特許第5969251号(P5969251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969251
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】耐火二層管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 9/14 20060101AFI20160804BHJP
   F16L 57/04 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   F16L9/14
   F16L57/04
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-85370(P2012-85370)
(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-213570(P2013-213570A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187194
【氏名又は名称】昭和電工建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】関口 尊文
(72)【発明者】
【氏名】古川 将康
【審査官】 渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−021617(JP,A)
【文献】 実開平02−025798(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3168356(JP,U)
【文献】 特開平5−278682(JP,A)
【文献】 特開昭51−140220(JP,A)
【文献】 特公昭58−33098(JP,B2)
【文献】 特開2008−38725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 9/00− 9/22
F16L57/00−57/06
F16L59/00−59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内管の外周に外周被覆層が設けられるとともに、前記外周被覆層に耐火性材料が含浸されて耐火層が形成される耐火二層管であって、
前記外周被覆層は、管状に丸められて周方向の両端部が対向配置された多孔質シートによって構成されるとともに、その外周被覆層としての多孔質シートの対向端部が、外面側からすくい縫いされて縫合されることによって連結され
すくい縫いによる縫い糸は前記多孔質シートの対向端部にくぐらせるように配置されていることを特徴とする耐火二層管。
【請求項2】
すくいミシンによって、前記外周被覆層としての多孔質シートの対向端部がすくい縫いされている請求項1に記載の耐火二層管。
【請求項3】
前記外周被覆層としての多孔質シートの対向端部は、圧接しない状態で突き合われている請求項1または2に記載の耐火二層管。
【請求項4】
前記外周被覆層には、その外面側に前記耐火層が設けられるとともに、内面側に耐火性材料が非含浸の吸音層が設けられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐火二層管。
【請求項5】
多孔質シートを内管の外周面に巻き付けて、その多孔質シートにおける周方向の両端部を対向配置するとともに、その対向端部を、外面側からすくいミシンで縫合して連結することによって、前記内管の外周に前記多孔質シートによる外周被覆層を形成する工程と、
前記外周被覆層に耐火性材料を含浸させて耐火層を形成する工程とを含み、
すくい縫いによる縫い糸は前記多孔質シートの対向端部にくぐらせるように配置されていることを特徴とする耐火二層管の製造方法。
【請求項6】
多孔質シートを管状に丸めて周方向の両端部を対向配置するとともに、その対向端部を、外面側からすくいミシンで縫合して連結することによって、多孔質シート管状体を作製する工程と、
前記多孔質シート管状体に耐火性材料を含浸させて耐火層を形成する工程と、
内管に前記多孔質シート管状体を外嵌する工程とを含み、
