【実施例】
【0018】
本発明による実施例に係るCOシフト触媒及びそれを用いたCOシフト反応装置について、図面を参照して説明する。
図1は、COシフト触媒を充填したCOシフト反応装置を備えたガス化ガス精製システムの概略図である。
図1に示すように、ガス化ガス精製システム10は、燃料Fである石炭をガス化するガス化炉11と、生成ガスであるガス化ガス12中の煤塵を除去するフィルタ13と、フィルタ13を通過した後のガス化ガス12中のハロゲンを除去する湿式スクラバ装置14と、熱交換後のガス化ガス12中のCO
2及びH
2Sを吸収除去する吸収塔15Aと再生する再生塔15Bからなると共に再生塔15B側に再生過熱器16を備えたガス精製装置15と、ガス化ガス12の温度を上げる第1の熱交換器17及び第2の熱交換器18と、温度が例えば300℃に上昇されたガス化ガス12中のCOをCO
2に変換して精製ガス22とするCOシフト触媒19を備えたCOシフト反応装置20と、を具備するものである。なお、
図1中、符号21は水蒸気を図示する。
【0019】
ガス化炉11で、燃料Fである石炭を空気や酸素等のガス化剤と接触させ、燃焼・ガス化させることによってガス化ガス12が生成される。ガス化炉11で生成されるガス化ガス12は、一酸化炭素(CO)、水素(H
2)、二酸化炭素(CO
2)を主成分とするものであるが、石炭中に微量に含まれる元素(例えばハロゲン化合物、水銀(Hg)などの重金属)や、石炭ガス化の際の未燃化合物(たとえばフェノール、アントラセンなどの多環芳香族、シアン、アンモニアなど)等も微量に含有する。
【0020】
ガス化炉11で生じたガス化ガス12は、ガス化炉11からフィルタ13に導入される。フィルタ13に導入されたガス化ガス12は、ガス化ガス12中の煤塵が除去される。なお、フィルタ以外に、サイクロンや電気集塵装置(EP:Electrostatic Precipitator)等を用いるようにしてもよい。
【0021】
ガス化ガス12は、フィルタ13で煤塵が除去された後、ガス精製装置15によりガス精製が行われ、その後ガス化ガス12の温度を第1及び第2の熱交換器17、18により上昇させている。
次いで、水蒸気21が水蒸気供給装置(水蒸気供給手段)により供給された後、COシフト触媒19を有するCOシフト反応装置20に導入される。このCOシフト反応装置20により、ガス化ガス12中の一酸化炭素(CO)を改質し、COシフト触媒19下で二酸化炭素(CO
2)に変換するようにしている。
【0022】
本発明に係るCOシフト触媒19は、ガス中の一酸化炭素(CO)を改質するCOシフト触媒であって、モリブデン(Mo)又は鉄(Fe)のいずれか一種を主成分とすると共に、ニッケル(Ni)又はルテニウム(Ru)のいずれか一種を副成分としてなり、この活性成分を担持するチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、シリカ(Si)、アルミニウム(Al)、ランタン(La)のいずれか二種以上からなる複合酸化物を担体としてなる。
【0023】
複合酸化物の一例としては、例えばTiO
2−SiO
2、TiO
2−ZrO
2、TiO
2−Al
2O
3、ZrO
2−Al
2O
3、TiO
2−CeO
2、TiO
2−La
2O
3等を用いることにより、担体の比表面積を増大させ、初期性能(初期CO転化率)を向上させるようにしている。
【0024】
これにより、低水蒸気量の場合であっても、炭素析出による活性の低下度合いを軽減するようにしている。
この結果、本発明のCOシフト触媒を用いる場合、水蒸気量を低減(例えば(水蒸気(H
2O)/CO=3から水蒸気(H
2O)/CO=1程度に大幅に低下)させた場合であっても、初期CO転化率が高いので、炭素(C)析出があった場合においても、長期間に亙って活性性能が保持されるものとなる。この結果、長期間に亙って、低水蒸気量でCOシフト反応を進行させても、炭素析出に対する耐久性にすぐれたものとなるので、COシフト反応効率の大幅な低下がなく、良好なCOシフト反応を進行させることが可能となる。
【0025】
ここで、主成分(第1成分)であるモリブデン(Mo)又は鉄(Fe)の担持量としては、0.1〜25重量%、より好ましくは7〜20重量%とするのが良く、副成分(第2成分)であるニッケル(Ni)又はルテニウム(Ru)の担持量としては、0.01〜10重量%、より好ましくは2〜10重量%が好ましい。
