特許第5969010号(P5969010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969010
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】ブラシシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/22 20060101AFI20160728BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20160728BHJP
   F01D 11/00 20060101ALI20160728BHJP
   F02C 7/28 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   F16J15/22
   F01D25/00 M
   F01D11/00
   F02C7/28 B
   F02C7/28 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-510073(P2014-510073)
(86)(22)【出願日】2013年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2013055317
(87)【国際公開番号】WO2013153868
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2015年8月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-88000(P2012-88000)
(32)【優先日】2012年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀行
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−94803(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/94848(US,A1)
【文献】 特表2010−500916(JP,A)
【文献】 米国特許第5201530(US,A)
【文献】 国際公開第2011/018948(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2001/22431(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/53758(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/22
F01D 11/00
F01D 25/00
F02C 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隙を有して相対回動する静止部と回転部との間の前記静止部に取り付けられた複数のブリストルで形成されたブリストル部と、
前記ブリストル部の低圧側に隣接して取り付けられ、該ブリストル部の運動を制限する背板部と、が備えられ、前記静止部および前記回転部の間を流れる流体をシールするブラシシールであって、
前記複数のブリストルで形成されたブリストル部において、高圧側と低圧側との差圧方向に沿って配列される複数のブリストルが基端部と自由端部との間において相互に固着されて面状ブリストルに形成され、該面状ブリストルが周方向に積層状に連続して配列されて環状のブリストル部が形成され、
前記ブリストル部の自由端部側の摺動面には、円周溝が形成されていることを特徴とするブラシシール。
【請求項2】
前記円周溝は、高圧側と低圧側との差圧方向に沿って配列される複数のブリストルのうち自由端部側の高さの低いブリストルを高圧側及び低圧側に面しない内部側に配列した面状ブリストルが周方向に積層状に連続して配列されて形成されることを特徴とする請求項1記載のブラシシール。
【請求項3】
前記円周溝の周方向の途中にはダムが形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のブラシシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、航空機、ガスタービン及び蒸気タービン等の回転軸と相対移動する相手部品との間をシールするブラシシールに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの回転軸の軸周りには、例えば、高圧側から低圧側にガスが漏れるのを防止するシール機構が設けられている。
従来、このシール機構としては、非接触シールとしてのラビリンスシールが一般的に用いられているが、ラビリンスシールは、非接触であるため、シール性能の向上には限界がある。このため、シール性能を向上するためにブラシシールが用いられるようになってきている。
【0003】
ブラシシールは、複数のブリストルがリング状(ブラシシールブリストル)に形成され、このブラシシールブリストルの先端部が回転側に接触することによってシールするものである。
