特許第5968768号(P5968768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジクラの特許一覧

特許5968768カーボンナノファイバ構造体の製造方法及び製造装置
<>
  • 特許5968768-カーボンナノファイバ構造体の製造方法及び製造装置 図000002
  • 特許5968768-カーボンナノファイバ構造体の製造方法及び製造装置 図000003
  • 特許5968768-カーボンナノファイバ構造体の製造方法及び製造装置 図000004
  • 特許5968768-カーボンナノファイバ構造体の製造方法及び製造装置 図000005
  • 特許5968768-カーボンナノファイバ構造体の製造方法及び製造装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968768
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】カーボンナノファイバ構造体の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20160728BHJP
   H01M 14/00 20060101ALI20160728BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20160728BHJP
   H01G 11/22 20130101ALI20160728BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20160728BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20160728BHJP
   H01M 4/133 20100101ALN20160728BHJP
   H01M 4/96 20060101ALN20160728BHJP
   H01M 4/88 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
   C01B31/02 101F
   H01M14/00 P
   H01M12/06 F
   H01G11/22
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   !H01M4/133
   !H01M4/96 B
   !H01M4/88 C
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-259247(P2012-259247)
(22)【出願日】2012年11月28日
(65)【公開番号】特開2014-105125(P2014-105125A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】稲熊 正康
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/038793(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/064760(WO,A1)
【文献】 特開2009−012988(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/149792(WO,A1)
【文献】 特開2008−063718(JP,A)
【文献】 特開2004−127737(JP,A)
【文献】 特開2004−107196(JP,A)
【文献】 特開2001−080912(JP,A)
【文献】 特開2003−146630(JP,A)
【文献】 特許第3713561(JP,B2)
【文献】 特開2007−112677(JP,A)
【文献】 特開2010−269982(JP,A)
【文献】 特表2006−506304(JP,A)
【文献】 特表2008−523254(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0183105(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0053780(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B31/00−31/36
H01M4/00−4/62
H01M4/86−4/98
H01M12/00−16/00
H01G9/20
H01G9/00,11/00−11/86
B82Y5/00−99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料と、加熱した基体上の触媒とを接触させて、前記基体の一面側にカーボンナノファイバを形成する、カーボンナノファイバ構造体の製造方法であって、
前記原料が、多環芳香族炭化水素を含む液体または固体で構成され
前記基体の外周面に触媒材料を含む塗布液を塗布する触媒塗布工程と、
前記触媒材料を加熱する第1加熱工程と、
前記触媒材料を還元する還元性ガスを供給し、活性化した粒子状の触媒を形成する工程と、
前記基体のうち前記原料が塗布される部分を加熱する第2加熱工程と、
前記触媒に原料を塗布して接触させる原料塗布工程とからなる、カーボンナノファイバ構造体の製造方法。
