特許第5969180号(P5969180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5969180処理フィルムの製造方法及びその製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969180
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】処理フィルムの製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20160804BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20160804BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20160804BHJP
   B29K 29/00 20060101ALN20160804BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   G02B5/30
   B29C55/06
   G02F1/1335 510
   B29K29:00
   B29L7:00
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-169468(P2011-169468)
(22)【出願日】2011年8月2日
(65)【公開番号】特開2013-33154(P2013-33154A)
(43)【公開日】2013年2月14日
【審査請求日】2014年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 悟
(72)【発明者】
【氏名】石神 文広
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−105662(JP,A)
【文献】 特開2007−246849(JP,A)
【文献】 特開2005−084505(JP,A)
【文献】 特開2005−266326(JP,A)
【文献】 特開2009−015314(JP,A)
【文献】 特開2009−237124(JP,A)
【文献】 特開2006−350062(JP,A)
【文献】 特開2009−015277(JP,A)
【文献】 特開2009−258193(JP,A)
【文献】 特開2000−204178(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/010739(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/018012(WO,A1)
【文献】 特開平10−153709(JP,A)
【文献】 特開2004−341515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 55/06
G02F 1/1335
B29K 29/00
B29L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の樹脂フィルムを処理槽内の処理液に接触させて処理しながら搬送する処理工程を少なくとも有する、前記樹脂フィルムから当該樹脂フィルムの処理フィルムを製造する方法において、
前記樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系フィルムであり、
前記処理工程は、膨潤工程、染色工程、架橋工程、延伸工程および洗浄工程を少なくとも含み、かつ
少なくとも1つの前記処理工程は、当該処理工程により得られた前記処理フィルムを、前記処理槽内から搬出した後に、前記処理液外に配置された、第1ロールと第2ロール(処理フィルムの搬送方向を基準に上流側を第一ロール、下流側を第2ロールとする)からなるニップロールおよび前記ニップロールに続いて配置されたガイドロールを介して搬送する工程を有し、かつ、
前記ガイドロールは、当該ガイドロールの頂部が、前記ニップロールにおける第2ロールの頂部よりも上方に配置された上方ガイドロールであり、
かつ、前記処理フィルムを搬出するニップロールに対して、前記処理槽には、前記樹脂フィルムを前記処理槽に搬入する他のニップロールが配置されており、これらニップロールの周速差により、長尺状の樹脂フィルムを長手方向に延伸しながら搬送工程を行い、
前記処理フィルムとして偏光子を製造することを特徴とする処理フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記上方ガイドロールには、当該上方ガイドロールの表面への液供給手段が設けられていることを特徴する請求項1記載の処理フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ニップロールと前記上方ガイドロールは、前記ニップロールの第1ロールと第2ロールの各中心点を結ぶ仮想線に対する仮想垂線の方向を0°とし、当該仮想垂線と前記ニップロールと前記上方ガイドロールで搬送される処理フィルムの方向を表わす仮想搬送線により形成する角度が、0〜90°未満になるように配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の処理フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの前記処理工程が、当該処理工程により得られた前記処理フィルムを、前記処理槽内から搬出した後に、前記処理液外に配置された、液切り手段と、前記ニップロールと、前記上方ガイドロールを、順に介して搬送する工程を有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の処理フィルムの製造方法。
【請求項5】
樹脂フィルムに任意の処理を行うための処理液を満たす少なくとも1つの処理槽を備え、
