(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968072
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】密閉型電池用封口体、密閉型電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 2/04 20060101AFI20160728BHJP
H01M 2/30 20060101ALI20160728BHJP
H01M 2/34 20060101ALI20160728BHJP
H01M 2/12 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
H01M2/04 C
H01M2/30 B
H01M2/34 A
H01M2/12 101
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-113879(P2012-113879)
(22)【出願日】2012年5月17日
(65)【公開番号】特開2013-242975(P2013-242975A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177081
【氏名又は名称】FDK鳥取株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】砂田 賢
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正雄
(72)【発明者】
【氏名】村上 啓三
【審査官】
松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−055992(JP,A)
【文献】
特開2013−149476(JP,A)
【文献】
特開2013−101794(JP,A)
【文献】
特開2001−160382(JP,A)
【文献】
特開平10−188947(JP,A)
【文献】
特開2004−146362(JP,A)
【文献】
特開2003−282046(JP,A)
【文献】
実開平05−081940(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/04
H01M 2/12
H01M 2/30
H01M 2/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池缶の開口部を封止すべく溶接部を介して前記開口部に装着されてなる密閉型電池用封口体であって、
前記開口部を塞ぐために設けられ、中央に貫通孔を有する金属製の封口板と、
前記封口板の貫通孔に挿通され、柱状の端子本体と、その端子本体における缶外側端部に突設されたフランジ部とを有する金属製の端子と、
前記フランジ部の上面に配置される板状のPTC素子と、
前記PTC素子上に重ねて配置されるとともに前記PTC素子を横方向から取り囲むように外周端が折り曲げられ、前記フランジ部との間に前記PTC素子を挟み込んで固定するキャップ部材と、
前記キャップ部材と前記フランジ部との接触部位に介在される絶縁シートと、
前記封口板、前記端子、前記キャップ部材及び前記絶縁シートがなす隙間を埋める状態で形成された樹脂製パッキングと
を備え、
前記樹脂製パッキングにより前記封口板、前記端子、前記キャップ部材及び前記絶縁シートが一体的に固定され、
前記端子本体は、中空部を有する有底中空状でありかつ内圧解放用の樹脂製のガス排出弁を内蔵している
ことを特徴とする密閉型電池用封口体。
【請求項2】
前記ガス排出弁は、前記端子本体の底部に透設されたガス排出孔を前記中空部側から塞ぐ樹脂片であることを特徴とする請求項1に記載の密閉型電池用封口体。
【請求項3】
前記端子本体は、前記缶外側端部から缶内側端部に行くに従って径が大きくなるようテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の密閉型電池用封口体。
【請求項4】
前記端子本体は、その軸方向から見て非円形状となるよう形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の密閉型電池用封口体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の密閉型電池用封口体を用いて電池缶の開口部を封止したことを特徴とする密閉型電池。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の密閉型電池用封口体を構成する前記封口板、前記端子、前記キャップ部材及び前記絶縁シートを用意するとともに、樹脂インサート成形によって前記封口板、前記端子、前記キャップ部材及び前記絶縁シートがなす隙間を前記樹脂製パッキングで埋めることにより、前記封口体を製造する工程と、
