(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968883
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】非水電解質電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20160728BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20160728BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20160728BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20160728BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20160728BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20160728BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M10/058
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-517977(P2013-517977)
(86)(22)【出願日】2012年5月22日
(86)【国際出願番号】JP2012062980
(87)【国際公開番号】WO2012165207
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-121941(P2011-121941)
(32)【優先日】2011年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-42877(P2012-42877)
(32)【優先日】2012年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳田 勝功
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 元治
【審査官】
小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/001557(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/114515(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/081839(WO,A1)
【文献】
特開2010−232063(JP,A)
【文献】
特開2009−123424(JP,A)
【文献】
特開2010−232117(JP,A)
【文献】
特開2011−034943(JP,A)
【文献】
特開2010−086914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/13−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備える非水電解質電池であって、
前記正極活物質が、空間群P63mcに属する結晶構造を有する、Lix1Nay1CoαMβOγ(0<x1<1.1、0<y1≦0.05、0.75≦α<1、0<β≦0.25、1.9≦γ≦2.1、MはCo以外の金属元素で少なくともMnを含む)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物を含み、
前記非水電解質が、フッ素化環状炭酸エステルとフッ素化鎖状エステルとを含み、前記フッ素化環状炭酸エステルの含有量は、非水電解質の総量に対し5〜50体積%であって、前記フッ素化鎖状エステルの含有量は、非水電解質の総量に対し30〜90体積%である、非水電解質電池。
【請求項2】
前記フッ素化環状炭酸エステルが、4−フルオロエチレンカーボネート又は4,5−ジフルオロエチレンカーボネートの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記フッ素化鎖状エステルが、フッ素化鎖状カルボン酸エステル又はフッ素化鎖状炭酸エステルの少なくとも一方を含む、請求項1または2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記フッ素化鎖状カルボン酸エステルが、メチル3,3,3−トリフルオロプロピオネートを含む、請求項3に記載の非水電解質電池。
【請求項5】
前記フッ素化鎖状炭酸エステルが、メチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネートを含む、請求項3または4に記載の非水電解質電池。
【請求項6】
正極電位が4.6V(vs.Li/Li+)を超えるまで充電される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代の高容量正極活物質のひとつとして、ナトリウム含有遷移金属酸化物をイオン交換して作製されるリチウム含有遷移金属酸化物が現在研究されている(非特許文献1参照)。
【0003】
現在実用化されているR−3mに属する結晶構造を有するLiCoO
2においては、正極電位が4.6V(vs.Li/Li
+)を超えるまで充電することにより、LiCoO