【請求項2】
前記基体として円筒状のものを用いる請求項1に記載のカーボンナノファイバ構造体の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノファイバをスクレイパにより剥離する請求項1又は2に記載のカーボンナノファイバ構造体の製造方法。
【請求項4】
酸化性ガスを供給し、前記カーボンナノファイバが剥離されて露出した前記基体の前記外周面がクリーニングされる請求項3に記載のカーボンナノファイバ構造体の製造方法。
【請求項5】
基体の一面側にカーボンナノファイバを有するカーボンナノファイバ構造体を製造する
ためのカーボンナノファイバ構造体の製造装置であって、
回転可能に支持される基体と、
前記基体の外周面に触媒材料を含む塗布液を塗布する触媒塗布装置と、
前記触媒材料を加熱する第1加熱装置と、
前記第1加熱装置により加熱された前記触媒材料を還元する還元性ガスを供給し、活性
化した粒子状の触媒を形成する還元性ガス供給装置と、
前記触媒に原料を塗布して接触させる原料塗布装置と、
前記基体のうち前記原料が塗布される部分を加熱する第2加熱装置とを備え、
前記原料が、多環芳香族炭化水素を含む液体または固体で構成される、カーボンナノフ
ァイバ構造体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバ構造体の製造方法及び製造装置、カーボンナノファイバ構造体、カーボンナノファイバ電極並びにカーボンナノファイバ導電線に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、燃料電池、金属空気電池などの電極や導電線として、優れた導電性を有することから、カーボンナノチューブ電極が注目されている。
【0003】
このようなカーボンナノチューブ電極におけるカーボンナノチューブの製造方法においては通常、原料にガスを使用したCVD(Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。CVD法では、高温の原料ガスや水素ガスなどの雰囲気で、基板に担持させた触媒からカーボンナノチューブが成長する。
【0004】
また、原料にエタノールなど沸点が低い液体を用いる方法も知られている(下記特許文献1参照)。この方法では、液体中で、触媒を担持した基板を加熱してカーボンナノチューブが成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3713561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、原料ガスを使用したCVD法、および、原料に液体を使用した方法のいずれにおいても、カーボンナノチューブの成長速度が不十分であり、カーボンナノチューブの生産性の点でいまだ改善の余地があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、カーボンナノファイバ構造体の生産性を十分に向上させることができるカーボンナノファイバ構造体の製造方法及び製造装置、カーボンナノファイバ構造体、カーボンナノファイバ電極並びにカーボンナノファイバ導電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するにあたり、まず原料ガスを使用したCVD法、および、原料に液体を使用した方法のいずれにおいてもカーボンナノチューブの成長速度が不十分となる原因について検討した。その結果、本発明者は、以下の理由により、カーボンナノチューブの成長速度が不十分になるのではないかと考えた。すなわち、まず原料ガスを使用したCVD法では通常、原料ガスは、不活性ガスなどによって希釈された状態で触媒に供給される。このため、原料ガスからカーボンナノチューブを製造する場合、炭素濃度の低い原料ガスが炭素濃度の高い固体に変換されることとなる。すなわち、時間あたりに触媒に供給される炭素供給量が少なくなる。このため、カーボンナノチューブの成長速度が不十分になるものと考えられる。一方、原料にエタノールなどの液体を使用した方法では、触媒を活性化するべく基板を加熱した際に、基板の熱によってガス化した液体が触媒に供給される。この場合、基板と液体との間に蒸気の膜が形成されるライデンフロスト現象がおこり、その結果、液体と触媒との直接的な接触が不十分となり、カーボンナノチューブの成長速度が不十分になるのではないかと本発明者は考えた。ここで、基板の温度を原料液体の沸点未満に下げることも考えられるが、その場合には、基板に担持された触媒を活性状態とすることが困難となり、結果的に、カーボンナノチューブの成長速度が不十分になるものと考えられる。そこで、本発明者は更に鋭意研究を重ねた結果、原料として、炭素濃度が十分に高く、高沸点ならびに高融点の原料を使用することにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、原料と、加熱した基体上の触媒とを接触させて、前記基体の一面側にカーボンナノファイバを形成し、カーボンナノファイバ構造体を製造する工程を含み、前記原料が、多環芳香族炭化水素を含む液体または固体で構成される、カーボンナノファイバ構造体の製造方法である。
【0010】
