(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
生ニンニク原料を破砕抽出処理することにより得られる抽出物を、そのままもしくは水を加えてから90℃以上の温度で加熱熟成させることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
黒ニンニクはポリフェノールやS-アリルシステイン、シクロアリインなどの高生理活性(抗酸化作用、血中脂質低下作用等)を有する物質を多く含み、健康食品として利用されている。これまでに市販されている黒ニンニクはほとんどが固形である。そのため、そのまま食べられる場合が多く料理用には適していない。また、製法は皮付きのまま蒸し庫に並べて温度と湿度を管理しながら約1ヶ月かかるため、大変手間がかかり高価なものになっていた。
【0003】
特開2010−284103号公報(特許文献1)には野菜の黒色化方法が開示されており、ニンニク、玉ネギ等ネギ属野菜を生またはみじんの状態で等量の水に分散し、ニーダーにて80℃以上4日間、水を補充しながら加熱し続けること、強制または自然排気で硫黄成分が揮発し(最初の50%重量以下)、抗酸化力の高い(17DPPH/g以上)甘酸っぱい黒色ペーストを得ることが記載されている。この方法では、常圧で加熱しているため最高でも100℃であり、黒色ペーストを得るのに時間が4〜6日かかる。また、強制または自然排気していることから、硫黄成分が最初の50%以下になっているにも関わらず臭いがあり、大量の刺激臭により作業上困難が伴う。
【0004】
特公昭63−53972号公報(特許文献2)には、熟成ニンニク液及びその濃縮物の製造方法が開示されており、生ニンニクを破砕搾汁し、密閉容器内で半年〜1年常温保管し、熟成後100℃で濃縮する方法が記載されている。この方法では、常温で製造しているため半年以上という膨大な時間がかかっている。
【0005】
特許第4003217号公報(特許文献3)には加工ニンニク製造法および製造装置が開示されており、生ニンニクを15℃海洋深層水に漬け、温度90℃、湿度80%、168時間(1週間)の第1ステップ→温度80℃、湿度70%、168時間の第2ステップ→温度60℃、湿度70%、360時間の第3ステップにより熟成させることが記載されている。この方法では、海洋深層水に浸けることでミネラル分を増やしているが、固形のニンニクであるため温度に加え湿度も管理しており、また加熱熟成期間は合計4週間かかっている。
【0006】
特許第4080507号公報(特許文献4)には、発酵黒ニンニク抽出液及び発酵黒ニンニクパウダー並びにこれらの製造方法及びこれらを含む飲食品が開示されており、生ニンニクを温度60〜75℃、湿度75〜90%、30日間で黒ニンニク化し、皮むき後ペースト状にしてから水と親水性有機溶媒で抽出した抽出液、および黒ニンニク化後に乾燥し粉砕してポリフェノール含量(タンニン酸として)が増加した黒ニンニクパウダーが記載されている。この方法では、温度60〜75℃での加熱のため30日間の製造期間がかかっている。また、抽出液に関しては固形を熟成させそこから水抽出の後、親水性有機溶媒により抽出するという手間がかかり、親水性有機溶媒を使用するという安全性面での問題もありうる。
【0007】
その他の黒ニンニクの製造法としては、酵素(セルラーゼ)処理、超高圧(200〜300MPa)処理(特開2011−167114号公報:特許文献5)、初期の高温(油で揚げる・電子レンジ)処理(特開2011−120498号公報:特許文献6)、および遠赤外線加熱式蒸し機による処理と玄米発酵素処理などを組み合わせた(特許第4179613号公報(特許文献7)、特許第4033296号公報(特許文献8))先行技術がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような従来技術の状況に鑑み、本発明は、ニンニク原料を湿度の管理等の手間を必要としない簡便な手段で短時間の処理で高生理活性(抗酸化作用、血中脂質低下