(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記化合物(3)が、フッ素を含有するホウ酸誘導体、フッ素を含有するスルホン酸誘導体およびフッ素を含有するリン酸誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項8に記載の製造方法。
前記チタン含有化合物(1a)が、チタン錯体、並びに、チタンのリン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、酸ハロゲン化物、アルコキシド、ハロゲン化物、過ハロゲン酸塩および次亜ハロゲン酸塩からなる群から選ばれる1種類以上である請求項7〜10のいずれかに記載の製造方法。
前記窒素含有有機化合物(2)が、アミノ基、ニトリル基、イミド基、イミン基、ニトロ基、アミド基、アジド基、アジリジン基、アゾ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、オキシム基、ジアゾ基、ニトロソ基、ピロール環、ポルフィリン環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、およびピラジン環から選ばれる1種類以上を分子中に有する請求項7〜11のいずれかに記載の製造方法。
前記窒素含有有機化合物(2)が、水酸基、カルボキシル基、ホルミル基、ハロカルボニル基、スルホン酸基、リン酸基、ケトン基、エーテル基、およびエステル基から選ばれる1種類以上を分子中に有する請求項7〜12のいずれかに記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[酸素還元触媒]
本発明者は、遷移金属元素M1、炭素、窒素および酸素を構成元素として有する触媒の中で、チタンを遷移金属元素M1として有し、且つ特定のXRDパターンを有するものが、酸素還元触媒として高い耐久性を有することを見出した。
【0038】
具体的には、本発明の酸素還元触媒(以下、「触媒(A)」ともいう)は、
チタン、炭素、窒素および酸素を構成元素として有し、且つ、
Cu−Kα線を用いたXRD測定において、下記記載の2θ範囲を占める領域A〜D:
A:42°〜43°
B:36.5°〜37°
C:25°〜26°
D:27°〜28°
のうち、少なくとも領域AおよびBにそれぞれピークが存在し、且つ領域A〜Dにおける各最大ピーク強度I
A,I
B,I
CおよびI
Dが下記式(1)および(2)に記載の関係をともに満たすことを特徴としている。
【0039】
I
A>I
B ・・・ (1)
0.3≦(I
A/(I
A+I
C+I
D))≦1 ・・・ (2)
ここで、領域A,Bは、それぞれ、立方晶Ti化合物に基づく第一ピーク(以下「ピークA」と言うことがある。)および第二ピーク(以下「ピークB」と言うことがある。)が現れる領域に含まれる。領域C,Dは、それぞれ、アナターゼ型TiO
2に基づくピーク(以下「ピークC」と言うことがある。)およびルチル型TiO
2に基づくピーク(以下「ピークD」と言うことがある。)が現れる領域である。
【0040】
なお、1つの領域内にピークが複数存在する場合には、その中で強度が最大のピークを前記ピークA〜Dのいずれかとして採用すればよい。ただし、前記ピークにはノイズのピークは含めない。そのためにも、信号(S)とノイズ(N)の比(S/N比)が十分大きく、少なくともS/N比が2以上でピークA〜Dが検出されることが好ましい。
【0041】
本発明の触媒(A)は、チタン、炭素、窒素および酸素を構成元素として有するものであるところ、本発明者は、その結晶構造が、Ti化合物が取り得る結晶構造と類似のものであると考えている。したがって、本発明の触媒(A)において立方晶構造に基づくピークは、立方晶Ti化合物に基づくピークと同様の位置に現れると推測される。そこで、本発明では、立方晶Ti化合物に基づくピークと同様の位置に現れるピークの存在を以て、立方晶構造が存在していると規定している。具体的には、アナターゼ型構造やルチル型構造を有する部分に由来するピークとの判別が可能な上記領域A,Bに現れるピークが存在することを以て、立方晶構造が存在していると規定している。
【0042】
ただ、上記領域A,Bに現れうるピークの中には、立方晶構造以外の構造に基づくピークが含まれる場合もあり、上記領域A,Bのうちの1つの領域に着目した場合には、その領域内にピークが存在するからといって、立方晶構造に基づくピークが存在するとは必ずしも判断できない場合がある。そこで、本発明の触媒(A)が立方晶構造を有していれば、上記領域A,Bに現れるピークの最大強度I
AおよびI
Bは、I
A>I
Bの関係となる傾向がある点に着目して、立方晶構造に基づくピークをより確実に判定できるよう、上記式(1)を規定したのである。
【0043】
本発明の触媒(A)は、高い耐久性が得られる点から、立方晶構造のみからなるものであることが理想的ではあるものの、アナターゼ型構造やルチル型構造を有する部分が含まれる場合もある。ただ、その場合であっても、高い耐久性の観点から立方晶構造の割合が多いほど好ましい。ここで、アナターゼ型構造やルチル型構造に基づくピークのうち代表的なものは、それぞれ上記領域CおよびDに現れる。したがって、この点に着目して、本発明では、上記領域CおよびDに現れるピークの強度に対する上記領域Aに現れるピークの強度が一定以上であることを上記式(2)の形で規定することによって、立方晶構造を有する部分の割合が一定以上であることを規定している。
【0044】
ここで、本発明の触媒(A)において、(I
A/(I
A+I
C+I
D))の値は、具体的には0.3以上である。ただ、本発明の触媒(A)が燃料電池用電極触媒として用いられる場合、(I
A/(I
A+I
C+I
D))の値が1に近いほど、すなわち、本発明の触媒における立方晶構造の割合が多いほど、燃料電池使用時における単位時間あたりの電圧降下が小さくなる傾向にある。このことは、本発明の触媒(A)における立方晶構造の割合が多いほど、燃料電池用電極触媒としての耐久性が高いことを意味する。したがって、本発明の触媒においては、(I
A/(I
A+I
C+I
D))の値が0.6以上であると好ましく、さらに好ましくは0.7以上であり、特に好ましくは0.8以上である。
【0045】
以上の観点から、本発明では、上記式(1)および(2)に示した関係を満たすような構造を、「立方晶構造」と呼ぶことにする。
【0046】
また、前記触媒(A)を構成するチタン、炭素、窒素および酸素の原子数の比を、チタン:炭素:窒素:酸素=1:x:y:zと表すと、0.1<x≦7、0.01<y≦2、0.05<z≦3である。
【0047】
酸素還元触媒としての活性が高いことから、xの範囲は、好ましくは0.15≦x≦5.0、よりに好ましくは0.3≦x≦4であり、特に好ましくは0.6≦x≦3であり、yの範囲は、好ましくは0.05≦y≦1.5、より好ましくは0.2≦y≦1であり、特に好ましくは0.35≦y≦0.9であり、zの範囲は、好ましくは0.05≦z≦2.6であり、より好ましくは0.05≦z≦1.5であり、特に好ましくは0.05≦z≦0.6である。
【0048】
また前記触媒(A)は、必須の遷移金属元素M1であるチタンのほかに、任意で用いられる第2の遷移金属元素として、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンより選択される少なくとも1種の遷移金属元素M2を含むことが好ましい。その中でも、本発明の触媒を燃料電池用電極触媒として用いた燃料電池におけるセル電圧が向上することから、鉄、クロム、コバルトを含むとより好ましく、鉄を含むと特に好ましい。本発明の触媒がこのような遷移金属元素M2を含む場合には、前記触媒(A)を構成するチタン、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素の原子数の比を、チタン:遷移金属元素M2:炭素:窒素:酸素=1:a:x:y:zと表すと、好ましくは、0<a≦0.3、0.1<x≦7、0.01<y≦2、0.05<z≦3である。前記触媒(A)は、このように遷移金属元素M2を含むと、より性能が高くなる。
【0049】
酸素還元触媒としての活性が高いことから、x、yおよびzの好ましい範囲は上述のとおりであり、aの範囲は、より好ましくは0≦a≦0.3、さらに好ましくは0≦a≦0.2、特に好ましくは0≦a≦0.1である。
【0050】
前記a、x、yおよびzの値は、後述する実施例で採用した方法により測定した場合の値である。
【0051】
遷移金属元素M2(鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンより選択される少なくとも1種の金属元素)が存在することにより、触媒(A)の性能が向上する理由は以下のように推測される。
【0052】
(1)遷移金属元素M2または遷移金属元素M2を含む化合物が、酸素還元触媒を合成する際に、チタン原子と窒素原子との結合を形成するための触媒として作用している。
【0053】
(2)チタンが溶出するような高電位、高酸化性雰囲気下で酸素還元触媒を使用する場合であっても、遷移金属元素M2が不動態化することによって、チタンのさらなる溶出を防ぐ。
【0054】
(3)後述する製造方法における工程3の熱処理の際に、熱処理物の焼結、すなわち比表面積の低下を防ぐ。
【0055】
(4)酸素還元触媒中にチタン、遷移金属元素M2および存在することによって、双方の金属元素原子が隣接しあう部位において、電荷の偏りが生じ、金属元素として遷移金属元素M1のみを有する酸素還元触媒ではなしえない、基質の吸着もしくは反応、または生成物の脱離が発生する。
【0056】
本発明の触媒(A)は、チタン、および好ましくはチタン以外の遷移金属元素を有すると共に、炭素、窒素および酸素の各原子を有し、前記遷移金属元素の酸化物、炭化物または窒化物単独あるいはこれらのうちの複数から構成される立方晶構造を有する。前記触媒(A)に対するX線回折分析による結晶構造解析の結果と、元素分析の結果とから判断すると、前記触媒は、前記遷移金属元素の酸化物構造を有したまま、酸化物構造の酸素原子のサイトを炭素原子または窒素原子で置換した構造、あるいは前記遷移金属元素の炭化物、窒化物または炭窒化物の構造を有したまま、炭素原子または窒素原子のサイトを酸素原子で置換した構造を有するか、あるいはこれらの構造を含む混合物ではないかと推測される。
【0057】
[酸化還元触媒の製造方法]
本発明は、上述した触媒(A)の製造方法をも提供する。
【0058】
すなわち、本発明の酸化還元触媒の製造方法は、
上述の触媒(A)を製造する方法であって、
工程1:少なくともチタン含有化合物(1a)、窒素含有有機化合物(2)および溶媒を混合して溶液(本明細書において「触媒前駆体溶液」とも記す。)を得る工程、
工程2:前記触媒前駆体溶液から溶媒を除去して固形分残渣を得る工程、および
工程3:前記工程2で得られた固形分残渣を900℃〜1400℃の温度で熱処理して酸素還元触媒を得る工程
を含む(ただし、混合される成分のいずれかは、酸素原子を含む。)。
【0059】
なお本明細書において、特段の事情がない限り、原子およびイオンを、厳密に区別することなく「原子」と記載する。
【0060】
(工程1)
工程1では、少なくとも遷移金属含有化合物(1)、窒素含有有機化合物(2)および溶媒を混合して触媒前駆体溶液を得る。ここで、遷移金属含有化合物(1)を構成する遷移金属元素は、必須の遷移金属元素としての第1の遷移金属元素M1と、任意で用いられる第2の遷移金属元素M2とに大別されるところ、本発明では、この第1の遷移金属元素M1としてチタンが用いられる。したがって、本発明において、工程1では、少なくともチタン含有化合物(1a)、窒素含有有機化合物(2)および溶媒を混合して触媒前駆体溶液を得ることになる。
【0061】
ここで、この触媒前駆体溶液を得る際に、第2の遷移金属元素M2を含有する化合物として、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M2を含有する化合物(1b)(以下、「第2の遷移金属含有化合物(1b)」、あるいは、単に「化合物(1b)」ともいう。)をさらに添加することができるし、ホウ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Aとフッ素とを含有する化合物(3)(以下、単に「化合物(3)」ともいう。)をさらに添加してもよい。
【0062】
なお、本明細書においては、以下、「遷移金属含有化合物(1)」という語を、「チタン含有化合物(1a)」および「鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M2を含有する化合物(1b)」を包含する意味で用いる。
【0063】
混合の手順としては、たとえば、
手順(i):1つの容器に溶媒を準備し、そこへ遷移金属含有化合物(1)、窒素含有有機化合物(2)、および該当する場合には前記化合物(3)を添加し、溶解させて、これらを混合する、
手順(ii):遷移金属含有化合物(1)の溶液と、窒素含有有機化合物(2)の溶液、あるいは窒素含有有機化合物(2)と前記化合物(3)との溶液とを準備し、これらを混合する
が挙げられる。
【0064】
各成分に対して溶解性の高い溶媒が異なる場合には、手順(ii)が好ましい。また、前記遷移金属含有化合物(1)が、たとえば、後述する金属ハロゲン化物の場合には、手順(i)が好ましく、前記遷移金属含有化合物(1)が、たとえば、後述する金属アルコキシドまたは金属錯体の場合には、手順(ii)が好ましい。
【0065】
前記遷移金属含有化合物(1)としてチタン含有化合物(1a)および第2の遷移金属含有化合物(1b)を用いる場合の、前記手順(ii)における好ましい手順としては、
手順(ii'):チタン含有化合物(1a)の溶液と、第2の遷移金属含有化合物(1b)および窒素含有有機化合物(2)の溶液、あるいは、第2の遷移金属含有化合物(1b)、窒素含有有機化合物(2)および化合物(3)の溶液とを準備し、これらを混合するが挙げられる。
【0066】
混合操作は、溶媒への各成分の溶解速度を高めるために、撹拌しながら行うことが好ましい。
【0067】
遷移金属含有化合物(1)の溶液と窒素含有有機化合物(2)の溶液とを混合する場合
には、一方の溶液に対して他方の溶液を、ポンプ等を用いて一定の速度で供給することが
好ましい。
【0068】
また、窒素含有有機化合物(2)の溶液、または窒素含有有機化合物(2)と化合物(3)との溶液へ、チタン含有化合物(1a)の溶液を少量ずつ添加する(すなわち、全量を一度に添加しない。)ことも好ましい。遷移金属含有化合物(1)として第2の遷移金属含有化合物(1b)を併用する場合であれば、窒素含有有機化合物(2)および第2の遷移金属含有化合物(1b)の溶液、または前記窒素含有有機化合物(2)、化合物(3)および第2の遷移金属含有化合物(1b)の溶液へ、チタン含有化合物(1a)の溶液を少量ずつ添加する(すなわち、全量を一度に添加しない。)ことも好ましい。
【0069】
前記触媒前駆体溶液には遷移金属含有化合物(1)と窒素含有有機化合物(2)との反応生成物が含まれると考えられる。溶媒へのこの反応生成物の溶解度は、遷移金属含有化合物(1)、窒素含有有機化合物(2)および溶媒等の組み合わせによっても異なる。
【0070】
このため、たとえば遷移金属含有化合物(1)が金属アルコキシドまたは金属錯体の場合には、前記触媒前駆体溶液は、溶媒の種類、窒素含有有機化合物(2)の種類にもよるが、好ましくは沈殿物や分散質を含まず、含むとしてもこれらは少量(たとえば溶液全量の10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下。)である。また、前記触媒前駆体溶液は、好ましくは澄明であり、JIS K0102に記載された液体の透視度の測定法において測定された値が、好ましくは1cm以上、より好ましくは2cm以上、さらに好ましくは5cm以上である。
