特許第5969239号(P5969239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5969239表面処理炭酸カルシウム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969239
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】表面処理炭酸カルシウム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20160804BHJP
   C09C 1/02 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   C01F11/18 J
   C09C1/02
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-73773(P2012-73773)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-203581(P2013-203581A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】391009187
【氏名又は名称】株式会社白石中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】田近 正彦
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−278566(JP,A)
【文献】 特開平03−279245(JP,A)
【文献】 特開2011−190387(JP,A)
【文献】 特開2012−056976(JP,A)
【文献】 特開2001−354416(JP,A)
【文献】 特開2008−230923(JP,A)
【文献】 特開平06−179778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
C09C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラゴナイト型炭酸カルシウムに、コハク酸及び安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機酸を表面処理したことを特徴とする、表面処理炭酸カルシウム。
【請求項2】
有機酸の処理量が、アラゴナイト型炭酸カルシウム100質量部に対し、0.5〜5質量部の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理炭酸カルシウム。
【請求項3】
アラゴナイト型炭酸カルシウムの平均長径が5〜100μmの範囲内で、アスペクト比が5〜30の範囲内であることを特徴とする、請求項1または2に記載の表面処理炭酸カルシウム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理炭酸カルシウムを製造する方法であって、
アラゴナイト型炭酸カルシウムが、マグネシウムイオンを含む水酸化カルシウムの懸濁液に、炭酸ガスを吹き込むことによって調製されるアラゴナイト型炭酸カルシウムであることを特徴とする、表面処理炭酸カルシウムの製造方法
【請求項5】
マグネシウムイオンが、苦汁に含まれる塩化マグネシウムからのマグネシウムイオンであることを特徴とする、請求項4に記載の表面処理炭酸カルシウムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラゴナイト型炭酸カルシウムの表面を処理した表面処理炭酸カルシウムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、主に物性の向上や経済性の向上などのために、ゴム、プラスチック、紙などに大量にフィラーとして使用されている。この内プラスチックの力学的性質や熱的性質を改善・向上するには、板状、針状、あるいは繊維状などの形状をもつフィラーを用いることが好適とされている。炭酸カルシウムが、このような形状をもてば、プラスチックに対して従来の単なる増量用フィラーとしての役割ではなく、補強用フィラーとしての役割も果すことができる。
【0003】
針状またはウイスカー状の炭酸カルシウムとして、アラゴナイトの結晶形態を有する炭酸カルシウムが知られている。
【0004】
特許文献1においては、アラゴナイト型炭酸カルシウムを、ポリプロピレン系樹脂組成物に配合することにより、表面外観が良好で、反り変形が少なく、かつ剛性、強度及び耐熱性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−17642号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of the Ceramic Society of Japan 104 [3] 196-200(1996),「炭酸ガス化合法によるアラゴナイトウイスカーの合成条件」,太田 義夫,乾 三郎,岩下 哲志,春日 敏宏,阿部 良弘
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アラゴナイト型炭酸カルシウムを単に配合するだけでは、十分に高い機械的性質を得ることができなかった。
【0008】
本発明の目的は、ポリプロピレン系樹脂などの熱可塑性樹脂及びその他のポリマー等に配合して、高い曲げ弾性率等の優れた機械的特性を付与することができる表面処理炭酸カルシウムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の表面処理炭酸カルシウムは、アラゴナイト型炭酸カルシウムに、コハク酸及び安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機酸を表面処理したことを特徴としている。
【0010】
有機酸の処理量は、アラゴナイト型炭酸カルシウム100質量部に対し、0.5〜5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0011】
