(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の燃料電池の製造方法の一実施形態により得られる燃料電池を示す概略構成図である。
【0019】
図1において、燃料電池1は、固体高分子型燃料電池であって、複数の燃料電池セルSを備えており、これらの燃料電池セルSが積層されたスタック構造(セル積層体15(後述))として形成されている。
【0020】
なお、
図1においては、図解しやすいように1つの燃料電池セルSを取り出して示している。
【0021】
燃料電池セルSは、電解質層4、電解質層4の一方側面に形成される電極としての燃料側電極2、および、電解質層4の他方側面に形成される電極としての酸素側電極3を備えている。
【0022】
電解質層4は、アニオン成分が移動可能な層であり、例えば、アニオン交換膜を用いて形成されている。
【0023】
アニオン交換膜としては、アニオン成分(例えば、水酸化物イオン(OH
−)など)が移動可能な媒体であれば、特に限定されず、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基などのアニオン交換基を有する固体高分子膜(アニオン交換樹脂)が挙げられる。
【0024】
アニオン交換膜を形成する固体高分子としては、例えば、ポリスチレンおよびその変性体などの炭化水素系の固体高分子膜などが挙げられる。
【0025】
また、アニオン交換膜を形成する固体高分子は、その分子構造において、架橋構造を有していてもよい。
【0026】
また、アニオン交換膜は、市販品として入手可能であり、例えば、セレミオン(旭硝子社製)、ネオセプタ(アストム社製)などが挙げられる。
【0027】
また、電解質層4の膜厚は、例えば、10〜100μmである。
【0028】
燃料側電極2は、例えば、触媒を担持した触媒担体などの電極材料により形成されている。また、触媒担体を用いずに、電極材料として触媒を用い、その触媒を、直接、燃料側電極2として形成してもよい。
【0029】
触媒としては、特に制限されず、例えば、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt))、鉄族元素(鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni))などの周期表(IUPAC Periodic Table of the Elements(version date 22 June 2007)に従う。以下同じ。)第8〜10(VIII)族元素や、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの周期表第11(IB)族元素などの金属単体が挙げられる。
【0030】
これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0031】
触媒担体としては、例えば、カーボンなどの多孔質物質が挙げられる。
【0032】
触媒の触媒担体に対する担持量は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0033】
燃料側電極2の厚みは、例えば、10〜200μm、好ましくは、20〜100μmである。
【0034】
酸素側電極3は、例えば、上記した燃料側電極2と同様に、触媒を担持した触媒担体などの電極材料により形成されている。また、触媒担体を用いずに、電極材料として触媒を用い、その触媒を、直接、酸素側電極3として形成してもよい。
【0035】
また、酸素側電極3では、電極材料として、例えば、錯体形成有機化合物および/または導電性高分子とカーボンとからなる複合体(以下、この複合体を「カーボンコンポジット」という。)に、遷移金属が担持されている触媒を用いることもできる。
【0036】
遷移金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、銀、コバルトが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0037】
錯体形成有機化合物は、金属原子に配位することによって、当該金属原子と錯体を形成する有機化合物であって、例えば、ピロール、ポルフィリン、テトラメトキシフェニルポルフィリン、ジベンゾテトラアザアヌレン、フタロシアニン、コリン、クロリンなどの錯体形成有機化合物またはこれらの重合体が挙げられる。これらのうち、好ましくは、ピロールの重合体であるポリピロールが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0038】
導電性高分子としては、上記錯体形成有機化合物と重複する化合物もあるが、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリトリフェニルアミン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリキノキサリン、ポリフェニルキノキサリン、ポリイソチアナフテン、ポリピリジンジイル、ポリチエニレン、ポリパラフェニレン、ポリフルラン、ポリアセン、ポリフラン、ポリアズレン、ポリインドール、ポリジアミノアントラキノンなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0039】