【0071】
一方、たとえば遷移金属含有化合物(1)が金属ハロゲン化物の場合には、前記触媒前駆体溶液中には、溶媒の種類、窒素含有有機化合物(2)の種類にもよるが、遷移金属含有化合物(1)と窒素含有有機化合物(2)との反応生成物と考えられる沈殿物が生じやすい。
【0072】
工程1では、オートクレーブ等の加圧可能な容器に遷移金属含有化合物(1)、窒素含有有機化合物(2)、溶媒を入れ、常圧以上の圧力をかけながら、混合を行ってもよい。
【0073】
遷移金属含有化合物(1)と窒素含有有機化合物(2)と溶媒とを混合する際の温度は、好ましくは、0〜60℃である。遷移金属含有化合物(1)と窒素含有有機化合物(2)とから錯体が形成されると推測されるところ、この温度が過度に高いと、溶媒が水を含む場合に錯体が加水分解され水酸化物の沈殿を生じ、優れた触媒が得られないおそれがある。逆に、この温度が過度に低いと、錯体が形成される前に遷移金属含有化合物(1)が析出してしまい、優れた触媒が得られない場合がある。
【0074】
<遷移金属含有化合物(1)>
遷移金属含有化合物(1)の一部または全部は、遷移金属元素M1を含有する化合物としてのチタン含有化合物(1a)である。すなわち、本発明では、前記遷移金属元素M1として、コストおよび得られる触媒の性能の観点から、チタンが用いられる。
【0075】
前記チタン含有化合物(1a)は、好ましくは、酸素原子およびハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種を有しており、その具体例としては、チタン錯体、並びに、チタンのリン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、酸ハロゲン化物(ハロゲン化物の中途加水分解物)、アルコキシド、ハロゲン化物、過ハロゲン酸塩および次亜ハロゲン酸塩が挙げられる。その中でも、酸素原子を有するチタン含有化合物が好ましく用いられる。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0076】
酸素原子を有するチタン含有化合物(1a)としては、チタンのアルコキシド、アセチルアセトン錯体、酸塩化物および硫酸塩が好ましく、コストの面から、アルコキシド、アセチルアセトン錯体がより好ましく、前記液相中の溶媒への溶解性の観点から、アルコキシド、アセチルアセトン錯体がさらに好ましい。
【0077】
前記チタンのアルコキシドとしては、チタンのメトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、エトキシド、ブトキシド、およびイソブトキシドが好ましく、その中でもイソプロポキシド、エトキシドおよびブトキシドがより好ましい。前記チタンのアルコキシドは、1種のアルコキシ基を有していてもよく、2種以上のアルコキシ基を有していてもよい。
【0078】
前記チタンのハロゲン化物としては、チタンの塩化物、臭化物およびヨウ化物が好ましく、前記チタンの酸ハロゲン化物としては、チタンの酸塩化物、酸臭化物、酸ヨウ化物が好ましい。
【0079】
チタンの過ハロゲン酸塩としてはチタンの過塩素酸塩が好ましく、チタンの次亜ハロゲン酸塩としてはチタンの次亜塩素酸塩が好ましい。
【0080】
前記チタン含有化合物(1a)の具体例としては、
チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラペントキシド、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンオキシジアセチルアセトナート、トリス(アセチルアセトナト)第二チタン塩化物([Ti(acac)
3]
2[TiCl
6])、四塩化チタン、三塩化チタン、オキシ塩化チタン、四臭化チタン、三臭化チタン、オキシ臭化チタン、四ヨウ化チタン、三ヨウ化チタン、オキシヨウ化チタン等のチタン化合物が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0081】
これらの化合物の中でも、得られる触媒が均一な粒径の微粒子となり、その活性が高いことから、
チタンテトラエトキシド、四塩化チタン、オキシ塩化チタン、チタンテトライソプロポキシド、およびチタンテトラアセチルアセトナートが好ましく、チタンテトライソプロポキシド、およびチタンテトラアセチルアセトナートがより好ましい。
【0082】
また、前記遷移金属含有化合物(1)として、上記チタン含有化合物(1a)と共に、任意で用いられる遷移金属元素として、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M2を含有する化合物(1b)(すなわち、「第2の遷移金属含有化合物(1b)」)が併用されてもよい。第2の遷移金属含有化合物(1b)を用いると、得られる触媒の性能が向上する。
【0083】
触媒のXPSスペクトルの観察から、第2の遷移金属含有化合物(1b)を用いると、遷移金属元素M1(たとえばチタン)と窒素原子との結合形成が促進され、その結果、触媒の性能が向上するのではないかと推測される。
【0084】
第2の遷移金属含有化合物(1b)中の遷移金属元素M2としては、コストと得られる触媒の性能とのバランスの観点から、鉄およびクロムが好ましく、鉄が特に好ましい。
【0085】
第2の遷移金属含有化合物(1b)の具体例としては、
塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硫化鉄(II)、硫化鉄(III)、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェリシアン化アンモニウム、フェロシアン化鉄、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、リン酸鉄(II)、リン酸鉄(III)フェロセン、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、四酸化三鉄、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、クエン酸鉄(III)等の鉄化合物;
塩化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、硫化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、シュウ酸ニッケル(II)、リン酸ニッケル(II)、ニッケルセン、水酸化ニッケル(II)、酸化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、乳酸ニッケル(II)等のニッケル化合物;
塩化クロム(II)、塩化クロム(III)、硫酸クロム(III)、硫化クロム(III)、硝酸クロム(III)、シュウ酸クロム(III)、リン酸クロム(III)、水酸化クロム(III)、酸化クロム(II)、酸化クロム(III)、酸化クロム(IV)、酸化クロム(VI)、酢酸クロム(II)、酢酸クロム(III)、乳酸クロム(III)等のクロム化合物;
塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、硫酸コバルト(II)、硫化コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硝酸コバルト(III)、シュウ酸コバルト(II)、リン酸コバルト(II)、コバルトセン、水酸化コバルト(II)、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、四酸化三コバルト、酢酸コバルト(II)、乳酸コバルト(II)等のコバルト化合物;
塩化バナジウム(II)、塩化バナジウム(III)、塩化バナジウム(IV)、オキシ硫酸バナジウム(IV)、硫化バナジウム(III)、オキシシュウ酸バナジウム(IV)、バナジウムメタロセン、酸化バナジウム(V)、酢酸バナジウム、クエン酸バナジウム等のバナジウム化合物;
塩化マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、硫化マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、シュウ酸マンガン(II)、水酸化マンガン(II)、酸化マンガン(II)、酸化マンガン(III)、酢酸マンガン(II)、乳酸マンガン(II)、クエン酸マンガン等のマンガン化合物
が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0086】
これらの化合物の中でも、
塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェリシアン化アンモニウム、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、
塩化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、乳酸ニッケル(II)、
塩化クロム(II)、塩化クロム(III)、酢酸クロム(II)、酢酸クロム(III)、乳酸クロム(III)、
塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、酢酸コバルト(II)、乳酸コバルト(II)、
塩化バナジウム(II)、塩化バナジウム(III)、塩化バナジウム(IV)、オキシ硫酸バナジウム(IV)、酢酸バナジウム、クエン酸バナジウム、
塩化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、乳酸マンガン(II)が好ましく、
塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェリシアン化アンモニウム、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、塩化クロム(II)、塩化クロム(III)、酢酸クロム(II)、酢酸クロム(III)、乳酸クロム(III)がさらに好ましい。
【0087】
<窒素含有有機化合物(2)>
本発明の製造方法で用いられる窒素含有有機化合物(2)としては、前記遷移金属含有化合物(1)中の金属原子に配位可能な配位子となり得る化合物(好ましくは、単核の錯体を形成し得る化合物)が好ましく、多座配位子(好ましくは、2座配位子または3座配位子)となり得る(キレートを形成し得る)化合物がさらに好ましい。
【0088】
前記窒素含有有機化合物(2)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
前記窒素含有有機化合物(2)は、好ましくは、アミノ基、ニトリル基、イミド基、イミン基、ニトロ基、アミド基、アジド基、アジリジン基、アゾ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、オキシム基、ジアゾ基、ニトロソ基などの官能基、またはピロール環、ポルフィリン環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環などの環(これらの官能基および環をまとめて「含窒素分子団」ともいう。)を有する。
【0090】
前記窒素含有有機化合物(2)は、含窒素分子団を分子内に有すると、工程1での混合を経て、前記遷移金属含有化合物(1)に由来する遷移金属原子により強く配位することができると考えられる。
【0091】
前記含窒素分子団の中では、アミノ基、イミン基、アミド基、ピロール環、ピリジン環およびピラジン環がより好ましく、アミノ基、イミン基、ピロール環およびピラジン環がさらに好ましく、アミノ基およびピラジン環が、得られる触媒の活性が特に高くなることから、特に好ましい。
【0092】
前記窒素含有有機化合物(2)(ただし、酸素原子を含まないもの。)の具体例としては、メラミン、エチレンジアミン、トリアゾール、アセトニトリル、アクリロニトリル、エチレンイミン、アニリン、ピロール、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、これらは塩であってもよい。これらの中でも、得られる触媒の活性が高いことからエチレンジアミンおよびその塩が好ましい。
【0093】
前記窒素含有有機化合物(2)は、好ましくは、水酸基、カルボキシル基、ホルミル基、ハロカルボニル基、スルホン酸基、リン酸基、ケトン基、エーテル基またはエステル基(これらをまとめて「含酸素分子団」ともいう。)を有する。前記窒素含有有機化合物(2)は、含酸素分子団を分子内に有すると、工程1での混合を経て、前記遷移金属含有化合物(1)に由来する遷移金属原子により強く配位できると考えられる。
【0094】
前記含酸素分子団の中では、カルボキシル基およびホルミル基が、得られる触媒の活性が特に高くなることから、特に好ましい。
【0095】
分子中に酸素原子を含む前記窒素含有有機化合物(2)としては、前記含窒素分子団および前記含酸素分子団を有する化合物が好ましい。このような化合物は、工程1を経て、前記遷移金属含有化合物(1)に由来する遷移金属原子に特に強く配位できると考えられる。
【0096】
前記含窒素分子団および前記含酸素分子団を有する化合物としては、アミノ基およびカルボキシル基を有するアミノ酸、ならびにその誘導体が好ましい。
【0097】
前記アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ノルバリン、グリシルグリシン、トリグリシンおよびテトラグリシンが好ましく、得られる触媒の活性が高いことから、アラニン、グリシン、リシン、メチオニン、チロシンがより好ましく、得られる触媒が極めて高い活性を示すことから、アラニン、グリシンおよびリシンが特に好ましい。
【0098】
分子中に酸素原子を含む前記窒素含有有機化合物(2)の具体例としては、上記アミノ酸等に加えて、アセチルピロールなどのアシルピロール類、ピロールカルボン酸、アセチルイミダゾールなどのアシルイミダゾール類、カルボニルジイミダゾール、イミダゾールカルボン酸、ピラゾール、アセトアニリド、ピラジンカルボン酸、ピペリジンカルボン酸、ピペラジンカルボン酸、モルホリン、ピリミジンカルボン酸、ニコチン酸、2−ピリジンカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、8−キノリノール、およびポリビニルピロリドンが挙げられ、得られる触媒の活性が高いことから、2座配位子となり得る化合物、具体的にはピロール−2−カルボン酸、イミダゾール−4−カルボン酸、2−ピラジンカルボン酸、2−ピペリジンカルボン酸、2−ピペラジンカルボン酸、ニコチン酸、2−ピリジンカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、および8−キノリノールが好ましく、2−ピラジンカルボン酸、および2−ピリジンカルボン酸がより好ましい。
【0099】
工程1で用いられる前記遷移金属含有化合物(1)の遷移金属元素の総原子数Aに対する、工程1で用いられる前記窒素含有有機化合物(2)の炭素の総原子数Bの比(B/A)は、工程3での熱処理時に二酸化炭素、一酸化炭素等の炭素化合物として脱離する成分を少なくすることが可能であり、すなわち触媒製造時に排気ガスを少量とすることができることから、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、さらに好ましくは80以下、特に好ましくは50以下であり、良好な活性の触媒を得るという観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、特に好ましくは5以上である。
【0100】
