(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定形状の成形体と、その表面に形成されている液膜とを有する構造体において、該液膜は、分散媒に非相溶性液体が分散された分散液により形成されていることを特徴とする構造体。
所定形状の成形体と、その表面に形成されている液膜とを有する構造体を製造する方法において、分散媒に非相溶性液体を分散し、得られた分散液を、分散媒と非相溶性液体が液相に分離する前に、該成形体の表面に塗布することにより、該分散液からなる液膜を形成することを特徴する製造方法。
前記成形体が容器であり、前記分散液からなる液膜を形成した後、該液膜中の分散媒と非相溶性液体とが液相に分離する前に、容器内容物を充填する請求項8に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
液状内容物が収容される容器では、容器の材質を問わず、内容物に対する排出性が要求される。水のように粘性の低い液体を収容する場合では、このような排出性はほとんど問題とならないが、例えば、マヨネーズやケチャップのように粘度の高い粘稠な物質では、プラスチック容器であろうがガラス製容器であろうが、この排出性はかなり深刻な問題である。即ち、このような内容物は、容器を傾けて速やかに排出されないし、また、容器壁に付着してしまうため、最後まで使い切ることができず、特に容器の底部にはかなりの量の内容物が排出されずに残ってしまう。
【0003】
最近になって、容器等の成形体の表面に油膜を形成することによって、粘稠な物質に対する滑り性を高める技術が種々提案されている(例えば特許文献1,2)。
かかる技術によれば、成形体表面を形成する合成樹脂に滑剤などの添加剤を加える場合と比して、滑り性を飛躍的に高めることができるため、現在注目されている。
また、本出願人は、先に、マヨネーズ様食品に代表される水中油型乳化物が収容された包装容器であって、該水中油型乳化物が接触する容器内面に油膜が形成されている包装容器を提案している(特願2014−023425号)。
【0004】
しかしながら、上記のように基材表面に油膜を形成して表面特性を改質する手段においては、該油膜により発揮される滑り性の有効寿命が短く、長期間経過後には、その滑り性が低下し、場合によっては、表面に内容物などが貼り付いてしまうなどの問題が生じていた。特に、表面を滑る物質が、乳化物、特に油分の少ないマヨネーズ様食品であるとき、この傾向が顕著である。
【0005】
さらに、特許文献3には、液状油脂成分、動植物ワックス及び水を含む油中水型エマルジョンからなる離型油が提案されており、この離型油を容器に噴霧することにより、パンや菓子などを焼く際に、その生地の容器への付着を防止し得ることが示されている。
しかるに、本発明者等の実験によると、このような離型油により液膜を形成した場合、滑り性はある程度向上するものの、滑り性の長寿命化にはあまり寄与していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、表面に液膜を有する成形体から構成され、粘稠な物質、特に乳化物に対する滑り性が持続して安定に発揮される構造体及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、粘稠な物質、特に乳化物が内容物として収容される容器として使用され、かかる乳化物に対する滑り性に優れた構造体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、乳化物に対する滑り性について多くの実験を行い、検討した結果、食用油と水からなる分散液により、各種形状を有する成形体の表面に液膜を形成することによって、乳化物に対しての滑り性が高くなり、しかも、この滑り性が長期間にわたって安定に発揮されるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明によれば、所定形状の成形体と、その表面に形成されている液膜とを有する構造体において、該液膜は、分散媒に非相溶性液体が分散された分散液により形成されていることを特徴とする構造体が提供される。
【0010】
本発明の構造体においては、
(1)前記液膜は、第1液膜とその表面の第2液膜により形成されていること、
(2)前記第2液膜は、前記第1液膜の分散液が転相した分散液であること、
(3)前記分散媒と前記非相溶性液体が、食用油と水、または水と食用油であること
(4)前記成形体が容器であること、
(5)前記容器が、乳化物を内容物として収容されること、
(6)前記乳化物が、マヨネーズ様食品であること、
