特許第5969011号(P5969011)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユーロケラの特許一覧

特許5969011透過が制御されたベータ石英ガラスセラミックおよびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969011
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】透過が制御されたベータ石英ガラスセラミックおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/12 20060101AFI20160728BHJP
   F24C 15/10 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
   C03C10/12
   !F24C15/10 B
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-510793(P2014-510793)
(86)(22)【出願日】2012年5月16日
(65)【公表番号】特表2014-522367(P2014-522367A)
(43)【公表日】2014年9月4日
(86)【国際出願番号】EP2012059116
(87)【国際公開番号】WO2012156444
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2015年5月18日
(31)【優先権主張番号】1154213
(32)【優先日】2011年5月16日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】501059442
【氏名又は名称】ユーロケラ
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】コント,マリ ジャッケリン モニーク
(72)【発明者】
【氏名】リスモンド,ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】メルスコエ−ショーヴェル,イザベル
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−523446(JP,A)
【文献】 特表2010−508235(JP,A)
【文献】 特開昭60−255634(JP,A)
【文献】 特開平04−214046(JP,A)
【文献】 特開平11−100229(JP,A)
【文献】 特開昭59−116150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 − 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相としてベータ石英固溶体を含有するリチウムアルミノケイ酸塩タイプのガラスセラミックであって、4mmの厚さで、
0.8%と2%の間の、可視範囲における積分光透過率Tv
3.5%超の、625nmでの光透過率、
50%と70%の間の、950nmでの光透過率、および
65%と75%の間の、1,600nmでの光透過率、
を有し、
その組成が、酸化物の質量百分率で表して、
0.3〜0.6質量%のSnO2
0.025〜0.060質量%のV25
0.01〜0.04質量%のCr23
0.05〜0.15質量%のFe23、および
0.05質量%未満のAs23+Sb23
を含有するガラスセラミック。
【請求項2】
その組成が、0.36%<SnO2<0.5%を含有する、請求項1記載のガラスセラミック。
【請求項3】
その組成が、0.07≦Fe23≦0.12を含有する、請求項1または記載のガラスセラミック。
【請求項4】
その組成が、200ppm未満のCoOを含有する、請求項1から3いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項5】
その組成が、避けられない微量を除いて、FおよびBrを含まない、請求項1から4いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項6】