工程1で用いられる前記遷移金属含有化合物(1)の遷移金属元素の総原子数Aに対する、工程1で用いられる前記窒素含有有機化合物(2)の窒素の総原子数Cの比(C/A)は、良好な活性の触媒を得るという観点から、好ましくは28以下、より好ましくは17以下、さらに好ましくは12以下、特に好ましくは8.5以下であり、良好な活性の触媒を得るという観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3以上、特に好ましくは3.5以上である。例えば、前記遷移金属含有化合物(1)として1分子あたりに遷移金属元素を1つ含む化合物を用いるとともに、前記の窒素含有有機化合物(2)として1分子あたりに窒素を1つ含む化合物を用いる場合、当該遷移金属含有化合物(1)1モルに対して、当該窒素含有有機化合物(2)を上記(C/A)モルの割合で用いればよい。
【0101】
工程1で用いられる前記チタン含有化合物(1a)と前記第2の遷移金属含有化合物(1b)との割合を、チタン原子と遷移金属元素M2の原子とのモル比(M1:M2)に換算して、M1:M2=1:aと表わすと、aの範囲は、好ましくは0≦a≦0.3、さらに好ましくは0≦a≦0.2、特に好ましくは0≦a≦0.1である。例えば、前記遷移金属含有化合物(1)として、1分子あたりにチタンを1つ含む前記チタン含有化合物(1a)と、1分子あたりに遷移金属元素M2を1つ含む第2の遷移金属含有化合物(1b)とを用いる場合、当該チタン含有化合物(1a)1モルに対して、第2の遷移金属含有化合物(1b)を上記aモルの割合で用いればよい。
【0102】
<化合物(3)>
本発明の触媒の製造方法では、必要に応じて、ホウ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Aとフッ素とを含有する化合物(3)を併用することができる。本発明において化合物(3)を用いると、さらに高い触媒活性を有する酸素還元触媒が製造される。
【0103】
ホウ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Aとフッ素とを含有する化合物(3)の具体例としては、フッ素を含有するホウ酸誘導体、フッ素を含有するリン酸誘導体、フッ素を含有するスルホン酸誘導体が挙げられる。
【0104】
前記フッ素を含有するホウ酸誘導体としては、たとえば、
テトラフルオロホウ酸四級アンモニウム塩(たとえば、テトラフルオロホウ酸テトラ−n−ブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラメチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラプロピルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸エチルトリメチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸ジエチルジメチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸トリエチルメチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸メチルトリプロピルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸エチルトリプロピルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸トリメチルプロピルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸エチルジメチルプロピルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸ジエチルメチルプロピルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸トリエチルプロピルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸ジメチルジプロピルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸エチルメチルジプロピルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸ジエチルジプロピルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸トリメチルブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸エチルジメチルブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸ジエチルメチルブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸トリエチルブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸トリプロピルブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸ジメチルジブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸エチルメチルジブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸ジエチルジブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸へキシルトリメチルアンモニウム(前記プロピルはn−プロピル、i−プロピルを含み、前記ブチルはn−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチルを含む。))、
テトラフルオロホウ酸四級ピリジニウム塩(たとえば、テトラフルオロホウ酸ピリジニウム、テトラフルオロホウ酸1−メチルピリジニウム、テトラフルオロホウ酸2−ブロモ−1−エチルピリジニウム、テトラフルオロホウ酸1−ブチルピリジニウム)、
テトラフルオロホウ酸四級イミダゾリウム塩(たとえば、テトラフルオロホウ酸1,3−ジメチルイミダゾリウム、テトラフルオロホウ酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、テトラフルオロホウ酸1,3−ジエチルイミダゾリウム、テトラフルオロホウ酸1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウム、テトラフルオロホウ酸1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム、テトラフルオロホウ酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム)、
アルキル基の水素原子の全部または一部がフッ素原子で置換されたフルオロアルキルホウ酸(たとえば、ノナコサ
フルオロテトラデシルホウ酸、ヘプタコサ
フルオロトリデシルホウ酸、ペンタコサ
フルオロドデシルホウ酸、トリコサ
フルオロウンデシルホウ酸、ヘンイコサ
フルオロデシルホウ酸、ノナデカフルオロノニルホウ酸、ヘプタデカフルオロオクチルホウ酸、ペンタデカフルオロヘプチルホウ酸、トリデカフルオロヘキシルホウ酸、ウンデカフルオロペンチルホウ酸、ノナフルオロブチルホウ酸、ヘプタフルオロプロピルホウ酸、ペンタフルオロエチルホウ酸、トリフルオロメチルホウ酸および2,2,2−トリフルオロエチルホウ酸)
前記フルオロアルキルホウ酸のモノエステルおよびジエステル(たとえば、メチルエステル、エチルエステル)、および
前記フルオロアルキルホウ酸の塩(たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、メチルアンモニウム塩、ジメチルアンモニウム塩、トリメチルアンモニウム塩、およびトリエチルアンモニウム塩)、
が挙げられる。
【0105】
前記フッ素を含有するリン酸誘導体としては、
ヘキサフルオロリン酸塩、たとえば、ヘキサフルオロリン酸四級アンモニウム塩(たとえば、ヘキサフルオロリン酸テトラ‐n‐ブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸テトラメチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸テトラエチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸テトラプロピルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸エチルトリメチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸ジエチルジメチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸トリエチルメチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸メチルトリプロピルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸エチルトリプロピルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸トリメチルプロピルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸エチルジメチルプロピルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸ジエチルメチルプロピルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸トリエチルプロピルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸ジメチルジプロピルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸エチルメチルジプロピルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸ジエチルジプロピルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸トリメチルブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸エチルジメチルブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸ジエチルメチルブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸トリエチルブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸トリプロピルブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸ジメチルジブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸エチルメチルジブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸ジエチルジブチルアンモニウム、テトラフルオロリン酸へキシルトリメチルアンモニウム(前記プロピルはn−プロピル、i−プロピル、前記ブチルはn−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチルを含む。)、
ヘキサフルオロリン酸四級ピリジニウム塩(たとえば、ヘキサフルオロリン酸ピリジニウム、ヘキサフルオロリン酸1−メチルピリジニウム、ヘキサフルオロリン酸2−ブロモ−1−エチルピリジニウム)、
テトラフルオロリン酸四級イミダゾリウム塩(たとえば、テトラフルオロリン酸1,3−ジメチルイミダゾリウム、テトラフルオロリン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、テトラフルオロリン酸1,3−ジエチルイミダゾリウム、テトラフルオロリン酸1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウム、テトラフルオロリン酸1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム、テトラフルオロリン酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム)、
ヘキサフルオロリン酸、
前記ヘキサフルオロリン酸の塩(たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム(たとえば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、およびトリエチルアンモニウム)塩)
一般式:(RO)
nP=Oで表わされるフルオロアルキルリン酸エステル(式中、nは1〜3であり、Rはアルキル基の水素原子の全部または一部がフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基(たとえば、ノナコサ
フルオロテトラデシル基
、ヘプタコサ
フルオロトリデシル基、ペンタコサ
フルオロドデシル基、トリコサ
フルオロウンデシル基、ヘンイコサ
フルオロデシル基、ノナデカフルオロノニル基、ヘプタデカフルオロオクチル基、ペンタデカフルオロヘプチル基、トリデカフルオロヘキシル基、ウンデカフルオロペンチル基、ノナフルオロブチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ペンタフルオロエチル基、トリフルオロメチル基および2,2,2−トリフルオロエチル基)
一般式:(RN)
3P=O、(RN)
2P=O(OH)、または(RN)P=O(OH)
2(式中、Rは前記フルオロアルキル基を表す。)で表されるフルオロアルキルリン酸アミド、
一般式(RO)
3P、(RO)
2(OH)P、または(RO)(OH)
2P(式中、前記フルオロアルキル基を表す。)で表わされるフルオロアルキル亜リン酸、
一般式(RN)
3P、(RN)
2P(OH)、(RN)P(OH)
2(式中、Rは前記フルオロアルキル基を表す。)で表わされるフルオロアルキル亜リン酸アミド、
一般式:RPO(OH)
2(式中、Rは前記フルオロアルキル基を表す。)で表わされるフルオロアルキルホスホン酸
が挙げられる。
【0106】
前記フッ素を含有するスルホン酸誘導体としては、
アルキル基の水素原子の全部または一部がフッ素原子で置換されたフルオロアルキルスルホン酸(炭素原子数は、たとえば1〜30である。)(たとえば、ノナコサ
フルオロテトラデシルスルホン酸
、ヘプタコサ
フルオロトリデシルスルホン酸、ペンタコサ
フルオロドデシルスルホン酸、トリコサ
フルオロウンデカンスルホン酸、ヘンイコサ
フルオロデシルスルホン酸、ノナデカフルオロノニルスルホン酸、ヘプタデカフルオロオクチルスルホン酸、ペンタデカフルオロヘプチルスルホン酸、トリデカフルオロヘキシルスルホン酸、ウンデカフルオロペンチルスルホン酸、ノナフルオロブチルスルホン酸、ヘプタフルオロプロピルスルホン酸、ペンタフルオロエチルスルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸および2,2,2−トリフルオロエチルスルホン酸)
前記フルオロアルキルスルホン酸のエステル(たとえば、メチルエステル、エチルエステル、アリールエステル(例えば、フェニルエステル))
前記フルオロアルキルスルホン酸の塩(一般式:A[RSO
