特許第5968545号(P5968545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5968545波動歯車装置、摩擦係合式の波動装置、および波動発生器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968545
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】波動歯車装置、摩擦係合式の波動装置、および波動発生器
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   F16H1/32 B
【請求項の数】24
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-528475(P2015-528475)
(86)(22)【出願日】2013年11月19日
(86)【国際出願番号】JP2013081201
(87)【国際公開番号】WO2015075781
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2015年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】清野 慧
(72)【発明者】
【氏名】保科 達郎
(72)【発明者】
【氏名】笹原 政勝
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−015191(JP,A)
【文献】 特開2013−194836(JP,A)
【文献】 特開昭59−190541(JP,A)
【文献】 実開平01−122543(JP,U)
【文献】 スイス国特許出願公開第00613261(CH,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性の内歯歯車、可撓性の外歯歯車、および、前記外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車にかみ合わせている波動発生器を有し、
前記外歯歯車と前記内歯歯車のかみ合い位置は、前記外歯歯車における歯筋方向の各軸直角断面上において、これら両歯車の周方向において離れた複数の位置であり、
前記かみ合い位置のそれぞれは、前記歯筋方向に沿って見た場合に、前記周方向に向かって徐々に変化していることを特徴とする波動歯車装置。
【請求項2】
前記波動発生器は前記外歯歯車を楕円状曲線に沿った形状に撓めており、
前記かみ合い位置は前記楕円状曲線の長径位置である請求項1に記載の波動歯車装置。
【請求項3】
前記外歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記楕円状曲線の中心回りに一方向に徐々に変化するように、撓められている請求項2に記載の波動歯車装置。
【請求項4】
前記外歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端までの間において、前記長径位置が、前記中心回りに180度以下の角度の範囲内で変化するように、撓められている請求項3に記載の波動歯車装置。
【請求項5】
前記外歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記中心回りに、一方向に徐々に変化した後に逆方向に徐々に変化するように、撓められている請求項2に記載の波動歯車装置。
【請求項6】
前記外歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記中心回りに90度以下の角度だけ変化した後に逆方向に90度以下の角度だけ変化するように、撓められている請求項5に記載の波動歯車装置。
【請求項7】
前記外歯歯車は、円筒状胴部と、この円筒状胴部の一端から半径方向に延びているダイヤフラムと、前記円筒状胴部の他方の端の部位の外周面に形成した外歯とを備えたカップ形状あるいはシルクハット形状の外歯歯車であり、
前記波動発生器は、前記円筒状胴部における前記外歯が形成されている外歯形成部分を楕円状曲線に沿った形状に撓めている請求項1ないし6のうちのいずれか一つの項に記載の波動歯車装置。
【請求項8】
剛性の外歯歯車、可撓性の内歯歯車、および、前記内歯歯車を楕円状曲線に沿った形状に撓めて前記外歯歯車にかみ合わせている波動発生器を有し、
前記内歯歯車と前記外歯歯車のかみ合い位置は、前記内歯歯車における歯筋方向の各軸直角断面上において、前記楕円状曲線の長径位置であり、
前記かみ合い位置のそれぞれは、前記内歯歯車の歯筋方向に沿って見た場合に、周方向に徐々に変化していることを特徴とする波動歯車装置。
【請求項9】
前記内歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記楕円状曲線の中心回りに一方向に徐々に変化するように、撓められている請求項8に記載の波動歯車装置。
【請求項10】