その組成が、酸化物として、60〜72%のSiO2、18〜23%のAl23、2.5〜4.5%のLi2O、0〜3%のMgO、1〜3%のZnO、1.5〜4%のTiO2、0〜2.5%のZrO2、0〜5%のBaO、0〜5%のSrO、ここで、BaO+SrOは0〜5%、0〜2%のCaO、0〜1.5%のNa2O、0〜1.5%のK2O、0〜5%のP25、および0〜2%のB23を含有する、請求項1から5いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項7】
その組成が、少なくとも98質量%のSnO2、V25、Cr23、Fe23および前記酸化物からなり、As23+Sb23<500ppmである、請求項記載のガラスセラミック。
【請求項8】
請求項1から7いずれか1項記載のガラスセラミックを含む物品。
【請求項9】
リチウムアルミノケイ酸塩ガラス前駆体であって、該ガラスの組成が請求項1記載のガラスセラミックに対応するガラス前駆体。
【請求項10】
請求項8記載の物品を製造する方法であって、
清澄剤としてSnO2を含有する原材料のガラス化可能な装填物を溶融し、その後、得られた溶融ガラスを清澄する工程、
得られた清澄済み溶融ガラスを冷却すると同時に、目的の物品に望ましい形状に成形する工程、および
成形されたガラスをセラミック化する工程、
を連続的に含み、
前記装填物が、請求項1記載のガラスセラミックが得られる組成を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2011年5月16日に出願された仏国特許出願第1154213号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、暗色を有し、主結晶相としてベータ石英の固溶体を含有する、リチウムアルミノケイ酸塩タイプのガラスセラミックに関する。本開示は、そのようなガラスセラミックから製造された物品、そのようなガラスセラミックの前駆体ガラス、およびそのようなガラスセラミックと関連物品を得る方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
本出願人は、レンジ台上面、防火ドアと窓、ストーブとオーブンの窓、暖炉のインサート(fireplace inserts)などの、住宅市場向けのガラスセラミック製品の製造業者である。本出願人は、最近20年に亘り、数百万個ものリチウムアルミノケイ酸塩ガラスセラミック製レンジ台上面を製造してきた。本出願人は特に、特許文献1に記載されたようなプレート、より詳しくは、主結晶相としてβ石英の固溶体を含有し、酸化バナジウム(V25)で着色され、Kerablack(登録商標)という商標で販売されたガラスセラミック製のそのようなプレートを製造してきた。これらのプレートは、特定の光透過曲線に関連する特徴、特に、ゼロに近い(熱衝撃に耐えるために)熱膨張係数を有する。4mm厚のその特定の光透過曲線は、可視範囲(D65光源で測定され、2°の視野で、380nmと780nmの間である)における積分光透過率Tvは、0.8%と2%の間、好ましくは1%と1.7%の間である。したがって、0.8%≦Tv≦2%、好ましくは1%≦Tv≦1.7%である。積分光透過率が2%超である場合、そのプレートの下に配置された加熱素子は、作動していないときに隠されず、積分光透過率が0.8%未満である場合、作動中の加熱素子は見えない(安全性の問題)。
【0004】
4mm厚の625nmでの光透過率は、3.5%超、好ましくは4%超である(T625>3.5%、好ましくはT625>4%)。これにより、プレートの下に配置された赤いディスプレイ(最も一般的に使用される色)を見ることができる。4mm厚の950nm(近赤外)での光透過率は50%と70%の間である(50%≦T950≦70%)。これにより、この波長で発光および受光を行う、従来の電子制御ボタンを使用することができる。4mm厚の1,600nmでの光透過率赤外光透過率は65%と75%の間である(65%≦T1600≦75%)。この赤外光透過率が65%未満である場合、そのプレートの加熱性能は不十分であり、その赤外光透過率が75%超である場合、その加熱性能は過剰であり、プレートの近傍に置かれた物質の危険な加熱を引き起こすであろう。
【0005】
このタイプのプレートは、完全な満足なものである。しかしながら、その組成は、使用される原材料のガラス化可能な装填物を溶融する工程中に清澄剤として使用される酸化ヒ素を含有する。当業者には、ガラスセラミック物品を得るために適用される3つの連続工程:原材料のガラス化可能な装填物の溶融と清澄、および成形、次いで、結晶化熱処理(セラミック化処理とも呼ばれる)が知られており、環境保護の明白な理由で、この毒性化合物を使用しないことが望ましい。なお、特許文献1には、従来の清澄剤として酸化ヒ素および酸化アンチモンが述べられていることに留意されたい。これらの化合物の両方とも毒性であるので、いずれも使用しないことが望ましい。したがって、本出願人は、「Kerablack」プレートと同じ光透過特性(機能的性質:上記参照)を有するが、その組成に酸化ヒ素(および酸化アンチモン)を含まない、新規の機能性プレートを開発することを望んできた。
