特許第5968735号(P5968735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5968735フェライト磁石の磁場中成形に用いるロアーパンチ、及び当該ロアーパンチの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968735
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】フェライト磁石の磁場中成形に用いるロアーパンチ、及び当該ロアーパンチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 3/02 20060101AFI20160728BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20160728BHJP
   B22F 3/035 20060101ALI20160728BHJP
   B30B 11/00 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   B28B3/02 Q
   H01F41/02 G
   B22F3/035 D
   B30B11/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-201877(P2012-201877)
(22)【出願日】2012年9月13日
(65)【公開番号】特開2014-54803(P2014-54803A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】300046832
【氏名又は名称】ゼノー・テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】高橋 成宏
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−270276(JP,A)
【文献】 特開昭57−187914(JP,A)
【文献】 特開2002−239791(JP,A)
【文献】 実開昭56−039425(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/02
B22F 3/035
B30B 11/00
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト磁石の磁場中成形に用いられ、ダイスと、前記ダイスに形成された挿通孔内を所定の摺動方向に摺動するロアーパンチと、前記ロアーパンチに対向して配置されるアッパーパンチと、からなる金型のうちの前記ロアーパンチであって、
磁性体からなる基材部と、
当該ロアーパンチの摺動方向において、前記基材部の前記アッパーパンチに対面する側の端部に配置され、非磁性体からなる非磁性体部と、
前記基材部の外周面の少なくとも一部に設けられ、前記挿通孔の内壁面に接触する摺動接触層と、
を備え、
前記摺動接触層は、前記基材部よりも硬い磁性体からなり、
前記摺動接触層は、前記非磁性体部の外周面には設けられておらず、
前記基材部と前記非磁性体部との接合部において、前記基材部の外周面が前記非磁性体部の外周面よりも低くなるように段差が形成され、
前記摺動接触層は、前記段差によって低くなっている部分に形成され、
前記摺動接触層の外周面と、前記非磁性体部の外周面と、が面一であることを特徴とするロアーパンチ。
【請求項2】
請求項1記載のロアーパンチであって、
前記摺動接触層の厚みは、0.1mm以上であることを特徴とするロアーパンチ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のロアーパンチであって、
前記摺動接触層は、硬さがHRCで40以上60以下のステンレス鋼であることを特徴とするロアーパンチ。
【請求項4】
請求項1からまでの何れか一項に記載のロアーパンチを製造するためのロアーパンチ製造方法であって、
前記基材部の外周面に対して、使用時の硬さが前記基材部よりも硬い素材を肉盛溶接することにより、前記摺動接触層を形成することを特徴とする、ロアーパンチ製造方法。
【請求項5】
請求項1からまでの何れか一項に記載のロアーパンチの前記摺動接触層の外周面に、前記基材部よりも硬い磁性体を肉盛溶接する摺動接触層溶接工程と、
当該ロアーパンチの前記非磁性体部の外周面に、非磁性体を肉盛溶接する非磁性体部溶接工程と、
前記摺動接触層の外周面、及び前記非磁性体部の外周面が面一となるように加工する加工工程と、
を含むことを特徴とする、ロアーパンチ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト磁石の磁場中成形に用いるロアーパンチの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フェライト磁石の成形方法として、特許文献1及び2に記載されているような磁場中成形法が知られている。これは、磁性粉末を金型のキャビティ内に射出し、当該金型に磁場を印加しつつ加圧成形するもので、これによって得られる成形体を焼結することにより異方性フェライト磁石を得ることができる。
【0003】
この種の金型は、挿通孔が形成されたダイス(特許文献1で言うところの型枠)と、前記挿通孔内を摺動可能なロアーパンチ(特許文献1で言うところの第2パンチ)と、ロアーパンチに対向して配置されるアッパーパンチ(特許文献1で言うところの第1パンチ)と、を有する構成が一般的である。そして、ダイスに形成された挿通孔の内壁面と、ロアーパンチ及びアッパーパンチと、によって囲まれた空間がキャビティとなる。キャビティ内に磁性粉末を射出し、当該キャビティ内にロアーパンチを進出させて前記磁性粉末を加圧しつつ、キャビティ内に所望の磁場を発生させて成形を行う。
【0004】
