(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施態様について、その詳細を以下に示す。本発明についての、その他の特徴、目的、利点等は、以下の記述および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。本開示における種々の態様または要素に関する記載は、特記がない限り、2つ以上の態様または要素の任意の組合せを包含することが意図される。
【0020】
本発明の一態様は、ペルフルオロオレフィン単位もしくは部分フルオロ化オレフィン単位またはこれらの組合せを含むフルオロエラストマー(以下、「フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマー」、または単に「フルオロエラストマー」ともいう)を含み、該フルオロエラストマーが多峰性の分子量分布を有する、フルオロポリマー組成物を提供する。本発明の別の態様は、該フルオロポリマー組成物を硬化させて得られる硬化物を提供する。
【0021】
本発明の一態様は、フルオロポリマー組成物を170℃にて10分間、次いで230℃にて24時間硬化させた場合に生成する硬化物が、JIS K6253 2006に準拠して測定されるデューロA硬さ 約45以下、好ましくは約43以下、または約42以下を有する、フルオロポリマー組成物を提供する。170℃にて10分間、次いで230℃にて24時間という硬化条件は、フルオロポリマー組成物から硬化物を製造する際の硬化条件の典型例の1つである。このような硬化条件で上記のデューロA硬さ特性を有するフルオロポリマー組成物は、低硬度が要求される各種用途において有利に使用される硬化物を形成する能力を有する。しかし、フルオロポリマー組成物を使用する際の硬化条件は上記に限定されるものではないことに留意すべきである。フルオロポリマー組成物は、低硬度が要求される所望の用途に応じた種々の硬化条件で硬化させて使用できる。上記デューロA硬さは、硬化物の形状の維持、および硬化物の物性の維持の観点から、例えば約30以上、または約32以上、または約35以上であってもよい。
【0022】
本発明の別の態様は、JIS K6253 2006に準拠して測定されるデューロA硬さ約45以下を有する硬化物を提供する。該デューロA硬さは、好ましくは約43以下、または約42以下である。上記のような低いデューロA硬さは、低硬度が要求される硬化物の各種用途において有利である。上記デューロA硬さは、硬化物の形状の維持、および硬化物の物性の維持の観点から、例えば約30以上、または約32以上、または約35以上であってもよい。
【0023】
本発明の一態様において、フルオロエラストマーは多峰性の分子量分布を有する。これにより、特性悪化を招来する成分の添加を特段必要とすることなく、低硬度の硬化物を形成できる。すなわち、従来技術において、可塑剤または油は、フルオロエラストマーとの相溶性が悪いために硬度を容易に低減できず、またブリードまたは揮発の問題を有する。また、液体状ゴムは、その粘着性および高粘度という性質により加工性の悪化および硬化時の発泡を招来する。更に、液体状ゴムは一般に非常に低分子量であるため、物性を良好に発揮するための充分な架橋ができないという制限も有する。そして、上記のような従来技術の添加成分は、いずれも耐圧縮永久ひずみ特性の悪化を招来する。これに対し、本発明によれば、上記のような特性悪化を招来する成分の添加が本質的に不要であるにも関わらず、低硬度および良好な耐圧縮永久ひずみ特性を実現できる。低硬度の硬化物を形成できるフルオロエラストマーは、例えば従来十分な物性を有する低硬度のフルオロエラストマー組成物がないために使用されてきた低硬度フルオロシリコーンエラストマー組成物、低硬度エピクロロヒドリンゴム組成物等の代替としても有望である。
【0024】
本開示で記載する分子量および分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(本開示で、GPCともいう)で標準ポリスチレン換算にて得られる値である。より具体的には、分子量既知の標準ポリスチレンを用い、標準ポリスチレンの分子量と、該標準ポリスチレンのGPCによる溶出ピーク値とから、ポリマー・ラボラトリー社(英国)のソフト「シーダス」を用いた解析により分子量および分子量分布の値を得ることができる。本開示で、「フルオロエラストマーが多峰性の分子量分布を有する」とは、フルオロエラストマーの分子量を評価し、横軸を分子量、縦軸を検出強度として値をプロットしたときの分子量分布曲線(本開示で、単に「分子量分布曲線」ということもある)が2つ以上の山(すなわち極大値)を有することを意味する。
【0025】
分子量分布曲線における検出強度は、第1の極大値を分子量約3,000〜約8万、または約5,000〜約6万、または約7,000〜約5万の範囲に有し、かつ第2の極大値を分子量約10万〜約200万、または約15万〜約180万、または約20万〜約150万の範囲に有することが好ましい。第1の極大値を含むピークに属する分子量を有する成分(本開示で「低分子量成分」ともいう)は低硬度の硬化物の形成に寄与し、第2の極大値を含むピークに属する分子量を有する成分(本開示で「高分子量成分」ともいう)は硬化物の良好な物理特性(特に耐圧縮永久ひずみ特性)に寄与する。
【0026】
本開示で、任意の1つの極大値を含むピークは、当業者に公知の方法により規定する。例えば、2つ以上のピークが重なっている場合には、当業者に公知の方法でピーク分離およびベースラインの較正を行って各々のピークを規定する。
【0027】
上記分子量分布曲線は、上記第1の極大値および上記第2の極大値に加え、第1の極大値よりも低分子量側、第1の極大値と第2の極大値との間、もしくは第2の極大値よりも高分子量側、またはこれらの2つ以上の領域に、1つ以上の追加の極大値を有してもよい。この場合、追加の極大値は、第1の極大値および第2の極大値の両者よりも小さいことが好ましい。
【0028】
好ましい態様において、フルオロエラストマーは二峰性の分子量分布を有する。より好ましい態様において、フルオロエラストマーは、上記低分子量成分および上記高分子量成分から本質的になる。
【0029】
好ましい態様において、フルオロエラストマー100質量%中、上記低分子量成分の含有率は、約10〜約90質量%であることができる。上記含有率は、低硬度の硬化物を形成する観点から、好ましくは約15質量%以上、または約20質量%以上、または約25質量%以上であり、硬化物の良好な物理特性を得る観点から、好ましくは約85質量%以下、または約80質量%以下、または約75質量%以下である。
【0030】
好ましい態様において、フルオロエラストマー100質量%中、上記高分子量成分の含有率は、約10〜約90質量%であることができる。上記含有率は、硬化物の良好な物理特性を得る観点から、好ましくは約15質量%以上、または約20質量%以上、または約25質量%以上であり、低硬度の硬化物を形成する観点から、好ましくは約85質量%以下、または約80質量%以下、または約75質量%以下である。
【0031】
本開示において、所定分子量成分の量は、GPCのRI検出器を用いて得られたピーク強度から、GPCに付属のソフト「ケミステーション」を用いてピーク強度を積算することで得ることができる。