が好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、所定形状の成形体と、その表面に形成されている液膜とを有する構造体を製造する方法において、分散媒に非相溶性液体を分散し、得られた分散液を、分散媒と非相溶性液体が液相に分離する前に、該成形体の表面に塗布することにより、該分散液からなる液膜を形成することを特徴する製造方法が提供される。
かかる製造方法においては、前記成形体が容器であり、前記分散液からなる液膜を形成した後、該液膜中の分散媒と非相溶性液体とが液相に分離する前に、容器内容物を充填することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構造体においては、例えば、マヨネーズ様食品などの粘稠な乳化物に対して優れた滑り性を示すばかりか、この滑り性が長期間にわたって安定に発揮される。
例えば、後述する実施例1によれば、本発明にしたがって分散媒(食用油)に分散媒と非相溶性の液体(水)を懸濁分散させた分散液により液膜が内面に形成されている構造体(ダイレクトブロー容器)では、マヨネーズ様食品を充填し、常温にて1週間保管後、速やかに内容物(マヨネーズ様食品)のほぼ全量を排出させることができる(初期滑り性が高い)。しかも、この内容物を充填し、常温1週間保管した後、高温にて約2ヶ月経過後においても、初期と同様、内容物のほぼ全量を排出することができる(経時滑り性も高い)。
これに対して、水を使用せず、食用油のみで液膜を形成した比較例1では、ある程度の初期滑り性を示しているが、上記と同様の期間経過後の経時滑り性は、大きく低下し、容器内に残存する内容物量が多くなっている。
また、界面活性剤を用いて、食用油と水とのエマルジョン(油中水型乳化物)を調製し、このエマルジョンにより液膜が内面に形成されている比較例2では、初期滑り性や経時滑り性の何れも、食用油のみによって液膜を形成した場合とほぼ同等であり、水を食用油に分散させた分散液によって液膜が形成されている本発明と比較すると、経時滑り性はかなり劣っている。
【0013】
このように、本発明では、食用油に水を分散させた分散液により液膜を形成しているため、乳化物に対する優れた滑り性やその持続性が得られるのであるが、その理由について、本発明者等は、次のように推定している。
即ち、食用油等の油分のみで液膜を形成した場合、この液膜上を乳化物が流れると、液膜中の油分が液膜上の乳化物中に徐々に拡散していき、液膜が消失していく。このため、滑り性が不十分となるばかりか、その滑り性も経時と共に低下していく。これは、液膜をエマルジョン(界面活性剤に代表される乳化剤を用いた分散液)によって形成した場合も同様である。即ち、エマルジョンからなる液膜においては、液膜中の水は界面活性剤(乳化剤)によって安定化されているため、安定して液膜内部に存在することとなり、液膜表面は、油分で形成されていると考えられる。この場合、乳化物は液膜を形成している成分のうち、油分と接触することとなり、液膜を形成しているエマルジョン中の油分が液膜上を通過する乳化物中に取り込まれて消失していき、この結果、滑り性は経時と共に低下していくこととなる。
これに対して、本発明にしたがって形成されている液膜では、少なくとも一部の形態を、分散形態から、分散成分が合一した液相形態へと変化させることが可能である。そのため、例えば、液膜が水と食用油の分散液である場合は、経時により、成形体表面に分散成分(水)が少量となった第1液膜の分散液(W/O型)、その表面に第1液膜の分散液が転送した第2液膜(O/W型)が形成され、成形体と乳化物との間に介在するように分布することとなり、液膜上を通過する乳化物に対して優れた滑り性を発揮するばかりか、液膜中の油分の乳化物内への拡散を抑制し、この結果、液膜の消失が有効に抑制され、滑り性の経時的低下が有効に回避されるものと考えられる。
即ち、本発明においては、第2液膜は乳化物に対する滑り性向上剤(潤滑剤)としての機能と液膜中の油分の乳化物内への拡散を抑制する機能を有し、第1液膜はその表面に第2液膜を維持し、成形体の表面に液膜を維持させる機能を有していると考えられる。そして、本発明で用いている液膜は、上記のように、分散液が一部液相に分離し、一部は液膜の内部に残ることにより、第1液膜と第2液膜を形成している。この場合、第1液膜中には第2液膜のマトリクスを形成する成分が残存することにより、成分が残存しない場合に比べ、第1液膜と第2液膜との界面張力は小さくなるため、第1液膜が第2液膜を維持しやすくなっているものと推察される。
このこと(上記液膜間の界面張力の低下)も、乳化物と接触した際も液膜が乳化物に取り込まれず、滑り性が長期間にわたって安定に発揮されることに寄与していると考えられる。