前記樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系フィルムであり、
前記任意の処理が、膨潤工程、染色工程、架橋工程、延伸工程および洗浄工程を少なくとも含み、かつ
前記処理槽には、当該処理槽において処理された処理フィルムを当該処理槽内からに搬出した後に搬送するための、前記処理液に接触しないように配置された、第1ロールと第2ロール(処理フィルムの搬送方向を基準に上流側を第一ロール、下流側を第2ロールとする)からなるニップロールおよび当該ニップロールに続いて配置されたガイドロールを有し、かつ、前記ガイドロールは、当該ガイドロールの頂部が、前記ニップロールにおける第2ロールの頂部よりも上方に配置された上方ガイドロールであり、
かつ、前記処理フィルムを搬出するニップロールに対して、前記処理槽には、前記樹脂フィルムを前記処理槽に搬入する他のニップロールが配置されており、
前記処理フィルムとして偏光子を製造することを特徴とする処理フィルムの製造装置。
【請求項6】
前記上方ガイドロールには、当該上方ガイドロールの表面への液供給手段が設けられていることを特徴とする請求項5記載の製造装置。
【請求項7】
前記ニップロールと前記上方ガイドロールは、前記ニップロールの第1ロールと第2ロールの各中心点を結ぶ仮想線に対する仮想垂線の方向を0°とし、当該仮想垂線と前記ニップロールと前記上方ガイドロールで搬送される処理フィルムの方向を表わす仮想搬送線により形成する角度が、0〜90°未満になるように配置されていることを特徴とする請求項5または6記載の製造装置。
【請求項8】
前記処理槽が、当該処理槽において処理された処理フィルムを当該処理槽内からに搬出した後に搬送するための、前記処理液に接触しないように配置された、液切り手段と、前記ニップロールと、前記上方ガイドロールを、順に有することを特徴とする請求項5〜7の何れかに記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムから当該樹脂フィルムの処理フィルムを製造する方法およびその製造装置に関する。樹脂フィルムとしては、各種の分野で用いられているものを、処理対象に応じて適宜に選択することができる。なかでも処理フィルムに微細なキズがないことが要求される各種の処理フィルム、例えば、偏光子の製造にあたっては樹脂フィルムとして、例えばポリビニルアルコール系フィルム等が用いられ、偏光子の製造工程における、膨潤工程、染色工程、架橋工程、延伸工程、洗浄工程のいずれか少なくとも1つの処理工程で、本発明を適用することができる。
【0002】
その他、樹脂フィルムとして、セルロースエステル系樹脂等の偏光子用の透明保護フィルム等の各種の光学フィルムが用いられ、ケン化工程、その後の水洗浄工程処理のいずれか少なくとも1つの処理工程で、本発明を適用することができる。偏光子等を含む光学フィルムは、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、プラズマディスプレイ(PD)及び電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)等の画像表示装置に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
画像表示装置(特に、液晶表示装置)には、偏光子等の光学フィルムが用いられている。通常、前記偏光子は、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを染色・一軸延伸することで作製されている。PVA系フィルムを一軸延伸すると、PVA分子に吸着(染色)した二色性物質が配向するため、偏光子となる。
【0004】
このような偏光子を得るために、これまでに多くの方法が提案されている。例えば、偏光子の製造方法として、未配向のPVAフィルムを膨潤浴中で膨潤した後、ヨウ素または二色性染料を吸着させ、さらにホウ酸を含有する水溶液中で、架橋、延伸等の処理を施すことが提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10‐153709号公報
【特許文献2】特開2004‐341515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、液晶表示装置の高性能化が進み、高い視認性が求められている。それに伴い、偏光板についても、視認性を高い透過率を有し、視認性が良好であることが非常に重要となっている。従って、偏光板については、偏光子およびその透明保護フィルムのいずれについても視認性を阻害しないことが求められる。また、偏光板にスクラッチや打痕(点のキズ)があると、製品検査で不良品となり、製品の歩留まりが低下する点でも好ましくない。また、偏光板は、偏光子と透明保護フィルムとの積層体であり、通常は、接着剤等により偏光子と透明保護フィルムを貼り合せているが、偏光子やその透明保護フィルムにスクラッチや打痕があると、前記接着剤等による層間の密着性が不良になる。
【0007】
偏光板において視認性が低下する一因として、偏光子やその透明保護フィルムにおけるスクラッチや打痕の発生が挙げられる。前記のとおり、偏光子はPVAフィルム等を染色液中等に浸漬搬送させて製造され、一方、透明保護フィルムは、偏光子に貼り合せる前に、ケン化処理や水洗浄処理浴中を搬送させられる。通常、これらの処理を施した場合には、生産速度の増加に伴い、これらに発生するスクラッチや打痕も増加する傾向にある。また、偏光子の製造においては、クニック(クニック欠陥)が発生する問題がある。クニックは、PVAフィルム表面がロールに接触して擦れることにより発生する、局所的な凹凸欠陥である。
【0008】
本発明は、長尺状の樹脂フィルムを処理槽内の処理液に接触させて処理しながら搬送する処理工程を少なくとも有する、前記樹脂フィルムから当該樹脂フィルムの処理フィルムを製造する方法であって、処理フィルムに要求される特性を満足しながら、かつ、スクラッチや打痕の発生等を低減することができる処理フィルムの製造方法及びその製造装置を提供することを目的とする。