前記内歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端までの間において、前記長径位置が、前記中心回りに180度以下の角度の範囲内で変化するように、撓められている請求項9に記載の波動歯車装置。
【請求項11】
前記内歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記中心回りに、一方向に徐々に変化した後に逆方向に徐々に変化するように、撓められている請求項8に記載の波動歯車装置。
【請求項12】
前記内歯歯車は、前記長径位置が、前記歯筋方向の一方の端および他方の端では同一の回転位置にあり、これらの端の中間位置では前記回転位置に対して前記中心回りに90度以下の角度だけ回転した位置にあるように、撓められている請求項11に記載の波動歯車装置。
【請求項13】
円形の摩擦係合内周面を備えた剛性部材、
円形の摩擦係合外周面を備えた可撓性部材、および、
前記可撓性部材の前記摩擦係合外周面を楕円状曲線に沿った形状に撓めて前記剛性部材の前記摩擦係合内周面に摩擦係合させている波動発生器を有し、
前記摩擦係合外周面と前記摩擦係合内周面の摩擦係合位置は、前記摩擦係合外周面における装置中心軸線の方向の各軸直角断面上において、前記楕円状曲線の長径位置であり、
前記摩擦係合位置のそれぞれは、前記装置中心軸線に沿って見た場合に、前記摩擦係合外周面の周方向に徐々に変化していることを特徴とする摩擦係合式の波動装置。
【請求項14】
円形の摩擦係合内周面を備えた可撓性部材、
円形の摩擦係合外周面を備えた剛性部材、および、
前記可撓性部材の前記摩擦係合内周面を楕円状曲線に沿った形状に撓めて前記剛性部材の前記摩擦係合外周面に摩擦係合させている波動発生器を有し、
前記摩擦係合内周面と前記摩擦係合外周面の摩擦係合位置は、前記摩擦係合内周面における装置中心軸線の方向の各軸直角断面上において、前記楕円状曲線の長径位置であり、
前記摩擦係合位置のそれぞれは、前記装置中心軸線に沿って見た場合に、前記摩擦係合内周面の周方向に徐々に変化していることを特徴とする摩擦係合式の波動装置。
【請求項15】
前記可撓性部材は、前記装置中心軸線の方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記楕円状曲線の中心回りに一方向に徐々に変化するように、撓められている請求項13または14に記載の摩擦係合式の波動装置。
【請求項16】
前記可撓性部材は、前記装置中心軸線の方向の一方の端から他方の端までの間において、前記長径位置が、前記中心回りに180度以下の角度の範囲内で変化するように、撓められている請求項15に記載の摩擦係合式の波動装置。
【請求項17】
前記可撓性部材は、前記装置中心軸線の方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記中心回りに、一方向に徐々に変化した後に逆方向に徐々に変化するように、撓められている請求項13または14に記載の摩擦係合式の波動装置。
【請求項18】
前記可撓性部材は、前記長径位置が、前記装置中心軸線の方向の一方の端および他方の端では同一の回転位置にあり、これらの端の中間位置では前記回転位置に対して前記中心回りに90度以下の角度だけ回転した位置にあるように、撓められている請求項17に記載の摩擦係合式の波動装置。
【請求項19】
波動歯車装置における可撓性の外歯歯車あるいは可撓性の内歯歯車、または、摩擦係合式の波動装置における摩擦係合外周面あるいは摩擦係合内周面を備えた可撓性部材を、楕円状に撓める楕円状周面を備え、
前記楕円状周面は、中心軸線の方向の各位置において、前記中心軸線に直交する平面で切断した場合の輪郭形状が、前記中心軸線を中心とする楕円状曲線によって規定され、
前記楕円状周面は、前記中心軸線の方向における少なくとも所定幅の周面部分を備え、
前記周面部分における前記楕円状曲線の長径位置は、前記中心軸線の方向に沿って、当該中心軸線回りに徐々に変化していることを特徴とする波動歯車装置あるいは摩擦係合式の波動装置の波動発生器。
【請求項20】
前記周面部分における前記楕円状曲線の長径位置は、前記周面部分の前記中心軸線の方向の一方の端から他方の端までの間において、180度以下の角度の範囲内で変化している請求項19に記載の波動発生器。
【請求項21】
前記周面部分における前記楕円状曲線の長径位置は、前記中心軸線の方向に沿って、当該中心軸線回りに一方向に徐々に変化した後に、逆方向に徐々に変化している請求項19に記載の波動発生器。
【請求項22】
前記周面部分における前記楕円状曲線の前記長径位置は、
前記周面部分における前記中心軸線の方向の一方の端および他方の端において同一の回転位置にあり、
これらの端の中間位置では、前記回転位置に対して90度以下の角度だけ回転した位置にある請求項21に記載の波動発生器。
【請求項23】
前記楕円状曲線の長径寸法は、前記中心軸線の方向に沿って、前記楕円状周面の一方の端から他方の端に向けて漸減している請求項19ないし22のうちのいずれか一つの項に記載の波動発生器。
【請求項24】
前記楕円状周面を備えた剛性の波動発生器プラグと、
前記波動発生器プラグの外周面あるいは内周面に嵌めた波動発生器転がり軸受と、
