特許第5968898号(P5968898)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968898
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】腐食抑制組成物
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/12 20060101AFI20160728BHJP
   C23F 11/18 20060101ALI20160728BHJP
   C07C 59/06 20060101ALI20160728BHJP
   C07C 59/105 20060101ALI20160728BHJP
   C07C 59/255 20060101ALI20160728BHJP
   C07C 59/245 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   C23F11/12 101
   C23F11/12 102
   C23F11/18
   C07C59/06
   C07C59/105
   C07C59/255
   C07C59/245
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-538910(P2013-538910)
(86)(22)【出願日】2011年11月10日
(65)【公表番号】特表2014-502310(P2014-502310A)
(43)【公表日】2014年1月30日
(86)【国際出願番号】US2011060264
(87)【国際公開番号】WO2012065001
(87)【国際公開日】20120518
【審査請求日】2014年7月9日
(31)【優先権主張番号】61/412,706
(32)【優先日】2010年11月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513116793
【氏名又は名称】リバートツプ・リニユーワブルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スミス,タイラー・エヌ
(72)【発明者】
【氏名】カイリー,ドナルド・イー
(72)【発明者】
【氏名】クレイマー−プレスタ,カイリー
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−045744(JP,A)
【文献】 特開昭60−050188(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0250653(US,A1)
【文献】 特開平10−128391(JP,A)
【文献】 特開昭58−091174(JP,A)
【文献】 特表平05−506889(JP,A)
【文献】 特開平06−306652(JP,A)
【文献】 特開平07−258871(JP,A)
【文献】 特開昭51−011030(JP,A)
【文献】 特開昭57−192270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00−11/18,
14/00−17/00
C07C 59/00−59/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩およびオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩の混合物を含み、前記ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩が70重量%から90重量%であり、前記オキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩が10重量%から30重量%である金属用腐食抑制組成物であって、
前記ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩が、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき40重量%から60重量%の少なくとも1種類のグルカル酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき5重量%から15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき3重量%から9重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき5重量%から10重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき5重量%から10重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、およびヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき1重量%から5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含む、前記金属用腐食抑制組成物。
【請求項2】
少なくとも1種類のグルカル酸塩が、グルカル酸二ナトリウム、グルカル酸カリウムナトリウム、グルカル酸二カリウム、グルカル酸亜鉛、グルカル酸二アンモニウムまたはこの組合せを含む、請求項1に記載の腐食抑制組成物。
【請求項3】
組成物の全重量に基づき75重量%から85重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩、および組成物の全重量に基づき15重量%から25重量%のオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含む、請求項1に記載の腐食抑制組成物。
【請求項4】
組成物の全重量に基づき28重量%から36重量%のグルカル酸の塩、および組成物の全重量に基づき15重量%から25重量%のオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含む、請求項1に記載の腐食抑制組成物。
【請求項5】
前記ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩が、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき45重量%から55重量%の少なくとも1種類のグルカル酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき10重量%から15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき4重量%から6重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき5重量%から7重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき5重量%から7重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、およびヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき3重量%から5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含む、請求項1に記載の腐食抑制組成物。