【0032】
多峰性の分子量分布を有するフルオロエラストマーを得る方法としては、例えば、別個に合成した2種以上のポリマーのブレンド(固体同士、もしくは重合ラテックス同士)、重合時に分子量を制御するラジカル開始剤濃度や連鎖移動剤濃度を大きく切り替える方法等が挙げられる。具体的な製造手順の例は後述する。
【0033】
好ましい態様において、フルオロエラストマーの数平均分子量は、約2万以上約40万以下である。数平均分子量は、優れた物性(例えば、引張強さ、耐圧縮永久ひずみ特性など)の発揮・維持の観点から、好ましくは約2万5千以上、または約3万以上、または約3万5千以上であり、良好な加工性(混練り特性、成形時の流れ性など)の観点から、好ましくは約35万以下、または約30万以下、または約25万以下である。
【0034】
好ましい態様において、フルオロエラストマーの分子量分布は、約25超、または約30以上、または約35以上である。上記のような大きい分子量分布は、低硬度の硬化物の形成および硬化物の良好な加工性(硬化時の流れ性、押し出し特性など)の実現の観点から有利である。好ましい態様において、分子量分布は、物性(特に引張強さ、耐圧縮永久ひずみ特性)の発揮・維持の観点から、約200以下、または約180以下、または約150以下である。
【0035】
好ましい態様において、上記低分子量成分の数平均分子量は、物性の維持、粘着性の低減などの観点から、約3,000以上、または約5,000以上、または約7,000以上であり、十分な低硬度の付与の観点から、約8万以下、または約6万以下、または約5万以下である。
【0036】
好ましい態様において、上記低分子量成分の分子量分布は、粘着性の低減、物性の維持、加工性の観点から、約1.1以上、または約1.2以上、または約1.3以上であり、物性の維持の観点から、約10以下、または約8以下、または約7以下である。
【0037】
好ましい態様において、上記高分子量成分の数平均分子量は、物性の維持の観点から、約10万以上、または約15万以上、または約20万以上であり、加工性の観点から、約200万以下、または約180万以下、または約150万以下である。
【0038】
好ましい態様において、上記高分子量成分の分子量分布は、加工性の観点から、約2以上、または約2.5以上、または約3以上であり、物性の維持の観点から、約20以下、または約18以下、または約15以下である。
【0039】
好ましい態様において、フルオロエラストマーのムーニー粘度(ML1+10,250F(約121℃))は、約2〜約250である。ムーニー粘度は、硬化物の良好な物理特性等の観点から、好ましくは約3以上、または約4以上、または約5以上であり、未硬化物の加工性(例えば、混練り性、硬化時の流れ特性、押し出し特性等)等の観点から、好ましくは約230以下、または約200以下、または約180以下である。本開示で、ムーニー粘度とは、ムーニー粘度計(JIS K6300に準拠)を用いて測定される値である。
【0040】
以下、フルオロエラストマーについてより具体的に説明する。
【0041】
[フルオロエラストマー]
フルオロエラストマーは、ペルフルオロオレフィン単位もしくは部分フルオロ化オレフィン単位またはこれらの組合せを含む。
【0042】
ペルフルオロオレフィン単位としては、式CF
2=CF−R
f(式中、R
fはフッ素またはC1〜C8ペルフルオロアルキルを表す)で表されるペルフルオロオレフィンに由来する単量体単位が挙げられる。これらの単量体単位は製造容易性または入手容易性の観点から好ましい。上記ペルフルオロオレフィン単位の好ましい例は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位である。
【0043】
部分フルオロ化オレフィン単位は、エラストマーとしての柔軟性の付与、低温特性の付与、架橋点の形成等に寄与する。部分フルオロ化オレフィン単位としては、ペルフルオロオレフィン以外のペルハロゲン化オレフィン(例えばクロロトリフルオロエチレン(CTFE))、水素含有部分フルオロ化モノマー(例えばフッ化ビニリデン(VDF))等が挙げられる。
【0044】
製造容易性または入手容易性の観点から好ましい別の態様において、部分フルオロ化オレフィン単位は、式CX
2=CX−R(式中、Xはそれぞれ独立して水素またはフッ素であり、Rは水素、フッ素、またはC1〜C8アルキルであり、但し分子中に少なくとも1つの水素原子および少なくとも1つのフッ素原子が存在する)で表される部分フルオロ化オレフィンに由来する。
【0045】
好ましい態様において、部分フルオロ化オレフィン単位は、フッ化ビニリデン単位である。
【0046】
フルオロエラストマーは、上述したペルフルオロオレフィン単位及び部分フルオロ化オレフィン単位に加えて、他の単量体単位を含んでもよい。具体例としては、ペルフルオロビニルエーテルに由来する単量体単位、部分フルオロ化ビニルエーテルに由来する単量体単位、ハロゲン化されていない水素含有単量体(例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン等のオレフィン)に由来する単量体単位等が挙げられる。上記ペルフルオロビニルエーテルとしては、ペルフルオロアルキルビニルエーテル(例えばCF
2=CFOCF
3、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
3、CF
2=CFOCF(CF
3)CF
3等、ペルフルオロモノ−またはポリ−アルコキシアルキルビニルエーテル(例えばCF
2=CFOCF
2CF
2OCF
3、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2OCF
3、CF
2=CFOCF
2OCF
2CF
2CF
3、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
3、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
3等)等が挙げられる。
【0047】
好ましい態様において、フルオロエラストマーは、全単量体単位100モル%基準で、ペルフルオロ化単量体単位を約5モル%以上約100モル%以下、または約10モル%以上約90モル%以下、または約15モル%以上約85モル%以下含む。ペルフルオロ化単量体単位という用語は、ペルフルオロオレフィン単位、ペルフルオロビニルエーテル単位等を包含する。フルオロエラストマー中、全単量体単位100モル%基準でのペルフルオロ化単量体単位の含有率が約5モル%以上である場合、耐油性、耐溶剤性および耐化学薬品性、ならびに耐熱性、耐候性、耐オゾン性、耐光性(耐紫外線性等)、柔軟性、難燃性等の付与の点で有利である。ペルフルオロ化単量体単位の該含有率は約100モル%であることができるが、例えば約90モル%以下である場合には、例えば部分フルオロ化オレフィン単位の併用による、エラストマーとしての柔軟性の付与、低温特性の付与、架橋点の形成等の効果を顕著に得ることが可能になる。
【0048】