【0009】
さらには、スクラッチや打痕の発生等を低減することができ、かつクニックを低減することができる処理フィルムの製造方法及びその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す処理フィルムの製造方法およびその製造装置により前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、長尺状の樹脂フィルムを処理槽内の処理液に接触させて処理しながら搬送する処理工程を少なくとも有する、前記樹脂フィルムから当該樹脂フィルムの処理フィルムを製造する方法において、
少なくとも1つの前記処理工程は、当該処理工程により得られた前記処理フィルムを、前記処理槽内から搬出した後に、第1ロールと第2ロール(処理フィルムの搬送方向を基準に上流側を第一ロール、下流側を第2ロールとする)からなるニップロールおよび前記ニップロールに続いて配置されたガードロールを介して搬送する工程を有し、かつ、
前記ガイドロールは、当該ガイドロールの頂部が、前記ニップロールにおける第2ロールの頂部よりも上方に配置された上方ガイドロールであることを特徴とする処理フィルムの製造方法、に関する。
【0012】
前記処理フィルムの製造方法において、前記上方ガイドロールには、当該上方ガイドロールの表面への液供給手段が設けることができる。
【0013】
前記処理フィルムの製造方法において、前記ニップロールと前記上方ガイドロールは、前記ニップロールの第1ロールと第2ロールの各中心点を結ぶ仮想線に対する仮想垂線の方向を0°とし、当該仮想垂線と前記ニップロールと前記上方ガイドロールで搬送される処理フィルムの方向を表わす仮想搬送線により形成する角度が、0〜90°未満になるように配置されていることが好ましい。
【0014】
前記処理フィルムの製造方法において、前記処理フィルムを搬出するニップロールに対して、前記処理槽には、前記樹脂フィルムを前記処理槽に搬入する他のニップロールが配置されており、これらニップロールの周速差により、長尺状の樹脂フィルムを長手方向に延伸しながら行うことができる。
【0015】
前記処理フィルムの製造方法は、前記樹脂フィルムに処理工程を施すことにより得られる処理フィルムが光学フィルムである場合に好適に適用できる。
【0016】
前記処理フィルムの製造方法は、前記樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系フィルムであり、処理フィルムである偏光子を製造する場合に適用することができる。この場合、前記処理工程は、膨潤工程、染色工程、架橋工程、延伸工程および洗浄工程を少なくとも含み、かつ、膨潤工程、染色工程、架橋工程、延伸工程および洗浄工程のいずれか少なくとも1つの工程において、得られた処理フィルムを、処理槽内から搬出した後に、前記ニップロールおよび前記ニップロールに続いて配置された上方ガードロールを介して搬送する工程を有する。
【0017】
また本発明は、樹脂フィルムに任意の処理を行うための処理液を満たす少なくとも1つの処理槽を備え、
前記処理槽には、当該処理槽において処理された処理フィルムを当該処理槽内からに搬出した後に搬送するための、第1ロールと第2ロール(処理フィルムの搬送方向を基準に上流側を第一ロール、下流側を第2ロールとする)からなるニップロールおよび当該ニップロールに続いて配置されたガードロールを有し、かつ、前記ガイドロールは、当該ガイドロールの頂部が、前記ニップロールにおける第2ロールの頂部よりも上方に配置された上方ガイドロールであることを特徴とする処理フィルムの製造装置、に関する。
【0018】
前記製造装置において、当該上方ガイドロールの表面への液供給手段を有することができる。
【0019】
前記製造装置において、前記ニップロールと前記上方ガイドロールは、前記ニップロールの第1ロールと第2ロールの各中心点を結ぶ仮想線に対する仮想垂線の方向を0°とし、当該仮想垂線と前記ニップロールと前記上方ガイドロールで搬送される処理フィルムの方向を表わす仮想搬送線により形成する角度が、0〜90°未満になるように配置されていることが好ましい。
【0020】
前記製造装置において、前記処理フィルムを搬出するニップロールに対して、前記処理槽には、前記樹脂フィルムを前記処理槽に搬入する他のニップロールが配置することができる。
【発明の効果】
【0021】
通常、連続的に搬送される樹脂フィルム(例えば、PVA系フィルム)に処理液を接触させる処理工程を施すことにより得られる処理フィルムは、処理液を有する処理槽内から搬出された後に、ニップロールにより液切りされながら搬送される。処理フィルムにスクラッチや打痕が発生するのは、当該処理フィルムと、ニップロールとの間に流体(処理液)とともに微細な異物が侵入し、当該異物がニップロールに挟まれることでスクラッチや打痕が発生すると考えられる。
【0022】
本発明の製造方法では、前記ニップロールに、続いて、前記ニップロールより上方に設置された上方ガイドロールが設けられている。前記上方ガイドロールの頂部は、前記ニップロールにおける下流側の第2ロールの頂部よりも上側に配置されている。このように、ニップロールに、続いて、上方ガイドロールを設けることにより、ニップロール間を通過して搬送される処理フィルムは、ニップロール間を通過した後にはニップロールに殆ど接触することなく、上方ガイドロールに導かれる。そのため、異物がニップロールに挟まれることにより発生するスクラッチや打痕を抑えることができると考えられる。
【0023】