回転側、例えば、ガスタービンのロータは、運転に伴い遠心力と熱によって変形し、一方、静止側のハウジングも熱によって膨張するので、ブラシシールとロータとの距離が変動する。
この変動はブリストルの撓みによって吸収されているが、低圧側に撓むとシール性能が低下する恐れがあるので、ブラシシールブリストルの低圧側に背板を備え低圧側への撓みを防止している。また、ブリストルの撓みを許容するため、ブリストルの高圧側に空間を設けることが行われている(例えば、特許文献1第10頁図8〜10参照)。
【0004】
しかし、蒸気タービンなどの高圧部分に用いた場合、特に高圧側でブリストルをばたつかせ、ブリストルが折損する事態が発生する。
このように、ブリストルが折損すると、その部分がロータに接触しない状態となりブラシシールのシール性能が劣化する。
ブラシシールのシール性能が劣化すると、例えば、タービンの出力が低下するという問題がある。
【0005】
高圧側でのブリストルのばたつきを解消するものとして、ブラシシールブリストルの高圧側にも制動板を備え、ブラシシールブリストルの撓みを制限するとともに制動板に貫通孔を設けて乱流の発生を抑制し、特に高圧側のブリストルのばたつきを防止しようとするものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、特許文献2に示されるものは、ブラシシールブリストルが低圧側の背板および高圧側の制動板によってロータの近傍まで動きを強く規制されているので、ブラシシールブリストルの自由に撓める長さが短くなっている。
このため、ブラシシールブリストルの剛性が大きくなり、ロータへの接触圧力が大きくなるので、ブリストルおよびロータの定常状態での摩耗が大きくなるという問題があった。
【0006】
特許文献2に示されるものの問題を解決するものとして、ブリストル部の高圧側の制動板の代わりにブリストル部の接触変形を妨げない程度の弾性を有する抑制ブリストルを備えたものが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
この特許文献3に示されたブラシシールは、静止部と回転部との間隔の変動をブリストル部が撓むことで吸収するものであって、ブリストル部は、低圧側の背板によって運動を制限されているので、抑制ブリストルの方向に撓むことになるが、抑制ブリストルはブリストル部の接触変形を妨げない程度の弾性を有しているので、抑制ブリストルが弾性変形してこのブリストル部の撓みを吸収し、静止部と回転部との間隔の変動に対応して接触摩擦力を増加させることがなく、定常的な摩耗の増加を防止することができるというものである。
【0007】
しかしながら、特許文献3に示されたブラシシールでは、ブリストル部の高圧側に、ワイヤ(ブリストル)を束ねて形成された抑制ブリストルを配設する必要があり、製造コストが嵩むという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−14128号公報(第10頁、図8
【特許文献2】特開2001−73708号公報
【特許文献3】特開2008−121512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決するためになされたものであって、簡単な構成でもって、ブリストルの高圧側と低圧側との差圧方向の剛性を高めるとともに、差圧方向と直交する方向の剛性を低くしてブリストルの摩耗を低減し、かつ被密封流体の漏洩を低減するようにしたブラシシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために本発明のブラシシールは、第1に、
間隙を有して相対回動する静止部と回転部との間の前記静止部に取り付けられた複数のブリストルで形成されたブリストル部と、
前記ブリストル部の低圧側に隣接して取り付けられ、該ブリストル部の運動を制限する背板部と、が備えられ、前記静止部および前記回転部の間を流れる流体をシールするブラシシールであって、
前記複数のブリストルで形成されたブリストル部において、高圧側と低圧側との差圧方向に沿って配列される複数のブリストルが基端部と自由端部との間において相互に固着されて面状ブリストルに形成され、該面状ブリストルが周方向に積層状に連続して配列されて環状のブリストル部が形成され、
前記ブリストル部の自由端部側の摺動面には、円周溝が形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、従来公知のブラシシールブリストルと比べて、高圧側と低圧側との差圧方向(ロータの軸方向)の剛性が高く、蒸気タービンなどの高圧機器に対しても適用可能となる。
また、ブリストルの先端の差圧方向と直交する方向(周方向)の自由度が確保されているので、差圧方向と直交する方向の剛性が低く、回転部の低速時における回転においてもその動圧で自由端部が回転部の外周面から浮上でき、摩耗が小さくなり、耐摩耗性を向上することができる。
さらに、回転部のコニカル振動(軸が傾いて動く振動)に対しても、ブリストルの先端が独立して動くことができるので、摩耗が小さくなり、耐摩耗性を向上することができる。