作用等)を有する物質を維持した状態で黒ニンニクエキスを製造しうる技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、乾燥ニンニクや塩蔵ニンニクのさらし工程に用いた廃液もしくは抽出液、あるいは生ニンニクの抽出物を90℃以上の高温で加熱熟成させることにより、短時間でかつ高生理活性物質を多く含んだ黒ニンニクエキスが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の構成を要旨とする黒ニンニクエキスの製造方法、該方法により製造される黒ニンニクエキス、およびそれを含む食品に関するものである。
(1)ニンニク原料を水による抽出処理に付して得られる抽出物を、90℃以上の温度で加熱熟成させることを特徴とする、黒ニンニクエキスの製造方法。
(2)乾燥ニンニク原料に水を加えて抽出処理することにより得られる抽出物を、90℃以上の温度で加熱熟成させることを特徴とする、上記(1)に記載の製造方法。
(3)生ニンニク原料を破砕抽出処理することにより得られる抽出物を、そのままもしくは水を加えてから90℃以上の温度で加熱熟成させることを特徴とする、上記(1)に記載の製造方法。
(4)塩蔵ニンニク原料に水を加えて脱塩抽出することにより得られる抽出物を、90℃以上の温度で加熱熟成させることを特徴とする、上記(1)に記載の製造方法。
(5)加熱熟成温度が90℃〜130℃であり、加熱熟成期間が2時間〜7日間である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)加熱熟成が密閉状態で行われる、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法により製造される、黒ニンニクエキス。
(8)上記(7)に記載の黒ニンニクエキスを含むことを特徴とする、飲食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下のような顕著な効果が得られる。
・ニンニク原料を水による抽出処理に付して得られる抽出物を、90℃以上の温度を維持して加熱熟成させるだけの簡便な手段により湿度管理を含む大がかりな設備を必要とせずに、短時間で高生理活性物質(S-アリルシステイン、シクロアリイン等)を多く含む黒ニンニクエキスを製造することができる。
・ニンニクの抽出物として乾燥ニンニクあるいは塩蔵ニンニクのさらし工程に用いた水抽出液を使用する場合には、通常は廃棄されている廃液を有効活用することができる。
・ニンニク抽出物を高温(90〜130℃)で熟成させることにより短時間(2時間〜7日間)で、特に、100℃以上の温度では2時間〜2日間程度で高生理活性物質を多量に含む黒ニンニクエキスを得ることができる。
・得られる黒ニンニクエキスは、加熱熟成前に比べてS-アリルシステイン、シクロアリイン、ポリフェノール等の高生理活性物質、単糖等の濃度が著しく増加し、また、味に関しては、甘味、コク味、酸味、旨味が増加し、逆に硫黄成分による臭みや苦味などが減少して食べやすくなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、黒ニンニクエキスの製造方法、この方法により製造される黒ニンニクエキス、および黒ニンニクエキスを含む飲食品に関するものであることは前記したところである。以下、本発明について具体的に説明する。
【0014】
本発明による黒ニンニクエキスの製造方法は、ニンニク原料を水による抽出処理に付して得られる抽出物を、90℃以上の温度で加熱熟成させることを特徴とするものである。本発明において、ニンニク原料としては乾燥ニンニク、生ニンニク、塩蔵ニンニク等を使用することができる。これらのニンニク原料は通常表皮を剥がしたものをそのまま使用するが、必要に応じて適宜カットもしくは細片化したものを用いてもよい。
【0015】