2中のリチウムを約70%以上引き抜くと、結晶構造が崩れ、充放電効率が低下する。一方、ナトリウム含有遷移金属酸化物をイオン交換して作製されるリチウム含有遷移金属酸化物の一種である空間群P6
3mcに属する結晶構造を有するLiCoO
2においては、正極電位が4.6V(vs.Li/Li
+)を超えるまで充電することにより、LiCoO
2中のリチウムを約80%引き抜いても、結晶構造はあまり崩れない。
【0004】
しかしながら、空間群P6
3mcに属する結晶構造を有するLiCoO
2は作製することが困難である。このLiCoO
2はP2構造のNa
0.7CoO
2を作製し、ナトリウムをリチウムでイオン交換することによって得られるが、イオン交換する際の温度が150℃を超えるとLiCoO
2の結晶構造が空間群R−3mに変化し、温度が低すぎるとイオン交換前の原料が残る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Solid State Ionics 144 (2001) 263
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、充放電効率の高い非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1の局面に係る非水電解質電池は、正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備える非水電解質電池であって、正極活物質が、空間群P6
3mcに属する結晶構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物を含み、非水電解質が、フッ素化環状炭酸エステルとフッ素化鎖状エステルとを含む、ことを特徴としている。
【0008】
リチウム含有遷移金属酸化物は、Li
x1Na
y1Co
αM
βO
γ(0<x1<1.1、0<y1≦0.05、0.75≦α<1、0<β≦0.25、1.9≦γ≦2.1、MはCo以外の金属元素で少なくともMnを含む)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物を使用することが好ましい。
【0009】
x1が上記範囲より多いと遷移金属サイトにリチウムが入り、容量密度が減少する場合がある。y1が上記範囲より多いと、ナトリウムが挿入又は脱離するときに結晶構造が崩れやすくなる。尚、y1が上記範囲にある場合、XRD測定でナトリウムを検出できない場合がある。
【0010】
αが上記範囲より少ないと平均放電電位が低下しやすくなる。また、αが上記範囲より多いと、正極電位を4.6V(vs.Li/Li
+)以上に達するまで充電したときに、結晶構造が崩れやすくなる。尚、αが0.80≦α<0.95の範囲であると、エネルギー密度がさらに高くなるためより好ましい。また、βが上記範囲より多くなると、平均放電電位が低下しやすくなる。
【0011】
リチウム含有遷移金属酸化物は空間群C2/m、C2/c、又はR−3mに属する酸化物を含んでいてもよい。これらの酸化物の例としては、Li
2MnO
3、R−3mに属する結晶構造を有するLiCoO
2、及びLiNi
aCo
bMn
cO
2(0<a<1、0<b<1、0<c<1)が挙げられる。
【0012】
リチウム含有遷移金属酸化物に、マグネシウム、ニッケル、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、クロム、バナジウム、セリウム、チタン、鉄、カリウム、ガリウム、及びインジウムからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも一つの元素を添加してもよい。これら元素の添加量は、コバルトとマンガンの総mol量に対して10mol%以下であることが好ましい。
【0013】
正極活物質の表面を無機化合物の微粒子で覆うことも可能である。無機化合物の例としては、酸化物、リン酸化合物、及びホウ酸化合物が挙げられる。また、酸化物の例としてはAl
2O
3が挙げられる。
【0014】
リチウム含有遷移金属酸化物は、ナトリウム、ナトリウムのモル量を超えないリチウム、コバルト、及びマンガンを含むナトリウム含有遷移金属酸化物のナトリウムをリチウムにイオン交換することによって作製することができる。例えば、Li
x2Na
y2Co
αM
βO
γ(0<x2≦0.1、0.66<y2<0.75、0.75≦α<1、0<β≦0.25、1.9≦γ≦2.1、MはCo以外の金属元素で少なくともMnを含む)で表されるナトリウム含有遷移金属酸化物に含まれるナトリウムの一部をリチウムでイオン交換することによって作製することができる。なお、上記X2は0.025≦x2≦0.050を満たすことが好ましい。
【0015】
上記のナトリウム含有遷移金属酸化物は、例えば、Li
2CO
3、NaNO
3、Co
3O
4、及びMn
2O
3を目的の化学量論比に合うように混合し、その後、空気中において800℃〜900℃で10時間保持することによって得られる。
【0016】
本発明の正極は、正極電位が4.6V(vs.Li/Li
+)を超えるまで充電することができる。正極の充電電位の上限については特に定められるものではないが、高すぎると非水電解質の分解などを引き起こすため、5.0V(vs.Li/Li
+)以下が好ましい。
【0017】
尚、上記一般式で表されるリチウム含有遷移金属酸化物が4.6V(vs.Li/Li