【0006】
酸化ヒ素(および/または酸化アンチモン)ではなく、その代わりに、清澄剤として酸化スズ(SnO2)が長年に亘り推奨されてきた。しかしながら、この代替物は完全に当たり障りがないわけではない。
【0007】
一方では、酸化スズは、酸化ヒ素ほど高性能ではない清澄剤である。それゆえ、絶対数で、酸化スズは比較的多量に含まれるべきであり、これは、問題、特に失透の問題を生じないわけではない。それゆえ、清澄を極めて実施し易くすること、特に、より高温でその酸化スズにより清澄を行うこと(特許文献2参照)、および酸化スズと共にフッ素、臭素、酸化マンガンおよび/または酸化セリウム(それぞれ、特許文献3、4および5)などの清澄助剤を使用することなどの様々な代替案が、従来技術にしたがって提案された。
【0008】
他方で、酸化スズは、酸化ヒ素(および酸化アンチモン)よりも強力な還元剤である。それゆえ、最終的なガラスセラミックの着色(すなわち、光透過率特性)への酸化スズの影響は、酸化ヒ素(および酸化アンチモン)とは異なる。当業者は実際に、酸化スズおよび酸化ヒ素(または酸化アンチモンさえも)は、その清澄剤の「第1の」機能に加え、それらが、セラミック化中に存在する酸化バナジウムを還元する(酸化バナジウムの還元形態が着色を引き起こす)範囲で、最終的なガラスセラミックを着色するプロセスに間接的に関与することを知っている。このことが、特許文献2の教示に申し分なく説明されている。
【0009】
したがって、その組成にヒ素(またはアンチモン)を含まず、ガラス化可能な原材料の効率的な清澄(従来の清澄温度、一般に、1,600℃と1,700℃の間で行われる清澄)により得られ、その組成にヒ素(および/またはアンチモン)を含む従来技術のプレート(「Kerablack」プレート)と同じ光透過曲線を示すガラスセラミックプレートを提供することが、本発明者が取り組んでいる技術的問題であった。
【0010】
もちろん、従来技術の多くの文献に、主結晶相としてβ石英の固溶体を含有し、酸化バナジウムで着色され、酸化スズ(清澄剤として含まれる)を含有する、リチウムアルミノケイ酸塩タイプのガラスセラミックが既に記載されている。しかしながら、それらの文献には、先に論じた仕様を満たす、本開示のガラスセラミックは提案されていない。
【0011】
特許文献6は、出願人の知る限りでは、清澄剤としてSnO2(必要に応じて塩素:Clと組み合わされた)の使用を推奨した従来技術の最初の文献である。この文献には、赤外線を透過するガラスセラミックの組成中の0.1から2質量%のSnO2の存在が述べられている;この文献には、0.7から1質量%(Clの不在下で)および0.9から1.9質量%(Clの存在下で)のSnO2含有量が明白に記載されている。そのような高含有量により、失透の問題の懸念が生じる。この文献には、記載されたガラスセラミックの光透過曲線についての教示はほとんどなく、その曲線の制御についての教示も含まれていない。
【0012】
既に述べた特許文献2には、清澄剤としてのSnO2の使用(実施例において0.3質量%の最大含有量で使用された)も記載されている。高品質のガラスセラミックを得るために、高温(1時間に亘り1,975℃)で清澄を行うことが推奨されている。その組成に、V25の存在に加えて、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、セレンおよび塩素の化合物などの他の着色剤の存在が可能である。しかしながら、赤外線の光透過率を最適化するためには、V25に加えて、赤外線を吸収する着色剤などの着色剤を含むことが決して望ましくないことが、この文献に示されている。
【0013】
特許文献3、4および5では、上述したように、清澄助剤の存在が推奨されている。その実施例は、0.2質量%のSnO2に関連する清澄助剤を示している。従来の着色剤の考えられる存在(V25に加え)が述べられている。これらの文献には、記載されたガラスセラミックの光透過曲線への教示は見つからない。
【0014】