を有し、
前記波動発生器転がり軸受は、可撓性の外輪および可撓性の内輪を備え、
前記波動発生器転がり軸受の前記外輪あるいは前記内輪は、前記楕円状周面によって楕円状に撓められている請求項19ないし23のうちのいずれか一つの項に記載の波動発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性の歯車に同時にかみ合う可撓性の歯車の歯の数が多い波動歯車装置、剛性部材の摩擦係合面に対する可撓性部材の摩擦係合面の係合部分が長い摩擦係合式の波動装置に関する。また、本発明は、可撓性の歯車あるいは可撓性部材を撓めるために用いる波動発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置は、剛性の内歯歯車、可撓性を備えた(弾性変形可能な)外歯歯車、および波動発生器から構成されており、通常の歯車のようなバックラッシが無く、1段で大きな減速比を得ることができる。典型的な波動歯車装置として、特許文献1に開示のカップ形状の外歯歯車を備えたカップ型波動歯車装置、特許文献2に開示のシルクハット形状の外歯歯車を備えたシルクハット型波動歯車装置、および、特許文献3に開示の円筒状の外歯歯車を備えたフラット型波動歯車装置が知られている。
【0003】
波動歯車装置では、波動発生器によって外歯歯車は非円形、典型的には楕円状に撓められ、楕円状の長軸方向の2か所で内歯歯車に噛み合っている。モーター等によって波動発生器を回転すると、両歯車のかみ合い位置が円周方向に移動し、両歯車の間には、両歯車の歯数差に応じた相対回転が発生する。一方の歯車を固定しておくことで、他方の歯車から減速回転出力を取り出すことができる。特許文献4には、外歯歯車を撓める波動発生器の形状が提案されている。
【0004】
また、波動歯車装置としては、剛性の外歯歯車の外周側に可撓性の内歯歯車を配置し、当該内歯歯車の外周側に波動発生器を配置したものが知られている。
【0005】
さらに、特許文献5、6において提案されている摩擦係合式の波動装置も知られている。摩擦係合式の波動装置は、円形の摩擦係合内周面を備えた剛性部材と、この内側に配置した円形の摩擦係合外周面を備えた可撓性部材と、この内側に配置した波動発生器を備えている。波動発生器によって可撓性部材を非円形、例えば楕円状に撓めると、その円形の摩擦係合外周面が楕円状に撓む。これにより、摩擦係合外周面における長径位置に該当する部分が、剛性部材の円形の摩擦係合内周面に対して摩擦係合した状態が形成される。
【0006】
波動発生器を回転すると、両部材の摩擦係合位置が周方向に移動する。摩擦係合内周面に対して摩擦係合外周面の周長は所定量だけ短い。よって、波動発生器が1回転すると、周長分だけ、両部材の間に相対回転が発生する。一方の部材を回転しないように固定しておくことで、他方の部材から、減速回転を取り出すことができる。
【0007】
摩擦係合式の波動装置においても、剛性部材の外側に可撓性部材が配置され、その外側に配置した波動発生器によって可撓性部材を撓めて剛性部材に摩擦係合させる構成のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−072912号公報
【特許文献2】特開2009−257510号公報
【特許文献3】特開2009−156462号公報
【特許文献4】特許第4067037号公報
【特許文献5】特開2007−71242号公報
【特許文献6】特開平06−241285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、波動歯車装置は、弾性変形を必須とする外歯歯車あるいは内歯歯車を備えているので、剛体の歯車同士を噛み合わせる場合に比べて、保持剛性が不足する場合がある。また、繰り返し弾性変形しながら回転する外歯歯車あるいは内歯歯車に起因する振動騒音を一層低下させるための方策が無い。このため、用途によっては、振動騒音が障害となって波動歯車装置を用いることができない場合もある。
【0010】
また、摩擦係合式の波動装置の場合には摩擦係合部分が少ないので剛性が低い。摩擦係合部分を長くできることが望まれている。
【0011】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、剛性が高く振動騒音を低減可能な波動歯車装置および摩擦係合式の波動装置、並びに、これら波動歯車装置および波動装置に用いる波動発生器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の波動歯車装置では、内歯歯車とのかみ合いに参加する外歯歯車の歯の数を増やすことで、剛性を高めるようにしている。すなわち、外歯歯車の歯筋方向に沿って、外歯歯車と内歯歯車のかみ合い位置が周方向に徐々に変化するように、外歯歯車を撓めている。また、このような両歯車のかみ合い状態を形成できるように、外歯歯車を撓めるための波動発生器の外周面形状を適切な形状に設定している。
【0013】
すなわち、本発明の波動歯車装置は、