また、本発明の製造方法では、ニップロールを通過して搬送される処理フィルムは、ニップロール間を通過した後にはニップロールに殆ど接触しない。そのため、液切りされた処理フィルム表面がニップロールに接触して擦れることにより発生するクニックを抑えることができるものと考えられる。一方、ニップロールを通過した処理フィルムは、上方ガイドロールにより搬送されるが、上方ガイドロールが乾燥していると、却って、処理フィルムとの擦れによって、クニックが発生するおそれがある。本発明の製造方法では、上方ガイドロールの表面への液供給手段を設けることにより、上方ガイドロールの表面に薄液膜を形成させることでできる。その結果、処理フィルムの乾燥状態を改良して、クニックをより効果的に抑えることができると考えられる。
【0024】
かかる本発明の製造方法により、樹脂フィルムであるPVA系フィルムから、光学特性の面内均一性に優れた処理フィルム(偏光子等の光学フィルム)の製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の処理フィルムの製造方法における、処理工程に係る実施の一形態を示す概念図である。
図2】本発明の処理フィルムの製造方法における、処理工程に係るニップロールと上方ガイドロールトの配置に関する角度の一形態を示す概念図である。
図3】本発明の処理フィルムの製造方法に係わる、偏光子の製造方法に係る実施の一形態を示す概念図である。
図4】従来の処理フィルムの製造方法に係わる、偏光子の製造方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に図面を参照しながら、本発明の処理フィルムの製造方法を説明する。図1は、本発明の処理フィルムの製造方法における、処理工程に係る。図1では、樹脂フィルムWと、水平方向に配置された一対の第一ロールR1と第二ロールR2(処理フィルムの搬送方向を基準に上流側を第一ロールR1、下流側を第二ロールR2とする)からなるニップロールR1、R2と、上方ガイドロールGと、処理液Xを有する処理槽Yに係る実施の一形態が示されている。ニップロールR1、R2により、処理槽Yから搬出される処理フィルムW´は液切りされる。図1では、処理槽Yに搬入された樹脂フィルムWは、処理液X中を、2つのガイドロールgを介して搬送される。処理液X中のガイドロールgの本数、配置は適宜に決定することができる。なお、処理液X中の最終のガイドロールgとニップロールR1、R2との配置関係は特に制限はないが、処理フィルムW´の表面から液切りにより掻き落とされた処理液Xや異物をスムーズに落下させる観点から、図1に示すように、最終ガイドロールgから搬出される処理フィルムが、ニップロールR1、R2に向けて垂直方向に搬送されるように、最終ガイドロールgを配置することが好ましい。
【0027】
ニップロールに係る第一ロールR1と第二ロールR2は、図1に示すように、水平方向に配置することが、処理フィルムW´の表面から処理液Xや異物を液切りするうえで好ましい。図1のように、ニップロールR1、R2を水平方向で配置することで、処理フィルムが縦方向で、ニップロールR1、R2を通過するため、液切りの際に、処理液Xと共に異物も落下しやすく、ニップロールR1、R2に挟まれる異物の絶対量を少なくすることができる。
【0028】
一方、ニップロールに係る第一ロールR1と第二ロールR2は、いずれか一方のロールが他方のロールよりも高い位置になるように非水平方向に配置されていてもよい。第一ロールR1と第二ロールR2を非水平方向に配置する場合には、通常は、第一ロールR1が第二ロールR2よりも高い位置に配置するのが好ましい。また、第一ロールR1と第二ロールR2は垂直方向に配置することもできる。第一ロールR1と第二ロールR2は垂直方向に配置する場合には、下側のロールが第二ロールR2に該当する。第一ロールR1と第二ロールR2を非水平方向に配置する場合においても、図1に示すように、最終ガイドロールgから搬出される処理フィルムが、ニップロールR1、R2に向けて垂直方向に搬送されるように、最終ガイドロールgを配置することが好ましい。
【0029】
上方ガイドロールGは、ニップロールR1、R2に続いて設けられている。また上方ガイドロールGの頂部bは、前記ニップロールR1、R2における第二ロールR2の頂部aよりも上側に配置されている。このように、第二ロールR2に対して、上方ガイドロールGを配置することで、ニップロールR1、R2を通過した処理フィルムW´とニップロールR1、R2との接触を少なくすることができる。
【0030】
上方ガイドロールGの頂部bは、前記ニップロールR1、R2における第二ロールR2の頂部aよりも上側に配置されていれば特に制限はない。図1では、第二ロールR2の略上方に上方ガイドロールGが設置されている。装置全体の処理工程の流れ方向が図1に示すように左側から右側の方向にある場合を基準として、上方ガイドロールGの設置は、第二ロールR2よりも左側に配置されていてもよく、第一ロールR1よりも右側に配置されていてもよい。生産性の観点からは、上方ガイドロールGの設置は、第二ロールR2の垂直方向または右側に配置するのが好ましい。
【0031】
なお、上方ガイドロールGは、ガイドロールGの頂部bが、ニップロールR1、R2における第二ロールR2の頂部aよりも上方に配置されていることが好ましいが、ガイドロールGの底部cが、第二ロールR2の頂部aよりも上方に配置されていなくともよい。但し、ガイドロールGの底部cが、第二ロールR2の頂部aよりも上方に配置されていることが好ましい。
【0032】
図2は、前記ニップロールR1、R2と前記上方ガイドロールGの配置に関する好ましい態様を示す一例である。図2に示すように、上方ガイドロールGは、第二ロールR2の垂直方向または下流側に配置されているのが好ましい。具体的には、ニップロールR1、R2に係る第一ロールR1と第二ロールR2の各中心点s1、s2を結ぶ仮想線v1に対する仮想垂線v2の方向を0°とし、当該仮想垂線v2と前記ニップロールと前記上方ガイドロールGで搬送される処理フィルムW´の方向を表わす仮想搬送線v3により形成する角度Aが、0〜90°未満になるように配置するのが好ましい。前記角度Aは、小さいほど好ましく、75°以下が好ましく、さらには60°以下が好ましく、さらには30°以下が好ましく、0°が最も好ましい。図2において、上方ガイドロールG1は前記角度Aが0°での配置、上方ガイドロールG2は前記角度Aが30°での配置、上方ガイドロールG3の前記角度Aが60°での配置、上方ガイドロールG4の前記角度Aが75°での配置を、それぞれ示す。
