(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鉄道のレールは列車の通過や気温の変化、風雨の影響等により、経時的に上下、左右に変位が生じており、これらは高低変位や軌間変位、通り変位などと呼ばれている。例えば、
図1は、レールRとマクラギMが左右に変位する通り変位を示しており、A地点では点線で示す基準線よりレールRの内側に変位しているので−の変位が生じており、そのA地点の反対側であるB地点では点線で示す基準線よりレールRの外側に変位しているので+の変位が生じている。このような各種変位が安全基準をオーバーしたとき場合には、点線で示す基準線内の正規の通りにレールRやマクラギMをバールで押して戻していた(例えば、特許文献1の従来技術の参照。)。このような水平方向の変位を戻す作業を通り整正と称し、従来は重いバールを各人が使用して、15〜20人掛かりで行っており、非常に負担の大きい作業であった。なお、このような整正作業は新設軌道敷設の際も行う必要があり、上述の特許文献1に記載されているように大型の通り整正機械も使用されているが、持ち運び可能な大きさで、バラスト(砕石)の中にシリンダ後端部に設けられたストッパー板を移動しないように差し込み、シリンダの先端から進退するピストンの先端部によりレールの上首部(アゴ部)を押圧することによりレールを移動させて通り変位を整正する簡易なレール整正器が使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の持運び可能なレール整正器は、シリンダ後端部のストッパー板を道床のバラストに突き刺して道床から反力を取りつつレールの上首部をピストン先端を押し当てて通りを整正するので、レールに対し斜め上方向に力が集中して、レールやマクラギ等が浮き上がる、いわゆる扛上現象が起きる場合がある。そのため、この場合には、通りを整正した後、さらに二次的にレールの高さを調整する作業が必要になり、作業負担が大きいと共に、作業時間も余計にかかるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、ストッパー板を道床のバラストに突き刺しその反力によってレールの通り変位などのズレを整正する場合でも、レールやマクラギ等が浮き上がる扛上現象の発生が減少し、効率良く通りを整正することができるレール整正器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明のレール整正器は、レールの底部に係止する係止部を先端側に有する整正器本体と、その整正器本体の後端側に先端側が固定され、その先端側からピストンを進退させるシリンダ本体と、そのピストンの先端に取り付けられ、バラストに突き刺すストッパー板とを有し、整正器本体の係止部をレールの底部に係止すると共に、ピストン先端のストッパー板を道床のバラスト間に突き刺してシリンダ本体に対しピストンを伸長させ、ピストンに対しシリンダ本体と整正器本体とを相対的に後退させ、整正器本体の係止部に係止されたレールの底部を引くことによって整正する
レール整正器であって、前記整正器本体は、天板とその両側の両側板と後側板とを有すると共に、少なくとも底板無しで下方開口部を有する断面コ字状であって、その下方開口部側がバラスト側になるように設置する一方、ストッパー板はその先端部が整正器本体の下方開口部から突出していると共に、ストッパー板の先端部は前方に向かって傾斜していることを特徴とする。
ここ
で、また、整正器本体の両側面は、係止部を設けた先端側の上下幅は、シリンダ本体が取り付けられる後端側の上下幅よりも小さく、後端側から先端側に向かうに従って斜めに傾斜した傾斜辺を有するとさらに良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明のレール整正器では、整正器本体の係止部をレールの底部に係止すると共に、ピストン先端のストッパー板をバラスト間に突き刺してシリンダ本体に対しピストンを伸長させ、ピストンに対しシリンダ本体と整正器本体とを相対的に後退させ、整正器本体の係止部に係止されたレールの底部を引くことによって整正する。そのため、ストッパー板を道床のバラストに突き刺して使用してその反力によってレールの通り変位などのズレを整正する場合でも、レールやマクラギ等が浮き上がる扛上現象の発生が減少し、通り整正後にさらに二次的にレールの高さを調整する作業の負担が軽減されるので、通りを効率良く整正することができる。
また、整正器本体は、天板とその両側の両側板と後側板とを有すると共に、少なくとも底板無しで下方開口部を有する断面コ字状であって、その下方開口部側がバラスト側になるように設置する一方、ストッパー板はその先端部が整正器本体の下方開口部から突出していると共に、ストッパー板の先端部は前方に向かって傾斜しているため、整正器本体自体がバラストを掴み易く、レールの反力に対し効果的に耐えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本発明に係る実施の形態のレール整正器の一部切欠き部分を有する平面図である。
【
図3】本発明に係る実施の形態のレール整正器の一部切欠き部分を有する正面図である。
【
図4】本発明に係る実施の形態のレール整正器の一部切欠き部分を有する左側面図である。