【請求項6】
前記ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩が、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき50重量%の少なくとも1種類のグルカル酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき4重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき6重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき6重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、およびヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含む、請求項1に記載の腐食抑制組成物。
【請求項7】
前記オキソ酸アニオンの塩が、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、オクタホウ酸二ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、スズ酸ナトリウム、スズ酸カリウム、ゲルマニウム酸ナトリウム、ゲルマニウム酸カリウム、亜アンチモン酸ナトリウム、亜アンチモン酸カリウム、またはこの組合せである、請求項1に記載の腐食抑制組成物。
【請求項8】
前記ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩が、ヒドロキシカルボン酸塩の全重量に基づき40重量%から50重量%のグルカル酸の塩を含む、請求項1に記載の腐食抑制組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の情報)
本出願は、2010年11月11日に出願された米国仮特許出願第61/412,706号の優先権を主張する。仮出願の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明において、カルシウムおよびマグネシウムなどの金属イオンを封鎖(sequestering)することができ、一部が再生可能な糖質供給原料に由来するものである新規な腐食抑制剤を説明する。該腐食抑制剤は、1種類以上のヒドロキシカルボン酸塩と1種類以上の適切なオキソ酸アニオン塩を含む混合物である。ヒドロキシカルボン酸塩は、糖質および他のポリオール供給原料から化学的または生物学的酸化によって容易に製造され得る。
【背景技術】
【0003】
ヒドロキシカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸塩は、金属が水または水溶液と接触しているときの金属腐食の抑制に特に有効な腐食抑制剤として充分に認知されている。Nieland et al.による米国特許第2,529,178号明細書には、このようなヒドロキシカルボン酸またはこの塩は、グルコン酸(米国特許第2,529,178号明細書)の場合のように単一のカルボン酸官能部を含むものであってもよく、ヒドロキシジカルボン酸である酒石酸、またはヒドロキシトリカルボン酸であるクエン酸(米国特許第2,529,177号明細書)の場合のように1つより多くのカルボン酸官能部を含むものであってもよいことが教示されている。また、Nieland et al.により、酒石酸などの1つより多くのカルボン酸官能部を有するヒドロキシカルボン酸またはこの塩(米国特許第2,529,177号明細書)は、一般的に、グルコン酸などの同等のヒドロキシモノカルボン酸(米国特許第2,529,178号明細書)よりも良好な腐食抑制特性を示すことも教示された。
【0004】
また、ヒドロキシカルボン酸は、海水(Mor,1971;Mor,1976;およびWrubl,1984)または配合ブライン溶液(Kuczynski,1979;Korzh,1981;Sukhotin,1982;およびAbdallah,1999)などの水性ナトリウムブライン中において金属腐食を抑制することが示されており、一部のものは、工業用冷却システムなどの特定の用途に使用されている(Sukhotin,1982)。
【0005】
また、ヒドロキシカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸塩は、溶液中の金属イオンを封鎖することができるキレート剤として報告されている(Mehltretter,1953;Abbadi,1999)。カルシウムおよびマグネシウムなどの金属イオン用の封鎖剤としてのヒドロキシカルボン酸塩は、一般に、トリポリリン酸ナトリウム(STPP)、エチレンジアミン三酢酸塩(EDTA)、またはニトリロ三酢酸塩(NTA)などの一般的な封鎖剤と比べて性能が不充分である。封鎖能が低いにもかかわらず、ヒドロキシカルボン酸塩は、典型的には生分解性で無毒性であり、糖質などの再生可能な資源から得られるため、興味深い。従って、STPPおよびEDTAの代替封鎖剤としてのヒドロキシカルボン酸塩の使用は、特に、化合物が環境中に廃棄され得る用途において好都合である。
【0006】
腐食抑制剤および封鎖剤として従来、使用されている多くの化学物質化合物は、リン系のものである。環境規制により、物質が地表水中に廃棄される用途におけるリン化合物の使用は、制限され続けている。このような規制は、さまざまな用途での腐食抑制剤としての使用のために環境的に受容可能な物質の必要性を引き起こしている。具体的な必要な分野の一例は、金属イオン、特に、カルシウムおよびマグネシウムなどの、水道水中または新たな地下水の形成において一般的に見られ、スケールをもたらし得る金属イオンを封鎖することもできる腐食抑制剤を軸とするものである。特に、腐食の抑制とスケールの抑制の両方が可能な薬剤は、洗剤のビルダーとして、または工業用の冷却塔やボイラーシステムに使用された水を処理するための添加剤として有用であり得る。
【0007】
封鎖剤としての機能を果たす腐食抑制剤が有用な用途の一例は、洗剤配合物における適用である。洗剤は、主に、界面活性剤、ビルダー、漂白剤、酵素、および充填剤で構成された洗浄混合物である。主要成分の2つは界面活性剤とビルダーである。界面活性剤は、油分や油汚れの乳化を担い、一方、ビルダーは、界面活性剤の洗浄特性を拡張または改善するために添加される。ビルダーは、1種類の物質であってもよく物質の混合物であってもよく、一般的に多種類の機能を果たすものである。重要なビルダー機能は、硬水中の金属カチオン、典型的には、カルシウムやマグネシウムカチオンの封鎖である。ビルダーは、カルシウムやマグネシウムカチオンを封鎖し、該金属と界面活性剤間の水不溶性の塩(石鹸カス)の形成を抑制することにより、水軟化剤としての機能を果たす。また、洗濯用洗剤の場合、ビルダーにより、該カチオンの綿への結合(綿織物上に保持された泥汚れが主原因である。)の抑制が補助される。ビルダーの他の機能としては、洗剤液のアルカリ度の増大、界面活性剤ミセルの解膠、および腐食の抑制が挙げられる。
【0008】