上記のようなニンニク原料を水による抽出処理に付すことにより抽出物を得ることができる。乾燥ニンニク、塩蔵ニンニクでは、通常水による抽出処理後の抽出液部分を抽出物として次の加熱熟成工程に用いるが、この場合は、いずれもさらし工程で生じた廃液を抽出物として用いることもできる。生ニンニクを使用する場合は、もともと水分を多く含んでいることから、破砕抽出処理することにより抽出物が得られ、この抽出物は通常ニンニクの固形部全体を含む状態で次の熟成工程に用いることができる。
【0016】
抽出処理して得られるニンニク抽出物は、次いで90℃以上の温度で加熱熟成させる。この際の加熱温度は90℃以上であり、実用的には90℃〜130℃での加熱温度が好ましく、100℃〜130℃がより好ましい。加熱熟成期間は通常2時間〜7日間程度であるが、加熱温度が100℃以上では2時間〜2日間程度で目的の黒ニンニクエキスを得ることができる。加熱熟成工程は開放系または密閉系で行われるが、生理活性物質の含量、味覚、および作業性等の点から密閉状態で行うことが好ましい。本発明において、密閉状態とは、蒸気や空気等のガスの流通がない環境をいうが、加熱初期には大量の刺激成分が放出されるためこれを防ぐ意味もある。
【0017】
上記のような方法により、加熱熟成前に比べて単糖(果糖、ブドウ糖等)、高生理活性物質(S-アリルシステイン、シクロアリイン、ポリフェノール等)の含量(濃度)が著しく増加し、また、甘味、コク味、酸味、旨味が増加し、逆に硫黄成分による臭みや苦味などが減少した黒ニンニクエキスを得ることができる。
黒ニンニクエキスの製造方法の具体的態様について以下に例示的に説明する。
【0018】
乾燥ニンニク原料を使用する場合の方法は、基本的に、乾燥ニンニク原料に水を加えて抽出処理することにより得られる抽出物(液)を、90℃以上の温度で加熱熟成させることを特徴とする方法である。乾燥ニンニク原料に対する水の使用割合は、通常皮むきしたニンニク1重量部に対して2〜12重量部程度であり、3〜4がより好ましい。また、使用する水の温度は通常5〜70℃程度、好ましくは20〜40℃である。抽出時間は通常20〜60分程度、好ましくは30〜40分である。上記のような処理により、ニンニク抽出物(ニンニク固形部を含む)が得られる。
【0019】
乾燥ニンニク原料を使用する方法では、抽出処理後に得られる抽出物(ニンニク固形部を含む)は、通常ニンニクの固形物を濾布等で濾過して除去した抽出液部分を次の加熱熟成工程に用いる。この場合、ニンニク固形部を含む抽出物でも使用できるが、抽出液中に目的の高生理活性物質が十分抽出されているため、この段階でニンニク固形部を除去しておいた方が以後の工程が効率的である。このようなニンニクの抽出物としては、乾燥ニンニク原料のさらし工程で生ずるニンニク廃液の形態のものであっても上記と同等の抽出条件で得られるため使用することができ、廃液の有効利用ともなるので好ましい。
【0020】
抽出処理で得られるニンニク抽出物(好ましい態様における抽出液)は、その後90℃以上の温度で加熱熟成させる。加熱熟成温度は90℃以上であり、135℃程度までは可能であるが、90℃〜130℃が好ましく、100℃〜130℃がより好ましい。100℃以上で加熱する場合は、加圧容器(例えば加圧釜、加圧式ニーダー)等を用いて常圧以上の環境下で行う。加熱熟成期間は通常2時間〜7日間であり、好ましくは2時間〜2日間(加熱温度130〜100℃)である。加熱熟成工程は解放状態または密閉状態で行うが、熟成後の黒ニンニクエキスの味覚、生理活性物質含量の向上、作業性等の点から密閉容器(例えばニーダー、圧力釜)等を用いて密閉系で行うことが好ましい。熟成工程終了の目安は上記熟成期間であるか、あるいはエキスのpH、官能評価(通常後記実施例の表2)等である。このような加熱熟成により、液状もしくはペースト状の黒ニンニクエキスが得られる。この黒ニンニクエキスのpHは通常3.5〜5.0、好ましくは4.0〜4.5であり、糖度計示度(Brix)は5〜50、好ましくは10〜30である。
【0021】
