特許第5968965号(P5968965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5968965くるま麩を使用したラスク状食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5968965
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】くるま麩を使用したラスク状食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 35/00 20160101AFI20160728BHJP
【FI】
   A23L35/00
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-180758(P2014-180758)
(22)【出願日】2014年9月5日
(65)【公開番号】特開2016-54650(P2016-54650A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2014年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】397040878
【氏名又は名称】株式会社船橋屋
(74)【代理人】
【識別番号】100074251
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100066223
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 政美
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 雅司
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 実用新案登録第3080128(JP,Y2)
【文献】 キティママ,車麩のラスク メープルシロップ味,Cookpad,Cookpad株式会社,2014年 7月23日,http://cookpad.com/recipe/598818
【文献】 真珠,”人工甘味料でない!天然のトレハロース”を使ったシュガーラスク,アメーバブログ,株式会社サイバーエージェント,2010年11月28日,http://ameblo.jp/shinjyu-dailynews/entry
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−17/00
A23G 3/00−3/50
A23L 5/00−5/49
A23L 35/00
Google
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量比30〜33%の水又は果実ピューレに、砂糖、グラニュー糖、黒糖、きび糖、トレハロースの各種糖分から選択した甘味成分を混合して50〜55度に加熱して甘味混合液を調製する工程と、
重量比15〜17%のバター状油脂固形物を30〜50度に溶かして甘味混合液に混合しシロップを生成する工程と、
該シロップの温度を30〜55度に維持してくるま麩の表面にシロップを含侵させる工程と、
該くるま麩を120〜140度の焼成温度で23〜28分焼成する工程とを備えたことを特徴とするくるま麩を使用したラスク状食品の製造方法。
【請求項2】
前記シロップを生成する工程において、前記甘味混合液に、重量比15〜17%のハイコンパウンドマーガリンを混合して生成する請求項1記載のくるま麩を使用したラスク状食品の製造方法
【請求項3】
前記くるま麩を焼成する工程において、前記シロップを含侵させた前記くるま麩の表面に砂糖をまぶして焼成する請求項1記載のくるま麩を使用したラスク状食品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラスクのような食感や味を備えたくるま麩を使用したラスク状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラスクとは、「二度焼きのパン」という意味の焼き菓子のことで、一般に薄く切ったパンの表面に砂糖を混合したシロップを塗り、オーブンで焼いたものである。このラスクは、二度焼きするために独特のカリッとした食感があり、保存性も高い食品として知られている。
【0003】
一方、我が国では、カリッとした食感を有する食材としてお麩が知られている。このお麩は、小麦粉のタンパク質成分であるグルテンに小麦粉を加えて加熱したもので、高たんぱく質で低カロリーの特性を有することから、現在では、ダイエット用の食材として注目されている。
【0004】
そこで、お麩を利用してラスクやフレンチトーストなどを模した食品が種々提案されている。いずれも、お麩をパンに見立てて調理するもので、お麩に含まれている植物性タンパク質の他、ミネラルやアミノ酸が豊富な食品を提供することができる。
【0005】