特許文献7には、ガラスセラミックプレートを得るための独自の技法(フロート法)が記載されている。この文献には、清澄剤としてのSnO2の適切な使用、並びに着色剤(Fe23、Cr23、V25など)の適切な使用が述べられている。この文献には、光透過曲線についての教示は含まれていない。
【0015】
特許文献8には、その組成が、可視範囲(赤だけでなく、青、緑)の透過率に関して最適化されているガラスセラミックが記載されている。そのガラスセラミックの組成は、清澄剤としてのSnO2(実施例において0.3%未満)、「主要な」着色剤としてのV25、並びに必要に応じて他の着色剤(クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、セレン、希土類およびモリブデンの化合物など)を含有する。この文献には、これらの他の着色剤の存在が、赤外線の光透過率にとって有害であることも示されている。
【0016】
特許文献9には、400nmと500nmの間(青)の少なくとも1つの波長について0.2から4%の光透過率を有するプレートが記載されている。この記載されたプレートは、「主要な」着色剤として0.3質量%未満のSnO2およびV25、並びに必要に応じて、Fe23、NiO、CuOおよびMnOなどの他の着色剤を含有する。それらのプレートが25ppm未満の酸化クロムを含有することが好ましい。
【0017】
特許文献10にも、青色光を透過させるガラスセラミックプレートが記載されている。これらのプレートは、清澄剤としてAs23またはSnO2を含有してもよいものであるが、酸化バナジウム(V25)および酸化コバルト(CoO)の特定の組合せを含有する。これらのプレートは、他の着色剤(少量でのみNiO)も含有してよいが、V25およびCoOのみを含有することが好ましい。
【0018】
特許文献11には、機械的安定性および特に老化特性に関するガラスセラミックの基礎組成の最適化が開示されている。この文献には、光透過特性およびその制御についての教示は含まれていない。
【0019】
特許文献12は、清澄を最適化する目的で、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスの化学的酸素要求量(COD)を制御する利点を教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第5070045号明細書
【特許文献2】欧州特許第1313675号明細書
【特許文献3】国際公開第2007/03566号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007/03567号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2007/065910号パンフレット
【特許文献6】特開平11−100229号公報
【特許文献7】国際公開第2008/056080号パンフレット
【特許文献8】独国特許出願第102008050263号明細書
【特許文献9】仏国特許出願第2946042号明細書
【特許文献10】国際公開第2010/137000号パンフレット
【特許文献11】国際公開第2011/089220号パンフレット
【特許文献12】国際公開第2012/016724号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
したがって、そのような状況で、本発明者等は、ヒ素(およびアンチモン)を含まず、特にレンジ台上面としてのその使用に関して光透過曲線が最適化されたガラスセラミックを想起した。それゆえ、本発明者等は、既存の「Kerablack」プレートの代替物を提案することができる。その開示は、ガラスセラミックの組成内の、SnO2(清澄剤の機能および還元剤の機能を提供する。還元剤は、製品の最終的な着色に関与する)および着色種(V25+Fe23+C23)の、独創的な関連性に基づくものである。これを以下に説明する。
【0022】
第1の実施の形態によれば、本開示は、リチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプのガラスセラミックに関する。それらのガラスセラミックは、β石英固溶体の必須成分としてLi2O、Al23およびSiO2を含有する。それらのガラスセラミックは、β石英固溶体が全結晶相(結晶化部分)の80質量%超を占める主結晶相としてβ石英固溶体を含有し、「Kerablack」プレートのガラスセラミックと同じまたは実質的に同じ光透過曲線を有する。さらに、それらのガラスセラミックは、4mmの厚さで以下の光透過率特徴:0.8%≦Tv≦2%、好ましくは1%≦Tv≦1.7%、T625>3.5%、好ましくはT625>4%、50%≦T950≦70%、および65%≦T1600≦75%を有する。
