(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969202
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】ミシンの布切り装置
(51)【国際特許分類】
D05B 37/06 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
D05B37/06
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-250828(P2011-250828)
(22)【出願日】2011年11月16日
(65)【公開番号】特開2013-103081(P2013-103081A)
(43)【公開日】2013年5月30日
【審査請求日】2014年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113229
【氏名又は名称】ペガサスミシン製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武田 誠二
(72)【発明者】
【氏名】引口 省三
(72)【発明者】
【氏名】西條 満
【審査官】
笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−069100(JP,A)
【文献】
特開2000−051558(JP,A)
【文献】
特開2002−018167(JP,A)
【文献】
特開2009−261815(JP,A)
【文献】
特開昭56−104694(JP,A)
【文献】
特開2006−087813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00 〜 97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンの頭部に上下方向に移動可能に設けられた押え軸と、
前記押え軸の下端に設けられ、左右に分岐する押え足を形成する押え金と、
前記押え足の一方に固定され押え金と共に上下動する固定メスと、
押え軸に外嵌される可動メス駆動腕と、
前記可動メス駆動腕の下端に取付けられる連結部材と、
前記連結部材に上下のスライド可能に支持され下端に固定片が形成される可動メス支持軸と、
前記固定片に取付けられ、押え足の他方かつ固定メスに一部重ねられて配置されると共に、ミシンの駆動に連動して前記可動メス駆動腕が前記押え軸周りに回転揺動し、固定メスを押圧しつつ該固定メスと摺接しながら左右動する可動メスとを備え、
前記押え足間に設けられる布案内部に送り込まれる布を、前記固定メスと前記可動メスとにより切断するミシンの布切り装置において、
前記固定片の上面に固定される押圧板と、
前記可動メスを前記固定メスに押圧させる力を任意に設定し、かつ一定に保持できるメス圧調整装置とを備え、
前記メス圧調整装置は、
前記可動メス駆動腕に連結されるエアシリンダーと、
前記エアシリンダーに連結され、圧力を一定に制御したエアを前記エアシリンダーに供給するレギュレータとを備え、
前記エアシリンダーから下方に突出して延びる伸縮ロッドの先端部が前記押圧板の上面に当接するよう配置され、前記押圧板はエアシリンダーのエア圧によって伸縮ロッドを介して押し下げられ、前記可動メスを固定メスに押圧するように構成されていることを特徴とするミシンの布切り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミシンの布切り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のミシンの布切り装置として、布案内部がミシンの押え金に設けられ、該布案内部に送り込まれた布を固定メスと可動メスにより切断する布切り装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
図4に示すように、従来の布切り装置には、ミシンの頭部3より下方に突出する押え軸5(押え棒)が上下動自在に設けられ、この押え軸5の下端には押え金6が取り付けられている。押え金6には左右に分岐した押え足6a,6b間に布案内部8(生地案内通路)が設けられ、押え足6aに固定メス7が固定され、押え足6b上に可動メス15が左右動可能に配置されている。
【0003】