キャビティ内に発生する磁場の形状(磁力線の向き)は、当該磁場が通過する磁性体の影響を受ける。従来の磁場中成形の金型においては、ロアーパンチ及びアッパーパンチを磁性体素材で構成し、当該ロアーパンチ及びアッパーパンチの形状を工夫することにより、キャビティ内に所望の磁場を形成している。しかし、ロアーパンチ及びアッパーパンチは磁性粉末を成形するため金型であるところ、成形に適した形状とする必要がある。このため、ロアーパンチ及びアッパーパンチの形状の自由度は低く、磁場を形成するために形状を工夫する余地が少ない。
【0005】
そこで、ロアーパンチ(及びアッパーパンチ)を、磁性体と非磁性体の2種類の素材を組み合わせたものとする構成が提案されている。このような構成は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1に記載のロアーパンチ(第2パンチ)は、強磁性体と非磁性体から構成されている。特許文献1において、非磁性体には、磁性粉末を成形するための成形面が形成されている。また、前記強磁性体は、前記成形面の反対側において、前記非磁性体に接合している。また、特許文献1において、強磁性体は、非磁性体に向けて突出する凸部を有している。ロアーパンチをこのように構成すれば、強磁性体の凸部の形状を比較的自由に設定できるので、キャビティ内に理想的な磁場を発生させることが可能になる。
【0006】
特許文献1のように構成されたロアーパンチにおいては、非磁性体の部分がキャビティ内部に露出しており、当該非磁性体の表面(成形面)が磁性粉末と接触して加圧成形を行う。このため、当該非磁性体の部分には耐摩耗性が要求される。そこで、このロアーパンチの非磁性体の部分には、例えばステライト(登録商標)のように硬くて耐摩耗性に優れる非磁性素材を採用することが好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−80097号公報
【特許文献2】特開2007−203577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のロアーパンチは、磁性体と非磁性体の2種類の素材を接合した構成であるから、磁性体と非磁性体の接合部分(境界部分)の密着性が問題となる。特に、非磁性体の部分をステライトのような硬い素材とした場合は、磁性体の部分も同じように硬い素材としてしまうと、両者の接合部分にヒビ割れなどが発生し得る。このため、非磁性体の部分をステライトのように硬い素材とした場合には、磁性体の部分は比較的軟らかい素材とする必要がある。
【0009】
ところで、この種のロアーパンチは、磁性粉末を成形する際にダイスの挿通孔内を摺動するので、当該ロアーパンチの外周面と、挿通孔の内壁面と、の間で摩擦が発生する。ところが前述のように、ロアーパンチの磁性体の部分は比較的軟らかい素材とする必要がある。このため、ロアーパンチの磁性体の部分(軟らかい素材の部分)が、挿通孔の内壁面との摩擦によって摩耗してしまうという問題があった。
【0010】
この点、特許文献2には、ロアーパンチの上面にダイヤモンドライクカーボン被膜を形成した構成が記載されている。特許文献2は、これにより、磁性粉末に対する耐摩耗性が向上するとともに、離型剤の使用量を減らすことができたとしている。そこで、ロアーパンチの外周面に特許文献2のような被膜を設けることにより、当該ロアーパンチの耐摩耗性を向上させることも考えられる。
【0011】
しかし、特許文献2のような被膜をロアーパンチに設けたとしても、ダイスの内壁面との摩擦による摩耗を防止する効果は期待できない。即ち、このような被膜は、極めて薄く脆いため、ロアーパンチの外周面が挿通孔の内壁面と摺れた際に、ロアーパンチの外周面から容易に剥がれてしまう。このため、上記のような被膜をロアーパンチの外周面に設けたとしても、当該ロアーパンチの耐久性を向上させるという点では十分な効果が得られない。
【0012】
また、上記とは別に以下のような課題がある。
【0013】
即ち、ロアーパンチの外周面に摩耗が生じるのと同様に、ダイスの挿通孔の内壁面も摩擦によって摩耗する。従来、挿通孔の内壁面が摩耗した場合は、当該内壁面を加工してダイスを再利用していた。
【0014】
このように挿通孔の内壁面を加工すると、当該挿通孔の幅が広がるので、それまで利用していたロアーパンチの幅では、加工後の挿通孔に対して細過ぎることになる。そこで、このような場合、従来は、それまで利用していたロアーパンチを破棄して、加工後の挿通孔の幅に合わせたロアーパンチを新規作成していた。このため、ロアーパンチを新規作成するコストがかかっていた。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0015】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、フェライト磁石の磁場中成形に用いられるロアーパンチの耐久性を向上させることにある。また、本発明の別の目的は、ロアーパンチを再利用することができる方法を提供することにある。
【0016】
本発明の観点によれば、フェライト磁石の磁場中成形に用いられ、ダイスと、前記ダイスに形成された挿通孔内を所定の摺動方向に摺動するロアーパンチと、前記ロアーパンチに対向して配置されるアッパーパンチと、からなる金型のうちの前記ロアーパンチについて、以下の構成が提供される。即ち、このロアーパンチは、基材部と、非磁性体部と、摺動接触層と、を備える。前記基材部は、磁性体からなる。前記非磁性体部は、当該ロアーパンチの摺動方向において、前記基材部の前記アッパーパンチに対面する側の端部に配置され、非磁性体からなる。前記摺動接触層は、前記基材部の外周面の少なくとも一部に設けられ、前記挿通孔の内壁面に接触する。そして、前記摺動接触層は、前記基材部よりも硬い磁性体からなる。前記摺動接触層は、前記非磁性体部の外周面には設けられていない。前記基材部と前記非磁性体部との接合部において、前記基材部の外周面が前記非磁性体部の外周面よりも低くなるように段差が形成される。前記摺動接触層は、前記段差によって低くなっている部分に形成される。そして、前記摺動接触層の外周面と、前記非磁性体部の外周面と、が面一である。
【0017】