すくい縫いによる縫い糸は前記多孔質シートの対向端部にくぐらせるように配置されていることを特徴とする耐火二層管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、集合住宅等の建築物において排水用や換気用の配管として用いられる耐火二層管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅やオフィスビル等の多人数が生活する建築物においては、排水用や換気用の配管等として、合成樹脂製、鋼製、鋳鉄製等の内管の外周面をモルタル等の耐火材料で被覆した耐火二層管が使用されている。耐火二層管は、火災発生時に配管を通じて隣接区間への延焼を防止することを目的として、建築基準法や消防法に基づく基準や行政指導によって構造や耐火性能が定められている。
【0003】
かかる耐火二層管においては、耐火性はもとより防音性、断熱性の向上を図るために被覆層の材料や形成方法が改良されている。
【0004】
例えば特許文献1に示す耐火二層管は、合成樹脂製の内管の外周面に設けられた不織布シート製等の外周被覆層に、モルタル等の耐火材料が含浸されて耐火層が形成され、所定の耐火性能が得られるようにしている。
【0005】
このような耐火二層管において、不織布シートにより外周被覆層を形成するには、内管等に巻き付けた不織布シートにおける周方向の両端部(対向端部)を連結することとなる。
【0006】
例えば特許文献2に示す耐火二層管においては、不織布シート等のシート状部材を内管に巻き付けて、そのシート状部材における周方向の両端部を部分的に重ね合わせ、その重ね合わされた端部にテープを貼り付けることによって、シート状部材の対向端部を連結するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−21617号公報
【特許文献2】特開2007−321891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2に示すような耐火二層管では、外周被覆層としてのシート状部材の対向端部を重ね合わせたり、その重ね合わせ端部にテープを貼り付けたりするものであるため、重ね合わせ端部やテープ貼付部の厚みが他の部分よりも厚くなってしまう。従って、外周被覆層(シート状部材)を全周にわたって均一な厚みに形成することができず、真円度等の寸法精度が低下するという課題が発生する。真円度が低下すると、外周被覆層に設けられる耐火層等も全周にわたって均一な厚みに形成することが困難になり、周方向の位置によって、耐火性能にバラツキが発生し、良好な耐火性能を得ることも困難になるおそれがある。
【0009】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、外周被覆層である多孔質シートを全周にわたって均一な厚みに形成することができ、寸法精度を向上させることができるとともに、良好な耐火性能を得ることができる耐火二層管およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0011】
[1]内管の外周に外周被覆層が設けられるとともに、前記外周被覆層に耐火性材料が含浸されて耐火層が形成される耐火二層管であって、
前記外周被覆層は、管状に丸められて周方向の両端部が対向配置された多孔質シートによって構成されるとともに、その外周被覆層としての多孔質シートの対向端部が、外面側からすくい縫いされて縫合されることによって連結されていることを特徴とする耐火二層管。
【0012】
[2]すくいミシンによって、前記外周被覆層としての多孔質シートの対向端部がすくい縫いされている前項1に記載の耐火二層管。
【0013】
[3]前記外周被覆層としての多孔質シートの対向端部は、圧接しない状態で突き合わせれている前項1または2に記載の耐火二層管。
【0014】
[4]前記外周被覆層には、その外面側に前記耐火層が設けられるとともに、内面側に耐火性材料が非含浸の吸音層が設けられている前項1〜3のいずれか1項に記載の耐火二層管。
【0015】
[5]多孔質シートを内管の外周面に巻き付けて、その多孔質シートにおける周方向の両端部を対向配置するとともに、その対向端部を、外面側からすくいミシンで縫合して連結することによって、前記内管の外周に前記多孔質シートによる外周被覆層を形成する工程と、
前記外周被覆層に耐火性材料を含浸させて耐火層を形成する工程とを含むことを特徴とする耐火二層管の製造方法。