このカーボンナノファイバ構造体の製造方法によれば、カーボンナノファイバを基体の一面側に十分に大きな成長速度で成長させることができる。このため、カーボンナノファイバ構造体の生産性を十分に向上させることができる。
【0011】
本発明の製造方法によりカーボンナノファイバの成長速度を十分に大きくすることができる理由について本発明者は以下のように推測している。
【0012】
すなわち、基体が加熱されると、基体に担持された触媒も加熱されて活性状態となる。このとき、原料としては、多環芳香族炭化水素を含む液体または固体が用いられている。このため、原料は、エタノールなどの低沸点のアルコールと異なり、基体の温度と原料の蒸発温度との差が小さくなっている。従って、基体と、原料との間に発生する蒸気量は、原料と基体とを隔離する膜を形成(ライデンフロスト現象)するほど多くなく、その結果、原料と触媒とが十分に接触することが可能となる。加えて、上記原料は、エタノールなどのアルコールと比べて炭素濃度が高い。このため、時間あたりの触媒への炭素供給量が多くなる。以上の理由から、カーボンナノファイバを効率よく成長させることができ、カーボンナノファイバの成長速度を十分大きくすることができるのではないかと本発明者は推測している。
【0013】
また本発明は、上記カーボンナノファイバ構造体の製造方法によって製造されるカーボンナノファイバ構造体である。
【0014】
さらに本発明は、上記カーボンナノファイバ構造体を備えるカーボンナノファイバ電極である。
【0015】
さらにまた、本発明は、上記カーボンナノファイバ構造体の前記カーボンナノファイバを導電性基板に転写することにより得られるカーボンナノファイバ電極である。
【0016】
また本発明は、上記カーボンナノファイバ構造体の前記カーボンナノファイバを糸状に引き出してなるカーボンナノファイバ導電線である。
【0017】
また本発明は、基体の一面側にカーボンナノファイバを有するカーボンナノファイバ構造体を製造するためのカーボンナノファイバ構造体の製造装置であって、回転可能に支持される基体と、前記基体の外周面に触媒材料を含む塗布液を塗布する触媒塗布装置と、前記触媒材料を加熱する第1加熱装置と、前記第1加熱装置により加熱された前記触媒材料を還元する還元性ガスを供給し、活性化した粒子状の触媒を形成する還元性ガス供給装置と、前記触媒に原料を塗布して接触させる原料塗布装置と、前記基体のうち前記原料が塗布される部分を加熱する第2加熱装置とを備え、前記原料が、多環芳香族炭化水素を含む液体または固体で構成される、カーボンナノファイバ構造体の製造装置である。
【0018】
このカーボンナノファイバ構造体の製造装置によれば、基体が回転されると、基体の外周面に、触媒塗布装置により塗布液が塗布される。そして、触媒材料が第1加熱装置により加熱される。そして、触媒材料が加熱された後、還元性ガス供給装置により触媒材料に還元性ガスが供給され、触媒材料が活性化された粒子状の触媒となる。一方、基体のうち原料が塗布される部分は第2加熱装置により加熱される。そして、基体のうち原料が塗布される部分が加熱された状態で、原料塗布装置により触媒に原料が塗布される。すると、原料から触媒に炭素が供給され、基体の外周面側にカーボンナノファイバが成長する。このとき、原料として、多環芳香族炭化水素を含む液体または固体が用いられることで、基体の外周面側に、カーボンナノファイバを十分に大きな成長速度で成長させることが可能となる。このため、カーボンナノファイバ構造体の生産性を十分に向上させることができる。
【0019】
なお、本発明において、「カーボンナノファイバ」とは、カーボンで構成され、太さが50nm以下である中空状又は中実状の繊維状体を言う。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、カーボンナノファイバ構造体の生産性を十分に向上させることができるカーボンナノファイバ構造体の製造方法及び製造装置、カーボンナノファイバ構造体、カーボンナノファイバ電極並びにカーボンナノファイバ導電線が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係るカーボンナノファイバ構造体の一実施形態を示す切断面端面図である。
図2図1のカーボンナノファイバ形成用構造体を示す切断面端面図である。
図3図1の基体を示す断面図である。
図4】本発明に係るカーボンナノファイバ構造体を製造する際の一工程を示す図である。
図5】本発明に係るカーボンナノファイバ製造装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明のカーボンナノファイバ構造体の一実施形態を示す断面図、図2は、図1のカーボンナノファイバ形成用構造体を示す断面図である。図1に示すように、カーボンナノファイバ構造体100は、カーボンナノファイバ形成用構造体40と、カーボンナノファイバ形成用構造体40の上に設けられるカーボンナノファイバ50とを備えている。図2に示すように、カーボンナノファイバ形成用構造体40は、基体10と、基体10の一面である触媒担持面10a上に担持され、カーボンナノファイバ50を形成する際に触媒として作用する触媒30とを備えており、カーボンナノファイバ50は、触媒30から基体10と反対方向に向かって延びている(図1参照)。
【0024】
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法について説明する。
