(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(I)において、置換基Dの置換基数m1が、平均値として1<m1<1.5の範囲にあり、化学式D−1及び化学式D−2によりそれぞれ表される基のモル比である(D−1)/(D−2)の値が2より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の乳化重合用反応性乳化剤。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の乳化重合用乳化剤は、上記の通り次の一般式(I)で表される化合物を主成分とする。
【化3】
【0016】
一般式(I)中、置換基Dは下記化学式D−1及び化学式D−2のいずれかで表される重合性の不飽和基であり、置換基R
1は直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜6のアルキル基であり、m1は1〜3の数を表し、m2は0〜2の数を表し、m1とm2の数の合計は1〜3である。
【化4】
【0017】
上記化学式D−1及び化学式D−2におけるR
2は、水素原子又はメチル基を表す。従って、置換基Dは、具体的には1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、又は2−プロペニル基(アリル基)又は2−メチル−2−プロペニル基(メタリル基)を表す。置換基Dとしては、これら1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、又はアリル基、メタリル基がいずれか単独で存在していてもよく、混合物として存在していてもよい。
【0018】
また、上記一般式(I)において化学式D−1及び化学式D−2によりそれぞれ表される基のモル比である(D−1)/(D−2)の値が2より大きいことが、モノマーとの高い共重合性を付与できる点から好ましい。同じ理由で、置換基Dは1−プロペニル基であることが特に好ましい。置換基Dの一般式(I)中の置換位置は、好ましくはオルト位(2位又は6位)である。
【0019】
また、置換基Dの置換基数を表すm1は上記の通り1〜3の数であるが、重合安定性及びポリマーフィルムの耐水性向上の点から、平均値として、1≦m1≦2の範囲にあることが好ましく、1<m1<1.5の範囲にあることがより好ましい。
【0020】
次に、一般式(I)における置換基R
1は、上記の通り直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜6のアルキル基であり、置換基R
1の置換基数を表すm2は0〜2の数であるが、m2が0で表される化合物、m2が1で表される化合物、及びm2が2で表される化合物は、いずれかが単独で存在していてもよく、混合物として存在していてもよい。なお、置換基R
1の置換基数m2が1又は2の場合、出発原料となる置換フェノールの製造工程に由来する反応副生成物として、m2が3で表される化合物が組成物中に残渣として存在することは許容される。
【0021】
次に、一般式(I)中、次の化学式Aで表されるアルキレンオキシド、α−オレフィンエポキサイド又はアルキルグリシジルエーテルの付加重合鎖について詳細に説明する。
【化5】
【0022】
化学式Aで表される付加重合鎖は、−(A
1O)a−鎖、−(A
2O)b−鎖、−(EO)c−鎖がこの順に結合したブロック重合鎖である。
【0023】
上記化学式AにおけるA
1は、A
1は炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基であり、平均付加モル数aは1〜10の範囲内にある。ここで炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(1,4−ブチレンオキサイド)に由来し、その1種又は2種以上を選択して、付加重合させることにより−(A
1O)a−鎖を得ることができる。付加させるアルキレンオキサイド等の重合形態は特に限定されず、1種類のアルキレンオキサイドの単独重合体、2種類以上のアルキレンオキサイドのランダム共重合体、ブロック共重合体、又はそれらランダム付加体とブロック共重合の組み合わせのいずれであってもよい。
【0024】
ただし、化学式Aで示される付加重合鎖において、bが0の場合、重合安定性向上の点から、A
1は炭素数4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基であることが好ましく、より好ましくは1,2−ブチレンオキシドに由来するアルキレン基であり、その平均付加モル数aは1〜5であることが好ましい。また、bが0<b≦5の場合、重合安定性向上の点から、A
1は炭素数2のアルキレン基、即ち、エチレンオキシドに由来するアルキレン基であることが好ましく、その平均付加モル数aは1〜5であることが好ましい。
【0025】
次に、化学式AにおけるA
2は炭素数6〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基或いは下記化学式A
2−1及びA