アラゴナイト型炭酸カルシウムの平均長径は5〜100μmの範囲内であることが好ましく、アスペクト比は5〜30の範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明のアラゴナイト型炭酸カルシウムは、マグネシウムイオンを含む水酸化カルシウムの懸濁液に、炭酸ガスを吹き込むことによって調製されるアラゴナイト型炭酸カルシウムであってもよい。この場合、マグネシウムイオンとしては、例えば苦汁に含まれる塩化マグネシウムからのマグネシウムイオンを用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面処理炭酸カルシウムを用いることにより、ポリプロピレン系樹脂などの熱可塑性樹脂及びその他のポリマー等に配合して、高い曲げ弾性率を付与することができ、補強用フィラーとして用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0015】
<アラゴナイト型炭酸カルシウム>
本発明の表面処理炭酸カルシウムは、アラゴナイト型炭酸カルシウムに有機酸を表面処理している。アラゴナイト型炭酸カルシウムは、アラゴナイト結晶を有する炭酸カルシウム粒子を主成分とする炭酸カルシウムであれば特に制限されることなく用いることができる。アラゴナイト結晶を有する炭酸カルシウム粒子が50質量%以上含まれていることが好ましく、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上がアラゴナイト結晶を有する炭酸カルシウム粒子であることが望ましい。
【0016】
アラゴナイト型炭酸カルシウムは、針状またはウイスカー状の形状を有しており、その平均長径は5〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは10〜50μmの範囲内である。また、アスペクト比(平均長径/平均短径)は、5〜30の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは5〜25の範囲内であり、さらに好ましくは10〜25の範囲内である。このような平均長径及びアスペクト比の範囲内とすることにより、ポリプロピレン系樹脂などの熱可塑性樹脂及びその他のポリマー等に配合して、曲げ弾性率などの機械的特性をさらに高めることができる。
【0017】
本発明のアラゴナイト型炭酸カルシウムは、マグネシウムイオンを含む水酸化カルシウムの懸濁液に、炭酸ガスを吹き込むことによって調製されるアラゴナイト型炭酸カルシウムであってもよい。このようなアラゴナイト型炭酸カルシウムを用いることにより、工業的に安定して製造できるので、経済性に優れた表面処理炭酸カルシウムとすることができる。
【0018】
また、マグネシウムイオンとして、苦汁に含まれる塩化マグネシウムからのマグネシウムイオンを用いることにより、さらに経済性に優れた表面処理炭酸カルシウムとすることができる。
【0019】
アラゴナイト型炭酸カルシウムの製造方法における製造条件等については、上記非特許文献1に記載されている。
【0020】
水酸化カルシウムと塩化マグネシウムなどのマグネシウム塩のスラリー中での存在モル比はCa/Mgが1.0未満であることが望ましい。1.0以上の場合は、粒状のカルサイトが混入して生成するため、ポリプロピレン系樹脂に配合した場合、曲げ弾性率が低下する場合がある。Ca/Mgの存在モル比の好ましい下限値は、0.1である。
【0021】
前記スラリーに炭酸ガスを導入し、アラゴナイト型炭酸カルシウムを生成させることが
できる。本反応における炭酸ガス濃度は特に限定されるものではなく、炭酸ガスのみを吹き込んでも良いし、炭酸ガスを含む混合ガスの形で吹き込んでもよい。
【0022】
前記反応を行う際には、水酸化カルシウム及びマグネシウム塩を含有するスラリーを60℃以上に加温した状態で反応を行うことが好ましい。反応時の温度が低くなると、生成する粒子はアラゴナイト含有比率が低く粒子が凝集しやすいうえ、粒状のカルサイトが混入して生成するため、ポリプロピレン系樹脂などの熱可塑性樹脂及びその他のポリマー等に配合した場合、曲げ弾性率が低下する場合がある。
【0023】
<有機酸による表面処理>
本発明においては、コハク酸及び安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸を、アラゴナイト型炭酸カルシウムに表面処理する。有機酸の処理量は、アラゴナイト型炭酸カルシウム100質量部に対し0.5〜5質量部の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.5〜2質量部の範囲内であり、さらに好ましくは0.7〜1.5質量部の範囲内である。このような範囲内とすることにより、高い曲げ弾性率等の優れた機械的特性を付与することができる。
【0024】
有機酸を表面処理する方法としては、乾式処理及び湿式処理が挙げられる。乾式処理としては、炭酸カルシウム粉末に有機酸を添加して撹拌し、有機層を炭酸カルシウムの表面に形成させる方法が挙げられる。
【0025】
湿式処理としては、有機酸を水またはアルコールなどの溶媒に溶解させ、次いで、炭酸カルシウムの水懸濁液に前述の有機酸の溶液を添加し、撹拌させて有機層を炭酸カルシウムの表面に形成させる方法が挙げられる。
【0026】
本発明の表面処理炭酸カルシウムを配合するポリマーとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴムなどが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ABS系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルファイド系樹脂、液晶ポリマーなどが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが挙げられる。ゴムとしては、ポリブタジエン系ゴム、ニトリル系ゴム、クロロプレン系ゴム、エチレンプロピレン系ゴム、シリコーン系ゴムなどが挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
<アラゴナイト型炭酸カルシウムの合成>
水酸化カルシウムと塩化マグネシウムのスラリー(Ca/Mgの存在モル比 0.6)を80℃に加温し、炭酸ガス(炭酸ガス濃度:30vol%)を導入し、アラゴナイト型炭酸カルシウムを生成させた。
【0029】
(実施例1)
