特許第5968043号(P5968043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968043
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】防振装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/38 20060101AFI20160728BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20160728BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20160728BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   F16F1/38 F
   F16F1/38 U
   F16F15/08 K
   B29C45/14
   B29C45/26
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-98388(P2012-98388)
(22)【出願日】2012年4月24日
(65)【公開番号】特開2013-227990(P2013-227990A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】大路 章
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−202031(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/018904(WO,A1)
【文献】 特開昭62−167951(JP,A)
【文献】 実開平03−073736(JP,U)
【文献】 特開2010−202033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/38
F16F 15/00−15/36
B29C 45/14、45/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ部材がアウタ部材の筒状部に挿入されて、それらインナ部材とアウタ部材の筒状部とが弾性体で弾性連結された防振装置において、
前記弾性体が熱可塑性エラストマとされて前記インナ部材に固着されていると共に、前記アウタ部材の前記筒状部が合成樹脂製とされて、該弾性体の外周面上に形成された該筒状部と該弾性体とが融着固定状態とされており、且つ、
凹形状の軸方向端面を有する前記弾性体の円筒状外周面に対して前記筒状部の押圧力が及ぼされており、該弾性体の軸方向端面が軸方向外方に膨出変形した状態になっていると共に、該筒状部の内周面に融着された該弾性体の外周面が縦断面において軸方向外側に行くに従って次第に内周側に傾斜していること
を特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記弾性体の円筒状外周面に前記筒状部の押圧力が及ぼされており、該弾性体の軸方向端面が軸方向外方に膨出変形した状態になっていると共に、縦断面において凸形状となっている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
インナ部材がアウタ部材の筒状部に挿入されて、それらインナ部材とアウタ部材の筒状部とが弾性体で弾性連結された防振装置の製造方法であって、
前記インナ部材を準備して弾性体成形用金型にセットした後、該弾性体成形用金型のキャビティに加熱溶融された熱可塑性エラストマを充填して前記弾性体を成形すると共に、該弾性体を該インナ部材に固着する弾性体成形工程と、
該弾性体成形工程で成形された該弾性体をアウタ成形用金型にセットした後、該アウタ成形用金型のキャビティに加熱溶融された合成樹脂を充填して該弾性体の外周面上に前記アウタ部材の前記筒状部を成形すると共に、該筒状部と該弾性体を相互に融着するアウタ成形工程と
を、有することを特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項4】
前記筒状部の成形前に前記アウタ成形用金型にセットされた前記弾性体の軸方向両端面の少なくとも一部と該アウタ成形用金型のキャビティの壁内面との間に隙間が設けられており、凹形状の軸方向端面を有する前記弾性体の円筒状外周面に前記筒状部の成形時の押圧力を及ぼすことにより、該弾性体の軸方向端面を軸方向外方に膨出変形させると共に、該筒状部の内周面に融着された該弾性体の外周面を縦断面において軸方向外側に行くに従って次第に内周側に傾斜させる請求項に記載の防振装置の製造方法。