本発明においては、上記のようにして得られるニンニクエキスを黒ニンニクエキスとして用いることができるが、目的の生理活性物質の濃度をさらに高めるためには加熱熟成工程の後に濃縮を行うことが好ましい。濃縮操作は、通常蒸気等を用いて開放状態で、または減圧濃縮機等を用いて(通常減圧度50〜700 Torrの条件)50〜70℃で糖度計示度(Brix)を所望程度まで、通常45〜55程度(pH3.5〜5.0)、好ましくは48〜52(pH4.0〜4.5)まで濃縮を行い、生じた固形物を濾布等で除去する。濃縮の程度は温度、時間、Brix、減圧度等を適宜調整することにより行うことができる。上記のような方法により、濃縮された黒ニンニクエキスが得られる。また、上記の方法において、加熱抽出時のニンニク抽出物のBrixは通常5〜20程度であるが、ニンニクに対する水の添加割合を少なくするか減圧濃縮したBrixの高い抽出物(例えばBrix20〜50)を加熱熟成工程に使用することにより、濃縮操作をせずに高濃度の成分を含有する黒ニンニクエキスを得ることができる。
【0022】
乾燥ニンニク原料を使用する方法の好ましい態様の一例を以下に示す。
乾燥ニンニク原料1重量部に対し2〜12(好ましくは3〜4)重量部の水(5〜70℃、好ましくは20〜40℃)を加え20〜60分(好ましくは30〜40分)間抽出後、固形物を濾過して除去した液を90〜130℃で2時間〜7日間加圧容器中で密閉状態のまま加熱して黒ニンニクエキスを製造する。その後必要に応じて、開放状態または減圧濃縮機中で50〜70℃で糖度計示度を45〜55(好ましくは48〜52)まで濃縮し、固形物を除去する。このような方法により、加熱熟成前に比べて、濃縮前の黒ニンニクエキスはpHが4.0〜4.5、Brixが5〜20であり、単糖量が15〜20倍以上、S-アリルシステイン量が10倍以上、シクロアリイン量が2倍以上、ポリフェノールが5倍以上増加する。また、濃縮後の黒ニンニクエキスはpHが4.0〜4.5、Brixが48〜52であり、単糖量が35倍以上、S-アリルシステイン量が25倍以上、シクロアリイン量が5倍以上、ポリフェノールが12倍以上増加する。なお、アリインは5〜10分の1未満に減少する。上記黒ニンニクエキスは味に関しては、いずれも甘味、コク味、酸味、旨味が増加し、逆に硫黄成分による臭みや苦味などが減少して食べやすくなる(後記実施例1、3、4、5参照)。
【0023】
生ニンニク原料を使用する場合の方法は、基本的に、生ニンニク原料を破砕抽出処理して得られる抽出物を、そのままもしくは水を加えてから90℃以上の温度で加熱熟成させることを特徴とする方法である。生ニンニク原料は通常表皮を剥がしたものを用い、必要に応じてカットしたものを用いてもよいが、そのままのものを用いた方が効率的である。生ニンニクを原料として用いる場合、破砕抽出処理時に必要に応じて水を加えてもよいが、一般に十分量の水分(通常60〜65重量%程度以上、好ましくは60〜70重量%)を含んでいるため、そのまま破砕処理することができる。この破砕処理により多量の水分を含む細胞が破壊され、実質的に水での抽出による破砕抽出物(ニンニク固形物を含む)が得られる。
【0024】
破砕抽出処理の手段としては、高温加熱、電磁波もしくはマイクロ波、超音波、ミキサー、ホモジナイザー等があげられるが、高温加熱を含む手段を用いることにより、そのまま次の加熱熟成工程に移行することができ効率的である。高温での加熱は、例えば温度80〜100℃で10〜60分(好ましくは10〜30分)の条件が例示される。高温加熱の手段としては、電磁波もしくはマイクロ波(電子レンジ等)、お湯、蒸気等があげられるが、電子レンジは実用的である。電子レンジを使用する場合の強度条件は通常600〜1600Wで、5〜20分程度である。破砕抽出処理終了の目安は、通常ニンニク原料が中心部まで柔らかくなっていることである。
【0025】