【0033】
図1では、上方ガイドロールGに液供給手段Qが設けられている。液供給手段Qにより、上方ガイドロールGの表面へ各種液を供給して、上方ガイドロールGの表面へ薄液膜を効率よく形成することができ、処理フィルムW´に発生するクニックを効率的に抑制することができる。前記液供給手段Qとしては特に限定されず、例えば、液受け皿、無発埃フェルト、ノズル等が挙げられ、これら液供給手段Qにより各種液の供給が可能である。前記液としては、例えば、水や、各処理槽で用いられるのと同様の処理液が挙げられる。
【0034】
また、図1において、処理槽Yから処理フィルムW´を搬出するニップロールR1、R2に対応させて、処理槽Yには樹脂フィルムWを処理槽Yに搬入するニップロールR1、R2を配置することができる。図1では処理槽Yに搬入するニップロールは記載していない。前記のように、処理槽Yに、樹脂フィルムを搬入するニップロールR1、R2と処理フィルムを搬出するニップロールR1、R2を配置した場合には、これらの周速差により、樹脂フィルムWを長手方向に延伸しながら行うことができる。通常、前記処理工程において延伸を施す場合には、樹脂フィルムWの走行方向において前方に配置したニップロールR1、R2の周速よりも、後方に設置したニップロールR1、R2の周速が早くなるように、それぞれのニップロールR1、R2の周速差が制御される。
【0035】
また、図1には記載していないが、ニップロールR1、R2の前後には、前記処理フィルムW´の片面側または両面に対する液切り手段を有することができる。液切り手段としては、例えば、液切りローラ、液切りバー、スクレバー、エアナイフ等が挙げられる。特に、回転式の液切りローラや非接触式のエアナイフが好ましい。液切り手段の配置は、前記処理フィルム´がニップロールR1、R2に接触する前であるのが、スクラッチや打痕の発生を抑えるうえで好ましい。
【0036】
前記樹脂フィルムWの搬送速度(mm/min)は、通常、0.1〜30m/minの範囲内が好ましく、1〜15mm/minの範囲内がより好ましい。搬送速度を0.1mm/min以上にすることにより、樹脂フィルムWからの処理フィルムW´(例えば、偏光子)の生産性を向上させることができる。その一方、搬送速度を30m/min以下にすることにより、処理液Xが剪断により対流するのを低減することができる。
【0037】
前記処理槽Yには、樹脂フィルムWに対し任意の処理を行うための処理液(詳細は後述する)が満たされている。前記樹脂フィルムWは、処理液Xに浸漬することで接触することができる。前記樹脂フィルムWは、処理液Xにより処理されて、処理フィルムW´として得られる。
【0038】
また、処理液Xの粘度は100mPa・s以下が好ましく、50mPa・s以下がより好ましく、10mPa・s以下が更に好ましい。処理液Xの粘度を100mPa・s以下にすることにより、樹脂フィルムWと処理液の間での摩擦を低減することができる。その結果、処理液Xと接触している樹脂フィルムWの搬送に起因して発生する処理液の流動を抑制し、処理ムラの発生を低減することができる。
【0039】
本発明の処理フィルムの製造方法に用いられる樹脂フィルムとしては、各種の樹脂材料を用いることができる。樹脂材料は、各種用途に応じて適宜に選択して用いられる。樹脂材料としては、可視光領域において透光性を有するものが光学フィルム等の用途において好適に用いることができる。
【0040】
透光性樹脂としては、例えば、透光性の水溶性樹脂があげられる。透光性の水溶性樹脂を用いた樹脂フィルムは、例えば、PVA系フィルムが偏光子の製造に好適に用いられる。PVA系フィルムには、ポリビニルアルコールまたはその誘導体が用いられる。ポリビニルアルコールの誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール等があげられる他、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸そのアルキルエステル、アクリルアミド等で変性したものがあげられる。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜10000程度が好ましく、1000〜10000がより好ましい。ケン化度は80〜100モル%程度のものが一般に用いられる。
【0041】
上記の他、PVA系フィルムとしては、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルム、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。
【0042】
前記PVA系フィルム中には、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含有することもできる。可塑剤としては、ポリオールおよびその縮合物等が挙げられ、たとえばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。可塑剤等の使用量は、特に制限されないがポリビニルアルコール系フィルム中20重量%以下とするのが好適である。
【0043】
また透光性の水溶性樹脂としては、例えばポリビニルピロリドン系樹脂、アミロース系樹脂等があげられる。
【0044】
前記樹脂フィルムWの厚さは、用途に応じて適宜に決定しうる。樹脂フィルムWの厚さは、通常、10〜300μm程度のものが用いられ、好ましくは20〜100μmである。前記樹脂フィルムWのフィルム幅は、100〜4000mmの範囲内であることが好ましく、500〜3500mmの範囲内であることがより好ましい。
【0045】