2−2のいずれかで表されるアルコキシメチルエチレン基(アルコキシ基は炭素数6〜18の直鎖又は分岐鎖からなる)であり、bは平均付加モル数を表し、0〜5の範囲にある。ここで、炭素数6〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基の例としては、ブチルエチレン基、オクチルエチレン基、デシルエチレン基、ドデシルエチレン基、テトラデシルエチレン基、ヘキサデシルエチレン基等が挙げられる。
【化6】
【0026】
上記化学式A
2−1及びA
2−2のいずれかで表されるアルコキシメチルエチレン基におけるR
3は、炭素数6〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、具体例としては、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、イソウンデシル基、ドデシル基、イソドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イソステアリル基等が挙げられる。
【0027】
また、化学式AにおけるEOはエチレンオキシドに由来するオキシエチレン基であり、cは平均付加モル数であり、1〜100の範囲にあるのが好ましく、重合安定性向上の点から、1〜50の範囲にあるのがより好ましい。
【0028】
また、一般式(I)中、Xは水素原子、又は−(CH
2)
s−SO
3M、−(CH
2)
r−COOM、−PO
3M
2、−P(Z)O
2M、及び−CO−CH
2−CH(SO
3M)−COOMから選択されたアニオン性親水基を表し、これらの式中、s及びrはそれぞれ0〜4の数を表し、Zは上記一般式(I)からXを除いた残基を表し、Mはそれぞれ、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム残基、又はアルカノールアミン残基を表す。これらの中でも−SO
3M、−PO
3M
2又は−P(Z)O
2Mが好適に使用できる。なお、上記−PO
3M
2は、上記一般式(I)からXを除いた残基Zとのモノエステル体を表し、−P(Z)O
2Mは、上記一般式(I)からXを除いた残基Zとのジエステル体を表し、これら−PO
3M
2及び−P(Z)O
2Mは、それぞれ単独で用いることもでき、混合物として用いることもできる。
【0029】
[乳化重合用乳化剤の製造方法]
以下、本発明の乳化重合用乳化剤の製造方法の一例を説明するが、本発明の乳化重合用乳化剤を得る方法は、以下の方法や合成経路に限定されるものではない。
【0030】
ここに例示する方法では、出発物質としてフェノールを選択し、重合性基導入をハロゲン化アリルによって行う。すなわち、出発物質としてフェノールに対してアリルクロライドやアリルブロマイドなどのアリルハライド(ハロゲン化アリル)を、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基性物質存在下で滴下して反応させ、次いで、適宜昇温して攪拌を継続して熟成することにより、アリルフェノールを得ることができる。この場合、反応原料の相溶性の向上や反応の促進の為に、適当な反応溶剤を選択して使用することもできる。この段階にて、アリルハライド及び塩基性物質の量を適宜調整することにより、フェノールに対してアリル基の置換基数の異なる中間体を得ることができる。
【0031】
この後、中間体として得られたアリル化フェノールに対して、アルキレンオキサイド又はα−オレフィンエポキサイド又はアルキルグリシジルエーテルから選択されたモノマーを、アルカリ存在下、公知の反応条件にて所定の順で付加させる付加重合を行い、その工程中にアリル基が1−プロペニル基に転移して、所望する反応中間体を得ることができる。
【0032】
なお、所望により、反応条件を適宜変更してプロペニルフェノールを主成分として、未転位のアリルフェノールを一定量含む中間体組成物を得ることもできる。この場合、アリルフェノールをアルカリ存在下で加温、攪拌して、事前にアリル基を1−プロペニル基に転位してプロペニルフェノールを得た後、上記の如く一連のアルキレンオキサイド又はα−オレフィンエポキサイド又はアルキルグリシジルエーテルの付加重合に供することができる。
【0033】
次いで、非イオン性の反応中間体に対して公知の方法によりイオン性の親水性基を導入して目的とするイオン性親水性基を有する化合物を得ることができる。なお、アニオン性の親水性基を導入して所望の化合物を得る場合、そのアニオン化反応条件によっては、一般式(I)中のXが水素原子である非イオン成分が未反応成分として残存した反応組成物が得られるが、これは本発明においても許容される。
【0034】
なお、上記イオン性親水基を表わす−(CH
2)
s−SO
3Mにおいてsが0で表わされるアニオン性親水基を導入するための反応条件は特に限定されず、例えば、スルファミン酸、硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸等を反応させることにより導入することができる。また、−(CH
2)
s−SO
3Mにおいてsが1〜4の数で表わされるアニオン性親水基を導入するための反応条件も特に限定されるものではなく、例えば、プロパンサルトン、ブタンサルトン等を反応させることにより導入することができる。
【0035】
また、−(CH
2)
