特許第5968767号(P5968767)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968767
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】MEMS圧電装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20160728BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   G02B26/10 104Z
   G02B26/08 E
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-259027(P2012-259027)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-106353(P2014-106353A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 孝明
【審査官】 佐藤 洋允
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/111332(WO,A1)
【文献】 特開2011−137927(JP,A)
【文献】 特開2010−237492(JP,A)
【文献】 特開2008−040240(JP,A)
【文献】 特開2008−035600(JP,A)
【文献】 特開2011−227216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B26/00−26/12
B81B1/00−7/04
B81C1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接して連なるアクチュエータ部と非アクチュエータ部とを備えるMEMS圧電装置であって、
前記アクチュエータ部及び前記非アクチュエータ部は、下から順番に、基板層、絶縁層、下部密着改善層、下部電極層、圧電膜層、上部電極層、及び上部密着改善層を有する積層構造体の第1及び第2部分として構成され、
前記積層構造体は、
前記第1及び第2部分の境界部において、上側より前記上部電極層の下面まで掘り下げられた分断溝と、
前記上部密着改善層と前記分断溝とを上面側から被覆する絶縁被覆膜と、
該絶縁被覆膜の上面において前記境界部をまたがって前記第1及び第2部分を連続して延び、1つは前記第1部分において上部電極層に接続されている複数の配線層とを有することを特徴とするMEMS圧電装置。
【請求項2】
請求項1記載のMEMS圧電装置において、
前記アクチュエータ部と前記非アクチュエータ部とが前記配線層の延び方向に交互に複数ずつ配設されたアクチュエータを備え、
複数の前記アクチュエータ部は相互に平行に配列され、
前記非アクチュエータ部は、前記アクチュエータ部の端側に配設されて配列方向に隣り合うアクチュエータ部の端部同士を相互に連結する折返し部であることを特徴とするMEMS圧電装置。
【請求項3】
請求項2記載のMEMS圧電装置において、
前記アクチュエータは、前記MEMS圧電装置としてのMEMS光偏向器に装備されて、先端側に結合しているミラー部を所定の回転軸線の回りに回動させるものであることを特徴とするMEMS圧電装置。
【請求項4】
アクチュエータ部と該アクチュエータ部に連なる非アクチュエータ部とを備えるMEMS圧電装置の製造方法であって、
前記アクチュエータ部と前記非アクチュエータ部を構成する第1及び第2部分をもつ積層構造体を、基板層の上に順番に絶縁層、下部密着改善層、下部電極層、圧電膜層、上部電極層、及び上部密着改善層を積層して製造する工程と、
前記積層構造体の所定部位に上側より前記上部電極層の下面まで掘り下げられた分断溝を、前記アクチュエータ部と前記非アクチュエータ部を構成する第1及び第2部分の境界部に形成する工程と、
前記上部密着改善層と前記分断溝との上面側から被覆する絶縁被覆膜を形成する工程と、
該絶縁被覆膜の上面において前記境界部をまたがって前記第1及び第2部分を連続して延び、1つは前記第1部分おいて上部電極層に接続されている複数の配線層を形成する工程とを備えることを特徴とするMEMS圧電装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)圧電装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS技術を利用して製作するMEMS光偏向器が知られている。該MEMS光偏向器は、ミラー部と、該ミラー部を所定の回転軸線の回りに回動させるアクチュエータとを備える(例:特許文献1)。
【0003】