前記封口体を前記電池缶の開口部に配置して前記封口板の端部をレーザ溶接することで前記電池缶を封止する工程と
を含むことを特徴とする密閉型電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流保護機能を有するPTC素子を備えた密閉型電池用封口体、その封口体を装着した密閉型電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラやライトなどの携帯型電気機器の電源として、組電池が搭載されている。この種の組電池では、複数本の電池を直列に接続して大電流を流す構成となっており、その保護素子として、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子が用いられている(特許文献1,2等参照)。このPTC素子は、通常は低抵抗であるが、電池に大電流が流れて電池温度が上昇したときに、電気抵抗が増大する。従って、このPTC素子を用いれば、電気機器の故障時に回路素子等が短絡して大電流が流れたとしても、電池の電流を遮断することができる。
【0003】
また、リチウム一次電池などの密閉型電池では、電池缶の開口部にレーザ溶接により封口体を接続して電池を密閉封止するものが実用化されている。その封口体60の従来例を
図6に示す。
図6の封口体60は、封口板61と、封口板61の中央孔62に樹脂製パッキング63を介して装着される負極端子64と、負極端子64を固定するためのワッシャ65とを備えている。この封口体60では、負極端子64の下端部にワッシャ65を嵌めこんだ状態で負極端子54をリベット方式でかしめて樹脂製パッキング63を圧縮することで、密閉性を保ちつつ負極端子64が封口板61に固定されている。そして、電池缶の開口部に封口体60を嵌め込んで封口板61の外周部をレーザ溶接することにより、電池が封止される。
【0004】
上述した特許文献1,2では、電池の端子部に外付けされるタイプのPTC素子が開示されている。これに対して、本発明者らは、レーザ封口方式の封口体にPTC素子を内蔵した製品を検討している。その具体例を
図7に示す。
図7に示す封口体70では、負極端子71の上端に設けられたフランジ部72上に円板状のPTC素子73が配置されている。また、PTC素子73を取り囲むようにキャップ部材74を装着し、そのキャップ部材74とフランジ部72との間にPTC素子73を挟み込むことでPTC素子73を固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−340192号公報
【特許文献2】実開平1−81870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、
図7の構成の封口体70では、リベット方式で負極端子71をかしめる際に、負極端子71に大きな負荷が加わる。このため、負極端子71の上部にPTC素子73を装着する場合、その部品強度を十分に保つことができないという問題がある。
【0007】
また、
図7のようなレーザ封口方式の封口体70にPTC素子73を内蔵した製品を実現するにあたっては、安全性の向上を目的として、電池内圧の上昇時にその圧力を速やかに解放できるガス排出弁を設けることが望ましいと考えられる。その具体例としては、封口板61等の金属製部材に溝加工を施してノッチ弁を形成した構造などを挙げることができる。ただし、この構造を採用した場合には製造コストの上昇が避けられないことから、比較的低コストで実現できるガス排出弁の構造が望まれている。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、PTC素子を内蔵するとともに、電池内圧の上昇時にその圧力を速やかに解放することができる密閉型電池用封口体を提供することにある。また、別の目的は、PTC素子を内蔵した封口体を用いてより安全性の高い密閉型電池を提供することにある。さらに、別の目的は、製造コストを抑えることができる密閉型電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段[1]〜[6]を以下に列挙する。
【0010】
[1]電池缶の開口部を封止すべく
溶接部を介して前記開口部に装着
されてなる密閉型電池用封口体であって、前記開口部を塞ぐために設けられ、中央に貫通孔を有する金属製の封口板と、前記封口板の貫通孔に挿通され
、柱状の端子本体と、その端子本体における缶外側端部に突設されたフランジ部とを有する金属製の端子と、前記フランジ部
の上面に配置される板状のPTC素子と、
前記PTC素子上に重ねて配置されるとともに前記PTC素子を横方向から取り囲むように外周端が折り曲げられ、前記フランジ部との間に前記PTC素子を挟み込んで固定するキャップ部材と、前記キャップ部材と前記フランジ部との接触部位に介在される絶縁シート