好ましい態様において、フルオロエラストマーは、全単量体単位100モル%基準で、ペルフルオロオレフィン単位を約5モル%以上約95モル%以下、または約10モル%以上約90モル%以下、または約15モル%以上約85モル%以下含む。フルオロエラストマー中、全単量体単位100モル%基準でのペルフルオロオレフィン単位の含有率が約5モル%以上である場合、耐油性、耐溶剤性および耐化学薬品性、ならびに耐熱性、耐候性、耐オゾン性、耐光性(耐紫外線性等)、難燃性等の付与の点で有利であり、約95モル%以下である場合、柔軟性等の付与の点で有利である。
【0049】
好ましい態様において、フルオロエラストマーは、全単量体単位100モル%基準で、部分フルオロ化オレフィン単位を約5モル%以上約95モル%以下含む。フルオロエラストマーにおける部分フルオロ化オレフィン単位の含有率が約5モル%以上である場合、柔軟性、低温特性、十分な架橋点の形成等の利点が得られる。一方、フルオロエラストマーにおける部分フルオロ化オレフィン単位の含有率が約95モル%以下である場合、耐油性、耐溶剤性および耐化学薬品性、ならびに耐熱性、耐候性、耐オゾン性等の点で有利である。より好ましい態様において、フルオロエラストマーは、全単量体単位100モル%基準で、部分フルオロ化オレフィン単位を、好ましくは約10モル%以上、または約15モル%以上、または約20モル%以上、または約25モル%以上、または約30モル%以上、または約35モル%以上、または約40モル%以上、または約45モル%以上、または約50モル%以上、および、好ましくは約90モル%以下、または約85モル%以下、または約80モル%以下含む。
【0050】
好ましい態様において、部分フルオロ化オレフィン単位は、フッ化ビニリデン単位を含み、またはフッ化ビニリデン単位からなる。好ましい態様において、フルオロエラストマーは、全単量体単位100モル%基準で、フッ化ビニリデン単位を約40モル%以上約90モル%以下、または約45モル%以上約88モル%以下、または約50モル%以上、約85モル%以下を含む。
【0051】
好ましい態様において、フルオロエラストマーは、ペルフルオロオレフィン単位および部分フルオロ化オレフィン単位を含む。この場合、フルオロエラストマー中のペルフルオロオレフィン単位および部分フルオロ化オレフィン単位の好ましい含有率としては各々の単量体単位について前述したものが挙げられる。
【0052】
好ましい態様において、フルオロエラストマーは、全単量体単位100モル%基準で、ペルフルオロビニルエーテル単位(好ましくはペルフルオロアルキルビニルエーテル単位)を約5モル%以上約95モル%以下、または約10モル%以上約90モル%以下含む。フルオロエラストマーにおけるペルフルオロビニルエーテル単位の該含有率が約5モル%以上である場合、低温特性、柔軟性等の点で有利であり、約95モル%以下である場合、物性(引張強さなど)、価格等の点で有利である。
【0053】
より好ましい態様において、フルオロエラストマーは、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位もしくはぺルフルオロビニルエーテル単位、またはこれらの2種以上の組合せ(これらはペルフルオロ化単量体単位である)を約1モル%以上約99モル%以下、または約5モル%以上約90モル%以下、または約10モル%以上約60モル%以下含み、かつフッ化ビニリデン単位を、約0モル%以上約90モル%以下、または約5モル%以上約85モル%以下、または約10モル%以上約80モル%以下含む。
【0054】
好ましい態様において、フルオロエラストマーは、全単量体単位100モル%基準で、(1)テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位およびフッ化ビニリデン単位からなる群から選択される1種以上の単量体単位:約10モル%以上約100モル%以下、ならびに、(2)ペルフルオロビニルエーテル単位およびオレフィン単位からなる群から選択される1種以上の単量体単位:約0モル%以上約90モル%以下、を含み、またはこれらからなる。上記の組成は、柔軟性および低温特性の一方または両方を所望に応じて制御できる点で有利である。フルオロエラストマーがペルフルオロビニルエーテル単位を含むことは、柔軟性および低温特性の点で有利である。フルオロエラストマーがオレフィン単位を含むことは、柔軟性の点で有利である。
【0055】
好ましい態様において、フルオロエラストマーは、全単量体単位100モル%基準で、上記(1)の単量体単位:約10モル%以上約99.7モル%以下、および上記(2)の単量体単位:約0.3モル%以上約90モル%以下、を含み、またはこれらからなる。
【0056】
上記(2)の単量体単位におけるペルフルオロビニルエーテル単位およびオレフィン単位としては、ペルフルオロビニルエーテル単位およびオレフィン単位の好ましい具体例として前述したものを使用できる。特に好適なペルフルオロビニルエーテル単位は、ペルフルオロメチルビニルエーテル単位、ペルフルオロプロポキシメチルビニルエーテル単位、CF
2=CFOCF(CF
3)CF
3、CF
2=CFOCF
2CF
2OCF
3、CF
2=CFOCF
2OCF
2CF
2CF
3、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
3等である。これらは柔軟性および低温特性の点で有利である。また、特に好適なオレフィン単位はエチレン、プロピレン等である。これらはゴム弾性の付与、およびアミン等への耐性の点で有利である。
【0057】
上記(2)の単量体単位におけるペルフルオロビニルエーテル単位の使用量は、全単量体単位100モル%基準で、好ましくは約1モル%以上、または約3モル%以上であり、好ましくは約95モル%以下、または約90モル%以下、または約80モル%以下である。
上記(2)の単量体単位におけるオレフィン単位の使用量は、全単量体単位100モル%基準で、好ましくは約1モル%以上、または約3モル%以上、または約5モル%以上であり、好ましくは約90モル%以下、または約70モル%以下である。
【0058】
好ましい態様において、上記(1)の単量体単位は、フッ化ビニリデン単位を含み、またはフッ化ビニリデン単位からなる。好ましい態様において、全単量体単位100モル%基準で、上記(1)の単量体単位としてのフッ化ビニリデン単位の量は、柔軟性、低温特性、十分な架橋点の形成等の観点から約40モル%以上、または約45モル%以上、または約50モル%以上であり、耐油性、耐溶剤性および耐化学薬品性、ならびに耐熱性、耐候性、耐オゾン性等の観点から約90モル%以下、または約88モル%以下、または約85モル%以下である。
【0059】
フルオロエラストマーの好ましい具体例としては、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ペルフルオロビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロビニルエーテル/エチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ペルフルオロビニルエーテル共重合体、へキサフルオロプロピレン/エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロビニルエーテル共重合体、等が挙げられる。フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーとしては市販品を用いてもよい。また架橋剤および/または架橋促進剤が予め配合された市販のポリマー配合物を用いてもよい。これらの共重合体における単量体単位の共重合比率としては、所望の特性が得られるように、各種の単量体単位について前述した量の例示から任意の組合せを選択できる。