剛性の内歯歯車、可撓性の外歯歯車、および、前記外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車にかみ合わせている波動発生器を有し、
前記外歯歯車と前記内歯歯車のかみ合い位置は、前記外歯歯車における歯筋方向の各軸直角断面上において、これら両歯車の周方向において離れた複数の位置であり、
前記かみ合い位置のそれぞれは、前記歯筋方向に沿って見た場合には、前記周方向に向かって徐々に変化していることを特徴としている。
【0014】
前記波動発生器は、典型的には、前記外歯歯車を楕円状曲線に沿った形状に撓める。この場合の両歯車の前記かみ合い位置は前記楕円状曲線の長径位置である。
【0015】
従来においては、歯筋方向の各軸直角断面において外歯歯車は同相の楕円状曲線となるように撓められ、各断面において、楕円状曲線の長径位置が同一である。両歯車のかみ合い位置は、楕円状曲線の長径が位置する2か所であり、歯筋方向の各軸直角断面において同一位置である。
【0016】
これに対して、本発明では、外歯歯車は、歯筋方向の各軸直角断面において、楕円状曲線に沿った形状となるように撓められるが、各断面における楕円状曲線は中心軸線回りに位相が異なり、それらの長径位置が周方向の異なる位置となる。換言すると、外歯歯車は、歯筋方向の各断面において、周方向における異なる位置で、内歯歯車にかみ合う。したがって、内歯歯車とのかみ合いに参加する外歯歯車の歯の数が多くなる。よって、波動歯車装置の剛性を高め、ラチェッティングトルク、伝達トルクを高めることができる。
【0017】
また、従来においては、外歯歯車における歯筋方向の各部が、同一の位相で半径方向に繰り返し撓められる。これに対して、本発明では、外歯歯車の歯筋方向の各部は異なる位相で半径方向に繰り返し撓められる。したがって、外歯歯車の弾性変形に起因する振動騒音を低減することができる。
【0018】
ここで、本発明では、前記外歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記楕円状曲線の中心回りに一方向に徐々に変化するように、撓められている。
【0019】
例えば、前記外歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端までの間において、前記長径位置が、前記中心回りに180度以下の角度の範囲内で変化するように、撓められている。長径位置が180度変化する場合には、外歯歯車の略全ての外歯が同時に内歯歯車とのかみ合いに参加することになる。よって、かみ合い剛性を高めるのに有利である。
【0020】
また、前記外歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記中心回りに、一方向に徐々に変化した後に逆方向に徐々に変化するように、撓められている場合もある。
【0021】
例えば、前記外歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記中心回りに一方向に90度以下の角度だけ変化した後に逆方向に90度以下の角度だけ変化するように、撓められている。
【0022】
このようにすると、歯筋方向の途中位置を中心として、両歯車に作用する軸方向スラスト力が左右で逆向きに発生する。したがって、左右の軸方向スラスト力が相互に打ち消し合う。軸方向スラスト力を左右対称の状態で発生させれば、スラスト力を受けるための軸受が不要になる。
【0023】
本発明において、前記外歯歯車は、円筒状胴部と、この円筒状胴部の一端から半径方向に延びているダイヤフラムと、前記円筒状胴部の他方の端の部位の外周面に形成した外歯とを備えたカップ形状あるいはシルクハット形状の外歯歯車である場合には、前記波動発生器は、前記円筒状胴部における前記外歯が形成されている外歯形成部分を前記楕円状曲線に沿った形状に撓めている。
【0024】
次に、本発明は剛性の外歯歯車の外周側に可撓性の内歯歯車が配置されている波動歯車装置に対して適用可能である。本発明の波動歯車装置は、
剛性の外歯歯車、可撓性の内歯歯車、および、前記内歯歯車を楕円状曲線に沿った形状に撓めて前記外歯歯車にかみ合わせている波動発生器を有し、
前記内歯歯車と前記外歯歯車のかみ合い位置は、前記内歯歯車における歯筋方向の各軸直角断面上において、前記楕円状曲線の長径位置であり、
前記かみ合い位置のそれぞれは、前記内歯歯車の歯筋方向に沿って見た場合に、前記周方向に徐々に変化していることを特徴としている。
【0025】
ここで、前記内歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記楕円状曲線の中心回りに一方向に徐々に変化するように、撓められている場合がある。例えば、前記内歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端までの間において、前記長径位置が、前記中心回りに180度以下の角度の範囲内で変化するように、撓められている。
【0026】
