【課題を解決するための手段】
【0021】
したがって、そのような状況で、本発明者等は、ヒ素(およびアンチモン)を含まず、特にレンジ台上面としてのその使用に関して光透過曲線が最適化されたガラスセラミックを想起した。それゆえ、本発明者等は、既存の「Kerablack」プレートの代替物を提案することができる。その開示は、ガラスセラミックの組成内の、SnO
2(清澄剤の機能および還元剤の機能を提供する。還元剤は、製品の最終的な着色に関与する)および着色種(V
2O
5+Fe
2O
3+C
2O
3)の、独創的な関連性に基づくものである。これを以下に説明する。
【0022】
第1の実施の形態によれば、本開示は、リチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプのガラスセラミックに関する。それらのガラスセラミックは、β石英固溶体の必須成分としてLi
2O、Al
2O
3およびSiO
2を含有する。それらのガラスセラミックは、β石英固溶体が全結晶相(結晶化部分)の80質量%超を占める主結晶相としてβ石英固溶体を含有し、「Kerablack」プレートのガラスセラミックと同じまたは実質的に同じ光透過曲線を有する。さらに、それらのガラスセラミックは、4mmの厚さで以下の光透過率特徴:0.8%≦T
v≦2%、好ましくは1%≦T
v≦1.7%、T
625>3.5%、好ましくはT
625>4%、50%≦T
950≦70%、および65%≦T
1600≦75%を有する。
【0023】
これらは、レンジ台上面として使用するのに最も適した、暗色のガラスセラミックである。
【0024】
特徴的な様式で、これらのガラスセラミックの組成は、酸化物の質量百分率で表して、
0.3〜0.6質量%、好ましくは、0.3超〜0.6質量%のSnO
2、
0.025〜0.06質量%、好ましくは、0.025〜0.045質量%のV
2O
5、
0.01〜0.04質量%のCr
2O
3、
0.05〜0.15質量%のFe
2O
3、および
0.1質量%未満、好ましくは、0.05質量%未満のAs
2O
3+Sb
2O
3
を含有する。
【0025】
したがって、そのような組成は清澄剤としてSnO
2を含む。清澄は、存在するSnO
2の量がかなりあるので、適用するのがますます容易であり、ますます実施し易い。しかしながら、失透は、最小にするか、さらには避けるべきであり、光透過への(すなわち、着色への)SnO
2の影響を制御すべきであることに留意すべきである。実際に、SnO
2は、セラミック化の際中に、存在するバナジウムおよび鉄を還元することができるが、SnO
2の高い原料費のために、その使用は最小にすることが好ましい。0.3から0.6質量%のSnO
2含有量を使用してよい。そのような含有量は、0.3質量%より多い(従来技術の多くのガラスセラミックのSnO
2含有量より多い)ことが好ましい。開示されたガラスセラミックは、0.36質量%超であり、0.5質量%までのSnO
2を含有することが好ましい。当該ガラスセラミックが0.35から0.45質量%のSnO
2を含有することがより好ましい。0.4質量%または0.4質量%に近い(0.40±0.03)含有量を使用してよい。
【0026】
開示されたガラスセラミックは、As
2O
3も、Sb
2O
3も含有せず、またはこれらの毒性化合物の少なくとも一方を微量しか含有せず、これらの従来の清澄剤の代わりに、SnO
2が存在する。これらの毒性化合物の少なくとも一方が微量に存在する場合、これは、例えば、原材料のガラス化可能な装填物中の再生材料(これらの化合物により清澄された古いガラスセラミック)の存在のために、汚染生成物としてである。いずれにせよ、これらの毒性化合物が微量に存在する可能性がある:As
2O
3+Sb
2O
3<1000ppm、好ましくは<500ppm。意外なことに、500ppm≦As
2O
3+Sb
2O
3≦1000ppmが存在する場合でさえ、興味深い光学的性質がまだ存在する。
【0027】
したがって、V
2O
5が前記ガラスセラミックの主要な着色剤である。実際に、V
2O
5は、SnO
2の存在下で、セラミック化の際中にガラスを著しく暗色にする(先を参照)。V
2O
5は、主に700nm未満の吸収の原因であり、その存在下で、950nmおよび赤外において、十分に高い透過率を維持することが可能である。0.025%と0.06%の間(250ppmと600ppmの間)(例えば、0.025%と0.045%の間、すなわち、250ppmと450ppmの間)のV
2O
5の量が適切であると実証された。意外なことに、0.045%<V
2O
5<0.06%が存在する場合でさえも、興味深い光学的性質がまだ存在する。
【0028】
特別な実施の形態において、開示されたガラスセラミックの組成は、酸化物の質量百分率で表して、
0.3〜0.6質量%、好ましくは、0.3超〜0.6質量%のSnO
2、
0.025〜0.045質量%のV
2O
5、
0.01〜0.04質量%のCr
2O
3、
0.05〜0.15質量%のFe
2O
3、および
0.1質量%未満、好ましくは、0.05質量%未満のAs