このように、基材部の外周面に摺動接触層を設けたことにより、ロアーパンチの耐摩耗性を向上させることができる。また、摺動接触層を磁性体としたので、当該摺動接触層と基材部を合わせて1つの磁性体とみなすことができ、良好な磁場を形成できる。また、本発明では摺動接触層を磁性体としているので、仮に、非磁性体部の外周に摺動接触層を設けた場合、非磁性体部の部分の磁場が摺動接触層の影響を受けてしまう。そこで上記のように、非磁性体部の外周には摺動接触層(磁性体)を設けない構成とすることで、非磁性体部の部分の磁場に対して摺動接触層が悪影響を及ぼすことを回避できる。また、基材部を非磁性体部よりも一段低く形成しておき、この部分に摺動接触層を設けることで、摺動接触層と非磁性体部とを面一に仕上げることができる。非磁性体部と摺動接触層の境界部分において、両者を面一に仕上げることにより、ロアーパンチの外周に引っ掛かりがなくなり、摺動接触層が基材部から剥がれにくくなるので、ロアーパンチの耐久性を更に向上させることができる。
【0022】
上記のロアーパンチにおいて、前記摺動接触層の厚みを0.1mm以上とすれば好適である。
【0023】
このように、摺動接触層の厚みを例えば0.1mm以上とすることにより、当該摺動接触層の耐久性を十分に確保することができる。
【0024】
上記のロアーパンチにおいて、前記摺動接触層が、硬さがHRCで40以上60以下のステンレス鋼であれば好適である。
【0025】
これにより、耐摩耗性に優れ、かつ磁性体からなる摺動接触層を得ることができる。また、摺動接触層の素材をステンレス鋼とすることにより、肉盛溶接によって容易に補修を行うことができる。また、水などの腐食性がある分散媒を用いた湿式の磁場中成形を行う場合は、耐食性を有するステンレス鋼を利用すれば特に好適である。
【0026】
本発明の別の観点によれば、上記のロアーパンチを製造するためのロアーパンチ製造方法が提供される。即ち、このロアーパンチ製造方法では、前記基材部の外周面に対して、使用時の硬さが前記基材部よりも硬い素材を肉盛溶接することにより、前記摺動接触層を形成する。
【0027】
このように、溶接によって摺動接触層を形成することで、基材部との密着性が良好な摺動接触層を得ることができる。これにより、摺動接触層が基材部から剥がれることが無いので、ロアーパンチの耐久性を向上させることができる。また、肉盛溶接であれば、厚みのある摺動接触層を形成することが容易であるため、十分な強度の摺動接触層を容易に形成できる。
【0028】
本発明の更に別の観点によれば、以下のロアーパンチ製造方法が提供される。即ち、このロアーパンチ製造方法は、摺動接触層溶接工程と、非磁性体部溶接工程と、加工工程と、を含む。前記摺動接触層溶接工程では、上記のロアーパンチの前記摺動接触層の外周面に、前記基材部よりも硬い磁性体を肉盛溶接する。前記非磁性体部溶接工程では、当該ロアーパンチの前記非磁性体部の外周面に、非磁性体を肉盛溶接する。前記加工工程では、前記摺動接触層の外周面、及び前記非磁性体部の外周面が面一となるように加工する。
【0029】
ロアーパンチの外周が摩耗した場合などであっても、摺動接触層と非磁性体部の外周面にそれぞれ肉盛溶接を行い、その後に研磨等の加工を行うことにより、摩耗した部分を再生させることができる。これにより、摩耗したロアーパンチを破棄して別のロアーパンチを新規作成する場合に比べて、コストを大幅に削減することができる。また、ロアーパンチの外周面に肉盛溶接を行うので、元のロアーパンチよりも幅が太いロアーパンチを製造することも可能である。これによれば、ダイスが摩耗して挿通孔の幅が大きくなったとしても、それまで利用していたロアーパンチの幅を増大させることによって対応できる。従って、ダイスが摩耗するたびにロアーパンチを新規作成していた従来の方法に比べて、コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係る金型の断面図。
図2】ロアーパンチを挿通孔に挿入した様子を示す断面図。
図3】本実施形態の金型によって成形されるフェライト磁石の斜視図。
図4】本実施形態のロアーパンチの製造方法を示す断面図。
図5】ロアーパンチの補修方法を示す断面図。
図6】既存のロアーパンチを元に、それよりも先端部の幅が太いロアーパンチを製造する方法を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
続いて、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係る金型1は、アッパーパンチ2と、ロアーパンチ3と、ダイス4と、を備えている。この金型1は、フェライト磁石の磁場中成形に用いられるものである。フェライト磁石の磁場中成形、及びその金型の一般的な構成については、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されているように公知であるが、以下に簡単に説明する。
【0033】
ロアーパンチ3は、細長い四角柱状の部材として構成されており、その長手方向で、先端部5と、保持部6と、が並んで設けられている。なお、ロアーパンチ3の金型としての機能は先端部5が有しており、保持部6はもっぱら先端部5を保持するために設けられている。また、ロアーパンチ3は、その長手方向に沿って移動可能に構成されている。ロアーパンチ3が移動する方向を、図1に太線の矢印で示す。
【0034】
ダイス4は、ロアーパンチ3の移動方向と平行な方向に形成された挿通孔7を有している。この挿通孔7の内壁面8は、ロアーパンチ3の先端部5の外周形状と同じ、又はこれよりも若干大きい程度に形成されている。これにより、ロアーパンチ3の先端部5を、挿通孔7に挿入できるようになっている(図2参照)。先端部5を挿通孔7に挿入した状態で、ロアーパンチ3を長手方向に移動させることで、先端部5が挿通孔7の内部を摺動する。なお、本明細書では、ロアーパンチ3が挿通孔7の内部を摺動する方向(ロアーパンチ3の長手方向)のことを、単に「摺動方向」と言うことがある。
【0035】