【請求項5】
前記弾性体の円筒状外周面に前記筒状部の成形時の押圧力を及ぼすことにより、該弾性体の軸方向端面を軸方向外方に膨出させて縦断面において凸形状に変形させる請求項に記載の防振装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のサスペンションブッシュやトルクロッド、エンジンマウント等に好適に適用される防振装置とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結乃至は防振支持する防振装置が知られている。この防振装置は、インナ部材がアウタ部材の筒状部に挿入配置されて、それらインナ部材とアウタ部材が弾性体で相互に弾性連結された構造を有している。例えば、特開2005−220956号公報(特許文献1)に示されているのが、それである。
【0003】
ところで、従来では、防振装置は、金属製のインナ部材とアウタ部材にゴム弾性体を加硫接着することで形成されていたが、特許文献1では、軽量化や接着工程の省略等を目的として、ゴム弾性体の外周面上に合成樹脂製のアウタ部材を射出成形によって形成した構造が提案されている。
【0004】
しかし、射出成形されたアウタ部材がゴム弾性体に固着されないことから、ゴム弾性体の外周面に凹所を設ける等しても、大荷重の入力時にはアウタ部材がゴム弾性体から抜けるおそれがあった。また、量産性の更なる向上が求められており、そのためにゴム弾性体の加硫成形に必要な時間を短縮することが要求される場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−220956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、接着工程を設けることなくアウタ部材の抜けを防止することができると共に、優れた量産性で効率的に製造することが可能とされた、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【0007】
また、本発明は、工程数の増加を要することなく弾性体に予圧縮を施すことができて、耐久性の向上が実現される、新規な防振装置の製造方法を提供することも、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様は、インナ部材がアウタ部材の筒状部に挿入されて、それらインナ部材とアウタ部材の筒状部とが弾性体で弾性連結された防振装置において、前記弾性体が熱可塑性エラストマとされて前記インナ部材に固着されていると共に、前記アウタ部材の前記筒状部が合成樹脂製とされて、該弾性体の外周面上に形成された該筒状部と該弾性体とが融着固定状態とされており、且つ、凹形状の軸方向端面を有する前記弾性体の円筒状外周面に対して前記筒状部の押圧力が及ぼされており、該弾性体の軸方向端面が軸方向外方に膨出変形した状態になっていると共に、該筒状部の内周面に融着された該弾性体の外周面が縦断面において軸方向外側に行くに従って次第に内周側に傾斜していることを、特徴とする。
【0009】
このような第1の態様に従う構造の防振装置によれば、弾性体が熱可塑性エラストマ製とされていることから、弾性体を短時間で形成することができて、量産性の向上が図られる。更に、廃棄された防振装置の弾性体を再利用することも可能となり得る。
【0010】
また、アウタ部材が合成樹脂製とされていることから、軽量化が図られると共に、短時間で任意の形状に成形することができる。しかも、アウタ部材が弾性体の外周面上に成形されることで、熱可塑性エラストマで形成された弾性体の外周面がアウタ部材の熱で溶融して、それらアウタ部材と弾性体が相互に融着される。これにより、接着剤を用いた接着等を要することなく、アウタ部材が弾性体から抜けるのを防ぐことができて、軸方向の耐荷重性が充分に確保される。
【0011】
なお、上記本発明の第の態様に係る防振装置において、凹形状の軸方向端面を有する前記弾性体の円筒状外周面に前記筒状部の押圧力が及ぼされることにより、該弾性体の軸方向端面が軸方向外方に膨出変形されていると共に、該筒状部の内周面に融着された該弾性体の外周面が縦断面において軸方向外側に行くに従って次第に内周側に傾斜している態様が、採用されている
【0012】