特許文献1のMEMS光偏向器は、回動軸線の回りのミラー部の往復回動角を増大させるために、複数のアクチュエータ部を、平行に配列するとともに、配列方向に隣接して連なるアクチュエータ部の端部を折返し部により連結し、基端側から奇数番目のアクチュエータ部と偶数番目のアクチュエータ部とを相互に逆位相の駆動電圧で駆動している。アクチュエータ部及び折返し部の上面には、直列に連結された複数のアクチュエータ部に駆動電圧を供給するために、配線層が連続線で延びている。
【0004】
折返し部は、上部電極層及び圧電膜層が不要であるとともに、残しておくと、折返し部の上部電極にアクチュエータ部の上部電極の駆動電圧が伝わり、アクチュエータの作動に支障が生じる恐れがある。したがって、従来のMEMS光偏向器では、アクチュエータ部と一緒に折返し部を同一の積層構造体の別々の部分として製造してから、非アクチュエータ部としての折返し部のエッチングにより折返し部の上部電極層及び圧電膜層を除去する。その後、積層構造体は、その上面全体を絶縁被覆膜により被覆されてから、該絶縁被覆膜の上面において配線層が連続して延ばされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−40240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の光偏向器では、絶縁被覆膜(例:SiO2層)は、折返し部において下部電極層(例:Pt層)を被覆するが、各々の材料の違いにより下部電極層との密着性が悪く、剥がれ易いという問題がある。また、絶縁被覆膜の上面には配線層(例:Al層やAlCu層)が形成されているので、絶縁被覆膜が下部電極層から剥がれると、配線層と下部電極層とがショートし易くなる。
【0007】
また、絶縁被覆膜は、アクチュエータ部においても上部電極層(例:Pt層)の上に形成されるので、折返し部の下部電極層への被覆と同様に、アクチュエータ部の端において剥がれ易いという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、アクチュエータの機能に支障を起こすことなく、アクチュエータを構成する積層構造体における絶縁被覆膜の剥がれを防止するMEMS圧電装置及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のMEMS圧電装置は、隣接して連なるアクチュエータ部と非アクチュエータ部とを備えるMEMS圧電装置であって、前記アクチュエータ部及び前記非アクチュエータ部は、下から順番に、基板層、絶縁層、下部密着改善層、下部電極層、圧電膜層、上部電極層、及び上部密着改善層を有する積層構造体の第1及び第2部分として構成され、前記積層構造体は、前記第1及び第2部分の境界部において、上側より前記上部電極層の下面まで掘り下げられた分断溝と、前記上部密着改善層と前記分断溝とを上面側から被覆する絶縁被覆膜と、該絶縁被覆膜の上面において前記境界部をまたがって前記第1及び第2部分を連続して延び、1つは前記第1部分において上部電極層に接続されている複数の配線層とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、非アクチュエータ部を構成する第2部分の上部密着改善層及び上部電極層は、アクチュエータ部を構成する第1部分の上部密着改善層及び上部電極層から分断溝により分断される。これにより、第2部分は、上部密着改善層、上部電極層及び圧電膜層の除去をされることなく、残存するにもかかわらず、アクチュエータの機能に支障を与えることを阻止される。また、絶縁被覆膜は、第1及び第2部分の上部電極層の上の上部密着改善層の上面を被覆することになるので、剥がれが防止される。
【0011】
本発明の好ましい態様では、前記アクチュエータ部と前記非アクチュエータ部とが前記配線層の延び方向に交互に複数ずつ配設されたアクチュエータを備え、複数の前記アクチュエータ部は相互に平行に配列され、前記非アクチュエータ部は、前記アクチュエータ部の端側に配設されて配列方向に隣り合うアクチュエータ部の端部同士を相互に連結する折返し部である。
【0012】
この態様では、非アクチュエータ部を折返し部に適用して、折返し部における絶縁被覆膜の剥がれを防止することができる。
【0013】
また、前記アクチュエータは、前記MEMS圧電装置としてのMEMS光偏向器に装備されて、先端側に結合しているミラー部を所定の回動軸線の回りに回動させるものであることが好ましい。
【0014】
これによれば、MEMS圧電装置をMEMS光偏向器に適用して、MEMS光偏向器のアクチュエータにおける絶縁被覆膜の剥がれを防止することができる。
【0015】