尚、分散媒と、これに分散される液体とが非相溶であるかぎり、この態様に限定されるものではなく、例えば、分散媒として、食用油以外の油性物質を使用することができるし、非相溶性液体として、水以外の水性物質を使用することもでき、さらには、水性液体を分散媒とし、これに非相溶の液体として油性液体を用いることも可能である。
【0014】
さらに、本発明では、液膜を形成する分散液は、分散媒と、これに非相溶の液体との二成分からなり、界面活性剤などのような乳化剤は使用されず、従って、コストの点で有利であるという利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照して、全体として10で示す本発明の構造体は、所定形状に成形されている成形体1と、その表面に形成されている液膜3とから形成されている。この液膜3が、分散媒(例えば食用油)に非相溶性液体(例えば水)を分散させた分散液により形成される。
かかる構造体10では、
図2に示されているように、この液膜3は、第1液膜3aと第2液膜3bから形成されている。即ち、本発明の構造体10上に粘稠な物質(乳化物)5が接触してした状態において、分散液により形成された液膜3の粘稠な物質5側には、第2液膜3bが存在する。この第2液膜3bを構成する液体は、成形体1側の第1液膜3aの分散液が転相した分散液で、互いに非相溶であり、さらに粘稠な物質5に混ざり合わない液体からなり、特に分散液に分散させた水が液相となって分散媒となり食用油が微分散して第2液膜3bを形成することが好適である。そして、粘調な物質5は、成形体1から滑る際、粘調な物質5の性質によって異なるが、第2液膜3bとの界面にて剥離するように滑ったり、粘調な物質5と液膜3のそれぞれに第2液膜3bが分離されて滑ったりしていると考えられる。
【0017】
成形体1は、その表面に液膜3を保持することが可能である限り、その材質は特に制限されず、樹脂製、ガラス製、金属製等の任意の材質により用途に応じた形態を有していればよい。
粘稠な物質、特に、乳化物に対して、持続して優れた滑り性が発揮されるという観点から、乳化物を流すための配管や乳化物が収容された容器や容器蓋などの形態を有していることが好適であり、このような乳化物と接触する面に、上記の液膜3が形成されていることが好適である。さらに、液膜3は、第1液膜3aと、その表面に第2液膜3bが形成されていることが、より好適である。
【0018】
また、特に液膜3を保持するという観点から、成形体1の表面(液膜3の下地面)は、合成樹脂製であることが最も好適である。
【0019】
このような合成樹脂(以下、下地樹脂と呼ぶ)は、成形可能な任意の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってよいが、一般的には、成形が容易であり且つ液膜中の油分(食用油)を安定に保持できるという観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、以下のものを例示することができる。
オレフィン系樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体、環状オレフィン共重合体など;
エチレン・ビニル系共重合体、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等;
スチレン系樹脂、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等;
ビニル系樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等;
ポリアミド樹脂、例えば、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等;
ポリエステル樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらの共重合ポリエステル等;
ポリカーボネート樹脂;
ポリフエニレンオキサイド樹脂;
生分解性樹脂、例えば、ポリ乳酸など;
勿論、成形性が損なわれない限り、これらの熱可塑性樹脂のブレンド物を、下地樹脂として使用することもできる。
【0020】
本発明においては、上記の熱可塑性樹脂の中でも、粘稠な内容物を収容する容器素材として使用されているオレフィン系樹脂やポリエステル樹脂が好適であり、オレフィン系樹脂が最適である。
即ち、オレフィン系樹脂は、PET等のポリエステル樹脂と比較してガラス転移点(Tg)が低く、室温下での分子の運動性が高いため油膜を形成する成分中の食用油の一部が内部に浸透し、これを表面に安定に保持するという点で最適である。
さらに、オレフィン系樹脂は、可撓性が高く、後述するダイレクトブロー成形による絞り出し容器(スクイズボトル)の用途にも使用されており、本発明をこのような容器に適用するという観点からもオレフィン系樹脂は適している。