【0016】
[6]多孔質シートを管状に丸めて周方向の両端部を対向配置するとともに、その対向端部を、外面側からすくいミシンで縫合して連結することによって、多孔質シート管状体を作製する工程と、
前記多孔質シート管状体に耐火性材料を含浸させて耐火層を形成する工程と、
内管に前記多孔質シート管状体を外嵌する工程とを含むことを特徴とする耐火二層管の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
発明[1][2]の耐火二層管によれば、外周被覆層を全周にわたって均一な厚みに形成でき、真円度等の寸法精度を向上できるとともに、外周被覆層に含浸させる耐火性材料も均一な厚みに調整でき、良好な耐火性能を得ることができる。
【0018】
発明[3]の耐火二層管によれば、より一層寸法精度を向上させることができる。
【0019】
発明[4]の耐火二層管によれば、良好な防音性能も得ることができる。
【0020】
発明[5][6]の製造方法によれば、上記と同様な効果を奏する耐火二層管を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1はこの発明の実施形態である耐火二層管を示す斜視図である。
図2図2は実施形態の耐火二層管を示す断面図である。
図3図3は実施形態の耐火二層管に適用された多孔質シートの連結端部を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1はこの発明の実施形態である耐火二層管1を示す斜視図、図2は実施形態の耐火性二層管1を示す断面図である。
【0023】
両図に示すようにこの耐火二層管1は、内管2の外周面に、多孔質シート4によって構成される外周被覆層3が設けられるとともに、その外周被覆層3の内部における厚み方向(径方向)の外側にのみ、耐火性材料が含浸されている。そして、外周被覆層3には、多孔質シート4を基材としてその気孔内に耐火性材料が含浸された部分によって構成される耐火層32と、耐火性材料が含浸されていない部分によって構成される吸音層31とが設けられている。
【0024】
本実施形態の耐火二層管1において、内管2は、合成樹脂製管、鋼管、鋳鉄管等、任意の材質のものを使用することができる。合成樹脂製管としては、硬質ポリ塩化ビニル管(PVC管)、ポリエチレンテレフタレート管(PET管)、ポリプロピレン管(PP管)等の熱可塑性樹脂製管を好適なものとして例示することができる。なお、内管2の寸法、直管、曲がり管、分岐管等の管形状も限定されるものではない。
【0025】
外周被覆層3を構成する多孔質シート4は、耐火性材料を含浸させて耐火層32を形成するための基材であり、養生後は耐火層32の補強材として作用するものであるから、十分な耐火性材料を含浸させるために、多数の気孔が立体的(三次元的)に存在して所要の厚みを有していることが求められる。具体的には、繊維を結合または絡ませて形成した不織布(フェルトを含む)、連続気泡フォームを推奨できる。なお本発明において、多孔質シート4としては、所要の厚みを有し耐火性材料を保持しうるものであれば織物や編み物も使用できる。
【0026】
不織布は、繊維がランダムに配向しているため、耐火性材料をムラなく均一に含浸させることができ、引っ張りや曲げに対する強度が三次元的に均等であるため、耐衝撃性に優れ、割れにくい耐火層32を形成することができる。不織布の材料となる繊維の材質は、有機系、無機系のいずれであっても良い。有機系繊維としては、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート系(PET系ポリエステル)、ポリアミド(6−ナイロン、6,6ナイロン等)、アクリル系、ポリビニルアルコール系(ビニロン等)、ポリオレフィン系、木綿、羊毛等を例示できる。無機系繊維としては、ガラス繊維、ロックウール、セラミック繊維を例示できる。これらのうち、耐火性向上の観点からは無機系繊維が好ましいが、価格、取り扱いの容易性の観点からはポリエステルやポリプロピレン等の合成繊維製の不織布を用いることが好ましい。耐火層32の耐火性能は不織布に含浸させた耐火性材料によって十分に得られるので、合成繊維製不織布を用いても何ら不都合はない。
【0027】