破砕抽出処理により得られる抽出物(ニンニク固形部を含む)は、そのままもしくは水を加えてから90℃以上の温度で加熱熟成させる。この際の加熱温度は90℃以上であればよいが、90℃〜130℃が好ましく、100〜130℃がより好ましい。90℃以上の温度で加熱(破砕)抽出処理(電子レンジ等)した後に水を加えない場合は、そのまま同じ90℃以上の温度を所定時間維持することにより、加熱熟成させることができる。水を加える場合は、通常抽出物1重量部に対して水1〜5重量部、好ましくは1〜2重量部使用する。
【0026】
熟成期間は通常2時間〜7日間であり、好ましくは2時間〜2日間である。熟成工程は解放状態または密閉状態で行うが、熟成物の味覚、生理活性物質の含量の向上等の点から密閉系で行うことが好ましい。このような方法により、ペースト状または液状の黒ニンニクエキスを得ることができる。また必要があれば、前記乾燥ニンニク原料の場合と同様にして更に濃縮してもよい。熟成工程終了の目安は上記熟成期間であるか、pH(3.5〜5.0、好ましくは4.0〜4.5)、官能評価(前記)等である。
【0027】
生ニンニク原料を使用する方法の好ましい態様の一例を以下に示す。
生ニンニク原料の皮をむき80〜100℃で10〜60分加熱(電子レンジ等)後、そのまま、または原料1重量部に対して1〜5重量部(好ましくは1〜2)重量部の割合で水を加え90〜130℃で2時間〜7日間ニーダー(または加圧釜)中で密閉状態のまま加熱して黒ニンニクエキスを製造する。この黒ニンニクエキスのpHは通常3.5〜5.0、好ましくは4.0〜4.5であり、糖度計示度(Brix)は50〜75、好ましくは60〜70である。このような方法により、加熱熟成前に比べて黒ニンニクエキスは単糖量が10倍以上、S-アリルシステイン量が10倍以上、シクロアリイン量が2倍以上、ポリフェノールが3倍以上増加(重量)する。また、その後必要に応じて、乾燥ニンニクの場合と同様にして濃縮を行う(成分濃度をさらに高める)ことができ、例えば上記黒ニンニクエキスの1.1〜1.5倍程度まで濃縮できる。上記のようにして得られる黒ニンニクエキスは、味に関しては甘味、コク味、酸味、旨味が増加し、逆に硫黄成分による臭みや苦味などが減少して食べやすくなる(後記実施例2参照)。
【0028】
塩蔵ニンニク原料を使用する場合の方法は、基本的に、塩蔵ニンニク原料に水を加えて脱塩抽出処理することにより得られる抽出物を、90℃以上の温度で加熱熟成させることを特徴とする方法である。塩蔵ニンニク原料に使用するニンニクは、表皮を剥がしたものをそのまま使用してもよいが、適宜カットもしくは細片化したもの(通常1mm〜10mm程度)を用いることにより抽出時間が短縮される。塩蔵ニンニク原料に対する水の使用割合は、通常皮むきしたニンニク1重量部に対して1〜10重量部程度であり、2〜4重量部がより好ましい。また、使用する水の温度は通常5〜70℃程度、好ましくは20〜40℃である。脱塩抽出操作は、通常静置するか、あるいは数回の軽い撹拌を行う。抽出時間は全ニンニクを使用する場合で通常4〜24時間(カットもしくは細片化ニンニクの場合20〜60分)程度、好ましくは8〜16時間(カットもしくは細片化ニンニクの場合30〜40分)である。上記のような処理によりニンニク抽出物が得られる。
【0029】
脱塩抽出処理して得られる抽出物(通常ニンニク固形部を含まない抽出液)は、その後90℃以上の温度で加熱熟成させるが、脱塩抽出処理後の加熱熟成工程および得られる黒ニンニクエキスの特徴については、乾燥ニンニク原料の場合と基本的に変わらない。
【0030】
塩蔵ニンニク原料を使用する方法の好ましい態様の一例を以下に示す。
塩蔵ニンニク(カットもしくは細片化)原料1重量に対し1〜10重量(好ましくは1〜2重量)の水(5〜70℃、好ましくは20〜40℃)を加えて、20〜60分(好ましくは30〜60分)脱塩抽出後、固形物を濾過して除去した液を90〜130℃で2時間〜7日間ニーダーまたは加圧釜中で密閉状態のまま加熱して黒ニンニクエキスを製造する。その後、必要に応じて、開放状態または減圧濃縮機中で通常50〜70℃(好ましくは60〜70℃)で糖度計示度を45〜55(好ましくは48〜52)まで濃縮し、固形物を除去する。このようにして得られる黒ニンニクエキスは、相対的に塩分が高いことを除いてpH、糖度計示度(Brix)の他、生理活性物質、味覚等において乾燥ニンニク原料の場合と基本的に変わらない。