また、前記内歯歯車は、前記歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記中心回りに、一方向に徐々に変化した後に逆方向に徐々に変化するように、撓められている場合がある。例えば、前記内歯歯車は、前記長径位置が、前記歯筋方向の一方の端および他方の端では同一の回転位置にあり、これらの端の中間位置では前記回転位置に対して前記中心回りに90度以下の角度だけ回転した位置にあるように、撓められている。
【0027】
一方、本発明は摩擦係合式の波動装置に対しても適用可能である。本発明の摩擦係合式の波動装置は、
円形の摩擦係合内周面を備えた剛性部材、
円形の摩擦係合外周面を備えた可撓性部材、および、
前記可撓性部材の前記摩擦係合外周面を楕円状曲線に沿った形状に撓めて前記剛性部材の前記摩擦係合内周面に摩擦係合させている波動発生器を有し、
前記摩擦係合外周面と前記摩擦係合内周面の摩擦係合位置は、前記摩擦係合外周面における装置中心軸線の方向の各軸直角断面上において、前記楕円状曲線の長径位置であり、
前記摩擦係合位置のそれぞれは、前記装置中心軸線に沿って見た場合に、前記摩擦係合外周面の周方向に徐々に変化していることを特徴としている。
【0028】
同様に、本発明は剛性部材の外周側に可撓性部材が配置されている波動装置にも適用可能である。この場合の摩擦係合式の波動装置は、
円形の摩擦係合内周面を備えた可撓性部材、
円形の摩擦係合外周面を備えた剛性部材、および、
前記可撓性部材の前記摩擦係合内周面を楕円状曲線に沿った形状に撓めて前記剛性部材の前記摩擦係合外周面に摩擦係合させている波動発生器を有し、
前記摩擦係合内周面と前記摩擦係合外周面の摩擦係合位置は、前記摩擦係合内周面における装置中心軸線の方向の各軸直角断面上において、前記楕円状曲線の長径位置であり、
前記摩擦係合位置のそれぞれは、前記装置中心軸線に沿って見た場合に、前記摩擦係合内周面の周方向に徐々に変化していることを特徴としている。
【0029】
ここで、これらの摩擦係合式の波動装置において、
前記可撓性部材は、前記装置中心軸線の方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記楕円状曲線の中心回りに一方向に徐々に変化するように、撓められている。例えば、前記可撓性部材は、前記装置中心軸線の方向の一方の端から他方の端までの間において、前記長径位置が、前記中心回りに180度以下の角度の範囲内で変化するように、撓められている。
【0030】
または、前記可撓性部材は、前記装置中心軸線の方向の一方の端から他方の端に向かって、前記長径位置が、前記中心回りに、一方向に徐々に変化した後に逆方向に徐々に変化するように、撓められている。例えば、前記可撓性部材は、前記長径位置が、前記装置中心軸線の方向の一方の端および他方の端では同一の回転位置にあり、これらの端の中間位置では前記回転位置に対して前記中心回りに90度以下の角度だけ回転した位置にあるように、撓められている。
【0031】
次に、本発明の波動発生器は、
波動歯車装置における可撓性の外歯歯車あるいは可撓性の内歯歯車、または、摩擦係合式の波動装置における摩擦係合外周面あるいは摩擦係合内周面を備えた可撓性部材を、楕円状に撓める楕円状周面を備え、
前記楕円状周面は、中心軸線の方向の各位置において、前記中心軸線に直交する平面で切断した場合の輪郭形状が、前記中心軸線を中心とする楕円状曲線によって規定され、
前記楕円状周面は、前記中心軸線の方向における少なくとも所定幅の周面部分を備え、
前記周面部分における前記楕円状曲線の長径位置は、前記中心軸線の方向に沿って、当該中心軸線回りに徐々に変化していることを特徴としている。
【0032】
例えば、前記周面部分における前記楕円状曲線の長径位置は、前記周面部分の前記中心軸線の方向の一方の端から他方の端までの間において、前記中心軸線回りに180度以下の角度の範囲内で変化している。
【0033】
または、前記周面部分における前記楕円状曲線の長径位置は、前記中心軸線の方向に沿って、当該中心軸線回りに一方向に徐々に変化した後に、逆方向に徐々に変化している。この場合、例えば、前記周面部分における前記楕円状曲線の前記長径位置は、前記周面部分における前記中心軸線の方向の一方の端および他方の端において同一の回転位置にあり、これらの端の中間位置では、前記回転位置に対して90度以下の角度だけ回転した位置にある。
【0034】
ここで、例えば、カップ形状の外歯歯車、シルクハット形状の外歯歯車では、それらの開口端の側の外周面に外歯が形成されており、ダイヤフラムの側からの距離に略比例して半径方向への撓み量が増加する。このような歯筋方向における撓み量の変化に対応するように、波動発生器の楕円状外周面の長径の長さを変化させることが望ましい。すなわち、前記楕円状曲線の長径寸法は、前記中心軸線の方向に沿って、前記楕円状周面の一方の端から他方の端に向けて漸減していることが望ましい。
【0035】
また、典型的な波動発生器は、
前記楕円状周面を備えた剛性の波動発生器プラグと、
前記波動発生器プラグの外周面あるいは内周面に嵌めた波動発生器転がり軸受と、
を有し、
前記波動発生器転がり軸受は、可撓性の外輪および可撓性の内輪を備え、
前記波動発生器転がり軸受の前記外輪あるいは前記内輪は、前記楕円状周面によって楕円状に撓められている。
