特許第5969223号(P5969223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5969223ゴム補強用有機繊維偏平コードおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969223
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】ゴム補強用有機繊維偏平コードおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/28 20060101AFI20160804BHJP
   D02G 3/40 20060101ALI20160804BHJP
   D02G 3/48 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   D02G3/28
   D02G3/40
   D02G3/48
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-48068(P2012-48068)
(22)【出願日】2012年3月5日
(65)【公開番号】特開2013-181268(P2013-181268A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 慎太郎
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−003566(JP,A)
【文献】 特開2010−126074(JP,A)
【文献】 特開2005−054304(JP,A)
【文献】 特開2006−200076(JP,A)
【文献】 特開2011−157644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
D06M 13/00 − 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維マルチフィラメントからなる有機繊維偏平コードであり、該有機繊維マルチフィラメントの総繊度が100〜10000dtexであり、該有機繊維偏平コードが、該有機繊維マルチフィラメントに撚りを施した撚糸コード、または、下撚りを施した後、これを複数本合糸して上撚を施した撚糸コードに、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤が該撚糸コード重量を基準として1〜4%付着してなるコードであり、かつ該撚糸コードの偏平断面における長径Aと短径Bの偏平比(A/B)が1.5以上であり、撚係数1265〜2500であることを特徴とする有機繊維偏平コード。
【請求項2】
有機繊維マルチフィラメントが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46から選ばれる少なくとも1つを含むこと請求項1記載の有機繊維偏平コード。
【請求項3】
レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤が該撚糸コード重量を基準として1〜3.5%付着している請求項1または2記載の有機繊維偏平コード。
【請求項4】
有機繊維マルチフィラメントに、撚りを施して撚糸コードとするか、または、下撚りを施した後、これを複数本合糸して上撚を施して撚糸コードとし、その際、該有機繊維マルチフィラメントの総繊度を100〜10000dtexとし、該撚糸コードを該有機繊維マルチフィラメントのガラス転移温度(Tg)からガラス転移温度(Tg)+100℃の温度で加熱加圧して、撚糸コードの断面を長径Aと短径Bの偏平比(A/B)が1.5以上である偏平断面形状とした後、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤を該撚糸コードの重量を基準として1〜4重量%となるよう付与することを特徴とする有機繊維偏平コードの製造方法。
【請求項5】
撚係数1265〜2500である撚糸コードとし、該撚糸コードを加熱加圧する請求項4に記載の有機繊維偏平コードの製造方法。
【請求項6】
レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤を該撚糸コード重量を基準として1〜3.5%となるよう付与する請求項4または5記載の有機繊維偏平コードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用有機繊維偏平コードに関し、さらに詳しくは高強力かつ耐疲労性に優れ、かつ繊維補強層を薄肉化できることによってタイヤ、ベルト、ホース等のゴム製品を軽量化することが可能であるゴム補強用有機繊維偏平コード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境破壊、石油資源枯渇といった課題に対し、自動車、電機機器をはじめ省エネルギー化、エネルギー代替化が非常に注目され、特に燃費向上のための自動車の軽量化に伴う、タイヤ、ベルト、ホースなど自動車ゴム部材の軽量化、コンパクト化のニーズが急速に高まっている。こういったゴム部材はポリエステルをはじめとする有機繊維で補強されているのが一般的であり、その中でも補強繊維としてはもっとも汎用性のあるポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びその誘導体に代表されるポリエステル繊維をはじめとする有機繊維が多く用いられている。これら自動車ゴム部材を補強する有機繊維は強力と耐久性を満たすために一般的にマルチフィラメントを撚り合せて撚糸コードとし、エポキシを主成分とするプライマーとレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)系接着剤でゴム接着処理を施した処理コードを用いているのが一般的である。
【0003】
こういった背景のもと、ゴム補強用繊維の形態を変えることによるゴム部材の省エネルギー、耐久性、軽量化など高性能化を図る試みがなされている。例えば、特許文献1(特許第3387571号公報)には、タイヤのベルト補強層として断面形状が長短径の比1.5以上でデニール数が2000〜4000dtexの偏平有機繊維モノフィラメントを用いてトレッド部を補強する空気入りラジアルタイヤが開示されている。また、特許文献2(特開平9−67732号公報)には、タイヤのカーカス材として耐疲労性、操縦安定性に優れたポリエステルモノフィラメントコードが開示されている。しかし、これらの技術において、モノフィラメントは曲げに対する柔軟性が低いため、実用上耐え得る耐疲労性には至っておらず、実用化のためには大きな課題を有しているのが現状である。さらに、特許文献3(特許第4237510号公報)には、テープ状のポリエチレンナフタレートをタイヤのベルト補強層に用いることによって補強層薄肉化によるタイヤ軽量化を図るとともに、高速耐久性、操縦安定性を高めることが開示されている。補強材をテープ状にすることによってモノフィラメントに比べて曲げ歪みに対する耐久性は大幅に向上するものの、タイヤ実使用に耐え得るポリエチレンナフタレートフィルムが得難く、現状実用化には至っていない。一方、特許文献4(特開平7−3566号公報)には、単糸繊度が1〜500Deのポリエステルマルチフィラメントを無撚あるいは1200以下の撚係数で撚糸された状態で前処理剤及び接着剤をヤーン重量に対して4〜20重量%付与する偏平状ヤーンが開示されている。この方法は無撚あるいは甘撚コードを多量の前処理剤と接着剤によって収束させることによってコードの偏平化を図るものであったが、得られるコードが硬く耐疲労性に劣るばかりでなく、フィラメント割れやガムアップなどの工程通過性などの課題が多く実用性を得るには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3387571号公報
【特許文献2】特開平9−67732号公報
【特許文献3】特許第4237510号公報
【特許文献4】特開平7−3566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記背景技術に鑑みなされたものであり、その目的は、高強力かつ耐疲労性に優れ、かつ繊維補強層を薄肉化できることによってタイヤ、ベルト、ホース等のゴム製品の軽量化が可能なゴム補強用有機繊維偏平コード及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため検討を行い、特定の構成や断面形状を有するゴム補強用有機繊維コードとしたとき、耐疲労性が向上し、かつ繊維補強層を薄肉化でき、タイヤ、ベルト、ホース等のゴム製品を軽量化が可能であることを見出したものである。
【0007】
かくして本発明によれば、有機繊維マルチフィラメントからなる有機繊維偏平コードであり、該有機繊維マルチフィラメントの総繊度が100〜10000dtexであり、該有機繊維偏平コードが、該有機繊維マルチフィラメントに撚りを施した撚糸コード、または、下撚りを施した後、これを複数本合糸して上撚を施した撚糸コードに、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤が該撚糸コード重量を基準として1〜4%付着してなるコードであり、かつ該撚糸コードの偏平断面における長径Aと短径Bの偏平比(A/B)が1.5以上であり、撚係数1265〜2500であることを特徴とする有機繊維偏平コードが提供される。
【0008】
