【実施例】
【0008】
<1>全体の構成
本発明は主に100トン未満の船舶、あるいはコンテナ、木材ブロックを対象とし、漂流防止索と、陸上、海底の捕捉索とによって構成するものである。
この漂流防止索の先端のフックを、陸上、海底の捕捉索にひっかけることによって、船舶などの漂流を抑制する、漂流を抑えるシステムである。
図の実施例では船体1を対象に説明する。
【0009】
<2>漂流防止索
漂流防止索2は、通常の船舶を係留する市販の繊維ロープなど一般的な素材の係留索21と、緩衝材22と、フック3とによって構成する。
係留索21の中間、あるいはその一端に緩衝材22を介在させる。
介在させる緩衝材22は、高い伸縮特性を備えたゴムなどの索、棒または帯状の部材であり、高伸縮特性によって衝撃張力の緩和やエネルギーの吸収を行うものである。
【0010】
<3>フック
漂流防止索2の自由端にはフック3を取り付ける。
フック3は、どの面でも捕捉索に掛かるように鉤31を備えた、従来の錨に似た鋼製または合金製の部材である。
ただし、錨のように常時、周囲に向けて鉤31を突出していては、平常時にも海底の岩や、海底に敷設した捕捉索4と係合してしまう。
そこで一般の雨傘の骨のように、常時は複数本の鉤31を閉じた状態に配置してあり、必要に応じて周囲に向けて鉤31が放射状に拡散する構成を採用する。
そのために例えば
図6に示すように、複数本の鉤31の一端を回転軸32に回転自在に軸止めし、かつ中心から周囲に拡大する方向に鉤31の押し出し力を与えておく。
そして常時は、複数本の鉤31をバネに抵抗した状態で収縮し、その周囲を拘束帯33で拘束しておく。
さらにその拘束帯33と係留索21との間を、短い長さの解放索34で接続しておく。
すると船体1などの急激な上昇によって係留索21が引っ張られた場合に、係留索21の引張力がフック3に到着する前に、解放索34からの引張力が拘束帯33を引き出し、あるいは拘束帯33を破壊して、拘束帯33の拘束力を解放する。
その結果、拘束帯33で解放力を拘束されていた多数の鉤31群が、放射方向に解放されて周囲に複数のフック3を張り出した錨状を呈することになる。
【0011】
<4>索破断防止装置
津波の来襲時に漂流防止索2には、津波に抗してゴムやスプリングの緩衝材22が働いたままの状態が続く場合がある。
すると緩衝材22の内部に大きなエネルギーが解放されずに蓄積し、破断するおそれがある。
そのため、係留索21を緩めエネルギーを解放してやる必要があり、21索に数メートルあるは数十メートルの索21を繰り出すことができる索破断防止装置5を取り付けることも必要になる。
そのために例えば係留索21の途中に巻尺の巻き取り具のような索破断防止装置5を介在させることもできる。
この索判断防止装置5は、係留索21を巻き取り、折り返して束ね中空の容器に収納した装置である。
内部に収納した係留索21には、バネなどの弾力または容器の出口と係留索21の摩擦力によって引き出しに抵抗を与えておく。
係留索21に一定の外力が作用した場合に、係留索21に抵抗を与えながら徐々に容器から係留索21を引き出すことができる。
したがって津波で船体1が上昇した場合に、船体1に抵抗を与えながら、切断することなく係留索21を引き出して、漂流を阻止することができる。
【0012】
<5>捕捉索
海底、および陸上に捕捉索4を設置する。
この捕捉索4は、地中、海底に基礎を埋設した水平材によって構成する。
水平材は、鋼棒、鋼線などで構成する。
すなわち「索」と称しても線材に限るものではなく、明細書、請求項ともに鋼棒なども含んだ意味で使用する。
この水平材に、前記したが係合することによってフック3にひっかかるようにすることで船体1の漂流を阻止する。
捕捉索4は、例えば複数本の、平行して設置した支柱の上端を、共通の水平材で連結した構成を採用することができる。
したがって陸上の捕捉索4は、ガードレールや転落防止柵、岸壁コーナー材、クルマ止めなどとして他の機能を付加することもできる。
