(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968458
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】幹細胞を若くするための培地組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20160728BHJP
【FI】
C12N5/0775
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-544678(P2014-544678)
(86)(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公表番号】特表2015-500018(P2015-500018A)
(43)【公表日】2015年1月5日
(86)【国際出願番号】KR2012010380
(87)【国際公開番号】WO2013081436
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2014年8月1日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0127885
(32)【優先日】2011年12月1日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508033465
【氏名又は名称】アール バイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】R BIO CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】カン ソングン
(72)【発明者】
【氏名】ラ ジョンチャン
(72)【発明者】
【氏名】パク ヒョングン
(72)【発明者】
【氏名】イ ハンヨン
【審査官】
鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/008219(WO,A1)
【文献】
特表2009−527221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FBS(fetal bovine serum)、セレン、サイトカインとしてのEGFまたはbFGF、およびNAC(N−アセチル−L−システイン)を含有することを特徴とする培地で、60〜120歳の高齢者由来の間葉系幹細胞を培養することを特徴とする、60〜120歳の高齢者由来の間葉系幹細胞を20〜30代の若者由来の幹細胞様に転換する方法。
【請求項2】
前記培地は、インスリンまたはインスリン様因子を追加で含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培地は、ヒドロコルチゾンを追加で含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者由来の幹細胞を若い幹細胞にするための培地組成物に関し、更に詳しくは、高齢者から採取した幹細胞を、若者の幹細胞と類似する形質を持つように転換するための幹細胞培養用培地組成物および前記培地組成物で高齢者由来の幹細胞を培養することを含む幹細胞を若い幹細胞にする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells)は、骨髄、臍帯血、胎盤(または、胎盤組織の細胞)、脂肪(または、脂肪組織の細胞)などの様々な体細胞から由来する多分化性(pluripotent)を有する幹細胞である。例えば、骨髄(bone marrow)由来の間葉系幹細胞は、脂肪組織、骨/軟骨組織、筋肉組織に分化することができる多分化性によって細胞治療剤としての開発のために様々な研究が進められている。
【0003】
近年、間葉系幹細胞を用いた細胞治療技術が、脚光を浴び始めながら、人体から分離された間葉系幹細胞を治療に適合するように活性化させる技術の開発が求められており、特に、細胞治療の対象となる患者の場合には、高齢者が多く、高齢者の組織から採取された間葉系幹細胞の場合、増殖能と分化能が落ちて、治療効率が低い傾向があり、高齢者由来の間葉系幹細胞を若者由来の間葉系幹細胞のように、活性化させる技術が求められている。
【0004】