【0031】
本発明は、上記したような方法によって得ることができる黒ニンニクエキスにも関する。本発明による黒ニンニクエキスは、実施例1〜4でも示されるように、加熱熟成前に比べて単糖量が5〜10倍以上、S-アリルシステイン量が5〜10倍以上、シクロアリイン量が1.5〜2倍以上、ポリフェノールが5倍以上増加し、味に関しては、甘味、コク味、酸味、旨味が増加し、逆に硫黄成分による臭みや苦味などが減少して食べやすくなるという特徴を有する。また、本発明による黒ニンニクエキスは、通常pHが3.5〜5.0であり、糖度計示度(Brix)が45〜55である。好ましい態様における黒ニンニクエキスを以下に例示する。
乾燥ニンニクおよび塩蔵ニンニクを使用して得られる黒ニンニクエキス(濃縮前)は、通常pHが4,0〜4.5、糖度計示度(Brix)が5〜20であり、成分において、通常単糖(フルクトース、グルコース等)の含量2〜10g/100g、S-アリルシステインの含量25〜100mg/100g、シクロアリインの含量5〜25mg/100g、およびポリフェノールの含量80〜320mg/100gを含む。濃縮後の黒ニンニクエキスは通常pHが4.0〜4.5、糖度計示度(Brix)が48〜52であり、成分において、通常単糖(フルクトース、グルコース等)の含量25〜35g/100g、S-アリルシステインの含量200〜300mg/100g、シクロアリインの含量30〜100mg/100g、およびポリフェノールの含量300〜1300mg/100gを含む。なお、アリイン含量は0〜20mg/100g未満である。
生ニンニクを使用して得られる黒ニンニクエキスは、通常pHが3.5〜4.5、Brixが30〜70であり、成分において、通常単糖(フルクトース、グルコース等)の含量10〜40g/100g、S-アリルシステインの含量25〜100mg/100g、シクロアリインの含量100〜500mg/100g、およびポリフェノールの含量200〜600mg/100gを含む。なお、アリイン含量は0〜20mg/100g未満である。
【0032】
さらに、本発明は、上記のような黒ニンニクエキスを含むことを特徴とする飲食品にも関する。食品としては特に限定されず、種々の食品が対象となりうるが、例えば、黒ニンニクエキスを単独で(他の添加剤を含んでいてもよい)あるいは種々の飲食品に添加物として配合して高生理活性作用(抗酸化作用、血中脂質低下作用等)を有する飲食品とすることができる。また、本発明の黒ニンニクエキスは、ポリフェノールやS-アリルシステイン、シクロアリインなどの高生理活性(抗酸化作用、血中脂質低下作用等)を有する物質を多く含んでおり、医薬品の用途に単独でまたは添加剤を配合して種々の形態で使用することができる。
【0033】
本発明による飲食品は、栄養補助食品(サプリメント)、栄養強化食品等の健康食品、あるいは種々の生理活性作用を有する機能性食品等の種々の食品形態をとりうる。本発明の飲食品は、黒ニンニクエキスを食品の分野で通常使用される添加剤(賦形剤(例えばデンプン、デキストリン))、溶媒(例えば水)等を使用して通常の方法によりカプセル剤、シロップ剤、ドリンク剤、錠剤、顆粒等の種々の製品形態で使用でき、必要に応じて調味料等の添加剤をさらに配合してもよい。また、本発明の黒ニンニクエキスを添加する飲食品としては、特に限定されないが、例えば、カレー、ニンニク酢、ソース、タレ、ドレッシング、ドリンク等の飲食品が例示される。本発明において、黒ニンニクエキスを食品の用途に使用する場合のその配合量は特に限定されず、また食品の形態等により異なりうるが、例えば半流動食品(カレー、ソース等)の全量に対して5〜50重量%程度配合することができ、流動もしくは液状食品(ニンニク酢、ドリンク等)の全量に対して5〜50重量%程度配合することができる。
【0034】
本明細書において、特に断りのない限り%表示は重量%を意味するものである。