【
図5】本発明に係る実施の形態のレール整正器を設置した状態の一例を示す平面図である。
【
図6】本発明に係る実施の形態のレール整正器を設置して手動式ポンプを接続した状態の一例を示す正面図である。
【
図7】
図6におけるレール整正器や手動式ポンプを拡大して示す正面図である。
【
図8】本発明に係る実施の形態のレール整正器を動作させている状態の一例を示す正面図である。
【
図9】
図8におけるレール整正器や手動式ポンプにおける動作を拡大して示す正面図である。
【
図10】本発明に係る実施の形態のレール整正器によって整正されたレールやマクラギとレール整正器の状態の一例を示す平面図である。
【
図11】(a),(b)それぞれ本発明に係る実施の形態のレール整正器によって整正する前と、整正後のレールやマクラギとレール整正器の状態を拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るレール整正器の実施の形態について、
図1〜
図14を参照しながら説明する。
【0010】
実施形態のレール整正器1は、ストッパー板を道床のバラストに突き刺して使用してその反力によってレールの通り変位などのズレを整正する持運び可能なレール整正器であって、
図2〜
図4に示すように、整正器本体11と、シリンダ本体12と、ストッパー板13とを備えている。
【0011】
整正器本体11は、天板11aと、その両側の両側板11b,11bと、後側板11cとを有すると共に、底板面無しで下方開口部を有する断面コ字状に形成されている。なお、本実施形態では、前側面も無しで前方開口部も有するように構成している。そのため、整正器本体11は下方開口部と前方開口部とを有するので、整正器本体11を路盤上に敷設されたバラストB(
図6〜
図9等参照。)に設置して整正作業を行った際に、下方開口部や前方開口部からバラストBが侵入し易くなり、通り変位の整正(戻し)作業を確実に実行することができる。なお、前側面は設けても良いが、底板面は無しの方がストッパー板13と下方開口部とによってバラストBを集め易く、バラストBから大きな反力を得易いので、底板面無しにすることが望ましい。
【0012】
ここで、本実施形態の整正器本体11は、天板11aの先端部にレールRの底部に係止する係止部11a1を有している。
【0013】
また、本実施形態の整正器本体11の両側板11b,11bは、それぞれ、係止部11a1が設けられる先端側の上下幅W1がシリンダ本体12後端側の上下幅W2よりも徐々に小さくなるように、
図3等に示すように後端側から先端側に向かうに従って斜めに傾斜した傾斜辺11b1,11b1を有する。そのため、後述するように整正器本体11を係止部11a1が設けられた先端部からレールR底部の一方側からそのレールR底部の下を潜らせて、係止部11a1をレールR底部の反対側の底部に係止する際にバラストB等が邪魔をしても、整正器本体11先端側の上下幅W1が小さく、整正器本体11の先端部をレールR底部の下に潜らせ易いので、通り変位の整正(戻し)作業の作業性が向上する。
【0014】
また、整正器本体11の後側板11cにはほぼシリンダ本体12の外径より僅かに大きいシリンダ取付け孔11c1が形成されており、そのシリンダ取付け孔11c1周囲の整正器本体11の後側板11cに、シリンダ本体12の先端部が取付けアダプタ121と4本のボルト122およびナット123を介して取り付けられている。そのため、シリンダ取付け孔11c1からピストン12aが整正器本体11内に進退可能である。
【0015】
また、このシリンダ本体12には、油圧入出口12bが設けられており、後述する
図6以降に示す手動式油圧ポンプ2等によってシリンダ本体12に対し油圧を入出して、ピストン12aを進退(前後動)させることができる。なお、シリンダ本体12は油圧ポンプ等と別体でなく、油圧ポンプと一体式のシリンダでも良いし、また手動式油圧ポンプ2の代わりに電動式油圧ポンプを利用しても良いし、要は、ピストン12aを進退(前後動)させることができれば十分である。
【0016】
そして、シリンダ本体12から進退(前後動)するピストン12a先端には、バラストB間に突き刺して反力を得るためのストッパー板13が取り付けられている。
【0017】
ここで、ストッパー板13は、バラストB間に確実に突き刺さりレールRからの反力に耐えて極力移動しないよう
図3に示すように先端部をレールRの方へ向けて約30度前後傾斜させて構成されている。また、ストッパー板13は、
図3や
図4等に示すようにバラストBへの突き刺さり性が向上するように前面側(レール側)に設けられ下端部(先端部)が約30度前後傾斜で下方に延びる前面側爪部13aと、レールRからの反力に対し確実に耐えることができるように前面側爪部13aの背面(後面)側を盛り上げて形成されるものの、バラストBへの突き刺さり性を考慮して下端部(先端部)が前面側爪部13aより短い後面側補強板部13bと、後面側補強板部13bの背面(後面)側のほぼ中央部を盛り上げる等して形成され、ピストン12a先端が連結される連結箇所補強部13cとから構成されている。
【0018】
さらに、本実施形態のストッパー板13は、