前記樹脂フィルムWが、例えば、偏光子の製造に用いられるPVA系フィルムの場合、その厚さは、例えば15〜110μmの範囲内が好ましく、38〜110μmの範囲内がより好ましく、50〜100μmの範囲内が更に好ましく、60〜80μmの範囲内が特に好ましい。PVA系フィルムの厚さが15μm未満であると、PVA系フィルムの機械的強度が低すぎて、均一な延伸が困難になり、偏光子を製造する場合には、色斑が発生しやすい。その一方、PVA系フィルムの厚さが110μmを超えると、十分な膨潤が得られないため偏光子の色斑が強調されやすくなるので、好ましくない。
【0046】
本発明の処理フィルムの製造方法の実施の一態様について、樹脂フィルムに処理工程を施すことにより光学フィルムを得る場合について、図面を参照しながら以下に説明する。図3は、本発明の処理フィルムの製造方法に係わる、偏光子の製造方法の一例を示す概念図である。偏光子の製造方法は、膨潤工程A、染色工程B、架橋工程C、延伸工程D、および洗浄工程Eを含む。図3では、原反ロールから繰り出される樹脂フィルム(PVA系フィルム)Wに、順次に、膨潤工程A、染色工程B、架橋工程C、延伸工程D、洗浄工程Eが順次に施され、最終的に乾燥工程Fが施される、偏光子が製造される場合である。
【0047】
図3では、送り出しロールRから、樹脂フィルムWが、各処理槽Yに配置されたニップロールR1、R2を介して搬送される。乾燥工程Fの後方には、処理フィルムW´の巻き取りロールR´を有する。樹脂フィルムWは、各処理槽Yにおいて処理された後に、処理フィルムとして搬出される。なお、ニップロールR1、R2は、各処理槽Yの後部の上方部において、水平方向に配置されている。膨湿工程Aの前部の上方には、ニップロールR1、R2が垂直方向に配置されている。また、各処理槽Y(但し、洗浄工程Eの処理槽Yを除く)に配置したニップロールR1、R2の上部には、上方ガイドロールGが配置されている。なお、図3では、膨潤工程Aと染色工程B、染色工程Bと架橋工程C、架橋工程Cと延伸工程D、および延伸工程Dと洗浄工程Eの間に配置されたニップロールR1、R2は、後方のニップロールと前方のニップロールを兼ねている。
【0048】
図3において、膨潤工程A、染色工程B、架橋工程C、延伸工程D、洗浄工程Eにおける各処理槽Yには各工程に応じた処理液Xが用いられる。図3において、膨潤工程A、染色工程B、架橋工程C、延伸工程Dに係る各処理槽Yにおける処理工程として、ニップロールR1、R2に対して、上方ガイドロールGが配置されているが、かかる本発明のニップロールR1、R2と上方ガイドロールGの配置は、いずれか少なくとも一つの処理槽Yにおける処理工程において施されていればよい。従って、本発明の処理フィルムの製造方法に係る、ニップロールR1、R2と上方ガイドロールGを配置する処理工程は、膨潤工程A、染色工程B、架橋工程C、延伸工程D、洗浄工程Eを有する偏光子の製造方法において、いずれかの工程において適用されていてもよく、2つ以上の工程、更には全工程において適用されていてもよい。また、図3では、各処理槽YにおけるニップロールR1、R2と上方ガイドロールGの配置は、略同じ角度、高さで配置されているが、上方ガイドロールGの配置は、各処理槽Yに応じて設計することができる。
【0049】
なお、図4は、従来の処理フィルムの製造方法に係わる、偏光子の製造方法を示す概念図である。図4は、図3の膨潤工程A、染色工程B、架橋工程C、延伸工程Dおよび洗浄工程Eにおいて、各処理槽Yの後方に、ニップロールR1、R2が配置されているが、上方ガイドロールGが配置されていない場合である。
【0050】
前記膨潤工程Aは、原反フィルムとしてのPVA系フィルムを、膨潤液(処理液)に接触させる工程である。当該工程を行うことにより、PVA系フィルムが水洗され、PVA系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができると共に、PVA系フィルムを膨潤させることで染色ムラ等の不均一性を防止することが可能になる。
【0051】
前記膨潤液としては、例えば水を使用することができる。更に、膨潤液中には、グリセリンやヨウ化カリウム等を適宜加えてもよい。添加する濃度は、グリセリンの場合5重量%以下、ヨウ化カリウムの場合10重量%以下であることが好ましい。膨潤液の温度は、20〜45℃の範囲が好ましく、25〜40℃の範囲内がより好ましく、30〜35℃の範囲内が更に好ましい。また、膨潤液との接触時間は特に限定されないが、通常は20〜300秒間であることが好ましく、30〜200秒間であることがより好ましく、30〜120秒間であることが特に好ましい。
【0052】
膨潤工程Aでは、適宜に延伸することができる。前記延伸倍率は、PVA系フィルムの元長に対して、通常、6.5倍以下とされる。好ましくは、光学特性の点から、前記延伸倍率は、1.2〜6.5倍、更には2〜6.3倍、更には3〜6.1倍にするのが好ましい。膨潤工程Aにおいて、延伸を施すことにより、膨潤工程A後に施される延伸工程Dでの延伸を小さく制御することができ、フィルムの延伸破断が生じないように制御できる。一方、膨潤工程Aでの、延伸倍率が大きくなると、延伸工程での延伸倍率が小さくなり過ぎ、特に、架橋工程Cの後に延伸工程Dを施す場合には光学特性の点で好ましくない。
【0053】
前記染色工程Bは、前記PVA系フィルムを、ヨウ素または二色性染料を含む染色液(処理液)に接触させることによって、前記ヨウ素または二色性染料をPVA系フィルムに吸着させる工程である。染色工程Bは、延伸工程Dとともに行うことができる。
【0054】