不織布はそのままの状態で使用することもできるが、不織布を圧縮したフェルト、ニードルパンチした不織布またはフェルトを用いるが好ましい。不織布を圧縮やニードルパンチすることによって保形性が高まるので、耐火性材料含浸後の保形性も高まり、ひいては耐火二層管1の真円度を高めることができる。
【0028】
連続気泡フォームとしては、発泡ウレタンフォーム等を例示でき、不織布と同様に気泡内に耐火性材料を含浸させることによって高強度の耐火層32を形成することができる。
【0029】
上記の多孔質シート4のなかでも、補強効果が最も優れているのは不織布である。
【0030】
多孔質シート4の厚さ(耐火層32の厚さと吸音層31の厚さとの合計)は、求められる耐火性能に応じて調整される。通常、多孔質シート4の厚さは、3〜30mmが好ましい。
【0031】
本実施形態においては、多孔質シート4として二層構造のものを使用しても良い。すなわち、多孔質シート4には、耐火性材料を含浸させて耐火層32を形成するものであるため、多孔質シート4のうち耐火性材料を含浸させたい部分(耐火層32を形成する予定の部分)を、密度の低い不織布等の低密度層によって構成し、耐火性材料を含浸させたくない部分(吸音層31を形成する予定の部分)を、密度の高い不織布等の高密度層によって構成する。低密度層は高密度層に比べて耐火性材料が含浸し易いため、多孔質シート4(外周被覆層3)の低密度層のみに、耐火性材料を確実に含浸させることができる。このように低密度層および高密度層の二層構造の多孔質シート4を用いることによって、耐火性材料の含浸度合を正確に制御することができ、所望の部分に的確に耐火層32および吸音層31を形成することができる。
【0032】
本実施形態において、外周被覆層3は、管状に丸められた多孔質シート4によって構成されている。
【0033】
外周被覆層3である多孔質シート4の周方向の両端部41,42は突き合わされて、特有の方法によって連結されている。すなわち図2,3に示すように、多孔質シート4の両端部41,42における対向端面を突き合わせた状態で、その対向端部(突き合わせ端部)41,42を外面側からすくい縫いして縫合することによって連結するようにしている。
【0034】
本実施形態において、すくい縫いとは、多孔質シート4における対向端部41,42間をまたがる領域をすくいながら縫う縫い方である。例えば多孔質シート4における一端部41にその外面側から挿入した縫い糸5を、両端部41,42の突き合わせ端面に通して、多孔質シート4の他端部42の外面側から引き出すようにすくいながら縫う縫い方である。このすくい縫いを、多孔質シート4の対向端部41,42に沿って連続して繰り返し行うことによって、多孔質シート4の対向端部41,42をその軸心方向の全域を縫い糸5によって縫合して連結するものである。
【0035】
本発明のすくい縫いは、すくい幅(周方向の間隔)や、軸心方向のピッチ等は特に限定されるものではない。要は、多孔質シート4における対向端部41,42間をまたがる領域をすくいながら縫う縫い方であれば、どのように縫合しても良い。
【0036】
本実施形態において、すくい縫いは、市販のすくいミシン(すくい縫いミシン)を用いて行うことができる。
【0037】
本実施形態において、すくい縫いに用いられる縫い糸5の材質は、特に限定されるものではなく、多孔質シート4としての上記不織布の材料となる繊維と同様な材質の繊維等を好適に使用することができる。
【0038】
ここで、本実施形態においては、縫い糸5のテンションや、くぐらせ方を調整することによって、多孔質シート4の対向端部41,42における外側部分(耐火層32を形成する予定の部分)が圧縮変形せずに自然な状態(圧接しない状態)で軽く接触し合う程度にしておくのが好ましい。すなわち、多孔質シート4の対向端部41,42における外側部分が圧縮変形してしまうと、その圧縮変形部に耐火性材料を十分に含浸させることができず、耐火性能を低下させるおそれがある。
【0039】
さらに多孔質シート4の突き合わせ端部41,42における内側部分(吸音層31を形成する予定の部分)は、確実に接触させておくのが良い。すなわち、多孔質シート4の突き合わせ端部41,42における内側部分に隙間が形成されていると、その隙間、つまり吸音層31を形成する予定の部分まで不用意に耐火性材料が浸入してしまうおそれがあり、好ましくない。
【0040】