+)を超えるまで充電されたとき、x1の値は0<x1<0.1となっている。
【0018】
フッ素化環状炭酸エステルは、カーボネート環にフッ素原子が直接結合したフッ素化環状炭酸エステルであることが好ましく、その例として、4−フルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,5−トリフルオロエチレンカーボネート、4,4,5,5−テトラフルオロエチレンカーボネートが挙げられる。なかでも、4−フルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネートが、比較的粘度が低く、負極で保護被膜が形成されやすいいためより好ましい。
【0019】
フッ素化環状炭酸エステルの含有量は、非水電解質の総量に対し5〜50体積%であることが好ましく、10〜40体積%であることがさらに好ましい。
【0020】
フッ素化鎖状エステルは、フッ素化鎖状カルボン酸エステル又はフッ素化鎖状炭酸エステルの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0021】
フッ素化鎖状カルボン酸エステルの例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、又はプロピオン酸エチルの水素の一部または全部をフッ素化したものが挙げられる。なかでもメチル3,3,3−トリフルオロプロピオネートは比較的粘度が低いため好ましい。
【0022】
フッ素化鎖状炭酸エステルの例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネートの水素の一部または全部をフッ素化されているものが挙げられる。なかでもメチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネートが好ましい。
【0023】
フッ素化鎖状エステルの含有量は、非水電解質の総量に対し30〜90体積%であることが好ましく、50〜90体積%であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の非水電解質には、フッ素化環状炭酸エステル及びフッ素化鎖状エステル以外にも、例えば、非水電解質電池に従来使用されている非水電解質を併せて用いることができる。その例として、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エーテル類が挙げられる。環状炭酸エステルの例としては、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートが挙げられる。鎖状炭酸エステルの例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートが挙げられる。エーテル類の例としては、1,2−ジメトキシエタンが挙げられる。
【0025】
本発明で用いられる非水電解質には、例えば、非水電解質電池に従来使用されているアルカリ金属塩が含まれる。その例として、LiPF
6及びLiBF
4が挙げられる。
【0026】
本発明で用いられる負極活物質には、例えば、非水電解質電池に従来使用されている負極活物質を用いることができる。その例として、黒鉛、リチウム、シリコン及びシリコン合金が挙げられる。
【0027】
本発明の非水電解質電池には、必要に応じて、例えば、従来の非水電解質電池に使用されている電池構成部材を使用することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、正極活物質上にリチウムの挿入及び脱離を円滑にする被膜が形成され、充放電効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施例1で作製した正極活物質の粉末X線回折パターンである。
【
図2】
図2は、実施例及び比較例で使用した試験セルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0031】
[実験1]
〔試験セルの作製〕
<実施例1>
NaNO
3、Co
3O
4、及びMn
2O
3をNa
0.7Co
5/6Mn
1/6O
2の化学量論比に合うように混合した。その後、空気中において900℃で10時間保持することによって、ナトリウム含有遷移金属酸化物を得た。
【0032】
LiNO
3とLiOHとをモル比が61:39となるように混合した溶融塩床を、得られたナトリウム含有遷移金属酸化物5gに対し5倍当量加え、200℃で10時間保持させることによって、ナトリウム含有遷移金属酸化物のナトリウムの一部をリチウムにイオン交換した。さらに、イオン交換後の物質を水洗して、リチウム含有遷移金属酸化物を得た。
【0033】
得られたリチウム含有遷移金属酸化物は、粉末X線回折法により分析を行った結果、空間群P6
3mcに属する結晶構造を有することが分かった(
図1参照)。また、ICP発光分析を用いてコバルトとマンガンの定量を、原子吸光分析を用いてリチウムとナトリウムの定量を行った結果、得られたリチウム含有遷移金属酸化物の組成は、Li
0.8Na
0.03Mn
5/6Co
1/6O
2であることが分かった。
【0034】