また、有機繊維マルチフィラメントに、撚りを施して撚糸コードとするか、または、下撚りを施した後、これを複数本合糸して上撚を施して撚糸コードとし、その際、該有機繊維マルチフィラメントの総繊度を100〜10000dtexとし、該撚糸コードを該有機繊維マルチフィラメントのガラス転移温度(Tg)からガラス転移温度(Tg)+100℃の温度で加熱加圧して、撚糸コードの断面を長径Aと短径Bの偏平比(A/B)が1.5以上である偏平断面形状とした後、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤を該撚糸コードの重量を基準として1〜4重量%となるよう付与することを特徴とする有機繊維偏平コードの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高強力かつ耐疲労性に優れ、かつ繊維補強層を薄肉化できることによってタイヤ、ベルト、ホース等のゴム製品を軽量化することが可能であるゴム補強用有機繊維偏平コード及びその製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の有機繊維偏平コードの断面形状を表す模式図である。
図2】本発明の有機繊維偏平コードを接着処理加工するプロセスの一例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、タイヤ、ベルト、ホース等自動車用をはじめとするゴム部材において、ゴム部材の軽量化、耐久性向上が図れるゴム補強材料として、有機繊維偏平コードに着目したが、従来技術においては耐久性の問題が有り、実用化の点でこれが大きな課題であることがわかった。
そこで検討した結果、次の構成によりゴム部材の軽量化、耐久性向上が図れる実用的なコードが得られることを見出した。
【0012】
本発明の有機繊維偏平コード(以下、単に偏平コードと称することがある)は、有機繊維マルチフィラメントからなる有機繊維偏平コードであり、該有機繊維マルチフィラメントの総繊度が100〜10000dtexであり、該有機繊維偏平コードが、該有機繊維マルチフィラメントに撚りを施した撚糸コード、または、下撚りを施した後、これを複数本合糸して上撚を施した撚糸コードに、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤が該撚糸コード重量を基準として1〜4%付着してなるコードであり、かつ該有機繊維偏平コードの偏平断面における長径Aと短径Bの偏平比(A/B)が1.5以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の偏平コードを構成する有機繊維フィラメントは、特に後述する製造法を用いる場合、撚糸コードを加熱加圧することによって偏平断面形状を得るために熱可塑性ポリマーからなることが好ましく、さらに、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46をから選ばれる少なくとも1つを含むことが汎用性、耐久性、工業生産性の面で好ましい。
【0014】
上記有機繊維フィラメントの総繊度は100〜10000dtexであることが必要である。総繊度が、100dtex未満ではゴム部材を補強するのに強力が不足するため実用上必要な耐久性が得られず、一方、10000dtexを超える場合は偏平コードの長径および短径が大きすぎて本発明の目的である補強層の薄肉化、軽量化効果が得難い。該有機繊維フィラメントの総繊度としては、500〜5000dtexであることがより好ましい。
【0015】
本発明においては、該有機繊維マルチフィラメントに撚りを施した撚糸コード(いわゆる、片撚コード)、または、下撚りを施した後、これを複数本合糸して上撚を施した撚糸コード(いわゆる、双撚コード)を用いる。これは、偏平コードとして、耐疲労性や引張強力、ゴムとの接着性を充分発揮させるためであり、コード構成や撚数はゴム部材や用途に応じて適宜調整することができる。なお、片撚コードの撚り、双撚コードの下撚、上撚においては、コード長さ10cmあたりの撚数をT、コードを構成する繊維の全繊度をDとすると、K=T×D0.5で表される撚係数Kは、200〜2500とすることがゴム補強効果を得るために好ましい。
【0016】
本発明の偏平コードは、上記撚糸コードに、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(以下、PFLと称することがある)接着剤が該撚糸コード重量を基準として1〜4%付着されてなる。上記接着剤は、レゾルシン−ホルマリン初期縮合物(RF)にゴムラテックス(L)を加えたものであり、実用性のあるゴム接着性が得られる。また、有機繊維マルチフィラメントがポリエステルからなる場合は、RFL接着剤以外に、イソシアネート化合物、ブロックドイソシアネート化合物、エポキシ化合物などが付着していてもよい。これらのRFL接着剤以外の化合物を用いる場合は、これらを含めた接着剤の総付着量を、撚糸コード重量を基準として1〜4%とすることが好ましい。接着剤の付着量が、1重量%未満では充分なゴム接着性が得られず、一方、4重量%を越える場合は接着処理工程あるいはゴム部材製造工程におけるガムアップや補強コードの単位重量やコストが上がってしまうため実用性に乏しい。接着剤の付着量は1.5〜3.5重量%であることが好ましい。