【0060】
好ましい態様において、フルオロエラストマーは、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン二元共重合体、またはフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン三元共重合体である。これらの共重合体において、全単量体単位100モル%基準で、フッ化ビニリデン単位の量は、好ましくは約40モル%以上、または約45モル%以上、または約50モル%以上であり、好ましくは約90モル%以下、または約88モル%以下、または約85モル%以下である。
【0061】
フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーのフッ素含有率は、所望の特性に応じて変わるが、一般的には、好ましくは約30質量%以上約75質量%以下である。フッ素含有率は、エラストマーとしての柔軟性を維持して低硬度の硬化物を形成するとともに、耐薬品性、耐油性等、耐熱性等のフルオロポリマーの利点を良好に得るという観点から、好ましくは約40質量%以上、または約45質量%以上である。またフッ素含有率は、エラストマーとしての柔軟性、低温特性等の観点から、好ましくは約74.5質量%以下、または約74質量%以下である。
【0062】
特定の態様において、例えば、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン(二元)系のフルオロエラストマーのフッ素含有率は、好ましくは約65質量%以上約70質量%以下である。
【0063】
特定の態様において、例えば、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン(三元)系のフルオロエラストマーのフッ素含有率は、好ましくは約64質量%以上約72質量%以下、または約65質量%以上約71質量%以下である。
【0064】
多峰性の分子量分布を実現するための、フルオロエラストマーの好ましい合成例としては、別個の重合で得た高分子量ポリマーと低分子量ポリマーとを固体同士で混合する方法が簡便である。ただこの方法は、低分子量のポリマーの粘着性のため扱いが難しいため、高分子量のポリマーのラテックスに、別個に連鎖移動剤などの存在下での重合で得た低分子量のポリマーのラテックスをブレンドした後、凝固させ固体状のポリマーを得る方法が一般的である。
また、以下のように1液のままで(すなわち1つの反応系中で)多峰性の分子量分布を有するフルオロエラストマーを重合する方法も幾つか知られている。
(1)重合中にラジカル反応開始剤の濃度を大きく変化させる方法。
(2)重合中に連鎖移動剤の濃度を大きく変化させる方法。
(3)まず高分子のポリマーを重合により調製し、別の反応槽に送り、連鎖移動剤の存在下に低分子量のポリマーを重合により調製する方法。
尚、多峰性の分子量分布を有するフルオロポリマーは、例えば国際公開第WO2002/088203号パンフレット(特表2004−534118号公報)等を参照して当業者によって調製されることができる。
【0065】
(追加の重合体)
フルオロポリマー組成物は、上述したような、フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーに加えて、フルオロ化オレフィン単位を含まない追加の重合体を1種または2種以上含んでもよい。追加の重合体は、単独重合体または共重合体であることができる。追加の重合体は、フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーとブレンドすることができる。
【0066】
追加の重合体の重合単位としては、上述した種々の単量体単位のうち、フルオロ化オレフィン単位(すなわちペルフルオロオレフィン単位および部分フルオロ化オレフィン単位)以外のもの全般が挙げられる。
【0067】
例えば、追加の重合体を、架橋剤および/または架橋促進剤と組合せることによって、本発明に係るフルオロポリマー組成物に所望の性質を与えることができる。例えば、ペルオキシド硬化に適した追加の重合体とペルオキシド硬化剤とを組合せることによって、フルオロポリマー組成物の物理的な安定性(例えば、および低温特性)を改良することができる。そのような追加の重合体の使用により、得られるフルオロポリマー組成物の熱安定性と物理的安定性とのバランスがとれると共に、経済的な効果も得ることが可能である。
【0068】
追加の重合体を用いる場合、フルオロポリマー組成物が含有する、フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーおよび追加の重合体の合計(以下、重合体成分ともいう)のうち、フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーの質量割合は、好ましくは約20質量%以上、または約40質量%以上である。この場合も、低硬度で良好な耐圧縮永久ひずみ特性を有する硬化物を形成できるフルオロポリマー組成物が得られる。幾つかの態様において、フルオロポリマー組成物が含有する重合体成分は、フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーのみである。
【0069】
フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーおよび任意の追加の重合体は、公知の方法を用いて調製することができる。例えば重合プロセスにおいては、水性エマルション重合または有機溶媒中での溶液重合によって、単量体をフリーラジカル重合させて実施することができる。2種以上の重合体のブレンド物を調製する場合には、例えば2種以上の重合体のラテックスを選択した比率でブレンドし、それを凝集させ、次いで乾燥させる。あるいはポリマー同士を機械的混合機(例えば、ロールミル、二ーダー等)で混合して実施することができる。
【0070】
フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーおよび任意の追加の重合体において、末端基の種類および量は、決定的なものではない。例えば、ポリマーに、過硫酸アンモニウムまたは過硫酸金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)/亜硫酸塩系等によって生成するSO
3-末端基が含まれていてもよい。または、ポリマーに、過硫酸アンモニウムまたは過硫酸金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)等の重合開始剤系により生成するCOO
-末端基が含まれていてもよい。または、ポリマーに、「中性の」末端基、例えば、フルオロスルフィネート重合開始剤系または有機過酸化物を使用することにより発生するもの、が含まれていてもよい。任意の連鎖移動剤を使用することで、末端基の数を顕著に減らすことができる。所望により、例えば加工性の改良の目的で、強い極性末端基、例えばSO
