(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、触媒の活性化温度の範囲を拡大させるとなれば、触媒に対して白金などの貴金属を大量に使用しなければならず、触媒に関わるコストが大幅に増大してしまう。そのため、触媒の昇温を促進させるために、上述したファンのような既存の構成を利用した方策が強く望まれている。
【0007】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンを冷却するためのファンの回転を制御することにより、触媒の昇温を促進させることが可能なファン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様の一つは、車両のエンジンの出力軸に電子制御式のファンクラッチを介して連結されたファンの回転を制御するファン制御装置であって、前記車両の運転状態を推定する運転状態推定部と、前記エンジンを冷却する冷却液の温度と前記出力軸の回転速度に対する前記ファンの回転速度の比率である駆動量とが対応付けられた制御マップを前記運転状態ごとに記憶する記憶部と、前記運転状態推定部の推定した前記運転状態に対応する前記制御マップと前記冷却液の温度とから前記ファンの駆動量を選択する駆動量選択部と、前記駆動量選択部が選択した駆動量と前記出力軸の回転速度とに基づいて、前記ファンの回転速度の目標値を演算する回転速度演算部と、前記ファンの回転速度が前記目標値となるように前記ファンクラッチを制御する制御部とを備え、前記運転状態推定部は、前記エンジンからの排気を浄化する触媒の温度を検出する触媒温度検出部から入力される検出信号に基づ
く前記触媒の温度が当該触媒の活性化温度の下限値以下である暖機状態と、前記冷却液における温度の上昇が相対的に大きい運転状態である高負荷状態と、前記冷却液における温度の上昇が相対的に小さい運転状態である通常状態とを当該運転状態推定部が推定する運転状態に含み、前記記憶部には、前記暖機状態に対応する前記制御マップである暖機マップと、前記高負荷状態に対応する前記制御マップである高負荷マップと、前記通常状態に対応する前記制御マップである通常マップとが記憶されており、前記暖機マップには、前記出力軸と前記ファンとを連結し続けることを示す駆動量が対応付けられ、前記高負荷マップには、前記通常マップにおいて同じ温度に対応付けられている駆動量以上の駆動量が対応付けられている。
【0009】
本発明の態様の一つによれば、触媒の温度が活性化温度の下限値以下であるときに、出力軸とファンとが連結され続ける。これにより、触媒の温度が下限値以下であるときにファンが駆動されない場合に比べて、エンジンの出力のうちでファンの回転で消費される分だけエンジンに対する負荷が増大されるため、エンジンにより多くの燃料が供給される。その結果、より高い温度の排気が生成されることから、触媒の昇温を促進させることができる。
【0011】
また、記憶部には、車両の運転状態に対応付けられた制御マップが記憶されており、運転状態推定部によって推定された運転状態に対応する制御マップに基づいてファンの回転速度が設定される。そのため、車両の運転状態が、触媒の温度が活性化温度の下限値以下である暖機状態とは異なる運転状態であっても、その時々における車両の運転状態に応じた回転速度でファンを回転させることができる。
また、暖機状態とは異なる車両の運転状態ごとの制御マップと冷却液の温度とからファンの回転速度が設定される。その結果、暖機状態とは異なる運転状態において、冷却液の温度の上昇に見合った回転速度でファンを回転することが可能である。そのため、暖機状態とは異なる運転状態において、エンジンの冷却に必要とされる回転速度以上の回転速度でファンが駆動される場合に比べて、ファンの駆動にともなうエンジン出力の損失を抑えること、ひいてはエンジンの温度を所定の範囲内に保ちつつ燃費の向上を図ることが可能となる。また、冷却液が高温に維持されると共に、エンジンオイルも高温に維持されやすくなることから、エンジンフリクションによるエンジン出力の損失を抑えることが可能にもなる。
【0012】
本発明の態様の一つにおいて、前記運転状態推定部は、前記暖機状態