【0025】
カーボンナノファイバ構造体100の製造方法は、原料と、加熱した基体10上の触媒30とを接触させて、基体10の一面である触媒担持面10a側にカーボンナノファイバ50を形成し、カーボンナノファイバ構造体100を製造する工程を含む。ここで、原料としては、多環芳香族炭化水素を含む液体または固体が用いられる。
【0026】
上記のようなカーボンナノファイバ構造体100の製造方法によれば、カーボンナノファイバ50を基体10の触媒担持面10a側に十分に大きな成長速度で成長させることができる。このため、カーボンナノファイバ構造体100の生産性を十分に向上させることができる。
【0027】
以下、上述したカーボンナノファイバ構造体100の製造方法について詳細に説明する。
【0028】
まずカーボンナノファイバ形成用構造体40を準備する。カーボンナノファイバ形成用構造体40は以下のようにして製造される。
【0029】
はじめに基体10を準備する(図3参照)。
【0030】
基体10を構成する材料としては、例えばステンレス、チタン、銅、アルミニウムなどの金属、シリコンなどの半導体、石英、セラミックスなどの無機物などが挙げられる。セラミックスとしては、例えばシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアおよびサファイアなどが挙げられる。
【0031】
基体10の厚さは通常は200〜20000μmであるが、500〜10000μmであることが好ましい。この場合、基体10の厚さが上記範囲を外れた場合に比べて、製造中の熱履歴により発生した歪みを原因とする基体10の構造破壊を防ぎ、基体10の構造を維持するための最低限の強度を持つことができ、かつ基体10の面内の均熱性を得られやすいという利点が得られる。
【0032】
次に、基体10の触媒担持面10a上に粒子状の触媒30を担持させる(図2参照)。粒子状の触媒30は、例えば基体10の触媒担持面10a上にスパッタリング法で形成した膜を還元雰囲気下で加熱したり、粒子状の触媒30を形成する触媒材料及び分散媒を含む塗布液を塗布し、乾燥させた後、分散媒を除去し、触媒30を還元雰囲気下で加熱したりすることによって形成することができる。
【0033】
触媒30としては、カーボンナノファイバを成長させるのに使用される公知の金属触媒が使用可能である。このような金属触媒としては、例えばV、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、W、Al、Au、Tiなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。中でも、カーボンナノファイバをより効果的に成長させることができるという点から、V、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、Wが好ましい。
【0034】
粒子状の触媒30の平均粒径は通常は1〜50nmであるが、2〜25nmであることが好ましい。この場合、触媒30の平均粒径が2〜25nmの範囲を外れる場合に比べてカーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。
【0035】
分散媒としては、例えばトルエン、ヘキサン、シクロヘキサノン、テルピネオールなどの有機溶媒が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0036】
こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体40が得られる。
【0037】
次に、カーボンナノファイバ形成用構造体40の基体10を加熱した状態で、基体10上の触媒30と原料とを接触させる。
【0038】
ここで、原料としては、上述した通り、多環芳香族炭化水素を含む液体または固体が用いられる。
【0039】
多環芳香族炭化水素としては、例えばアントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、コランニュレン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、アセタフテンおよびオバレンなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、融点並びに沸点が、400℃以上の多環芳香族炭化水素を用いることが好ましい。多環芳香族炭化水素が400℃以上の融点並びに沸点を有する場合、基体10の温度と原料の蒸発温度との差をより小さくでき、基体10と原料との間に発生する蒸気量は、原料と基体10とを隔離する膜を形成(ライデンフロスト現象)するほど多くなくなる。その結果、原料と触媒とがより十分に接触することが可能となる。
【0040】
上記多環芳香族炭化水素を含む液体又は固体としては、具体的には、タール、クレオソート油、ピッチ又はコールタールなどを用いることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0041】
液体又は固体は、多環芳香族炭化水素を含んでいればよい。従って、液体又は固体は、多環芳香族炭化水素のみで構成されてもよいし、多環芳香族炭化水素と他の物質との混合物で構成されてもよい。他の物質としては、例えば不飽和脂肪族炭化水素などが挙げられる。