3]、Rは前記フルオロアルキル基を表す。)(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム(たとえば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、およびトリエチルアンモニウム)塩)、
前記フルオロアルキルスルホン酸のアミド(一般式:R−SO
2−NR
1R
2、Rは前記フルオロアルキル基を、R
1およびR
2はそれぞれ独立に、水素原子の全部または一部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜10の炭化水素基(たとえば、メチル基、エチル基、フェニル基)を表す。)、
前記フルオロアルキルスルホン酸の酸無水物(一般式:(R−SO
2)
2O、Rは前記フルオロアルキル基を表す。)
が挙げられる。
【0107】
前記フッ素を含有するスルホン酸誘導体の市販製品としては、例えばナフィオン(NAFION(登録商標))が挙げられる。
【0108】
これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0109】
本発明においては、得られる酸素還元触媒を燃料電池用電極触媒として用いたときの燃料電池におけるセル電圧が向上することから、このような化合物(3)の中でも、tetrafluoroethyleneとperfluoro[2-(fluorosulfonylethoxy)propylvinyl ether]との共重合体が特に好ましい。
【0110】
工程(1)で用いられる前記化合物(3)に含まれる元素Aの量は、工程(1)で用いられる前記チタン含有化合物(1a)中のチタン原子1モルに対して、通常0.01〜3モル、好ましくは0.01〜2モル、さらに好ましくは0.01〜1モルである。
【0111】
元素Aがホウ素のみの場合には、その量は、上記基準で通常0.01〜3モル、好ましくは0.01〜2モル、さらに好ましくは0.01〜1モルであり、元素Aがリンのみの場合には、その量は、上記基準で通常0.01〜3モル、好ましくは0.01〜2モル、さらに好ましくは0.01〜1モルであり、元素Aが硫黄のみの場合には、その量は、上記基準で通常0.01〜3モル、好ましくは0.01〜2モル、さらに好ましくは0.01〜1モルである。
【0112】
また化合物(3)に含まれるフッ素の量は、前記チタン含有化合物(1a)中のチタン原子1モルに対して、通常0.01〜5モル、好ましくは0.02〜4モル、さらに好ましくは0.03〜3モルである。
【0113】
上記の化合物(3)の量は、前記工程(1)で用いられる化合物(3)以外の原料が元素Aもフッ素も含まない場合の量であり、化合物(3)以外の原料が元素Aまたはフッ素を含む場合には、工程(1)における化合物(3)の使用量を適宜減らすことが好ましい。
【0114】
<溶媒>
前記溶媒としては、たとえば水、酢酸、およびアルコール類が挙げられる。アルコール類としては、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノールおよびエトキシエタノールが好ましく、エタノールおよびメタノールがさらに好ましい。溶解性を増すために、前記溶媒に酸を含有させることが好ましく、酸としては、酢酸、硝酸、塩酸、リン酸およびクエン酸が好ましく、酢酸および硝酸がさらに好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0115】
<沈殿抑制剤>
工程1では沈殿抑制剤を用いてもよい。前記遷移金属M1含有化合物に由来する沈殿の発生を抑制しつつ、澄明な触媒前駆体溶液を得ることができる。前記遷移金属M1含有化合物がハロゲン原子を含む場合であって、かつ前記溶媒として水を単独でまたは水とアルコール類とを併用する場合には、沈殿抑制剤として塩酸等の強酸を添加することが好ましい。
【0116】
前記遷移金属M1含有化合物が金属錯体であって、かつ前記溶媒として水を単独でまたは水と他の化合物とを用いる場合には、沈殿抑制剤としてジケトン構造を有する化合物が好ましく、ジアセチル、アセチルアセトン、2,5−ヘキサンジオンおよびジメドンがより好ましい。
【0117】
前記沈殿抑制剤は、工程1の中でのいずれの段階で添加されてもよい。
【0118】
これらの沈殿抑制剤は、遷移金属含有化合物溶液(前記遷移金属含有化合物(1)を含有し、前記窒素含有有機化合物(2)および前記化合物(3)を含有しない溶液)100質量%中に好ましくは1〜70質量%、より好ましくは、2〜50質量%、さらに好ましくは15〜40質量%となる量で添加される。
【0119】
これらの沈殿抑制剤は、触媒前駆体溶液100質量%中に好ましくは0.1〜40質量%、より好ましくは、0.5〜20質量%、さらに好ましくは2〜10質量%となる量で添加される。
【0120】
前記沈殿抑制剤は、工程1の中でのいずれの段階で添加されてもよい。
【0121】
工程1では、好ましくは、前記遷移金属含有化合物(1)および前記沈殿抑制剤を含む溶液を調製して、次いでこの溶液と前記窒素含有有機化合物(2)および該当する場合には前記化合物(3)とを混合して触媒前駆体溶液を得る。また、前記遷移金属含有化合物(1)として前記チタン含有化合物(1a)および前記第2の遷移金属含有化合物(1b)を用いる場合であれば、工程1では、好ましくは、前記チタン含有化合物(1a)および前記沈殿抑制剤を含む溶液を調製して、次いでこの溶液と前記窒素含有有機化合物(2)および前記第2の遷移金属含有化合物(1b)および該当する場合には前記化合物(3)とを混合して触媒前駆体溶液を得る。
【0122】
このように工程1を実施すると、前記沈殿の発生をより確実に抑制することができる。
【0123】
<混合される成分について>
本発明の製造方法によって得られる触媒(A)は、チタン、炭素、窒素のほかに、酸素も構成元素として有している。ここで、後述するように、工程3の熱処理を行う際の雰囲気として非酸化性雰囲気が好ましく用いられることを考慮すると、本発明の製造方法によって得られる触媒(A)が確実に酸素を構成元素として有するためには、工程3の熱処理を行う前の段階で、固形分残渣を構成する触媒前駆体が酸素を構成元素として有することが求められる。
【0124】
後述する工程2でそのような触媒前駆体を含む固形分残渣を得るために、工程1において触媒前駆体溶液を得るために混合される成分のいずれかについて、酸素原子を含むものを用いてもよい。ここで、前記チタン含有化合物(1a)、前記窒素含有有機化合物(2)および、酢酸などの前記溶媒、ならびに、任意で用いられる、第2の遷移金属含有化合物(1b)、上記化合物(3)および前記沈殿抑制剤が、ここにいう「混合される成分」に該当する。また、工程1を大気下その他の酸素を含む雰囲気で行う場合に、その結果として酸素が「混合される成分」に含まれていてもよい。本発明では、このような「混合される成分」のうち、前記チタン含有化合物(1a)、前記窒素含有有機化合物(2)、前記溶媒、任意で用いられる第2の遷移金属含有化合物(1b)および任意で用いられる上記化合物(3)から選ばれるいずれか1つ以上が酸素原子を含むことが好ましい。そのなかでも、前記チタン含有化合物(1a)および前記窒素含有有機化合物(2)が酸素原子を含むことが、より好ましい。これらを用いると、酸素を取り込ませる工程を別途設けることなく、酸素を構成元素として有する触媒前駆体を含む固形分残渣を安定的に得ることができる。
【0125】
また、工程1において触媒前駆体溶液を得るために混合される成分のいずれかについて、酸素原子を含むものを用いるとともに、あるいは、これに代えて、後述する工程2を大気下その他の酸素を含む雰囲気で行うことにより、その結果として触媒前駆体溶液に酸素が混合されることを通じて、酸素を構成元素として有する触媒前駆体を含む固形分残渣が得られるに到っても良い。
【0126】
(工程2)
工程2では、工程1で得られた前記触媒前駆体溶液から溶媒を除去して固形分残渣を得る。
【0127】
溶媒の除去は大気下で行ってもよく、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム)雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、コストの観点から、窒素およびアルゴンが好ましく、窒素がより好ましい。
【0128】
溶媒除去の際の温度は、溶媒の蒸気圧が大きい場合には常温であってもよいが、触媒の量産性の観点からは、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、工程1で得られる溶液中に含まれる、キレート等の金属錯体であると推定される触媒前駆体を分解させないという観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
【0129】
溶媒の除去は、溶媒の蒸気圧が大きい場合には大気圧下で行ってもよいが、より短時間で溶媒を除去するため、減圧(たとえば、0.1Pa〜0.1MPa)下で行ってもよい。
【0130】
溶媒の除去は、工程1で得られた混合物を静置した状態で行ってもよいが、より均一な固形分残渣を得るためには、混合物を攪拌しながら溶媒を除去することが好ましい。
【0131】
溶媒の除去の方法、あるいは前記遷移金属含有化合物(1)または前記窒素含有有機化合物(2)または前記化合物(3)の性状によっては、工程2で得られた固形分残渣の組成または凝集状態が不均一であることがある。このような場合に、固形分残渣を、混合し、解砕して、より均一、微細な粉末としたものを工程3で用いると、粒径がより均一な触媒を得ることができる。
【0132】
固形分残渣を混合し、解砕するには、たとえば、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、槽解機、ジェトミルを用いることができ、固形分残渣が少量であれば、好ましくは、乳鉢、自動混練乳鉢、またはバッチ式のボールミルが用いられ、固形分残渣が多量であり連続的な混合、解砕処理を行う場合には、好ましくはジェットミルが用いられる。
【0133】
(工程3)
工程3では、前記工程2で得られた固形分残渣を熱処理して酸素還元触媒を得る。本発明では、ここで得られる酸素還元触媒が上記触媒(A)となるのである。
【0134】
この熱処理の際の温度は、900℃〜1400℃であり、好ましくは1100℃〜1400℃であり、より好ましくは1150℃〜1400℃である。
【0135】
得られる酸素還元触媒を燃料電池用電極触媒として用いる場合、熱処理の温度が高いほど、燃料電池用電極触媒としての耐久性が良好になる傾向にある。ただ、熱処理温度が上記範囲よりも高すぎると、得られた酸素還元触媒の粒子相互間においての焼結、粒成長がおこるとともに、触媒を構成する酸素原子が欠落する場合があり、燃料電池用電極触媒として用いたときに燃料電池のセル電圧が低下する場合がある。一方、熱処理の温度が上記範囲よりも低過ぎると、高い活性を有する酸素還元触媒を得ることが難しい。
【0136】
前記熱処理の方法としては、たとえば、静置法、攪拌法、落下法、粉末捕捉法が挙げられる。
【0137】
静置法とは、静置式の電気炉などに工程2で得られた固形分残渣を置き、これを加熱する方法である。加熱の際に、量り取った前記固形分残渣は、アルミナボード、石英ボードなどのセラミックス容器に入れてもよい。静置法は、大量の前記固形分残渣を加熱することができる点で好ましい。
【0138】
攪拌法とは、ロータリーキルンなどの電気炉中に前記固形分残渣を入れ、これを攪拌しながら加熱する方法である。攪拌法の場合は、大量の前記固形分残渣を加熱することができ、かつ、得られる酸素還元触媒の粒子の凝集および成長を抑制することができる点で好ましい。さらに、撹拌法は、加熱炉に傾斜をつけることによって、連続的に酸素還元触媒を製造することが可能である点で好ましい。
【0139】
落下法とは、誘導炉中に雰囲気ガスを流しながら、炉を所定の加熱温度まで加熱し、該温度で熱的平衡を保った後、炉の加熱区域である坩堝中に前記固形分残渣を落下させ、これを加熱する方法である。落下法は、得られる酸素還元触媒の粒子の凝集および成長を最小限度に抑制できる点で好ましい。
【0140】
粉末捕捉法とは、非酸化性ガス雰囲気中で、前記固形分残渣を飛沫にして浮遊させ、これを所定の加熱温度に保たれた垂直の管状炉中に捕捉して、加熱する方法である。
【0141】
前記静置法で熱処理を行う場合には、昇温速度は、特に限定されないが、好ましくは1℃/分〜100℃/分程度であり、さらに好ましくは5℃/分〜50℃/分である。また、加熱時間は、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは0.5時間〜5時間、さらに好ましくは0.5〜3時間である。静置法において加熱を赤外線ゴールドイメージ炉などの赤外線炉や管状炉で行なう場合、酸素還元触媒粒子の加熱時間は、0.1〜10時間、好ましくは0.5時間〜5時間である。前記加熱時間が前記範囲内であると、均一な酸素還元触媒粒子が形成される傾向がある。
【0142】
前記攪拌法の場合、前記固形分残渣の加熱時間は、通常10分〜5時間であり、好ましくは30分〜2時間である。本法において、炉に傾斜をつけるなどして連続的に加熱を行う場合は、定常的な炉内のサンプル流量から計算された平均滞留時間を前記加熱時間とする。
【0143】
前記落下法の場合、前記固形分残渣の加熱時間は、通常0.5〜10分であり、好ましくは0.5〜3分である。前記加熱時間が前記範囲内であると、均一な酸素還元触媒粒子が形成される傾向がある。
【0144】
前記粉末捕捉法の場合、前記固形分残渣の加熱時間は、0.2秒〜1分、好ましくは0.2〜10秒である。前記加熱時間が前記範囲内であると、均一な酸素還元触媒粒子が形成される傾向にある。
【0145】
前記静置法で熱処理を行う場合には、熱源としてLNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油、電気などを用いた加熱炉を熱処理装置として用いてもよい。この場合、本発明においては前記固形分残渣を熱処理する際の雰囲気が重要であるので、燃料の炎が炉内に存在する、炉の内部から加熱する装置ではなく、炉の外部からの加熱する装置が好ましい。
【0146】
前記固形分残渣の量が1バッチあたり50kg以上となるような加熱炉を用いる場合には、コストの観点から、LNG,LPGを熱源とする加熱炉が好ましい。
【0147】
触媒活性の特に高い酸素還元触媒を得たい場合には、厳密な温度制御が可能な、電気を熱源とした電気炉を用いることが望ましい。
【0148】
炉の形状としては、赤外線ゴールドイメージ炉などの赤外線炉、管状炉、上蓋型炉、トンネル炉、箱型炉、試料台昇降式炉(エレベーター型)、台車炉などが挙げられ、この中でも雰囲気を特に厳密にコントロールすることが可能な、赤外線炉、管状炉、上蓋型炉、箱型炉および試料台昇降式炉が好ましく、赤外線炉および管状炉が好ましい。
【0149】
前記撹拌法を採用する場合も、上記の熱源を用いることができるが、撹拌法の中でもとくにロータリーキルンに傾斜をつけて、前記固形分残渣を連続的に熱処理する場合には、設備の規模が大きくなり、エネルギー使用量が大きくなりやすいので、LPG等燃料由来の熱源を利用することが好ましい。
【0150】
前記熱処理を行う際の雰囲気としては、得られる酸素還元触媒の活性を高める観点から、非酸化性雰囲気であることが好ましい。その意味では、その主成分が非酸化性ガス雰囲気であることが好ましい。非酸化性ガスの中でも、比較的安価であり、入手しやすい点で窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましく、窒素およびアルゴンがより好ましく、窒素がさらに好ましい。これらの非酸化性ガスは、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0151】
前記熱処理の雰囲気中に窒素などの非酸化性ガスが存在すると、得られる酸素還元触媒がより高い触媒能を発現することがある。加えて、窒素は、前記熱処理の際に固形分残渣と反応することがある。