得られたリチウム含有遷移金属酸化物を正極活物質とし、正極活物質と導電剤としてのアセチレンブラックと結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを質量比が90:5:5となるように混合した。その後、この混合物にN−メチル−2−ピロリドンを加えて正極合剤スラリーを作製した。得られた正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる集電体に塗布し、110℃で真空乾燥することで、作用極1を作製した。
【0035】
アルゴン雰囲気下で、作用極1、対極2、参照極3、セパレーター4、非水電解質5、及び容器6を用いて
図2に示す試験セルを作製した。尚、対極2及び参照極3にはリチウム金属を用いた。セパレーター4には、ポリエチレン製セパレーターを用いた。非水電解質5には、4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)とメチル3,3,3−トリフルオロプロピオネート(F−MP)とを体積比が2:8になるように混合した非水電解液に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度になるように溶解させたものを用いた。作用極1、対極2、及び参照極3には、それぞれ集電タブ7が取り付けられている。
【0036】
<実施例2>
4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)とメチル3,3,3−トリフルオロプロピオネート(F−MP)とを体積比が2:8になるように混合した非水電解液に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度になるように溶解させたものを非水電解質として用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0037】
<実施例3>
4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)とメチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート(F−EMC)とを体積比が2:8となるように混合した非水電解液に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度になるように溶解させたものを非水電解質に用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0038】
<比較例1>
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比が2:8になるように混合した非水電解液に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度になるように溶解させたものを非水電解質として用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0039】
<比較例2>
Li
2CO
3及びCo
3O
4を混合し、空気中において900℃で10時間保持することによって、LiCoO
2を得た。得られたLiCoO
2は、粉末X線回折法により分析を行った結果、空間群R−3mに属する結晶構造を有することが分かった。
【0040】
得られたLiCoO
2を正極活物質として用いたこと以外は、実施例3と同様にして試験セルを作製した。
【0041】
<比較例3>
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比が2:8となるように混合した非水電解液に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度になるように溶解させたものを非水電解質として用いたこと以外は、比較例2と同様にして試験セルを作製した。表1に各試験セルの詳細を示す。
【0043】
〔充放電サイクル試験〕
実施例1〜3及び比較例1〜3の各試験セルについて、0.2Itの定電流で正極電位が4.8V(vs.Li/Li
+)(比較例2、3については4.6V(vs.Li/Li
+))に達するまで充電した後、4.8V(vs.Li/Li
+)(比較例2、3については4.6V(vs.Li/Li
+))の定電圧で、電流値が0.05Itに達するまで充電した。その後、0.2Itの定電流で正極電位が3.2V(vs.Li/Li
+)に達するまで放電を行った。このときの放電容量を充電容量で除した値に100をかけて充放電効率(%)を計算した結果を表2に示す。
【0044】
なお、比較例2及び3の試験セルにおいて正極の充電電位の上限を4.6V(vs.Li/Li
+)と設定したのは、正極活物質として用いたLiCoO
2の結晶構造が、4.6V(vs.Li/Li
+)を超える高い電位で不安定であることが知られているからである。
【0046】
表2の比較例2と3とを比較すると、R−3m構造に属する結晶構造を有する正極活物質を用いた試験セルにおいては、非水電解質にFEC及びF−EMCを用いても、充放電効率は向上しないことが分かる。一方、表2の実施例3と比較例1とを比較すると、P6
3mc構造を有する正極活物質を用いた試験セルにおいては、非水電解質にFEC及びF−EMCを用いると、充放電効率が向上することが分かる。これは、P6