の態様によれば、アウタ部材の筒状部の内周面と弾性体の外周面との係止によって、アウタ部材が弾性体から軸方向に抜けるのが防止される。しかも、アウタ部材の筒状部の内周面および弾性体の外周面が、縦断面において互いに対応する湾曲筒形状とされていることにより、それら筒状部の内周面と弾性体の外周面との融着面積が大きく確保されて、抜けに対する抗力を大きく得られることから、軸方向で耐荷重性の向上が図られる。更に、筒状部が融着される前の弾性体の軸方向端面が凹形状とされており、軸方向端面の自由表面が大きく確保されていると共に、弾性体の軸方向端部のゴムボリュームが抑えられている。これにより、弾性体が筒状部によって内周側に押圧される際に、弾性体の軸方向外方への膨出変形が効率的に生じ得て、内部歪みが効果的に低減乃至は解消されると共に、筒状部の内周面および弾性体の外周面の傾斜形状への変形が有効に実現される。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された防振装置において、前記弾性体の円筒状外周面に前記筒状部の押圧力が及ぼされており、該弾性体の軸方向端面が軸方向外方に膨出変形した状態になっていると共に、縦断面において凸形状となっているものである。
【0014】
の態様によれば、縦断面において凹形状に成形された弾性体の軸方向端面が凸形状になるまで径方向で大きな予圧縮を施すことにより、内部歪みが充分に低減乃至は解消されると共に、弾性体の外周面が充分に変形されることで軸方向での係止作用や融着面積の確保が効果的に実現される。
【0015】
本発明の第の態様は、インナ部材がアウタ部材の筒状部に挿入されて、それらインナ部材とアウタ部材の筒状部とが弾性体で弾性連結された防振装置の製造方法であって、前記インナ部材を準備して弾性体成形用金型にセットした後、該弾性体成形用金型のキャビティに加熱溶融された熱可塑性エラストマを充填して前記弾性体を成形すると共に、該弾性体を該インナ部材に固着する弾性体成形工程と、該弾性体成形工程で成形された該弾性体をアウタ成形用金型にセットした後、該アウタ成形用金型のキャビティに加熱溶融された合成樹脂を充填して該弾性体の外周面上に前記アウタ部材の前記筒状部を成形すると共に、該筒状部と該弾性体を相互に融着するアウタ成形工程とを、有することを、特徴とする。
【0016】
このような第の態様に従う防振装置の製造方法によれば、弾性体を熱可塑性エラストマで形成することにより、弾性体をゴムで形成する場合に比して、弾性体成形工程に要する時間を短縮することができる。
【0017】
また、弾性体の成形後にアウタ部材が成形されることから、熱可塑性エラストマで形成された弾性体の外周面がアウタ部材の熱によって溶融して、特別な接着工程等を要することなく、それら弾性体とアウタ部材が融着によって相互に固着される。
【0018】
また、アウタ部材の形成材料である合成樹脂の充填圧で弾性体が内周側に圧縮される。それ故、合成樹脂製のアウタ部材を採用して、縮径加工等の後加工がなされない場合であっても、弾性体の内部歪みがアウタ部材の成形によって低減乃至は解消されて、弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0019】
本発明の第の態様は、第の態様に記載された防振装置の製造方法であって、前記筒状部の成形前に前記アウタ成形用金型にセットされた前記弾性体の軸方向両端面の少なくとも一部と該アウタ成形用金型のキャビティの壁内面との間に隙間が設けられており、凹形状の軸方向端面を有する前記弾性体の円筒状外周面に前記筒状部の成形時の押圧力を及ぼすことにより、該弾性体の軸方向端面を軸方向外方に膨出変形させると共に、該筒状部の内周面に融着された該弾性体の外周面を縦断面において軸方向外側に行くに従って次第に内周側に傾斜させるものである。
【0020】
の態様によれば、アウタ部材の成形時に内周側への圧縮力が弾性体に及ぼされると、弾性体が軸直角方向で圧縮されると共に、軸方向で隙間内に膨出する。これにより、弾性体の内部歪みが効果的に低減乃至は解消されて、耐久性の向上が実現される。
【0021】
また、弾性体の軸方向端面の少なくとも一部がアウタ成形用金型の壁内面で拘束されない自由表面とされており、弾性体の軸直角方向での剛性が軸方向両端部分において軸方向中央部分よりも小さくされている。それ故、アウタ部材と弾性体の融着面の湾曲筒形状を、アウタ部材の形成材料の充填圧によって容易に得ることができて、接着等の特別な工程を要することなく、軸方向での抜け抗力を向上させることができる。
【0022】