【0023】
これらは、レンジ台上面として使用するのに最も適した、暗色のガラスセラミックである。
【0024】
特徴的な様式で、これらのガラスセラミックの組成は、酸化物の質量百分率で表して、
0.3〜0.6質量%、好ましくは、0.3超〜0.6質量%のSnO2
0.025〜0.06質量%、好ましくは、0.025〜0.045質量%のV25
0.01〜0.04質量%のCr23
0.05〜0.15質量%のFe23、および
0.1質量%未満、好ましくは、0.05質量%未満のAs23+Sb23
を含有する。
【0025】
したがって、そのような組成は清澄剤としてSnO2を含む。清澄は、存在するSnO2の量がかなりあるので、適用するのがますます容易であり、ますます実施し易い。しかしながら、失透は、最小にするか、さらには避けるべきであり、光透過への(すなわち、着色への)SnO2の影響を制御すべきであることに留意すべきである。実際に、SnO2は、セラミック化の際中に、存在するバナジウムおよび鉄を還元することができるが、SnO2の高い原料費のために、その使用は最小にすることが好ましい。0.3から0.6質量%のSnO2含有量を使用してよい。そのような含有量は、0.3質量%より多い(従来技術の多くのガラスセラミックのSnO2含有量より多い)ことが好ましい。開示されたガラスセラミックは、0.36質量%超であり、0.5質量%までのSnO2を含有することが好ましい。当該ガラスセラミックが0.35から0.45質量%のSnO2を含有することがより好ましい。0.4質量%または0.4質量%に近い(0.40±0.03)含有量を使用してよい。
【0026】
開示されたガラスセラミックは、As23も、Sb23も含有せず、またはこれらの毒性化合物の少なくとも一方を微量しか含有せず、これらの従来の清澄剤の代わりに、SnO2が存在する。これらの毒性化合物の少なくとも一方が微量に存在する場合、これは、例えば、原材料のガラス化可能な装填物中の再生材料(これらの化合物により清澄された古いガラスセラミック)の存在のために、汚染生成物としてである。いずれにせよ、これらの毒性化合物が微量に存在する可能性がある:As23+Sb23<1000ppm、好ましくは<500ppm。意外なことに、500ppm≦As23+Sb23≦1000ppmが存在する場合でさえ、興味深い光学的性質がまだ存在する。
【0027】
したがって、V25が前記ガラスセラミックの主要な着色剤である。実際に、V25は、SnO2の存在下で、セラミック化の際中にガラスを著しく暗色にする(先を参照)。V25は、主に700nm未満の吸収の原因であり、その存在下で、950nmおよび赤外において、十分に高い透過率を維持することが可能である。0.025%と0.06%の間(250ppmと600ppmの間)(例えば、0.025%と0.045%の間、すなわち、250ppmと450ppmの間)のV25の量が適切であると実証された。意外なことに、0.045%<V25<0.06%が存在する場合でさえも、興味深い光学的性質がまだ存在する。
【0028】
特別な実施の形態において、開示されたガラスセラミックの組成は、酸化物の質量百分率で表して、
0.3〜0.6質量%、好ましくは、0.3超〜0.6質量%のSnO2
0.025〜0.045質量%のV25
0.01〜0.04質量%のCr23
0.05〜0.15質量%のFe23、および
0.1質量%未満、好ましくは、0.05質量%未満のAs23+Sb23
を含有する。
【0029】
別の特別な実施の形態において、開示されたガラスセラミックの組成は、酸化物の質量百分率で表して、
0.3〜0.6質量%、例えば、0.3超〜0.6質量%のSnO2
0.025〜0.045質量%のV25
0.01〜0.04質量%のCr23
0.05〜0.15質量%のFe23、および
0.05質量%未満のAs23+Sb23
を含有する。
【0030】