3-またはCOO
-の存在を最小限に抑えることができる。また、所望により、COO
-またはその他の不安定な末端基の量を公知の後処理(例えば、脱カルボキシル化、後フルオロ化等)によって低減してもよい。またフルオロアルキルヨウ化物を連鎖移動剤として併用することで、ポリマー分子の分子末端にヨウ素が結合したポリマーが得られるが、そのようなポリマーでも差し支えない。
【0071】
フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーおよび任意の追加の重合体は、硬化部位を含んでもよい。硬化部位としては、窒素含有硬化部位モノマーから誘導される共重合単位、ハロゲン等が挙げられる。窒素含有硬化部位モノマーとは、窒素含有硬化部位(すなわち窒素を含有し、そして硬化反応に寄与する構造部分)を含むモノマーである。従って窒素含有硬化部位は重合体に硬化性を付与する。窒素含有硬化部位としては、ニトリル、イミデート、アミジン、アミド、イミド、およびアミン−オキシド基等が挙げられる。好ましい態様において、窒素含有硬化部位モノマーは、部分的または完全にフルオロ化されている。
【0072】
一方、ハロゲンは、ペルオキシド硬化反応に関与する。ハロゲンは、重合体成分の分子鎖の中および/または末端の位置に存在させることができる。ハロゲンは典型的には、臭素またはヨウ素である。重合体成分の分子鎖の中の位置にハロゲンを導入する方法としては、共重合が好ましい。ハロゲンの導入は、重合体成分を構成する単量体単位が:ブロモ−またはヨード−フルオロオレフィン,例えば、ブロモジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ヨードトリフルオロエチレン、1−ブロモ−2,2−ジフルオロエチレン、および4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1等;ブロモ−またはヨード−フルオロビニルエーテル,例えばBrCF
2OCF=CF
2、BrCF
2CF
2OCF=CF
2、BrCF
2CF
2CF
2OCF=CF
2、CF
3CF(Br)CF
2OCF=CF
2等;またはフルオロ化されていないブロモ−またはヨード−オレフィン、例えば、ビニルブロミドおよび4−ブロモ−1−ブテン等;の単量体単位を含むことにより実現できる。
【0073】
硬化部位は、重合体成分の分子鎖の末端の位置にあってもよい。例えば、連鎖移動剤または重合開始剤を使用して、末端位置にハロゲンを導入できる。一般に、重合体調製時に、適切な連鎖移動剤を反応媒体中に導入するか、または適切な重合開始剤から誘導することによって、末端位置に硬化部位を導入する。例えばペルオキシド硬化反応に適したハロゲン(例えばヨウ素)を分子末端に導入する方法としては、前述したフルオロアルキルヨウ化物を連鎖移動剤として用いて重合を行う方法が挙げられる。具体的には、連鎖移動剤としてI(CF
2)
4I、(CF
3)
2CFI等を使用することで、ポリマー末端にヨウ素を含むポリマーが得られる。フルオロアルキルヨウ化物は、全ての水素がフッ素に置換されたペルフルオロアルキルヨウ化物でも、部分的に水素を含んでいてもかまわない。またヨウ素は1つでも2つでもあるいはそれ以上でも差し支えない。この場合においても、前述のヨウ素および/または臭素を含むモノマーをぺルオキシド硬化部位としての共重合も可能である。
【0074】
重合体成分は、2種以上の硬化部位の組合せを有してもよい。例えば、ペルオキシド硬化反応に関与することが可能なハロゲンを、窒素含有硬化部位、例えばニトリル基含有硬化部位とともに含む重合体成分が有用である。
【0075】
好ましい態様において、硬化部位の合計量は、重合体成分の全単量体単位の、約0.01モル%以上約20モル%以下、または約0.1モル%以上約10モル%以下であることができる。
【0076】
追加の重合体のムーニー粘度(ML1+10,250F(約121℃))は、これらに限定されるものではないが、それぞれ、硬化物の良好な物理特性等の観点から好ましくは約1以上であることができ、未硬化物の加工性(例えば、混練り性、硬化時の流れ特性、押し出し特性等)等の観点から好ましくは約250以下であることができ、または約3以上約200以下、または約5以上約180以下であることができる。
【0077】
[その他の成分]
(架橋剤および架橋促進剤)
フルオロポリマー組成物は、架橋剤もしくは架橋促進剤またはこれらの組合せを含むことができる。幾つかの態様においては、さらに架橋剤と共架橋剤との組合せを用いることができる。用いる架橋剤、架橋促進剤および共架橋剤の種類および量は、フルオロエラストマーを架橋する能力を有する種々の化合物の中から、フルオロポリマー組成物の組成に応じて当業者が適宜選択できるが、好適例について以下説明する。
【0078】
架橋剤の配合量は、重合体成分(すなわちフルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーおよび任意の追加の重合体の合計)100質量部に対し、好ましくは約0.05質量部以上であり、または約0.1質量部以上約20質量部以下、または約0.2質量部以上約10質量部以下である。該配合量が約0.05質量部以上である場合、架橋を良好に進行させて所望の物理的性質を有する硬化物を得るという観点、および、架橋速度を所望程度得るという観点から有利であり、約20質量部以下である場合、架橋密度を所望程度に制御するという観点、および早過ぎる架橋を防止するという観点から有利である。架橋剤と共架橋剤との組合せを用いる場合には、架橋剤と共架橋剤との合計配合量が上記範囲であることができる。また硬化部位によっては、架橋剤を使用しない場合もある。例えばニトリル基(シアノ基)が硬化部位の場合、架橋促進剤だけを用いてニトリル基同士が反応し、トリアジン環等を形成し架橋する場合もある。
【0079】
架橋促進剤は架橋剤との組合せまたは単独で使用できる。架橋促進剤の配合量は、重合体成分100質量部に対し、好ましくは約0.01質量部以上であり、または約0.05質量部以上約20質量部以下、または約0.1質量部以上約15質量部以下である。該配合量が約0.01質量部以上である場合、架橋促進効果を十分に得て、所望の物理的性質を有する硬化物を得るという観点、および、架橋速度を所望程度得るという観点から有利であり、約20質量部以下である場合、架橋密度を所望程度に制御するという観点、および早過ぎる架橋を防止するという観点から有利である。
【0080】
なお、組成物の具体的な成分の選択によっては、架橋剤、架橋促進剤および共架橋剤の必要量に影響が出る可能性がある。例えば、選択した充填剤の種類および/または量によっては、同様ではあるが充填剤を加えていない組成物に比較して、硬化を促進または抑制する可能性があるので、架橋剤、架橋促進剤および共架橋剤の量を適切に調節する必要がある。そのような調節は当業者には公知である。
【0081】