【0036】
なお、波動発生器としては、磁力、あるいは、圧電効果を利用して、可撓性の外歯歯車あるいは可撓性の内歯歯車、または、摩擦係合内周面あるいは摩擦係合外周面を備えた可撓性部材を、楕円状に撓める形式のものが知られている。このような形式の波動発生器を用いて、可撓性の外歯歯車、可撓性の内歯歯車、摩擦係合内周面あるいは摩擦係合外周面を備えた可撓性部材を、上記のように撓めることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明を適用したフラット型波動歯車装置を示す説明図である。
図2】フラット型波動歯車装置の歯筋方向のかみ合い状態等を示す説明図である。
図3】フラット型波動歯車装置の外歯歯車のかみ合い位置を示す説明図である。
図4】本発明を適用したカップ型波動歯車装置を示す説明図である。
図5】カップ型波動歯車装置の歯筋方向のかみ合い状態等を示す説明図である。
図6】カップ型波動歯車装置の外歯歯車のかみ合い位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0039】
[実施の形態1]
図1(a)および(b)は、本発明を適用したフラット型波動歯車装置を示す縦断面図および分解斜視図である。
【0040】
フラット型波動歯車装置1では、2枚の剛性の内歯歯車、すなわち、内歯歯車2Sおよび内歯歯車2Dの内側に1枚の可撓性の外歯歯車3が配置されている。外歯歯車3は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部3aと、この円筒状胴部3aの円形外周面に形成された外歯3bとを備えたシンプルな形状をしている。
【0041】
外歯歯車3は、その内側に装着されている楕円状輪郭の波動発生器4によって、楕円状に撓められて、内歯歯車2S、2Dのそれぞれに対して部分的に噛み合っている。波動発生器4を回転すると、外歯歯車3と2枚の内歯歯車2S、2Dとの間のかみ合い位置がそれぞれ周方向に移動する。
【0042】
一方の内歯歯車2Dの歯数は外歯歯車3と同一であり、他方の内歯歯車2Sの歯数は外歯歯車3よりも多い。一般に、2n枚多い(n:正の整数)。したがって、外歯歯車3は歯数が同一の内歯歯車2Dと一体となって回転し、歯数の異なる内歯歯車2Sとの間には、両歯車の歯数差に応じた相対回転が発生する。一方の内歯歯車2Sを回転しないように固定しておくことで、他方の内歯歯車2Dから減速回転が出力される。
【0043】
波動発生器4は、楕円状外周面5を備えた一定厚さの剛性のプラグ6と、このプラグ6の楕円状外周面5に装着した一対の波動発生器軸受け7から構成されている。波動発生器軸受け7は、半径方向に撓み可能な外輪7a(S)、7a(D)、内輪7b(S)、7b(D)を備えており、プラグ6と外歯歯車3の間に装着されている。波動発生器軸受け7は全体として、プラグ6の楕円状外周面5に沿った楕円状に撓められている。よって、外歯歯車3もプラグ6の楕円状外周面5に沿った楕円状に撓められ、その長径位置の外歯が内歯歯車2S、2Dの内歯に噛み合っている。本例では、以下に述べる外歯歯車3の撓み状態が形成されるように、波動発生器4のプラグ6の楕円状外周面5の輪郭形状が適切に設定されている。
【0044】
図2は、歯筋方向の各位置の軸直角断面上における内歯歯車2および外歯歯車3のかみ合い状態を示す説明図である。図2において、(a1)は歯筋方向の各位置を示し、(a2)は外歯歯車3の部分拡大断面図であり、(b1)〜(b5)は外歯歯車3の歯筋方向の各位置b1〜b5での軸直角断面を示す。
【0045】
外歯歯車3は、その歯筋方向Aの各位置b1〜b5の軸直角断面上において、波動発生器4によって楕円状に撓められている。具体的には、外歯歯車3の歯底のリム中立円が楕円状曲線Cとなるように撓められている。また、外歯歯車3は、歯筋方向Aの各位置b1〜b5の軸直角断面上の楕円状曲線Cの長径位置Lが、歯筋方向Aに沿って、装置の回転中心軸線1a回り(楕円状曲線Cの中心回り)に変化するように、撓められている。このように撓められた外歯歯車3は、歯筋方向Aの各位置b1〜b5の軸直角断面上において、楕円状曲線Cの長径位置Lにおいて内歯歯車2S、2Dの内歯2a(S)、2a(D)に噛み合っている。
【0046】
図示の例では、歯筋方向Aの一方の端の位置b1から他方の端の位置b5に向かって、歯筋方向Aの各位置b1〜b5の軸直角断面上の楕円状曲線Cの長径位置Lが、回転中心軸線1a回りに同一方向に連続して徐々に変化している。歯筋方向Aに沿って、一定の距離毎に一定の角度ずつ段階的に同一方向に徐々に変化させてもよい。また、歯筋方向Aの一方の端の位置b1の楕円状曲線Cに対して、位置b2では楕円状曲線Cが時計回りに45度回転した位置にあり、位置b3(歯筋方向の中央)では楕円状曲線Cが時計回りに90度回転した位置にあり、位置b4では楕円状曲線Cが時計回りに135度回転した位置にあり、位置b5では楕円状曲線Cが時計回りに180度回転した位置にある。
【0047】