、前記高負荷状態、前記通常状態、および、前記車両が発進して加速している運転状態である発進・加速状態のうちのいずれか1つに推定するものであり、前記記憶部には
、前記発進・加速状態に対応する前記制御マップである発進・加速マッ
プがさらに記憶されており、前記高負荷マップには、前記冷却液の温度が第1設定温度以上の範囲で前記ファンの駆動量が対応付けられており、前記通常マップには、前記冷却液の温度が前記第1設定温度よりも高い第2設定温度以上の範囲で前記ファンの駆動量が対応付けられており、前記発進・加速マップには、前記冷却液の温度の全範囲で、前記ファンの停止、若しくは、前記高負荷マップ及び前記通常マップにおいて同じ温度に対応付けられている駆動量以下の駆動量が対応付けられている。
【0014】
本発明の態様の一つによれば、発進・加速状態は、通常、低速高負荷状態にあるため、
単に負荷状態に応じて運転状態が推定されるとなれば、このような発進・加速状態に対しても、高負荷状態と同様の制御マップが利用されることになる。この点、上述した態様であれば、発進・加速状態と高負荷状態に対して各別の制御マップが利用されることになる。それゆえに、上述した効果がより顕著なものとなる。また、発進・加速状態は、エンジンの出力が特に必要とされる運転状態でもある。この点、上述した態様によれば、こうした発進・加速状態では、ファンの回転が停止若しくは抑えられているため、燃費の向上が図られることに加え、ファンの駆動にともなうエンジン出力の損失が低減されることから、車両の加速性能が低下することを抑えることが可能でもある。
【0015】
本発明の態様の一つにおいて、前記運転状態推定部は、前記発進・加速状態の推定に際し、
前記冷却液の温度が前記第2設定温度よりも高い第3設定温度以下であることを条件として有する。
【0016】
本発明の態様の一つによれば、冷却液の温度が第2設定温度よりも高い第3設定温度以下であることを条件の一つとして発進・加速状態の推定が行われるため、冷却液の温度が第3設定温度以上であれば、たとえ他の条件が満たされるとしても、該運転状態が発進・加速状態として推定されることはない。その結果、発進・加速マップにおいてファンの回転の停止、若しくはファンの回転が他の運転状態よりも抑えられる駆動量が設定されるとしても、エンジン冷却液がファンの停止、若しくはファンの回転が抑えられることにより過度に上昇することを、より確実に抑えることが可能である。
本発明の態様の一つにおいて、前記運転状態推定部は、前記高負荷状態の推定に際し、燃料噴射量が設定噴射量以上である状態が一定期間継続すること、および、一定期間における冷却液の温度の上昇幅が設定上昇幅以上であることの少なくとも一方を条件として有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のファン制御装置を具体化した一実施形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0019】
[ファン制御装置の構成]
図1に示されるように、エンジン11のインテークマニホールド12には、吸気配管13が接続されている。インテークマニホールド12に導入された吸気は、各気筒14へと分配され、気筒14毎に配設された図示されない燃料インジェクタから燃料が噴射される。
【0020】
エンジン11のエキゾーストマニホールド15には、排気配管16が接続されている。この排気配管16には、排気浄化装置17が配設されている。本実施形態では、これら排気配管16と排気浄化装置17によって排気通路が構成されている。排気浄化装置17には、上流側に活性化温度まで昇温されることで活性化する酸化触媒17aが配設され、下流側に酸化触媒が一体的に担持され、排気中のPM等を捕集するフィルター17bが配設されている。エンジン11からの排気は、上記排気浄化装置17を通過して外部へと排出される。
【0021】
また、エンジン11とラジエーター20は、流路21によって互いに接続されている。この流路21において、エンジン11の出口側には、冷却液温度が作動温度を超えている場合に作動するサーモスタット22が配設されている。また、ラジエーター20の出口側には、エンジン11に冷却液を供給するとともに、バイパス流路24によってサーモスタット22に接続されたポンプ23が配設されている。