しかも、弾性体成形工程において弾性体の軸方向端面が凹形状に成形されており、弾性体の軸方向端部のゴムボリュームが低減されていると共に、弾性体の軸方向端面における自由表面の面積が大きく確保されている。これにより、アウタ成形工程において弾性体の軸方向外方への膨出変形が充分に許容されて、内周側への予圧縮による内部歪みの低減乃至は解消や軸方向での抜け抗力の向上が、より効果的に実現される。
【0023】
本発明の第の態様は、第の態様に記載された防振装置の製造方法であって、前記弾性体の円筒状外周面に前記筒状部の成形時の押圧力を及ぼすことにより、該弾性体の軸方向端面を軸方向外方に膨出させて縦断面において凸形状に変形させるものである。
【0024】
の態様によれば、弾性体に対して径方向に大きな予圧縮を施して、弾性体を軸方向端面が凸形状になるまで充分に変形させることにより、内部歪みが充分に低減乃至は解消されて耐久性の向上が実現されると共に、軸方向での抜け抗力の向上が効果的に実現される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、弾性体が熱可塑性エラストマで形成されていることから、量産性の向上が図られる。更に、アウタ部材の筒状部が合成樹脂とされることにより、軽量化と量産性の向上が何れも実現される。しかも、アウタ部材の筒状部が弾性体に融着されることから、軸方向での抜け効力が特別な接着作業を要することなく充分に確保されて、アウタ部材が弾性体から外れるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1の実施形態としてのサスペンションブッシュを示す縦断面図。
図2図1に示されたサスペンションブッシュの製造工程である弾性体成形工程を説明する縦断面図。
図3図1に示されたサスペンションブッシュの製造工程であるアウタ成形工程を説明する縦断面図。
図4】本発明の第2の実施形態としてのトルクロッドの要部を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1には、本発明に従う構造とされた防振装置の第1の実施形態として、自動車用のサスペンションブッシュ10が示されている。サスペンションブッシュ10は、インナ部材12がアウタ部材14に挿入されて、それらインナ部材12とアウタ部材14が弾性体16によって弾性連結された構造を有している。
【0029】
より詳細には、インナ部材12は、小径の略円筒形状を有しており、鉄やアルミニウム合金等の金属で形成された高剛性の部材とされている。なお、本実施形態では、軸方向全長に亘って略一定の内外径寸法を有する直線的な形状とされているが、例えば、軸方向中央部分に部分的に大径の膨出部を設けることで、後述する弾性体16の固着強度を高めることもできる。
【0030】
また、インナ部材12には、弾性体16が固着されている。弾性体16は、熱可塑性エラストマで形成されて、略円筒形状を有しており、その内周面がインナ部材12の軸方向中央部分の外周面に接着等の手段で固着されている。更に、弾性体16の軸方向端面は、軸方向外方に向かって凸形状の凸形端面17とされている。
【0031】
さらに、弾性体16には、一対のリップ部18,18が一体形成されている。リップ部18は、弾性体16の軸方向両端部に設けられており、外周側に向かって突出していると共に、全周に亘って連続する環状とされている。更に、リップ部18は、縦断面において突出先端側に向かって次第に軸方向で狭幅となる断面形状を有しており、軸方向外側の面が略軸直角方向に広がっていると共に、軸方向内側の面が外周側に行くに従って軸方向外側に傾斜する傾斜面とされている。
【0032】
更にまた、一対のリップ部18,18の軸方向間には、外周面に開口して周方向に延びる凹溝20が形成されている。この凹溝20の底面が弾性体16の湾曲筒状外周面21を構成しており、湾曲筒状外周面21が縦断面において軸方向外側に行くに従って内周側に傾斜する湾曲筒形状とされていることで、凹溝20の深さが軸方向外側部分において軸方向中央部分よりも大きくなっている。更に、リップ部18,18の軸方向内側の面で構成された凹溝20の側壁内面が傾斜面とされており、凹溝20が外周側に向かって次第に拡開する縦断面形状を有している。
【0033】
弾性体16の形成材料としては、ゴム状弾性を示す熱可塑性エラストマであれば特に限定されるものではなく、例えばウレタン系やスチレン系、オレフィン系、エステル系、フッ素系、ジエン系のもの等が何れも好適に採用される。具体的には、例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体、セグメント化ポリウレタン、ポリプロピレンとエチレン−プロピレンゴムの部分架橋ブレンド物、塩素化ポリエチレン、シンジオタクチック−1,2ポリブタジエン等が、何れも弾性体16の形成材料として採用され得る。なお、弾性体16の形成材料としては、上記の如き熱可塑性エラストマを単独で或いは2種以上を組み合わせて採用され得る。更に、上記の如き熱可塑性エラストマに、カーボンブラック等を添加して、特性を調節することも可能である。