市販の洗剤に使用された最初のビルダーは、リン酸塩およびリン酸塩誘導体であった。トリポリリン酸ナトリウム(STPP)は、一時期は、一般消費者用洗剤および工業用洗剤の両方において最も一般的なビルダーであった。また、リン酸塩ビルダーは、洗浄機や食器洗い機の金属表面用の腐食抑制剤としても宣伝されている。リン酸塩は、ここ40年の間で、主に、廃水および最終的に低酸素状態を生じさせる地表水中へのリン酸塩高含有廃水の廃棄に関する環境問題のため、徐々に洗剤から減らされてきている(Lowe,1978)。洗剤におけるリン酸塩の高性能の代替品が依然として求められている。
【0009】
封鎖剤としての機能を果たす腐食抑制剤の第2の適用分野は、工業用および業務用の冷却塔ならびにボイラーシステムで使用された工程用水の処理における適用である。冷却塔およびボイラーシステムに伴う主な問題の2つは、金属表面の腐食および該上面上への硬水スケールの堆積である。腐食によりシステム設備の寿命が短くなり、一方、スケール形成により金属表面全体における熱流効率が低下する。従来、リン酸塩およびホスホン酸塩が、水処理において腐食およびスケールの抑制剤として使用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2,529,178号明細書
【特許文献2】米国特許第2,529,177号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Mor,1971
【非特許文献2】Mor,1976
【非特許文献3】Wrubl,1984
【非特許文献4】Kuczynski,1979
【非特許文献5】Korzh,1981
【非特許文献6】Sukhotin,1982
【非特許文献7】Abdallah,1999
【非特許文献8】Mehltretter,1953
【非特許文献9】Abbadi,1999
【非特許文献10】Lowe,1978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
リン酸塩洗剤用ビルダーの場合と同様、水処理で使用されているリン系化学物質の代わりの代替使用が所望されている。従って、封鎖剤としての機能も果たすことができ、環境に対して有害とみなされてきたリン酸塩または化学物質が組み込まれていない腐食抑制剤を得る必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩および適切なオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩の混合物を含む金属用腐食抑制組成物を提供する。ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩は、一般的に、グルカル酸の塩、キシラル酸の塩、ガラクタル酸の塩またはこの組合せである。具体的には、グルカル酸の該少なくとも1種類の塩としては、グルカル酸二ナトリウム、グルカル酸カリウムナトリウム、グルカル酸二カリウム、グルカル酸亜鉛またはこの組合せが挙げられ得る。また、該組成物は、約50重量%から約99重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩および約1重量%から約50重量%のオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含むものであり得る。また、該組成物は、約70重量%から約90重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩および約10重量%から約30重量%のオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含むものであってもよい。さらに、該組成物は、約75重量%から約85重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩および約15重量%から約25重量%の適切なオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含むものであってもよい。
【0014】
ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩は、2種類以上のカルボン酸塩成分の組合せを含むものであってもよい。カルボン酸塩成分のうちの1種類としては、グルカル酸塩、例えば、グルカル酸二ナトリウム、グルカル酸カリウムナトリウム、グルカル酸二カリウム、グルカル酸二アンモニウム、およびグルカル酸亜鉛が挙げられ得る。グルカル酸塩成分は全組成物に約30重量%から約70重量%含まれ得る。さらに、グルカル酸塩成分は全組成物に約40重量%から約60重量%含まれ得る。
【0015】
さらに、ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩のカルボン酸塩成分のうちの1種類としては、キシラル酸塩、例えば、キシラル酸ナトリウム、キシラル酸二ナトリウム、キシラル酸カリウムナトリウム、キシラル酸二カリウム、キシラル酸二アンモニウム、およびキシラル酸亜鉛が挙げられ得る。キシラル酸塩成分は全組成物に約30重量%から約70重量%含まれ得る。さらに、キシラル酸塩成分は全組成物に約40重量%から約60重量%含まれ得る。
【0016】
さらに、ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩のカルボン酸塩成分のうちの1種類としては、ガラクタル酸塩、例えば、ガラクタル酸ナトリウム、ガラクタル酸二ナトリウム、ガラクタル酸カリウムナトリウム、ガラクタル酸二カリウム、ガラクタル酸二アンモニウム、およびガラクタル酸亜鉛が挙げられ得る。ガラクタル酸塩成分は全組成物に約30重量%から約70重量%含まれ得る。さらに、ガラクタル酸塩成分は全組成物に約40重量%から約60重量%含まれ得る。
【0017】
ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩に関して、該組成物は、約30重量%から約75重量%の少なくとも1種類のグルカル酸塩、約0重量%から約20重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約0重量%から約10重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約0重量%から約10重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約0重量%から10重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約0重量%から10重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含むものであり得る。または、該組成物は、約40重量%から約60重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約5重量%から約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約3重量%から約9重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約5重量%から約10重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩 約5重量%から10重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約1重量%から5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含むものであり得る。