前記染色液としては、ヨウ素を溶媒に溶解した溶液が使用できる。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。ヨウ素の濃度としては、0.01〜10重量%の範囲にあることが好ましく、0.02〜7重量%の範囲にあることがより好ましく、0.025〜5重量%であることが特に好ましい。また、染色効率をより一層向上させるために、更にヨウ化物を添加することが好ましい。このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらヨウ化物の添加割合は、前記染色浴に於いて、0.010〜10重量%であることが好ましく、0.10〜5重量%であることがより好ましい。これらのなかでも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましく、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合(重量比)は、1:5〜1:100の範囲にあることが好ましく、1:6〜1:80の範囲にあることがより好ましく、1:7〜1:70の範囲にあることが特に好ましい。
【0055】
前記染色液との接触時間は特に限定されないが、通常は10〜200秒の範囲内が好ましく、15〜150秒の範囲内がより好ましく、20〜130秒の範囲内が更に好ましい。また、染色液の温度は、5〜42℃の範囲が好ましく、10〜35℃の範囲内がより好ましく、12〜30℃の範囲内が更に好ましい。
【0056】
前記架橋工程Cは、例えば、架橋剤を含む架橋液(処理液)にPVA系フィルムを接触させて架橋する工程である。架橋工程Cの順序は特に制限されない。架橋工程Cは、延伸工程Dとともに行うことができる。架橋工程Cは複数回行うことができる。前記架橋剤としては、従来公知の物質を使用することができる。例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種類以上を併用してもよい。
【0057】
前記架橋液としては、前記架橋剤を溶媒に溶解した溶液を使用することができる。前記溶媒としては、例えば水を使用できるが、更に水と相溶性のある有機溶媒を含んでもよい。前記溶液に於ける架橋剤の濃度は特に限定されないが、1〜10重量%の範囲であることが好ましく、2〜6重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0058】
前記架橋液中には、偏光子の面内において均一な光学特性が得られる点から、ヨウ化物を添加してもよい。このヨウ化物としては特に限定されず、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。また、ヨウ化物の含有量は、0.05〜15重量%の範囲内であることが好ましく、0.5〜8重量%の範囲内であることがより好ましい。前記に例示したヨウ化物は一種単独で、又は二種類以上を併用してもよい。二種類以上を併用する場合は、ホウ酸とヨウ化カリウムの組み合わせが好ましい。ホウ酸とヨウ化カリウムの割合(重量比)としては、1:0.1〜1:3.5の範囲にあることが好ましく、1:0.5〜1:2.5の範囲にあることがより好ましい。
【0059】
前記架橋液の温度は特に限定されないが、通常は20〜70℃の範囲内が好ましく、20〜40℃の範囲内がより好ましい。また、PVA系フィルムとの接触時間は特に限定されないが、通常は5〜400秒の範囲内が好ましく、50〜300秒の範囲内がより好ましく、150〜250秒の範囲内が更に好ましい。
【0060】
前記延伸工程Dは、通常、一軸延伸を施すことにより行う。この延伸方法は、染色工程B、架橋工程Cとともに施すことができる。一軸延伸は、前記のように処理槽Yの前後方に配置したニップロールの周速度差を利用して行うことができる。延伸は、例えば、染色工程Bを施した後、延伸を行うことが一般的である。また架橋工程Cとともに延伸を行うことができる。
【0061】
延伸工程Dでは、総延伸倍率が、PVA系フィルムの元長に対して、総延伸倍率で2〜6.5倍の範囲になるように行う。好ましくは2.5〜6.3倍、更に好ましくは3〜6.1倍である。即ち、前記総延伸倍率は、延伸工程D以外の、後述の膨潤工程A等において延伸を伴う場合には、それらの工程における延伸を含めた累積の延伸倍率をいう。総延伸倍率は、膨潤工程A等における延伸倍率を考慮して適宜に決定される。総延伸倍率が低いと、配向が不足して、高い光学特性(偏光度)の偏光子が得られにくい。一方、総延伸倍率が高すぎると延伸切れが生じ易くなり、また偏光子が薄くなりすぎて、続く工程での加工性が低下するおそれがある。
【0062】
延伸工程Dに用いる処理液にヨウ化化合物を含有させることができる。当該処理液にヨウ化化合物を含有させる場合、ヨウ化化合物濃度は0.1〜10重量%程度、更には0.2〜5重量%で用いるのが好ましい。
【0063】
前記処理浴の温度は特に限定されないが、通常は20〜70℃の範囲内が好ましく、20〜40℃の範囲内がより好ましい。また、PVA系フィルムとの接触時間は特に限定されないが、通常は5〜100秒の範囲内が好ましく、10〜80秒の範囲内がより好ましく、20〜70秒の範囲内が更に好ましい。
【0064】
偏光子の製造方法では、前記工程を施した後に、洗浄工程Eが施される。洗浄工程Eは、ヨウ化物含有水溶液(処理液)により行うことができる。前記ヨウ化物含有水溶液におけるヨウ化物としては、前述のものが使用でき、その中でも、例えば、ヨウ化カリウムやヨウ化ナトリウム等が好ましい。このヨウ化物含有水溶液によって、前記架橋工程において使用した残存するホウ酸を、PVA系フィルムから洗い流すことができる。前記水溶液が、ヨウ化カリウム水溶液の場合、その濃度は、例えば、0.5〜20重量%の範囲内が好ましく、1〜15重量%の範囲内がより好ましく、1.5〜7重量%の範囲内が更に好ましい。
【0065】
前記ヨウ化物含有水溶液の温度は特に限定されないが、通常は15〜40℃の範囲内が好ましく、20〜35℃の範囲内がより好ましい。また、PVA系フィルムとの接触時間は特に限定されないが、通常は2〜30秒の範囲内が好ましく、3〜20秒の範囲内がより好ましい。
【0066】
なお、偏光子の製造方法に係る、膨潤工程A、染色工程B、架橋工程C、延伸工程D、洗浄工程Eにおいて、本発明の処理工程を適用しない場合には、PVA系フィルムと処理液とは各種の接触方法により処理される。他の接触方法としては、例えば、処理液中に浸漬させる方法や塗布する方法、噴霧する方法等が挙げられる。これらの方法による場合の浸漬時間、及び浴液の温度は適宜必要に応じて設定され得る。
