成した下地膜上に、有機ケイ素化合物と水素原子を含有する化合物とからなる原料ガスを用いてプラズマCVD法により、第1化学蒸着層を形成する第2工程と;有機ケイ素化合物と酸素原子を含有する化合物とからなる原料ガスを用いてプラズマCVD法により、第2化学蒸着層を形成する第3工程とを含んでいてもよい。第2、3工程を交互に複数回行うことにより、複数層の第1化学蒸着層と第2化学蒸着層が交互に積層された積層体を得ることができる。第1工程は行わなくても良く、基材上に先ず第3工程により第2化学蒸着層を形成し、その後第2工程を行っても良い。
【0036】
上記第2、3工程では、酸素原子を含有しない有機ケイ素化合物を使用することが好ましい。また、酸素原子を含有する有機ケイ素化合物としてはヘキサメチルジシロキサンが好ましく、酸素原子を含有しない有機ケイ素化合物としてはヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0037】
図4(側面断面図)と図5(平面図)に膜形成装置の構成図を示す。膜形成装置30には、成膜室31である真空チャンバーと、ロータリーポンプおよびターボ分子ポンプを備えた排気系45と、プラズマ発生用の高周波電源36と、各種ガスを導入するフランジが配置されている。
【0038】
成膜室31は、排気系45、製膜ガスタンク46、O2供給タンク47、H2供給タンク48、Ar供給タンク49に接続される。排気系45は、流量制御バルブ41を介して成膜室31に接続される。製膜ガスタンク46は流量制御バルブ42を介して、O2供給タンク47は流量制御バルブ43を介して、H2供給タンク48及びAr供給タンク49は流量制御バルブ44を介して、それぞれ成膜室31に接続される。成膜室31の内部には、ループアンテナ33が設けられている。
【0039】
ループアンテナ33は、プラズマを生成する手段であり、絶縁チューブ34と導電性電極35とにより構成される。絶縁チューブ34は、成膜室31内に互いに2本対向して平行配設される。導電性電極35は、2本の絶縁チューブ34に挿設され、図5のように平面視が略U字形を呈するように成膜室31の互いに対向する側壁を貫通し、高周波電流を供給する高周波電源36に接続される。高周波電流の周波数は13.56MHzであることが好ましい。なお、使用するプラズマはCCP、ICP、バリア放電、ホロー放電などでもよい。
【0040】
基板の固定台32上に、膜を形成する基板7を、蒸着面がループアンテナ33側に向くように配置した後、排気系45により成膜室31の内圧が好ましくは9.9×10-5Pa以下になるまで減圧する。
【0041】
成膜室31内の減圧が完了後、流量制御バルブ42〜44を開くことにより、原料ガスを成膜室31に導入する。原料ガスは、下地膜が、ケイ素原子と酸素原子とを少なくとも含み、該酸素原子の濃度が例えば10〜35元素%となるように、適宜選択できる。原料ガスとしては、具体的には、HMDSOガスの単体、HMDSO+Ar/H2、HMDSO+O2、HMDSO+HMDS、HMDS+O2等が挙げられる。なかでも、HMDSOガス単体が好ましい。ガスの導入速度は、3sccm〜45sccmとすることができる。
【0042】
続いて、高周波電源36からループアンテナ33に高周波電流を流し、ループアンテナ33の周辺にプラズマを発生させる。このときのプラズマ電力は1kW〜10kWとすることができる。基板の表面では表面反応が行われ、基板7上に下地膜が形成される。所定時間の経過後、流量制御バルブ42〜44を閉じることによりガスの導入を停める。
【0043】
下地膜の形成後、上記と同様に、例えば、第1化学蒸着層(応力緩和層)を形成する。なお、下地膜は形成しなくても良く、その場合は、基材上に応力緩和層を形成する。まず、流量制御バルブ44を開いて例えば、H2ガスとArガスの混合ガスを成膜室31に導入する。同時に流量制御バルブ42によりHMDSガス等の原料ガスを導入する。このときの各ガスの導入速度は、H2ガスとArガスの混合ガスについては20sccm〜40sccm、HMDSガスについては3sccm〜20sccmとすることができる。続いて、高周波電源36からループアンテナ33に、プラズマ電力が0.1kW〜10kWとなるように高周波電流を流し、ループアンテナ33の周辺にプラズマを発生させる。