間葉系幹細胞は、他のヒト初代培養細胞と同様に、体外(in vitro)培養時にテロメア短縮(telomere shortening)とは無関係な老化(senescence)機序によって細胞の分裂が急激に減少することが知られている(Shibata, K.R. et al. Stem cells, 25; 2371-2382, 2007)。これらの老化現象は、その機序はまだ明らかになったわけではないが、長期間の体外培養による環境的ストレスの蓄積にCdk阻害タンパク質であるp16(INK4a)が発現されて蓄積され、細胞の成長を担うCdkタンパク質の活性が抑制される現象が主な原因と指摘されている。間葉系幹細胞は、Bmi−1と呼ばれる腫瘍遺伝子を発現させてp16の発現を阻害した際に、細胞の老化が抑制されることが確認され(Zhang, X. et al. Biochemical and biophysical research communications 351; 853-859, 2006)、また、培養中にFGF−2を処理して、p21(Cip1)、p53、およびp16(INK4a)のmRNA発現を抑制した際に、G1期における間葉系幹細胞の成長停止が抑えられることが報告されている(Ito, T. et al., Biochemical and biophysical research communications, 359; 108-114, 2007)。また、大韓民国公開特許第10−2009−0108141号では、Wip1タンパク質をコードする遺伝子を間葉系幹細胞に形質転換させ、間葉系幹細胞の老化を抑制させる方法を提示した。
【0005】
しかし、高齢者の組織から採取した老化した間葉系幹細胞を若々しく復帰させる方法についての技術は報告されたことがないのが現状である。
【0006】
そこで、本発明者等は、高齢の患者から分離した脂肪組織から間葉系幹細胞を採取し、抗酸化剤および成長因子が含有された培地で培養した結果、若者由来の間葉系幹細胞と同様の活性を有する間葉系幹細胞が製造できることを確認して、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高齢者由来の間葉系幹細胞を若くするための培地組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、前記培地組成物を利用して、高齢者由来の間葉系幹細胞を培養することを特徴とする間葉系幹細胞を若くする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、FBS(fetal bovine serum)、抗酸化剤、サイトカインおよびNAC(N−アセチル−L−システイン)を含有することを特徴とする高齢者由来の間葉系幹細胞を若い幹細胞に転換するための培地組成物を提供する。
【0010】
本発明はまた、前記高齢者由来の間葉系幹細胞を若い幹細胞に転換するための培地組成物で高齢者由来間葉系幹細胞を培養することを含む高齢者由来の間葉系幹細胞を若い幹細胞に転換する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】20代と30代由来の脂肪幹細胞を前記各々の培地で第4代まで継代した後、顕微鏡で形態を確認した写真である。
【
図2】70代と80代由来の脂肪幹細胞を前記各々の培地で第4代まで継代した後、顕微鏡で形態を確認した写真である。
【
図3】10種の培地で培養した若者(20代と30代)と高齢者(70代と80代)の年齢別CPDL(cell population doubling level)を示したグラフである。
【
図4】10種の培地で培養した若者(20代と30代)と高齢者(70代と80代)の培地別CPDLを示したグラフである。
【
図5】5種の培地で培養した脂肪幹細胞の年齢別、培地別のテロメラーゼ活性を示したグラフである。
【
図6】2種の培地(1番、9番培地)で培養した20代、30代、70代、及び80代由来の脂肪幹細胞のテロメラーゼ活性を示したグラフである。
【
図7】1番、9番の培地を用いて、P4およびP6継代で培養した後、継代培養数に応じたテロメラーゼ活性の変化を測定したグラフである。
【
図8】1番、9番培地で培養した脂肪幹細胞から多能性確認のマーカーであるoct4、nanogおよびRex1の発現をP3で確認した結果を示したものである。
【
図9】1番、9番培地で培養した脂肪幹細胞から多能性確認のマーカーであるoct4、nanogおよびRex1の発現をP4で確認した結果を示したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
一観点において、本発明は、FBS(fetal bovine serum)、抗酸化剤、サイトカインおよびNAC(N−アセチル−L−システイン)を含有することを特徴とする高齢者由来の間葉系幹細胞を若い幹細胞に転換するための培地組成物に関する。
【0013】