架橋剤、架橋促進剤および共架橋剤の種類は、重合体成分の組成によって左右される。また異なる架橋剤を併用することも可能である。例えば、硬化部位を有する第1の重合体と硬化部位を有さない第2の重合体とのブレンド物を使用する場合、第1の選択した架橋剤、架橋促進剤、および/または共架橋剤の有効量を使用して、第1の重合体を架橋させ、併せて、第2の選択した架橋剤、架橋促進剤、および/または共架橋剤の有効量を使用して、第2の重合体を架橋させる。第1および第2の選択した架橋剤、架橋促進剤、および/または共架橋剤は、それぞれ1種または2種以上の組合せの架橋性化合物であることができる。また第1および第2の選択した架橋剤、架橋促進剤、および/または共架橋剤は、同じ組成であっても、異なった組成であってもよい。用いる架橋剤、架橋促進剤、および/または共架橋剤のうち少なくとも1種が、少なくとも1種の重合体を架橋させる効果を有していればよい。
【0082】
架橋剤の例としては、ポリオール化合物、ポリチオール化合物、ポリアミン化合物、アミジン化合物、ビスアミノフェノール化合物、オキシム化合物、有機金属化合物、アンモニア発生化合物、ペルオキシド化合物、等が挙げられる。また、共架橋剤を架橋剤の一部として用いてもよい。共架橋剤としては、シアヌレート化合物、ポリ不飽和化合物、ビニル化合物、ビスオレフィン等が挙げられる。
中でも好ましい架橋剤の例は、ポリオール化合物、ポリアミン化合物、アミジン化合物、ビスアミノフェノール化合物、オキシム化合物、有機金属化合物、アンモニア発生化合物、およびペルオキシド化合物である。
【0083】
一般に、ポリマーの種類に応じた、架橋剤、架橋促進剤、および/または共架橋剤の選択例としては、これらに限定するものではないが、代表的には以下が挙げられる。例えば、フッ化ビニリデン系(二元系および三元系)では、ポリオール化合物、ポリアミン化合物、ポリチオール化合物、ぺルオキシド化合物等が好適である。ペルフルオロビニルエーテルなどを含む低温タイプのフッ化ビニリデン系では、ぺルオキシド化合物等が好適である。テトラフルオロエチレン−プロピレンフッ素ゴム(二元)系では、ペルオキシド化合物等が好適である。テトラフルオロエチレン−プロピレン−フッ化ビニリデン系フッ素ゴム(三元)系では、ペルオキシド化合物、ポリオール化合物、ポリアミン化合物、ポリチオール化合物等が好適である。ペルフルオロエラストマー系では、ペルオキシド化合物、有機金属化合物、アミジン化合物、ビスアミノフェノール化合物、オキシム化合物、アンモニア発生化合物等が好適である。
【0084】
好ましい共架橋剤の例は、ビニル化合物、シアヌレート化合物、ポリ不飽和化合物等である。
【0085】
好適なポリオール化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジイソプロピリデンジフェノール等が挙げられる。
【0086】
好適なポリチオール化合物としては、2−ジブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン、2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジン等が挙げられる。
【0087】
好適なポリアミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)カーバメート等が挙げられる。
【0088】
好適なアミジン化合物としては、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7のp−トルエンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0089】
好適なビスアミノフェノール化合物としては、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル))−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0090】
好適なオキシム化合物としては、ビスアミノオキシム、ビスアミドオキシム等が挙げられる。
【0091】
好適な有機金属化合物としては、ヒ素、アンチモンまたはスズを含有する化合物,例えばアリル−、プロパルギル−、トリフェニル−、アレニル−、またはテトラフェニル−スズ、ならびにトリフェニルスズヒドロキシド等が挙げられる。
【0092】
好適なアンモニア発生化合物としては、周囲条件では固体または液体状であるが、硬化条件下ではアンモニアを発生させるような化合物が挙げられる。好適例としては、ヘキサメチレンテトラミン(ウロトロピン)、ジシアンジアミド、および式A
w+(NH
3)
xY
w-の形の金属含有化合物(式中、A
w+は、金属カチオン,例えば、Cu
2+、Co
2+、Co
3+、Cu
+、およびNi
2+であり;wは金属カチオンの原子価に等しく;Y
w-はカウンターイオン,典型的にはハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等であり;そしてxは1〜約7の整数である)が挙げられる。
【0093】
アンモニア発生化合物として有用なものには、さらに、置換および非置換のトリアジン誘導体、例えば次式:
【0095】
(式中、Rは、独立して、水素原子、または1〜約20個の炭素原子を有する、置換または非置換のアルキル、アリール、またはアラルキル基である)のようなものがある。有用なトリアジン誘導体の具体例としては、ヘキサヒドロ−1,3,5−s−トリアジンおよびアセトアルデヒドアンモニアトリマーが挙げられる。
【0096】
好適なペルオキシド化合物は一般に、硬化温度でフリーラジカルを発生させるものである。ジアルキルペルオキシドおよびビス(ジアルキルペルオキシド)は、いずれも50℃を超える温度で分解するので、特に好ましい。多くの場合、ペルオキシ酸素原子に付いた第3級炭素原子を含むジ−tertブチルペルオキシドを使用するのが好ましい。このタイプの最も有用なペルオキシドとしては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3および2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサンが挙げられる。その他のペルオキシドを選択することも可能で、そのような化合物としては、ジクミルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルペルベンゾエート、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−ジイソプロピルベンゼン)、およびジ[1,3−ジメチル−3−(t−ブチルペルオキシ)−ブチル]カーボネート等が挙げられる。一般に、100質量部の重合体成分当たり、約1〜約3質量部のペルオキシドを使用する。
【0097】
ビニル化合物は、ペルオキシド架橋剤との組合せにおいて共架橋剤として作用して良好な架橋に寄与する。好適なビニル化合物の例は、一般式CH
2=CHR
fCH=CH
2(式中、R
fは、C
1〜C
8の、直鎖状または分岐状で、少なくとも部分的にフルオロ化された、アルキレン、シクロアルキレン、またはオキシアルキレンである)で表される化合物である。なお上記式中、1個または複数のH原子がハロゲン原子、例えばフッ素で置換されていてもよい。同様に、CH
2=CHR
f−(式中、R
fは上記定義の通りである)の側基を含むポリマー、および上記式中、1個または複数のH原子がハロゲン原子、例えばフッ素で置換されているポリマーもまた有用である。