SnO2およびV25の存在下で、求められているガラスセラミックについて、要求される積分光透過率(Tv)および要求される625nmでの光透過率(T625)の両方を得ることは細心の注意を要することが実証されてきた。実際に、バナジウムによる吸収がこの波長(625nm)で比較的大きい範囲において、積分光透過率で許容できる値に到達した場合、625nmでの光透過率の値は低すぎ、またその逆もそうである。それゆえ、求められている透過曲線を有するSnO2で清澄されたガラスセラミックを提案することは、自明ではない。実際に、適切な清澄と共に、TvおよびT625の所望の値を得るために、V25と、適切な量(T950およびT1600の他の要求される基準に関しても適している)で関連付けられた適切な着色剤を見つけたことは、本出願人の名誉である。この着色剤は酸化クロム(Cr23)である。600nmと800nmの間の波長において高い透過を維持しながら、可視範囲(400〜600nm)の短い波長において暗色化剤を提供することが適している。したがって、前記ガラスセラミックの組成中に、0.01から0.04質量%の含有量でCr23が存在することにより、所望の結果に到達する。組成中にこれが存在するので、このガラスセラミックは青範囲において低い透過を示すだけである。4mmの厚さで、このガラスセラミックは一般に、0.1%未満の450nmでの光透過率を有する(T450<0.1%)。
【0031】
酸化鉄は、主に赤外における吸収をもたらし、その含有量は、要求される透過率を得るために、少なくとも500ppm、好ましくは少なくとも700ppmであるべきである。その含有量が1,500ppmを超えると、赤外における吸収は、ガラスセラミックだけでなく、初期のガラスにおいてさえも、高過ぎて、これにより、溶融し、清澄することが難しくなってしまう。酸化鉄の含有量は700ppmと1,200ppmの間であることが好ましい。
【0032】
可視範囲において、鉄は、着色プロセスにも関与する。ここで、列挙された組成内の効果は、存在するバナジウムの効果により補われるであろうことに留意する。それゆえ、0.09%超のFe23の含有量では、可視範囲における透過がわずかに増加することが観察された(おそらく、そのようなFe23の含有量では、SnO2は優先的にFe23を還元し、その結果、還元されるバナジウムの量が少なくなる)。次いで、ガラスセラミックがそのように明るくなることは、V25の含有量を多くする(しかしながら、上述した範囲内のままである)ことによって補われるであろう。
【0033】
開示された実施の形態の範囲内で、このガラスセラミックの組成が、V25、Fe23およびCr23に加えて、CoO、MnO2、NiO、CeO2などの他の着色剤を少なくとも1種類、多かれ少なかれ有効な量で含有することは排除されるものではない。しかしながら、そのような少なくとも1種類の他の着色剤の存在に、目的とする光透過曲線に著しい影響があることは問題外である。低レベルの着色剤でさえも、その光透過曲線を著しく変えることのできる潜在的な相互作用に、特に注意すべきである。それゆえ、CoOは、先験的に、この成分は、赤外で著しく吸収し、625nmで無視できないほど吸収するので、非常に少量でしか存在しないであろう。好ましい代替例によれば、そのガラスセラミックの組成は、CoOは含有せず、いかなる場合でも、200ppm未満、好ましくは100ppmしか含有しない。
【0034】
別の好ましい代替例によれば、そのガラスセラミックの組成は、FおよびBrなどの清澄助剤を含有しない。その組成は、避けられない微量を除いて、FおよびBrを含有しない。これらの元素の価格および/または毒性を考えると、このことは特に都合よい。開示された組成内で、表示された量(≧0.3質量%、好ましくは>0.3質量%)で存在するSnO2が清澄剤として非常に効果的である範囲で、清澄助剤の存在は、先験的に、不要である。
【0035】
このガラスセラミックの基礎組成は、大幅に変動してもよい。決して制限するものではないが、そのような組成を特定してもよい。上述した質量百分率のSnO2、V25、Cr23およびFe23に加え(As23+Sb23<1000ppm、好ましくは<500ppm)、そのような組成は、以下に示す質量百分率で、60〜72%のSiO2、18〜23%のAl23、2.5〜4.5%のLi2O、0〜3%のMgO、1〜3%のZnO、1.5〜4%のTiO2、0〜2.5%のZrO2、0〜5%のBaO、0〜5%のSrO、ここで、BaO+SrOは0〜5%、0〜2%のCaO、0〜1.5%のNa2O、0〜1.5%のK2O、0〜5%のP25、および0〜2%のB23を含有してもよい。
【0036】
好ましい代替例によれば、前記ガラスセラミックは、少なくとも98質量%の、好ましくは少なくとも99質量%の、さらには100質量%の、SnO2、V25、Cr23、Fe23(As23+Sb23<1000ppm、好ましくは<500ppm)、および下記に列挙される酸化物(先に特定した量で)からなる組成を有する。