アッパーパンチ2は、ダイス4に対して固定的に設けられている。アッパーパンチ2は、ダイス4に形成された挿通孔7を、ロアーパンチ3が挿入される側とは反対側から塞ぐように配置されている。図2に示すように、ロアーパンチ3の先端部5を挿通孔7に挿入した状態では、当該先端部5の端面が、アッパーパンチ2と対面する。図1に示すように、ロアーパンチ3の先端部5には、アッパーパンチ2に向けて凸となる凸状曲面9が形成されている。一方、アッパーパンチ2には、前記凸状曲面9に対面するように、凹状曲面10が形成されている。
【0036】
以上の構成で、ダイス4の挿通孔7にロアーパンチ3の先端部5を挿入することにより、ダイス4の挿通孔7の内壁面8、ロアーパンチ3の凸状曲面9、及びアッパーパンチ2の凹状曲面10によって囲まれたキャビティ11が形成される(図2参照)。この金型1で成形を行う際には、フェライト磁石12の原料となる磁性粉末(又は当該磁性粉末を分散媒に分散させたスラリー)を、キャビティ11内に射出する。そして、ロアーパンチ3を所定位置まで進出させてキャビティ11内の磁性粉末を加圧しつつ、図略の磁場印加装置によってキャビティ11内を通過する磁場を印加する。
【0037】
本実施形態のような磁場中成形用の金型においては、一般的に、ロアーパンチ3及びアッパーパンチ2の大部分が強磁性体から構成されている。このため、前記磁場印加装置によって印加された磁場の磁力線は、ロアーパンチ3及びアッパーパンチ2によって曲げられる。これにより、キャビティ11の内部(凸状曲面9と凹状曲面10の間)に、所定形状の磁場が形成される。キャビティ11内に形成される磁場の磁力線を、図2に二点鎖線の矢印で例示している。なお、当該磁場の形成に影響を及ぼさないようにするため、ダイス4は非磁性体で構成されている。
【0038】
キャビティ11内の磁性粉末は、上記磁場に応じて流動する。これにより、所定の磁場配向性を有する成形体が得られる。その後、成形体をキャビティ11から取り出して焼結し、必要に応じて適宜加工を施すことにより、図3に示すようなフェライト磁石12を得ることができる。
【0039】
本実施形態の金型1は、図3に示すようになアークセグメント型(弓型)のフェライト磁石12を成形することを想定している。従って、内壁面8、凸状曲面9、及び凹状曲面10で囲まれたキャビティ11の形状はアークセグメント型となっている。なお、図3のようなアークセグメント型のフェライト磁石12は、電動モータのステータやロータ等に用いられる他、スピーカ、マグネトロン管などに利用されている。
【0040】
続いて、本実施形態のロアーパンチ3について、より詳しく説明する。
【0041】
ロアーパンチ3は、非磁性体から成る非磁性体部20と、強磁性体から成る基材部21と、同じく強磁性体からなる摺動接触層23と、から構成されている。
【0042】
図1に示すように、基材部21は、ロアーパンチ3の先端部5と保持部6にまたがって配置されている。図1に示すように、基材部21は、ロアーパンチ3の保持部6の全体を占めている。一方、先端部5において、基材部21の表面は非磁性体部20及び摺動接触層23によって覆われている。従って、ロアーパンチ3の先端部5においては、基材部21が露出しないようになっている。
【0043】
非磁性体部20は、先端部5において、基材部21の先端面(アッパーパンチ2に対面する部分)の全体を覆うように配置されている。従って、ロアーパンチ3の先端部5を挿通孔7内に挿入したときには、非磁性体部20がアッパーパンチ2の凹状曲面10に対面することになる(図2参照)。非磁性体部20には、前述の凸状曲面9が形成されている。また、図1に示すように、非磁性体部20と基材部21との接合面(境界面)は、アッパーパンチ2の凹状曲面10に向けて凸となる第2凸状曲面22となっている。言い換えると、本実施形態の基材部21は、アッパーパンチ2の凹状曲面10に向けて凸となる第2凸状曲面22を有している。
【0044】
ここで、非磁性体(非磁性体部20)と磁性体(基材部21)の2種類の素材でロアーパンチ3を構成した効果について簡単に説明する。
【0045】
非磁性体部20は磁場の形成には影響を及ぼさないので、凸状曲面9がどのような形状であっても、キャビティ11内の磁場の形成には影響が無い。キャビティ11内に形成される磁場の形状(磁力線の向き)を決めるのは、磁性体である基材部21の形状(より具体的には、第2凸状曲面22の形状)である。本実施形態のように構成されたロアーパンチ3であれば、凸状曲面9の形状と第2凸状曲面22の形状を、互いに異ならせることができるので、それぞれを所望の形状とすれば良い。そこで、本実施形態のロアーパンチ3では、凸状曲面9は、セグメントアーク状のキャビティ11を成形できる形状とし、第2凸状曲面22は、キャビティ11内に理想的な磁場を形成できる形状としている。
【0046】
このように、ロアーパンチ3を、磁性体(基材部21)と非磁性体(非磁性体部20)の2種類の素材によって構成したことにより、所望形状のキャビティ11を形成しつつ、当該キャビティ11内に所望形状の磁場を形成できる。これにより、所望形状で、かつ所望の磁場配向性を有するフェライト磁石12を得ることができる。
【0047】
非磁性体部20は、キャビティ11内に露出しており、当該キャビティ11内に射出された磁性粉末に接触するので、耐摩耗性が要求される。本実施形態の金型1においては、非磁性体部20の素材として、耐摩耗性に優れた非磁性体素材であるステライト(登録商標)を採用している。なお、ステライトのHRC(ロックウェル硬さ)は45程度である。
【0048】
また、既に従来技術として説明したように、非磁性体部20と基材部21の両方を同じように硬い素材で構成した場合は、両者の接合部分でヒビ割れなどが発生し得る。このため、基材部21に用いる磁性体の素材は、非磁性体部20に比べて軟らかいことが好ましい。本実施形態では、基材部21の素材としてS45Cなどの炭素鋼を採用している。なお、S45CのHRCは25程度である。
【0049】
続いて、本実施形態のロアーパンチ3の特徴的な構成について説明する。
【0050】
本実施形態の金型1で磁性粉末を成形する際、ダイス4に形成された挿通孔7内をロアーパンチ3の先端部5が摺動するため、当該先端部5の外周面と、挿通孔7の内壁面8と、の間に摩擦が発生する。このため、先端部5の外周面には耐摩耗性が要求される。ところが前述のように、ロアーパンチ3の基材部21は、非磁性体部20に比較して軟らかい素材とせざるを得ないため、耐摩耗性の点で十分ではない。このため、仮に、基材部21が内壁面8に直接接触していると、当該基材部21の外周面が速やかに摩耗してしまう。