【0042】
基体10と接触させる際の原料の温度は、原料を蒸発させない温度、すなわち、多環芳香族炭化水素の沸点未満の温度とすることが好ましい。この場合、原料の温度を多環芳香族炭化水素の沸点以上の温度とする場合に比べて、触媒30の表面が、蒸発した多環芳香族炭化水素と反応して触媒30の表面に煤の膜が形成されることが十分に抑制される。このため、触媒30と原料とを接触させる際に触媒30と原料とが直接的に接触する表面積が大きく保たれる。従って、カーボンナノファイバ50をより十分に大きい成長速度で成長させることが可能となる。
【0043】
なお、原料中に多環芳香族炭化水素が2種類以上含まれている場合には、基体10と接触させる際の原料の温度は、多環芳香族炭化水素のうち最も低い沸点を有する多環芳香族炭化水素の沸点未満とする。
【0044】
原料が液体である場合の粘度は、基体10と接触させる際の原料の温度において3000mPa・s以下であることが好ましい。この場合、原料の粘度が3000mPa・sを超える場合に比べて、原料が触媒30の全面を覆うまでの時間がより短縮されるため、カーボンナノファイバ50の成長速度をより大きくすることができる。但し、粘度は1mPa・s以上であることが好ましい。この場合、粘度が1mPa・s未満の場合に比べて、原料をより塗布しやすくなる。
【0045】
原料と接触させる際の基体10の温度は、基体10上に担持した触媒30の活性化温度以上である必要がある。原料と接触させる際の基体10の温度が、基体10上に担持した触媒30の活性化温度未満であると、カーボンナノファイバ50を十分に大きい成長速度で成長させることができなくなる。また、原料と接触させる際の基体10の温度が、原料の沸点より400℃以上高いと、ライデンフロスト現象が発生して蒸気膜により原料の接触が阻害され、カーボンナノファイバ50を十分に大きい成長速度で成長させることができなくなる。
【0046】
基体10の加熱は、例えば基体10を高温の物体に接触させる方法、基体10に電磁波または熱風を当てる方法によって行うことができる。基体10が金属で構成される場合には基体10に通電する方法によっても基体10の加熱が可能である。
【0047】
触媒30と原料とを接触させるには、例えば触媒30を担持した基体10を原料の表面と接触させる方法や、原料を、基体10上に担持された触媒30に塗布する方法が挙げられる。触媒30を担持した基体10を原料の表面に接触させる場合には、例えば図4に示すように、容器60中に、蒸発しない温度に加熱された原料70を入れておき、この原料70の表面に、基体10の触媒30を担持した面を加熱した状態で接触させればよい。このとき、基体10よりも低温の原料の接触によって基体10には熱歪みが引き起こされるが、接触させる原料の量は、熱歪みによって基体10を破壊または変形させない適度な量に制限することが望ましい。
【0048】
こうしてカーボンナノファイバ構造体100が得られる。
【0049】
上記のようにして得られるカーボンナノファイバ構造体100は、基体10として電極用の導電性基板が使用される場合には、カーボンナノファイバ構造体100がそのままカーボンナノファイバ電極となる。一方、基体10として、電極用の導電性基板が使用されていない場合には、電極用の導電性基板に、カーボンナノファイバ構造体100のカーボンナノファイバ50を転写することが必要である。電極用の導電性基板へのカーボンナノファイバ50の転写は、例えば、カーボンナノファイバ50と電極用導電性基板との間に、導電性粘着フィルムを挟んで圧着することにより行うことができる。
【0050】
こうして得られるカーボンナノファイバ電極は、色素増感太陽電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、燃料電池、金属空気電池などの電極や、タッチパネル等の透明電極として極めて有用である。
【0051】
また上記のようにして得られるカーボンナノファイバ構造体100のカーボンナノファイバ50から1本のカーボンナノファイバ50を引き出すことにより、カーボンナノファイバ50からなるカーボンナノファイバ導電線を得ることも可能である。このカーボンナノファイバ導電線は、金属に比べてずっと軽量であるため、軽量化が必要とされる自動車、飛行機などのワイヤハーネスに用いられる導線として有用である。
【0052】
次に、上述したカーボンナノファイバ構造体100を製造するための製造装置の一例について図5を参照しながら説明する。図5は、図1のカーボンナノファイバ構造体100の製造装置の一例を示す概略図である。
【0053】
図5に示すように、製造装置200は、回転可能に支持された円筒状の基体10と、基体10の外周面に、触媒30を形成する触媒材料を含む塗布液201を塗布する触媒塗布装置202と、塗布液201を乾燥させる乾燥装置203と、乾燥後に露出した触媒材料を加熱する第1加熱装置204と、触媒材料に還元性ガスを供給して活性化した粒状の触媒30を形成する還元性ガス供給装置205と、触媒30に原料Aを塗布して接触させる原料塗布装置206と、基体10のうち原料Aが塗布される部分を加熱する第2加熱装置207と、触媒30と原料Aとの塗布により成長したカーボンナノファイバ50を基体10から剥離させるスクレイパ208と、スクレイパ208によりカーボンナノファイバ50が剥離されて露出した基体10の外周面に酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給装置209とを備えている。また、酸化性ガス供給装置209と触媒塗布装置202の間には、必要に応じて、触媒担持層を形成させる装置(図示せず)を備えることができる。この場合、触媒担持層を形成させる装置は、触媒担持層を触媒担持層の成分を含む溶液を塗布して焼成させて形成するものであってもよく、また触媒担持層の成分を含む液体または気体を吹き付けて形成するものであってもよい。