本発明で用いる用語「幹細胞(stem cell)」とは、自己複製能力を有すると共に、二つ以上の細胞に分化する能力を有する細胞をいう。「成体幹細胞」は、発生過程が進んで胚芽の各臓器が形成される工程或いは成体工程に現れる幹細胞を意味する。
【0014】
本発明で用いる用語「間葉系幹細胞」とは、ヒトまたは哺乳動物の組織から分離した未分化の幹細胞であって、様々な組織から由来することができる。特に、臍帯由来間葉系幹細胞、臍帯血由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、筋肉由来間葉系幹細胞、神経由来間葉系幹細胞、皮膚由来間葉系幹細胞、羊膜由来間葉系幹細胞および胎盤由来間葉系幹細胞であってもよく、各組織から幹細胞を分離する技術は、当該業界に既に公知となっている。
【0015】
本発明で用いる用語「脂肪由来幹細胞」とは、脂肪組織から分離した未分化幹細胞であり、その分離方法は、例えば、次のようになる。つまり、脂肪吸引から得られる生理食塩水に浮遊した脂肪含有懸濁(suspension)を培養した後、フラスコなどの培養容器に付着した幹細胞の層をトリプシンで処理してから、回収するか、スクレーパーで掻いて、少量の生理食塩水に浮遊しているものを直接回収する方法などによって、脂肪由来間葉系幹細胞を分離することができる。
【0016】
本発明において、「幹細胞を若くすること」とは、高齢者の組織由来間葉系幹細胞の表現型を若者組織由来幹細胞の表現型と類似した状態にすることを意味し、前記表現型とは、細胞の形態、細胞の増殖速度、テロメラーゼ活性、幹細胞マーカー(Oct4、SSEA−1、Tra 1−60、Tra 1−81、Nanogなど)の発現および幹細胞の分化能などを含む。本発明では、高齢者組織由来間葉系幹細胞は、60〜120歳のヒトから分離されることが好ましい。
【0017】
本発明において、前記「高齢者組織由来間葉系幹細胞の表現型を若者組織由来幹細胞の表現型と類似した状態」に変化することは、高齢者組織由来間葉系幹細胞が分離された最初の継代よりも前記表現型が若者組織由来幹細胞と類似するようになる状態、または本発明の培養用培地以外の培地で培養された間葉系幹細胞と比較して、若者組織由来の幹細胞と類似するようになる状態を意味する。
【0018】
本発明において、前記培地組成物は、インスリンまたはインスリン様因子およびヒドロコルチゾンを追加で含有してもよく、前記サイトカインは、EGF(epidermal growth factor)および/またはbFGF(basic fibroblast growth factor)であってもよい。
【0019】
本発明の培地組成物に用いられる前記抗酸化剤は、セレン(selenium)、ビタミンE、アスコルビン酸、カテキン、リコピン、ベータカロチン、コエンザイムQ−10、EPA(eicosapentaenoic acid)、DHA(docosahexanoic acid)などを用いることができ、好ましくは、セレンを用いることができる。
【0020】
したがって、本発明では、FBS、bFGFおよびEGFは、年齢に関係なく、脂肪幹細胞培養には欠かせない因子であることを確認し、全体的に若い年齢で多能性(pluripotency)や分化率、テロメラーゼ活性の程度が老齢群に比べて高く、培地別にはFBS、bFGFまたはEGFが欠如した培地で培養された細胞が、成長率、分化率、及びテロメラーゼ活性が低下し、これらの成分は、細胞が育って活性を持つのに必須な要素であることを確認した。
【0021】
更に、本発明は、セレンを含まない培地とコントロールであるセレンを含む培地との間で、若い群及び老齢群のそれぞれに由来する幹細胞の細胞分化率が同様であることが分かった。しかしながら、2種の培地間のテロメラーゼ活性分析の結果が示すところによれば、テロメラーゼ活性は、セレンを含まない培地で培養した老齢群の方が若い群よりも低かった。このことが示しているのは、高齢者からの細胞にテロメラーゼ活性を提供するためには、培養培地中にセレンを培地に必須的に含ませるべきであるということである。
【0022】
他の観点において、本発明は、FBS(fetal bovine serum)、抗酸化剤、サイトカインおよびNAC(N−アセチル−L−システイン)を含有することを特徴とする高齢者由来の間葉系幹細胞を若い幹細胞に転換するための培地組成物で高齢者由来間葉系幹細胞を培養することを含む高齢者由来の間葉系幹細胞を若い幹細胞に転換する方法に関する。
前記間葉系幹細胞の培養に用いられる基本培地としては、当業界で幹細胞培養に適していると知られている通常の培地、例えばDMEM、MEM、K−SFM培地などが用いられるが、好ましくは、無血清培地が用いられ、最も好ましくはK−SFM(Keratinocyte-SFM;Keratinocyte serum free medium)培地が用いられる。