【0021】
また、かかる成形体1は、上記のような熱可塑性樹脂の単層構造であってもよいし、上記熱可塑性樹脂と紙との積層体であってもよいし、さらに、複数の熱可塑性樹脂が組み合わされた多層構造を有するものであってもよい。
【0022】
特に成形体1が容器の形態を有する場合において、内面が、オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂で形成されている場合には、中間層として、適宜接着剤樹脂の層を介して、酸素バリア層や酸素吸収層を積層し、さらに、内面を形成する下地樹脂(オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂)と同種の樹脂が外面側に積層した構造を採用することができる。
【0023】
かかる多層構造での酸素バリア層は、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体やポリアミドなどの酸素バリア性樹脂により形成されるものであり、その酸素バリア性が損なわれない限りにおいて、酸素バリア性樹脂に他の熱可塑性樹脂がブレンドされていてもよい。
また、酸素吸収層は、特開2002−240813号等に記載されているように、酸化性重合体及び遷移金属系触媒を含む層であり、遷移金属系触媒の作用により酸化性重合体が酸素による酸化を受け、これにより、酸素を吸収して酸素の透過を遮断する。このような酸化性重合体及び遷移金属系触媒は、上記の特開2002−240813号等に詳細に説明されているので、その詳細は省略するが、酸化性重合体の代表的な例は、第3級炭素原子を有するオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレンやポリブテン−1等、或いはこれらの共重合体)、熱可塑性ポリエステル若しくは脂肪族ポリアミド;キシリレン基含有ポリアミド樹脂;エチレン系不飽和基含有重合体(例えばブタジエン等のポリエンから誘導される重合体);などである。また、遷移金属系触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等の遷移金属の無機塩、有機酸塩或いは錯塩が代表的である。
【0024】
各層の接着のために使用される接着剤樹脂はそれ自体公知であり、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸もしくはその無水物、アミド、エステルなどでグラフト変性されたオレフィン樹脂;エチレン−アクリル酸共重合体;イオン架橋オレフィン系共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体;などが接着性樹脂として使用される。
上述した各層の厚みは、各層に要求される特性に応じて、適宜の厚みに設定されればよい。
【0025】
さらに、上記のような多層構造の構造体を成形する際に発生するバリ等のスクラップをオレフィン系樹脂等のバージンの樹脂とブレンドとしたリグライド層を内層として設けることも可能であるし、オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂により容器内面が形成された容器において、その外面をポリエステル樹脂或いはオレフィン系樹脂により形成することも勿論可能である。
【0026】
本発明において、上記のような成形体1の表面に設けられる液膜3は、先にも述べたように、分散媒に非相溶性液体を分散させた分散液から形成される。
本発明の液膜を形成する分散液は、分散媒として、流動パラフィンなどの炭化水素系液体、フッ素系液体、シリコーンオイル、食用油などがあげられ、この分散媒に非相溶性液体として、用いる分散媒と混ざり合わない性質があれば、任意の液体を用いることができるが、例えば、イオン液体、水などがあげられる。この際、分散液に適度な分散安定性を持たせるために、分散媒の粘度η1を非相溶性液体の粘度η2よりも大きく設定しておくことが好適である。また、分散媒と非相溶性液体として、食用油と水、水と食用油の組み合わせが好ましい。
【0027】
即ち、食用油は、大気圧下での蒸気圧が小さい不揮発性の液体であり、且つ粘度が適度に高いため、成形体1の表面から流れ落ち難いばかりか、特にオレフィン系樹脂に対する接触角が低く、オレフィン系樹脂により形成されている表面に広がり易く、しかも、マヨネーズ様食品などの食品と接触し、混入した場合にも全く問題を生じないという利点がある。
このような食用油としては、大豆油、菜種油、オリーブオイル、米油、コーン油、べに花油、ごま油、パーム油、ひまし油、アボガド油、ココナッツ油、アーモンド油、クルミ油、はしばみ油、サラダ油等を例示することができ、これらは、混合して使用することも可能である。