と、前記封口板、前記端子、前記キャップ部材及び前記絶縁シートがなす隙間を埋める状態で形成された樹脂製パッキングとを備え、前記樹脂製パッキングにより前記封口板、前記端子、前記キャップ部材及び前記絶縁シートが一体的に固定され、前記端子本体は
、中空部を有する有底中空状でありかつ内圧解放用の樹脂製のガス排出弁を内蔵していることを特徴とする密閉型電池用封口体。
【0011】
従って、手段1に記載の発明によると、封口板、樹脂製パッキング、端子、PTC素子、キャップ部材、及び絶縁シートが一体的に形成される。この場合、従来技術のようなリベット方式で負極端子をかしめる必要がないため、PTC素子に大きな負荷を加えることなく、封口体にPTC素子を内蔵することができる。また、有底中空状の端子本体に内圧解放用の樹脂製のガス排出弁を内蔵しているため、電池内圧の上昇時にはガス排出弁が開放状態となり、圧力が速やかに解放される。よって、安全性をよりいっそう向上させることができる。しかも、樹脂製のガス排出弁を用いているため、金属製部材に対する溝加工が不要になり、製造コスト高を回避することができる。また、本発明の封口体は、従来技術のリベット方式の場合のようにワッシャを用いなくてもよいため、部品点数を減らすことができる。さらに、ワッシャの体積分だけ電池缶内の容量を確保することができる。このため、本発明の封口体を用いると、電池缶内における電解液や電極活物質を増量することができ、密閉型電池の放電特性を高めることができる。
【0012】
[2]手段1において、前記ガス排出弁は、前記端子本体の底部に透設されたガス排出孔を前記
中空部側から塞ぐ樹脂片であることを特徴とする密閉型電池用封口体。
【0013】
従って、手段2に記載の発明によると、電池内圧の上昇時には、樹脂片が裂けたり剥がれたりすること等により、閉塞されていたガス排出孔が開放状態となり、そのガス排出孔を介して、圧力が速やかに解放される。
【0014】
[3]手段1または2において、前記端子本体は、前記缶外側端部から缶内側端部に行くに従って径が大きくなるようテーパ状に形成されていることを特徴とする密閉型電池用封口体。
【0015】
従って、手段3に記載の発明によると、端子本体におけるテーパ状の部分が楔となることで封口板から端子が抜け難くなり、封口体の部品信頼性が向上する。
【0016】
[4]手段1乃至3のいずれか1項において、前記端子本体は、その軸方向から見て非円形状となるよう形成されていることを特徴とする密閉型電池用封口体。
【0017】
従って、手段4に記載の発明によると、端子本体が非円形状であるので、封口体における端子の回転を防止することができ、封止性が高められる。
【0018】
[5]手段1乃至4のいずれか1項に記載の密閉型電池用封口体を用いて電池缶の開口部を封止したことを特徴とする密閉型電池。
【0019】
従って、手段5に記載の発明によると、PTC素子の内蔵した封口体を用いて電池缶の開口部を確実に封止することができる。
【0020】
[6]手段1乃至4のいずれか1項に記載の密閉型電池用封口体
を構成する前記封口板、前記端子、前記キャップ部材及び前記絶縁シートを用意するとともに、樹脂インサート成形によって前記封口板、前記端子、前記キャップ部材及び前記絶縁シートがなす隙間を前記樹脂製パッキングで埋めることにより、前記封口体を製造する工程と、前記封口体を前記電池缶の開口部に配置して前記封口板の端部をレーザ溶接することで前記電池缶を封止する工程とを含むことを特徴とする密閉型電池の製造方法。
【0021】
従って、手段6に記載の発明によると、PTC素子を内蔵した封口体が樹脂インサート成形にて一体的に形成される。その後、封口体が電池缶の開口部に配置され、封口板の端部をレーザ溶接することで電池缶が封止される。このようにすると、密閉型電池の組み付け時における部品点数を少なくすることができる。また、密閉型電池の組み付け後にPTC素子を取り付ける必要がないため、密閉型電池の生産性が向上し、製造コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上詳述したように、手段1乃至4に記載の発明によると、PTC素子を内蔵するとともに、電池内圧の上昇時にその圧力を速やかに解放することができる密閉型電池用封口体を提供することができる。また、手段5に記載の発明によると、PTC素子を内蔵した封口体を用いてより安全性の高い密閉型電池を提供することができる。手段6に記載の発明によると、密閉型電池の製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施の形態のリチウム一次電池の概略構成を示す要部断面図。
【
図7】従来技術の封口体にPTC素子を内蔵した場合の例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は本実施の形態におけるリチウム一次電池10(密閉型電池)の概略構成を示す要部断面図である。