【0023】
前記間葉系幹細胞の培養に用いられる培地は、当業界に公知である、間葉系幹細胞の未分化の表現型の増殖を促しながら分化は抑制する添加剤を補うことができる。
【0024】
また、培地は、等張液中の中性緩衝剤(例えば、リン酸塩および/または高濃度の重炭酸塩)および蛋白質栄養素(例えば、血清、例えばFBS、血清代替物、アルブミン、または必須アミノ酸と非必須アミノ酸、例えばグルタミン)を含有することができる。さらに、脂質(脂肪酸、コレステロール、血清のHDLやLDL抽出物)と、この種のほとんどの保存液培地で発見された他の成分(例えば、インスリンまたはトランスフェリン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、ピルビン酸塩、任意のイオン化型または塩である糖源、例えば、グルコース、セレン、グルココルチコイド、例えば、ヒドロコルチゾンおよび/または還元剤、例えば、β−メルカプトエタノール)を含有することができる。
【0025】
また、培地は、細胞が互いに癒着したり、容器の壁に癒着したり、大き過ぎた束の形成を防ぐ目的で、抗凝集剤(anti-clumping agent)、例えば、Invitrogenから販売しているもの(Cat#0010057AE)を含むことが有益であり得る。
【0026】
その中でも、下記の1つ以上の追加の添加剤を用いることが有利であり得る:
・幹細胞因子(SCF、Steel因子)、c−kitを二量化する他のリガンドまたは抗体、および同じシグナル伝達経路の他の活性剤
・他のチロシンキナーゼ関連受容体、例えば、血小板由来の成長因子(Platelet-Derived Growth Factor;PDGF)、マクロファージコロニー刺激因子、Flt−3リガンド、および血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor;VEGF)の受容体のためのリガンド
・環状AMP濃度を高める因子、例えば、フォルスコリン
・gp130を誘導する因子、例えばLIFまたはオンコスタチンM
・造血成長因子、例えば、トロンボポエチン(TPO)
・変形性成長因子、例えば、TGFβ1
・ニューロトロフィン、例えば、CNTF
【0027】
本発明の培養のための間葉系幹細胞は、例えば、以下のような方法で獲得することができる。
【0028】
まず、脂肪吸引法(Liposuction)などによって腹部から得られたヒト脂肪組織を分離して、PBSで洗浄した後、組織を細かく切った後、コラーゲン分解酵素を添加したDMEM培地を用いて分解した後、PBSで洗浄し、1000rpmで5分間遠心分離する。上澄み液は除去し、底に残ったペレットはPBSで洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離する。100μmのメッシュを用いて浮遊物を除去した後、PBSで再び洗浄した。DMEM(10% FBS、2mM NAC、0.2mM アスコルビン酸)培地で培養し、一晩経過した後、培養容器の底に付着していない細胞は、PBSで洗浄し、NAC、アスコルビン酸、カルシウム、rEGF、BPE、インスリンおよびヒドロコルチゾンを含有したケラチノサイト−SFM培地を2日毎に交換しながら培養して間葉系幹細胞を分離して、そして継代培養して、間葉系幹細胞を得ることができる。この他、当業界に公知の方法で間葉系幹細胞を得ることができる。この他にも、当業界に既に公知の方法で間葉系幹細胞を得ることができる。
【0029】
本発明の一実施例では、抗酸化剤としてセレンを用いており、用いられるセレンは、0.5〜1ng/mLを用いることが好ましい。この時、この含有量が0.5μg/L未満の場合、酸素の毒性に敏感であり、10μg/Lを超えると、深刻な細胞毒性をもたらす。
【0030】
本発明では、インスリンに代わる成分として、インスリン様因子(insulin-like growth factor)を用いており、これは、グルコース代謝とタンパク質の代謝を向上させ、細胞の成長を促す役割を果たし、特に好ましくは、組換えIGF−1(Insulin-like growth factor-1)を用いる。インスリン様因子の好ましい含有量は、10〜50n/mLであり、この成分が10ng/mL未満の場合には、アポトーシス(Apoptosis)をもたらし、50μg/Lを超える場合には、細胞毒性やコストの増加の問題がある。
【0031】