【0152】
たとえば、熱処理を、窒素ガス、アルゴンガスもしくは窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガス、または窒素ガスおよびアルゴンガスから選ばれる一種以上のガスと水素ガスおよびアンモニアガスから選ばれる一種以上のガスとの混合ガスの雰囲気で行うと、高い触媒能を有する酸素還元触媒が得られる傾向がある。そのため、本発明では、熱処理の雰囲気として水素ガスを含む非酸化性ガス雰囲気が好適に用いられる。このような水素ガスを含む非酸化性ガス雰囲気として、窒素ガスと水素ガスとの混合ガスの雰囲気、またはアルゴンガスと水素ガスとの混合ガスの雰囲気が好ましい。
【0153】
前記熱処理の雰囲気中に水素ガスが含まれる場合には、水素ガスの濃度は、たとえば100体積%以下、好ましくは1体積%以上20体積%以下、より好ましくは1〜5体積%である。
【0154】
前記熱処理で得られた熱処理物は、そのまま酸素還元触媒として使用してもよく、さらに解砕してから酸素還元触媒として用いてもよい。なお、本明細書において、解砕、破砕等、熱処理物を細かくする操作を、特に区別せず「解砕」と表記する。解砕を行うと、得られた酸素還元触媒を用いて電極を製造する際の加工性、および得られる電極の特性を改善できることがある。この解砕には、たとえば、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、槽解機またはジェトミルを用いることができる。酸素還元触媒が少量の場合には、乳鉢、自動混練乳鉢、バッチ式のボールミルが好ましく、熱処理物を連続的に多量に処理する場合には、ジェットミル、連続式のボールミルが好ましく、連続式のボールミルの中でもビーズミルがさらに好ましい。この破砕は、適当な分散媒存在下にて湿式で行っても良く、あるいは、分散媒が存在しない状況下にて乾式で行っても良い。
【0155】
<BET比表面積>
本発明の酸素還元触媒の製造方法によれば、比表面積の大きな酸素還元触媒が製造され、本発明の触媒(A)のBET法で算出される比表面積は、好ましくは30m
2/g以上、より好ましくは50〜600m
2/g、さらに好ましくは100〜600m
2/g、特に好ましくは200〜600m
2/gである。
【0156】
[用途]
本発明の酸素還元触媒、すなわち前記触媒(A)は、特に用途に限りがあるわけではないが、燃料電池用電極触媒、空気電池用電極触媒などに好適に用いることができる。
【0157】
本発明の触媒(A)は、白金触媒の代替触媒として使用することができる。
【0158】
(燃料電池用触媒層)
本発明の燃料電池用触媒層は、前記触媒(A)を含むことを特徴としている。
【0159】
燃料電池用触媒層には、アノード触媒層、カソード触媒層があるが、前記触媒(A)はいずれにも用いることができる。前記触媒(A)は、耐久性に優れ、酸素還元能が大きいので、カソード触媒層に用いることが好ましい。
【0160】
本発明の燃料電池用触媒層は、好ましくは、電子伝導性粉末をさらに含む。前記触媒(A)を含む燃料電池用触媒層がさらに電子伝導性粉末を含む場合には、還元電流をより高めることができる。電子伝導性粉末は、前記触媒(A)に、電気化学的反応を誘起させるための電気的接点を生じさせるため、還元電流を高めると考えられる。
【0161】
前記電子伝導性粒子は通常、触媒の担体として用いられる。
【0162】
前記触媒(A)はある程度の導電性を有するが、触媒(A)により多くの電子を与える、あるいは、反応基質が触媒(A)から多くの電子を受け取るために、触媒(A)に、導電性を付与するための担体粒子を混合してもよい。これらの担体粒子は、工程1〜工程3を経て製造された触媒(A)に混合されてもよく、工程1〜工程3のいずれかの段階で混合されてもよい。
【0163】
電子伝導性粒子の材質としては、炭素、導電性高分子、導電性セラミックス、金属または酸化タングステンもしくは酸化イリジウムなどの導電性無機酸化物が挙げられ、それらを1種単独または組み合わせて用いることができる。特に、炭素からなる電子伝導性粒子は比表面積が大きいため、また、安価に小粒径のものを入手しやすく、耐薬品性、耐高電位性に優れるため、炭素単独または炭素とその他の電子伝導性粒子との混合物が好ましい。すなわち燃料電池用触媒層としては、前記触媒(A)と炭素とを含むことが好ましい。
【0164】
炭素としては、カーボンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、フラーレン、多孔体カーボン、グラフェンなどが挙げられる。炭素からなる電子伝導性粒子の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると燃料電池用触媒層のガス拡散性の低下や触媒の利用率の低下が起こる傾向があるため、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは10〜100nmである。
【0165】
電子伝導性粒子が炭素からなる場合、前記触媒(A)と電子伝導性粒子との質量比(触媒:電子伝導性粒子)は、好ましくは4:1〜1000:1である。
【0166】
前記導電性高分子としては特に限定は無いが、例えばポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリアニリン、ポリアルキルアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリインドール、ポリ−1,5−ジアミノアントラキノン、ポリアミノジフェニル、ポリ(o−フェニレンジアミン)、ポリ(キノリニウム)塩、ポリピリジン、ポリキノキサリン、ポリフェニルキノキサリン等が挙げられる。これらの中でも、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンが好ましく、ポリピロールがより好ましい。
【0167】
前記燃料電池用電極触媒層は、好ましくは高分子電解質をさらに含む。前記高分子電解質としては、燃料電池用触媒層において一般的に用いられているものであれば特に限定されない。具体的には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体(例えば、ナフィオン(NAFION(登録商標))、スルホン酸基を有する炭化水素系高分子化合物、リン酸などの無機酸をドープさせた高分子化合物、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。これらの中でも、ナフィオン(NAFION(登録商標)が好ましい。前記燃料電池用触媒層を形成する際のナフィオン(NAFION(登録商標))の供給源としては、5%ナフィオン(NAFION(登録商標))溶液(DE521、デュポン社)などが挙げられる。
【0168】
本発明の燃料電池用触媒層は、アノード触媒層またはカソード触媒層のいずれにも用いることができる。本発明の燃料電池用触媒層は、高い酸素還元能を有し、酸性電解質中において高電位であっても腐蝕しがたい触媒を含むため、燃料電池のカソードに設けられる触媒層(カソード用触媒層)として有用である。特に固体高分子形燃料電池が備える膜電極接合体のカソードに設けられる触媒層に好適に用いられる。
【0169】
前記触媒(A)を、担体である前記電子伝導性粒子上に分散させる方法としては、気流分散、液中分散等の方法が挙げられる。液中分散は、溶媒中に触媒(A)および電子伝導性粒子を分散したものを、燃料電池用触媒層形成工程に使用できるため好ましい。液中分散としては、オリフィス収縮流による方法、回転せん断流による方法または超音波による方法等があげられる。液中分散の際、使用される溶媒は、触媒や電子伝導性粒子を浸食することがなく、分散できるものであれば特に制限はないが、揮発性の液体有機溶媒または水等が一般に使用される。
【0170】
また、前記触媒(A)を、前記電子伝導性粒子上に分散させる際、さらに上記電解質と分散剤とを同時に分散させてもよい。
【0171】
燃料電池用触媒層の形成方法としては、特に制限はないが、たとえば、前記触媒(A)と電子伝導性粒子と電解質とを含む懸濁液を、後述する電解質膜またはガス拡散層に塗布する方法が挙げられる。前記塗布する方法としては、ディッピング法、スクリーン印刷法、ロールコーティング法、スプレー法、バーコーター塗布法などが挙げられる。また、前記触媒(A)と電子伝導性粒子と電解質とを含む懸濁液を、塗布法またはろ過法により基材に燃料電池用触媒層を形成した後、転写法で電解質膜に燃料電池用触媒層を形成する方法が挙げられる。
【0172】
本発明の好適な態様の1つにおいては、バーコーター塗布法を用いて燃料電池用触媒層を形成することができる。例えば、前記触媒(A)と電子伝導性粒子とを電解質溶液中で混合することにより、前記触媒(A)と電子伝導性粒子と電解質とを含む懸濁液を得てから、この懸濁液を、予めポリテトラフルオロエチレンによる表面処理を行ったガス拡散層の表面にバーコーター塗布により塗布することにより、燃料電池用触媒層をガス拡散層の表面に有する電極が得られる。このような電極は、例えば、カソード電極として用いることができ、この場合、燃料電池用触媒層がカソード触媒層となる。
【0173】
なお、前記触媒(A)を含む上記の懸濁液のように、電極触媒を含む懸濁液、より具体的には、電極触媒と電子伝導性粒子と電解質とを含む懸濁液は、しばしば「インク」とも呼ばれる場合がある。
【0174】
(電極)
本発明の電極は、前記燃料電池用触媒層と多孔質支持層とを有することを特徴としている。
【0175】
本発明の電極はカソードまたはアノードのいずれの電極にも用いることができる。本発明の電極は、酸素還元触媒である前記触媒(A)から構成されるものであり、耐久性に優れ、触媒能が大きいので、カソードに用いるとより産業上の優位性が高い。
【0176】
多孔質支持層とは、ガスを拡散する層(以下「ガス拡散層」とも記す。)である。ガス拡散層としては、電子伝導性を有し、ガスの拡散性が高く、耐食性の高いものであれば何であっても構わないが、一般的にはカーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素系多孔質材料や、軽量化のためにステンレス、耐食材を被服したアルミニウム箔が用いられる。
【0177】
(膜電極接合体)
本発明の膜電極接合体は、カソードとアノードと前記カソードおよび前記アノードの間に配置された電解質膜とを有する膜電極接合体であって、前記カソードが、前記電極であることを特徴としている。このとき、アノードとして、従来公知の燃料電池用電極、例えば、前記触媒(A)の代わりに白金担持カーボンなど白金系触媒を含む燃料電池用電極を用いることができる。
【0178】
以下、本明細書において、膜電極接合体を「MEA」と呼ぶ場合がある。
【0179】
電解質膜としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系を用いた電解質膜または炭化水素系電解質膜などが一般的に用いられるが、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜または多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。
【0180】
本発明の膜電極接合体は、電解質膜および/またはガス拡散層に前記燃料電池用触媒層を形成後、カソード触媒層およびアノード触媒層を内側として電解質膜の両面をガス拡散層で挟み、ホットプレスすることで得ることができる。
【0181】
ホットプレス時の温度は、使用する電解質膜および/または触媒層中の成分によって適宜選択されるが、100〜160℃であることが好ましく、120〜160℃であることがより好ましく、130〜150℃であることがさらに好ましい。ホットプレス時の温度が前記下限値未満であると接合が不充分となるおそれがあり、前記上限値を超えると電解質膜および/または触媒層中の成分が劣化するおそれがある。
【0182】
ホットプレス時の圧力は、電解質膜および/または触媒層中の成分、ガス拡散層の種類によって適宜選択されるが、1〜100MPaであることが好ましく、2〜50MPaであることがより好ましく、3〜25MPaであることがさらに好ましい。ホットプレス時の圧力が前記下限値未満であると接合が不充分となるおそれがあり、前記上限値を超えると触媒層やガス拡散層の空孔度が減少し、性能が劣化するおそれがある。
【0183】
ホットプレスの時間は、ホットプレス時の温度および圧力によって適宜選択されるが、1〜20分であることが好ましく、3〜15分であることがより好ましく、5〜10分であることがさらに好ましい。
【0184】
<膜電極接合体における触媒能、および触媒耐久性の評価>
前記膜電極接合体における触媒能、および触媒耐久性は、たとえば、下記の手順に従って行われる触媒能評価方法および触媒耐久性評価方法によって評価することができる。
【0185】
(1)単セルの作製
まず、前記膜電極接合体を用いて、固体高分子形燃料電池の単セルを作製する。例えば、
図2に示すように、前記膜電極接合体11を、シール材(ガスケット12)、ガス流路付きセパレーター13、および集電板14を挟んでボルトで固定し、所定の面圧(4N)になるように締め付けて、固体高分子形燃料電池の単セルを作製する。
【0186】
(2)定電流負荷測定試験
前記(1)で得られた単セルに対して、定電流負荷測定試験を行い、セル電圧の経時変化を観測する。試験条件としては、特に限定されるものではないものの、例えば、アノード側に燃料として水素を流量0.1リットル/分で供給し、カソード側に酸化剤として酸素を流量0.1リットル/分で供給し、両側ともに300kPaの背圧をかけながら、アノード加湿器を80℃、カソード加湿器を80℃、前記単セル温度を80℃にした状態で、定電流負荷を0.1A/cm
2とするという条件を用いることができる。
【0187】
(3)触媒能および触媒耐久性の評価方法
燃料電池における触媒能および触媒耐久性は、前記(2)の定電流負荷測定試験によって得られる電圧の経時変化曲線をもとに評価することができる。
【0188】
本発明の膜電極接合体を用いた燃料電池をはじめとする燃料電池においては、連続運転開始後、一旦急激な電圧変動が生じる段階(段階a)で始まり、その後場合によっては、電圧変動が小さくなる遷移段階(段階b)を経てから、さらに電圧変動が小さい状態で一定になる段階(段階c)に移行する傾向にあり、多くの場合、この電圧変動は電圧降下という形で観察される。このような現象は、エイジングや膜のなじみによる影響によるものと推測される。ここで、連続運転開始から一定時間経過して前記段階cに移行した後、例えば連続運転開始から20時間経過した後であれば、膜電極接合体におけるエイジングや膜のなじみによる影響が少なくなり、膜電極接合体本来の性能をより正確に評価することができると考えられる。
【0189】
したがって、触媒能は、前記段階cに移行した後の電圧、例えば、連続運転20時間後の電圧により評価する。ただし、20時間で段階cに達しない場合は、40時間のセル電圧を評価する。
【0190】
前記段階cに移行した後の膜電極接合体のセル電圧は、好ましくは0.1V以上、より好ましくは0.15V以上、さらに好ましくは0.2V以上である。
【0191】
触媒耐久性は、初期の急激な電圧変動が生じる段階(すなわち、前記a段階)および引き続く電圧変動が急激に小さくなる遷移段階(すなわち、前記b段階)にある部分を除いた部分のうち、比較的セル電圧の時間変化の少ない部分についての平均の傾きにより評価することができる。この「平均の傾き」は、具体的には、前記段階cに移行した後の部分のうち比較的セル電圧の時間変化の少ない部分を選定し、その選定した部分におけるセル電圧のプロットを、最小二乗法などの適当な手法により直線近似することによって得られる直線の傾きとして得ることができる。本明細書においては、この「平均の傾き」を1時間あたりの電圧変化を示す傾きΔmV/hで表すこととし、その符号として、電圧が上昇する方向を正、降下する方向を負と定義する。本発明において、多くの場合上記c段階における電圧変動は電圧低下という形で(すなわち、負のΔmV/hの値として)観測されることから、本明細書においては、この1時間あたりの電圧変化を示す傾きを、以下、「電圧降下の傾き」と呼ぶこととする。