【0051】
そこで、本実施形態のロアーパンチ3は、基材部21の外周面に、当該基材部21よりも硬い磁性体からなる摺動接触層23を設けたものである。摺動接触層23は、ロアーパンチ3の先端部5において、基材部21の外周面を全て覆うように配置されている。従って、本実施形態の金型1で磁性粉末を成形する際には、基材部21の外周に配置された摺動接触層23が、挿通孔7の内壁面8に接触して摺動することになる。なお、本明細書において、「外周面」とは、ロアーパンチ3の長手方向に平行な面のことを言うものとする。従って、ロアーパンチ3の先端部5について「外周面」と言った場合には、挿通孔7の内壁面8に対面する面のことを指す。
【0052】
以上のように、ロアーパンチ3の先端部5において、基材部21の外周面を覆うように摺動接触層23を設けたことにより、基材部21が、挿通孔7の内壁面8に接触しないようになっている。これにより、基材部21の摩耗を防ぐことができる。
【0053】
摺動接触層23は、基材部21よりも硬い素材から構成されているので、基材部21に比べて耐摩耗性に優れている。従って、摺動接触層23を基材部21の外周に設けることにより、ロアーパンチ3の摩耗を低減し、当該ロアーパンチ3の寿命を延ばすことができる。
【0054】
図1の断面図に示すように、非磁性体部20と基材部21の接合部分(境界部分)において、基材部21の外周面が非磁性体部20の外周面よりも一段低くなるように(即ち、基材部21がロアーパンチ3の内側に向けて凹むように)、段差24が形成されている。この段差24を埋めるようにして、摺動接触層23が設けられている。そして、非磁性体部20の外周面と、摺動接触層23の外周面とは接続しており、両者は面一となっている。
【0055】
このように、本実施形態のロアーパンチ3では、非磁性体部20の外周面と摺動接触層23の外周面が段差無く接続されているので、先端部5が挿通孔7内を摺動する際に引っ掛かりが発生しない。これにより、ロアーパンチ3がスムーズに摺動できるとともに、摺動接触層23が基材部21から剥がれてしまうことを防止できる。
【0056】
また、ロアーパンチ3の長手方向と平行な平面による断面(図1等に示す断面)において、非磁性体部20と摺動接触層23との間の部分には、基材部21がクサビ状に入り込んだクサビ部25が設けられている。即ち、非磁性体部20と摺動接触層23は共に硬い素材であるから、仮に両者が直接的に接合していると、その接合部分でヒビ割れなどが発生し得る。そこで、非磁性体部20と摺動接触層23の間に、基材部21をクサビ状に入り込ませる構成としたものである。基材部21は比較的軟らかい素材であるから、非磁性体部20と摺動接触層23の間のクサビ部25が緩衝部としての役割を果たし、ヒビ割れを防止できる。
【0057】
なお、図1に示すように、クサビ部25は、外周面に近づくにつれて細くなるように形成されており、外周面に至る直前に消滅するように構成されている。つまり、基材部21のクサビ部25は、外周面に露出しないようになっている。このようなクサビ部25を設けることで、非磁性体部20の外周面と摺動接触層23の外周面を接続させつつ、両者の間のヒビ割れを防止できる。
【0058】
摺動接触層23は、基材部21よりも硬い素材であれば、ロアーパンチ3の耐摩耗性を向上させる効果を得ることができる。本実施形態の場合、基材部21の硬さはHRC=25程度であるから、これよりも硬い磁性体の素材であれば、摺動接触層23の素材としては特に限定されない。しかし、十分な耐摩耗性を確保するという観点からは、摺動接触層23の素材としてはHRCが40以上であることが好ましい。一方で、本実施形態の摺動接触層23の外周面は研磨等の機械加工によって仕上げるため(詳しくは後述)、加工を容易にする観点から、摺動接触層23の硬さはHRC60以下であることが好ましい。
【0059】
また、後述するように、本実施形態の摺動接触層23は、肉盛り溶接によって形成される。従って、摺動接触層23の素材としては、溶接可能な金属素材であることが好ましい。更に、金型1のキャビティ11内には、水などを分散媒としたスラリーを射出する場合があるので、摺動接触層23の素材としては耐食性を有する素材を採用することが好ましい。以上の点を勘案すれば、摺動接触層23の素材としてはスレンテス鋼を採用することが好適である。本実施形態では、摺動接触層23の素材としてSUS420Fなどのステンレス鋼を採用している。なお、SUS420FのHRCは50程度である。
【0060】
摺動接触層23は、基材部21の外周面にのみ設けられており、非磁性体部20の外周面には設けられていない。本実施形態の非磁性体部20は、耐摩耗性に優れたステライトから構成されているので、摺動接触層23によって保護する必要性に乏しいためである。従って、本実施形態の金型1で磁性粉末を成形する際、非磁性体部20の外周面は、挿通孔7の内壁面8に直接接触して摺動する。
【0061】
また、摺動接触層23は磁性体であるから、仮にこの摺動接触層23を非磁性体部20の外周面に設けた場合、非磁性体部20を通過する磁力線に影響を及ぼしてしまう。そこで上記のように、非磁性体部20の外周面には磁性体(摺動接触層23)を設けない構成として、当該非磁性体部20を通過する磁力線に影響が及ぶことを回避しているのである。
【0062】
また、挿通孔7に挿入されるのはロアーパンチ3の先端部5のみであり、ロアーパンチ3の保持部6は挿通孔7に挿入されない。従って、ロアーパンチ3の保持部6の外周面が摩耗する心配はないので、当該保持部6の外周面には摺動接触層23を設けていない。
【0063】
以上のように、本実施形態の摺動接触層23は、ロアーパンチ3の先端部5において、基材部21の外周面にのみ設けられている。このように、ロアーパンチ3の外周面のごく一部にのみ摺動接触層23を形成すれば良いので、当該摺動接触層23を肉盛溶接によって形成する作業(後述)の負担を低減できる。