本発明の製造方法は、アクチュエータ部と該アクチュエータ部に連なる非アクチュエータ部とを備えるMEMS圧電装置の製造方法であって、前記アクチュエータ部と前記非アクチュエータ部を構成する第1及び第2部分をもつ積層構造体を、基板層の上に順番に絶縁層、下部密着改善層、下部電極層、圧電膜層、上部電極層、及び上部密着改善層を積層して製造する工程と、前記積層構造体の所定部位に上側より前記上部電極層の下面まで掘り下げられた分断溝を、前記アクチュエータ部と前記非アクチュエータ部を構成する第1及び第2部分の境界部に形成する工程と、前記上部密着改善層と前記分断溝との上面側から被覆する絶縁被覆膜を形成する工程と、該絶縁被覆膜の上面において前記境界部をまたがって前記第1及び第2部分を連続して延び、1つは前記第1部分おいて上部電極層に接続されている複数の配線層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0016】
この製造方法によれば、第2部分は、上部密着改善層、上部電極層及び圧電膜層の除去をされることなく、残存するにもかかわらず、アクチュエータの機能に支障を与えることを阻止される。また、絶縁被覆膜は、第1及び第2部分の上部電極層の上の上部密着改善層の上面を被覆することになるので、剥がれが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】光スキャナの概略構成図。
図2図1の左側の外側アクチュエータの要部拡大図。
図3】光偏向器の基礎になる積層構造体の垂直断面図。
図4図3の積層構造体を形成した後の外側アクチュエータの製造工程の説明図。
図5図4の工程に続く工程で、図2のC1−C1線及びC2−C2線に沿う断面図である。
図6図2のC3−C3線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して、光偏向器1を装備する光スキャナ20の構成について説明する。光スキャナ20は、主要構成要素として、光偏向器1、駆動電圧生成装置21、レーザ光源22及び制御装置23を備える。
【0019】
光スキャナ20は、例えば、プロジェクタ、バーコードリーダ、レーザプリンタ、ヘッドアップディスプレイ又は車両前照灯等に装備される。
【0020】
MEMS機器としての光偏向器1は、中心に回動自在に配置されるミラー部2、ミラー部2を外側から包囲する内側矩形枠部3、及び内側矩形枠部3を外側から包囲する外側矩形枠部4を備えている。
【0021】
説明の便宜上、光偏向器1の縦方向及び横方向を、それぞれ外側矩形枠部4の短辺に平行な方向及び長辺に平行な方向と定義する。図1では、左斜め下−右斜め上が光偏向器1の縦方向であり、左斜め上−右斜め下が光偏向器1の横方向となる。また、光偏向器1が、レーザ光源22からの入射光Laを入射され、かつその反射光Lbを出射する側を光偏向器1の表側と定義し、表側とは反対側を光偏向器1の裏側と定義する。
【0022】
1対のトーションバー(弾性梁)5は、その軸線を縦方向に揃えて、ミラー部2に対して縦方向両側に配設され、ミラー部2に先端側を結合している。トーションバー5の基端側は内側矩形枠部3の横辺の内周側の中心部に結合している。なお、トーションバー5の基端側は内側矩形枠部3から離れていてもよい。その場合、トーションバー5の基端部は内側アクチュエータ6のみにより内側矩形枠部3に支持される。
【0023】
1対の内側アクチュエータ6は、ユニモルフカンチレバーとして構成されている圧電アクチュエータであり、各トーションバー5の横方向両側に配設され、先端側をトーションバー5の基端部に結合し、基端側を内側矩形枠部3の縦辺部に結合している。内側アクチュエータ6は、トーションバー5の基端部をトーションバー5の軸線回りに所定の振動数で往復回動させて、ミラー部2を第1回転軸線の回りに往復回動させる。
【0024】
ここで、第1回転軸線とは、ミラー部2の中心を通りかつトーションバー5の軸線に対して平行な直線と定義する。後述の第2回転軸線とは、ミラー部2の中心において第1回転軸線とほぼ直交する直線と定義する。第1及び第2回転軸線は、ミラー部2の表側に形成されているミラー面上に定義される直線となっている。
【0025】
圧電式の1対の外側アクチュエータ7は、内側矩形枠部3に対して横方向両側に配設され、4つのユニモルフカンチレバーが直列に結合した構造(該構造については後述の図2で詳しく説明する。)となっており、基端側において外側矩形枠部4の縦辺部に結合し、先端側において内側矩形枠部3の縦辺部に結合している。各外側アクチュエータ7は、基端側から奇数番目のカンチレバーの圧電膜と偶数番目のカンチレバーの圧電膜とに相互に逆位相で同一周波数の電圧を印加されることにより、内側矩形枠部3を介してミラー部2を第2回転軸線の回りに往復回動させる。
【0026】
電極パッド8,9は、外側矩形枠部4の一方及び他方の縦辺部の表側の面にそれぞれ配備され、光偏向器1内の配線を介して内側アクチュエータ6及び外側アクチュエータ7の電極層に接続されている。