【0026】
また、助触媒(第3成分)としては、例えばカルシウム(Ca)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属、リン(P)及びマグネシウム(Mg)のいずれか一種を挙げることができる。また、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)等を用いることもできる。
なお、リンとマグネシウムは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ではないが、酸点を抑制する作用があるので、助触媒として用いることができる。
【0027】
本発明では、例えばカルシウム(Ca)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、リン(P)及びマグネシウム(Mg)のいずれか一種を添加することで、初期の酸点を減少させることとなる。
【0028】
この結果、例えば100時間耐久試験後のCO転化率は、従来触媒よりも高いものとなる。
その理由として、助触媒(第3成分)の添加により、触媒の持つ初期酸量を低下させた事により、炭素(C)析出量を低減できたためと推定される。
【0029】
このように、本発明に係るCOシフト触媒によれば、ガス化炉11でガス化したガス化ガス12中のCOをH
2に変換する際に、水蒸気(H
2O)/CO=3から水蒸気(H
2O)/CO=1程度に大幅に低下した場合に、炭素の析出が抑制され、長期間に亙って安定してCOシフト変換が可能となる。また、供給する水蒸気量を低減させることとなり、高効率なガス精製プロセスを提供することができる。
【0030】
[試験例]
以下、本発明の効果を示す試験例について説明する。
1)試験触媒1の製法
320.2gのTi源であるTiOSO
4と1441.8gの水を常温で混合させた後、200gの日産化学製の「スノーテックスO(商品名)」(シリカゾル、SiO
2=20wt%)を混合する。その後9vol%NH
4OHをゆっくりと滴下して混合液中のpHを7にして沈殿物を生成させ、さらに2時間攪拌して熟成させた。熟成後に得られた沈殿物をろ過して十分洗浄した後、乾燥、焼成(500℃で5時間)を施すことにより担体を得た。
この担体に対し、最終的に得られる全粉末量に対してNiOが4重量%、MoO
3が14重量%担持されるように添加後、磁製皿上で蒸発乾固含浸した。そして、得られた粉末を乾燥器で完全に乾燥後、500℃で3時間(昇温速度100℃/h)焼成を施すことにより粉末触媒を得た。
得られた粉末触媒を30tonの加圧成形器で粉末を固定化させた後、粒径が所定粒径(例えば2〜4mm)の範囲となるように破砕後篩い分けして試験触媒1を得た。
【0031】
2)試験触媒2の製法
試験触媒1の製造において、担体として、SiO
2源の替わりにZrOCl
2をZrO
2換算で40g相当分用いた事以外は、試験触媒1と同様に操作して試験触媒2を得た。
【0032】
3)試験触媒3の製法
試験触媒1の製造において、担体として、SiO
2源の替わりにAl(NO
3)
3・9H
2OをAl
2O
3換算で40g相当分用いた事以外は、試験触媒1と同様に操作して試験触媒3を得た。
【0033】
4)試験触媒4の製法
試験触媒3の製造において、担体として、TiOSO
4の替わりにZrOCl
2をZrO
2換算で160g相当分用い、ZrO
2/Al
2O
3(重量比80:20)とした以外は、試験触媒1と同様に操作して試験触媒4を得た。
【0034】
5)試験触媒5の製法
試験触媒1の製造において、担体として、SiO
2源の替わりにCe(NO
3)
3・6H
2OをCeO
2換算で40g相当分用い、TiO
2/CeO
2(重量比80:20)とした以外は、試験触媒1と同様に操作して試験触媒5を得た。
【0035】
6)試験触媒6の製法
試験触媒1の製造において、担体として、SiO
2源の替わりにLa(NO
3)
3・9H
2OをLa
2O
3換算で40g相当分用い、TiO
2/La
2O
3(重量比80:20)とした以外は、試験触媒1と同様に操作して試験触媒6を得た。