【0025】
図1に示されるように、リチウム一次電池10は、有底筒状の正極缶11(電池缶)と、その正極缶11内に非水電解液とともに収納される電極体12と、正極缶11の開口部13に装着される封口体15とを備える。
【0026】
正極缶11は、例えばステンレス鋼板を有底筒状にプレス成形することで作製されている。電極体12は、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して重ねられ、これらを巻回することで形成されている。正極21は、例えば二酸化マンガンを含んだ正極材を網目状に加工したステンレス板(正極集電体)に圧着し、それを帯状に切断することで形成される。負極22は、例えばリチウム−アルミニウム合金板を帯状に切断することで形成される。
【0027】
封口体15は、金属板(例えばステンレス鋼板)からなる封口板31と、樹脂製パッキング32と、負極端子33と、PTC素子34と、キャップ部材35と、絶縁リング36とを備えている。封口体15において、負極端子33の下端面にリード部材37が溶接されており、負極端子33はそのリード部材37を介して電極体12の負極22に電気的に接続されている。さらに、電極体12の正極21は、リード部材38を介して正極缶11の内側壁に電気的に接続されている。
【0028】
封口板31は、正極缶11の開口部13の形状に合わせて円板状に形成されており、その中央に貫通孔41が形成されている。封口板31の貫通孔41に樹脂製パッキング32を介して負極端子33が固定されている。
図1及び
図2に示されるように、負極端子33は、柱状の端子本体30と、その端子本体30における缶外側端部(
図1では上端部)に一体的に突設されたフランジ部42とを有する金属製の部材である。負極端子33における端子本体30は、貫通孔41の中央部に挿通されている。
【0029】
本実施形態の負極端子33における端子本体30は、缶外側端部にて開口する中空部30aを有するとともに、缶内側端部(
図1では下端部)を閉塞する底部30bを有している。つまり、この端子本体30は有底中空状をなしている。また、この端子本体30は、周方向への回転を規制して封口体15の封止性を高めるために、その軸方向から見て楕円形状(非円形状)となるよう形成されている(
図2参照)。楕円形状をなす端子本体30の長径に沿って切断した断面においては、端子本体30の外周面は、缶外側端部から缶内側端部に行くに従って径が大きくなるテーパ状をなしている(
図3参照)。楕円形状をなす端子本体30の短径に沿って切断した断面においては、端子本体30の外周面は、特にテーパ状をなしていない(
図4参照)。ここで、負極端子33は、例えば金属製の板材をプレス加工することで形成される。プレス加工によれば、楕円形状などの非円形状かつ中空状の端子本体30を有する負極端子33を比較的容易に形成することができる。
【0030】
樹脂製パッキング32は、負極端子33の外周面と貫通孔41の内周面との隙間を埋めるとともに、封口板31における貫通孔41の周囲部を覆うように円板状に形成されている。より詳しくは、樹脂製パッキング32は、封口板31において貫通孔41の周囲部における表面及び裏面を挟み込むようにして密着固定されている。
【0031】
PTC素子34は、素子表面及び素子裏面を有する円板状であり、その中央部に貫通孔45が形成されている。このPTC素子34は、正温度特性を有する導電性ポリマー材料を素子電極(具体的には、板状のニッケル電極)間に挟み込んだ構造を有し、温度が上昇することにより、抵抗値が増大する。
【0032】
キャップ部材35は、例えば、ニッケルめっき鋼板などの導電性材料を用いてキャップ状に形成されている。具体的には、キャップ部材35は、かしめ加工によって、PTC素子34を取り囲むように外周端が折り曲げられており、フランジ部42との間にPTC素子34を挟み込んで固定している。また、キャップ部材35とフランジ部42との嵌合部分、つまり、キャップ部材35の折曲がっている外周端の内側部分とフランジ部42の外周部分との間には、キャップ部材35と負極端子33とが直接接続しないように絶縁リング36が介在されている。絶縁リング36は、薄い絶縁シートを用いて円環に形成されており、断面L字状に折り曲げられた状態でキャップ部材35内に配置されている。この絶縁リング36を設けることによって、負極端子33とキャップ部材35とがPTC素子34を介して接続される。このようにすると、電池10の放電電流がPTC素子34を介して流れるため、PTC素子34によって過電流を防止することが可能となる。
【0033】