【0027】
駆動電圧生成装置21は、電極パッド8,9へ接続され、電極パッド8,9を介して内側アクチュエータ6及び外側アクチュエータ7のPZT層45(図3)にそれぞれ第1及び第2周波数のユニポーラ(単極)駆動電圧を供給する。
【0028】
光スキャナ20全体の作用について簡単に説明する。制御装置23は、駆動電圧生成装置21及びレーザ光源22の作動及び停止を制御する。制御装置23は、レーザ光源22の光量を例えばパルス幅変調(PWM)や駆動電流の調整により制御することができる。レーザ光源22は、入射光Laをミラー部2の中心へ向かって出射する。
【0029】
ミラー部2は、作動期間中、内側アクチュエータ6及び外側アクチュエータ7の作動により第1及び第2回転軸線の回りにそれぞれの第1及び第2周波数で往復回動している。レーザ光源22からの入射光Laは、ミラー部2においてミラー部2の法線に応じた角度で反射して、ミラー部2から反射光Lbとして出射する。反射光Lbは、横方向及び縦方向へ所定の走査角範囲かつ所定の振動数で往復する走査光となる。
【0030】
図2は、図1の左側の外側アクチュエータ7の主要部拡大図である。なお、右側の外側アクチュエータ7の主要部は、図示を省略したが、図2と左右対称な構成図になる。図2の外側アクチュエータ7は、縦方向一方の端側のみ図示されている。外側アクチュエータ7は、4つのアクチュエータ部26a〜26dと、折返し部27a,27b(非アクチュエータ部の一例)等とを交互に有している。アクチュエータ部26a〜26dは、光偏向器1の横方向を配列方向とした一列の配列でかつ外側矩形枠部4の縦辺部から内側矩形枠部3の縦辺部の方へ順番に並んでいる。
【0031】
折返し部27aは、アクチュエータ部26a,26bの縦方向の一端部同士を連結し、折返し部27bは、アクチュエータ部26c,26dの縦方向一端側の端部同士を連結している。アクチュエータ部26b,26cは、縦方向他端側において同一構造の折返し部(図示せず)により相互に連結されている。
【0032】
配線層30a〜30dは、アクチュエータ部26a〜26d及び折返し部27a,27bを、隣接するもの同士が所定の離間距離を保持しつつ、連続線で延びている。配線層30a〜30dの間は、配線層30a〜30dの下にある層間絶縁層31(絶縁被覆膜の一例)が露出している。配線層30a〜30dは、アクチュエータ部26a〜26dの範囲では、光偏向器1の縦方向に直線で延び、折返し部27a,27bでは、半円弧の線で延びている。スリット状のコンタクトホール34は、基端側から奇数番目のアクチュエータ部26a,26cでは配線層30aに正面視で重なる位置に形成され、基端側から偶数番目のアクチュエータ部26b,26dでは配線層30bに正面視で重なる位置に形成されている。
【0033】
配線層30aは、アクチュエータ部26a,26cの圧電膜に印加電圧を導く。配線層30bは、アクチュエータ部26b,26dの圧電膜に印加電圧を導く。配線層30cは左側の2つの内側アクチュエータ6の圧電膜に印加電圧を導く。配線層30dは左側の1つの内側アクチュエータ6に配備される圧電センサからの出力信号を導く。
【0034】
図3は、光偏向器1を製造する基礎になる積層構造体40の垂直断面図である。図3において、上側及び下側が光偏向器1のそれぞれ表側及び裏側となる。
【0035】
積層構造体40は、下側(光偏向器1の裏側)から順番にSOI(Silicon on Insulator)基板層41、酸化膜層42、下部密着改善層43、下部電極層44、PZT層45、上部電極層46及び上部密着改善層47から構成されている。下部密着改善層43、上部密着改善層47は薄いので、右側の拡大図において示し、左側の標準図(後述の図4図6はすべて標準図)では図示の便宜上、省略している。
【0036】
積層構造体40の具体的な製造方法は、最初に、SOI基板層41がSOIウェハとして存在し、該SOIウェハの表側に拡散炉によってSiO2の酸化膜層42を形成する。次に、表側にスパッタ法によって下部密着改善層43、下部電極層44を順次成膜する。下部密着改善層43及び下部電極層44は例えばそれぞれTi及びPtから成る。Tiは、PtとSiO2との密着性を改善する材料として選択されている。PtとSiO2との密着性を改善する材料としては、Tiの他にCr(クロム)がある。
【0037】
次に、反応性アーク放電イオンプレーティング法によって圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(以下、「PZT」と略す)のPZT層45を形成する。その後、再び、スパッタ法によってPtの上部電極層46とその上のTiの上部密着改善層47とをPZT層45の上面に成膜する。
【0038】