さらにまた別の択一例では、該組成物は、約45重量%から約55重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約10重量%から約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約4重量%から約6重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約5重量%から約7重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約5重量%から7重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約3重量%から5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含むものであり得る。さらにまた別の択一例では、該組成物は、約50重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約4重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約6重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約6重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含むものであり得る。
【0018】
択一的な一実施形態において、本発明は、約75重量%から約85重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩および約15%から約25%の適切なオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩の混合物を含む金属用腐食抑制組成物を含む。ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩は、約40重量%から約60重量%のグルカル酸の塩を含むものであり得る。さらに、グルカル酸の塩としては、グルカル酸二ナトリウム、グルカル酸カリウムナトリウム、グルカル酸二カリウム、グルカル酸二アンモニウム、グルカル酸亜鉛、およびこの組合せが挙げられ得る。
【0019】
または、さらに、ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩は、約30重量%から約70重量%のキシラル酸の塩を含むものであり得る。キシラル酸の塩としては、キシラル酸二ナトリウム、キシラル酸カリウムナトリウム、キシラル酸二カリウム、キシラル酸二アンモニウム、キシラル酸亜鉛、およびこの組合せが挙げられ得る。
【0020】
さらに、ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩は、約30重量%から約70重量%のガラクタル酸の塩を含むものであり得る。ガラクタル酸の塩としては、グルカル酸二ナトリウム、グルカル酸カリウムナトリウム、グルカル酸二カリウム、グルカル酸亜鉛、ガラクタル酸二アンモニウム、およびこの組合せが挙げられ得る。
【0021】
また、該組成物に使用されるヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩は、約30重量%から約75重量%の少なくとも1種類のグルカル酸塩、約0重量%から約20重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約0重量%から約10重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約0重量%から約10重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約0重量%から10重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約0重量%から10重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩の混合物を含むものであり得る。または、該組成物に使用されるヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩は、約40重量%から約60重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約5重量%から約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約3重量%から約9重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約5重量%から約10重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩 約5重量%から10重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約1重量%から5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩の混合物を含むものであり得る。さらにまた別の択一例では、該組成物に使用されるヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩は、約45重量%から約55重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約10重量%から約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約4重量%から約6重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約5重量%から約7重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約5重量%から7重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約3重量%から5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩の混合物を含むものであり得る。さらにまた別の択一例では、ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩は、約50重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約4重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約6重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約6重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩の混合物を含むものであり得る。
【0022】