以下、実施例により本発明の形態をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0035】
以下の実施例において、黒ニンニクエキス成分量の測定は以下の方法に従った。
○単糖:F-キット(ブドウ糖、果糖)−ロシュ社製にて測定した。
○S-アリルシステイン、アリイン:AccQ-tag法を用いてHPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて測定した。HPLC分析条件は以下の通り。
カラム:Waters dC18 Atlantis(5μm, φ4.6×150mm)
・A液−酢酸ナトリウム:リン酸:トリエチルアミン:水=19:6.5:1.5:73 (w/w/w/w)を1に対して10倍の水で希釈したものを使用した。
・B液−アセトニトリル:水=60:40(v/v)
・カラムオーブン:37℃ 、流速:1.0ml/min.、検出:励起波長395nm、蛍光波長
○シクロアリイン:サンプルは水で希釈後、HPLCにて測定した。HPLC分析条件は以下の通り。
カラム:Asahipack NH2P-50E(4.6×150mm)、移動相:0.1%リン酸/アセトニトリル=20/80、検出:UV210nm、流速1.0mL/min、カラム温度:40℃の条件で分析した。
○ポリフェノール:Folin-Denis’法により分析した。水で希釈したサンプル1mLにFolin-Denis’試薬1mLを加え、更に10%Na
2CO
3水溶液を1mL加えて撹拌後、1時間常温で反応させ700nmの吸光度を測定した。スタンダードはタンニン酸を用い、0〜50ug/mLの範囲で測定した。
【実施例1】
【0036】
乾燥ニンニク原料1に対し3倍量(重量)のお湯を加え1時間抽出後、固形を濾布で濾過して除去した液を100℃で2日間加圧式ニーダー中で密閉状態のまま加熱して黒ニンニクエキスを製造した。その後開放状態で70℃で糖度計示度を約50まで濃縮し、固形を濾布で除去した。その結果、加熱前に比べ、濃縮前の黒ニンニクエキスはpHが4.5、糖度計示度(Brix)が20であり、単糖量が15倍以上(重量)、S-アリルシステイン量が10倍以上、シクロアリイン量が2倍以上、ポリフェノールが5倍以上増加していた。濃縮後の黒ニンニクエキスはpHが4.5、糖度計示度(Brix)が50であり、単糖量が35倍以上(重量)、S-アリルシステイン量が25倍以上、シクロアリイン量が5倍以上、ポリフェノールが12倍以上増加していた(表1(a))。なお、アリインは検出されなかった(抽出液167.4mg/100g→エキス0.0 mg/100g)。味に関しては、いずれも甘味、コク味、酸味、旨味が増加し、逆に硫黄成分による臭みや苦味などが減少して食べやすくなった(表3)。
【0037】
【表1】
【実施例2】
【0038】
生ニンニク原料の皮をむき電子レンジ(800wの条件で10分)で加熱後、原料と等量の水を加え100℃で3日間加圧釜中で密閉状態のまま加熱して黒ニンニクエキスを製造した(pH4.5、糖度計示度34)。その結果、加熱前に比べ黒ニンニクエキス(ペースト)は単糖量が10倍以上(重量)、S-アリルシステイン量が10倍以上、シクロアリイン量が2倍以上、ポリフェノールが3倍以上増加していた(表2)。なお、アリイン量は60分の1未満であった(抽出液140mg/100g→エキス2.3 mg/100g)。味に関しては甘味、コク味、酸味、旨味が増加し、逆に硫黄成分による臭みや苦味などが減少して食べやすくなった。また、開放状態で製造したものは密閉状態で製造したものに比べ単糖量が少なく、味は甘味、コク味、酸味、旨味が少なく、硫黄成分による臭みや苦味などが多かった(表3)。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【実施例3】
【0041】