【0192】
本発明においては、上記c段階における電圧低下の度合いが小さいほど、すなわち、「電圧降下の傾き」ΔmV/hの値が大きいほど、前記膜電極接合体を構成する触媒の耐久性が高いことを示している。したがって、「電圧降下の傾き」の値は、好ましくは−2mV/hより大きく、より好ましくは−1mV/hより大きく、さらに好ましくは−0.5mV/hより大きい。
【0193】
ここで、「電圧降下の傾き」の値は正の値をとってもよく、この場合耐久性が高いことを示している。
【0194】
電圧変動が小さくなった状態で一定になった後(すなわち、段階cに移行した後)の電圧の傾きを評価することにより、膜電極接合体におけるエイジングや膜のなじみによる影響が少なくなり、膜電極接合体本来の性能をより正確に評価することができると考えられる。
【0195】
<膜電極接合体の用途>
本発明の膜電極接合体は、触媒能および触媒耐久性が高いことから、燃料電池または空気電池の用途に好適に用いることができる。
【0196】
燃料電池の電極反応はいわゆる3相界面(電解質‐電極触媒‐反応ガス)で起こる。燃料電池は、使用される電解質などの違いにより数種類に分類され、溶融炭酸塩型(MCFC)、リン酸型(PAFC)、固体酸化物型(SOFC)、固体高分子形(PEFC)等がある。中でも、本発明の膜電極接合体は、固体高分子形燃料電池に使用することが好ましく、燃料としてメタノールを用いてもよい。
【0197】
(燃料電池)
本発明の燃料電池は、前記膜電極接合体を備えることを特徴としている。
【0198】
本発明の触媒(A)を用いた燃料電池は性能が高く、特に耐久性が高いという特徴を持つ。また、本発明の触媒(A)を用いた燃料電池は、白金を触媒として用いた場合と比較してきわめて安価であるという特徴を持つ。本発明の燃料電池は、発電機能、発光機能、発熱機能、音響発生機能、運動機能、表示機能および充電機能からなる群より選ばれる少なくとも一つの機能を有し燃料電池を備える物品の性能、特に携帯可能な物品の性能を向上させることができる。前記燃料電池は、好ましくは物品の表面または内部に備えられる。
【0199】
<本発明の燃料電池を備えた物品の具体例>
本発明の燃料電池を備えることができる前記物品の具体例としては、ビル、家屋、テント等の建築物、蛍光灯、LED等、有機EL、街灯、屋内照明、信号機等の照明器具、機械、車両そのものを含む自動車用機器、家電製品、農業機器、電子機器、携帯電話等を含む携帯情報端末、美容機材、可搬式工具、風呂用品トイレ用品等の衛生機材、家具、玩具、装飾品、掲示板、クーラーボックス、屋外発電機などのアウトドア用品、教材、造花、オブジェ、心臓ペースメーカー用電源、ペルチェ素子を備えた加熱および冷却器用の電源が挙げられる。
【実施例】
【0200】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0201】
実施例および比較例における各種測定は、下記の方法により行なった。
【0202】
[分析方法]
1.粉末X線回折測定(XRD)
理学電機株式会社製 ロータフレックスを用いて、試料の粉末X線回折を行った。
【0203】
測定条件の詳細は以下のとおりである。
【0204】
X線出力(Cu−Kα):50kV、180mA
走査軸:θ/2θ
測定範囲(2θ):5.00°〜89.98°
測定モード:FT
読込幅:0.02°
サンプリング時間:0.70秒
DS、SS、RS:0.5°、0.5°、0.15mm
ゴニオメーター半径:185mm
各試料の粉末X線回折における回折線ピークの本数は、信号(S)とノイズ(N)の比(S/N)が2以上で検出できるシグナルの頂点を1つのピークとしてみなして数えた。
【0205】
なお、ノイズ(N)は、ベースラインの幅とした。
【0206】
2.元素分析
<炭素、硫黄>
試料約0.01gを量り取り、炭素硫黄分析装置(堀場製作所製EMIA−920V)にて測定を行った。
【0207】
<窒素、酸素>
試料約0.01gを量り取り、Niカプセルに試料を封入して、酸素窒素分析装置(LECO製TC600)にて測定を行った。
【0208】
<金属(チタン、鉄)>
試料約0.1gを石英ビーカーに量り取り、硫酸,硝酸およびフッ酸を用いて試料を完全に加熱分解した。冷却後、この溶液を100mlに定容し、さらに適宜希釈し、ICP−OES(SII社製VISTA−PRO)またはICP−MS(Agilent社製HP7500)を用いて定量を行った。
【0209】
<フッ素>
試料数mgを、酸素ガス気流下、水蒸気を通気しながら燃焼分解した。発生したガスを10mM Na
2CO
3(過酸化水素を含む。補正用標準Br‐:5ppm)に吸収させ、イオンクロマトグラフィーでフッ素の量を測定した。
【0210】
燃焼分解条件:
試料燃焼装置:AQF−100((株)三菱化学アナリテック社製)
燃焼管温度:950℃(試料ボード移動による昇温分解)
イオンクロマトグラフィー測定条件:
測定装置:DIONEX DX−500
溶離液:1.8mM Na
2CO
3+1.7mM NaHCO
3
カラム(温度):ShodexSI−90(室温)
流速:1.0ml/分
注入量:25μl
検出器:電気伝導度検出器
サプレッサー:DIONEX ASRS−300
3.BET比表面積測定
試料を0.15g採取し、全自動BET比表面積測定装置 マックソーブ((株)マウンテック製)で比表面積測定を行った。前処理時間、前処理温度は、それぞれ30分、200℃に設定した。
【0211】
4.触媒能評価方法および触媒耐久性評価方法
各実施例および比較例で得られた膜電極接合体についての触媒能および触媒耐久性の評価は、以下のように行った。
【0212】
まず、膜電極接合体を用いて作製された固体高分子形燃料電池の単セルに対して行った定電流負荷測定試験において30秒ごとに取得されたセル電圧のデータから、電圧の経時変化をプロットして電圧の経時変化曲線を作製した。そして、この電圧の経時変化曲線に基づき、連続運転開始後一旦急激な電圧変動が生じる段階(段階a)と、該段階a後の、電圧変動が小さくなる遷移段階(段階b)と、該段階b後の、電圧変動が小さい状態で一定になる段階(段階c)とを把握した。
【0213】
そして、触媒能の評価については、前記段階cに移行した後である運転開始20時間後のセル電圧の高低を評価することによって行った。ただし、20時間で段階cに達しない場合は、40時間のセル電圧を評価した。
【0214】
また、触媒耐久性の評価については、前記段階cに移行した後の部分のうち比較的セル電圧の時間変化の少ない部分を実施例および比較例ごとに選定し、その選定した部分におけるセル電圧のプロットを最小二乗法によって直線に近似し、得られた近似直線の傾きを当該選定した部分における電圧降下の平均の傾きとして求め、その傾きの値を膜電極接合体の「電圧降下の傾き」とみなして評価することによって行った。
【0215】
[アノード作製例1]
1.アノード用インクの調製
純水50mlに、白金担持カーボン(TEC10E60E、田中貴金属工業製)0.6gと、プロトン伝導性材料(NAFION(登録商標))0.25gを含有する水溶液(5%ナフィオン(NAFION(登録商標)水溶液、和光純薬工業製)5gとを入れて、超音波分散機(UT−106H型シャープマニファクチャリングシステム社製)で1時間混合することにより、アノード用インク(1)を調製した。
【0216】
2.アノード触媒層を有する電極の作製
ガス拡散層(カーボンペーパー(TGP−H−060、東レ社製))を、アセトンに30秒間浸漬して脱脂した後、乾燥させ、次いで10%のポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」とも記す。)水溶液に30秒間浸漬した。
【0217】
浸漬物を、室温乾燥後、350℃で1時間加熱することにより、カーボンペーパー内部にPTFEが分散し撥水性を有するガス拡散層(以下「GDL」とも記す。)を得た。
【0218】
次に、5cm×5cmの大きさとした前記GDLの表面に、自動スプレー塗布装置(サンエイテック社製)により、80℃で、上記アノード用インク(1)を塗布した。スプレー塗布を繰り返し行うことにより、単位面積あたりの白金(Pt)量が1mg/cm
2であるアノード触媒層(1)を有する電極を作製した。
【0219】
[実施例1]
1.触媒の調製
チタン含有化合物(1a)としてチタンテトライソプロポキシド、窒素含有有機化合物(2)としてグリシン(以下、「Gly」と略す場合がある。)、第2の遷移金属含有化合物(1b)として酢酸鉄(II)をそれぞれ用いて触媒(1)を製造した。
【0220】
すなわち、チタニウムテトライソプロポキシド(純正化学(株)製)9.37g(33.0mmol)及びアセチルアセトン(純正化学)5.12g(51.08mmol)を酢酸(和光純薬(株)製)32mLに加え、室温で攪拌しながらチタン含有混合物溶液を調製した。また、グリシン(和光純薬(株)製)10.0g(133mmol)及び酢酸鉄(II)(Aldrich社製)0.582g(3.35mmol)を純水120mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させて窒素含有有機化合物含有混合物溶液を調製した。チタン含有混合物溶液を窒素含有有機化合物含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な触媒前駆体溶液を得た。
【0221】
ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ウォーターバスの温度を約60℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、12.43gの粉末を得た。
【0222】
この粉末を赤外線ゴールドイメージ炉(ULVAC−RIKO社製)に入れ、水素ガス4体積%と窒素ガス96体積%とを含む混合ガスで真空窒素置換を2回行った後、流量125ml/分で該混合ガスを流しながら、20℃/分で950℃まで加熱し、950℃で15分保持し、ヒーターを切った後、自然冷却することにより粉末状の触媒(以下「触媒(1)」とも記す。)を得た。温度はULVAC−RIKO社製熱電対をサンプルホルダの下端で取り付け測定した。この触媒(1)のBET比表面積及び元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0223】
2.触媒のXRD測定
触媒(1)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図1に示したようにピークA,B及びDが観察された。42.65°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークDの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0.40であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0224】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
(1)インクの調製
上記作製した触媒(1)0.2gと、電子伝導性材料としてカーボンブラック(ケッチェンブラックEC300J、LION社製)0.05gとを加え、さらにプロトン伝導性材料(ナフィオン(NAFION(登録商標))0.142gを含有する水溶液(20%ナフィオン(NAFION(登録商標)水溶液、和光純薬工業製)0.75gを入れて、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎、THINKY社製)で15分混合することにより、カソード用インク(1)を調製した。
【0225】
(2)燃料電池用触媒層を有する電極の作製
ガス拡散層(カーボンペーパー(TGP−H−060、東レ社製))を、アセトンに30秒間浸漬して脱脂した後、乾燥させ、次いで10%のPTFE水溶液に30秒間浸漬した。
【0226】
浸漬物を、室温乾燥後、350℃で1時間加熱することにより、カーボンペーパー内部にPTFEが分散し撥水性を有するガス拡散層(以下「GDL」とも記す。)を得た。
【0227】
次に、5cm×5cmの大きさとした前記GDLの表面に、バーコーター塗布により、80℃で、上記カソード用インク(1)を塗布し、上記触媒(1)およびカーボンブラックの総量が単位面積あたり2.5mg/cm
2であるカソード触媒層(1)をGDL表面に有する電極(以下「カソード(1)」ともいう。)を作製した。また、カソード触媒層(1)における単位面積あたりの燃料電池用触媒(1)の質量は、2.27mg/cm
2であった。
【0228】
(3)燃料電池用膜電極接合体の作製
電解質膜としてナフィオン(NAFION(登録商標))膜(NR−212、DuPont社製)を、カソードとして上記カソード(1)を、アノードとしてアノード作製例1で作製したGDLの表面にアノード触媒層(1)を有する電極(以下「アノード(1)」ともいう。)をそれぞれ準備した。
【0229】
前記カソード(1)と前記アノード(1)との間に前記電解質膜を配置した燃料電池用膜電極接合体(以下「MEA」ともいう。)を以下のように作製した。
【0230】
前記電解質膜を前記カソード(1)および前記アノード(1)で挟み、カソード触媒層(1)およびアノード触媒層(1)が前記電解質膜に密着するように、ホットプレス機を用いて、温度140℃、圧力3MPaで6分間かけてこれらを熱圧着し、MEA(1)を作製した。
【0231】
(4)単セルの作製
図2に示すように、上記4で作製したMEA(1)を、2つのシール材(ガスケット)、2つのガス流路付きセパレーター、2つの集電板および2つのラバーヒータで挟んでボルトで固定し、これらを所定の面圧(4N)になるように締め付けて、固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(1)」ともいう。)(セル面積:5cm
2)を作製した。
【0232】
(5)発電特性の評価(触媒能の測定)
上記単セル(1)を80℃、アノード加湿器を80℃、カソード加湿器を80℃に温度調節した。アノード側に燃料として水素を流量0.1リットル/分で供給し、カソード側に酸化剤として酸素を流量0.1リットル/分で供給し、両側ともに300kPaの背圧をかけながら、単セル(1)において、0.1A/cm
2の定電流負荷測定試験を実施した。
【0233】
単セル(1)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を、
図3に示す。
【0234】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、明確な段階bは見られず、5時間から測定終了までを前記段階cに移行した後の部分であるとした。その電圧降下の平均の傾きは−1.8mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。また、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.53Vであり、触媒能が高いことが確認された。
【0235】
[実施例2]
1.触媒の調製
焼成温度を1050℃にした以外は実施例1と同じ方法により、触媒(2)を合成した。この触媒のBET比表面積、元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0236】