さらに、摺動面は円周溝が形成され、ラビリンスシールの構造をしているので、高圧側から低圧側に漏洩しようとする流体は、順次圧力降下を繰り返し、低圧となるため、高圧側から低圧側に漏洩する流体の量が抑制される。
【0011】
また、本発明のブラシシールは、第2に、第1の特徴において、
前記円周溝は、高圧側と低圧側との差圧方向に沿って配列される複数のブリストルのうち自由端部側の高さの低いブリストルを高圧側及び低圧側に面しない内部側に配列した面状ブリストルが周方向に積層状に連続して配列されて形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、円周溝を高さの違うブリストルの配列によって形成することができるので、円周溝の形成が容易となる。
【0012】
また、本発明のブラシシールは、第3に、第1又は第2の特徴において、
前記円周溝の周方向の途中にはダムが形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、回転部の回転に伴う旋回流による流体力が、ダムを形成するブリストルの側面に当たることによりブリストルの浮上力を発生し、ブリストルの摩耗量を一層低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は、従来公知のブラシシールブリストルと比べて、高圧側と低圧側との差圧方向(ロータの軸方向)の剛性が高く、蒸気タービンなどの高圧機器に対しても適用可能となる。
また、ブリストルの先端の差圧方向と直交する方向(周方向)の自由度が確保されているので、差圧方向と直交する方向の剛性が低く、回転部の低速時における回転においてもその動圧で自由端部が回転部の外周面から浮上でき、摩耗が小さくなり、耐摩耗性を向上することができる。
さらに、回転部のコニカル振動に対しても、ブリストルの先端が独立して動くことができるので、摩耗が小さくなり、耐摩耗性を向上することができる。
さらに、摺動面は円周溝が形成され、ラビリンスシールの構造をしているので、高圧側から低圧側に漏洩しようとする流体は、順次圧力降下を繰り返し、低圧となるため、高圧側から低圧側に漏洩する流体の量が抑制される。
さらに、回転部の回転に伴う旋回流による流体力が、ダムを形成するブリストルの側面に当たることによりブリストルの浮上力を発生し、ブリストルの摩耗量を一層低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るブラシシールの上半分を示す縦断面図である。
図2図1のブラシシールを高圧側からみた正面図である。
図3】本発明の実施形態に係るブリストル部の形成過程を説明する斜視図である。
図4】本発明の実施形態1に係るブリストル部の摺動面に設けられる円周溝を説明する斜視図である。
図5】本発明の実施形態2に係るブリストル部の摺動面に設けられる円周溝を説明する斜視図である。
図6図1の状態において回転部が偏心した場合のブラシシールの状態を高圧側からみた正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るブラシシールを実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係るブラシシールの上半分を示す縦断面図である。
【0017】
図1において、ブラシシール装置1はリング状に形成されて、外周側の固定部20は、構成部品の一方の部品であるケーシング50の内周面に設けられた段部51にスナップリング12を介して取り付けられている。
また、ブラシシール装置1の内周側は他方の部品であるロータ60の外周面と対向して接面又は近接した状態に配置されている。そして、ブラシシール装置1により高圧側の被密封流体の低圧側への漏洩が封止される。
尚、上記ケーシング50は本発明の静止部を、また、上記ロータ60は本発明の回転部を構成する。
【0018】
このブラシシール1装置の主要な構成部材であるブリストル部2の低圧側には、環状をした背板部3がブリストル部2と接触状態にして配置され、被密封流体の圧力の作用に対してブリストル部2を支持している。
また、ブリストル部2の高圧側の面には、保持部4がリング板に形成されて背板部3との間でブリストル部2の外周側の基端部6を狭持するごとく一体に配置されている。この保持部4は、被密封流体がブリストル部2の側面に作用できるように径方向の幅が狭くされてブリストル部2を露出させている。
そして、背板部3とブリストル部2の基端部6と保持部4とは、外周において溶接されて固定部20を構成し、ケーシング50の内周面に設けられた段部51に固定されている。
【0019】
ブリストル部2は、何万ないし何十万本のブリストル(剛毛)5が外周側から内周側に向けて配列されて形成されるものであって、高圧側と低圧側との差圧方向に所定の幅を形成するように複数本配列され、また、所定の幅を形成する複数本のブリストル5が周方向にも連続して配列されて環状に形成されるものである。
そして、ブリストル5の内周側の自由端部7は他方の部品であるロータ60の外周面と対向して接面又は近接した状態に配置されている。