コンテナターミナルや貯木場では不沈式、起伏式の索のシステムを採用することができる。
これは通常時には荷役活動の妨げにならないように地面の下に水平材の索を設置しておき、津波時には索を支える杭が上昇し、あるいは起き上がることで水平材としての索が地表から数十センチ上昇するように構成する。
あるいは、捕捉索4に浮きを複数個固着して、津波の波が到来したとき、浮きの浮力によって捕捉索4が地上に浮き出るように構成しても良い。
【0013】
<6>船舶の挙動の説明
次に平常時と津波来襲時の船舶の挙動と、本発明のシステムの作動について説明する。
【0014】
<7>平常時
平常時には、船体11は通常のもやい綱61で岸壁の係船柱6に係留しているが、同時に船尾から漂流防止索2を海底に垂れ流した状態で停泊している。
その漂流防止索2の先端のフック3は、傘の骨を畳んだように、複数のフック3群を拘束帯33で収納した状態にある。
そのためにフック3の鉤31が海底の岩や、海底に敷設した捕捉索4にひっかかることがない。
船舶が漁などで港の外部に出るときには、漂流防止索2を、先端のフック3とともに船体1の内部に取り込む。
【0015】
<8>海底での係止
津波の影響で海面が急激に上昇すると、船体11が波によって急激に持ち上げられ、係船柱6と船体11を繋いでいた長さ数十センチから1m程度の船首側のもやい綱61は切断される。
津波によって海面が更に上昇して漂流防止索2に引張力が作用すると、先端の解放索34がフック3の拘束帯33を解体し、複数の鉤31はバネの弾力によって放射方向に広がる。
その後さらに漂流防止索2が引かれると、フック3は海底面を引きずられる。そのためにフック3の鉤31が、海底に設置してある捕捉索4に係合し、船体1の漂流を一時的に阻止する。
それ以上に海面が上昇すると、ゴムベルトなどで構成した緩衝材22が伸びて係合状態を維持する。
海面の上昇がこの段階で停止すれば、緩衝材22の伸びによってフック3と捕捉索4との係合を維持し続け、船体1の漂流の阻止の機能を果たすことができる。
【0016】
<9>陸上での係止
津波の規模によっては、海面がさらに上昇する。
その場合には海底の捕捉索4が破損し、船体1は漂流防止索2を引きずったままさらに上昇を続ける。
すると漂流防止索2の末端のフック3の鉤31は、陸上に設置したいずれかの捕捉索4に係合することになる。
フック3の鉤31にひっかかった捕捉索4は、岸壁上にガードレール状に設置した捕捉索4の場合もあり(
図4)、さらに海面が上昇すれば、防潮堤の頂部に設置した捕捉索4の場合もある。(
図5)
図示していないが、いずれの段階でも、緩衝材22とともに、前記した索破断防止装置5が十分働きフック3と捕捉索4がつながっている状態を長く維持することができる。
【0017】
<10>引き波時の係合
津波の陸上への遡上が限界に達すると、引き波が生じる。
この引き波によって船体1が沖へ流される可能性があるが、船体1が引きずるフック3は、いずれかの地上の捕捉索4に係合しているから、沖への流出を阻止することができる。
地上の捕捉索4の破損などで、地上への係止が困難となった場合にも、フック3は海底を引きずるから、海底に設けた捕捉索4に係合する可能性が高く、そこで漂流を阻止することもできる。
【0018】
<11>船舶以外
以上は、船体1に漂流防止索2を取り付けた場合の説明であるが、貯木場などに積み上げた木材ブロック、コンテナにおいても同様の効果を期待することができる。
その場合に木材ブロックの外周をワイヤーで拘束し、そのワイヤーに本願発明の漂流防止索2を取り付ける。
あるいはコンテナの底部に開設したフォークリフトのアームを挿入するツイストコーンが着脱する穴に本願発明の漂流防止索2を取り付ける。
するといずれの場合でも津波によって漂流し始めた木材ブロック、コンテナーに一端を固定した漂流防止索2の他端のフック3係止具が、海底あるいは陸上の捕捉索4に係合してそれ以降の漂流を阻止することができる。