【0022】
冷却液は、ポンプ23によってエンジン11へと供給されて該エンジン11の冷却を行なう。そして、エンジン11の冷却にともなって温度上昇したのち、サーモスタット22へと流入する。サーモスタット22に流入した冷却液は、冷却液温度Tが作動温度以下である場合には、サーモスタット22が作動することなく、バイパス流路24を通じてポンプ23へと送られる。一方、エンジン冷却水温度が作動温度を超えている場合には、サーモスタット22が作動し、ラジエーター20を通じてポンプ23へと送られる。なお、サーモスタット22の作動温度は、エンジン11の暖機が完了したと推定される温度であって、本実施形態では、80℃に設定されている。
【0023】
また、エンジン11とラジエーター20との間には、電子制御式のファンクラッチ25を介してエンジン11の出力軸11aに連結されたファン26が配設されている。ファンクラッチ25の連結と切断とは、ファン制御装置30(以下、単に制御装置30という)によってPWM制御(Pulse Width Modulation:パルス幅変調制御)される。そして、ファン26とエンジン11の出力軸11aとが連結されている間、出力軸11aの回転力がファン26に伝達されて出力軸11aとともにファン26が回転する。
【0024】
制御装置30は、図示されないCPU、各種制御プログラムや各種データが格納されたROM、各種データが一時的に格納されるRAM等によって構成され、ROMに格納された各種制御プログラムに基づいて各種処理を実行する。
【0025】
制御装置30の入力部31には、冷却液の現在の温度T(以下、冷却液温度Tという)を示す検出信号が冷却液温度センサー41から入力され、また、燃料噴射量Qを示す検出信号が燃料噴射量センサー42から所定の制御周期で入力される。また、入力部31には、アクセル開度Acを示す検出信号がアクセル開度センサー43から入力され、また、エンジン11が搭載された車両の車速vを示す検出信号が車速センサー44から入力される。また、エンジン回転速度Neを示す検出信号がエンジン回転速度センサー45から所定の制御周期で入力され、また、酸化触媒17aの現在の温度Tc(以下、触媒温度Tcという)を示す検出信号が触媒温度検出部としての触媒温度センサー46から入力される。
【0026】
制御装置30の主制御部32は、運転状態推定部を構成するとともに、入力部31に入力された冷却液温度T、燃料噴射量Q、アクセル開度Ac、車速v、エンジン回転速度Ne、触媒温度Tc、これら6つの情報に基づいて、車両の運転状態を推定する運転状態推定処理を実行する。なお、主制御部32は、車両の運転状態が下記4つの運転状態のいずれであるかを推定する。
・冷却液の温度上昇が相対的に小さい運転状態である通常状態
・冷却液の温度上昇が相対的に大きい運転状態である高負荷状態
・発進あるいは加速している運転状態である発進・加速状態
・触媒の昇温が必要とされる運転状態である暖機状態
【0027】
制御装置30の記憶部33には、ファン26の回転速度であるファン回転速度FSのエンジン回転速度Neに対する比率である駆動比率Rと、冷却液温度Tとを関連付けた制御マップが、上述した4つの運転状態の各々に対して各別に記憶されている。すなわち、記憶部33には、通常状態に対応する通常マップ34a、高負荷状態に対応する高負荷マップ34b、及び発進・加速状態に対応する発進・加速マップ34c、暖機状態に対応する暖機マップ34dが記憶されている。制御マップに設定された駆動比率Rは、冷却液が目標温度になる際のファン26のファン回転速度FSに基づく値であって、各種の実験結果やシミュレーション結果に基づいて上述した運転状態と冷却液温度Tごとに規定された値である。
【0028】
通常マップ34aでは、冷却液温度Tが増えるに連れて駆動比率Rが段階的に増えるように、互いに異なる6つの駆動比率Rが、下記6つの温度範囲の各々に対して設定されている。
・冷却液温度Tが第2設定温度T2である90℃未満:駆動比率R=0.0%
・冷却液温度Tが90℃以上92℃未満:駆動比率R=32.5%
・冷却液温度Tが92℃以上94℃未満:駆動比率R=45.0%
・冷却液温度Tが94℃以上95℃未満:駆動比率R=60.0%