【0020】
ブリストル5の線径は、一般に、0.02mmから0.5mmのものが用いられている。ブリストル5の材質は、鋼、ステンレス、ニッケル基の合金、コバルト耐熱合金等が用いられる。また、ブリストル5の断面形状は、円形以外に、楕円、三角形、四角形、その他、多角形でもよい。
【0021】
図2は、図1のブラシシールを高圧側からみた正面図である。
図2のブラシシール1は、ブラシシール1とロータ60とが揺動しない正常な状態を示しており、ブリストル5は、直線状をなしてロータ60の回転する方向へ傾斜して配列されている。このブラシシール1の正常な状態では、ブリストル5の自由端部7はロータ60の外周面に接面又は近接している。
【0022】
図3は、本発明の実施形態に係るブリストル部の形成過程を説明する斜視図であって、(a)(b)はブリストル部の摺動面に円周溝が設けられない場合を、(c)はブリストル部の摺動面に円周溝が設けられる場合を示している。
なお、図3の上方が回転部と摺動するブリストル部の自由端部側であり、下方が基端部側(静止部側)である。
【0023】
図3においては、説明の都合上、高圧側と低圧側との差圧方向に配列されるブリストルについて実際の本数より少ない本数が示されているが、実際には、所定の幅を形成するように何百本ものブリストルが配列されるものである。
【0024】
図3(a)に示すように、断面形状が円形で所定の長さを有する複数のブリストル5を準備する。次に、図3(b)に示すように、複数のブリストル5を、高圧側と低圧側との差圧方向に所定の幅を形成するように、かつ隣接するブリストル5が接触するようにして一列に配列する。そして、基端部6と自由端部7の間において隣接するブリストル5を溶接あるいは溶着などの手段により固着する。
【0025】
図3(b)では、固着部8は、基端部6と自由端部7の間において径方向の3箇所に設定されている。しかし、固着部8の径方向の数は、3箇所に限らず、少なくとも1箇所あるいはそれ以上であればよく、ブリストル部2に要求される剛性に応じて、その部位及び数が設定される。固着部8のうち、自由端部7に近接する固着部8の位置は、ブリストル5の自由端の剛性を決める上で重要である。
上記のように、径方向の中間位置にて相互に固着された複数のブリストル5は、図3(b)に示すように、面状に形成され、面状ブリストル10を形成する。
【0026】
図3(c)に示す面状ブリストル10では、所定の幅を形成する複数のブリストル5のうち、高圧側及び低圧側に面しない内部側に自由端部側の高さの低いブリストル50が配列されている。図3(c)では、高さの低いブリストル50が所定の幅にわたって配列された部分が高圧側と低圧側との差圧方向に独立して2箇所示されている。高さの低いブリストル50の配列される箇所は2箇所に限らず、1箇所あるいは3箇所以上でもよい。
【0027】
一部のブリストルの自由端部側の高さを低くする手法としては、図3(b)に示すような同じ高さのブリストルを配列した面状ブリストル10を形成後、所定の位置のブリストルの自由端部側を切断する方法、または、予め長さの短いブリストル50を準備しておき、複数のブリストルを一列に配列する際に長さの短いブリストル50を所定の位置に配列させ、隣接するブリストルを固着する方法などがある。
【0028】
上記の面状ブリストル10は、ブリストル5の自由端部7がロータ60の外周面に接面又は近接するようにして周方向に積層状に連続して配列され、図2に示すような環状のブリストル部2が形成されるものである。
【0029】
上記のように形成された面状ブリストル10は、従来公知のブラシシールブリストルと比べて、高圧側と低圧側との差圧方向(ロータの軸方向)の剛性が高く、蒸気タービンなどの高圧機器に対しても適用可能となる。
【0030】
また、面状ブリストル10は、各ブリストル5の先端、すなわち、自由端部7に近接する固着部8から自由端部7に至る間の各ブリストル5の先端の差圧方向と直交する方向(周方向)の自由度が確保されているので、差圧方向と直交する方向の剛性が低く、ロータ60の低速時における回転においてもその動圧で自由端部7がロータ60の外周面から浮上でき、摩耗が小さくなり、耐摩耗性を向上することができるという利点がある。
【0031】
さらに、ロータ60のコニカル振動に対しても、各ブリストル5の先端が独立して動くことができるので、摩耗が小さくなり、耐摩耗性を向上することができる。
【0032】
〔実施形態1〕
次に、図4を参照しながら、本発明の実施形態1に係るブリストル部の摺動面に設けられる円周溝を説明する。図4においては、紙面の上方が回転部と摺動するブリストルの自由端部側であり、同下方が基端部側(静止部側)である。また、紙面の左手前と右奥とを結ぶ方向が周方向である。更に、紙面の右側が高圧側、左側が低圧側である。
【0033】
図4において、高圧側及び低圧側に面しない内部側において、高圧側と低圧側との差圧方向の所定の幅にわたって高さの低いブリストル50が配列されて形成された溝部が複数独立して形成された同一形状の面状ブリストル10が複数用意され、周方向に配列されている。