【0037】
そのガラスセラミックは、どのような毒性の清澄剤(酸化ヒ素の代わりにSnO2が含まれている)も含まずに、「Kerablack」のガラスセラミックと同じ光透過曲線を有する。SnO2は酸化ヒ素よりも効果が低い清澄剤であるが、このSnO2は、開示されたガラスセラミックの組成中に比較的理論上必然のレベル(0.3質量%と0.6質量%の間)で含まれるのが分かった。さらに、溶融と、したがって清澄とを促進するために、このガラスセラミックについて、「Kerablack」製品のものよりも粘性の低い(または高温粘度が低い)基礎ガラスを使用することが大いに可能である。着色剤V25+Cr23+Fe23の組合せがそのような基礎ガラスに極めて適合している。
【0038】
この着色剤V25+Cr23+Fe23の組合せは、Cr23およびFe23を高い含有量で含有することができる。それゆえ、鉄およびクロムが低コストの天然原材料の普通の不純物である範囲で、そのような低コストの天然原材料が適している。このことは特に都合よい。
【0039】
さらに、酸化バナジウムにより着色されたβ石英ガラスセラミックが、そのセラミック化処理後の熱処理中に暗色化する傾向にあることが公知である。その材料は、例えば、レンジ台の上面を構成する材料としての使用中に、そのような熱処理を経るかもしれない。この開示されたガラスセラミックは、これらの熱処理中に、「Kearblack」ガラスセラミックのものほど著しくはない暗色化を示す。
【0040】
したがって、この開示された実施の形態によるガラスセラミックは、その「Kerablack」ガラスセラミックの特に興味深い代替品である。
【0041】
第2の実施の形態によれば、本開示は、上述したガラスセラミックから少なくとも部分的になる物品に関する。その物品は、ここに開示されたガラスセラミックから完全になることが好ましい。その物品は、レンジ台上面、調理器具、または電子レンジの部品であることが好ましい。それらの物品がレンジ台上面または調理器具であることが非常に好ましい。
【0042】
第3の実施の形態によれば、本開示は、上述した開示のガラスセラミックの前駆体であるリチウムアルミノケイ酸塩ガラスに関する。そのようなガラスは、先に説明したガラスセラミックの質量組成を有する。なお、その前駆体ガラスは、1,000nmと2,500nmの間の任意の波長について、3mmの厚さで、60%超の光透過率を有することが好ましいことに留意されるであろう。その結果、その溶融と清澄が促進される。
【0043】
さらに別の実施の形態によれば、本開示は、上述したガラスセラミックを製造する方法、および上述したガラスセラミックから少なくとも部分的になる物品を製造する方法にも関する。
【0044】
従来、ガラスセラミックを製造する方法は、溶融、清澄、次いでセラミック化がうまく行われる条件下で、原材料のガラス化可能な装填物の熱処理を含む。
【0045】
特徴的な様式で、その装填物は、上述したガラスセラミックを得ることが可能な組成を有する。特徴的な様式で、その装填物は、先に特定した基礎組成を有し、いかなる場合でも、先に列挙したような量のSnO2、V25、Cr23、Fe23、および必要に応じて、As23+Sb23を含有することが好ましい、ガラスまたはガラスセラミックの前駆体である。
【0046】
従来、物品を製造する方法は、清澄剤としてSnO2を含有する原材料のガラス化可能な装填物の溶融;その後、得られた溶融ガラスの清澄;得られた清澄済み溶融ガラスの冷却、およびそれと同時の、目的の物品に望ましい形状への成形;および成形ガラスのセラミック化を連続的に含む。
【0047】
特徴的な様式で、その装填物は、上述したガラスセラミックを得ることが可能な組成を有する。特徴的な様式で、その装填物は、先に特定した基礎組成を有し、いかなる場合でも、先に列挙したような量のSnO2、V25、Cr23、Fe23、および必要に応じて、As23+Sb23を含有することが好ましい、ガラスまたはガラスセラミックの前駆体である。
【0048】
上述した方法のいずれか一方を実施する際に、その原材料は、1,000nmと2,500nmの間の任意の波長について、3mmの厚さで、60%超の光透過率を有することが好ましい。上述したように、溶融と清澄の操作は、それによって、促進される。
【0049】
ここで、以下に実施例により様々な実施の形態を実証することが示されている。
【実施例】