各位置b1〜b5では、楕円状曲線Cの長径位置Lにおいて外歯歯車3の外歯3bが内歯歯車2S、2Dの内歯2a(S)、2a(D)に噛み合っている。したがって、外歯歯車3の内歯歯車2S、2Dに対するかみ合い位置は、歯筋方向の一方の端の位置b1から歯筋方向Aに向かって、周方向に徐々に移動している。すなわち、図3に曲線3cで示すように、歯筋方向Aに沿って見た場合には、ほぼ全ての外歯3bのそれぞれが、それぞれの一部ではあるが、内歯2a(S)、2a(D)に対して同時に噛み合っている。
【0048】
従来では、外歯歯車3は歯筋方向の全体に亘って同一位相の楕円状曲線となるように撓められ、内歯歯車2S、2Dに対するかみ合い位置は、長径方向の2か所のみである。したがって、従来に比べて、両歯車のかみ合い領域はほぼ同様であるが、同時に略全ての外歯3bがかみ合いに参加するので、両歯車のかみ合い剛性が高まり、大きな伝達トルク容量の波動歯車装置1を実現できる。
【0049】
また、外歯歯車3は、歯筋方向Aにおける各位置において、周方向の異なる部分が半径方向の外方あるいは内方に撓められる。したがって、周方向の同一位置が半径方向の外方および内方に撓められながら回転する従来の波動歯車装置に比べて、外歯歯車3の弾性変形に起因する振動騒音の発生を抑制することができる。
【0050】
[実施の形態2]
図4(a)および(b)は、本発明を適用したカップ型波動歯車装置を示す縦断面図および分解斜視図である。カップ型波動歯車装置11では、剛性の内歯歯車12の内側に配置された外歯歯車13がカップ形状をしている。外歯歯車13は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部13aと、この後端から半径方向の内方に延びているダイヤフラム13bと、ダイヤフラム13bの内周縁に連続して形成されている厚肉の円環状あるいは円盤状のボス13cとを備えている。円筒状胴部13aの前端開口側の部分が外歯形成部分13dであり、その外周面部分に外歯13eが形成されている。
【0051】
外歯歯車13の円筒状胴部13aは、その外歯形成部分13dの内側に装着されている楕円状輪郭の波動発生器14によって楕円状に撓められており、外歯13eは内歯歯車12の内歯12aに対して部分的に噛み合っている。波動発生器14を回転すると、両歯車12、13のかみ合い位置が周方向に移動し、両歯車12、13の歯数差に応じた相対回転が両歯車の間に発生する。一方の歯車、例えば内歯歯車12を回転しないように固定しておくことで、他方のカップ形状の外歯歯車13から減速回転が出力される。
【0052】
波動発生器14は、円環状をした一定厚さの剛性のプラグ16と、このプラグ16の楕円状外周面15に装着された波動発生器軸受け17を備えている。波動発生器軸受け17は、半径方向に撓み可能な外輪17a、内輪17bを備えており、プラグ16と外歯歯車13の間に装着されている。波動発生器軸受け17は全体として、プラグ16の楕円状外周面15に沿った楕円状に撓められている。よって、外歯歯車13もプラグ16の楕円状外周面15に沿った楕円状に撓められ、その長径位置の両端の外歯13eが内歯歯車12の内歯12aに噛み合っている。本例では、以下に述べる外歯歯車13の外歯形成部分13dの撓み状態が形成されるように、波動発生器14のプラグ16の楕円状外周面15の輪郭形状が適切に設定されている。
【0053】
図5は、歯筋方向の各位置の軸直角断面上における内歯歯車12および外歯歯車13のかみ合い状態を示す説明図である。図5において、(a1)は歯筋方向の各位置を示し、(a2)は外歯歯車13の部分拡大断面図であり、(b11)〜(b13)は外歯歯車13の歯筋方向の各位置b11〜b13での軸直角断面を示す。
【0054】
外歯歯車13の外歯形成部分13dは、その歯筋方向Aの各位置b11〜b13の軸直角断面上において、波動発生器14によって楕円状に撓められている。具体的には、外歯歯車13の歯底のリム中立円が楕円状曲線C1となるように撓められている。また、外歯歯車13は、歯筋方向Aの各位置b11〜b13の軸直角断面上の楕円状曲線C1の長径位置Lが、歯筋方向Aに沿って、装置の回転中心軸線11a回りに徐々に変化するように、撓められている。このように撓められた外歯歯車13は、歯筋方向Aの各位置b11〜b13の軸直角断面上において、楕円状曲線C1の長径位置L1において内歯歯車12の内歯12aに噛み合っている。
【0055】
図示の例では、歯筋方向Aの一方の端の位置b11から他方の端の位置b13に向かって、歯筋方向の各位置b11〜b13の軸直角断面上の楕円状曲線C1の長径位置L1が、回転中心軸線11a回り(楕円状曲線C1の中心回り)に同一方向に連続して徐々に変化している。歯筋方向に沿って、一定の距離毎に一定の角度ずつ段階的に同一方向に徐々に変化させてもよい。また、歯筋方向Aの一方の端の位置b11の楕円状曲線C1に対して、位置b12(歯筋方向の中央)では楕円状曲線C1が時計回りに45度回転した位置にあり、他方端の位置b13では楕円状曲線C1が時計回りに90度回転した位置にある。
【0056】