この時、高圧側と低圧側との差圧方向に沿って配列される複数のブリストル5のうち、高さの低いブリストル50を高圧側と低圧側との差圧方向に所定の幅にわたって備えた面状ブリストル10が周方向に積層状に連続して配列されることにより円周溝15が形成されるものであって、図4では、円周溝15が高圧側と低圧側との差圧方向に15−1〜15−4で示すように4箇所独立して形成されている。これらの円周溝15−1〜15−4は、高圧側及び低圧側に面しない内部側にロータ60の回転方向に沿って形成されるものである。ここで、上記の「所定の幅」とは、高圧側から低圧側に漏洩しようとする流体が断熱膨張する際に必要とされる幅を意味している。
【0034】
円周溝15−1〜15−4の形成された摺動面は多重の絞りを備えたラビリンスシールの構造をしており、高圧側から低圧側に漏洩しようとする矢印で示す流体Fは、高圧側の1番目の絞りS1で絞られ抵抗を受け、次に円周溝15−1の部分で断熱膨張して圧力降下した後、2番目の絞りS2で絞られ抵抗を受け、次に円周溝15−2の部分で断熱膨張するという具合に、絞りS5の部分まで順次圧力降下を繰り返し、低圧となる。このため、高圧側から低圧側に漏洩する流体の量は抑制される。
高圧側と低圧側との差圧方向に設けられる円周溝15の数は、圧力条件、被密封流体の種類などに応じて適宜設定される。
【0035】
〔実施の形態2〕
次に、図5を参照しながら、本発明の実施形態2に係るブリストル部の摺動面に設けられる円周溝を説明する。図5においては、紙面の上方が回転部と摺動するブリストルの自由端部側であり、同下方が基端部側(静止部側)である。また、紙面の左手前と右奥とを結ぶ方向が周方向である。更に、紙面の右側が高圧側、左側が低圧側である。
【0036】
図5の実施の形態2においては、円周溝の数が2箇所である点、及び周方向の途中にダムが形成されている点で図4の実施の形態1と相違するものであるが、その他の構成は図4の実施の形態1と同じであり、図4と同じ部材は同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0037】
図5において、高圧側及び低圧側に面しない内部側において、高圧側と低圧側との差圧方向の所定の幅にわたって高さの低いブリストル50が配列されて形成された溝が複数独立して形成された同一形状の面状ブリストル10が周方向に複数配列されるものであって、周方向の途中に、高圧側と低圧側との差圧方向の全幅にわたって高さの高いブリストル5が配列された同一形状の面状ブリストル100が周方向に所定の長さにわたって挿入されている。ここで、周方向に所定の長さとは、ロータ60の回転に伴って生成される流体の周方向の流れを堰き止めるに必要な長さである。
【0038】
円周溝15は、高圧側と低圧側との差圧方向に沿って配列される複数のブリストル5のうち、高さの低いブリストル50を高圧側と低圧側との差圧方向に所定の幅にわたって備えた面状ブリストル10が周方向に積層状に連続して配列されることにより形成されるものであって、図5では、円周溝15が高圧側と低圧側との差圧方向に15−1、15−2で示すように2箇所独立して形成されている。これらの円周溝15−1、15−2は、高圧側及び低圧側に面しない内部側にロータ60の回転方向に沿って形成されるものである。また、面状ブリストル100が周方向に所定の長さにわたって挿入されることにより、各円周溝15−1、15−2の周方向の途中にダム16、16が形成されている。ダム16は各円周溝15−1、15−2の周方向にそれぞれ少なくとも1つ設けられるもので、通常、複数のダムが等配に設けられる。また、図5では、2つの円周溝15、15の周方向の同じ位置にダム16、16が設けられている。しかし、これに限らず、周方向にずらして配設してもよい。
【0039】
円周溝15−1、15−2の形成された摺動面は多重の絞りを備えたラビリンスシールの構造をしており、高圧側から低圧側に漏洩しようとする矢印Fで示す流体は、高圧側の1番目の絞りS1で絞られ抵抗を受け、次に円周溝15−1の部分で断熱膨張して圧力降下した後、2番目の絞りS2で絞られ抵抗を受け、次に円周溝15−2の部分で断熱膨張するという具合に、絞りS3まで順次圧力降下を繰り返し、低圧となる。このため、高圧側から低圧側に漏洩する流体の量は抑制される。
また、円周溝15−1、15−2の途中に設けられたダム16、16は、ロータ60の回転に伴う矢印FSで示す旋回流による流体力が、ダム16、16を形成するブリストル5の側面17、17に当たることによりブリストル5の浮上力を発生し、ブリストル5の摩耗量を低減する。
【0040】
図6は、図1の状態において回転部が偏心した場合のブラシシール1の状態を高圧側からみた正面図である。
ブラシシール1は、ロータ60が回転し、振動や揺動などによりロータ60がブリストル5の自由端部7に接触すると、ブリストル5はロータ60に圧接された状態になりながら傾斜角度を増加させる。その際、ブリストル5は、各ブリストル5の先端の差圧方向と直交する方向の自由度が確保されているので、差圧方向と直交する方向の剛性が低く、ロータ60の低速時における回転においてもその動圧で自由端部7がロータ60の外周面から浮上でき、摩耗が小さくなり、耐摩耗性を向上することができるという利点がある。さらに、ロータ60のコニカル振動に対しても、各ブリストル5、15が独立して動くことができるので、摩耗が小さくなり、耐摩耗性を向上することができる。