【0044】
基板の表面では表面反応が行われ、図1〜3に示すように、下地膜6を被覆するように応力緩和層4を形成する。所定時間が経過した後、流量制御バルブ42、44を閉じることによりガスの導入を停める。
【0045】
応力緩和層の形成後、上記と同様に、第2化学蒸着層(バリア層)を形成する。まず、流量制御バルブ43を開いて例えばO2ガスを成膜室31に導入する。同時に流量制御バルブ42によりHMDSガス等の原料ガスを導入する。このときの各ガスの導入速度は、例えばO2ガスが20sccm〜1000sccm、HMDSガスが3sccm〜20sccmとすることができる。続いて、高周波電源36からループアンテナ33に、プラズマ電力が0.1kW〜8kWとなるように高周波電流を流し、ループアンテナ33の周辺にプラズマを発生させる。
【0046】
基板の表面では表面反応が行われ、図1〜3に示すように、応力緩和層4を被覆するようにバリア層2(例えば、シリコン酸化膜)を形成する。所定時間が経過した後、流量制御バルブ42、43を閉じることによりガスの導入を停める。このシリコン酸化膜は、SiとOとをSi:O=1:1.9〜2.1の組成比で含むことが好ましい。
【0047】
上記応力緩和層4とバリア層2で行った処理をn回(nは上記と同様、例えばn=7)繰り返す。その結果、図1〜3に示すように、下地膜6が基板上に積層され、その上に、シリコンを含む応力緩和層4上にシリコン酸化膜(バリア層2)を積層したシリコン含有膜がn段形成される。
【0048】
以上のように、先ず、原料ガスとして、HMDSOガス等を用い、基板上にプラズマCVD法により下地膜6を形成し、次いで、HMDSガス、HMDSOガス等を用い、応力緩和層4を下地膜6の上に形成できる。さらに、HMDSガス、HMDSOガス等を用い、バリア層を応力緩和層4の上に形成できる。なお、ここでは下地膜、応力緩和層、バリア層の順での膜形成を示したが、バリア層を下地膜または基板上に形成後、バリア層上に応力緩和層を形成してもよい。また、NH3ガスとSiH4ガスなどを用いて、シリコン窒化膜を中間層としてさらに各層間に積層してもよい。
【0049】
本発明の方法は、従来とは異なりエッチング処理等を用いないため、太陽電池セルなどの基板にダメージを与えることがない。また、応力緩和層4とバリア層2とを含むシリコン含有膜は、基板7の上に化学的に気相成長するに従い、太陽電池セルなどの基板をプラズマエネルギーから保護する機能も有するため、プラズマエネルギーによるデバイスへのダメージが少なくて済む。また、応力緩和層4とバリア層2の形成は、同室(成膜室31)内で行われるため、装置構造を簡易にできる。さらに、真空と大気のやりとりを必要としないため、真空引き、大気解放という工程が不要であり、雰囲気環境を変えるために流出入する気体により異物が浮遊しその異物が基板に付着する可能性が低く、それらの異物をカバーする必要がないため、有機膜を厚く積む必要が生じにくい。
【0050】
(4)有機エレクトロルミネセンス素子または薄膜太陽電池セル
図6に、本発明の一実施形態に係る薄膜太陽電池セル20の断面を概略的に示すと、21はプラスチック基板、22はITO電極である。23はフタロシアニン蒸着膜、24はフラーレン蒸着膜である。25はLiF層、26はAg電極である。これらの、有機物と無機物を含む基板上に、シリコン含有膜1が積層されている。
【0051】
本発明の有機エレクトロルミネセンス素子または薄膜太陽電池セルは、本発明のシリコン含有膜を含んでいる。本発明のシリコン含有膜は、有機EL素子や太陽電池等に存在する透明導電膜や金属膜との経時密着性に優れ、バリア層の破断も生じにくいため、高温高湿下においても経時安定性に優れている。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0053】
実施例1