特に、液膜3の下地となる成形体1の表面に応じて、その表面に対する室温(25℃)での接触角が小さいもの、例えば38度以下、特に25度以下のものを選択し、使用することが好ましい。
また、食用油の種類によっては、液膜3上を通過する物質と相溶(混和)し易いことがあるが、このような場合は、他の食用油から、液膜3上を通過する物質と相溶しないものを選択して使用すればよい。特に、上記で例示した食用油は、マヨネーズ様食品に対しても何れも非相溶性である。
【0028】
さらに、食用油と水からなる分散液は、少なくとも2成分が含まれていれば良いが、水の量が少なすぎると、分散した水による乳化物に対する滑り性向上効果や滑り性の持続効果が低下する傾向が有り、水の量が多すぎると、成形体1の表面に分散液を保持することが困難となり、液膜3を形成しにくくなる傾向がある。よって、食用油が100質量部あたり、水11〜900質量部、特に43〜400質量部の範囲が好適である。
【0029】
本発明において、食用油と水とが分散された分散液は、ホモジナイザーを用いての強撹拌や、混合液に超音波をかける、食用油が流れている配管中にオリフィスを通して水を圧入する等の方法によって容易に調製することができる。
また、かかる分散液は、乳化物ではないため、食用油と水が液相に分離しない内に、成形体1の表面に塗布して液膜3を形成することが必要である。分散液の塗布手段としては、通常、スプレー噴霧が好適に採用される。分散液が小さな液滴状で成形体1の表面に形成されるため、短時間でのそれぞれの液相への分離を有効に抑制することができるからである。
【0030】
尚、本発明において用いる上記の分散液は、エマルジョンではなく、乳化していないただの分散液であるため、経時で分離してくる。しかし、後述するように、安定性が非常に高く、24時間程度は完全分離せず、特に18時間程度はほぼ分離しないことが確認されている。
【0031】
上記の液膜3は、一般に、液量が1.48〜3.70mg/cm
2程度となる厚みで成形体1の表面に形成され、1.48mg/cm
2よりも小さいと液量が少なく滑り性の経時低下が大きくなり、3.7mg/cm
2よりも大きいと、滑り性は発揮するが、必要以上に存在する液膜は、成形体1の表面に維持されず流れ落ちてしまう。
【0032】
上述した表面構造を有する本発明の構造体10は、乳化物に対する滑り性やその持続性に優れているため、乳化物が液膜3と接触して流れるような用途に有効に適用され、特に乳化物が収容される容器として使用されること、即ち、成形体1が容器の形態を有していることが、本発明の利点を最大限に享受し得るという点で最適である。
【0033】
容器の形状は、特に制限されず、カップまたはコップ状、ボトル状、袋状(パウチ)、シリンジ状、ツボ状、トレイ状等、容器材質に応じた形態を有していてよく、延伸成形されていてもよい。
【0034】
特に合成樹脂製容器では、前述した表面(内容物と接触する内面)を有する前成形体をそれ自体公知の方法により成形し、これを、ヒートシールによるフィルムの貼り付け、プラグアシスト成形等の真空成形、ブロー成形などの後加工に付して容器の形態を有する成形体1を作製し、食用油に水が分散した分散液をスプレー噴霧することにより、目的とする液膜3を容器の内面に形成することができる。
【0035】
図3には、本発明の構造体10の最も好適な形態であるダイレクトブローボトルが示されている。
図3において、全体として10で示されるこの構造体は、ボトルとして使用され、螺条を備えた首部11、肩部13を介して首部11に連なる胴部壁15及び胴部壁15の下端を閉じている底壁17を有しており、このようなボトルの内面に前述した液膜3が形成されることとなる。
【0036】
上述した本発明の構造体10は、乳化物に対する滑り性に優れているが、このような乳化物としては、油滴が水中に分散している水中油型(O/W型)乳化物や、水滴が油中に分散している油中水滴型(W/O型)などがあり、例えば、マヨネーズと称される高脂質食品から低脂質のマヨネーズ食品など、種々の乳化物に適用することができる。
しかるに、本発明者等の実験によると、油分の少ない乳化物ほど、滑り性向上効果が得にくく、しかも滑り性の経時低下が大きい傾向が有り、本発明は、このような乳化物に対しても、優れた滑り性と持続性とを示すため、低脂質の乳化物に本発明を適用することが最も好ましい。
【0037】
例えば脂質含量が50%以下のマヨネーズ様食品、サラダクリーミードレッシング、その他の半固体状ドレッシングであって、特に粘度(23℃)が500mPa・s以上の高粘性のペースト状の乳化物を収容する容器に、本発明は最も好適に適用される。
【実施例】
【0038】
本発明を次の実験例にて説明する。
各実施例、比較例にて使用した容器、分散液、内容物は次のとおりである。
【0039】