2O
3+Sb
2O
3
を含有する。
【0029】
別の特別な実施の形態において、開示されたガラスセラミックの組成は、酸化物の質量百分率で表して、
0.3〜0.6質量%、例えば、0.3超〜0.6質量%のSnO
2、
0.025〜0.045質量%のV
2O
5、
0.01〜0.04質量%のCr
2O
3、
0.05〜0.15質量%のFe
2O
3、および
0.05質量%未満のAs
2O
3+Sb
2O
3
を含有する。
【0030】
SnO
2およびV
2O
5の存在下で、求められているガラスセラミックについて、要求される積分光透過率(T
v)および要求される625nmでの光透過率(T
625)の両方を得ることは細心の注意を要することが実証されてきた。実際に、バナジウムによる吸収がこの波長(625nm)で比較的大きい範囲において、積分光透過率で許容できる値に到達した場合、625nmでの光透過率の値は低すぎ、またその逆もそうである。それゆえ、求められている透過曲線を有するSnO
2で清澄されたガラスセラミックを提案することは、自明ではない。実際に、適切な清澄と共に、T
vおよびT
625の所望の値を得るために、V
2O
5と、適切な量(T
950およびT
1600の他の要求される基準に関しても適している)で関連付けられた適切な着色剤を見つけたことは、本出願人の名誉である。この着色剤は酸化クロム(Cr
2O
3)である。600nmと800nmの間の波長において高い透過を維持しながら、可視範囲(400〜600nm)の短い波長において暗色化剤を提供することが適している。したがって、前記ガラスセラミックの組成中に、0.01から0.04質量%の含有量でCr
2O
3が存在することにより、所望の結果に到達する。組成中にこれが存在するので、このガラスセラミックは青範囲において低い透過を示すだけである。4mmの厚さで、このガラスセラミックは一般に、0.1%未満の450nmでの光透過率を有する(T
450<0.1%)。
【0031】
酸化鉄は、主に赤外における吸収をもたらし、その含有量は、要求される透過率を得るために、少なくとも500ppm、好ましくは少なくとも700ppmであるべきである。その含有量が1,500ppmを超えると、赤外における吸収は、ガラスセラミックだけでなく、初期のガラスにおいてさえも、高過ぎて、これにより、溶融し、清澄することが難しくなってしまう。酸化鉄の含有量は700ppmと1,200ppmの間であることが好ましい。
【0032】
可視範囲において、鉄は、着色プロセスにも関与する。ここで、列挙された組成内の効果は、存在するバナジウムの効果により補われるであろうことに留意する。それゆえ、0.09%超のFe
2O
3の含有量では、可視範囲における透過がわずかに増加することが観察された(おそらく、そのようなFe
2O
3の含有量では、SnO
2は優先的にFe
2O
3を還元し、その結果、還元されるバナジウムの量が少なくなる)。次いで、ガラスセラミックがそのように明るくなることは、V
2O
5の含有量を多くする(しかしながら、上述した範囲内のままである)ことによって補われるであろう。
【0033】
開示された実施の形態の範囲内で、このガラスセラミックの組成が、V
2O
5、Fe
2O
3およびCr
2O
3に加えて、CoO、MnO
2、NiO、CeO
2などの他の着色剤を少なくとも1種類、多かれ少なかれ有効な量で含有することは排除されるものではない。しかしながら、そのような少なくとも1種類の他の着色剤の存在に、目的とする光透過曲線に著しい影響があることは問題外である。低レベルの着色剤でさえも、その光透過曲線を著しく変えることのできる潜在的な相互作用に、特に注意すべきである。それゆえ、CoOは、先験的に、この成分は、赤外で著しく吸収し、625nmで無視できないほど吸収するので、非常に少量でしか存在しないであろう。好ましい代替例によれば、そのガラスセラミックの組成は、CoOは含有せず、いかなる場合でも、200ppm未満、好ましくは100ppmしか含有しない。
【0034】
別の好ましい代替例によれば、そのガラスセラミックの組成は、FおよびBrなどの清澄助剤を含有しない。その組成は、避けられない微量を除いて、FおよびBrを含有しない。これらの元素の価格および/または毒性を考えると、このことは特に都合よい。開示された組成内で、表示された量(≧0.3質量%、好ましくは>0.3質量%)で存在するSnO
2が清澄剤として非常に効果的である範囲で、清澄助剤の存在は、先験的に、不要である。
【0035】
このガラスセラミックの基礎組成は、大幅に変動してもよい。決して制限するものではないが、そのような組成を特定してもよい。上述した質量百分率のSnO
2、V
2O
5、Cr
2O
3およびFe
2O
3に加え(As
2O
3+Sb
2O
3<1000ppm、好ましくは<500ppm)、そのような組成は、以下に示す質量百分率で、60〜72%のSiO
2、18〜23%のAl
2O
3、2.5〜4.5%のLi
2O、0〜3%のMgO、1〜3%のZnO、1.5〜4%のTiO
2、0〜2.5%のZrO