図4に示すようにバラストBへの突き刺さり性が向上するように後面側補強板部13bの傾斜した下側部分の中央は凹部形状にしてその両側は30度の傾斜状態で延ばす一方、前面側爪部13aの下側部分は、後面側補強板部13bの下側部分の中央の凹部まで延びるようにV字形状の切り欠き部13a1を設けた形状にして、さらなるバラストBへの突き刺さり性の向上を図っている。
【0019】
次に、以上のように構成された実施形態のレール整正器1の使用方法について説明する。
【0020】
図1に示したようにレールRに経時的に+−の通り変位が発生した場合、その通り変位が−側のレールRの横、すなわち
図1であればA部分のレールRの横に本実施形態のレール整正器1を設置する。
【0021】
ここで、レール整正器1は、
図5に示すように通り変位が−側のマクラギM間毎に1台ずつ設けても良いし、マクラギM間毎に複数台設けても良いし、3つ以上のマクラギM毎に1台ずつ設けるようにしても良い。そして、このレール整正器1を設置する場合は、レール整正器1の整正器本体11先端をレールR底部の一方側からそのレールR底部の下を潜らせて、整正器本体11先端の係止部11a1をレールR底部の反対側の底部に係止させる。またピストン12aの先端に設けられたストッパー板13は、バラストB間に突き刺し、レールRからの反力に耐えて極力移動しないように設置する。
【0022】
次に、
図6および
図7に示すようにレール整正器1のシリンダ本体12の油圧入出口12bに、例えば手動式油圧ポンプ2のホース2a先端のバルブ2bを接続して、
図8および
図9に示すように手動式油圧ポンプ2のハンドル2cを上下動させることによって油圧をシリンダ本体12側へ送り、シリンダ本体12のピストン12aを前方に押し出す。
【0023】
しかし、ピストン12aの先端には、上述のようなストッパー板13が取り付けられており、このストッパー板13はバラストBに突き刺しており、レールRからの反力に耐えて極力移動しないように設置している。特に、このストッパー板13は、その先端部が整正器本体11の先端部側に向かって傾斜している。そのため、手動式油圧ポンプ2のハンドル2cを上下動させて油圧をシリンダ本体12側へ送っても、ピストン12aはストッパー板13によって前方にあまり移動せず、ピシリンダ本体12がストン12aに対し後方へ移動することになる。
【0024】
すると、シリンダ本体12の先端部は取付けアダプタ121等を介して整正器本体11の後側板11cに固定されているため、手動式油圧ポンプ2のハンドル2cを上下動させて油圧をシリンダ本体12側へ送ると、
図9や
図10に示すようにシリンダ本体12と共に整正器本体11を後方、すなわち
図8上左側に移動させることになる。
【0025】
ここで、整正器本体11先端の係止部11a1は、レールR底部の反対側の底部に係止しているため、シリンダ本体12や整正器本体11と共にレールRも
図8上左側に移動して、レールRの−の通り変位を整正できることになる。その際、本実施形態のレール整正器1を設置したレールRの近傍では、レールRがマクラギMに固定したままである場合は、マクラギMもレールRと共に
図8上左側に移動することになる。
【0026】
図11(a),(b)は、それぞれ、本実施の形態のレール整正器1によって整正する前と、整正後のレールRやマクラギMとレール整正器1の状態を拡大して比較して示す平面図であり、ストッパー板13の位置は(a),(b)共にほとんど変わらないものの、シリンダ本体12と整正器本体11とが後方、すなわち
図8上左側に移動していると共に、整正器本体11先端の係止部11a1によってレールRとマクラギMも
図8上左側に移動していることがわかる。
【0027】
従って、本実施形態のレール整正器1によれば、レールRの上首部をピストン先端で押圧することによってレールRやマクラギMを水平方向に移動させて通り変位を整正するのではなく、整正器本体11先端の係止部11a1をレールRの底部に係止すると共に、ピストン12a先端のストッパー板13をバラストB間に突き刺し、シリンダ本体12に対しピストン12aを伸長させることにより、ピストン12aに対しシリンダ本体12と整正器本体11とを後退させて引くことによってレールRの通り変位を整正する。そのため、本実施形態のレール整正器1によれば、レールRの底部を引いて通りを整正することにより、従来よりも通り整正時にレールRやマクラギM等の扛上現象の発生が減少し、通り整正後にさらに二次的にレールの高さを調整する作業の負担が軽減されるので、効率良く通りを整正することができる。
【0028】
特に、本実施形態のレール整正器1では、整正器本体11が底板無しで下方開口部を有する断面コ字状であって、その下方開口部側をバラストB側になるように設置して、その下方開口部からストッパー板13の先端部が突出しているため、整正器本体11自体がバラストBを掴み易く、レールRの反力に対し効果的に耐えることができる。
【0029】
また、本実施形態のレール整正器1では、整正器本体11の両側面11b、11bは、係止部11a1を設けた先端側の上下幅W1がシリンダ本体12後端側の上下幅W2よりも小さく、後端側から先端側に向かうに従って斜めに傾斜した傾斜辺11b1を有するため、係止部11a1をレールR底部の反対側の底部に係止する際に整正器本体11の先端部をレールR底部の下に潜らせ易くなり、通り変位の整正(戻し)作業の作業性が向上する。