r−COOMで表されるイオン性親水基は、例えば、上記中間体末端のヒドロキシル基を酸化するか、もしくは、モノハロゲン化酢酸を反応させてカルボキシル化を行うか、又は、アクリロニトリル、アクリル酸エステルを反応させ、アルカリでケン化を行うことにより導入できる。
【0036】
また、−PO
3M
2及び/又は−P(Z)O
2M(式中、Zは上記一般式(I)からXを除いた残基を表す)で表されるイオン性親水基は、例えば、五酸化二リン、ポリリン酸、オルトリン酸、オキシ塩化リン等を反応させることにより製造できる。リン酸エステル基をアニオン性親水基とする場合、製造方法によってはモノエステル型の化合物とジエステル型の化合物が混合体として得られるが、これらは分離してもよいし、そのまま混合物として使用してもよい。水の存在下で反応させ、モノエステル化合物の含有割合を高めて使用することもできる。
【0037】
さらに、−CO−CH
2−CH(SO
3M)−COOMで表されるイオン性親水基は、例えば無水マレイン酸を反応させてモノエステル化を行い、無水亜硫酸ナトリウムを反応させてスルホン化を行うことにより製造することができる。
【0038】
なお、アニオン性親水化を行った場合は、その後に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリや、アンモニア、アルキルアミン又はモノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン等で中和を行ってもよい。
【0039】
[乳化重合用モノマー]
本発明の乳化重合用乳化剤を用いた乳化重合に適用されるモノマーは特に限定されず、種々のものが適用可能である。例えばアクリレート系エマルション、スチレン系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、ハロゲン化オレフィン系エマルション、SBR(スチレン/ブタジエン)エマルション、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)エマルション、BR(ブタジエン)エマルション、IR(イソプレン)エマルション、NBR(アクリロニトリル/ブタジエン)エマルション等の製造に使用でき、2種以上のモノマーを混合して乳化重合することもできる。
【0040】
アクリレート系エマルションを構成するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸(エステル)、(メタ)アクリル酸(エステル)/スチレン、(メタ)アクリル酸(エステル)/酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸(エステル)/アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸(エステル)/ブタジエン、(メタ)アクリル酸(エステル)/塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸(エステル)/アリルアミン、(メタ)アクリル酸(エステル)/ビニルビリジン、(メタ)アクリル酸(エステル)/(メタ)アクリル酸アルキロールアミド、(メタ)アクリル酸(エステル)/N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸(エステル)/N,N−ジエチルアミノエチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0041】
スチレン系エマルションを構成するモノマーとしては、スチレン単独の他、例えば、スチレン/アクリロニトリル、スチレン/ブタジエン、スチレン/フマロニトリル、スチレン/マレインニトリル、スチレン/シアノアクリル酸エステル、スチレン/酢酸フェニルビニル、スチレン/クロロメチルスチレン、スチレン/ジクロロスチレン、スチレン/ビニルカルバゾール、スチレン/N,N−ジフェニルアクリルアミド、スチレン/メチルスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、スチレン/アクリロニトリル/メチルスチレン、スチレン/アクリロニトリル/ビニルカルバゾール、スチレン/マレイン酸等が挙げられる。
【0042】
酢酸ビニル系エマルションを構成するモノマーとしては、酢酸ビニル単独の他、例えば、酢酸ビニル/スチレン、酢酸ビニル/塩化ビニル、酢酸ビニル/アクリロニトリル、酢酸ビニル/マレイン酸(エステル)、酢酸ビニル/フマル酸(エステル)、酢酸ビニル/エチレン、酢酸ビニル/プロピレン、酢酸ビニル/イソブチレン、酢酸ビニル/塩化ビニリデン、酢酸ビニル/シクロペンタジエン、酢酸ビニル/クロトン酸、酢酸ビニル/アクロレイン、酢酸ビニル/アルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0043】
ハロゲン化オレフィン系エマルションを構成するモノマーとしては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化ビニル/マレイン酸(エステル)、塩化ビニル/フマル酸(エステル)、塩化ビニル/酢酸ビニル、塩化ビニル/塩化ビニリデン、塩化ビニリデン/酢酸ビニル、塩化ビニリデン/安息香酸ビニル等が挙げられる。
【0044】