また、図示しない可動メス駆動腕の筒状基端部が押え軸5周りの回転可能に、押え軸5の外周に嵌挿されている。可動メス駆動腕は図示しない駆動伝達機構に連結され、ミシンの駆動に連動して押え軸5周りの回転揺動を行う。可動メス駆動腕には連結部材10が固定され、連結部材10には可動メス支持軸13(作動杆)が上下動自在に軸支されており、可動メス支持軸13の中途には係止片14が取り付けられている。可動メス15の基端は可動メス支持軸13の下端に取り付けられ、可動メス15はメス圧調整ばね28(コイルバネ)により下向きに付勢されている。固定メス7は可動メス15の下方にかつその一部分が可動メス15に重なるよう配置されている。そして、可動メス15はメス圧調整ばね28の弾性による押圧力を固定メス7に与えている。以下、可動メス15が固定メス7を押圧する力をメス圧と称する。以上の構成により、可動メス15はミシンの駆動に連動して固定メス7の上面に摺接しながら左右動し、布案内部8に送られた布Cの上端が固定メス7,可動メス15により切り揃えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−137581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記布切り装置の構造上、メス圧が生じた状態で両メスが摺接するので、メスには磨耗が生じる。前記布切り装置はメス圧の生じない公知のオーバーロックミシンの布切り装置と比較してメスの磨耗が生じやすい。なお、メス圧が高ければ高いほどメスの磨耗は助長される。
【0006】
前記布切り装置において、押え金に固定されている固定メスはミシン駆動時に針板上面から出没する送り歯により押え金と共に上下動する。そして、固定メスと共に可動メスもメス圧調整ばねの弾性に抗して上下動することになるので両メス上昇時にはメス圧が高くなる。つまり、前記布送り装置の構造上、ミシン駆動時に押え金が針板上面からの送り歯の出没により上下動するので、メス圧は周期的に高くなりメスの磨耗が助長されるという問題があった。
【0007】
さらに、前記布送り装置において、押え金の布案内部に布が送り込まれると押え金及び固定メスは布の厚さ分上昇する。そして、固定メスと共に可動メスもメス圧調整ばねの弾性に抗して上昇することになるのでメス圧は高くなる。押え金の布案内部に送り込まれる布の厚さが厚ければ厚いほどメス圧は高くなる。したがって、従来の布切り装置では、メスの磨耗を抑制するため、押え金の布案内部に送り込まれる布の厚さに応じて、可動メス支持軸に対する係止片の取り付け位置を変更し、メス圧を調整する必要があった。
【0008】
したがって本発明の課題は、ミシン駆動時の押え金の上下動によりメスの磨耗が助長されるのを抑制し、また、メスの磨耗を低減させるために押え金の布案内部に送り込まれる布の厚さに応じてメス圧を調整する必要のない、ミシンの布切り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1のミシンの布切り装置は、
ミシンの頭部に上下方向に移動可能に設けられた押え軸と、
前記押え軸の下端に設けられ、左右に分岐する押え足を形成する押え金と、
前記押え足の一方に固定され押え金と共に上下動する固定メスと、
押え軸に外嵌される可動メス駆動腕と、
前記可動メス駆動腕の下端に取付けられる連結部材と、
前記連結部材に上下のスライド可能に支持され
下端に固定片が形成される可動メス支持軸と、
前記固定片に取付けられ、押え足の他方かつ固定メスに一部重ねられて配置されると共に、ミシンの駆動に連動して
前記可動メス駆動腕が前記押え軸周りに回転揺動し、固定メスを押圧しつつ該固定メスと摺接しながら左右動する可動メスとを備え、
前記押え足間に設けられる布案内部に送り込まれる布を、前記固定メスと前記可動メスとにより切断するミシンの布切り装置において、
前記固定片の上面に固定される押圧板と、
前記可動メスを前記固定メスに押圧させる力を任意に設定し、かつ一定に保持できるメス圧調整装置
とを備え、
前記メス圧調整装置は、
前記可動メス駆動腕に連結されるエアシリンダーと、
前記エアシリンダーに連結され、圧力を一定に制御したエアを前記エアシリンダーに供給するレギュレータとを備え、
前記エアシリンダーから下方に突出して延びる伸縮ロッドの先端部が前記押圧板の上面に当接するよう配置され、前記押圧板はエアシリンダーのエア圧によって伸縮ロッドを介して押し下げられ、前記可動メスを固定メスに押圧するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2のミシンの布切り装置は、
前記メス圧調整装置は、
伸縮ロッドにより前記可動メスを固定メスに押圧するエアシリンダーと、
エアシリンダーに連結され、圧力を一定に制御したエアを前記エアシリンダーに供給するレギュレータとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ミシン駆動時に押え金が上下動しても、また、押え金の布案内部に布が送り込まれても、メス圧を一定に保持できるので、固定メスや可動メスの磨耗が軽減されメスの耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施例の送り出し腕型ミシンを示す外観斜視図である。
【
図4】従来例の送り出し腕型ミシンの布切り装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態例を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施例の送り出し腕型ミシンを示す外観斜視図である。