酸素側電極3の厚みは、例えば、10〜300μm、好ましくは、20〜150μmである。
【0040】
また、この燃料電池セルSにおいては、上記した燃料側電極2および酸素側電極3のうち、少なくとも一方の電極材料として、金属単体(触媒担体に担持されていない触媒)が用いられる。
【0041】
好ましくは、燃料側電極2の電極材料として、金属単体が用いられる。
【0042】
金属単体が燃料側電極2に含有されていれば、優れた効率で燃料側電極2内に液体燃料を拡散させることができ、優れた発電性能を得ることができる。
【0043】
また、好ましくは、酸素側電極3の電極材料として、カーボンコンポジットに遷移金属が担持されている触媒が用いられる。
【0044】
カーボンコンポジットに遷移金属が担持されている触媒が、酸素側電極3に含有されていれば、優れた発電性能を得ることができる。
【0045】
また、燃料電池セルSには、さらに、燃料供給部材5と酸素供給部材6とを備えている。
【0046】
燃料供給部材5は、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、燃料側電極2における電解質層4と接触している表面とは反対側の表面に、対向接触されている。そして、この燃料供給部材5には、燃料側電極2の全体に燃料を接触させるための燃料側流路7が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。なお、この燃料側流路7は、その上流側端部および下流側端部に、燃料供給部材5を貫通する供給口8および排出口9がそれぞれ連続して形成されている。
【0047】
また、酸素供給部材6も、燃料供給部材5と同様に、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、酸素側電極3における電解質層4と接触している表面とは反対側の表面に、対向接触されている。そして、この酸素供給部材6にも、酸素側電極3の全体に酸素(空気)を接触させるための酸素側流路10が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。なお、この酸素側流路10にも、その上流側端部および下流側端部に、酸素供給部材6を貫通する供給口11および排出口12がそれぞれ連続して形成されている。
【0048】
そして、この燃料電池1は、上述したように、燃料電池セルSが、複数積層されるスタック構造として形成されている。そのため、燃料供給部材5および酸素供給部材6は、図示されていないが、両面に燃料側流路7および酸素側流路10が形成されるセパレータとして構成(兼用)される。
【0049】
なお、
図1には表われていないが、燃料電池1には、導電性材料によって形成される集電板が備えられており、燃料電池1で発生した起電力は、集電板に備えられた端子から外部に取り出される。
【0050】
また、試験的(モデル的)には、燃料供給部材5と酸素供給部材6とを、外部回路13によって接続し、その外部回路13に電圧計14を介在させることにより、燃料電池1で発生する電圧を計測することもできる。
【0051】
図2は、本発明の燃料電池の製造方法の一実施形態を示す工程図、
図3は、
図2に続いて、本発明の燃料電池の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【0052】
以下において、このような燃料電池1を製造するための燃料電池1の製造方法について、
図2および
図3を参照して詳述する。
【0053】
この方法では、まず、
図2(a)に示すように、還元により金属単体化する金属前駆体を含有する電極インクを調製する(インク調製工程)。
【0054】
より具体的には、まず、燃料側電極2の形成に用いられる燃料側電極インクを調製する。
【0055】
燃料側電極インクの調製では、例えば、還元により金属単体化する金属前駆体と、溶媒とを、混合および撹拌する。
【0056】
還元により金属単体化する金属前駆体は、還元されることによって上記した金属単体になる化合物であって、例えば、上記した金属単体の、硝酸塩、水酸化物、酢酸塩などが挙げられ、好ましくは、金属単体の硝酸塩が挙げられる。
【0057】
これら金属前駆体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0058】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノールなどの低級アルコール類、例えば、テトラヒドロフランなどのエーテル類、水など、公知の溶媒が挙げられる。これら溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0059】
これら各成分の混合割合は、金属前駆体100質量部に対して、溶媒が、例えば、50質量部以上、好ましくは、180質量部以上であり、例えば、300質量部以下、好ましくは、190質量部以下である。
【0060】
混合方法としては、公知の混合方法が採用される。また、混合温度は、例えば、10〜30℃、混合時間は、例えば、1〜60分間である。