【0036】
7)試験触媒7の製法
試験触媒1の製造において、担体として、TiOSO
4及びシリカゾルの添加量を替え、TiO
2/SiO
2の重量比を50:50に変更した以外は、試験触媒1と同様に操作して試験触媒7を得た。
【0037】
8)試験触媒8の製法
試験触媒4の製造において、担体として、TiOSO
4及びシリカゾルの添加量を替え、TiO
2/SiO
2の重量比を95:5に変更した以外は、試験触媒1と同様に操作して試験触媒8を得た。
【0038】
9)試験触媒9の製法
試験触媒2の製造において、担体として、TiOSO
4及びZrOCl
2の添加量を替え、TiO
2/ZrO
2の重量比を50:50に変更した以外は、試験触媒1と同様に操作して試験触媒9を得た。
【0039】
10)試験触媒10の製法
試験触媒2の製造において、担体として、TiOSO
4及びZrOCl
2の添加量を替え、TiO
2/ZrO
2の重量比を95:5に変更した以外は、試験触媒1と同様に操作して試験触媒10を得た。
【0040】
11)比較触媒の製法
試験触媒1の製造において、担体として、石原産業製酸化チタン(TiO
2(「MC−90」商品名))を用いた以外は、同様に操作して比較触媒を得た。
【0041】
触媒の評価は下記のようにして行った。
評価試験は、内径14mmの管型反応管に触媒を3.3cc充填し、流通式マイクロリアクタ装置により触媒活性を評価した。
初期の触媒活性の比較は、触媒層入口、出口のガス流量変化のCO転化率を求めた。
【0042】
初期及び耐久後の活性評価条件は、以下の条件とした。
ガス組成は、H
2/CO/CO
2=30/50/20モル%、H
2S=700ppm、S/CO=1.0とし、0.9MPa、温度250℃、SV=6、000h
-1の条件で試験した。
【0043】
CO転化率は下記式(I)による。
CO転化率(%)=(1−(触媒層出口COガス流速(mol/時間))/(触媒層入口COガス流速(mol/時間)))×100・・・(I)
【0044】
また、耐久(加速)試験は以下の条件とした。
ガス組成は、H
2/CO/CO
2=30/50/20モル%、H
2S=700ppm、S/CO=0.1とし、0.9MPa、温度450℃、SV=2、000h
-1の条件で試験した。
【0045】
この触媒の組成の一覧及び試験の結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、本試験例に係る触媒1乃至10は、担体を複合酸化物とし、初期比表面積を増大させているので、低水蒸気量であっても、COシフト反応が良好に維持されることが確認された。
【0048】
これに対し、比較例にかかる比較触媒は、初期比表面積が試験触媒に較べて小さく、100時間経過後の比表面積も同様に小さいものであった。
よって、長期間に亙る使用で触媒活性性能が低下しても、初期比表面積の向上分だけ、比較触媒よりも性能が上回ることを確認した。
【0049】
よって、本試験にかかるCOシフト触媒は、担体を複合酸化物として、初期比表面積を増大させているので、炭素(C)析出の発生量があっても、比表面積の増大分だけ、耐久性に優れ、長期間安定してCOシフト反応を維持することが判明した。
【0050】
<石炭ガス化発電プラント>
本実施例に係るCOシフト反応装置20を備えた石炭ガス化発電プラントについて、図面を参照して説明する。
図2は、石炭ガス化発電プラントの一例を示す図である。
図2に示すように、石炭ガス化発電プラント50は、ガス化炉11と、フィルタ13と、COS変換装置51と、COシフト反応装置20と、ガス精製装置(H
2S/CO
2回収装置)15と、複合発電設備52とを有する。
【0051】
ガス化炉11に、燃料Fである石炭と、ガス化空気圧縮機53からの空気54とを供給し、石炭をガス化炉11でガス化し、生成ガスであるガス化ガス12を得る。また、ガス化炉11には、空気54を空気分離装置55で窒素(N
2)と酸素(O
2)とに分離して、N
2、O
2を適宜ガス化炉11内に供給する。石炭ガス化発電プラント50は、ガス化炉11で得られたガス化ガス12をフィルタ13に供給し、除塵した後、COS変換装置51に供給し、ガス化ガス12中に含まれるCOSをH
2Sに変換する。