・冷却液温度Tが95℃以上96℃未満:駆動比率R=90.0%
・冷却液温度Tが96℃以上:駆動比率R=100%
【0029】
高負荷マップ34bでは、これもまた冷却液温度Tが増えるに連れて駆動比率Rが段階的に増えるように、互いに異なる5つの駆動比率Rが、下記5つの温度範囲の各々に対して設定されている。また、高負荷マップ34bでは、駆動比率Rが0.0%よりも大きくなる冷却液温度Tが、通常マップ34aと比べて低く、同じ冷却液温度Tにて、通常マップ34aと同じ駆動比率R、あるいは通常マップ34aよりも高い駆動比率Rが設定されている。
・冷却液温度Tが第1設定温度T1である89℃未満:駆動比率R=0.0%
・冷却液温度Tが89℃以上91℃未満:駆動比率R=35.0%
・冷却液温度Tが91℃以上93℃未満:駆動比率R=50.0%
・冷却液温度Tが93℃以上95℃未満:駆動比率R=60.0%
・冷却液温度Tが95℃以上96℃未満:駆動比率R=90.0%
・冷却液温度Tが96℃以上:駆動比率R=100%
【0030】
また、発進・加速マップ34cでは、冷却液温度Tに関わらず、駆動比率Rが0.0%に設定されている。また、暖機マップ34dには、冷却液温度Tに関わらず、ファン26と出力軸11aとが連結され続けるように駆動比率Rが100%に設定されている。
【0031】
制御装置30の主制御部32は、駆動量選択部として、運転状態推定処理にて選択した運転状態の制御マップと冷却液温度Tとに基づいて駆動比率Rを選択する。そして、主制御部32は、回転速度演算部として、該主制御部32の選択した駆動比率Rとエンジン回転速度Neとに基づいて、ファン回転速度FSの目標値である目標回転速度TFSを算出し、該算出した目標回転速度TFSをPWM制御部35に出力する。
【0032】
PWM制御部35には、上記目標回転速度TFSの他、ファン26の現在の回転速度を示す検出信号がファン回転速度検出センサー47から所定の制御周期で入力される。PWM制御部35は、ファン26の現在の回転速度と目標回転速度TFSとに基づくフィードバック制御によりデューティ比を演算し、該演算したデューティ比に基づく駆動信号をファンクラッチ25に出力する。
【0033】
[ファン制御装置の作用]
次に、制御装置30が実行する運転状態推定処理の処理手順について
図2を参照して説明する。なお、運転状態推定処理は、運転状態が上述した4つの運転状態のいずれであるかを推定する処理であって、所定の制御周期ごとに繰り返して実行される。
【0034】
まず、主制御部32は、予め設定された温度であって酸化触媒17aの活性化温度の下限値Tcaと触媒温度Tcとを比較し、触媒温度Tcが下限値Tca以下であるか否かを判断する(ステップS11)。触媒温度Tcが下限値Tca以下であると判断された場合(ステップS11:YES)、主制御部32は、車両の運転状態が暖機状態であると推定(ステップS12)して一連の処理を終了する。
このように、主制御部32は、下記条件が満たされるとき、酸化触媒17aに昇温が必要とされる状態、すなわち運転状態が上記暖機状態であると推定する。
(条件)触媒温度Tcが下限値Tca以下であること。
【0035】
一方、ステップS11において触媒温度Tcが下限値Tcaよりも大きいと判断された場合(ステップS11:NO)、主制御部32は、予め設定された第1設定車速v1、例えば20km/hと車速vとを比較し、車速vが第1設定車速v1以上であるか否かを判断する(ステップS13)。車速vが第1設定車速v1未満であると判断された場合(ステップS13:NO)、主制御部32は、予め設定された第1設定開度Ac1、例えば10%とアクセル開度Acとを比較し、アクセル開度Acが第1設定開度Ac1以上であるか否かを判断する(ステップS14)。
【0036】
アクセル開度Acが第1設定開度Ac1以上であると判断された場合(ステップS14:YES)、主制御部32は、予め設定された第3設定温度T3、例えば93℃と冷却液温度Tとを比較し、冷却液温度Tが第3設定温度T3以下であるか否かを判断する(ステップS15)。そして、冷却液温度Tが第3設定温度T3以下であると判断された場合(ステップS15:YES)、主制御部32は、車両の運転状態が発進・加速状態であると推定(ステップS16)して一連の処理を終了する。