オキソ酸アニオンの好適な塩としては、ナトリウムおよびカリウムの塩であるホウ酸塩、アルミン酸塩、スズ酸塩、ゲルマニウム酸塩、モリブデン酸塩、アンチモン酸塩およびこの組合せが挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において、ヒドロキシカルボン酸塩とオキソ酸アニオンの適切な塩の混合物を含む新規な腐食抑制剤を説明する。ヒドロキシカルボン酸は、1個以上のヒドロキシル基ならびに1つ以上のカルボン酸官能部を含む混合物である。このような化合物のヒドロキシル基は、水中でオキソ酸アニオンの適切な塩と結合するとエステルを形成し得るものである。また、このようなヒドロキシカルボン酸のオキソ酸アニオンエステルは、典型的には多くの金属イオンと水に不溶性の塩を形成するヒドロキシカルボン酸単独とは対照的に、カルシウムおよびマグネシウムなどの金属イオンと安定な水溶性の錯体を形成することが示されている。従って、本発明の腐食抑制特性と封鎖特性の組合せにより、オキソ酸アニオン塩とヒドロキシカルボン酸塩の混合物は、スケール抑制剤および洗剤用ビルダー用として魅力的となっている。
【0024】
本明細書で用いる場合、用語「ヒドロキシカルボン酸」は、糖質または他のポリオールの任意の酸化誘導体であると一般的にみなされ得るものである。ポリオールという用語は、一般的に、2個以上のアルコール性ヒドロキシル基を有する任意の有機化合物と定義する。酸化に好適な糖質またはポリオールとしては:単純なアルドースおよびケトース(グルコース、キシロースまたはフルクトースなど);単純なポリオール(グリセロール、ソルビトールまたはマンニトールなど);還元二糖(マルトース、ラクトース、またはセロビオースなど);還元オリゴ糖(マルトトリオース、マルトテトロース、またはマルトテトラロースなど);非還元糖質(スクロース、トレハロースおよびスタキオースなど);単糖類とオリゴ糖(これには二糖が包含され得る。)の混合物;種々のデキストロース当量値を有するグルコースシロップ;多糖類(限定されないが、デンプン、セルロース、アラビノガラクタン、キシラン、マンナン、フルクタン、ヘミセルロースなど);上記の糖質またはポリオールの1種類以上を含む糖質と他のポリオールの混合物が挙げられる。当業者には、2個以上のカルボン酸基を有する化合物は、カルボン酸基を1個だけしか含まないものよりも腐食抑制剤としてより良好な性能を発揮する傾向にあることは認識されよう。本発明において使用され得るヒドロキシカルボン酸の具体例としては、限定されないが、グルカル酸、キシラル酸、ガラクタル酸、グルコン酸、酒石酸、タルトロン酸、グリコール酸、グリセリン酸、およびこの組合せが挙げられる。一実施形態において、ヒドロキシカルボン酸としては、グルカル酸、キシラル酸、およびガラクタル酸が挙げられる。さらに、当業者には、本発明のヒドロキシカルボン酸には、ヒドロキシカルボン酸の考えられ得るあらゆる立体異性体、例えば、ジアステレオマーおよびエナンチオマーの実質的に純粋な形態ならびに任意の混合比のもの(例えば、ラセミ化合物)が包含されていることは認識されよう。
【0025】
一般に、本発明の組成物は、約1重量%から約99重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩と約1重量%から約99重量%の適切なオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含むものである。一実施形態において、該組成物は、約50重量%から約99重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩および約1重量%から約99重量%のオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含むものである。さらなる一実施形態では、該組成物は、約60重量%から約95重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩と約5重量%から約40重量%のオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含むものである。さらに別の実施形態では、該組成物は、約70重量%から約90重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩および約10重量%から約30重量%のオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含むものである。またさらなる実施形態では、該組成物は、約75重量%から約85重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩および約15重量%から約25重量%のオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含むものである。また別の実施形態では、該組成物は、約80重量%のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩と約20重量%のオキソ酸アニオンの少なくとも1種類の塩を含むものである。本明細書に記載の濃度は、ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩成分を構成しているすべてのカルボン酸塩の累積濃度を示していること、および単一のカルボン酸塩(ヒドロキシカルボン酸塩成分が2種類以上のカルボン酸塩で構成されている場合)が構成し得る濃度は該記載の濃度より少ないことに注意されたい。
【0026】
本発明の腐食抑制組成物は、本明細書において論考しているヒドロキシカルボン酸の塩形態を含むものである。当業者には、塩は、一般的に、酸と塩基の中和反応によって生じる化合物であることは認識されよう。糖質または他のポリオールの任意の酸化誘導体がこの塩形態で本発明に組み込まれ得る。ヒドロキシカルボン酸塩の非限定的な例としては、グルカル酸二ナトリウム、グルカル酸カリウムナトリウム、グルカル酸二カリウム、グルカル酸二リチウム、グルカル酸ナトリウムリチウム、グルカル酸カリウムリチウム、グルカル酸亜鉛、グルカル酸二アンモニウム、キシラル酸二ナトリウム、キシラル酸カリウムナトリウム、キシラル酸二カリウム、キシラル酸二リチウム、キシラル酸ナトリウムリチウム、キシラル酸カリウムリチウム、キシラル酸亜鉛、キシラル酸グルコン酸アンモニウムナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸リチウム、グルコン酸亜鉛、グルコン酸アンモニウム、ガラクタル酸二ナトリウム、ガラクタル酸カリウムナトリウム、ガラクタル酸二カリウム、ガラクタル酸二リチウム、ガラクタル酸ナトリウムリチウム、ガラクタル酸カリウムリチウム、ガラクタル酸亜鉛、ガラクタル酸二アンモニウム、酒石酸二ナトリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酒石酸二カリウム、酒石酸二リチウム、酒石酸ナトリウムリチウム、酒石酸カリウムリチウム、酒石酸亜鉛、酒石酸二アンモニウム、タルトロン酸二ナトリウム、タルトロン酸カリウムナトリウム、タルトロン酸二カリウム、タルトロン酸二リチウム、タルトロン酸ナトリウムリチウム、タルトロン酸カリウムリチウム、タルトロン酸亜鉛、タルトロン酸二アンモニウム、グリコール酸ナトリウム、グリコール酸カリウム、グリコール酸リチウム、グリコール酸亜鉛、グリコール酸アンモニウム、グリセリン酸ナトリウム、グリセリン酸カリウム、グリセリン酸リチウム、グリセリン酸亜鉛、グリセリン酸アンモニウム、およびこの組合せが挙げられる。別の実施形態では、ヒドロキシカルボン酸としては、限定されないが、グルカル酸二ナトリウム、グルカル酸カリウムナトリウム、グルカル酸二カリウム、グルカル酸亜鉛、キシラル酸二ナトリウム、キシラル酸カリウムナトリウム、キシラル酸二カリウム、キシラル酸亜鉛、ガラクタル酸二ナトリウム、ガラクタル酸カリウムナトリウム、ガラクタル酸二カリウム、ガラクタル酸亜鉛、キシラル酸二アンモニウム、およびこの組合せが挙げられ得る。