本実施の形態の封口体15において、フランジ部42とキャップ部材35との間に介在される絶縁リング36の内周端は、キャップ部材35の折り曲げられた外周端よりも内側に突出している。つまり、フランジ部42の下面において絶縁リング36の内周端とキャップ部材35の外周端とが段差状に配置されている。そして、キャップ部材35の外周端及び絶縁リング36の内周端とフランジ部42との間に形成される段差部分47が樹脂製パッキング32に埋まり込んでいる。封口体15は、樹脂のインサート成形によって各部材31,32,33,34,35,36が一体的に形成されている。そして、封口体15における封口板31の外周部が正極缶11の内周面に接触しており、その接触部がレーザ溶接によって接続されている。このように、封口体15が正極缶11の開口部13に装着されることで、リチウム一次電池10内が密閉封止される。
【0034】
図1〜
図4に示されるように、本実施形態の封口体15では、端子本体30の底部30bにおける略中央部に円形状のガス排出孔51が透設されている。また、底部30bの内面側には、例えばラミネート樹脂からなりガス排出孔51よりも一回り大きい樹脂片52(ガス排出弁)が接着剤等を用いて取り付けられている。その結果、樹脂片52によってガス排出孔51が底部33bの内面側から塞がれた状態となっている。
【0035】
次に、本実施の形態のリチウム一次電池10の製造方法について説明する。
【0036】
先ず、封口体15を樹脂のインサート成形により一体的に形成する。具体的には、プレス機を用いて金属製板材を押し潰すことにより、有底中空状の端子本体30とフランジ部42とを有する負極端子33を形成する。プレスの際に同時にガス排出孔51を形成してもよい。その後、ガス排出孔51は樹脂片52で閉塞しておく。また、円板状に打ち抜いた金属板を用意するとともに、絶縁シートを用いて円環に形成した絶縁リング36を用意する。さらに、PTC素子34を用意するとともに、封口板31を用意する。そして、負極端子33のフランジ部42の上面にPTC素子34を配置し、そのPTC素子34を覆うように金属板を配置する。その後、絶縁リング36をフランジ部42の裏面側に嵌め込み、金属板の外周縁をかしめてキャップ部材35を形成する。このように、キャップ部材35を負極端子33のフランジ部42に装着することにより、PTC素子34を固定する。なおここでは、PTC素子34の接続性を高めるために、素子表面とキャップ部材35との接触面及び素子裏面とフランジ部42との接触面をはんだや導電性接着剤等によって接続してもよい。
【0037】
次に、インサート成形用金型内の所定の位置に、PTC素子34及びキャップ部材35を装着した負極端子33と封口板31とを挿入する。そして、樹脂製パッキング32となる樹脂材料を金型内に注入してインサート成形を行い、封口体15を一体的に形成する。
【0038】
また、帯状に形成した正極21、負極22及びセパレータ23を用意し、正極21の端部及び負極22の端部にリード部材37,38を圧着する。そして、正極21と負極22とをセパレータ23を介して重ね合わせ、それらを巻回することで電極体12を形成する。さらに、電極体12を正極缶11内に収容し、正極21のリード部材38を正極缶11の内側壁に溶接接続するとともに、負極22のリード部材37を封口体15における負極端子33の下端面(即ち端子本体30の底部30bの外側面)に溶接接続する。本実施形態の場合、端子本体30の底部30bにはガス排出孔51があらかじめ形成されていることから、ガス排出孔51を塞がないようにそれを避けてリード部材37を溶接してもよい。あるいは、ガス排出孔51を塞がないようにリード部材37自体に貫通孔を設けるようにしてもよい。
【0039】
次に、正極缶11内に非水電解液を注入し、正極缶11の開口部13に封口体15を嵌め込む。その後、封口体15(封口板31)の外周部をレーザ溶接することで正極缶11を密閉封止する。以上の工程を経て
図1のリチウム一次電池10を製造する。
【0040】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0041】
(1)本実施の形態の封口体15は、樹脂のインサート成形によって一体的に形成されている。このように封口体15を形成すると、PTC素子34に大きな負荷を加えることなく、PTC素子34を内蔵することができる。また、有底中空状の端子本体30に内圧解放用の樹脂製のガス排出弁としての樹脂片52を内蔵しているため、電池内圧の上昇時には樹脂片52を上方に押し上げる力が作用する。そして、その内圧が所定値を超えると樹脂片52が裂け、閉塞状態であった弁が開放状態となる結果、圧力が速やかに解放される。よって、この封口体15を用いることで、リチウム一次電池10の安全性をよりいっそう向上させることができる。しかも、加工性やコスト性に優れた樹脂製の部材を弁体として用いていることから、金属製部材に対する溝加工が不要になり、製造コスト高を回避することができる。