【0098】
シアヌレート化合物も、ペルオキシド架橋剤との組合せにおいて共架橋剤として作用して良好な架橋に寄与する。シアヌレート化合物としては、例えばトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリ(メチルアリル)イソシアヌレート、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリビニルイソシアヌレート等が挙げられる。特に有用なものは、トリアリルイソシアヌレート、およびトリ(メチルアリル)イソシアヌレートである。
【0099】
ポリ不飽和化合物もまた、ペルオキシド架橋剤との組合せにおいて共架橋剤として作用して良好な硬化に寄与する。ポリ不飽和化合物としては、例えばアクリル酸二価金属塩、メタクリル酸二価金属塩、N,N’−m−フェニレンジマレイミド、トリメリット酸トリアリル等が挙げられる。特に有用なものはアクリル酸亜鉛、およびメタクリル酸亜鉛である。
【0100】
架橋促進剤の例としては、有機オニウム化合物、スルホン化合物、スルホキシド化合物等が挙げられる。中でも好ましい例は有機オニウム化合物である。
【0101】
有機オニウム化合物は、ポリオール系架橋剤、ポリチオール系架橋剤等との組合せにおいて好適であり、その好適例は、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩等である。より具体的な例は、トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド等である。
【0102】
(各種添加剤)
フルオロポリマー組成物は、上記した成分に加え、種々の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、上述の架橋剤、架橋促進剤、および/または共架橋剤との組合せが好適な架橋助剤および/または架橋促進助剤、充填剤(例えばカーボンブラック、亜鉛華、シリカ、珪藻土、ケイ酸塩化合物(クレー、タルク、ウィオラストナイト等)、炭酸カルシウム、酸化チタン、沈降性硫酸バリウム、酸化アルミニウム、雲母、酸化鉄、酸化クロム、フルオロポリマー充填剤等)、潤滑剤(グラファイト、二硫化モリブデン等)、離型剤(脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属類、低分子量ポリエチレン等)、着色剤(シアニングリーン等)およびフルオロポリマー組成物のコンパウンドの際に通常使用される加工助剤等が挙げられる。ただし、添加剤は目的とする使用条件下で充分に安定であることが望ましい。
【0103】
また、カーボンブラックを、フルオロポリマー組成物の性能、例えば引張応力、引張強さ、伸び、硬度、耐摩耗性、導電率、および加工性等のバランスをとるために使用することができる。好適な例としては、N−991、N−990、N−908、およびN−907の品番のMTブラック類(ミディアムサーマルブラック);FEF N−550;および大粒径のファーネスブラック等が挙げられる。カーボンブラックを使用する場合、その使用量は、フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマーおよび追加の重合体の合計100質量部に対し、好ましくは約0.1〜約70質量部(phr)である。上記範囲は大粒径のファーネスブラックを使用する場合に特に好適である。
【0104】
1種または複数の酸受容体をフルオロポリマー組成物に組み込んでもよい。しかしながら、抽出可能な金属化合物の存在が望ましくないような場合(例えば、半導体用途)には、無機の酸受容体の使用は最小限とするべきであり、好ましくは全く使用しない。例えば、無機の酸受容体を使用しない配合の硬化可能な組成物は、半導体素子を製造するためのシール材およびガスケット、水・熱水等があたる部位のシール材、ならびに自動車用途における高温部分のためのシール材のような用途に特に適している。
【0105】
一般的に使用される酸受容体としては、例えば酸化亜鉛、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化鉛等が挙げられる。これらの化合物は一般に、HFまたはその他の酸と結合させるために使用される。これらの酸は、フルオロポリマー組成物を用いた成形品の形成時に硬化工程で遭遇する可能性のある高温、またはフルオロポリマーの機能を発揮させる場合の温度等で発生する可能性がある。
【0106】
好ましい態様において、フルオロポリマー組成物は、可塑剤、油、液体状ゴム等のブリード性成分を本質的に含まない。
【0107】
フルオロポリマー組成物は、配合成分、すなわち、フルオロ化オレフィン単位を含むフルオロエラストマー、任意の追加の重合体、任意の架橋剤、架橋促進剤および/または共架橋剤、ならびに任意のその他の各種添加剤をコンパウンドすることにより調製することができる。より具体的には、任意の一般的なゴム混合装置を使用することによって、フルオロポリマー組成物の配合成分を十分に混合、すなわちコンパウンドすることができる。そのような装置としては例えば、密閉式ミキサー(例えば、二ーダー、およびバンバリーミキサー)、ロールミル、またはその他任意の簡便な混合装置が挙げられる。混合時の混合温度は、典型的には、約120℃を超えないようにすることが望ましい。混合の間に、重合体成分中に、他の成分を均質に分散させるのが好ましい。
【0108】
<フルオロポリマー組成物の硬化物の製造>
本発明に係る硬化物としては、各種成形品を製造できる。本発明に係るフルオロポリマー組成物は、各種硬化物、例えばOリング、ガスケット、チューブ、シート、フィルムおよびシール材等の成形品の製造において有用である。硬化物の製造条件(すなわち硬化条件)は、目的の用途に応じて当業者が種々設計できる。フルオロポリマー組成物の硬化方法の例について以下に説明する。
【0109】
フルオロポリマー組成物は、まず、例えばプレス硬化等によって硬化させる(一次硬化)。具体的には、フルオロポリマー組成物の配合成分を前述のようにコンパウンドして得られる混合物を加熱成形(例えば加圧下)して一次硬化物を形成する。該混合物は、押出し(例えば、フィルム、チューブ、またはホースの形状にする場合)またはモールド(例えば、シートまたはOリングの形状にする場合)により、加工および成形する。硬化は、通常、適切な圧力下で、所望の時間をかけて、該混合物を硬化させるに充分な温度で実施する。一次硬化の温度は、好ましくは約95℃以上約230℃以下、または約150℃以上約205℃以下である。一次硬化の時間は、好ましくは約1分以上約15時間以下、または約2分以上約30分以下である。通常約700kPa〜約21,000kPaの圧力を、型に入れた混合物にかける。型には最初に離型剤をコーティングして、焼き付けておいてもよい。
【0110】