【0061】
これにより、燃料側電極インクを調製することができる。
【0062】
また、燃料側電極インクには、さらに、例えば、電極材料を高分散させ、さらに、イオン伝導性および接着性を向上させるためのイオノマー、撥水性を付与するための樹脂成分(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など)などの公知の添加剤を添加することができる。なお、添加剤の配合割合は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0063】
また、このインク調製工程では、燃料側電極インクとは別途、酸素側電極3の形成に用いられる酸素側電極インクを調製する。
【0064】
酸素側電極インクの調製では、電極材料と溶媒とを、混合および撹拌する。
【0065】
これら各成分の混合割合は、電極材料100質量部に対して、溶媒が、例えば、1000質量部以上、好ましくは、1600質量部以上であり、例えば、2500質量部以下、好ましくは、1700質量部以下である。
【0066】
また、混合方法としては、公知の混合方法が採用される。また、混合温度は、例えば、10〜30℃、混合時間は、例えば、1〜60分間である。
【0067】
これにより、酸素側電極インクを調製することができる。
【0068】
また、燃料側電極インクと同様に、酸素側電極インクには、さらに、例えば、イオノマー、撥水性付与樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など)などの公知の添加剤を、適宜の割合で添加することができる。
【0069】
次いで、この方法では、
図2(b)に示すように、電解質層4の一方側面に燃料側電極2を形成するとともに、電解質層4の他方側面に酸素側電極3を形成し、燃料電池セルSを得る(セル形成工程)。
【0070】
電解質層4の一方側面に燃料側電極2を形成するには、まず、上記により得られた燃料側電極インクを、電解質層4の一方の表面を覆うように、例えば、常温および常圧において、塗布する。
【0071】
燃料側電極インクの塗布方法としては、例えば、スプレー法、ダイコーター法、インクジェット法など公知の塗布方法が挙げられ、好ましくは、スプレー法が挙げられる。
【0072】
その後、塗布した燃料側電極インクを、例えば、10〜40℃で乾燥する。
【0073】
これによって、電解質層4の一方の表面に、金属前駆体を含む燃料側電極2を形成することができる。
【0074】
燃料側電極2の厚みは、上記したように、例えば、10〜200μm、好ましくは、20〜100μmである。
【0075】
また、電極材料(金属単体換算)の担持量は、例えば、0.01mg/cm
2以上10mg/cm
2以下である。
【0076】
電解質層4の他方側面に酸素側電極3を形成するには、上記と同様の方法によって、酸素側電極インクを、電解質層4の他方(燃料側電極2が定着された一方に対する他方)の表面に塗布および乾燥させる。
【0077】
これにより、電解質層4の他方の表面に、酸素側電極3を形成することができる。
【0078】
酸素側電極3の厚みは、上記したように、例えば、10〜300μm、好ましくは、20〜150μmである。
【0079】
また、電極材料の担持量は、例えば、0.09mg/cm
2以上、好ましくは、0.18mg/cm
2以上であり、例えば、18mg/cm
2以下、好ましくは、9mg/cm
2以下である。
【0080】
そして、このように燃料側電極2および酸素側電極3を形成することにより、膜−電極接合体として、燃料電池セルSを得ることができる。
【0081】
次いで、この方法では、
図3(c)に示されるように、上記により得られた燃料電池セルSを複数積層し、セル積層体15を得る(組立工程)。
【0082】
すなわち、この工程では、まず、上記の燃料電池セルSを複数(例えば、2〜500枚)用意する。そして、各燃料電池セルSの間に、燃料供給部材5および酸素供給部材6を兼ねるセパレータ5、6を介在させるように、複数の燃料電池セルSを順次積層する。これにより、セル積層体15(
図1参照)を得る。
【0083】
なお、図示しないが、セル積層体15においては、燃料電池セルSおよびセパレータ5、6とともに、公知のガス拡散層などを積層することができ、また、必要に応じて、ガスケットなどを設けることもできる。
【0084】
次いで、この方法では、
図3(d)に示されるように、セル積層体15に対して金属前駆体を還元可能な液体燃料を供給し、金属前駆体を還元することによって、燃料側電極2内の金属前駆体を金属単体化する(還元工程)。
【0085】
すなわち、詳しくは後述するが、液体燃料(後述)は、金属前駆体を還元可能に調製されている。そして、そのような液体燃料(後述)が、適宜の流速でセル積層体15の燃料側電極2に供給されることによって、金属前駆体が還元され、金属単体化する。これにより、金属単体が燃料側電極2に高分散された燃料電池1を得ることができる。
【0086】
そして、燃料側電極2に供給された液体燃料(後述)が、後述するように反応し、セル積層体15において電力を生じさせる。
【0087】
次に、燃料電池1の発電について説明する。
【0088】