また、本発明の一実施例では、上皮細胞成長因子(EGF)を用いており、EGFは、in vivoの状態で様々な形態の細胞増殖を引き起こすことができ、好ましくは、組換え上皮細胞成長因子を用いる。上皮細胞成長因子の好ましい含有量は、10〜50ng/mLであり、この含有量が10ng/mL未満の場合、特別な効果がなく、50ng/mLを超えると、細胞毒性を有する。
【0032】
また、本発明では、繊維芽細胞増殖因子(bFGF)が用いられ、これはin vivoの状態で様々な形態の細胞増殖を引き起こすことができ、好ましくは、組換え繊維芽細胞増殖因子を用いる。繊維芽細胞増殖因子の好ましい含有量は、1〜100ng/mLである。
【0033】
本発明の一態様では、FBS、bFGFおよびEGFが年齢に関係なく、脂肪間葉系幹細胞の培養には欠かせない因子であり、特に、bFGFの欠乏が脂肪幹細胞培養に重要な影響を与える結果を確認することができた。また、低年齢の細胞であるほど、成長率も高いとの結果も確認した。
【0034】
本発明の別の態様では、脂肪幹細胞のテロメラーゼ活性において、FBS、bFGFおよびEGFが重要な因子であることを確認し、テロメラーゼ活性は、20代で最も高く現れ、セレンがない培地の場合、テロメラーゼ活性が低下することを確認することができ、セレン含有培地で培養した場合、高齢者由来の脂肪幹細胞も若者由来の脂肪幹細胞と似ているテロメラーゼ活性を持つことができることを確認した。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を通して、本発明をより一層詳細に説明する。この実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこの実施例によって制限されると解釈されないことは当業界の通常の知識を有する者には自明である。
【実施例1】
【0036】
ヒトの脂肪組織由来間葉系幹細胞の分離
患者の年齢が20代、30代、70代と80代の患者からの脂肪吸引法(Liposuction)によって、腹部の脂肪から脂肪組織を各々分離し、PBSで洗浄した。洗浄された脂肪組織を細かく切った後、コラゲナーゼタイプ1(1mg/mL)を添加したDMEM培地を用いて、37℃で2時間の間組織を分解させた。コラゲナーゼ処理された組織をPBSで洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を除去し、ペレットをPBSで洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離した。100μmメッシュでフィルタリングして浮遊物を除去した後、PBSで洗浄し、10% FBS、2mM NAC(N−アセチル−L−システイン)、0.2mMアスコルビン酸が添加されたDMEM培地で培養した。
【0037】
一晩経った後非付着性細胞は、PBSで洗浄し、5% FBS、2mM NAC、0.2mMアスコルビン酸、0.09mMカルシウム、5ng/mL rEGF、5μg/mLのインスリン、10ng/mL bFGFおよび74ng/mLヒドロコルチゾンと1ng/mLのセレン(selenium)を含有したケラチノサイト−SFM培地(RKCM)を2日毎に交換しながら継代培養し、3継代培養した後、20代、40代と70代由来の脂肪幹細胞の幹細胞の活性を分析した。
【0038】
幹細胞の活性を分析するために、顕微鏡での形態、幹細胞の分化マーカー、テロメラーゼ活性、テロメアの長さと分化能を確認した。
その結果、20代、40代と70代で分離された脂肪幹細胞が3継代培養後、それぞれ類似する幹細胞の活性を有することが確認された。
【実施例2】
【0039】
幹細胞を若くする培地成分の探索
実施例1で用いられたRKCM培地に添加される活性成分であるFBS、NAC、アスコルビン酸、カルシウム、rEGF、5μg/mLのインスリン、bFGF、ヒドロコルチゾンおよびセレン(selenium)のうちひとつずつを除去した培地を製造し、前記活性成分がそれぞれ除去された培地での20代、30代、70代、及び80代の患者由来の脂肪幹細胞の表現型を確認した。
【0040】
培地1〜10を製造し、1番培地はRKCM培地であり、2〜10番はRKCM培地で成分を欠乏させた培地を用いており、各々の欠乏成分は、表1に示した。
【表1】
【0041】
(1)形態と細胞増殖速度の観察
実施例1の方法で分離された20代、30代、70代、及び80代由来の脂肪幹細胞を前記各々の培地で第4代まで継代した後、顕微鏡像での形態を確認し(
図1及び
図2)、継代の過程で細胞の数を血球計算器を用いて測定し、細胞数をカウントして増殖速度を確認した。
【0042】
10種の培地で培養し、若者(20代と30代)と高齢者(70代と80代)の年齢別CPDL(cell population doubling level)と培地別CPDLを