【0027】
一態様において、ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩に関して、本発明の腐食抑制組成物は、約30重量%から約75重量%の少なくとも1種類のグルカル酸塩、約0重量%から約20重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約0重量%から約10重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約0重量%から約10重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約0重量%から10重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約0重量%から10重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含むものである。または、該組成物は、約40重量%から約60重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約5重量%から約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約3重量%から約9重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約5重量%から約10重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩 約5重量%から10重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約1重量%から5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含むものである。さらにまた別の択一例では、該組成物は、約45重量%から約55重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約10重量%から約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約4重量%から約6重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約5重量%から約7重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約5重量%から7重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約3重量%から5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含むものである。さらにまた別の択一例では、該組成物は、約50重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約4重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約6重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約6重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩を含むものである。
【0028】
別の態様において、腐食抑制組成物中のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1種類の塩は、約30重量%から約75重量%の少なくとも1種類のグルカル酸塩、約0重量%から約20重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約0重量%から約10重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約0重量%から約10重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約0重量%から10重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約0重量%から10重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩の混合物を含むものである。または、ヒドロキシカルボン酸の該少なくとも1種類の塩は、約40重量%から約60重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約5重量%から約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約3重量%から約9重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約5重量%から約10重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩 約5重量%から10重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約1重量%から5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩の混合物を含むものである。さらにまた別の択一例では、ヒドロキシカルボン酸の該少なくとも1種類の塩は、約45重量%から約55重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約10重量%から約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約4重量%から約6重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約5重量%から約7重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約5重量%から7重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約3重量%から5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩の混合物を含むものである。さらにまた別の択一例では、さらにまた別の択一例では、ヒドロキシカルボン酸の該少なくとも1種類の塩は、約50重量%の少なくとも1種類の該グルカル酸塩、約15重量%の少なくとも1種類のグルコン酸塩、約4重量%の少なくとも1種類の5−ケト−グルコン酸塩、約6重量%の少なくとも1種類の酒石酸塩、約6重量%の少なくとも1種類のタルトロン酸塩、および約5重量%の少なくとも1種類のグリコール酸塩の混合物を含むものである。
【0029】