燃料電池1では、酸素側流路10に空気が供給されるとともに、燃料側流路7に、燃料化合物を含む液体燃料(以下、単に「燃料」と称する場合がある。)が供給されることによって、発電が行なわれる。
【0089】
この燃料電池1において、燃料側流路7に供給される液体燃料は、上記した金属前駆体を還元可能に調製される。
【0090】
そのような液体燃料としては、例えば、ヒドラジン類を含む液体燃料などが挙げられ、具体的には、例えば、無水ヒドラジン(NH
2NH
2)、水加ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2O)などのヒドラジンの水溶液、例えば、トリアザン(NH
2NHNH
2)、テトラザン(NH
2NHNHNH
2)などのヒドラジン類の水溶液が挙げられる。
【0091】
また、液体燃料には、添加剤として、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物などが添加することができる。添加剤の添加量は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0092】
また、燃料は、上述した燃料化合物をそのまま供給してもよいし、例えば、水および/またはアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール)などの溶液として供給してもよい。この場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、燃料化合物の種類によっても異なるが、例えば、1〜90質量%、好ましくは、1〜30質量%である。
【0093】
そして、燃料電池1における発電を、より具体的に説明すると、酸素供給部材6の酸素側流路10に酸素(空気)を供給しつつ、燃料供給部材5の燃料側流路7に上記した燃料を供給すれば、酸素側電極3においては、次に述べるように、燃料側電極2で発生し、外部回路13を介して移動する電子(e
−)と、水(H
2O)と、酸素(O
2)とが反応して、水酸化物イオン(OH
−)を生成する。生成した水酸化物イオン(OH
−)は、アニオン交換膜からなる電解質層4を、酸素側電極3から燃料側電極2へ移動する。そして、燃料側電極2においては、電解質層4を通過した水酸化物イオン(OH
−)と、燃料とが反応して、電子(e
−)が生成する。生成した電子(e
−)は、燃料供給部材5から外部回路13を介して酸素供給部材6に移動され、酸素側電極3へ供給される。このような燃料側電極2および酸素側電極3における電気化学的反応によって、起電力が生じ、発電が行われる。
【0094】
例えば、燃料としてヒドラジン(NH
2NH
2)を用いた場合には、上記反応は、燃料側電極2、酸素側電極3および全体として、次の反応式(1)〜(3)で表すことができる。
(1) NH
2NH
2+4OH
−→4H
2O+N
2+4e
− (燃料側電極)
(2) O
2+2H
2O+4e
−→4OH
− (酸素側電極)
(3) NH
2NH
2+O
2→2H
2O+N
2 (全体)
なお、この燃料電池1の運転条件は、特に限定されないが、例えば、燃料側電極2側の加圧が100kPa以下、好ましくは、50kPa以下であり、酸素側電極3側の加圧が100kPa以下、好ましくは、50kPa以下であり、燃料電池セルSの温度が30〜100℃、好ましくは、60〜90℃として設定される。
【0095】
そして、上記した燃料電池1では、液体燃料が供給されることによって金属前駆体が還元され、得られる金属単体が、燃料側電極2に高分散されている。そのため、上記した燃料電池1によれば、優れた発電性能を得ることができる。
【0096】
具体的には、従来の燃料電池1の製造方法では、電極材料として用いられる金属単体は、通常、金属前駆体(金属塩など)を還元焼成することによって得られるが、その焼成時に金属同士が凝集して比表面積が小さくなり、発電性能の低下を惹起するおそれがある。
【0097】
なお、凝集した金属単体の平均粒子径(測定方法:走査型電子顕微鏡)は、例えば、200nm以上であり、比表面積(測定方法:BET法)は、例えば、10m
2/g以下である。
【0098】
一方、上記した燃料電池1の製造方法では、まず、還元により金属単体化する金属前駆体を含有する電極インクを電解質層4に塗布し、燃料側電極2を形成した後、このような燃料側電極2を備えるセル積層体15に、液体燃料が供給され、金属前駆体が還元および金属単体化される。
【0099】
すなわち、このような燃料電池1の製造方法では、還元焼成工程を不要として金属単体を得ることができる。
【0100】
そのため、このようにして得られた燃料電池1は、金属単体が凝集されることなく、燃料側電極2内に高分散されているので、優れた発電性能を備えることができる。
【0101】
具体的には、上記の方法により得られる金属単体の平均粒子径(1次粒子径、測定方法:走査型電子顕微鏡)は、例えば、10nm以上、好ましくは、20nm以上であり、例えば、50nm以下、好ましくは、40nm以下である。
【0102】
また、金属単体の比表面積(測定方法:BET法)は、例えば、100m
2/g以上、好ましくは、200m
2/g以上であり、例えば、400m