ガラス基板の表面の一部に、厚さ200nmのAg層を形成した。この基板を、Ag層を有する面がループアンテナ側に向くように、成膜室内の基板固定台上に配置した。次に排気系により成膜室の内圧を9.9×10-5Pa以下になるまで減圧した。成膜室内の減圧が完了後、HMDSOガスを成膜室に導入した。HMDSOガスの導入速度は、3sccm〜45sccmとした。
【0054】
続いて、高周波電源からループアンテナに高周波電流を流した。このときのプラズマ電力は1kW〜10kWとした。基板の表面では表面反応が行われ、プラスチックフィルムを被覆する下地膜が形成された。1分後、流量制御バルブを閉じ、HMDSOガスの導入を停めた。
【0055】
下地膜の形成後、HMDSガスを用いて応力緩和層の形成処理を行った。このときHMDSガスの導入速度は3sccm〜20sccm、プラズマ電力は0.1kW〜10kWとした。
【0056】
応力緩和層の形成後、上記と同様に、HMDSガスを用いてバリア層を形成した。このときHMDSガスの導入速度は3sccm〜20sccm、プラズマ電力は0.1kW〜10kWとした。このシリコン酸化膜は、SiとOとをSi:O=1:1.9〜2.1の組成比であった。
【0057】
上記応力緩和層とバリア層の形成処理を7回繰り返した。その結果、表2に示すように、下地膜上に、シリコン含有膜(膜厚30nmの応力緩和層と膜厚60nmのバリア層とを交互に7段積層)が積層された積層体を得た。
【0058】
実施例2〜5、及び比較例1〜8
実施例1において、応力緩和層ならびにバリア層の膜厚、積層数を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、各積層体を得た。比較例2と5では、バリア層は設けなかった。
【0059】
製膜直後の剥がれ評価
実施例1〜5ならびに比較例1〜8で得られた積層体の、製膜直後の剥がれ状態を目視観察した。結果を下記の基準により評価した。結果を表2に示す。
○:シリコン含有膜の浮きや剥がれが観察されなかった
×:シリコン含有膜の浮きや剥がれが観察された
【0060】
上記試験の結果、比較例1と4の積層体では、シリコン含有膜の浮きや剥がれが観察された。その他の積層体については、シリコン含有膜の浮きや剥がれが観察されなかった。
【0061】
加速試験
実施例1〜5ならびに比較例2、3、5〜8で得られた積層体を、85℃、85%RHの環境に放置し、加速試験を行った。製膜直後と、加速試験後500時間後、1000時間後のシリコン含有膜の基材からの剥離状態を目視観察した。結果を下記の基準により評価した。結果を表2に示す。
○:シリコン含有膜の浮きや剥がれが観察されなかった
△:ボツボツと剥離が観察された
×:全面剥離した
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示すように、バリア層の厚み(L2)と応力緩和層の厚み(L1)の比L2/L1が1.5〜9である実施例のシリコン含有膜では、加速試験後の耐剥離性が良好であった。なお、比較例1の積層体では、バリア層の厚みを500nm以上としたところ、割れが発生した。実施例のシリコン含有膜では、加速試験後においても耐剥離性に優れ、長期間にわたり高いバリア性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0064】
水分や酸素に対して劣化し易い有機EL素子や太陽電池セル等、特に表面に有機物(有機系発電層、発光層、プラスチックフィルム(PETやPEN)等)と無機物(透明導電膜、金属電極、無機系発電層等)が混在、露出している基材に対して、基材にダメージを与えること無く、長期間にわたり剥がれのないバリア層を形成できる。
【符号の説明】
【0065】
1、100、200、300 シリコン含有膜
1A、1B、1C 積層体
2 バリア層
4 応力緩和層
6 下地膜
8 基材
20 薄膜太陽電池セル
21 プラスチック基板
22 ITO電極
23 フタロシアニン蒸着膜
24 フラーレン蒸着膜
25 LiF層
26 Ag電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8