特許文献1に、製菓製パン用上掛け材及びその製造方法が提案されている。この上掛け材は、菓子やパン類に甘味を付与する上掛け材であり、時間の経過と共に上掛け材がべとつく性質を改善しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3661646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食パンの代わりにお麩を使用する場合、食パンより吸湿性が高く型崩れし易い特性と、お麩の特有成分であるグルテンの扱いが課題になっている。例えば、お麩を利用してフレンチトーストを調理する場合、食パンのように鶏卵や牛乳等の調味液を含侵させると、お麩が溶けて型崩れするおそれがある。そのため、フレンチトーストと同じ調理は困難になるので、例えば、先にお麩の両面をバターで焼いてから甘味シロップや粉砂糖を振り掛けることで、お麩の型崩れを防止しながら、しっとりとしたフレンチトーストの食感に変化させている。
【0008】
一方、お麩を利用してラスクを調理する場合、お麩の表面にシロップを含侵させた状態で焼成する工程がある。この調理工程はラスクの調理に必須の工程になるため、お麩に含侵するシロップが表面を溶かして型崩れするおそれがあった。しかも、お麩の中に含まれているグルテンにシロップが適度に混ざり合わないと、二度焼きした後に、カリッとした食感や適度な甘みを得ることは困難であった。
【0009】
また、従来では特許文献1のように、製菓製パンを対象とする上掛け材などの工夫はあっても、お麩を対象とするシロップを工夫したものはこれまで提案されていない。特に、お麩の中でもグルテンの量が多いくるま麩は、気泡のきめが細かく水分が染み込み易いので、シロップを含侵させた状態で型崩れを防止しながらカリッとした食感に焼き上げることは極めて難しい作業になっていた。そのため、このくるま麩を利用したラスクの調理は、調理者の経験と勘に頼らざるを得ず、これまで業務用として製造することは困難であった。
【0010】
そこで本発明は上述の課題を解消すべく創出されたもので、くるま麩の軽い食感とラスクのような食味を兼ね備えた食品の製造が可能になるくるま麩を使用したラスク状食品の製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成すべく本発明における第1の手段は、重量比30〜33%の水又は果実ピューレに、砂糖、グラニュー糖、黒糖、きび糖、トレハロースの各種糖分から選択した甘味成分を混合して50〜55度に加熱して甘味混合液を調製する工程と、重量比15〜17%のバター状油脂固形物を30〜50度に溶かして甘味混合液に混合しシロップを生成する工程と、該シロップの温度を30〜55度に維持してくるま麩の表面にシロップを含侵させる工程と、該くるま麩を120〜140度の焼成温度で23〜28分焼成する工程とを備えたことを備えた製造方法にある。
【0012】
第2の手段は、前記シロップを生成する工程において、前記甘味混合液に、重量比15〜17%のハイコンパウンドマーガリンを混合して生成することにある。
【0013】
第3の手段において、前記焼成する工程において、前記シロップを含侵させた前記くるま麩の表面に砂糖をまぶして焼成することにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1のごとく、シロップの温度を30〜55度に維持して表面に含侵させたくるま麩を焼成することによりくるま麩の軽い食感とラスクのような食味を兼ね備えたラスク状食品を得ることができる。
【0016】
すなわち、シロップの温度が30度以下になると、バター状油脂固形物の油性分が分離するため、くるま麩のグルテンに馴染まない。そのため、カリッとした食感やラスクのような食味を得ることはできなくなる。一方、シロップの温度が55度を超えると、シロップの糖分が強くなり、くるま麩の表面が溶けて型崩れが生じ易くなると共に、食味も落ちるものである。
【0017】
請求項2のような成分のシロップを生成することで、くるま麩のグルテンに馴染み易い甘味成分が得られるものである。
【0018】
請求項3のごとく、シロップを含侵させた表面に砂糖をまぶして焼成したくるま麩によると、よりラスクに似た食味を得ることができる。
【0019】
のような製造方法により、調理者の経験と勘に頼らなくてもラスク状食品の製造が可能になり、業務用としてラスク状食品を製造することに成功した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明によると、くるま麩の軽い食感とラスクのような食味を兼ね備えた食品の製造が可能になるといった当初の目的を達成した。
【0021】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明ラスク状食品は、甘味混合液とバター状油脂固形物にて生成されたシロップをくるま麩の表面に含侵させた状態でくるま麩を焼成して得られるものである。
【0022】
すなわち、甘味混合液として甘味成分を混合した水分を50〜55度に加熱する。この甘味成分は、砂糖、グラニュー糖、黒糖、きび糖、トレハロース等の各種糖分から選択する。
【0023】