なお、本明細書で上記のようにモノマーについて「A/B」等と記載するときは、「/」でつながれたそれら一群のモノマーの併用を表すものとする。また、上記各モノマーに複数種のモノマーが含まれるときは、各モノマーはそれらのモノマーの2種以上の混合物も含むものとする。
【0045】
[乳化重合条件]
本発明の乳化重合用乳化剤を用いた乳化重合は、反応性乳化剤を用いた公知の方法に準じて行うことができる。
【0046】
本発明の乳化重合用乳化剤を使用した乳化重合反応に使用される重合開始剤は特に限定されず、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド等を使用できる。また、重合促進剤も特に限定されるものではないが、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第1鉄アンモニウム等が使用できる。さらに、連鎖移動剤として、α−メチルスチレンダイマー、n−ブチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、四塩化炭素、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素等を用いることもできる。
【0047】
本発明の乳化重合用乳化剤の使用量は、モノマーの種類等により異なり、これに限定されるものではないが、通常は、モノマー総量100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましく、より好ましくは、0.2〜10.0質量部である。
【0048】
本発明の乳化重合用乳化剤は、それ単独でも乳化重合は良好に完結しうるが、本発明の効果を保持できる範囲内において、さらにアニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤、あるいは他の非イオン性界面活性剤を併用することもできる。アニオン性又はカチオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とは、いずれか一方を使用しても、両者を併用してもよい。これらの界面活性剤の併用により乳化重合時の重合安定性を向上させ、また後工程における処理特性を向上させることができる。
【0049】
かかるアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤は特に限定されないが、例えば、アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸セッケン、ロジン酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアリール硫酸塩等が挙げられ、カチオン性界面活性剤としては、ステアリルトリメチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ラウリルトリメチルアンモニウムなどが挙げられ、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルポリグルコシド、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0050】
これらの併用する界面活性剤の配合量としては、本発明の乳化重合用乳化剤中、0.5〜95質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5〜60質量%であり、さらに好ましくは10〜30質量%である。
【0051】
また、本発明の乳化重合用乳化剤には、乳化重合時の重合安定性を向上させるための公知の保護コロイド剤を本発明の趣旨に反しない範囲内で配合することができる。使用できる保護コロイド剤としては、完全けん化ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸、アラビアゴムなどがある。
【0052】
本発明の乳化重合用乳化剤の他の使用方法としては、ポリマーエマルションの安定性を改善するために、重合終了後のポリマーに添加することもできる。また、本発明の乳化重合用乳化剤は懸濁重合にも応用することができる。
【0053】
[作用]
本発明の乳化重合用乳化剤は、その分子中の疎水基部分に共重合性の不飽和基を有し、重合性モノマー、殊にスチレン系モノマーとの共重合性に優れ、ポリマー組成に組み込まれやすい。そのため、共重合性の反応性乳化剤として、ポリマーエマルションから得られたポリマーフィルム中に遊離した状態で存在する乳化剤量が著しく減少し、フィルムの耐水性、接着性等の諸特性の向上に極めて優れた効果を発揮する。かつポリマーエマルションの泡立ち、機械安定性等が著しく改善される。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。なお、文中「%」等の割合は、特に記載がない限り質量基準である。また、構造式中、EOはオキシエチレン基を表し、BOはオキシブチレン基を表す。
【0055】
[一般式(I)で表される化合物の製造例]
(製造例1)