【0034】
なお、本実施形態において、弾性体16の軸方向端面は、後述するアウタ部材14の成形前には、軸方向内周側に行くに従って軸方向外側に傾斜すると共に、中心軸に対する傾斜角度が内周側に行くに従って小さくなる湾曲凹形状の凹形端面22とされている。また、弾性体16の外周面は、後述するアウタ部材14の成形前には、軸方向で直線的に延びる円筒形状の円筒状外周面23とされている(図3参照)。
【0035】
また、弾性体16の外周側には、アウタ部材14が形成されている。アウタ部材14は、大径の略円筒形状を有しており、硬質の合成樹脂で形成されている。また、アウタ部材14は、軸方向全長に亘って略一定の外径寸法で形成されていると共に、軸方向両端部の内径寸法が軸方向中間部分よりも大きくなっている。さらに、アウタ部材14の軸方向中間部分の内周面は、縦断面において軸方向外側に行くに従って次第に内周側に傾斜する湾曲形状とされており、アウタ部材14の軸方向両端部には、内周側に突出する突出部24がそれぞれ形成されている。なお、本実施形態では、アウタ部材14の全体が略円筒形状とされており、筒状部がアウタ部材14の全体によって構成されている。
【0036】
アウタ部材14の形成材料としては、硬質の合成樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド(以下、PA)46、PA6、PA66、PA92、PA99、PA610、PA612、PA11、PA912、PA12、PA6とPA66の共重合体、PA6とPA12の共重合体、PA4T、PA6T、PAMXD6、PA9T、PA10T、PA11T、PA12T、PA13T等が、好適に採用され得る。特に、アウタ部材14の形成材料としては、耐加水分解性に優れたPA66が望ましい。なお、上記の形成材料は、単独で或いは2種以上を組み合わせて採用することができる。更に、上記の合成樹脂材料にガラス繊維等を加えて強度を増すことも可能である。また、アウタ部材14の形成材料は、熱可塑性の合成樹脂に限定されるものではなく、熱硬化性の合成樹脂も採用され得る。
【0037】
このアウタ部材14は、弾性体16の外周面上に射出成形されることで形成されており、アウタ部材14を形成する合成樹脂材料が加熱溶融された状態で射出されることにより、弾性体16の外周面とアウタ部材14の内周面が相互に融着されている。なお、アウタ部材14の内周端部は、軸方向中間部分において、一対のリップ部18,18の軸方向間に挟まれている。また、アウタ部材14の内周面および弾性体16の外周面には接着剤は塗布されておらず、溶融されたアウタ部材14と弾性体16が冷却固化することで相互に固着されている。
【0038】
さらに、弾性体16の外周面には、アウタ部材14の射出圧によって内周側への押圧力が作用しており、弾性体16が径方向で予圧縮されている。更に、本実施形態において、湾曲凹形状に成形された弾性体16の凹形端面22は、アウタ部材14の射出圧が弾性体16に対して径方向の圧縮力として作用することで、軸方向外方に膨出変形されている。特に本実施形態では、弾性体16の内周側への変形量が充分に大きくされており、アウタ部材14の成形後に弾性体16の軸方向端面が縦断面において凸形状の凸形端面17とされている。更にまた、弾性体16の径方向への剛性が軸方向外側に向かって次第に小さくなっていることから、円筒形状に成形された弾性体16の円筒状外周面23は、アウタ部材14の射出圧が作用することで、軸方向外側が内側よりも大きく圧縮されて、外周側に凸の湾曲形状に変形された湾曲筒状外周面21とされている。
【0039】
なお、かくの如き構造とされたサスペンションブッシュ10は、インナ部材12が図示しないサスペンション側に取り付けられると共に、アウタ部材14が車両ボデー側に取り付けられることにより、サスペンションを車両ボデーに対して防振連結している。
【0040】
このような構造とされたサスペンションブッシュ10によれば、弾性体16が熱可塑性エラストマで形成されており、射出成形等によって短時間で形成可能であることから、ゴムを加硫成形して弾性体を得る場合に比して、量産性の向上が図られる。しかも、弾性体16を熱可塑性エラストマ製とすることで、廃棄された弾性体16の再利用も可能となる。