その後、H
2Sを含むガス化ガス12をCOシフト反応装置20に供給すると共に水蒸気21をCOシフト反応装置20内に供給し、COシフト反応装置20内でガス化ガス12中のCOをCO
2に変換するCOシフト反応を起こさせる。
このCOシフト反応装置20では、本発明にかかるCOシフト触媒を用いているので、上述の通り水蒸気量を大幅に低減させても、改質ガスを長期間に亙って効率よく生成することができる。
COシフト反応装置20でガス化ガス12中のCOをCO
2に変換した後、得られた改質ガスをガス精製装置15であるH
2S/CO
2回収装置に供給し、H
2S/CO
2回収装置で改質ガス中のCO
2及びH
2Sを除去する。
【0052】
ガス精製装置15で精製処理された後の精製ガス22は、複合発電設備52に供給される。複合発電設備52は、ガスタービン61と、蒸気タービン62と、発電機63と、排熱回収ボイラ(HRSG:Heat Recovery Steam Generator)64とを有する。複合発電設備52は、精製ガス22を発電手段であるガスタービン61の燃焼器65に供給する。また、ガスタービン61は、圧縮機66に供給された空気67を燃焼器65に供給する。ガスタービン61は、精製ガス22を燃焼器65で燃焼して高温・高圧の燃焼ガス68を生成し、この燃焼ガス68によってタービン69を駆動する。タービン69は発電機63と連結されており、タービン69が駆動することによって発電機63が電力を発生する。タービン69を駆動した後の排ガス70は500〜600℃の温度を持っているため、排熱回収ボイラ(HRSG:Heat Recovery Steam Generator)64へ送られて熱エネルギーが回収される。排熱回収ボイラ(HRSG)64では、排ガス70の熱エネルギーによって蒸気71が生成され、この蒸気71によって蒸気タービン62を駆動する。蒸気71は蒸気タービン62で使用された後、蒸気タービン62から排出され、熱交換器72で冷却された後、排熱回収ボイラ64に供給される。また、排熱回収ボイラ64で熱エネルギーを回収された排ガス73は、脱硝装置(図示せず)等で排ガス73中のNOx等が除去された後、煙突74を介して大気中へ放出される。
【0053】
このように、本実施例に係るCOシフト反応装置20を備えた石炭ガス化発電プラント50は、ガス化炉11でガス化されたガス化ガス12を、COシフト反応装置20において、水蒸気量を低減させた場合(水蒸気(H
2O)/CO=1程度)でも、COシフト触媒において、担体を複合酸化物として、初期比表面積を増大させているので、低水蒸気量で炭素(C)析出が発生する場合においても、耐久性に優れ、長期間安定してCOシフト反応を維持することができ、ガス化ガス12中に含まれるCOをCO
2に変換して改質ガスを長期間に亙って安定してCOシフト反応を行うことができる。
これにより、COシフト反応において、少ない水蒸気で安定してCOシフト反応を継続することができるので、HRSG64から抽気する水蒸気量を減らすことができ、石炭ガス化発電プラント50のエネルギー効率が向上した運転を行うことが可能となる。
【0054】
なお、COシフト反応装置20は、COS変換装置51とガス精製装置(H
2S/CO
2回収装置)15との間(H
2S/CO
2回収装置の前段側)に設置する場合に限定されるものではなく、ガス精製装置(H
2S/CO
2回収装置)15の後流側に設置するようにしてもよい。
【0055】
また、本実施例では、ガス精製装置(H
2S/CO
2回収装置)15から排出された精製ガス22をタービン用のガスとして用いた場合について説明したが、COシフト反応装置20ではガス化ガス12に大量に含まれるCOをCO
2に変換するため、タービン用のガス以外に、例えばメタノール、アンモニアなどの化成品を合成する原料ガスとして用いてもよい。
【0056】
以上、本実施例に係るCOシフト反応装置20は、ガス化炉11で石炭などの燃料Fをガス化させることによって生成されたガス化ガス12中のCOをCO
2に変換する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、燃料電池等でCOを含有するガスをCO
2に変換するためのCOシフト反応装置等においても同様に適用することができる。