【0017】
本発明においては、該偏平コードの偏平断面における長径Aと短径Bの偏平比(A/B)は1.5以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは1.9以上であることが肝要である。A/Bが1.5未満の場合、ゴム部材の補強層の薄肉化ができず軽量化効果が得られにくい。一方、A/Bが大きければ大きいほど補強層は薄肉化できるが、大きすぎるとコードの幅、すなわち長径Aが大きくなるためにコードの取り扱い性が悪くなるので、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは8.0以下、よりさらに好ましくは5.0以下にすることが望ましい。
【0018】
以上に説明した本発明の偏平コードは、以下の方法により製造することができる。すなわち、有機繊維マルチフィラメントに、撚りを施して撚糸コードとするか、または、下撚りを施した後、これを複数本、好ましくは2〜5本、より好ましくは2〜3本合糸して上撚を施して撚糸コードとし、その際、該有機繊維マルチフィラメントの総繊度を100〜10000dtexとし、該撚糸コードを該有機繊維マルチフィラメントのガラス転移温度(Tg)からガラス転移温度(Tg)+100℃の温度で加熱加圧して、撚糸コードの断面を長径Aと短径Bの偏平比(A/B)が1.5以上である偏平断面形状とした後、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤を該撚糸コードの重量を基準として1〜4重量%となるよう付与する製造方法である。
【0019】
本発明においては、リング撚糸など公知の方法により、前述した撚糸コードを製造することができる。本発明の製造方法においては、得られた撚糸コードを、有機繊維のガラス転移温度(Tg)からTg+100℃の温度で加熱加圧することが特徴である。かかる温度でまた、該有機繊維のガラス転移温度(Tg)からTg+100℃の温度で加熱加圧されることによって本発明の有機繊維偏平コードが得られる。有機繊維のガラス転移温度(Tg)有機繊維を熱可塑化してコードを偏平化してその形状を熱セットするのである。具体的な高温加圧する際の温度としては、ポリエチレンテレフタレートであれば75〜175℃、ポリエチレンナフタレートであれば115〜215℃、ナイロンであれば40〜140℃である。Tg未満の温度では有機繊維を熱可塑化できず安定した偏平コード形状を得ることはできない。一方、Tg+100℃を超える温度では、有機繊維フィラメントの熱膠着によって偏平コードの強力が著しく低下するとともに、コードが硬くなるために耐疲労性が著しく低下してしまう課題がある。本発明において加熱加圧する温度としてはTg+20〜Tg+80℃の範囲がより好ましい。
【0020】
また、圧力は、撚糸コードの太さに加熱ローラを用いる場合、その直径や接触面積などにより前述した偏平比の偏平コードが得られるよう適宜設定すればよく特に限定はされないが、例えば、10〜200kg/cm、さらには10〜200kg/cmの間で圧力を3〜5点変更して撚糸コードを加熱加温処理し、得られた偏平の撚糸コードの偏平比を測定して、それをもとに所望の偏平比となる圧力を選定することができる。
【0021】
本発明においては、上記加熱加圧処理の前後における、撚糸コードの引張強力維持率(ここで、引張強力維持率=加熱加圧処理後の撚糸コードの引張強力/加熱加圧処理前の撚糸コードの引張強力×100)が90%以上であることが好ましい。引張強力維持率が90%未満では補強コードの引張強力低下によるゴム部材の耐久性不良、有機繊維フィラメントの熱膠着による耐疲労性低下が引き起こされる可能性がある。引張強力維持率は好ましくは95%以上である。かかる引張強力維持率は、前記温度での高温加圧処理により達成できる。
【0022】
さらに、上記の加熱加圧処理を施した撚糸コードには、RFL接着剤をその付着量が撚糸コード重量を基準として1〜4重量%となるようにRFL接着剤を含む処理液にディップする接着処理加工を行う。また、有機繊維がポリエステルの場合は、RFL処理の前にイソシアネート化合物、ブロックドイソシアネート化合物、エポキシ化合物などの混合物で一般的なプライマー処理を施すことが望ましい。
【0023】