(2)また、本実施の形態の封口体15では、キャップ部材35の外周端及び絶縁リング36の内周端とフランジ部42との間に形成される段差部分47が樹脂製パッキング32に埋まり込んでいる。それゆえ、端子軸方向の長さを短く形成することができる。さらに、封口体15において樹脂製パッキング32の接触面積が増えるため、封止性を十分に高めることができる。また、封口体15は、従来技術のリベット方式の場合のようにワッシャ55を用いなくてもよいため、部品点数を減らすことができる。さらに、ワッシャ55の体積分だけ正極缶11内の容量を確保することができるため、正極缶11内における電解液や電極活物質を増量でき、リチウム一次電池10の放電特性を高めることができる。
【0042】
(3)本実施の形態の封口体15では、端子本体30を有底中空状とし、その底部30bにガス排出孔51を透設し、そのガス排出孔51を塞ぐように底部30bの内面側に樹脂片52を接着して配置している。そして、この構成によると、端子本体30の内部に樹脂片52を設置可能なスペースができることになり、樹脂片52を容易に設けることができるという利点がある。また、ここで使用する樹脂片52は単純な形状の部材であるため、低コスト化に有利である。
(4)本実施の形態の封口体15において、負極端子33の端子本体30は、フランジ部42ある缶外側端部から缶内側端部に行くに従って径が大きくなるようテーパ状に形成されている。このように端子本体30を形成すると、テーパ状の側壁部分が楔となって負極端子33が抜け難くなり、封口体15の部品信頼性が向上する。
【0043】
(5)本実施の形態では、PTC素子34を内蔵した封口体15が一体的に形成されているので、電池組み付け時における部品点数を少なくすることができる。また、リチウム一次電池10の組み付け後にPTC素子34を取り付ける必要がないため、リチウム一次電池10の生産性が向上し、製造コストを抑えることができる。
【0044】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0045】
・上記実施の形態では、ガス排出弁として樹脂片52を用いたがこれに限定されず、他の形状を有するものとしてもよい。例えば、
図5に示す別の実施形態の封口体15Aのように、プラグ状の樹脂部材55をガス排出弁として用い、これを端子本体30の内面側からガス排出孔51に嵌着した構造としてもよい。この構成によると、電池内圧の上昇時にはプラグ状の樹脂部材55を上方に押し上げる力が作用する。そして、その内圧が所定値を超えるとプラグ状の樹脂部材55がガス排出孔51から外れ、閉塞状態であった弁が開放状態となる結果、圧力が速やかに解放される。
【0046】
・上記実施の形態の封口体15,15Aでは、負極端子33の端子本体30がその軸方向から見て楕円形状となるように形成されていたが、楕円形状以外の非円形状(三角形状、四角形状など)となるよう形成してもよい。また、端子本体30の外周面に凸部または凹部を設けて非円形状の端子とし、負極端子33の回転を規制するように構成してもよい。
【0047】
・上記実施の形態の封口体15,15Aでは、負極端子33,33Aのフランジ部42の上面側にPTC素子34を配置していたが、これに限定されるものではなく、例えばフランジ部42の下面側にPTC素子34を配置してもよい。
【0048】
・上記実施の形態では、リチウム一次電池10に具体化したが、ニッケル−水素電池やリチウム二次電池などの他の密閉型電池に具体化してもよい。
【0049】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0050】
(1)手段1乃至4のいずれか1項において、前記PTC素子は、中心部に貫通孔を有する円板状に形成されていることを特徴とする密閉型電池用封口体。
【0051】
(2)手段1乃至4のいずれか1項において、前記端子本体は、その軸方向から見て楕円形状となるよう形成されていることを特徴とする密閉型電池用封口体。
【0052】
(3)手段1乃至4のいずれか1項において、前記端子本体の外周面には、周方向の回転を規制するための凸部または凹部が設けられていることを特徴とする密閉型電池用封口体。
【0053】
(4)手段1乃至4のいずれか1項において、前記キャップ部材において折り曲げられた外周端と前記フランジ部との間に形成される段差部分が前記樹脂製パッキングに埋まり込んでいることを特徴とする密閉型電池用封口体。
【符号の説明】
【0054】
10…密閉型電池としてのリチウム一次電池
11…電池缶としての正極缶
13…開口部
15,15A…封口体
30…端子本体
30b…(端子本体の)底部
31…封口板
32…樹脂製パッキング
33…端子としての負極端子
34…PTC素子
35…キャップ部材
36…絶縁シートからなる絶縁リング
41…封口板の貫通孔
42…フランジ部
49…絶縁シート
51…ガス排出孔
52…ガス排出弁としての樹脂片
55…ガス排出弁としてのプラグ状の樹脂部材