2.触媒のXRD測定
触媒(2)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図4に示したようにピークA,B及びDが観察された。42.59°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークDの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0.77であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0237】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(2)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、触媒(2)およびカーボンブラックの総量が単位面積あたり2.5mg/cm
2であるカソード触媒層(2)をGDL表面に有する電極(以下「カソード(2)」ともいう。)を作製し、カソード(1)に代えてカソード(2)を用いた以外は実施例1と同様の方法で燃料電池用膜電極接合体(以下「MEA(2)」ともいう。)を作製し、MEA(1)に替えてMEA(2)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(2)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(2)における単位面積あたりの燃料電池用触媒(2)の質量は、2.06mg/cm
2であった。
【0238】
また、単セル(2)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(2)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を、
図5に示す。
【0239】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である34時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは−0.48mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。また、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である40時間後のセル電圧は0.40Vであり、触媒能が高いことが確認された。
【0240】
[実施例3]
1.触媒の調製
焼成温度を1100℃にした以外は実施例1と同じ方法により、触媒(3)を合成した。この触媒のBET比表面積、元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0241】
2.触媒のXRD測定
触媒(3)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図6に示したようにピークA,B及びDが観察された。42.21°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークDの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0.96であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0242】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(3)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(3)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(3)における単位面積あたりの燃料電池用触媒(3)の質量は、2.18mg/cm
2であった。
【0243】
また、単セル(3)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(3)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を、
図7に示す。
【0244】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である14時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは−0.48mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。また、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.38Vであり、触媒能が高いことが確認された。
【0245】
[実施例4]
1.触媒の調製
焼成温度を1150℃にした以外は実施例1と同じ方法により、触媒(4)を合成した。この触媒のBET比表面積、元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0246】
2.触媒のXRD測定
触媒(4)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図8に示したようにピークA,B,C及びDが観察された。42.55°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークCの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークDの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0.91であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0247】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(4)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(4)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(4)における単位面積あたりの燃料電池用触媒(4)の質量は、1.93mg/cm
2であった。
【0248】
また、単セル(4)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(4)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を、
図9に示す。
【0249】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である12時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは+0.02mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。また、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.32Vであり、触媒能が高いことが確認された。
【0250】
[実施例5]
1.触媒の調製
焼成温度を1200℃にした以外は実施例1と同じ方法により、触媒(5)を合成した。この触媒のBET比表面積、元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0251】
2.触媒のXRD測定
触媒(5)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図10に示したようにピークA,B,C及びDが観察された。42.53°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークCの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークDの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0.80であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0252】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(5)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(5)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(5)における単位面積あたりの燃料電池用触媒(5)の質量は、1.94mg/cm
2であった。
【0253】
また、単セル(5)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(5)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を、
図11に示す。
【0254】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である13時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは+0.01mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。また、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.22Vであり、触媒能が高いことが確認された。
【0255】
[実施例6]
1.触媒の調製
管状炉(モトヤマ株式会社製)を用い、流量200ml/分で水素ガス4体積%と窒素ガス96体積%とを含む混合ガスを流しながら、200℃/時間で1400℃まで加熱し、1400℃で2時間保持し、200℃/時間で降温したこと以外は実施例1と同様の方法で触媒(6)を合成した。この触媒のBET比表面積、元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0256】
2.触媒のXRD測定
触媒(
6)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図12に示したようにピークA,B及びDが観察された。42.45°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークDの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0.99であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0257】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(6)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(6)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(6)における単位面積あたりの燃料電池用触媒(6)の質量は、1.94mg/cm
2であった。
【0258】
また、単セル(6)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(6)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を
図13に示す。
【0259】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である10時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは−0.2mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。また、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.18Vであり、触媒能が高いことが確認された。
【0260】
[実施例7]
1.触媒の調製
酢酸鉄を添加しないこと以外は実施例4と同じ方法により、触媒(7)を合成した。この触媒のBET比表面積、元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0261】
2.触媒のXRD測定
触媒(7)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図14に示したようにピークA,B及びCが観察された。42.72°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークCの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0.91であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0262】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(7)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(7)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(7)における単位面積あたりの燃料電池用触媒(7)の質量は、2.27mg/cm
2であった。
【0263】
また、単セル(7)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(7)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を
図15に示す。
【0264】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である12時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは−0.72mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。また、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.28Vであり、触媒能が高いことが確認された。
【0265】
[実施例8]
1.触媒の調製
チタン含有化合物(1a)としてチタンテトライソプロポキシド、窒素含有有機化合物(2)としてピラジンカルボン酸、第2の遷移金属含有化合物(1b)として酢酸鉄(II)をそれぞれ用いて触媒(8)を製造した。
【0266】
すなわち、ビーカーに、アセチルアセトン2.60g(25.94mmol)を入れ、これを攪拌しながらチタニウムテトライソプロポキシド5ml(17.59mmol)を加え、さらに酢酸16ml(280.00mmol)を2分間かけて滴下し、チタン溶液を調製した。
【0267】
ビーカーに水50ml、エタノール60ml、および酢酸70mlを入れ、ここにピラジンカルボン酸8.74g(70.36mmol)を加えて完全に溶解させた。得られた溶液に、これを攪拌しながら、さらに酢酸鉄(II)290mg(1.67mmol)を少量ずつ加えて溶解させた。次に温度を室温に保ちながら、かつ攪拌しながら、上記のチタン溶液を10分間かけて滴下し、滴下後さらに30分間攪拌を行い、触媒前駆体溶液を得た。
【0268】
ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形物残渣を自動乳鉢ですり潰して、11.3gの粉末を得た。
【0269】