【0037】
一方、車速vが第1設定車速v1以上であると判断された場合(ステップS13:YES)、また、ステップS14においてアクセル開度Acが第1設定開度Ac1未満であると判断された場合(ステップS14:NO)、主制御部32は、ステップS17の処理を進める。すなわち、主制御部32は、予め設定された設定回転速度Ne1、例えば1300rpmとエンジン回転速度Neとを比較し、エンジン回転速度Neが設定回転速度Ne1以下であるか否かを判断する。
【0038】
エンジン回転速度Neが設定回転速度Ne1よりも大きいと判断された場合(ステップS17:NO)、主制御部32は、上記第1設定車速v1よりも大きく予め設定された第2設定車速v2、例えば50km/hと車速vとを比較し、車速vが第2設定車速v2以下であるか否かを判断する(ステップS18)。車速vが第2設定車速v2よりも大きいと判断された場合(ステップS18:YES)、主制御部32は、予め設定された第2設定開度Ac2、例えば70%とアクセル開度Acとを比較し、アクセル開度Acが第2設定開度Ac2以下であるか否かを判断する(ステップS19)。そして、アクセル開度Acが第2設定開度Ac2以下であると判断された場合(ステップS19:YES)、主制御部32は、ステップS15の処理を進める。
【0039】
他方、エンジン回転速度Neが設定回転速度Ne1以下であると判断された場合(ステップS17:YES)、また、ステップS18において車速vが第2設定車速v2よりも大きいと判断された場合(ステップS18:NO)、主制御部32は、ステップS20の処理を進める。また、ステップS19においてアクセル開度Acが第2設定開度Ac2よりも大きいと判断された場合、また、ステップS15において冷却液温度Tが第3設定温度T3よりも大きいと判断された場合にも(ステップS15:NO)、主制御部32は、ステップS20の処理を進める。
【0040】
ステップS20にて、主制御部32は、予め設定された設定噴射量Q1、例えば10cc/secと燃料噴射量Qとを比較し、燃料噴射量Qが設定噴射量Q1以上である状態が一定期間FP、例えば10sec以上継続しているか否かを判断する。設定噴射量Q1以上である状態が一定期間FP継続していると判断された場合(ステップS20:YES)、主制御部32は、車速vと第1設定車速v1とを比較し、車速vが第1設定車速v1以上であるか否かを判断する(ステップS21)。
【0041】
車速vが第1設定車速v1以上であると判断された場合(ステップS21:YES)、主制御部32は、第3設定温度T3よりも小さく予め設定された第1設定温度T1、例えば89℃と冷却液温度Tとを比較し、冷却液温度Tが第1設定温度T1以上であるか否かを判断する(ステップS22)。そして、冷却液温度Tが第1設定温度T1以上であると判断された場合(ステップS22:YES)、主制御部32は、車両の運転状態を高負荷状態と推定(ステップS23)して一連の処理を終了する。
【0042】
一方、設定噴射量Q1以上である状態が一定期間FP継続していないと判断された場合(ステップS20:NO)、また、ステップS21にて車速vが第1設定車速v1未満であると判断された場合(ステップS21:NO)、主制御部32は、ステップS24の処理を進める。ステップS24にて主制御部32は、一定期間FPにおける冷却液温度Tの上昇幅ΔTが予め設定された設定上昇幅ΔT1、例えば2℃以上であるか否かを判断する。
【0043】
上昇幅ΔTが設定上昇幅ΔT1以上であると判断された場合(ステップS24:YES)、主制御部32は、ステップS22の処理を進める。そして、上昇幅ΔTが設定上昇幅ΔT1未満であると判断された場合(ステップS24:NO)、また、ステップS22において冷却液温度Tが第1設定温度T1未満であった場合(ステップS22:NO)、主制御部32は、車両の運転状態を通常状態と推定して一連の処理を終了する(ステップS26)。
【0044】