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に、フェノール94g(1.0モル)、NaOH40g(1.0モル)及びアセトン210gを仕込み、撹拌しながら内温を40℃に昇温した。次にアリルクロライド77g(1.0モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに40℃に2時間保ち、熟成を行った。反応生成物を濾過し、副生したNaClを除去した後、減圧下にアセトンを除去し、アリルフェニルエーテル138g(収率97%)を得た。このアリルフェニルエーテル67g(0.5モル)をオートクレーブに仕込み、200℃で5時間撹拌保持した。この操作により転位反応が起こり、目的とするアリルフェノールを得た。
【0056】
次いで、室温まで冷却した後、触媒としてNaOH1.7gを加え、オートクレーブ内を窒素置換した後、115℃で1〜2kg/cm
2の圧力下においてブチレンオキシド144g(2モル)を反応させ、次いでエチレンオキサイド220g(5モル)を付加させた後、冷却して、中和当量の乳酸で中和して所定の非イオン性中間体粗製物を得た。この反応時にアリル基は、1−プロペニル基に定量的に変化した。
【0057】
次に、撹拌器、温度計及び窒素導入管を備えた反応容器に、上記非イオン性中間体粗製物431gを仕込み、反応装置内の雰囲気を窒素で置換後、温度120℃の条件にてスルファミン酸49gを反応させた後、ろ過精製して、次式で表されるアリルフェノールのブチレンオキシド4モル、エチレンオキシド10モル付加体の硫酸エステルアンモニウム塩である、本発明品(1)を得た。硫酸化率は98%であった。
【化7】
【0058】
(製造例2)
フェノールに対するアリルクロライドの仕込み量を1モル相当から1.2モル相当に増量した他は、製造例1に準じた操作により、次式で表されるアリルフェノールのブチレンオキシド4モル、エチレンオキシド10モル付加体の硫酸エステルアンモニウム塩である、本発明品(2)を得た。硫酸化率は98%であった。
【化8】
【0059】
(
参考製造例1)
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に、フェノール94g(1.0モル)、Na
OH40g(1.0モル)及びアセトン210gを仕込み、撹拌しながら内温を40℃に
昇温した。次にアリルクロライド93g(1.2モル)を1時間かけて滴下した。滴下終
了後、さらに40℃に2時間保ち、熟成を行った。反応生成物を濾過し、副生したNaB
rを除去した後、減圧下にアセトンを除去し、次いで、反応粗製物72g(0.5モル)
をオートクレーブに仕込み、200℃で5時間撹拌保持した。
【0060】
次いで、室温まで反応粗製物を冷却した後、触媒としてNaOH1.7gを加え、オートクレーブ内を窒素置換した後、115℃で1〜2kg/cm
2の圧力下においてエチレンオキシド44g(1モル)を反応させ、次いでイソデシルグリシジルエーテル128g(0.6モル)を付加させた後、熟成し、次いでエチレンオキシド176g(4モル)を反応させた後、冷却して、中和当量の乳酸で中和して所定の非イオン性中間体粗製物を得た。この反応時にアリル基は、1−プロペニル基に定量的に変化した。
【0061】
次に、撹拌器、温度計及び窒素導入管を備えた反応容器に、上記非イオン性中間体粗製
物420gを仕込み、反応装置内の雰囲気を窒素で置換後、温度120℃の条件にてスル
ファミン酸49gを反応させた後、ろ過精製して、次式で表されるアリルフェノールのエ
チレンオキシド2モル、イソデシルグリシジルエーテル1.2モル、エチレンオキシド8
モル付加体の硫酸エステルアンモニウム塩である、
参考品(1)を得た。硫酸化率は9
6%であった。
【化9】
【0062】
(製造例4)
フェノールに対するアリルクロライドの仕込み量を1モル相当から1.2モル相当に変更した他は、製造例1に準じた操作により、アリルフェノールのブチレンオキシド4モル、エチレンオキシド10モル付加体を得て、その非イオン性中間体粗製物872g(1モル)を撹拌機及び温度計を備えた反応容器に仕込み、次に撹拌しながら無水リン酸94g(0.33モル)を仕込み、更に撹拌しながら80℃で5時間リン酸化を行い、次式で表されるアリルフェノールのブチレンオキシド4モル、エチレンオキシド10モル付加体のリン酸エステルである、本発明品(4)を得た。なお、本組成物をNMRにて確認したところ、モノエステル/ジエステルの比率は56/44であった。リン酸化率は93%であった。
【化10】
【0063】
(製造例5)
出発物質であるフェノールをtert−ブチルフェノールに変更し、アリルクロライドの仕込み量を1モル相当から1.2モル相当に増量し、アルキレンオキサイドの付加反応時の温度を100℃、エチレンオキシドの付加モル数を20モルとし、硫酸化剤であるスルファミン酸の仕込み量を49gから44g(対非イオン中間体、0.9モル当量)に減量した他は、製造例1に準じた操作により、次式で表されるアリル−tert−ブチルフェノールのブチレンオキシド4モル、エチレンオキシド20モル付加体の硫酸エステルアンモニウム塩である、本発明品(5)を得た。この反応時にアリル基は、80%の転化率で1−プロペニル基に変化した。硫酸化率は88%であった。
【化11】
【0064】
また、以下の使用例における比較品は以下の通りである。
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【0065】
[乳化重合剤の使用例]
(使用例1)スチレン/アクリル酸ブチル系ポリマーディスパージョンの調製