図3および
図4にそれぞれ示した。
【0043】
10種の様々な幹細胞活性物質を除去した培養培地で培養した若者(20、30代)と高齢者(70、80代)の脂肪間葉系幹細胞は、年齢別CDPLは2番と10番の培地を除いて、20、30、70、80代の順で高い成長率を見せた。培地別には、年代別に多少の違いがあるが、1、6、または7番の培地が成長率が高く、2番培地が最も低かった。3番培地も他の培地に比べて成長率が低い結果を示した。
【0044】
10種の培地で培養した脂肪幹細胞の形態や成長率を観察した結果、培地2、3、10番は、年齢に関係なく、脂肪間葉系幹細胞の培養には欠かせない因子であり、全く成長が進まない2番、10番の培地群に比べて3番培地因子の欠乏は、脂肪間葉系幹細胞の培養に重要な影響を与える結果を確認することができた。また、低年齢の細胞であるほど、成長率も高いとの結果も確認した。
【0045】
(2)テロメラーゼ活性の確認
実施例1の方法で分離された20代、30代、70代、及び80代由来の脂肪幹細胞を、前記5種(1、2、3、9、10)培地で第3代まで継代した後、幹細胞のテロメラーゼ活性を確認した。
【0046】
培養培地で培養した脂肪由来幹細胞をPBSで洗浄した後、添加したDMEM培地を用いて37℃で2時間の間消化した。PBSで洗浄後、3000Xgで10分間遠心分離した。上澄み液を除去した後、Telo TAGGG Telomerase PCR ELISAキット(Roche製)中の溶解液で細胞を溶解し、氷で30分間反応させた。16,000xgで20分間遠心分離して上澄み液のみを分離して一部の上澄み液とキットに含まれている反応混合物を混合してPCR反応をさせた。PCR反応は、イロンゲーション:25℃、10分、インアクティベーション:94℃、5分、デナチュレーション:94℃、30秒、アニーリング:50℃、30秒、ポリメリゼーション:72℃、90秒である。増幅された試料5μLにキットに含まれている25μLのデナチュレーション試薬を室温で10分間反応させた後、225μLのハイブリダイゼーション溶液を添加して混合した。このうち100μLのみ予めコーティングされたマイクロプレートに分株して、37℃で2時間の間、300rpmの速度で反応させた後、ハイブリダイゼーション溶液を除去した。洗浄溶液で数回洗浄した後、100μLの抗DIG−POD反応溶液を添加して、室温で300rpmの速度で30分間反応し、その後、溶液を除去した後、洗浄溶液で数回洗浄した。100μLのTMB基質溶液を添加し、室温で300rpmの速度で30分間反応した後、100μLの停止溶液を添加して色の変化を観察する。この時、色は中断溶液を添加すると、青から黄色に変化し、マイクロプレート(ELISA)機器で450nmの波長で30分以内に測定した。
【0047】
その結果、
図5に示すように、5種の培地で培養した脂肪幹細胞のテロメラーゼ活性は、20代や30代では9番培地で培養した細胞が活性が高く、2、3、10番培地の細胞は、ほとんど活性がなかった。老齢群では、1番培地で培養した細胞が9番培地よりわずかに高い活性を示した。老齢群においても2、3、10番培地で培養した細胞のテロメラーゼ活性は低かった。
【0048】
2種の培地(1番、9番培地)で培養した20代、30代、70代、及び80代由来の脂肪幹細胞のテロメラーゼ活性を
図6に示した。
【0049】
その結果、1番と9番培地で培養した脂肪幹細胞のテロメラーゼ活性は、20代で最も高い活性を示し、30代を除いて1番培地での細胞が9番培地での細胞よりもテロメラーゼ活性が高かった。
【0050】
また、1、9番培地を用いてP4まで継代したとき、高齢群である80代で多能性(pluripotency)が最も高いのに対し、テロメラーゼ活性は、20代で最も高くなった。テロメラーゼの活性結果だけで分析すると、1番に比べて9番培地内の除去された成分は、僅かではあるが幹細胞の活性を低下させる成分であることを確認することができ、老齢群で9番で削除された成分が含まれた培地で細胞を培養した場合、若い群の細胞の活性度を持てるように培養できるという点で重要な成分であることを改めて確認した。
【0051】
さらに、1、9番の培地を用いて、P4およびP6継代で培養した後、継代培養数に応じたテロメラーゼ活性の変化を測定した。
その結果、
図7に示すように、全年齢層と二つの培地ですべてP6よりも継代数の低いP4の活性度が高く示されるとの結果を確認することができた。
【0052】
(3)幹細胞マーカーの発現の確認