次いで、例えば加熱炉の中で、上記一次硬化によって得た一次硬化物を更に硬化させる(二次硬化)ことが好ましい。二次硬化の温度は、組成物の成分(特に重合体成分)の種類に応じて適宜選択される。例えば、二次硬化は、好ましくは約100℃以上約300℃以下、または約150℃以上約290℃以下、または約180℃以上約280℃の温度で行うことができる。二次硬化の時間は、好ましくは約1時間以上約48時間以下、または約2時間以上約24時間以下、または約4時間以上約24時間以下であるが、一般に目的の成形品の断面厚みが増すほど長くする。厚みのある成形品に対しては、二次硬化の温度は通常、低い温度から目的とする最高温度まで、徐々に上げていく。用いる最高温度は、好ましくは上限約300℃であり、この温度に約4時間またはそれ以上保つことが好ましい。この二次硬化によって、通常は架橋が完結するとともに、一次硬化物中に残存していた揮発成分を放出させることができる。
【0111】
一次硬化と二次硬化とは、別個の工程として行ってもよいし、連続する1工程として行ってもよい。
【0112】
二次硬化の温度プロファイルは、所望の成形品を得るために適宜設計でき、その工程において複数の温度設定をすることができる。例えば、ペルフルオロエラストマーからなる重合体成分を含む組成物の場合の二次硬化の好適なサイクルの一例は、窒素雰囲気下での以下の6段の工程条件である。一次硬化物を、最初に、6時間かけて25℃から200℃まで昇温し、次いで200℃で16時間保ち、次いで2時間かけて200℃から250℃まで昇温し、次いで250℃で8時間保ち、次いで2時間かけて250℃から300℃まで昇温し、次いで300℃で16時間保つ。最後に、例えば炉の加熱を停止して、炉温を周囲温度にまで戻す。
【0113】
二次硬化を経て得られる成形品においては、典型的には硬化は完結しており、また揮発成分も良好に除去されている。しかし、更なる硬化、および/または揮発成分の除去の目的で、追加の加熱処理を行ってもかまわない。
【実施例】
【0114】
以下、実施例および比較例によって本発明を更に説明するがこれらは本発明を何ら限定しない。
【0115】
各測定は以下のように行った。
【0116】
[数平均分子量および分子量分布]
アジレント・テクノロジー社(米国、カリフォルニア州)のHPLC Agilent 1200シリーズを用いGPCモード(展開液:テトラヒドロフラン)にて測定した。
【0117】
[ムーニー粘度]
モンサント社(米国、ミズーリー州)のMOONEY MV 2000を用いて、JIS K 6300(1994年度版)に準拠して測定した。
【0118】
[MDR(ムービングダイレオメーター)硬化特性]
未硬化コンパウンドについて、アルファテクノロジーズ社(米国、カリフォルニア州)のプロセスアナライザーを使用し、JIS K6300−2 2001に準拠して試験した。所定の時間の間に得られる、最小トルク(ML)と、平坦部または最大トルクが得られない場合には最高トルク(MH)との両方を測定した。更に、トルクがMLから0.2N・m上昇する時間(ts2)、ML+0.1(MH−ML)、ML+0.5(MH−ML)およびML+0.9(MH−ML)のそれぞれに等しい値に達するまでの時間(順に、「t10」、「t50」および「t90」)を測定した。
【0119】
[硬化物の物理特性]
(デューロA硬さ)
JIS K6253 2006に準拠し、タイプAデュロメーターを用いてデューロA硬さを測定した。
【0120】
(引張強さ、破断時伸び、および100%引張応力)
硬化物シートから、ダイを用いてJIS K 6251(1993年度版)に記載のダンベル状3号形に切り出した試験片について、引張強さ、破断時伸び、および100%引張応力を、JIS K 6251(1993年度版)に準拠して測定した。結果の報告に用いた単位は、パーセントおよびMPaである。
【0121】
(圧縮永久ひずみ)
JIS K6262 2006に準拠し、硬化物円板サンプル(直径 約29mm、厚さ 約12.5mm)について、表中に示す温度および時間にて測定した。結果は、元の圧縮変形(25%とした)に対する百分率として報告する。
【0122】
[実施例1]
フルオロエラストマーとして、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン三元共重合体を用いた。該フルオロエラストマーは、共重合モル比:フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン=59/21/20)、(数平均分子量:2.6×10
4、分子量分布:67.2、分子量分布:二峰性(分子量分布曲線が、分子量1.0×10
6および1.9×10
4に極大値を有する)、フッ素含有量:69.1質量%、250F(約121℃)でのムーニー粘度(ML1+10):32を有する。
【0123】
フルオロエラストマー100質量部、ビスフェノールAF(架橋剤として)0.77質量部、およびビスフェノールAFのトリフェニルホスホニウム塩(促進剤として)1.43質量部を、ロールミルを用いて混合し、一液型エラストマーAを得た。100質量部のこの一液型エラストマーAと、SRFカーボン(0.5質量部)、水酸化カルシウム(4質量部)および高活性酸化マグネシウム(2質量部)とを、オープンミルを用いて混合し、未硬化コンパウンドを得た。未硬化コンパウンドのシートを、170℃にて10分間、成形機内でプレス硬化(一次硬化)し、次いで230℃にて24時間、加熱オーブン内で後硬化(二次硬化)し、硬化物を得た。未硬化コンパウンドの硬化特性および硬化物の物理特性を表1に示す。この例において、硬化物のデューロA硬さは37であり、極めて低かった。
【0124】
[比較例1]
フルオロエラストマーとして、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン三元共重合体(共重合モル比:フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン=59/21/20、数平均分子量:7.1×10
4、分子量分布:6.5、分子量分布:単峰性(分子量分布曲線が、分子量1.4×10
5に極大値を有する)、フッ素含有量68.9質量%、250F(約121℃)でのムーニー粘度(ML1+10):31を有する)を用いた他は、実施例1と同様にして、未硬化コンパウンドおよび硬化物を作製した。この例において、硬化物のデューロA硬度は51であり、実施例1の硬化物よりも約10ポイント以上も高かった。
【0125】
[比較例2]
フルオロエラストマーとして、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン三元共重合体(共重合モル比:フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン=58/21/22、数平均分子量:3.2×10
4、分子量分布:22.2、分子量分布:単峰性(分子量分布曲線が、分子量4.1×10
5に極大値を有する)、フッ素含有量69.1質量%、250F(約121℃)でのムーニー粘度(ML1+10):33を有する)を用いた。実施例1と同様に未硬化コンパウンドを作成した後、成形機を用い170℃でプレス硬化(一次硬化)を行ったが、硬化物の発泡が著しく物理特性を測定できる状態ではなかった。代わりに150℃にて30分、プレス硬化(一次硬化)を行ったところ発泡しない硬化物が得られたのでこれを使用した。次いで、実施例1と同様にして後硬化(二次硬化)を行い、硬化物を作製した。この例では、硬化物のデューロA硬度は46であり、実施例1の硬化物よりも約5ポイント以上も高かった。
【0126】
【表1】