なお、本発明においては、外周被覆層3としての多孔質シート4の対向端部41,42を、必ずしも突き合わせる必要はない。つまり、本発明においては、多孔質シート4の対向端部41,42間に、多少隙間が形成されるようにしても良い。この隙間は部分的であっても、全体的であっても良い。特に多孔質シート4の対向端部41,42における外側部分は、耐火性材料を安定状態に保持できる程度であれば多少の隙間が形成されていても何ら不具合が生じることはない。
【0041】
もっとも、本発明においては、全周の均質化をより確実に図るためには、上記実施形態のように、外周被覆層3としての多孔質シート4の対向端部41,42を突き合わせるようにするのが良い。
【0042】
また本実施形態においては、多孔質シート4の対向端部41,42にくぐらせる縫い糸5は、多孔質シート4の外側部分(耐火層32を形成する予定の部分)にくぐらせるようにしている。もっとも本発明においては、縫い糸5を、多孔質シート4の内側部分(吸音層31を形成する予定の部分)にくぐらせるようにしても良い。
【0043】
このように本実施形態においては、外周被覆層3における多孔質シート4の両端部41,42を突き合わせた状態ですくい縫いして連結するものであるため、外周被覆層3である多孔質シート4の両端部41,42が膨れ上がったり、凹んだりすることがなく、多孔質シート4、つまり外周被覆層3を全周にわたって均一な厚さに設定することができる。換言すれば、外周被覆層3の外周面を、凹凸のない滑らかな周面に形成することができる。従って、外周被覆層3の外周面における真円度も高くすることができ、ひいては耐火二層管1の真円度等の寸法精度を向上させることができる。
【0044】
なお、図2においては、発明の理解を容易にするため、縫い糸5の存在を誇張して示している。つまり図2では、縫い糸5が外周被覆層3から突出しているように記載しているが、実際には、縫い糸5は外周被覆層3の外周側に食い込むように配置され、外周被覆層3の外周面から突出するようなことはない。
【0045】
本実施形態において、耐火層32は、外周被覆層3に耐火性材料を含浸させることによって形成するものである。耐火性材料の含浸方法は特に限定されず、塗布、注入、吹き付け、浸漬等の方法を用いることができる。いずれの含浸方法を用いても、外周被覆層3は、その多孔質シート4の対向端部41,42も含めて、全周にわたって均一な厚さに設定できるため、耐火性材料を全周にわたって均一な厚さに含浸させることができる。従って、全周にわたって均一な厚さの耐火層32を形成でき、かつ真円度が高い高品質の耐火層32を形成することができる。
【0046】
耐火性材料としては、硬化後の強度、密度、耐火性等の観点から、普通、早強、中庸熱および超早強の各種ポルトランドセメント、またはこれらのポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグを混合した高炉セメントを例示することができる。またこれらに適宜骨材や各種添加剤を混合することもできる。これらの固体材料に水を混合し、湿式材料として外周被覆層3に含浸させる。湿式状態の耐火性材料の粘度は固体材料と水との混合比によって調整し、外周被覆層3の材質、面密度、厚さ、浸透速度、硬化時間等に応じて適宜設定する。なお、一般的には強度向上を目的としてセメントに繊維を混合した繊維モルタルが使用されるが、本発明の耐火層32は、外周被覆層3である多孔質シート4が補強材として機能するので繊維を混合する必要はない。繊維モルタルは多孔質シート4への浸透を妨げることがあるので、むしろ繊維を混合しないことが好ましい。
【0047】
耐火層32は、耐火性材料中に外周被覆層3(多孔質シート4)を構成する繊維や樹脂を均一に含んでおり、繊維や樹脂が補強材として機能する。このため、耐火層32は強度が高く、耐衝撃性に優れ、割れにくいという特性を有している。
【0048】
耐火層32の厚みは、外周被覆層3の厚さ、使用目的、施工場所等に応じて、適宜設定すれば良い。耐火層32は、厚いほど耐火性が向上するが、重量の問題もあり、少なくとも3mm以上、好ましくは5mm〜10mm程度に設定するのが良い。耐火層32を厚くし過ぎると、耐火二層管1全体の重量が増加してしまい、輸送や施工が困難になるおそれがある。
【0049】
吸音層31は、外周被覆層3における耐火性材料が含浸されていない部分(非含浸の部分)によって構成されるものである。この吸音層31は、良好な吸音性を確保するため、厚みを少なくとも1mm以上、好ましくは3mm〜15mm程度に設定するのが良い。