【0064】
続いて、本実施形態のロアーパンチ3の製造方法について、図4を参照して説明する。
【0065】
まず、非磁性体部20と基材部21を接合した状態のものを作成する(図4(a))。後の加工工程での研磨代(けんまシロ)を確保する観点から、非磁性体部20は、規定の寸法よりも幅方向(ロアーパンチ3の長手方向に直交する方向)に若干大きくなるように形成しておけば好適である。図4には、先端部5の幅方向での規定の寸法をL1、非磁性体部20の研磨代をL2で示している。
【0066】
続いて、先端部5の基材部21の外周面を、機械加工などの適宜の方法によって削り、当該基材部21の幅を規定の寸法L1よりも縮小させる(図4(b))。このように削った部分が、前述の段差24となる。図4には、段差24の深さ(規定の寸法L1よりも内側に削った寸法)を、L3で示している。本実施形態では、段差24の深さをL3=0.2mmとしている。なお、基材部21の外周面を削る際には、当該基材部21と非磁性体部20との境界部分にR部を残しておく(図4(b)の状態)。このR部が、前述のクサビ部25となる。
【0067】
次に、基材部21に形成された段差24の外周面に、摺動接触層23の素材(本実施形態ではSUS420F)を肉盛溶接して溶接部26を形成する(図4(c))。このとき、溶接部26の高さ(幅方向の寸法)が、段差24の深さL3よりも高くなるように(つまり、溶接部26が段差24から幅方向にハミ出るように)肉盛溶接する。これは、溶接部26の研磨代を確保するためである。
【0068】
最後に、ロアーパンチ3の先端部5の幅が規定の寸法L1となるように、非磁性体部20と溶接部26の外周面を機械加工(研磨又は切削等)する(図4(d))。これにより、溶接部26の外周面が平滑に仕上げられて、摺動接触層23が形成される。また、非磁性体部20の外周面と溶接部26の外周面を同時に研磨(又は切削)することで、非磁性体部20の外周面と摺動接触層23の外周面を面一に仕上げることができる。
【0069】
以上のように、本実施形態の製造方法では、基材部21の外周面に対して溶接で摺動接触層23を形成するので、基材部21に対する密着性が良好な摺動接触層23を形成できる。これにより、摺動接触層23が基材部21から剥がれてしまうことを防止できる。
【0070】
また、肉盛溶接によって摺動接触層23を形成するので、厚みがある摺動接触層23を形成することが容易である。摺動接触層23の強度を十分に確保するという点では、当該摺動接触層23の厚みを例えば0.1mm以上とすることが好ましい。肉盛溶接であれば、このように厚みのある摺動接触層23を形成できる。なお本実施形態では、段差24の深さL3を0.2mmとしているので、この段差24を埋めるようにして形成される摺動接触層23の厚みは0.2mmとなっている。
【0071】
この点、例えばコーティングによって摺動接触層23を形成することも考えられるが、コーティングによって0.2mmもの厚みがある摺動接触層23を形成することは技術的に困難、又はコストの面から現実的ではない。このため、コーティングによって十分な強度の摺動接触層23を形成することは困難である。また、コーティングによって摺動接触層23を形成した場合、当該摺動接触層23と基材部21との密着性を確保することが困難であるため、摺動接触層23が基材部21から容易に剥がれてしまう。
【0072】
本実施形態では、摺動接触層23を肉盛り溶接で形成する構成としたことにより、基材部21との密着性に優れ、かつ厚みがある摺動接触層23を、安価かつ簡単に形成できる。これにより、ロアーパンチ3の耐久性を、安価かつ簡単に向上させることができる。
【0073】
また、仮にコーティングによって摺動接触層23を形成した場合、当該摺動接触層23は極めて薄くなることから、当該摺動接触層23の研磨代がほとんど無いことになる。従って、仮にコーティングによって摺動接触層23を形成した場合、当該摺動接触層23の外周面と、非磁性体部20の外周面と、を面一に仕上げることが難しくなる。本実施形態では肉盛溶接によって摺動接触層23を形成しているので、当該摺動接触層23の研磨代を確保することが容易である。これにより、摺動接触層23の外周面と非磁性体部20の外周面が面一となるように研磨(又は切削など)によって仕上げることが可能となっているのである。
【0074】
続いて、摺動接触層23を磁性体としたことの効果について説明する。
【0075】
上記のように、本実施形態のロアーパンチ3は、厚みがある摺動接触層23を設けるために、基材部21の先端部5に段差24を形成している。このため、先端部5の基材部21の幅が、規定の寸法L1よりも細くなっている。このように、摺動接触層23を設けるためには、基材部21の幅を規定の寸法L1よりも細くせざるを得ない。
【0076】
さて、基材部21の耐摩耗性を向上させることのみを考えるのであれば、摺動接触層23は非磁性体でも良い。しかし、仮に摺動接触層23を非磁性体とした場合、当該摺動接触層23の部分は磁場の形成に影響を与えないことになる。このため、摺動接触層23を厚くすればするほど、ロアーパンチ3の磁性体の部分(基材部21)の幅が狭くなって、キャビティ11内に理想的な磁場を形成することが難しくなる。
【0077】
この点、本実施形態のロアーパンチ3は、摺動接触層23を磁性体としているので、当該摺動接触層23が磁場の形成に影響を及ぼす。従って、磁場の形成という観点では、摺動接触層23と、基材部21と、を合わせて1つの「磁性体」と考えることができる。この場合、摺動接触層23を厚くすることで基材部21の幅が細くなったとしても、両者を合わせた「磁性体」の幅は規定の寸法L1である。このように、摺動接触層23を磁性体としたことにより、当該摺動接触層23の厚みにかかわらず、ロアーパンチ3の「磁性体」の部分の幅を確保できる。従って、本実施形態の構成によれば、摺動接触層23の厚みを十分に確保しつつ、キャビティ11内に理想的な磁場を形成することができる。
【0078】
続いて、本実施形態のロアーパンチ3の補修方法について説明する。
【0079】