3mc構造に属する結晶構造を有する正極活物質に、フッ素化環状炭酸エステルとフッ素化鎖状エステルとを組み合わせた場合、正極活物質上にリチウムの挿入及び脱離を円滑にする被膜が形成されるが、R−3m構造に属する結晶構造を有する正極活物質に、フッ素化環状炭酸エステルとフッ素化鎖状エステルとを組み合わせた場合、同様の被膜が形成されないためと考えられる。尚、実施例1及び2でも実施例3と同様に充放電効率が向上していることが分かる。
【0047】
表2の比較例2と3とを比較すると、非水電解質にFEC及びF−EMCを用いた比較例2の試験セルの充電容量が非水電解質にFEC及びF−EMCを用いなかった比較例3のものよりむしろ低くなっている。これは、R−3m構造に属する結晶構造を有する正極活物質に、フッ素化環状炭酸エステルとフッ素化鎖状エステルとを組み合わせても、上記と同様の被膜が形成されないうえ、電解液の粘性が高くなることにより負荷特性が低下したためと考えられる。
【0048】
[実験2]
〔試験セルの作製〕
<実施例4>
Li
2CO
3、NaNO
3、Co
3O
4、及びMn
2O
3をNa
0.7Li
0.025Co
10/12Mn
2/12O
2の化学量論比に合うように混合した。その後、空気中において900℃で10時間保持することによって、ナトリウム含有遷移金属酸化物を得た。
【0049】
LiNO
3とLiOHとをモル比が61:39となるように混合した溶融塩床を、得られたナトリウム含有遷移金属酸化物5gに対し5倍当量加え、200℃で10時間保持させることによって、ナトリウム含有遷移金属酸化物のナトリウムの一部をリチウムにイオン交換した。さらに、イオン交換後の物質を水洗して、リチウム含有遷移金属酸化物を得た。
【0050】
得られたリチウム含有遷移金属酸化物は、粉末X線回折法により分析を行った結果、空間群P6
3mcに属する結晶構造を有することが分かった。また、ICP発光分析を用いてコバルトとマンガンの定量を、原子吸光分析を用いてリチウムとナトリウムの定量を行った。その結果を表3に示す。
【0052】
得られたリチウム含有遷移金属酸化物を正極活物質とし、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0053】
<実施例5>
Li
2CO
3、NaNO
3、Co
3O
4、及びMn
2O
3をNa
0.7Li
0.05Co
10/12Mn
2/12O
2の化学量論比に合うように混合したこと以外は、実施例4と同様にして試験セルを作製した。
【0054】
<実施例6>
Li
2CO
3、NaNO
3、Co
3O
4、及びMn
2O
3をNa
0.7Li
0.075Co
10/12Mn
2/12O
2の化学量論比に合うように混合したこと以外は、実施例4と同様にして試験セルを作製した。
【0055】
<実施例7>
Li
2CO
3、NaNO
3、Co
3O
4、及びMn
2O
3をNa
0.7Li
0.05Co
10/12Mn
2/12O
2の化学量論比に合うように混合した。その後、空気中において800℃で10時間保持することによって、ナトリウム含有遷移金属酸化物を得た。以降、実施例4と同様にして試験セルを作製した。
【0056】
<比較例4〜7>
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比が3:7になるように混合した非水電解液に、LiPF
6を1.0mol/lの濃度になるように溶解させたものを非水電解質として用いたこと以外は、実施例4〜7と同様にして試験セルを作製した。
【0057】
〔充放電サイクル試験〕
実施例4〜7及び比較例4〜7の各試験セルについて、0.2Itの定電流で正極電位が4.8V(vs.Li/Li
+)に達するまで充電した後、4.8V(vs.Li/Li
+)の定電圧で、電流値が0.05Itに達するまで充電した。その後、0.2Itの定電流で正極電位が3.2V(vs.Li/Li
+)に達するまで放電を行った。このときの放電容量を充電容量で除した値に100をかけて充放電効率(%)を計算した結果を表4に示す。
【0059】
表4より、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)とメチル3,3,3−トリフルオロプロピオネート(F−MP)とを非水電解質に含む実施例4〜7では、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを非水電解質に含む比較例4〜7と比較して、充放電効率が向上していることが分かる。これは、P6
3mc構造に属する結晶構造を有する正極活物質に、フッ素化環状炭酸エステルとフッ素化鎖状エステルとを組み合わせた場合、正極活物質上にリチウムの挿入及び脱離を円滑にする被膜が形成されるためと考えられる。
【0060】
ナトリウム含有遷移金属酸化物中のLiの量が0.025以上0.050以下である実施例4及び5は、ナトリウム含有遷移金属酸化物中のLiの量が0.075である実施例6と比較して、充放電効率がより高くなっていることが分かる。これは、ナトリウム含有遷移金属酸化物中のLiの量が0.025以上0.050以下である場合、正極活物質上にリチウムの挿入及び脱離をより円滑にする被膜が形成されるためと考えられる。一方、理由は不明であるが、ナトリウム含有遷移金属酸化物中のLiの量が0.025以上0.050以下である比較例4及び5は、ナトリウム含有遷移金属酸化物中のLiの量が0.075である比較例6と比較して、充放電効率がより低くなっていることが分かる。
【符号の説明】
【0061】
1…作用極
2…対極
3…参照極
4…セパレーター
5…非水電解質
6…容器
7…集電タブ