【0050】
1kgの前駆体ガラスのバッチを複数製造するために、原材料を、下記の表1(表1−a、1−bおよび1−c)の第一部に倣った比率(酸化物の質量百分率で表された比率)で注意深く混合する。
【0051】
これらの混合物を白金坩堝に入れ、1,650℃で溶融する。
【0052】
溶融後、ガラスを5mmの厚さに圧延し、1時間に亘り650℃で焼鈍する。
【0053】
次いで、ガラスサンプル(約10cm×10cmのプレートの形態にある)に以下の結晶化処理を受けさせる:650℃への高速加熱、5℃/分の加熱速度での650℃から820℃への加熱、15℃/分の加熱速度での820℃から最高結晶化温度Tmaxへの加熱、期間tに亘る温度Tmaxの保持、次いで、オーブンの冷却速度での冷却。
【0054】
Tmaxおよびtの値が、表1の第二部に表示されている。
【0055】
得られたガラスセラミックプレートの光学的性質を、4mmの厚さの研磨サンプルについて測定する。光源D65(2°の視野)を使用した。これらの結果が、下記の表1の第三部に与えられている;Tvは、可視範囲における積分透過率であり、T450、T625、T950およびT1600は、それぞれ、450nm、625nm、950nmおよび1,600nmで測定した透過率である。
【0056】
実施例4について、前駆体ガラスの透過率は3mmで測定した。1,000nmと2,500nmの間で測定した最小透過率値が、示された値である(表1−b)。
【0057】
実施例A,B,C,D,EおよびFは、本発明には属さない。実施例Aは、ヒ素を含有する「Kerablack」ガラスセラミックに対応する。実施例BからFは、所望の透過率を得るための適切な含有量(開示された材料という意味で)のV25および/またはCr23および/またはSnO2を含有していない。
【表1-a】
【表1-b】
【表1-c】
【0058】
実施例1について、下記の表2には、熱膨張係数(CTE)、ベータ石英固溶体の結晶の百分率(全結晶化部分に基づく質量で)および平均サイズ(結晶のベータ石英の%およびサイズ)を含む、ガラスセラミックについて測定したいくつかの性質が報告されている。Cuカソードからの単色光で作動する、高速マルチチャンネル・リニア・ディテクタ(Real Time Multichannel Scaler RTMS)を有する回折計で、X線回折分析を行った。
【表2】
【0059】
工業用炉内のガラス化可能な混合物の溶融により行った、以下の実施例によっても、実施の形態が実証される。各場合において、ガラスを4mmの圧延により成形し、焼鈍し、次いで、切断した。次いで、ガラスサンプルに、上述したセラミック化処理を行った。光学的性質を先に記載したように測定した。
【0060】
実施例8の場合、得られたガラスセラミックのサンプルに725℃での100時間に亘るエージング処理を行った。積分透過率Tvは、3mmの厚さの研磨試料にこのエージング処理を行う前後で測定した。「Kerablack」材料についても、同じデータが示されている。ここに開示されたガラスセラミックは、「Kerablack」よりも多くは、透過率を損なわない。
【表3】
【0061】
前駆体ガラス(実施例11および比較例G)に関する清澄試験を行った。
【0062】
その組成が、下記の表4に示されている、両方のガラスを溶融した。それらの組成は、SnO2の含有量だけ異なり、その他は、両方のガラスを製造する上で、同じ原材料を使用した。
【0063】
混合後、1kgのガラスを得るのに必要な原材料を、溶融(および清澄)のために白金坩堝に入れた。装填された坩堝を、1400℃に予熱された電気炉に入れた。この中で、原材料に以下の溶融サイクルを施した:2時間以内の1,400℃から1,600℃への昇温、1時間以内の1,600℃から1,630℃への昇温、および1時間に亘る、1,630℃の維持。
【0064】
次いで、炉から坩堝を取り出し、溶融ガラスを、加熱した鉄鋼プレート上に注いだ。次いで、溶融ガラスを5mmの厚さに圧延し、650℃で1時間に亘り焼鈍した。
【0065】
1,630℃での短い保持時間のために、清澄は不完全である。プレート内の気泡の数を、画像分析器に接続されたカメラによって自動的に計数した。
【0066】
これらの結果が、cm3当たりの気泡の数で表されて、下記の表4に与えられている。その結果は、この試験中に、0.39%のSnO2を含有するガラス(実施例11)が、たった0.29%のSnO2しか含有しないガラス(実施例G)よりも、よりよく清澄されることを示している。
【表4】