上述したように制御装置30は、冷却液温度T、燃料噴射量Q、アクセル開度Ac、車速v、エンジン回転速度Ne、触媒温度Tc、これら6つの情報に基づいて、エンジン11を搭載した車両の運転状態を推定する。そして、制御装置30は、推定された運転状態に関連付けられた制御マップと上記冷却液温度Tとに基づいて駆動比率Rを決定する。制御装置30は、決定された駆動比率Rと上記エンジン回転速度Neとに基づいて、ファン26の目標回転速度TFSを算出する。そして、制御装置30は、算出された目標回転速度TFSとファン26の現在の回転速度とに基づくフィードバック制御によりファン回転速度FSを制御する。これにより、ファン26は、車両の運転状態及び冷却液温度Tに応じた回転速度で駆動される。
【0045】
特に、上記条件が満たされる暖機状態においては、冷却液温度Tに関わらず、ファン26の駆動比率Rが100%に設定される。すなわち、酸化触媒17aの昇温が必要とされる状態においては、ファン26と出力軸11aとが連結され続ける。これにより、エンジン11の出力のうちでファン26の回転に消費される分だけ、エンジン11に対する負荷が増大されるため、エンジン11により多くの燃料が供給されることとなる。その結果、より高い温度の排気が生成されることから、酸化触媒17aの昇温を促進させることができる。
以上説明したように、本実施形態の制御装置30によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
【0046】
(1)酸化触媒17aの温度が下限値Tca以下であるとき、出力軸11aとファン26とが連結され続ける。これにより、酸化触媒17aの温度が下限値Tca以下であるときにファン26が駆動されない場合に比べて、エンジン11に対する負荷が増大されるため、エンジン11により多くの燃料が供給されることとなる。その結果、より高い温度の排気が生成されることから、既存の構成であるファン26を利用して、酸化触媒17aの昇温を促進させることができる。
【0047】
(2)また、冷却液は、サーモスタット22によって、エンジン11の暖機が完了したと推定されるまでラジエーター20を迂回するバイパス流路24を通る経路をとる。すなわち、酸化触媒17aの温度が下限値Tca以下であり、且つ冷却液の温度がサーモスタット22の作動温度よりも低い状態においては、ファン26を回転させたとしても冷却液によってエンジン11が積極的に冷却されることが抑えられる。その結果、酸化触媒17aの温度が下限値Tca以下であり、且つ冷却液の温度がサーモスタット22の作動温度よりも低い状態においては、ファン26を駆動することによって、エンジン11の昇温、すなわち冷却液やエンジンオイル等の昇温も促進させることができる。
【0048】
(3)車両の運転状態ごとの制御マップと冷却液温度Tとからファン26のファン回転速度FSが設定される。その結果、車両の運転状態が暖機状態とは異なる運転状態であっても、その運転状態に応じた回転速度でファン26を回転させることができる。そのため、例えばエンジン11の冷却に必要とされる回転速度以上の回転速度でファンが駆動される場合に比べて、ファン26の駆動にともなうエンジン出力の損失を抑えること、ひいてはエンジン11の温度を所定の範囲内に保ちつつ燃費の向上を図ることが可能となる。
【0049】
(4)しかも、エンジン11の冷却に必要とされる回転速度以上の回転速度でファン26が駆動される場合に比べて、冷却液温度Tが高温に維持されやすくなるとともに、エンジンオイルも高温に維持されやすくなることから、エンジンフリクションによるエンジン出力の損失も抑えることができる。
【0050】
(5)また、車両が発進して加速している発進・加速状態では、通常、低速高負荷状態にあるため、単に負荷状態に応じて運転状態が推定されるとなれば、このような発進・加速状態に対しても、高負荷状態と同様の制御マップが利用されることになる。この点、上述した実施形態であれば、発進・加速状態と高負荷状態に対しても各別の制御マップが利用されることになる。それゆえに、上述した(3)(4)に記載した効果がより顕著なものとなる。
【0051】
(6)各運転状態に応じた制御マップが予め記憶されていることから、たとえ冷却液温度Tが同じであっても、通常状態、高負荷状態、発進・加速状態、暖機状態に応じたファン回転速度FSでファン26を回転させることができる。
【0052】