2/g以下、好ましくは、300m
2/g以下である。
【0103】
さらに、上記した燃料電池1の製造方法では、液体燃料を供給することによって、セル積層体15において発電させるとともに、金属前駆体を還元し、金属単体を得ることができる。
【0104】
そのため、上記した燃料電池1の製造方法では、燃料電池1の製造時に、別途、金属前駆体を還元焼成する工程などを不要とし、簡易かつ低コストで燃料電池1を得ることができる。
【0105】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、他の形態で実施することが可能である。
【0106】
例えば、上記した実施形態では、燃料側電極2の電極材料として金属単体を用い、燃料側電極インクに金属前駆体を配合しているが、例えば、酸素側電極3の電極材料として金属単体を用い、酸素側電極インクに金属前駆体を配合することもできる。また、燃料側電極2および酸素側電極3の両方において、電極材料として金属単体を用い、燃料側電極インクおよび酸素側電極インクの両方に金属前駆体を配合することもできる。
【0107】
このような場合には、セル形成工程の後、酸素側電極3内に金属前駆体が含まれるが、その金属前駆体は、クロスオーバー現象により酸素側電極3側に漏出する液体燃料によって還元され、金属単体化される。
【0108】
すなわち、燃料電池1による発電においては、上記したように、燃料側電極2に液体燃料が供給されるが、その供給された液体燃料の一部が、燃料側電極2において反応することなく、電解質層4を浸透圧により透過し、酸素側電極3に漏出する場合がある(クロスオーバー現象)。
【0109】
そして、このクロスオーバー現象により漏出される液体燃料によって、酸素側電極3内に含まれる金属前駆体を還元することができる。
【0110】
また、例えば、上述の実施形態では、固体高分子型燃料電池を例示して本発明を説明したが、本発明は、例えば、電解質層4としてKOH水溶液やNaOH水溶液などを用いるアルカリ型、例えば、溶融炭酸塩型、固体電解質型など、各種燃料電池にも適用することができる。
【0111】
そして、このような燃料電池1の用途としては、例えば、自動車、船舶、航空機などにおける駆動用モータの電源、携帯電話機などの通信端末における電源などが挙げられる。
【実施例】
【0112】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0113】
実施例1
<燃料側電極インクの調製>
電子天秤にて、硝酸ニッケル・6水和物(Ni(NO
3)
2・6H
2O、金属前駆体)14.86g(ニッケル換算で3.0g)、溶媒28.0g(テトラヒドロフラン14.0gおよび1−プロパノール14.0gの混合溶媒)、および、イオノマー(品番A3、トクヤマ社製)16.632gを秤量し、混合した。
【0114】
次いで、得られた混合液を、ホモジナイザー(タイテック製、VP−050)を出力約35%で稼動させることにより、約10分間攪拌し、分散液(スラリー)として、燃料側電極インクを得た(
図2(a)参照)。
<酸素側電極インクの調製>
電子天秤にて、金属錯体触媒(化合物名コバルトポリピロールカーボン、品番D8L001、北興化学工業社製)2.166g、溶媒36.0g(テトラヒドロフラン18.0gおよび1−プロパノール18.0gの混合溶媒)、イオノマー(品番A3、トクヤマ社製)36.207g、および、ポリテトラフルオロエチレン(品番D−210C、ダイキン工業社製)0.15gを秤量し、混合した。
【0115】
次いで、得られた混合液を、ホモジナイザー(タイテック製、VP−050)を出力約40%で稼動させることにより、約3分間攪拌し、分散液(スラリー)として、酸素側電極インクを得た(
図2(a)参照)。
<燃料電池セルの作製>
ハンドスプレーガンを用いて、電解質層(トクヤマ社製)の一方側面に燃料側電極インクを吹き付け、また、他方側面に酸素側電極インクを吹き付け、乾燥後(溶媒揮発後)の触媒担持量が、燃料側電極で12.38mg/cm
2(金属前駆体)、酸素側電極で1.0mg/cm
2(金属錯体触媒)となるよう均一に塗布した。
【0116】
その後、25℃において30分間乾燥させることにより、電解質層の一方側面に酸素側電極を、他方側面に燃料側電極をそれぞれ形成した(
図2(b)参照)。
<組み立て>
60枚の燃料電池セルを、燃料供給部材および酸素供給部材を介して積層し、セル積層体を形成した(
図3(c)参照)。
<粒子除去>
セル積層体の燃料側電極側へ、液体燃料(20%水加ヒドラジン+1MKOH)を、単位セルあたり0.1L/minの流速で約3時間供給した。一方、酸素側電極側へは透過燃料排出の為、窒素等の不活性ガスを単位セルあたり約5L/minの流速で約3時間供給した。
【0117】
これにより、燃料側電極内の硝酸ニッケル(金属前駆体)を還元し、金属単体化させ、燃料電池を得た。
【0118】
得られた燃料電池の燃料側電極を、SEM(走査電子顕微鏡)により観察したところ、燃料側電極内にニッケルの金属単体が確認された。
【0119】
また、燃料側電極内の金属単体の平均粒子径(測定方法:走査型電子顕微鏡)は、30nmであり、比表面積(測定方法:BET法)は、100m
2/gであった。