図2は可動メス機構Aを示す分解斜視図である。
図3はメス圧調整装置Bを示す概略図である。
【0014】
図1に示すように、シリンダ1は布送り方向Xに沿って延びるように形成されており、シリンダ1の基端側にはベッド2の基端が立設され、該ベッド2はシリンダ1の延出方向と交差する方向で水平に延びるよう構成されている。ベッド2の先端には頭部3がシリンダ1の先端側の上方に延出するように連設されている。頭部3には押え軸5が上下方向に移動可能に配置されている。この押え軸5の下端部は頭部3の下壁から下方に突出し、この突出下端部に押え金6が取り付けられている。本発明の実施例における押え金6について、
図4に示す従来技術と共通する部分については、以下、
図4と同じ符号を用い
図4に基き説明する。押え金6には左右に分岐した押え足6a,6b間に布案内部8が設けられ、一方の押え足6aに固定メス7が固定されている。押え金6は図示しない押えレバーの操作に連動しシリンダ1より上方へ離間可能である。
【0015】
次に、可動メス機構Aについて説明する。押え軸5には、
図2に示すような可動メス駆動腕9が外嵌されており、可動メス駆動腕9は頭部3内で駆動伝達機構(図示しない)に連結されている。可動メス駆動腕9は下端に腕部9aを有し、連結部材10は腕部9aに取付けられている。連結部材10には上下に形成された一対の支持孔12,12を介して可動メス支持軸13が上下のスライド可能に支持されており、可動メス支持軸13の中途には係止片14が取り付けられている。
【0016】
可動メス支持軸13の下端には固定片13aが形成され、固定片13aには可動メス15の基端が取り付けられている。固定片13aと可動メス15はメスホルダ16に嵌め込まれメスホルダ16は固定片13aにネジ11,11で固定されている。可動メス15の先端側は押え足6b上に配置され、可動メス15の左右動はミシン駆動時に押え金6付近にて行われる。以上、可動メス機構Aの構成により、ミシンの駆動に連動して可動メス駆動腕9が駆動伝達機構を介して押え軸5周りに回転揺動し、可動メス15は押え金6の固定メス7を押圧しつつ固定メス7と摺接しながら左右に進退動する。
【0017】
図2に示すように、可動メス駆動腕9の腕部9aにはブラケット17がネジ18,18で固定され、また該ブラケット17にはエアシリンダー19が腕部9aの近傍かつ可動メス15の上方に配置されるようネジ20,20で固定されている。ブラケット17には、ネジ18,18用のネジ穴がそれぞれ左右に2つ設けられ、ネジ20,20用のネジ穴が上下に長い長穴で設けられており、エアシリンダー19の取付位置を上下左右に調整可能としている。エアシリンダー19の下方には押圧板25が配置され、押圧板25は可動メス支持軸13の固定片13aの上面にネジ26で固定されている。エアシリンダー19から下方に突出して延びる伸縮ロッド19aの先端部は押圧板25の上面に当接するよう配置されている。押圧板25はエアシリンダー19のエア圧によって伸縮ロッド19aを介して押し下げられ、可動メス15を固定メス7に押圧するように構成されている。
【0018】
次に、メス圧調整装置Bについて説明する。メス圧調整装置Bはエアシリンダー19,レギュレータ22,コンプレッサー24,エアチューブ21及びエアチューブ23で構成され、エアシリンダー19とレギュレータ22がエアチューブ21で、レギュレータ22とコンプレッサー24がエアチューブ23でそれぞれ連結されている。コンプレッサー24はエアシリンダー19の駆動に必要なエアの供給源として設けられている。エアシリンダー19に供給されるエアの圧力は、レギュレータ22により任意の値で一定に保たれる。そして、エアシリンダー19に供給されるエアにより、伸縮ロッド19aが押圧板25を押し下げ、可動メス15が固定メス7を押圧する。つまり、可動メス15が固定メス7を押圧するメス圧はレギュレータ22の設定値によって調整されることになる。
【0019】
以上のメス圧調整装置Bの構成により、ミシン駆動時に押え金6及び固定メス7が針板(図示しない)上面からの送り歯(図示しない)の出没により上下動しても、メス圧を一定に保持することができる。また、メス圧調整装置Bによれば、布案内部8に送り込まれる布の厚さに関係なくメス圧を一定に保持することができる。したがって、メス圧調整装置Bを備えた布切り装置は従来の布切り装置より、固定メス7や可動メス15の磨耗を軽減でき両メスの耐久性を向上させることができる。なお、レギュレータとしては、圧力変動に対して応答性が高い精密レギュレータを用いることが望ましい。
【符号の説明】
【0020】
1 シリンダ
2 ベッド
3 頭部
6 押え金
7 固定メス
9 可動メス駆動腕
15 可動メス
17 ブラケット
19 エアシリンダー
22 レギュレータ
25 押圧板
A 可動メス機構
B メス圧調整装置