この粉末をULVAC−RIKO社製赤外線ゴールドイメージ炉に入れ、水素ガス4体積%と窒素ガス96体積%とを含む混合ガスで真空引きによる雰囲気置換を2回行った後、流量125ml/分で該混合ガスを流しながら、20℃/分で1150℃まで加熱し、1150℃で15分保持し、ヒーターを切った後、自然冷却することにより粉末状の触媒(以下「触媒(8)」とも記す。)を得た。温度はULVAC−RIKO社製熱電対をサンプルホルダ下端に取り付けて測定した。この触媒のBET比表面積及び元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0270】
2.触媒のXRD測定
触媒(8)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図16に示したようにピークA,B及びDが観察された。42.55°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークDの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0.98であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0271】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(8)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(8)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(1)における単位面積あたりの燃料電池用触媒(1)の質量は、2.27mg/cm
2であった。
【0272】
また、単セル(8)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(8)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を
図17に示す。
【0273】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である12時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは−0.29mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。また、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.38Vであり、触媒能が高いことが確認された。
【0274】
[実施例9]
1.触媒の調製
触媒前駆体溶液を調製する際に、「ホウ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Aとフッ素とを含有する化合物(3)」として5%ナフィオン(NAFION(登録商標))溶液(DE521、デュポン社)を10ml加えたこと以外は実施例8と同じ方法により、触媒(9)を合成した。すなわち、この実施例9は、硫黄とフッ素とを含有する「化合物(3)」を併用した実施例に該当する。
【0275】
この触媒のBET比表面積及び元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0276】
2.触媒のXRD測定
触媒(9)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図18に示したようにピークA,B及びDが観察された。42.55°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークDの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0.98であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0277】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(9)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(9)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(9)における単位面積あたりの燃料電池用触媒(9)の質量は、2.27mg/cm
2であった。
【0278】
また、単セル(9)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(9)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を
図19に示す。
【0279】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である18時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは−0.33mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。また、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.43Vであり、触媒能が高いことが確認された。
【0280】
[比較例1]
1.触媒のXRD測定
アライドマテリアル社製炭窒化チタン(TiC
0.5N
0.5)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図20に示したようにピークA及びBが観察された。42.19°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は1であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0281】
以下、比較例1においては、この炭窒化チタンを「触媒(10)」として用いた。
【0282】
2.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(10)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(10)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(10)における単位面積あたりの触媒(10)の質量は、2.13mg/cm
2であった。
【0283】
また、単セル(10)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(10)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を
図21に示す。
【0284】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である9時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは+0.07mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。しかしながら、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.09Vであり、触媒能が低かった。
【0285】
[比較例2]
1.触媒のXRD測定
添川理化学社製ルチル型二酸化チタン(TiO
2)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図22に示したようにピークDが観察された。42°〜43°のピークAは観察されず、立方晶が形成されていないことが確認された。なお、I
A=0なので、ピーク強度比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0となる。
【0286】
以下、比較例2においては、このルチル型二酸化チタンを「触媒(11)」として用いた。
【0287】
2.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(11)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(11)」ともいう。)を作製した。
【0288】
また、単セル(11)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(11)では発電できず、触媒能がなかった。
【0289】
[比較例3]
1. 触媒のXRD測定
添川理化学社製アナターゼ型二酸化チタン(TiO
2)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図23に示したようにピークCが観察された。42〜43°のピークAは観察されず、立方晶が形成されていないことが確認された。なお、I
A=0なので、ピーク強度比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0となる。
【0290】
以下、比較例3においては、このアナターゼ型二酸化チタンを「触媒(12)」として用いた。
【0291】
2.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(12)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(12)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(12)における単位面積あたりの触媒(12)の質量は、2.10mg/cm
2であった。
【0292】
また、単セル(12)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。
単セル(12)では発電できず、触媒能がなかった。
【0293】
[比較例4]
1. 触媒のXRD測定
添川理化学社製窒化チタン(TiN)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図24に示したようにピークA及びBが観察された。42.59°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークの強度I
C、ルチル構造に起因されるピーク強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は1であり、立方晶が形成されていることが確認された。
【0294】
以下、比較例4においては、この立方晶構造を有する窒化チタンを「触媒(13)」として用いた。
【0295】
2.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(13)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(13)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(13)における単位面積あたりの触媒(13)の質量は、2.21mg/cm
2であった。
【0296】
また、単セル(13)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(13)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を
図25に示す。
【0297】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である1時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは+0.1mV/hであり、触媒耐久性が高いことが確認された。しかしながら、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.1Vであり、触媒能が低かった。
【0298】
[比較例5]
1.触媒の調製
焼成温度を800℃にした以外は実施例1と同じ方法により、触媒(14)を合成した。この触媒のBET比表面積、元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0299】
2.触媒のXRD測定
触媒(14)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図26に示したようにピークDが観察された。42°〜43°のピークは観察されず、立方晶が形成されていないことが確認された。なお、I
A=0なので、ピーク強度比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は0となる。
【0300】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(14)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(14)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(14)における単位面積あたりの触媒(14)の質量は、1.95mg/cm
2であった。
【0301】
測定結果を
図27に示す。当該セル電圧が高いほど、MEAにおける触媒能が高く、経時的に電圧を維持しているほどMEAにおける耐久性が高いことを示している。
【0302】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である12時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは−3.1mV/hであり、触媒耐久性が低かった。
【0303】
一方、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.48Vであり、触媒能が高かった。
【0304】
[比較例6]
1.触媒の調製
焼成温度を1600℃にした以外は実施例6と同じ方法により、触媒(15)を合成した。この触媒のBET比表面積、元素分析により求めた組成を表1に示す。
【0305】
2.触媒のXRD測定
触媒(15)の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、
図28に示したようにピークA及びBが観察された。42.72°のピークAの強度I
AはピークBの強度I
Bより大きかった。また、I
Aと、アナターゼ構造に起因されるピークの強度I
C、ルチル構造に起因されるピークの強度I
Dの比(I
A/(I
A+I
C+I
D))は1であり、立方晶が主生成物として確認された。
【0306】
3.燃料電池用膜電極接合体の製造とその発電特性の評価
触媒(1)に代えて触媒(15)を用いた以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池の単セル(以下「単セル(15)」ともいう。)を作製した。ここで、カソード触媒層(15)における単位面積あたりの触媒(15)の質量は、1.92mg/cm
2であった。
【0307】
また、単セル(15)についての発電特性の評価を、実施例1と同じ条件下で行った。単セル(15)におけるセル電圧の経時変化を示す測定結果を
図29に示す。ここで、当該セル電圧が高いほど、MEAにおける触媒能が高く、経時的に電圧を維持しているほどMEAにおける耐久性が高いことを示している。
【0308】
前記触媒耐久性評価方法で測定したところ、前記段階cに移行した後の部分である10時間から測定終了までの電圧降下の平均の傾きは−3.4mV/hであり、触媒耐久性が低かった。また、前記触媒能評価方法で評価したところ、前記段階cに移行した後である20時間後のセル電圧は0.03Vであり、触媒能が低かった。
【0309】
【表1】
【0310】
【表2】