(7)通常マップ34aと高負荷マップ34bとを比較すると、高負荷マップ34bでは、より低い温度でファン26が駆動されるとともに、同じ温度であっても通常マップ34aにおける駆動比率R以上の駆動比率Rが設定されている。こうした構成によれば、高負荷状態におけるエンジン11の冷却と通常状態における燃費の向上とを、より高い確率で実現することが可能である。
【0053】
(8)車両が発進して加速している運転状態では、エンジンの出力が特に必要とされる運転状態でもある。この点、上述したように、発進・加速状態では、ファン26が停止しているため、燃費の向上が図られることに加え、車両の加速性能が低下することを抑えることが可能でもある。
【0054】
(9)しかも、冷却液温度Tが第3設定温度T3より大きな場合(ステップS15:NO)には、たとえ車両が加速中であっても、発進・加速状態を選択しない。そのため、発進・加速時におけるファン26の停止により冷却液が過度に上昇することを抑えつつ、車両の加速性能が低下することを抑えることができる。
【0055】
(10)設定噴射量Q1以上である状態が一定期間FP継続する場合、あるいは一定期間FPにおける冷却液温度Tの上昇幅ΔTが設定上昇幅ΔT1以上である場合に、該運転状態が高負荷状態と推定される。こうした条件を設定することにより、酸化触媒17aの暖機が完了したあとに、制御マップが頻繁に切り替わることを抑えることが可能である。
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・上記運転状態推定処理において、ステップS15を割愛してもよい。こうした構成であっても、上記(1)〜(8)に準じた効果を得ることは可能である。
【0056】
・上記実施形態において、発進・加速マップには、高負荷マップ及び前記通常マップにおいて同じ冷却液温度Tに対応付けられている駆動比率R以下の駆動比率Rが対応付けられていてもよい。すなわち、上記運転状態推定処理にて運転状態が発進・加速状態であると推定された場合に、ファン26の回転が高負荷状態及び通常状態よりも抑えられる構成であってもよい。こうした構成であっても、運転状態が高負荷状態あるいは通常状態である場合に比べてファンの回転が抑えられることから、上記(1)〜(7)に準じた効果に加え、上記(8)に準じた効果を得ることは可能である。
【0057】
・通常マップ34a及び高負荷マップ34bには、同じ冷却液温度Tからファン26が駆動されるように駆動比率Rが設定されていてもよい。また、通常マップ34aにおいてファン26が駆動される開始温度が、高負荷マップ34bにおいてファン26が駆動される開始温度よりも高い構成であって、通常マップ34aにおける駆動比率Rが、高負荷マップ34bにおける駆動比率Rよりも低い構成であってもよい。要は、通常状態で通常マップ34aが利用されることにより燃費の向上を図ることが可能な構成であればよい。こうした構成であっても、上記(1)〜(6)に準じた効果を得ることは可能である。
【0058】
・上記実施形態では、運転状態推定処理によって、複数の運転状態の中から暖機状態が推定された場合に、記憶部33に記憶された制御マップである暖機マップ34dを用いてファン26と出力軸11aとが連結され続ける。しかし、上記条件が満たされるときに、ファン26と出力軸11aとが連結され続ければよく、これを具現化する構成は、車両の運転状態を推定したうえで制御マップを選択するものに限られるものではない。こうした構成であっても、上記(1)(2)に準じた効果を得ることができる。
【0059】
・エンジン11は、排気の一部を吸気側へと還流するEGR装置を備えるものであってもよい。なお、エンジン11がEGR装置を備える場合、排気が還流されることによって燃焼温度が低下するため、酸化触媒17aの昇温を促進させるうえでは、上記暖機状態において排気の還流が遮断されることが望ましい。
【0060】
・排気通路に配設される触媒は、酸化触媒17aに限られるものではなく、活性化温度まで昇温されることにより活性化する触媒であればよく、例えばNOx吸蔵還元触媒であってもよい。
【0061】
・車両の運転状態が暖機状態であると判断される条件には、触媒の温度に関する条件に加えて、例えば、サーモスタット22の作動温度に基づいて冷却液の温度に関する条件等があってもよい。