本発明においては、偏平コードは、前述のように撚糸を施した後で加熱加圧して偏平の撚糸コードを得、次いで接着処理加工を施してもよいが、工業生産性を考慮すると、RFL接着処理工程において、接着剤を付与するディップ工程前で該有機繊維のガラス転移温度(Tg)からTg+100℃の温度の加熱ロールで撚糸コードのシングルコードあるいはそれからなる簾織物を連続的に加熱加圧することが好ましい。この方法によれば、既存の接着処理加工設備のディップ前に加熱ロールを追加するだけで本発明の目的の偏平コードを得ることができる。また、加熱ロールは接着剤をディップする直前に設けることが偏平コードの強力、柔軟性、疲労性の点で好ましい。接着剤をディップした後、例えば捲取の直前に設けたりすると、接着剤が加熱ロール表面に付着、蓄積してコード切断やガムアップなどの工程通過性や製品品位の面で大きな課題が生じる。本発明における偏平コードは用途に応じてシングルコードや織物などの布帛形態にしても良いのは言うまでもない。
【0024】
本発明における偏平コードは、強力、耐疲労性に優れ、また補強層を薄肉化できるため、タイヤ、ゴムホース、伝動ベルト、コンベアベルトなどのゴム部材における補強層に必要なゴム使用量を軽減化することができることによってゴム部材を軽量化でき、省エネルギー化の効果を大いに発揮することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、実施例は説明のためのものであって、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本発明の実施例における評価は下記の測定法で行った。
【0026】
(1)コード物性
JIS L1017に準じて測定を行った。
【0027】
(2)コードの断面偏平比(A/B)
コードを1mおきに30ヶ所切断して断面写真を撮影し、写真から断面の長径Aおよび短径Bを読み取り、A/Bの平均値を算出した。
【0028】
(3)耐疲労性評価(シューシャイン試験)
2.5mm厚のSBR/NR系ゴムを挟んで、得られたコードを26本/inchの密度で互いに平行に並べた2層のプライを作成し、さらに各プライ層の外側を1.5mm厚のSBR/NR系ゴムでカバーのち、温度150℃で30分間、90kg/cmの条件で加硫して、長さ500mm、幅5mm、厚み5.5mmのベルトを作成した。
次いで、このベルトを50kg/inchの荷重を印加して直径20mmのプーリーに取付け、温度100℃にて5時間にわたり10万サイクルの繰返し伸張圧縮疲労を加えた。伸張圧縮疲労後のベルトの内側(プーリー側)のプライからコードを取り出したのちに引張試験を行い、疲労前のコード強力に対する疲労後のコード強力の維持率を求めた。
この評価方法は、特開2007−168783号公報に示されるような動的たわみ試験で、すなわちシューシャイン試験と呼ばれている評価方法を参考としたものである。
【0029】
[実施例1〜2、比較例1〜2]
1100dtexのポリエチレンテレフタレート繊維(帝人ファイバー製テトロン BHT 1100T249 P952NL)にZ方向の撚数40回/10cm(撚係数1265)をかけて下撚コードを作成したのちに、この下撚コード2本をS方向の撚数40回/10cm(撚係数1789)をかけて1100dtex/1×2の撚糸コードを得た。この撚糸コードを表1記載の温度で加熱したロールで60kg/cmの圧力で25m/分の速度で連続的に加熱加圧したのちに1浴剤としてエポキシ系処理剤をディップし、150℃60秒、次いで240℃60秒の熱処理を行い、さらに引き続き2浴剤としてRFL処理剤を接着剤総付着量が2〜3%となるようにディップし、150℃60秒、240℃60秒の熱処理を総ストレッチ率2%の条件で接着処理加工を行い、コードを巻き取った。得られたコードの物性は表1にまとめて示す。
【0030】
[実施例3〜4、比較例3〜4]
繊維を1100dtexのポリエチレンナフタレート繊維(帝人ファイバー製テオネックス BHT 1100T250 Q904M)に変更し、表1のように高温加圧処理温度を変更した以外は実施例1と同様に加工を行った。得られたコードの物性は表1にまとめて示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から明らかな通り、本発明の実施例はいずれも高強力を維持しながら高偏平比のコードが得られており、さらに耐疲労性が非常に高い特徴を有することは明白である。これを用いることによって従来成し得なかったタイヤ、ベルト、ホース等の補強層の薄肉化ができることでゴム部材の軽量化が可能であり、耐疲労性に優れるためゴム部材を長寿命化することができるため、省エネルギーの面で大いに特性を発揮できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のゴム補強用有機繊維偏平コードは、高強力かつ耐疲労性に優れており、さらには補強層の薄肉化が可能となるためゴム部材の軽量化を図ることができるため、タイヤ、ベルト、ホース等のゴム補強材料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
A:偏平コード断面の長径(mm)
B:偏平コード断面の短径(mm)
1:撚糸コード
2:加熱加圧ロール
3:ディップバス
4:熱処理炉
5:駆動ロール
6:ニップロール
7:ソフナー
8:捲取機
図1
図2