<容器>
下記の層構成を有する多層構造を有し、且つ内容量400gの多層ダイレクトブローボトルを供した。
内層:低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)
中間層:エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)
外層:低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)
接着層(内外層と中間層との間):酸変性ポリオレフィン
【0040】
<分散液>
食用油:中鎖脂肪酸添加サラダ油
(粘度33mPa・s(25℃)、接触角18度)
水:純水
表1に示す量の食用油と水を、ホモジナイザーを用いて25℃で微分散化させて分散液を調製し、規定の塗布量を、エアースプレーを用いて容器の内面に均一となるように塗布した。
【0041】
<各種測定方法>
接触角;
容器内面を上面にして分散液に使用した食用油を10mg落とし、20℃、50%RH、接触角計(協和界面科学(株)社DropMaster700)にて測定した。
粘度;
食用油の粘度は、ビーカーに入れた液体に、B型デジタル粘度計のスピンドルとガードを入れ、25℃、回転数10回/分でスピンドルを1分間回転させ、粘度測定を行った。
【0042】
<内容物>
卵1個(50g)と酢15ccと塩2.5ccを混ぜた後、さらに食用油150ccを混ぜ合わせて、実験用のマヨネーズ様食品を作成した。各実施例、比較例では、必要量の内容物を作成して使用した。
【0043】
各実施例、各比較例の内容物を用いて滑り性の評価方法は次の通りである。
<滑り性評価>
ボトル内に、噴霧ノズルを底まで挿入し、分散液を噴霧しながら引き上げることによりボトル底部から側壁全面に塗布した。この容器内面に分散液が形成されているボトル内に、内容物であるマヨネーズ様食品を常法で400g充填し、ボトル口部をアルミ箔でヒートシールし、キャップで密封して充填ボトルを得た。
内容物が充填された充填ボトルを23℃で1週間保管した(初期ボトル)。
初期ボトルを、表1に示す各保管期間・温度にて更に保管したボトルについて、胴部を押し、ボトル口部を通して内容物を最後まで搾り出した後、このボトル内に空気を入れ形状を復元させた。
次いで、このボトルを倒立(口部を下側)にして1時間保管した後のボトル胴部壁の内容物滑り性の程度(胴部壁に内容物が付着していない程度)を測定し、次の式で内容物付着率を計算した。
内容物付着率(%)
=(内容物が付着している表面積/ボトル胴部壁表面積)×100
上記で計算された内容物付着率から、滑り性を次の基準で評価した。
○:内容物付着率が10%未満
△:内容物付着率が10%以上で50%未満
×:内容物付着率が50%以上
【0044】
〔実施例1〜7〕
成形したボトルに、食用油中に水を分散させた分散液を、表1中の水分散の比率、塗布量で塗布し、滑り性を評価した。
〔比較例1〕
成形したボトルに、分散液に用いた食用油を、表1中の塗布量で塗布し、滑り性を評価した。
〔比較例2〕
成形したボトルに、食用油100gに対して、乳化剤として木蝋3g、水70gを、80℃にて混合して乳化させて室温(25℃)に戻した液を、表1中の塗布量で塗布し、滑り性を評価した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示された実験結果から、ボトルの内面に、水を分散させた分散液を形成することで、内容物の滑り性が向上し、高温にて長期保管した後でも、滑り性を維持しているので、食用油中に水を分散させて調製された分散液を内面に塗布して液膜を形成した成形体は、内容物の滑り性に優れ、長期間性能を維持していることが判る。
【0047】
また、分散液の安定性について実験を行った。
上述した実施例1に用いた分散液100mlをビーカーに入れ、経時による分離程度を目視で確認すると共に、経時ごとの分散液の状態を示す写真を
図4に示し、表2に、経時での分離した食用油と水(分散媒)の比率を示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、作成した分散液、18時間経過後に食用油の一部分離がはじめて確認された。また、一部の分離が確認された後も、水には、食用油が微分散していることが目視でも確認できた。つまり、成形体である容器に塗布した分散液は、微量であるため比重の影響はほどんとなく、食用油が成形体側へ、水が内容物側へ分離していく。そして、それぞれに食用油、水が微分散して安定している状態を保っている。
【解決手段】所定形状の成形体1と、その表面に形成されている液膜3とを有する構造体10において、液膜3は、分散媒に非相溶性液体が分散された分散液により形成されていることを特徴とする。