本実施形態のロアーパンチ3は、摺動接触層23を設けたことにより耐摩耗性を向上させているものの、長期にわたって使用を続ければ、先端部5の外周面が徐々に摩耗することもあり得る。
【0080】
先端部5の外周面が摩耗したロアーパンチ3を使い続けていると、当該先端部5の外周面と、挿通孔7の内壁面8と、の間に隙間ができて、成形時にキャビティ11内の磁性粉末が外部に漏れ出るおそれがある。このため、従来は、先端部5の外周面が摩耗したロアーパンチ3は破棄していた。
【0081】
そこで、本願発明は、摩耗したロアーパンチ3の補修方法を提案するものである。この補修方法は、以下のようにして行う。
【0082】
まず、図5(a)に示すように、先端部5の外周面が摩耗したロアーパンチ3を用意する。続いて、摺動接触層23の摩耗した外周面に、基材部21よりも硬い磁性体の素材を肉盛溶接して摺動接触層溶接部27を形成する(摺動接触層溶接工程)。このとき肉盛溶接する素材は、摺動接触層23と同じ素材(本実施形態の場合はSUS420F)であれば好ましい。
【0083】
同様に、非磁性体部20の摩耗した外周面に、耐摩耗性を有する非磁性体の素材を肉盛溶接して非磁性体溶接部28を形成する(非磁性体部溶接工程)。このとき肉盛溶接する素材は、非磁性体部20と同じ素材(本実施形態の場合はステライト)であれば好ましい。なお、摺動接触層溶接工程と非磁性体部溶接工程の順番は前後しても良い。摺動接触層溶接部27及び非磁性体溶接部28を形成した様子を、図5(b)に示す。
【0084】
そして、上記のように肉盛溶接された先端部5の幅が規定の寸法L1となるように、摺動接触層溶接部27及び非磁性体溶接部28の外周面を機械加工(研磨又は切削等)する(加工工程)。これにより、摺動接触層溶接部27及び非磁性体溶接部28の外周面が平滑に仕上げられる。上記の機械加工によって、非磁性体部20及び摺動接触層23の摩耗した外周面を、元の平滑な状態に修復できる(図5(c))。
【0085】
上記のように、非磁性体部20の摩耗した外周面に非磁性体を、摺動接触層23の摩耗した外周面に磁性体を、それぞれ肉盛溶接し、その後に外周面を研磨(又は切削等)することで、摩耗した外周面を補修できる。肉盛溶接で追加した部分は、補修前の部分に対して一体化するので、溶接で追加した部分が剥がれる心配はない。以上の補修方法により、摩耗したロアーパンチ3を修復できるので、当該ロアーパンチ3を再利用することが可能となる。
【0086】
なお、上記の補修方法は、摩耗したロアーパンチ3を元にして、補修されたロアーパンチ3を製造する製造方法であると考えることもできる。このように考えると、本願発明の製造方法は、単に摩耗したロアーパンチ3を補修するという目的に限らず、元のロアーパンチ3とは異なるロアーパンチを製造する方法として捉え直すことができる。
【0087】
そこで次に、既存のロアーパンチ3に基づいて、これよりも先端部5の幅が太いロアーパンチ3’を製造する方法について説明する。
【0088】
まず、ロアーパンチ3の先端部5の幅を太くする必要性について簡単に説明する。即ち、金型1を長期にわたって使用していると、ダイス4の挿通孔7の内壁面8に摩耗が生じ得る。そこで、摩耗した内壁面8を機械加工(研磨又は切削等)することにより、当該内壁面8を平滑な状態にしてダイス4を再利用するということが従来から行われている。
【0089】
このような加工を行った場合、挿通孔7の幅が若干拡がることになる。従って、拡がった挿通孔7に対応して、それまでよりも先端部5の幅が太いロアーパンチ3が必要となる。従来は、ロアーパンチ3を太くすることはできないと考えていたので、それまで使っていたロアーパンチ3は破棄していた。
【0090】
そこで本願発明は、既存のロアーパンチ3を元にして、これよりも先端部5の幅が太いロアーパンチ3’を製造する方法を提案するものである。以下、この製造方法について、図6を参照して説明する。
【0091】
まず、元となるロアーパンチ3を用意する(図6(a))。このロアーパンチ3の先端部5の規定の幅を、L1で示す。なお、図6(a)では、先端部5の外周面が摩耗していない状態を描いているが、これに限らず、図5(a)のように先端部5の外周面が摩耗したロアーパンチ3を用いることもできる。
【0092】
続いて、用意したロアーパンチ3の摺動接触層23の外周面に、基材部21よりも硬い磁性体の素材を肉盛溶接して摺動接触層溶接部27を形成する(摺動接触層溶接工程)。このとき肉盛溶接する素材は、摺動接触層23と同じ素材(本実施形態の場合はSUS420F)であれば好ましい。
【0093】
同様に、用意したロアーパンチ3の非磁性体部20の外周面に、耐摩耗性を有する非磁性体の素材を肉盛溶接して非磁性体溶接部28を形成する(非磁性体部溶接工程)。このとき肉盛溶接する素材は、非磁性体部20と同じ素材(本実施形態の場合はステライト)であれば好ましい。なお、摺動接触層溶接工程と非磁性体部溶接工程の順番は前後しても良い。摺動接触層溶接部27及び非磁性体溶接部28を形成した様子を、図6(b)に示す。
【0094】
そして最後に、先端部5の幅が所望の寸法L4となるように、摺動接触層溶接部27及び非磁性体溶接部28の外周面を機械加工(研磨又は切削等)する(加工工程)。加工後の先端部5の幅L4は、元の先端部5の幅L1よりも任意に大きな寸法とすることができる。従って、元のロアーパンチ3よりも先端部5の幅を拡大したロアーパンチ3’を、安価かつ簡単に製造できる。
【0095】
このように、本実施形態の製造方法によれば、元のロアーパンチ3の先端部5の幅を拡大することができる。従って、例えばダイス4の挿通孔7の幅が機械加工によって拡がった場合であっても、それまで利用していたロアーパンチ3の先端部5の幅を太くすることで対応できる。このように、それまで利用していたロアーパンチ3を再利用できるので、先端部5の幅を太くしたロアーパンチを製造するコストを大幅に削減できる。
【0096】
以上で説明したように、本実施形態のロアーパンチ3は、基材部21と、非磁性体部20と、摺動接触層23と、を備えている。基材部21は、磁性体からなる。非磁性体部20は、当該ロアーパンチ3の摺動方向において、基材部21のアッパーパンチ2に対面する側の端部に配置され、非磁性体からなる。摺動接触層23は、基材部21の外周面に設けられ、挿通孔7の内壁面8に接触する。そして、摺動接触層23は、基材部21よりも硬い磁性体からなっている。