実施例1の方法で分離された20代、30代、70代、及び80代由来の脂肪幹細胞を、前記1、9番培地で第3代まで継代した後、90%まで育てた。このように育てた脂肪幹細胞から培地を除去し、PBSで1回以上洗浄した後、RNA抽出のための細胞溶解バッファー(Intron Biotechnolgy、Sungnam、Korea)を入れて細胞を溶解させて、Total Extractionキット(Intron Biotechnolgy)を利用して、RNAを抽出した。抽出されたRNAをcDNA(Intron Biotechnology cDNA syntheis kit)に変換した後、多能性マーカーであるoct−4、NanogおよびRex1のプライマーを作成してからPCRを実施した。PCR産物を電気泳動した後、イメージアナライザーを通じて定量した。
【0053】
その結果、
図8に示すように、1、9番培地で培養した脂肪間葉系幹細胞の個体間の差が大きかったが、いずれも、多能性確認のマーカーであるoct4、nanogおよびRex1を発現した。年齢別では、老齢群である80代からのマーカーの発現率が高く、培地別では、30代だけにおいて1番培地よりも9番培地の発現率が高く、年齢別では、ほぼ同様の発現率を示した。
【0054】
P4の状態で1、9番培地で培養した脂肪間葉系幹細胞の個体間の差が大きかったが、多能性確認のマーカーであるoct4、nanogおよびRex1が発現した(
図9)。年齢別では、老齢群である80代からのマーカーの発現率が高く、培地別では、全年齢層で1番培地よりも9番培地の発現率が高かった。
【0055】
(4)分化能確認
実施例1の方法で分離された20代、30代、70代、及び80代由来の脂肪幹細胞を5種(1、2、3、9、10)培地で第3代まで継代した後、脂肪誘導培地であるNH Adipodiff培地(Miltenyi Biotec、Bergisch Gladbach、Germany)で37℃、5%のCO
2で21日間培養を進めて、脂肪細胞分化培地の交換は2日間隔で行われた。
【0056】
脂肪細胞分化培地で培養を開始した後、21日目に、オイルレッドO染色法を利用して、脂肪幹細胞が脂肪細胞への分化能を確認した。
【0057】
その結果、
図10に示すように、全年齢、培地内での細胞では、オイルレッドO染色と共に脂肪分化の特徴である脂肪滴(lipid drop)が確認された。これを定量した結果を
図11に示し、培地別では、9、1、3番培地順に分化率が高く、2と10番の培地の結果は類似しており、年齢別では30、20、70、80代の順に分化率が高かった。
【0058】
分子的レベルでの脂肪分化のマーカーであるPPARr、LPLとFABP4dの発現をRT−PCRで確認した結果、
図12に示すように、個体間の差は大きかったが、年齢別では若い群が老齢群に比べて多少発現率が高く、培地別では、全体的に似ているか2番と9番の培地がやや高い水準であった。
【0059】
前記結果から、2、3、10番の培地内活性物質は、年齢に関係なく、脂肪間葉系幹細胞の培養には欠かせない因子であることを確認し、全体的に若い年齢から多能性(pluripotency)や分化率、テロメラーゼ活性の程度が老齢群に比べて高く、培地別では、2、3、10番で培養した細胞の成長率、分化率、及びテロメラーゼ活性が低下し、これらの培地内の成分は、細胞が育って活性を持つのに不可欠な要素であることを示唆している。
【0060】
更に、若い群及び老齢群のそれぞれに由来する幹細胞の間で、セレンを含まない9番培地における細胞分化率が同様であることが分かった。しかし、2種の培地間のテロメラーゼ活性分析の結果が示すところによれば、テロメラーゼ活性は、セレンを含まない培地で培養した老齢群の細胞の方が、若い群の細胞よりも低かった。このことが示しているのは、高齢者からの細胞に、1番培地で培養された細胞と同様のテロメラーゼ活性を提供するためには、9番培地で欠乏しているセレンを培地に必須的に含ませるべきであるということである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によると、60代以上の高齢の患者から採取した間葉系幹細胞も、高分化能、テロメラーゼ活性、高い幹細胞マーカーの発現能を持つ若い間葉系幹細胞にすることができて、間葉系幹細胞を用いた細胞治療の有効性を画期的に増進させることができる。
【0062】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとっては、このような具体的な記術は単に望ましい実施様態であるだけであり、これによって本発明の範囲が制限されないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は添付された請求範囲及びその等価物によって定義される。