次に、バター状油脂固形物を30〜50度で溶かしたものを甘味混合液に混合してシロップを生成する。バター状油脂固形物とは、バターやマーガリンを示すもので、バターとマーガリンの混合物を選択することも可能である。
【0024】
そして、シロップの温度を30〜55度に維持しながらくるま麩の表面にシロップを含侵させる。更に、このシロップを含侵したくるま麩を焼成することでラスク状食品が得られるものである。このとき、よりラスクに似た食味を得る場合、シロップを含侵したくるま麩の表面に、更に砂糖をまぶして焼成する。また、砂糖をまぶした後に塩を振って焼成すると独特の食味が得られる。
【0025】
本発明の製造方法は次の通りである。
第1の工程は、甘味成分を混合した水分を50〜55度に加熱して甘味混合液を調製する工程である。このとき、水分として通常の水を選択する他、果実ピューレを水分として使用することも可能である。また、甘味成分とは、砂糖、グラニュー糖、黒糖、きび糖、トレハロース等の各種糖分から選択する。
【0026】
第2の工程は、50〜55度に調整した甘味混合液に、30〜50度に溶かしたバター状油脂固形物を混合してシロップを生成する工程である。この工程ではハンドブレンダーにて混ぜ合わせ、バター状油脂固形物を乳化させる。
【0027】
バター状油脂固形物とは、バターやマーガリン又はこれらの混合物から選択する。この際、バター状油脂固形物としてハイコンパウンドマーガリンを選択すると、焼き上がりの香りが良好で、しかも植物性脂肪のため、健康食品として適した食品になる。
【0028】
この工程で好ましいシロップの成分は、重量比30〜33%の水分に、重量比15〜17%のトレハロースと重量比25〜27%のグラニュー糖を混合して甘味混合液を調製し、更に重量比15〜17%のハイコンパウンドマーガリンを混合したものである。また、これらの成分や配合量は好みに応じて任意に変更することも可能である。
【0029】
第3の工程は、30〜55度のシロップでくるま麩にトランペを行い、くるま麩の表面にシロップを含侵させる工程である。この工程では、シロップの温度を30〜55度に保つことが重要である。すなわち、シロップを生成した時点で、シロップの温度は30〜55度の温度になっているので、このシロップの温度が冷めない間にくるま麩の表面に含侵させることが必要である。
【0030】
第4の工程は、表面にシロップを含侵させたくるま麩を120〜140度の焼成温度で23〜28分焼成する工程である。この温度と焼成時間によりラスク状食品が完成する。この工程において、くるま麩の表面に砂糖をまぶしてから焼成し、あるいは砂糖をまぶした後に塩を振って焼成する選択が可能である。
【0031】
以下、次の成分によりシロップ調整し、このシロップを含侵させたくるま麩を焼成して本発明ラスク状食品を得た。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
水50g、トレハロース25g、グラニュー糖40g、ハイコンパウンドマーガリン35gでシロップを調製した。このシロップを含侵させたくるま麩を焼成する際に、グラニュー糖(適量)と塩(適量)をまぶしてから焼成した。
【0033】
<実施例2>
水50g、トレハロース20g、黒糖ペースト(ナリヅカジュペ黒糖)5g、グラニュー糖35g、ハイコンパウンドマーガリン35gでシロップを調製した。このシロップを含侵させたくるま麩を焼成する際に、黒糖(適量)をまぶしてから焼成した。
【0034】
<実施例3>
パイナップルピューレ50g、トレハロース25g、グラニュー糖40g、ハイコンパウンドマーガリン35g、パイナップルフレーバー1gでシロップを調製した。このシロップを含侵させたくるま麩を焼成する際に、グラニュー糖(適量)をまぶしてから焼成した。
【0035】
<実施例4>
水50g、トレハロース20g、黒糖ペースト(ナリヅカジュペ黒糖)5g、グラニュー糖35g、ハイコンパウンドマーガリン35gでシロップを調製した。このシロップを含侵させたくるま麩を焼成する際に、きび糖(適量)をまぶしてから焼成した。
【0036】
<実施例5>
マンゴーピューレ50g、トレハロース25g、グラニュー糖40g、ハイコンパウンドマーガリン35g、マンゴーフレーバー1gでシロップを調製した。このシロップを含侵させたくるま麩を焼成する際に、グラニュー糖(適量)をまぶしてから焼成した。
【0037】
<実施例6>
水50g、トレハロース20g、紅芋ペースト5g、グラニュー糖35g、ハイコンパウンドマーガリン35g、紅芋フレーバー1gでシロップを調製した。このシロップを含侵させたくるま麩を焼成する際に、グラニュー糖(適量)をまぶしてから焼成した。
【0038】
<実施例7>
水50g、トレハロース20g、ウコンパウダー5g、グラニュー糖40g、ハイコンパウンドマーガリン35gでシロップを調製した。このシロップを含侵させたくるま麩を焼成する際に、グラニュー糖(適量)をまぶしてから焼成した。
【0039】
これらの実施例により、ラスクのような食感や味を備えるだけでなく、これまでにない新しい食味を実現することができた。しかも、健康食品として注目されているくるま麩の利用範囲を拡大することができるなど産業上有益な種々の効果を奏するものである。