2、0〜5%のBaO、0〜5%のSrO、ここで、BaO+SrOは0〜5%、0〜2%のCaO、0〜1.5%のNa
2O、0〜1.5%のK
2O、0〜5%のP
2O
5、および0〜2%のB
2O
3を含有してもよい。
【0036】
好ましい代替例によれば、前記ガラスセラミックは、少なくとも98質量%の、好ましくは少なくとも99質量%の、さらには100質量%の、SnO
2、V
2O
5、Cr
2O
3、Fe
2O
3(As
2O
3+Sb
2O
3<1000ppm、好ましくは<500ppm)、および下記に列挙される酸化物(先に特定した量で)からなる組成を有する。
【0037】
そのガラスセラミックは、どのような毒性の清澄剤(酸化ヒ素の代わりにSnO
2が含まれている)も含まずに、「Kerablack」のガラスセラミックと同じ光透過曲線を有する。SnO
2は酸化ヒ素よりも効果が低い清澄剤であるが、このSnO
2は、開示されたガラスセラミックの組成中に比較的理論上必然のレベル(0.3質量%と0.6質量%の間)で含まれるのが分かった。さらに、溶融と、したがって清澄とを促進するために、このガラスセラミックについて、「Kerablack」製品のものよりも粘性の低い(または高温粘度が低い)基礎ガラスを使用することが大いに可能である。着色剤V
2O
5+Cr
2O
3+Fe
2O
3の組合せがそのような基礎ガラスに極めて適合している。
【0038】
この着色剤V
2O
5+Cr
2O
3+Fe
2O
3の組合せは、Cr
2O
3およびFe
2O
3を高い含有量で含有することができる。それゆえ、鉄およびクロムが低コストの天然原材料の普通の不純物である範囲で、そのような低コストの天然原材料が適している。このことは特に都合よい。
【0039】
さらに、酸化バナジウムにより着色されたβ石英ガラスセラミックが、そのセラミック化処理後の熱処理中に暗色化する傾向にあることが公知である。その材料は、例えば、レンジ台の上面を構成する材料としての使用中に、そのような熱処理を経るかもしれない。この開示されたガラスセラミックは、これらの熱処理中に、「Kearblack」ガラスセラミックのものほど著しくはない暗色化を示す。
【0040】
したがって、この開示された実施の形態によるガラスセラミックは、その「Kerablack」ガラスセラミックの特に興味深い代替品である。
【0041】
第2の実施の形態によれば、本開示は、上述したガラスセラミックから少なくとも部分的になる物品に関する。その物品は、ここに開示されたガラスセラミックから完全になることが好ましい。その物品は、レンジ台上面、調理器具、または電子レンジの部品であることが好ましい。それらの物品がレンジ台上面または調理器具であることが非常に好ましい。
【0042】
第3の実施の形態によれば、本開示は、上述した開示のガラスセラミックの前駆体であるリチウムアルミノケイ酸塩ガラスに関する。そのようなガラスは、先に説明したガラスセラミックの質量組成を有する。なお、その前駆体ガラスは、1,000nmと2,500nmの間の任意の波長について、3mmの厚さで、60%超の光透過率を有することが好ましいことに留意されるであろう。その結果、その溶融と清澄が促進される。
【0043】
さらに別の実施の形態によれば、本開示は、上述したガラスセラミックを製造する方法、および上述したガラスセラミックから少なくとも部分的になる物品を製造する方法にも関する。
【0044】
従来、ガラスセラミックを製造する方法は、溶融、清澄、次いでセラミック化がうまく行われる条件下で、原材料のガラス化可能な装填物の熱処理を含む。
【0045】
特徴的な様式で、その装填物は、上述したガラスセラミックを得ることが可能な組成を有する。特徴的な様式で、その装填物は、先に特定した基礎組成を有し、いかなる場合でも、先に列挙したような量のSnO
2、V
2O
5、Cr
2O
3、Fe
2O
3、および必要に応じて、As
2O
3+Sb
2O
3を含有することが好ましい、ガラスまたはガラスセラミックの前駆体である。
【0046】
従来、物品を製造する方法は、清澄剤としてSnO
2を含有する原材料のガラス化可能な装填物の溶融;その後、得られた溶融ガラスの清澄;得られた清澄済み溶融ガラスの冷却、およびそれと同時の、目的の物品に望ましい形状への成形;および成形ガラスのセラミック化を連続的に含む。
【0047】
特徴的な様式で、その装填物は、上述したガラスセラミックを得ることが可能な組成を有する。特徴的な様式で、その装填物は、先に特定した基礎組成を有し、いかなる場合でも、先に列挙したような量のSnO
2、V
2O
5、Cr
2O
3、Fe
2O
3、および必要に応じて、As
2O
3+Sb
2O
3を含有することが好ましい、ガラスまたはガラスセラミックの前駆体である。
【0048】
上述した方法のいずれか一方を実施する際に、その原材料は、1,000nmと2,500nmの間の任意の波長について、3mmの厚さで、60%超の光透過率を有することが好ましい。上述したように、溶融と清澄の操作は、それによって、促進される。
【0049】
ここで、以下に実施例により様々な実施の形態を実証することが示されている。