乾燥ニンニク原料1に対し3倍量(重量)の水を加え1時間抽出後、固形を濾布で濾過して除去した液を90℃で7日間ニーダー中で密閉状態のまま加熱して黒ニンニクエキスを製造した。その後開放状態で70℃で糖度計示度(Brix)を約50まで濃縮し、固形を除去した。その結果、加熱前に比べ、濃縮前の黒ニンニクエキスはpHが4.0、糖度計示度(Brix)が20であり、単糖量が15倍以上(重量)、S-アリルシステイン量が10倍以上、シクロアリイン量が2倍以上、ポリフェノールが5倍以上増加していた。濃縮後の黒ニンニクエキスはpHが4.0、Brixが50であり、単糖量が35倍以上、S-アリルシステイン量が25倍以上、シクロアリイン量が5倍以上、ポリフェノールが12倍以上増加していた(表4(a)(b))。なお、アリインは検出されなかった(抽出液167.4mg/100g→エキス0.0 mg/100g)。味に関しては、甘味、コク味、酸味、旨味が増加し、逆に硫黄成分による臭みや苦味などが減少して食べやすくなった(表3)。
【0042】
【表4】
【実施例4】
【0043】
乾燥ニンニク原料1に対し3倍量(重量)の水を加え1時間抽出後、固形を濾布で濾過して除去した液を130℃で2時間加圧釜中で密閉状態のまま加熱して黒ニンニクエキスを製造した。その後開放状態で70℃で糖度計示度(Brix)を約50まで濃縮し、固形を濾布で除去した。その結果、加熱前に比べ、濃縮前の黒ニンニクエキスはpHが4.3、糖度計示度(Brix)が20であり、単糖量が15倍以上(重量)、S-アリルシステイン量が10倍以上、シクロアリイン量が2倍以上、ポリフェノールが5倍以上増加していた。濃縮後の黒ニンニクエキスはpHが4.3、糖度計示度(Brix)が50であり、単糖量が35倍以上、S-アリルシステイン量が25倍以上、シクロアリイン量が5倍以上、ポリフェノールが12倍以上増加していた(表5(a)(b))。なお、アリインは10分の1未満であった(抽出液167.4mg/100g→濃縮前エキス6.1 mg/100g、濃縮後エキス15.2 mg/100g)。味に関しては、甘味、コク味、酸味、旨味が増加し、逆に硫黄成分による臭みや苦味などが減少して食べやすくなった(表3)。
【0044】
【表5】
【実施例5】
【0045】
乾燥ニンニク原料1に対し10倍量(重量)の水を加え30分抽出後、固形を濾布で濾過して除去した液を100℃で44時間加熱して黒ニンニクエキスを製造した。その後開放状態で70℃で糖度計示度(Brix)を約50まで濃縮し、固形を除去した。その結果、加熱前に比べ、濃縮前の黒ニンニクエキスはpHが4.2、糖度計示度(Brix)が5であり、単糖量が15倍以上(重量)、S-アリルシステイン量が10倍以上、シクロアリイン量が2倍以上、ポリフェノールが5倍以上増加していた。濃縮後の黒ニンニクエキスはpHが4.2、Brixが50であり、単糖量が35倍以上(重量)、S-アリルシステイン量が25倍以上、シクロアリイン量が 5倍以上、ポリフェノールが12倍以上増加していた。(表6(a))。なお、アリインは5〜60分の1未満であった(抽出液41.9mg/100g→濃縮前エキス0.6 mg/100g、濃縮後エキス5.6 mg/100g)。味に関しては、いずれも甘味、コク味、酸味、旨味が増加し、逆に硫黄成分による臭みや苦味などが減少して食べやすくなった(表3)。
【0046】
【表6】
【実施例6】
【0047】
黒ニンニクエキスを使用した料理例−黒ニンニクカレー
作り方:
以下の方法で黒ニンニクカレーを製造した。
(1)ラードを熱しみじん切りのニンニク、ショウガを炒める。
(2)カレー粉、小麦粉を加え10〜15分炒める。
(3)鶏ダシを添加し弱火で煮る。
(4)さらに残りの原料(黒ニンニクエキス(実施例3)を含む)を全て加え煮る。
(5)600gまで煮詰めて終了。
【0048】
【表7】
【実施例7】
【0049】
黒ニンニクエキスを使用した料理例−黒ニンニク酢
以下のように原料を混合し作った。
【0050】
【表8】
【実施例8】
【0051】
黒ニンニクエキスの使用例−黒ニンニクカプセル
黒ニンニクエキス(実施例3)1gをカプセル1個に封入して黒ニンニクカプセルを製造した。
【0052】
【表9】