図4は、図3の積層構造体40を製造後の外側アクチュエータ7の製造過程の工程S1〜S3を示している。図4の各工程を示す断面図は、外側アクチュエータ7の完成前の図2のC1−C1又はC2−C2の断面位置に相当する。
【0039】
工程S1では、アクチュエータ部26a〜26dを構成する第1部分と折返し部27a,27bを構成する第2部分とを分ける所定部位にエッチングより上部密着改善層47の上面から上部電極層46の下面まで掘り下げた分断溝37を形成する。分断溝37は、第1部分と第2部分との境界部に位置する。
【0040】
図4において、分断溝37より左側が折返し部27aの範囲であり、分断溝37より右側がアクチュエータ部26bの範囲となる。分断溝37により、アクチュエータ部26a〜26dの上部電極層46及び上部密着改善層47と、折返し部27a,27bの上部電極層46及び上部密着改善層47とは、電気的に相互に分離される。これにより、アクチュエータ部26a〜26dの上部電極層46及び上部密着改善層47の印加電圧が、折返し部27a,27bの上部電極層46及び上部密着改善層47に伝達されることが阻止される。
【0041】
次の工程S2では、プラズマCVDで厚みSiO2の層間絶縁層31を上部密着改善層47の上面側に形成する。層間絶縁層31は、分断溝37を埋めつつ、分断溝37の上方に、周囲より低い凹部54を形成する。
【0042】
次の工程S3では、エッチングによりコンタクトホール34(図2も参照)を上部電極層46及び上部密着改善層47の対応部位に形成する。工程S3の断面図は、図2のC1−C1線の断面図であり、図2のC2−C2線の断面では、工程S3完了後も、図4の工程S2で示している断面状態が保持される。
【0043】
図5及び図6は、図4の工程S3に続く工程S4の説明図である。図5の工程S4(a)及び工程S4(b)の各断面図は、外側アクチュエータ7の完成時のそれぞれ図2のC1−C1線及びC2−C2線に沿う断面図である。図6の工程S4(c)の断面図は、外側アクチュエータ7の完成時の図2のC3−C3線に沿う断面図である。
【0044】
工程S4では、配線層30a〜30d(図2も参照)の形成用のフォトリソによりレジストパターンを形成してから、AlCu(1%Cu)膜をスパッタ成膜し、リフトオフにより層間絶縁層31の上面に配線層30a〜30dを形成する。各コンタクトホール34は、AlCu膜としての配線層30a又は配線層30bにより埋められるとともに、凹部54における配線層30a〜30dの通過部は、AlCu膜としての配線層30a〜30dにより被覆される。
【0045】
光偏向器1の作動時では、配線層30a〜30dに電極パッド8,9(図1)からの所定の制御電圧が伝達される。配線層30aの制御電圧は、アクチュエータ部26a,26cの上部電極層46に印加され、配線層30bの制御電圧は、アクチュエータ部26b,26dの上部電極層46に印加される。配線層30a,30bの制御電圧の周波数は、図1の説明において前述した第2周波数である。配線層30a,30bの制御電圧は、相互に逆位相になっている。これにより、左右の外側アクチュエータ7の先端部が前述の第2回転軸線の回りに同期して第2周波数で往復回動し、ミラー部2は第2回転軸線の回りに第2周波数で往復回動して、反射光Lbを上下に往復させる。
【0046】
以上、本発明を実施形態について説明したが、本発明は、該実施形態に限定されることなく、種々に変形して実施される。
【0047】
例えば、実施形態では、MEMS圧電装置が光偏向器1の外側アクチュエータ7となっているが、本発明は、アクチュエータ部と非アクチュエータとが隣接して連なっているMEMS圧電装置であれば、光偏向器1のアクチュエータ以外のアクチュエータにも適用可能である。また、光偏向器1以外のMEMS電気機器に装備されるMEMS圧電装置であってもよい。
【0048】
実施形態では、SOI基板層41、酸化膜層42(絶縁層)、下部密着改善層43、下部電極層44、PZT層45(圧電膜層)、上部電極層46、及び上部密着改善層47としてそれぞれ所定の材料を選定しているが、これらの材料は一例である。各機能を有することができる材料であれば、その他の材料を使用することもできる。
【符号の説明】
【0049】
1・・・光偏向器(MEMS電気機器)、7・・・外側アクチュエータ(アクチュエータ)、26・・・アクチュエータ部、27・・・折返し部(非アクチュエータ部)、30・・・配線層、31・・・層間絶縁層(絶縁被覆膜)、37・・・分断溝、40・・・積層構造体、41・・・SOI基板層、42・・・酸化膜層(絶縁層)、43・・・下部密着改善層、44・・・下部電極層、45・・・PZT層(圧電膜層)、46・・・上部電極層、47・・・上部密着改善層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6