【0054】
基体10の内部には回転軸(図示せず)を貫通させ、その両端を軸受部(図示せず)としてもよいし、基体10の両端の外周部を延長して軸受部(図示せず)として複数の回転体(図示せず)で保持してもよい。こうして基体10は回転可能に支持される。なお、製造装置200は、回転軸又は回転体を回転させて基体10を回転駆動させる回転装置(図示せず)を有していることが好ましい。
【0055】
第1加熱装置204および第2加熱装置207としては、例えば近赤外線ヒーターや赤外線ヒーターを用いることができる。
【0056】
還元性ガスとしては、例えば水素ガスや酸素分圧が極めて低い不活性ガス(アルゴンガスたは窒素ガス)などを用いることができる。酸化性ガスとしては、例えば酸素ガスや水蒸気などを用いることができる。
【0057】
この製造装置200によれば、基体10が回転装置により回転軸又は回転体を介して回転される。そして、基体10の外周面には、触媒塗布装置202により塗布液201が塗布され、この塗布液201が乾燥装置203により乾燥される。続いて、塗布液201の乾燥後に露出した触媒材料が第1加熱装置204により加熱される。そして、触媒材料が加熱された後、還元性ガス供給装置205により触媒材料に還元性ガスが供給され、触媒材料は、活性化された粒子状の触媒30となる。一方、基体10のうち原料Aが塗布される部分は第2加熱装置207により加熱される。そして、基体10のうち原料Aが塗布される部分が加熱された状態で、原料塗布装置206により触媒30に原料Aが塗布される。このとき、原料Aから触媒30に炭素が供給され、基体10の外周面側にカーボンナノファイバ50が成長する。こうしてカーボンナノファイバ構造体100が得られる。このとき、原料Aとして、多環芳香族炭化水素を含む液体または固体が用いられることで、基体10の外周面側に、カーボンナノファイバ50を十分に大きな成長速度で成長させることが可能となる。このため、カーボンナノファイバ構造体100の生産性を十分に向上させることができる。
【0058】
カーボンナノファイバ構造体100が得られた後は、スクレイパ208により触媒30と原料Aとの塗布により成長したカーボンナノファイバ50が、必要に応じて、基体10から剥離され、スクレイパ208によりカーボンナノファイバ50が剥離されて露出した基体10の外周面には酸化性ガス供給装置209により酸化性ガスが供給される。このとき、酸化性ガスにより基体10の外周面にカーボンが付着している場合には、カーボンが酸化性ガスと反応して二酸化炭素等のガスとなり、基体10の外周面がクリーニングされる。そして、クリーニングされた基体10の外周面には、触媒塗布装置202により再度触媒材料を含む塗布液201が塗布される。こうして、製造装置200によれば、カーボンナノファイバ50を連続的に生産することが可能となる。なお、酸化性ガス供給装置209と触媒塗布装置202の間に触媒担持層を形成させる装置を設置した場合は、この装置により、基体10のクリーニング後において、必要に応じて触媒担持層を形成させてもよい。この場合、触媒担持層を基体10に形成させることで、粒状の触媒30の形成を容易にすることができる。
【0059】
また製造装置200によれば、基体10として円筒状のものが用いられるため、カーボンナノファイバ50を連続的に生産するにもかかわらず、製造装置200の設置スペースが小さくて済む。
【0060】
なお、製造装置200においては、触媒活性を十分に向上させるため、必要に応じて、基体10の温度を上昇させるヒーターを還元性ガス供給装置205に付与することもできる。また製造装置200においては、酸化性ガスと付着したカーボンとの反応を促進させるため、必要に応じて、基体10の温度を上昇させるヒーターを酸化性ガス供給装置209に付与することもできる。さらに、カーボンナノファイバ構造体100を製造する場合には、スクレイパ208および酸化性ガス供給装置209は必ずしも必要ではなく、省略が可能である。
【0061】
また、乾燥装置203は必ずしも必要なものではない。乾燥装置203が設けられていなくても、第1加熱装置204が乾燥装置203を兼ねることが可能である。また、第1加熱装置204および第2加熱装置207は、1つの加熱装置で代用することも可能である。この場合、この1つの加熱装置は、円筒の内側に沿うように設置される。
【0062】
さらに基体10は円筒状である必要はなく、円柱状でもよいし、多数の平板が連なる多角筒状であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10…基体
30…触媒
50…カーボンナノファイバ
100…カーボンナノファイバ構造体
200…カーボンナノファイバ構造体の製造装置
図1
図2
図3
図4
図5