【0041】
また、合成樹脂製のアウタ部材14と熱可塑性エラストマ製の弾性体16とが成形時の熱で相互に融着されることにより、アウタ部材14の弾性体16からの抜けが防止されている。しかも、弾性体16の軸方向両端部には外周側に突出するリップ部18,18が設けられていることから、アウタ部材14がリップ部18に係止されることでアウタ部材14の弾性体16に対する軸方向での抜けが防止される。更に、アウタ部材14の内周面および弾性体16の外周面(湾曲筒状外周面21)が、縦断面において軸方向外側に行くに従って内周側に傾斜する湾曲形状とされていることから、アウタ部材14の内周面と弾性体16の外周面とが軸方向で係止されて、アウタ部材14の軸方向での抜けが防止される。加えて、リップ部18の形成と、アウタ部材14の内周面および弾性体16の外周面の湾曲形状とによって、アウタ部材14と弾性体16の融着面積が大きく確保されており、融着による固定強度の向上が実現されている。
【0042】
なお、本実施形態に従う構造のサスペンションブッシュ10は、例えば、以下の如くして製造される。
【0043】
すなわち、先ず、図2に示されているように、予め準備したインナ部材12を弾性体成形用金型25のキャビティ26内にセットして、キャビティ26に連通された射出口28から熱可塑性エラストマをキャビティ26に射出することで、弾性体16を射出成形してインナ部材12に固着させる。弾性体16が冷却されて形状が安定した後、弾性体成形用金型25から弾性体16を取り出すことにより、インナ部材12を備えた弾性体16の一体成形品を得る。以上により、弾性体成形工程を完了する。なお、図2図3に示されているように、弾性体成形工程において成形された弾性体16は、外周面(凹溝20の底面)が縦断面において直線状を呈する円筒状外周面23とされている。また、弾性体成形工程において成形された弾性体16は、軸方向端面が縦断面において湾曲傾斜形状を呈する凹形端面22とされている。
【0044】
なお、上記の弾性体成形工程と後述するアウタ成形工程とを連続的に実行して、弾性体16とアウタ部材14を2色成形でサスペンションブッシュ10を得ることもできる。即ち、弾性体成形工程において弾性体16が冷却されて形状が安定するとは、溶融状態から少なくとも脱型可能な程度まで固化させることを言うのであって、必ずしも弾性体16が完全に固化する温度(例えば気温)までの冷却だけを意味するものではない。従って、弾性体16を成形した後に特別な冷却時間を設けることなく弾性体成形用金型25からアウタ成形用金型30(後述)に取り替えて、速やかにアウタ部材14を成形することも可能な場合がある。これによれば、弾性体16とアウタ部材14の成形工程において冷却時間が不要になることから、短時間での製造が可能になって、生産性の向上が図られ得る。要するに、弾性体16が常温まで冷却されたり、完全に固化するまで冷却される前の段階で、2色成形等によってアウタ部材14を成形することにより、弾性体16とアウタ部材14の融着を一層速やかに且つより安定して行うことも可能となる。
【0045】
次に、図3に示されているように、上記工程によって得られた弾性体16の一体成形品をアウタ成形用金型30のキャビティ32内にセットして、弾性体16に一体形成されたリップ部18,18の軸方向外側の面をアウタ成形用金型30のキャビティ32の壁内面にそれぞれ押し当てて密着させることにより、弾性体16の外周面とキャビティ32の壁内面との間に空間を形成する。そして、その空間(キャビティ32の一部)に射出口34を通じて加熱溶融された合成樹脂を射出することで、アウタ部材14を弾性体16の外周側に射出成形する。
【0046】
また、アウタ部材14の射出成形時に、弾性体16の外周面に加熱溶融された合成樹脂が接触することで、弾性体16の外周面が加熱されて溶融することから、弾性体16の外周面とアウタ部材14の内周面が融着する。
【0047】
また、アウタ部材14を形成する際の射出圧が弾性体16の外周面に作用することによって、弾性体16には径方向内側への圧縮力が及ぼされるようになっており、かかる圧縮力の作用によって弾性体16の内部歪みが低減乃至は解消される。なお、アウタ部材14の成形後に弾性体16を完全に固化させる場合には、弾性体16において熱収縮による内部歪みがより大きく生じることとなるが、この場合にも、アウタ部材14の射出圧によって充分な予圧縮を施すことにより、内部歪みを低減乃至は解消することができる。
【0048】