本発明のヒドロキシカルボン酸は、現在当該技術分野で知られている任意の方法に従って製造され得る。一般的なヒドロキシカルボン酸またはこの塩の現在使用されている商業的調製方法は、例えば、酒石酸(米国特許第2,314,831号明細書)、グルコン酸(米国特許第5,017,485号明細書)、およびクエン酸(米国特許第3,652,396号明細書)の製造の場合のような、主に生物学的誘導型変換または発酵である。化学的な酸化方法も存在しているが、商業的生産において普及するに至っていない。ポリオール供給原料に好適な化学的酸化方法の一例としては、金属触媒上での酸素による酸化(米国特許第2,472,168号明細書)およびアミノキシル基(TEMPOなど)を用いた塩素または臭素による酸化(米国特許第6,498,269号明細書)が挙げられる。さらなる方法は、酸化剤として硝酸を水溶液中で使用するものであり、報告されている(Kiely,米国特許第7,692,041号明細書)。当業者には、本明細書に記載の任意の方法ならびに該方法の任意の組合せを用いてヒドロキシカルボン酸が得られ得ることは認識されよう。
【0030】
さまざまな供給原料(例えば、グルコース)の酸化では、一般的に、グルコン酸、グルカル酸、酒石酸、タルトロン酸、およびグリコール酸(すべて、ヒドロキシカルボン酸であり、本発明の範囲に含まれる。)を含む酸化生成物の混合物が得られる。驚くべきことに、本明細書において論考しているヒドロキシカルボン酸の塩とホウ酸の塩との組合せにより、ヒドロキシカルボン酸塩単独の組合せの使用と同様の腐食抑制特性がもたらされる。ヒドロキシカルボン酸の潜在的腐食抑制剤としての使用はこれまでに論考されていた(米国特許出願公開第2009/0250653号明細書参照)が;ヒドロキシカルボン酸塩とオキソ酸アニオン(ボラートなど)の併用は、オキソ酸アニオン(ボラートなど)は、実施例3および4で行った腐食試験によって示されるように金属に対して潜在的に腐食性であるという事実のため、以前には想定されていなかったことがわかった。具体的には、多種類(または混合物)ヒドロキシカルボン酸塩とホウ酸塩の混合物生成物は、ホウ酸塩を伴う純粋なグルカル酸塩に匹敵する性能を発揮した(実施例1,表1参照)。さらにより驚くべきことは、ホウ酸塩を有する酸化生成物は、ホウ酸塩なしの酸化生成物またはホウ酸塩なしの純粋なグルカル酸塩に匹敵する性能を発揮するということであった。このような所見は、ホウ酸塩自体が水よりも腐食性であるため、およびホウ酸塩と合わせた場合は単独で試験する場合よりも試験液中のヒドロキシカルボン酸塩の全濃度が低くなるため(どちらの場合も、試験液中の抑制剤の総濃度は0.09%である。)、予期しないことであった。
【0031】
また、本発明により、腐食抑制剤としての有効性を含めることなくヒドロキシカルボン酸塩の混合物から一部のグルカル酸塩が除かれ得るという事実のため、効率の改善がもたらされる。当業者には、グルカル酸塩が除去可能であることにより、製品の費用対効果が改善され、製造過程の効率を大きくすることが可能であることは認識されよう。
【0032】
また、多種類のヒドロキシカルボン酸塩を有する混合物を含むものである本発明の組成物を、カルシウムの封鎖剤として評価した(実施例9,表4参照)。純粋なグルカル酸塩の場合に見られるように、混合物単独は不充分な封鎖剤であることが示された。しかしながら、ホウ酸塩と併せると、封鎖能が有意に改善された。従って、本発明の組成物により、腐食抑制ならびに封鎖特性の両方がもたらされる。
【0033】
本発明の化合物および方法は、以下の実施例を参照することによって、より良好に理解されよう。実施例は、本発明の実例を意図し、本発明の範囲に対する限定を意図するものでない。各実施例は、種々の中間化合物の少なくとも1つの調製方法を例示し、さらに、全過程で使用される各中間体を例示したものである。実施例は、一部の特定の好ましい実施形態であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。一方、本発明は、特許請求の範囲に含まれ得るあらゆる代替、改変および均等物ならびに日常の実験法を包含している。
【実施例】
【0034】
実施例I
腐食抑制剤の試験液の調製
腐食試験は、試験液中に浸漬させた鋼製クーポンを用いて、以下に記載のようにして行った。試験液は脱イオン水を用いて調製した。被抑制試験液では、腐食抑制剤を、乾燥重量に対して0.09%濃度となるように添加した。ヒドロキシカルボン酸塩/オキソ酸アニオン塩腐食抑制剤を、異なる適切なオキソ酸アニオン塩/ヒドロキシカルボン酸塩重量比で含む溶液を調製した。
【0035】
実施例2
腐食試験方法
腐食抑制剤としての化合物および化合物混合物を、米国防蝕技術協会(National Association of Corrosion Engineers)(NACE)Standard TM0169−95実験用浸漬試験の変形型を用いて水溶液中で評価した。各溶液の調製のため、および対照標準として蒸留水を使用した。各腐食抑制剤混合物の有効性は、蒸留水中および3%塩化ナトリウム(NaCl)溶液中の両方において測定した。腐食抑制を塩溶液中において測定する際は、蒸留水(300g)中3%のNaClの溶液を塩参照として使用した。各試験液は、腐食抑制剤(270mg)を300mLの蒸留水または3%NaCl溶液のいずれかに溶解させて0.09%抑制剤溶液を得ることにより調製した。次いで、抑制剤試験液のpHを5%水酸化ナトリウムの添加によって塩基性(pH9から10)にした。
【0036】
ASTM F436 Type 1の要件を満たし、ロックウェル硬度C38から45を有する番号付けされたスタンピング加工鋼製TSIクーポンを腐食試験に使用した。平均クーポン寸法は、外径3.50cm、内径1.52cm、および厚さ0.25cmであり、密度は7.85g/cm’であった。試験前、クーポンを、振動タンブラー上の密封容器内に、非研磨性クレンザーとともに30分間入れて表面油汚れおよび不純物を除去し、次いで、アセトンで拭いてさらなる油汚れを除去し、脱イオン水ですすぎ洗浄し、18.5%HCl溶液を用いておよそ3分間、酸エッチングした。クーポンを脱イオン水ですすぎ洗浄し、パットドライし、クロロホルム中に15分間入れ、次いで通風フード内で1時間風乾させた。各クーポンを0.1mg単位まで(nearest)少なくとも2回重量測定して定重量を確定した。3つの洗浄/重量測定済みクーポンを、ストッパー付き500mL容三角フラスコ内に懸濁させたプラスチック棒に、ストッパーを貫通する孔に通した細線によって取り付けた。時限デバイスによって試験クーポンを、72時間の期間中、1時間あたり10分間、クーポンが試験液中に浸漬しているように上下させた。試験は室温で行った。
【0037】
72時間の試験期間後、クーポンを溶液中から取り出し、水道水下ですすぎ洗浄し、激しく擦って表面腐食物質を除去した。次いで、クーポンを、5%塩化第一スズと2%塩化アンチモンを含有する濃塩酸の洗浄溶液中に入れた。
【0038】
15分後、クーポンをこの酸溶液から取り出し、水道水下で激しくすすぎ洗浄し、さらに15分間、洗浄溶液に戻した。クーポンを再度、この酸溶液から取り出し、水道水下ですすぎ洗浄し、脱イオン水下ですすぎ洗浄し、パットドライし、クロロホルムを内包する槽内に10分間入れた。クーポンをクロロホルム中から取り出し、通風フード下で1時間風乾させた後、0.1mg単位まで重量測定した。各クーポンは2回重量測定し、重量を平均した。腐食速度(単位:ミル/年(MPY))を、各クーポンの測定された重量減少量から下記の方程式:
【0039】
【数1】
金属密度=7.85g/cm
時間=72時間
を用いて計算した。
【0040】
試験液中の3つの各クーポンのMPY値を平均し、全試験液のMPY値を求めた。また、蒸留H2O対照溶液の平均腐食速度も計算し、各試料液のMPY値から差し引いて補正MPY値を得た。これをMPYと記載する。