【0050】
既述したように本実施形態では、外周被覆層3および耐火層32を全周にわたって均一な厚みに、かつ高い真円度に形成できるため、吸音層31も同様に、全周にわたって均一な厚みに、かつ高い真円度に形成することができる。
【0051】
以上のように構成された耐火二層管1は、例えば以下の方法によって製造することができる。
【0052】
まず内管2に多孔質シート4を巻き付けて、多孔質シート4の両端部41,42を突き合わせた状態で、すくいミシンを用いてすくい縫いを行って縫合する。これにより内管2の外周面に、多孔質シート4による外周被覆層3を形成する。
【0053】
こうして内管2の外周面に設けられた外周被覆層3の外面側にのみ耐火性材料を含浸させて養生硬化させる。養生期間は耐火性材料の組成、耐火層32の厚さ、環境等に応じて適宜設定すれば良い。
【0054】
これにより、外周被覆層3における耐火性材料3が含浸した部分に耐火層32が形成され、かつ含浸しない部分に吸音層31が形成された耐火二重管1を製造することができる。
【0055】
なお本発明においては、多孔質シート4を内管2に巻き付ける前に予め、多孔質シート4を管状に丸めて多孔質シート4の対向端部41,42を連結した管状体を形成しておくようにしても良い。例えば内管2に対応する芯管に多孔質シート4を巻き付けて、その多孔質シート4の両端部41,42を突き合わせた状態ですくいミシンによって縫合して、多孔質シート4の管状体(外周被覆層3)を作製する。そしてその多孔質シート管状体の外周面側にのみ耐火性材料を含浸させて養生硬化させる。その後、多孔質シート管状体を芯管から抜き取ってから、その管状体を内管2に外嵌することによって、内管2の外側に、耐火材料が含浸された多孔質シート管状体(外周被覆層3)を形成して、耐火二層管1を製造するものである。
【0056】
さらに本発明においては、多孔質シート管状体(外周被覆層3)に耐火性材料を含浸させる前にその管状体を内管2に外嵌するようにしても良い。例えば内管2に対応する芯管に多孔質シート4を巻き付けて、その多孔質シート4の両端部41,42を突き合わせた状態ですくいミシンによって縫合して、多孔質シート4の管状体を作製する。そしてその多孔質シート管状体を芯管から抜き取って内管2に外嵌して、内管2の外側に、多孔質シート4による外周被覆層を形成する。その後、外周被覆層3の外周面側にのみ耐火性材料を含浸させて養生硬化させることによって、耐火二層管1を形成するものである。
【0057】
以上の構成の耐火二重管1を、例えばマンションの排水管として使用した場合、内部を流れる水によって発生する音(水流音)が管外に漏れるようなことはない。すなわち水流音は、吸音層31で吸音されるとともに、吸音層31を透過した水流音は、耐火層32で遮音反射される。従って水流音が管外に漏れることはない。
【0058】
また、外周被覆層3に耐火性材料を含浸させて耐火層32を形成しているため、所定の耐火性能を得ることができる。
【0059】
また本実施形態においては、外周被覆層3としての多孔質シート4の両端部41,42をすくいミシンによって縫合して連結するものであるため、外周被覆層3を全周にわたって均一な厚さに形成でき、真円度の高い高品質の耐火二重管1を得ることができる。さらに外周被覆層3に形成される耐火層32および吸音層31も、上記と同様に均一な厚さに形成できるため、全周にわたってバラツキのない耐火性能および吸音性能を得ることができ、耐火性能および吸音性能をより一層向上させることができる。
【0060】
なお上記実施形態においては、外周被覆層3に、耐火性材料を含浸させない吸音層31を形成するようにしているが、この吸音層3は必ずしも設ける必要はない。例えば外周被覆層3の厚み方向全域にわたって耐火性材料を含浸させることにより、外周被覆層3の厚み方向全域を耐火層32に形成し、吸音層を設けないようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0061】
この発明の耐火二重管は、集合住宅等の建造物における排水管や換気管として用いるkとができる。
【符号の説明】
【0062】
1:耐火二重管
2:内管
3:外周被覆層
32:耐火層
31:吸音層
4:多孔質シート
41,42:多孔質シートの端部
図1
図2
図3