さらに、少なくともアウタ部材14の成形前には、弾性体16の軸方向端面とアウタ成形用金型30との間に隙間36が形成されており、弾性体16の凹形端面22は軸方向外側への変形が許容されている。それ故、軸方向外側への膨出を伴う弾性体16の径方向内側への圧縮変形が、アウタ部材14の射出圧を利用して効率的に生ぜしめられて、内部歪みの解消が効果的に実現される。なお、図中では必ずしも明らかではないが、隙間36はアウタ成形用金型30に形成された連通孔を通じて外部に連通されており、空気ばねの作用を回避することで、弾性体16の軸方向外側への膨出変形が許容されている。また、本実施形態では、図1図3からも明らかなように、アウタ部材14の射出成形前だけでなく射出成形後にも隙間36が形成されており、弾性体16とアウタ成形用金型30との間に空気が残留している。尤も、隙間36は少なくともアウタ部材14の成形前に設けられていれば良く、アウタ部材14の成形後に弾性体16の軸方向端面がアウタ成形用金型30に当接して、隙間36が消失するようになっていても良い。
【0049】
さらに、隙間36の形成によって、弾性体16の凹形端面22が弾性変形(隙間36側への膨出変形)を許容された自由表面とされており、弾性体16の径方向での剛性が軸方向外端部分において軸方向中央部分よりも小さくなっている。それ故、弾性体16の円筒状外周面23は、アウタ部材14の射出圧によって軸方向外端部分が軸方向中央部分よりも大きく内周側に押し込まれる。その結果、図1に示されているように、アウタ部材14の成形後には、弾性体16の外周面が、縦断面において軸方向外側に行くに従って次第に内周側に傾斜する湾曲筒状外周面21に変形されている。
【0050】
しかも、弾性体16の軸方向端面が凹形端面22とされており、弾性体16の軸方向端部のゴムボリュームが低減されていると共に、自由表面が大きく確保されている。これによって、軸方向端面の軸方向外方への膨出変形が効率的に許容されて、軸方向外端部分が軸方向中央部分に比してより大きく内周側に押し込まれ易くなっており、弾性体16の円筒状外周面23が所定形状の湾曲筒状外周面21に変形し易くなっている。また、弾性体16の凹形端面22は、アウタ部材14の射出成形圧によって軸方向外方に膨出することで、縦断面において凸形の湾曲形状を呈する凸形端面17に変形される。
【0051】
なお、弾性体16の軸方向両端部分に設けられたリップ部18が、アウタ部材14の形成材料の射出圧によって、キャビティ32の壁内面により強く押し当てられることから、アウタ部材14の射出成形時に形成材料が隙間36に入り込むのを防ぐことができる。特に本実施形態では、リップ部18,18の軸方向内側の面が傾斜面とされて、リップ部18が外周側に向かって次第に薄肉となっていることから、アウタ部材14の形成材料の射出圧によって、リップ部18,18が安定してキャビティ32の壁内面に押し当てられる。それ故、アウタ部材14の成形時に合成樹脂の隙間36への入り込みがより効果的に防止されるようになっている。このようなリップ部18が設けられていることによって、アウタ部材14の射出圧を比較的に大きく設定することができて、弾性体16に充分な予圧縮を施すことができる。従って、弾性体16の冷却前にアウタ部材14を成形する2色成形を採用する場合であっても、弾性体16の内部歪みを充分に低減することができる。
【0052】
そして、アウタ部材14の冷却固化後に、アウタ成形用金型30からアウタ部材14を取り出すことにより、サスペンションブッシュ10を得る。以上によりアウタ成形工程を完了し、サスペンションブッシュ10の製造工程を完了する。
【0053】
このような本実施形態に係るサスペンションブッシュ10の製造方法によれば、弾性体16が熱可塑性エラストマの射出成形によって極めて短時間で形成可能とされる。それ故、サスペンションブッシュ10を優れた量産性で製造することができる。
【0054】
また、アウタ部材14も合成樹脂の射出成形によって短時間で形成することが可能であると共に、弾性体16の成形後に弾性体16の外周面上にアウタ部材14を形成することで、溶融したアウタ部材14の熱でアウタ部材14と弾性体16が融着されることから、接着剤を塗布する等の工程を追加することなく、アウタ部材14と弾性体16を相互に固着することができる。
【0055】
さらに、アウタ成形工程において弾性体16の円筒状外周面23にアウタ部材14の形成材料の射出圧を及ぼすことで、弾性体16の径方向への予圧縮が施される。それ故、成形後の縮径加工による予圧縮が難しい合成樹脂製のアウタ部材14を採用しつつ、少ない工程数で弾性体16の内部歪みを解消することができる。