モノマーとしてスチレン123.75g、アクリル酸ブチル123.75g、アクリル酸2.5gを、本発明品又は比較品の乳化剤5.0g及びイオン交換水105gとホモミキサーで混合して混合モノマー乳濁液を調製した。これとは別に、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び滴下漏斗を備えた反応器に、イオン交換水122g、炭酸水素ナトリウム0.25gを仕込んだ。滴下漏斗に上記事前調製した混合モノマー乳濁液のうち36gを仕込み、反応器に一括添加し、80℃に昇温させた。その後、15分間撹拌を継続した後に、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5gをイオン交換水20gに溶解して加えて重合を開始させた。次いで、重合開始剤の添加15分後より3時間かけて、混合モノマー乳濁液の残りの324gを滴下して重合させた。さらに、続けて2時間熟成した後、冷却してアンモニア水でpHを8に調整して、本発明の評価実験に供するポリマーディスパージョンを得た。
【0066】
得られたポリマーディスパージョン及びポリマーフィルムについて、以下の評価試験を
行った。なお、
参考品(1)は酸型品であり、事前に中和等量の水酸ナトリウム水溶液
で中和した後、固形分換算値にて乳化剤の採取を行い、加算された水分量についてはイオ
ン交換水の仕込み量で補正を行った。その詳細結果を表1に示す。
【0067】
(1)ポリマーディスパージョン評価
使用例1において得られたポリマーディスパージョンについて、以下の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0068】
[重合安定性]
ポリマーディスパージョンを80メッシュの金網で乳化重合工程中に生成した凝集物をろ過して、ろ過残渣を水洗後、105℃で2時間乾燥し、その質量をディスパージョンの固形分に対する質量%で示した。なお、本測定において凝集物量が小さい程、乳化重合工程における重合安定性が高いことを意味する。
【0069】
[平均粒子径]
ポリマーディスパージョンの一部を取り、動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、製品名MICROTRAC UPA9340)にて粒子径を測定した。
【0070】
[機械的安定性]
ポリマーディスパージョンの50gを秤取し、マーロン型試験機にて荷重10kg、回転数1,000rpmで5分間処理し、生成した凝集物を80メッシュの金網でろ過し、残渣を水洗後、105℃で2時間乾燥し、その質量をディスパージョンの固形分に対する質量%で示した。なお、本測定において凝集物量が小さいほど、高せん断条件下におけるポリマーディスパージョンの安定性が高いことを意味する。
【0071】
[起泡性]
ポリマーディスパージョンを水で2倍に希釈し、100mlネスラー管に30ml入れ、30回倒立させてから静置5分後における泡の量(ml)を測定した。
【0072】
(2)ポリマーフィルム評価
ポリマーディスパージョンから以下の要領でポリマーフィルムを作成し、以下の評価試験を行った。
【0073】
[耐水白化性]
ポリマーディスパージョンを市販のガラス板に膜厚120μm(dry)になるように塗布し、20℃×65%RHの雰囲気下で24時間乾燥させたものを25℃のイオン交換水に浸漬し、16ポイントの印刷文字の上にガラス板を置き、ポリマーフィルムを通して文字を透かして見たときに、その文字が判別できなくなるまでの日数を測定した。その結果を、以下の基準に基づいて評価した。
◎:21日以上
○:11日〜20日
△:1日〜10日
×:1日未満
【0074】
【表1】
【0075】
(使用例2)アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸ブチル系ポリマーディスパージ
ョンの調製
上記使用例1において、モノマー成分のうち、スチレンをアクリル酸2−エチルヘキシ
ルに変更した以外は使用例1と同様の操作で乳化重合を行い、本発明の評価実験に供試す
るポリマーディスパージョンを得た。なお、
参考品(1)は酸型品であり、事前に中和
等量の水酸ナトリウム水溶液で中和した後、固形分換算値にて乳化剤の採取を行い、加算
された水分量についてはイオン交換水の仕込み量で補正を行った。
【0076】
得られたポリマーディスパージョンについて、固形分、重合安定性、平均粒子径、機械的安定性、起泡性をそれぞれ評価し、ポリマーフィルムについても耐水白化性、及び接着性として粘着保持力をそれぞれ評価した。重合安定性、平均粒子径、機械的安定性、起泡性、耐水白化性の評価方法は、上記の評価方法と同様である。粘着保持力の評価方法は以下の通りである。その結果を表2に示す。
【0077】
[粘着保持力]
5cm幅に切ったPETフィルム上に使用例2において得られたポリマーディスパージョンを25μm(dry)の厚さに塗工し、熱処理した後、SUS板に貼り付け、ローラ圧着した。接着面が5cm×5cmとなるようにフィルムを剥がし、フィルムの端に200gの重りを吊り下げて剥がれるまでの時間(秒)を測定した。その結果を、以下の基準に基づいて評価した。
○:900秒以上
△:300秒以上〜900秒未満
×:300秒未満
【0078】
【表2】