各位置b11〜b13では、楕円状曲線C1の長径位置L1において外歯歯車13の外歯13eが内歯歯車12の内歯12aに噛み合っている。したがって、外歯歯車13の内歯歯車12に対するかみ合い位置は、歯筋方向の一方の端の位置b11から歯筋方向に向かって、周方向に連続して移動している。すなわち、図6に曲線13Cで示すように、歯筋方向Aに沿って見た場合には、ほぼ半周分の外歯13eのそれぞれが、それぞれの一部ではあるが、内歯12aに対して同時に噛み合っている。
【0057】
ここで、カップ形状の外歯歯車13では、その円筒状胴部13aは、ダイヤフラム13bの側からの距離に応じて半径方向への撓み量が増加している。外歯形成部分13dを、その歯筋方向Aにおいて同一の楕円状曲線C1となるように撓めることは、外歯形成部分13dに無理な応力が作用する。
【0058】
本例では、外歯歯車13の外歯形成部分13dは、歯筋方向Aの内側の端の位置b13から他方の開口端の側の位置b11に向かって、歯筋方向Aの各位置における軸直角断面上の楕円状曲線C1の長径の長さが漸増するようにしている。これにより、外歯歯車13を、過剰な応力を伴うことなく、撓めることができる。
【0059】
従来のカップ型波動歯車装置では、外歯歯車13は歯筋方向の全体に亘って同一位相の楕円状曲線となるように撓められ、内歯歯車12に対するかみ合い位置は、長径方向の2か所のみである。したがって、本例のカップ型波動歯車装置は、従来に比べて、両歯車12、13のかみ合い領域はほぼ同様であるが、同時に略半周分の外歯13eがかみ合いに参加する。よって、両歯車12、13のかみ合い剛性が高まり、大きな伝達トルク容量の波動歯車装置を実現できる。
【0060】
また、外歯歯車13は、歯筋方向Aにおける各位置において、周方向の異なる部分が半径方向の外方あるいは内方に撓められる。したがって、周方向の同一位置が半径方向の外方および内方に撓められながら回転する従来の波動歯車装置に比べて、外歯歯車13の弾性変形に起因する振動騒音の発生を抑制することができる。
【0061】
[その他の実施の形態]
(1)上記の例は、本発明をフラット型波動歯車装置およびカップ型波動歯車装置に適用した場合の例である。本発明は、カップ型波動歯車装置の場合と同様に、シルクハット型波動歯車装置に適用できる。
【0062】
(2)上記の例では、歯筋方向に沿って、両歯車のかみ合い位置が、周方向の同一方向に移動するように、外歯歯車を撓めている。この代わりに、外歯歯車を、歯筋方向の一方の端から他方の端に向かって、歯筋方向の各位置の軸直角断面上の楕円状曲線の長径位置が、周方向の同一方向に徐々に変化した後に、歯筋方向の途中位置から、周方向の逆方向に徐々に変化するように、撓めるようにしてもよい。
【0063】
このようにすれば、歯筋方向の途中位置を中心として、かみ合い部分においては、逆向きの軸方向スラスト力が作用する。したがって、左右の軸方向スラスト力が相互に打ち消し合うので、スラスト力を受けるための軸受けを省略することも可能になる。
【0064】
(3)上記の例では、楕円状に撓めた可撓性の外歯歯車のかみ合い位置(楕円状曲線の長径位置)が、その歯筋方向の全体に亘って、周方向に徐々に変化している。例えば、図1に示すフラット型の波動歯車装置において、一方の内歯歯車2Sにかみ合う外歯歯車3の部分については、かみ合い位置が歯筋方向に沿って見た場合に周方向に移動し、他方の内歯歯車2Dにかみ合う外歯歯車3の部分については、かみ合い位置が周方向に移動しないようにしてもよい。このためには、波動発生器4の楕円状外周面5における内歯歯車2Sの側の外周面部分を規定している楕円状曲線の長径位置を軸線方向に沿って徐々に変化させ、内歯歯車2Dの側の外周面部分については長径位置を周方向において定まった位置にしておけばよい。
【0065】
(4)上記の例では、外歯歯車を楕円状に撓めて内歯歯車に噛み合せている。この場合には、外歯歯車と内歯歯車の歯数差は2n枚に設定される。この代わりに、外歯歯車を、周方向の3箇所で内歯歯車にかみ合うように、非円形に撓めることも可能である。この場合には、両歯車の歯数差は3n枚に設定される。
【0066】
この場合には、外歯歯車における歯筋方向の各軸直角断面上において、当該外歯歯車の歯底のリム中立円が非円形曲線となるように、当該外歯歯車を半径方向に撓めて、当該外歯歯車を、周方向に離れた複数の位置で内歯歯車に噛み合わせる。換言すると、このように外歯歯車を撓めることができるように、波動発生器の外周面形状を適切に設定する。
【0067】
ここで、非円形曲線は複数の箇所で円に内接する曲線であり、内接位置において外歯歯車が内歯歯車にかみ合う。そして、外歯歯車は、歯筋方向の各軸直角断面上の非円形曲線の内接位置が、歯筋方向に沿って、周方向に変化するように、撓められる。
【0068】
(5)本発明は、剛性の外歯歯車の外周側に可撓性の内歯歯車が配置され、内歯歯車を波動発生器によって撓めて外歯歯車にかみ合わせる構成の波動歯車装置に対しても適用可能である。
【0069】
(6)本発明は、特許文献5、6に提案されている摩擦係合式の波動装置に対しても同様に適用可能である。
【0070】
(7)本発明は、特許文献5に提案されている圧電素子を用いた波動発生器等に対しても同様に適用可能である。
図1
図3
図4
図6
図2
図5