【0056】
図4には、本発明の第2の実施形態として、自動車用のトルクロッド40が示されている。トルクロッド40は、防振装置としての一対のブッシュ部42,42がロッド本体44で連結された構造を有している。なお、図4では、一方のブッシュ部42と、ロッド本体44の該ブッシュ部42側の端部とが図示されており、他方のブッシュ部42とロッド本体44の他方の端部は、一方の側と略同一の構造であることから、ここでは図示を省略した。
【0057】
より詳細には、ブッシュ部42は、インナ部材12がアウタ部材46の筒状部48に挿入されて、それらインナ部材12と筒状部48が弾性体16によって弾性連結された構造を有している。筒状部48は、硬質の合成樹脂で形成されており、略円筒形状を有している。更に、筒状部48の周上の一部には、ロッド本体44が径方向外方に突出して一体形成されており、一対の筒状部48,48がロッド本体44によって相互に連結されている。なお、一対の筒状部48,48とロッド本体44とを含んでアウタ部材46が構成されている。また、本実施形態の筒状部48の構造は、前記第1の実施形態におけるアウタ部材46の構造と略同一であることから、ここでは説明を省略する。
【0058】
このようなトルクロッド40では、ブッシュ部42において前記第1の実施形態に示されたサスペンションブッシュ10と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態の構造からも明らかなように、アウタ部材46は、必ずしも全体が筒状とされたものに限定されず、筒状部48を備えていれば良く、複数の筒状部48を備えていても良い。特に、アウタ部材46は、合成樹脂で形成されていることから、金属製に比して軽量化が図られると共に、任意の形状に容易に成形することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、弾性体の外周面とアウタ部材の筒状部の内周面は、例えば、軸方向全長に亘って一定の直径を有する円筒状であっても良いし、軸方向外側に行くに従って次第に外周側に傾斜していても良い。このような形状は、例えば、弾性体成形工程において弾性体の外周面を軸方向外側に行くに従って次第に内周側に傾斜する形状とすることで、実現される。
【0060】
また、前記実施形態では、弾性体16にリップ部18が一体形成されていたが、リップ部18は必須ではなく、省略されていても良い。
【0061】
また、前記実施形態では、弾性体16の軸方向端面の全体(リップ部18を除く)が、キャビティ32の壁内面から離隔することで隙間36が形成されているが、例えば、弾性体16の軸方向端面が部分的にキャビティ32の壁内面から離隔することで隙間36が形成されていても良い。要するに、弾性体16がアウタ成形用金型30にセットされた状態において、必ずしも弾性体16の軸方向端面の全体が自由表面とされていなくても良い。
【0062】
また、アウタ部材は全体が合成樹脂で形成されていても良いが、例えば、筒状部だけが合成樹脂で形成された構造等も採用され得る。具体的には、例えば、前記第2の実施形態のトルクロッド40において、アウタ部材46を構成するロッド本体44を鉄やアルミニウム合金等の金属で形成して、ロッド本体44の両端部に合成樹脂製の筒状部48を固着した構造等も採用可能である。
【0063】
また、熱可塑性エラストマで形成された弾性体や硬質合成樹脂で形成されたアウタ部材(筒状部)の成形方法は、前記実施形態で例示された射出成形が望ましいが、必ずしも限定されるものではない。
【0064】
また、本発明の適用範囲は、サスペンションブッシュやトルクロッドのブッシュ部に限定されるものではなく、エンジンマウントやボデーマウント等にも適用可能である。更に、本発明は、自動車に用いられる防振装置のみならず、例えば自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等に用いられる防振装置にも、好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0065】
10:サスペンションブッシュ(防振装置)、12:インナ部材、14:アウタ部材(筒状部)、16:弾性体、17:凸形端面、18:リップ部、21:湾曲筒状外周面、22:凹形端面、23:円筒状外周面、25:弾性体成形用金型、26:キャビティ、30:アウタ成形用金型、32:キャビティ、36:隙間、40:トルクロッド、42:ブッシュ部(防振装置)、46:アウタ部材、48:筒状部
図1
図2
図3
図4