【0067】
前記各工程を施した後には、最終的に、乾燥工程を施して、偏光子を製造する。前記乾燥工程としては、自然乾燥、風乾、加熱乾燥等、適宜な方法を用いることができるが、通常、加熱乾燥が好ましく用いられる。加熱乾燥を行う場合、加熱温度は特に限定されないが、通常は25〜80℃の範囲内が好ましく、30〜70℃の範囲内がより好ましく、30〜60℃の範囲内が更に好ましい。また、乾燥時間は1〜10分間程度であることが好ましい。
【0068】
得られた偏光子は、常法に従って、その少なくとも片面に透明保護フィルムを設けた偏光板とすることができる。透明保護フィルムを構成する材料としては、例えば透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロール等のセルロール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、およびこれらの混合物があげられる。
【実施例】
【0069】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は特に限定的な記載がない限り、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0070】
実施例1
<PVA系フィルムの準備>
原反PVA系フィルム((株)クラレ製,商品名:VF−PS750)を準備した。このPVA系フィルムは幅3100mm、厚さは75μmであった。
【0071】
<偏光子の作製>
前記図3に示す本発明の製造装置を用いて、膨潤工程、染色工程、架橋工程、延伸工程、洗浄工程、乾燥工程を順次行った。より詳細には下記の通りである。なお、膨潤工程、染色工程、架橋・延伸工程及び洗浄工程の各工程で使用するそれぞれの処理槽は、水平に設置した。PVA系フィルムの搬送速度は12m/minとした。膨潤工程、染色工程、架橋工程、延伸工程の各処理槽の後部の上方部には、図2に示される、ニップロールR1、R2と上方ガイドロールGが仮想垂線v2と仮想搬送線v3により形成する角度Aが0°になるように配置した。また各処理槽Yの最終ガイドロールgから搬出される処理フィルムが、ニップロールR1、R2に向けて垂直方向に搬送されるように、最終ガイドロールgを配置した。また、各上方ガイドロールGには液供給手段として、液受け皿を設けた。
【0072】
≪膨潤工程≫
処理槽には膨潤液(水,液温30℃)を満たした。また、膨潤液とPVA系フィルムの接触時間は30秒とし、縦方向に延伸をしながら膨潤を行った。縦方向延伸倍率は未延伸状態のPVA系フィルムに対し2.4倍とした。
【0073】
≪染色工程≫
処理槽には染色液(0.035重量%のヨウ素水溶液(0.07重量%のヨウ化カリウム含有),液温25℃)を満たした。また、染色液とPVA系フィルムの接触時間は30秒とし、縦方向に延伸をさせながら染色を行った。縦方向の延伸倍率は未延伸状態のPVA系フィルムに対し3.3倍とした。
【0074】
≪架橋工程≫
処理槽には架橋液(2.5重量%のホウ酸と2重量%のヨウ化カリウムを含む水溶液、液温35℃)を満たした。また、架橋液とPVA系フィルムの接触時間は60秒とし縦方向に延伸をさせながら染色を行った。縦方向の延伸倍率は未延伸状態のPVA系フィルムに対し3.5倍とした。
【0075】
≪延伸工程≫
処理槽には架橋液(2.5重量%のホウ酸と2重量%のヨウ化カリウムを含む水溶液、液温60℃)を満たした。また、架橋液とPVA系フィルムの接触時間は60秒とし縦方向に延伸をさせながら染色を行った。縦方向の延伸倍率は未延伸状態のPVA系フィルムに対し6.55倍とした。
【0076】
≪洗浄工程≫
処理槽には調整液(2.5重量%のヨウ化水素水溶液,液温30℃)を満たした。また、調整液とPVA系フィルムの接触時間は15秒とした。
【0077】
≪乾燥工程≫
洗浄工程後のPVA系フィルムに対し乾燥温度40℃、乾燥時間200秒で行った。その後、PVA系フィルムの両端部を切断し、ポリエチレンテレフタレートを合紙として巻き取った。これにより、ロール状の偏光子を作製した。得られた偏光子の厚みは30μmであった。
【0078】
<偏光板の作製>
偏光板はラミネーターを用いて、前記偏光子の両面にトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム(株)製,商品名;TD80UL)をPVA系接着(日本合成化学(株)製、商品名;NH18)を介して貼り合わせた。貼り合わせ温度は25℃とした。次に、貼り合わせ後の積層体を空気循環式恒温オーブンを用いて、55℃、300秒間の条件下で乾燥させた。これにより偏光板を作製した。
【0079】
比較例1
<偏光子の作製>
実施例1と同様の原反PVA系フィルムを用いた。前記図4に示す製造装置を用いて、膨潤工程、染色工程、架橋・延伸工程、洗浄工程、乾燥工程を順次行った。PVA系フィルムの搬送速度は12m/minとした。
【0080】
<偏光板の作製>
比較例1に係る偏光板は、前記実施例1と同様にして作製した。
【0081】
実施例および比較例で得られた偏光板を30m切り出して、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(異物の確認)
各サンプルの偏光板について、目視により、キズ(輝点)200μm以上の有無の個数を確認した。
【0083】
(クニック欠陥)
各サンプルの偏光板を、蛍光灯下に置いた。サンプルの偏光板の光源側に別の偏光板を、それぞれの吸収軸が直行するように設置し、この状態で、光抜けする箇所(クニック欠陥)の個数をカウントした。
【0084】
【表1】
【0085】
表1から分かる通り、実施例に係る偏光子はフィルムのキズも少なく、クニックを低減できることが確認された。
【符号の説明】
【0086】
R1、R2 ニップロール
G 上方ガイドロール
X 処理液
Y 処理槽
W 樹脂フィルム
Q 液供給手段
図1
図2
図3
図4