【0041】
さらに、環状のブリストル部2の自由端部7の側の摺動面には、高圧側及び低圧側に面しない内部側において、円周溝15が形成され、ラビリンスシールの構造をしているので、高圧側から低圧側に漏洩しようとする流体Fは、順次圧力降下を繰り返し、低圧となるため、高圧側から低圧側に漏洩する流体の量が抑制される。
さらに、円周溝15の途中に設けられたダム16は、ロータ60の回転に伴う旋回流FSによる流体力が、ダム16を形成するブリストル5の側面に当たることによりブリストル5の浮上力を発生し、ブリストル5の摩耗量を一層低減することができる。
【0042】
本発明の実施形態に係るブラシシールの作用・効果を整理すると以下のとおりである。
高圧側と低圧側との差圧方向に沿って配列される複数のブリストルが基端部と自由端部との間において相互に固着されて面状ブリストルに形成されているため、従来公知のブラシシールブリストルと比べて、高圧側と低圧側との差圧方向(ロータの軸方向)の剛性が高く、蒸気タービンなどの高圧機器に対しても適用可能となる。
また、面状ブリストル10は、各ブリストル5の先端、すなわち、自由端部7に近接する固着部8から自由端部7に至る間の各ブリストル5の先端の差圧方向と直交する方向(周方向)の自由度が確保されているので、差圧方向と直交する方向の剛性が低く、ロータ60の低速時における回転においてもその動圧で自由端部7がロータ60の外周面から浮上でき、摩耗が小さくなり、耐摩耗性を向上することができるという利点がある。
さらに、ロータ60のコニカル振動に対しても、各ブリストル5の先端が独立して動くことができるので、摩耗が小さくなり、耐摩耗性を向上することができる。
さらに、環状のブリストル部2の自由端部7の側の摺動面に円周溝15が形成され、ラビリンスシールの構造をしているので、高圧側から低圧側に漏洩しようとする流体Fは、順次圧力降下を繰り返し、低圧となるため、高圧側から低圧側に漏洩する流体の量が抑制される。
さらに、円周溝15は、高圧側と低圧側との差圧方向に沿って配列される複数のブリストル5のうち自由端部側の高さの低いブリストル50を高圧側及び低圧側に面しない内部側に配列した面状ブリストル10が周方向に積層状に連続して配列されて形成されるため、円周溝を高さの違うブリストルの配列によって形成することができるので、円周溝の形成が容易となる。
さらに、円周溝15の途中に設けられたダム16は、ロータ60の回転に伴う旋回流FSによる流体力が、ダム16を形成するブリストル5の側面17に当たることによりブリストル5の浮上力を発生し、ブリストル5の摩耗量を一層低減することができる。
【0043】
以上、本発明の実施の形態を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0044】
例えば、前記実施の形態では、ブリストルについて、円形の断面形状のものを説明したが、これに限らず、三角形、多角形あるいは楕円形などの断面形状のブリストルでもよい。
【0045】
また、例えば、前記実施の形態では、一列に配列された複数のブリストル基端部と自由端部の間において隣接するブリストルを固着する径方向の位置について、3箇所の場合について説明しているが、これに限らず、少なくとも1箇所あるいはそれ以上であればよい。また、周方向に配列される面状ブリストルごとに固着位置を変更して、固着位置が径方向の一箇所に集中しないようにしてもよい。
【0046】
また、例えば、前記実施の形態では、円周溝の形成について、高圧側と低圧側との差圧方向に沿って配列される複数のブリストルのうち、高さの低いブリストルを高圧側と低圧側との差圧方向に所定の幅にわたって備えた面状ブリストルが周方向に積層状に連続して配列されることにより形成される手法について説明したが、これに限らず、環状のブリストル部を形成後、摺動面にレーザを照射するなどして円周溝を形成するようにしてもよい。
【0047】
また、例えば、前記実施の形態2では、ダムの形成について、周方向の途中に、高圧側と低圧側との差圧方向の全幅にわたって高さの高いブリストルが配列された同一形状の面状ブリストルが周方向に所定の長さにわたって挿入される手法について説明したが、これに限らず、環状のブリストル部を形成後、摺動面にレーザを照射するなどして円周溝を形成する際、同時にダムを形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 ブラシシール装置
2 ブリストル部
3 背板部
4 保持部
5 ブリストル
6 基端部
7 自由端部
8 固着部
10 面状ブリストル
12 スナップリング
15 円周溝
16 ダム
17 ブリストルの側面
20 固定部
50 ケーシング(静止部)
51 段部
60 ロータ(回転部)
F 漏洩流体
FS 旋回流
S1〜S5 絞りの部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6