【0041】
実施例3
水中でのヒドロキシカルボン酸塩とオキソ酸アニオン塩の混合物の腐食抑制
ヒドロキシカルボン酸塩とオキソ酸アニオン塩の混合物の有効性を蒸留水中において試験し、結果を、オキソ酸アニオン塩なしのヒドロキシカルボン酸塩と比較した(表1)。腐食抑制剤試験液は、ホウ酸とD−グルカル酸一カリウム(MKG)を用いて調製し、試験液のpHを水酸化ナトリウムで塩基性にした。ホウ酸ナトリウムは、ホウ酸を水酸化ナトリウムでpH9に中和することにより調製した。すべての場合において、試験液中の腐食抑制剤の総濃度は0.09%とした。
【0042】
【表1】
【0043】
ホウ酸ナトリウムは有効な腐食抑制剤ではなく、蒸留水よりも高いMPY腐食速度を有し、従って、ゼロより大きい補正MPY速度が得られる。中和MKGは有効な腐食抑制剤であり、ゼロより小さいMPY値を有する。驚くべき結果は、混合物中のグルカル酸塩の量が100%未満でありホウ酸塩が水よりも腐食性であることにもかかわらず、グルカル酸塩とホウ酸塩の組合せが有効な腐食抑制剤としての機能も果たし、負のMPY値が得られるということであった。80%中和MKG/20%ホウ酸の場合、腐食抑制有効性は中和MKG単独と同等である。
【0044】
実施例4
3%塩化ナトリウム中でのヒドロキシカルボン酸塩とオキソ酸アニオン塩の混合物の腐食抑制
ヒドロキシカルボン酸塩とオキソ酸アニオン塩の混合物の有効性を3%塩化ナトリウム中において試験し、結果を、オキソ酸アニオン塩なしのヒドロキシカルボン酸塩と比較した(表2)。腐食抑制剤試験液は、ホウ砂(ホウ酸ナトリウム)、モリブデン酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウムまたはこの混合物をオキソ酸アニオン塩成分として用い、D−グルカル酸一カリウム(MKG)、グルカル酸亜鉛、グルコン酸ナトリウム、キシラル酸またはガラクタル酸をヒドロキシカルボン酸塩成分として用いて調製した。各場合において、試験液のpHを水酸化ナトリウムを用いて塩基性にし、試験液中の腐食抑制剤の総濃度は0.09%とした。
【0045】
【表2】
【0046】
表2においてわかるように、ホウ酸ナトリウムは、塩化ナトリウム中において有効な腐食抑制剤ではなく、実際には3%塩化ナトリウム単独よりも腐食性である。ホウ酸ナトリウムと種々のヒドロキシカルボン酸塩の混合物ではすべて、ヒドロキシカルボン酸塩単独と比べてわずかに高いが同等の腐食速度が示される。この場合も、驚くべき結果は、ヒドロキシカルボン酸塩とホウ酸塩の混合物が、少ないヒドロキシカルボン酸塩を含有しておりホウ酸塩が腐食性薬剤であることにもかかわらず、有効な腐食抑制剤としても機能も果たすことであった。ヒドロキシカルボン酸塩とホウ酸塩の混合物は、ヒドロキシカルボン酸塩単独と比較すると、ずっと高いカルシウム封鎖特性がもたらされるという付加的有益性を有する(表4)。また、表2の結果は、グルカル酸亜鉛がホウ酸ナトリウムと併用して腐食抑制剤として使用されることを示す。亜鉛塩は既知の腐食抑制剤である;しかしながら、グルカル酸亜鉛は水溶性が低いため、この使用は限定的である。ホウ酸塩を添加することによりグルカル酸亜鉛の水溶性が増大し、従って、該混合物の腐食抑制特性が改善される。
【0047】
アルミン酸ナトリウム単独は腐食抑制剤であり、グルカル酸塩との混合物でも腐食抑制特性が示される。しかしながら、混合物は、グルカル酸塩またはアルミン酸塩いずれか単独と比べて、カルシウム封鎖剤としての性能が高いという付加的利点を有する(表4)。
【0048】
実施例5
グルカル酸塩混合物1の調製
グルカル酸塩混合物1を、米国特許第7,692,041号明細書に記載のグルコースの硝酸酸化によって調製した。酸化混合物から硝酸を除去した後、有機酸生成物を水酸化ナトリウムを用いて中和し、グルカル酸塩混合物1を得た。グルカル酸塩混合物1中のグルカル酸、グルコン酸および酒石酸のナトリウム塩の量を表3に示す。
【0049】
実施例6
グルカル酸塩混合物2の調製
米国特許第7,692,041号明細書に記載のようにしてデキストロースを酸化させ、硝酸を分離した。得られた酸化生成物混合物を、水性水酸化カリウムを用いてpH3.5に中和すると析出物が生成した。この固形析出物を濾過によって単離し、濾液を水性水酸化ナトリウムを用いてpH9に中和し、グルカル酸塩混合物2を得た。グルカル酸塩混合物2中のグルカル酸、グルコン酸および酒石酸のナトリウム塩の量を表3に示す。
【0050】
実施例7
グルカル酸塩混合物3の調製
グルコン酸ナトリウム(0.27g)をグルカル酸塩混合物2(10.1g,20%w/w)に添加し、グルカル酸塩混合物3を得た。グルカル酸塩混合物3中のグルカル酸、グルコン酸および酒石酸のナトリウム塩の量を表3に示す。
【0051】
実施例8
多種類のヒドロキシカルボン酸塩とオキソ酸アニオン塩の混合物の腐食抑制
多種類のヒドロキシカルボン酸塩とオキソ酸アニオン塩の混合物の有効性を蒸留水中および3%塩化ナトリウム中において試験し、結果を、オキソ酸アニオン塩なしの多種類のヒドロキシカルボン酸塩の混合物と比較した(表3)。腐食抑制剤試験液は、ホウ砂(ホウ酸ナトリウム)またはアルミン酸ナトリウムのいずれかをオキソ酸アニオン塩成分として用い、グルカル酸塩混合物1から4(実施例5から7参照)をヒドロキシカルボン酸塩成分として用いて調製した。各場合において、試験液を水酸化ナトリウムで塩基性にし、試験液中の腐食抑制剤の総濃度は0.09%とした。
【0052】
【表3】
【0053】
表5の結果は、グルカル酸塩、グルコン酸塩および酒石酸塩を腐食抑制剤として含むヒドロキシカルボン酸塩の混合物の有効性を示す。また、この結果は、溶液中でのグルカル酸塩、グルコン酸塩および酒石酸塩とホウ酸塩との相乗的関係を示す。一般に、高レベルのグルカル酸塩を有する混合物は、グルカル酸塩が少ないものより性能が良好である;しかしながら、グルカル酸塩混合物1では、塩化ナトリウム溶液中において、純粋なグルカル酸塩溶液と比べて改善された腐食抑制が示された(表2)。さらに、全溶液での腐食結果は純粋なグルカル酸塩溶液で得られるものと類似しており、一部のグルカル酸塩をグルコン酸塩や酒石酸塩などの他のヒドロキシカルボン酸塩で置き換えることにより、純粋なグルカル酸塩を含む腐食抑制溶液の有用な代替品が得られることを示す。ホウ酸塩が組み込まれた溶液であっても、腐食抑制に対して同様の有効性が示され、これは、ホウ酸塩が腐食性であることが知られており、これらの混合物中のグルカル酸塩レベルが低いことを考慮すると驚くべきことであった。
【0054】
実施例9
カルシウム封鎖能
種々の化合物および混合物のカルシウムキレート能を、確立された手順(Wilham,1971)によって測定した。簡単には、封鎖剤(乾燥重量にして1.0g)を脱イオン水に溶解させ、50mLまで希釈した。この溶液のpHを45%水性水酸化ナトリウムを用いて10に調整した後、2%水性シュウ酸ナトリウム(2mL)を添加した。試験液を1%水性酢酸カルシウムで、わずかに混濁するまで滴定した。1mLの1%酢酸カルシウムは6.32mgのCaCOに相当する。封鎖試験の結果を表4に示す。表4の結果から、ヒドロキシカルボン酸塩単独は、封鎖剤1gあたりのCaCOのmgの値が小さいことを考慮するとカルシウムに対して不充分な封鎖剤である;しかしながら、ホウ酸ナトリウムなどの適切なオキソ酸アニオン塩の添加により、封鎖能が大きく改善されることが明白である。
【0055】
【表4】