【0097】
このように、基材部21の外周面に摺動接触層23を設けたことにより、ロアーパンチ3の耐摩耗性を向上させることができる。また、摺動接触層23を磁性体としたので、当該摺動接触層23と基材部21を合わせて1つの磁性体とみなすことができ、良好な磁場を形成できる。更に、摺動接触層23が摩耗した場合であっても、摺動接触層23と同じ素材を肉盛溶接することにより、簡単に補修できる。このように、本実施形態の構成によれば、耐久性を向上させるとともに、容易に補修・再生が可能なロアーパンチ3を提供できる。
【0098】
また、本実施形態のロアーパンチ3において、摺動接触層23は、非磁性体部20の外周面には設けられていない。
【0099】
即ち、本発明では摺動接触層23を磁性体としているので、仮に、非磁性体部20の外周に摺動接触層23を設けた場合、非磁性体部20の部分の磁場が摺動接触層23の影響を受けてしまう。そこで上記のように、非磁性体部20の外周には摺動接触層23(磁性体)を設けない構成とすることで、非磁性体部20の部分の磁場に対して摺動接触層23が悪影響を及ぼすことを回避できる。
【0100】
また、本実施形態のロアーパンチ3では、基材部21と非磁性体部20との接合部において、基材部21の外周面が非磁性体部20の外周面よりも低くなるように段差24が形成されている。摺動接触層23は、段差24によって低くなっている部分に形成されている。そして、摺動接触層23の外周面と、非磁性体部20の外周面と、が面一である。
【0101】
このように、基材部21を非磁性体部20よりも一段低く形成しておき、この部分に摺動接触層23を設けることで、摺動接触層23と非磁性体部20とを面一に仕上げることができる。非磁性体部20と摺動接触層23の境界部分において、両者を面一に仕上げることにより、ロアーパンチ3の外周に引っ掛かりがなくなり、摺動接触層23が基材部21から剥がれにくくなるので、ロアーパンチ3の耐久性を更に向上させることができる。
【0102】
また、本実施形態のロアーパンチ3は、摺動接触層23の厚みを0.2mmとしているので、当該摺動接触層23の耐久性を十分に確保することができる。
【0103】
また、本実施形態のロアーパンチ3は、摺動接触層23を、硬さがHRCで50のステンレス鋼(SUS420F)としている。これにより、耐摩耗性に優れ、かつ磁性体からなる摺動接触層23を得ることができる。また、摺動接触層23の素材をステンレス鋼とすることにより、肉盛溶接によって容易に補修を行うことができる。また、水などの腐食性がある分散媒を用いた湿式の磁場中成形を行う場合は、耐食性を有するステンレス鋼を利用すれば特に好適である。
【0104】
また、本実施形態のロアーパンチ製造方法では、基材部21の外周面に対して、使用時の硬さが基材部21よりも硬い素材を肉盛溶接することにより、摺動接触層23を形成している。
【0105】
このように、溶接によって摺動接触層23を形成することで、基材部21との密着性が良好な摺動接触層23を得ることができる。これにより、摺動接触層23が基材部21から剥がれることが無いので、ロアーパンチ3の耐久性を向上させることができる。また、肉盛溶接であれば、厚みのある摺動接触層23を形成することが容易であるため、十分な強度の摺動接触層23を容易に形成できる。
【0106】
また、本実施形態のロアーパンチ製造方法は、摺動接触層溶接工程と、非磁性体部溶接工程と、加工工程と、を含んでいる。摺動接触層溶接工程では、ロアーパンチ3の摺動接触層23の外周面に、基材部21よりも硬い磁性体を肉盛溶接する。非磁性体部溶接工程では、ロアーパンチ3の非磁性体部20の外周面に、非磁性体を肉盛溶接する。加工工程では、摺動接触層23の外周面、及び非磁性体部20の外周面が面一となるように加工する。
【0107】
ロアーパンチ3の外周が摩耗した場合などであっても、摺動接触層23と非磁性体部20の外周面にそれぞれ肉盛溶接を行い、その後に研磨等の加工を行うことにより、摩耗した部分を再生させることができる。これにより、摩耗したロアーパンチ3を破棄して別のロアーパンチを新規作成する場合に比べて、コストを大幅に削減することができる。また、ロアーパンチ3の外周面に肉盛溶接を行うので、元のロアーパンチ3よりも幅が太いロアーパンチ3を製造することも可能である。これによれば、ダイス4が摩耗して挿通孔7の幅が大きくなったとしても、それまで利用していたロアーパンチ3の幅を増大させることによって対応できる。従って、ダイス4が摩耗するたびにロアーパンチ3を新規作成していた従来の方法に比べて、コストを大幅に削減することができる。
【0108】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0109】
上記実施形態では、基材部21の先端部5の外周を全て覆うように摺動接触層23を設けている。しかしこれに限らず、先端部5において基材部21の一部のみを覆うように摺動接触層23を設けても良い(つまり、先端部5において、基材部21の一部が露出していても良い)。この場合であっても、摺動接触層23を全く設けない場合に比べてロアーパンチの耐磨耗性を向上させるという効果を得ることができる。
【0110】
本発明に係る金型1によって形成されるフェライト磁石の形状はアークセグメント型に限定されない。従って、キャビティ11の形状は、図2に示したものに限定されず、目的のフェライト磁石の形状に合わせた適宜の形状とすることができる。
【0111】
上記実施形態のロアーパンチ3の製造方法の説明では、非磁性体部20と基材部21を接合した後に、基材部21を削って段差24を形成するとしたが、これに限らず、基材部21に予め段差24を形成しておき、その後に、非磁性体部20と基材部21を接合しても良い。
【符号の説明】
【0112】
1 金型
2 アッパーパンチ
3 ロアーパンチ
4 ダイス
7 挿通孔
20 非磁性体部
21 基材部
23 摺動接触層
図1
図2
図3
図4
図5
図6