上記のようにして得られたアラゴナイト型炭酸カルシウム100質量部に対し、0.5質量部となるようにコハク酸を乾式処理方法で処理した。具体的には、平均長径が25μm、アスペクト比が15であるアラゴナイト型炭酸カルシウムを混合撹拌しながら、水に溶解させたコハク酸0.5質量部を添加し、10分間撹拌混合し、表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0030】
(実施例2)
コハク酸の処理量を1.0質量部とする以外は、実施例1と同様にして表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0031】
(実施例3)
コハク酸の処理量を2.0質量部とする以外は、実施例1と同様にして表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0032】
(実施例4)
コハク酸の処理量を5.0質量部とする以外は、実施例1と同様にして表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0033】
(実施例5)
上記で得られたアラゴナイト型炭酸カルシウムに、表面処理量が1.0質量部となるようにコハク酸を湿式処理方法で処理した。具体的には、10質量%のアラゴナイト型炭酸カルシウムスラリーに、水に溶解させたコハク酸1.0質量部を添加し、10分間撹拌し、脱水、乾燥、解砕して、表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0034】
(実施例6)
有機酸として、コハク酸に代えて、安息香酸を用いる以外は、実施例1と同様にして表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0035】
(実施例7)
有機酸として、コハク酸に代えて、安息香酸を用いる以外は、実施例2と同様にして表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0036】
(実施例8)
有機酸として、コハク酸に代えて、安息香酸を用いる以外は、実施例3と同様にして表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0037】
(実施例9)
有機酸として、コハク酸に代えて、安息香酸を用いる以外は、実施例4と同様にして表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0038】
(実施例10)
有機酸として、コハク酸に代えて、安息香酸を用いる以外は、実施例5と同様にして、湿式処理方法により処理して表面処理炭酸カルシウムを調製した。
【0039】
〔表面処理炭酸カルシウムのポリプロピレン系樹脂への配合試験〕
実施例1〜10で得られた表面処理炭酸カルシウム(20質量%)を、ポリプロピレン系樹脂(80質量%)に配合し、曲げ弾性率及び荷重たわみ温度を測定した。
【0040】
ポリプロピレン系樹脂としては、日本ポリプロ株式会社製ノバテック、BC02GA(MFR:25g/10min、密度0.9、エチレンプロピレンランダム共重合体22%のプロピレンブロック共重合体)を用い、以下のようにしてポリプロピレン系樹脂に表面処理炭酸カルシウムを配合した。
【0041】
神戸製鋼社製「KTX44」型2軸押出機、温度=210℃、スクリュー回転数=300rpmにて、押出機初段にポリプロピレン系樹脂を投入し溶融させ、次いで押出機中段にて溶融したポリプロピレン系樹脂に表面処理炭酸カルシウムを所定の量となるようサイ
ドフィーダーにて投入し混合、混練し、ペレットを得た。
【0042】
以上のようにして調製したポリプロピレン系樹脂組成物について、曲げ弾性率及び荷重たわみ温度を測定した。
【0043】
曲げ弾性率は、ISO−178に準拠して23℃で測定した。荷重たわみ温度は、ISO−75に準拠して測定した。
【0044】
(比較例1)
表面処理炭酸カルシウムの代わりに、無処理のアラゴナイト型炭酸カルシウムを用いる以外は、上記と同様にしてポリプロピレン系樹脂に配合してポリプロピレン系樹脂組成物を調製し、曲げ弾性率及び荷重たわみ温度を測定した。
【0045】
(比較例2)
無処理のアラゴナイト型炭酸カルシウムを用い、添加するアラゴナイト型炭酸カルシウム100質量部に対し1.0質量部となる量のコハク酸を、炭酸カルシウムとポリプロピレン系樹脂の混練時に添加し、ポリプロピレン系樹脂組成物を調製し、上記と同様にして曲げ弾性率及び荷重たわみ温度を測定した。なお、炭酸カルシウムとコハク酸の合計量が、20質量%となるようにポリプロピレン系樹脂に配合した。
【0046】
(比較例3)
無処理のアラゴナイト型炭酸カルシウムを用い、添加するアラゴナイト型炭酸カルシウム100質量部に対し1.0質量部となる量の安息香酸を、炭酸カルシウムとポリプロピレン系樹脂の混練時に添加し、ポリプロピレン系樹脂組成物を調製し、上記と同様にして曲げ弾性率及び荷重たわみ温度を測定した。なお、炭酸カルシウムと安息香酸の合計量が、20質量%となるようにポリプロピレン系樹脂に配合した。
【0047】
(比較例4)
フィラーを添加していないポリプロピレン系樹脂について、上記と同様にして曲げ弾性率及び荷重たわみ温度を測定した。
【0048】
(参考例)
表面処理炭酸カルシウムに代えて、タルク(平均粒子径5μm)をポリプロピレン系樹脂に配合する以外は、上記と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を調製し、曲げ弾性率及び荷重たわみ温度を測定した。
【0049】
曲げ弾性率及び荷重たわみ温度の測定結果を表1に示す。なお、表1に示す炭酸カルシウム配合量は、表面処理炭酸カルシウムの配合量または炭酸カルシウムと有機酸の合計の配合量を示している。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、本発明に従う実施例1〜10の表面処理炭酸カルシウムは、無処理のアラゴナイト型炭酸カルシウムを配合した比較例1に比べ、高い曲げ弾性率及び荷重たわみ温度を示している。
【0052】
また、コハク酸または安息香酸を炭酸カルシウムに表面処理せずに、混練時に添加した比較例2及び比較例3と比べても、本発明に従う実施例1〜10の表面処理炭酸カルシウムは、高い曲げ弾性率及び荷重たわみ温度を示している。また、実施例2、5、7及び10の表面処理炭酸カルシウムは、タルクを配合した参考例と同程度の曲げ弾性率を示している。