特許第5969262号(P5969262)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5969262グラフトポリマー修飾セルロースファイバーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969262
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】グラフトポリマー修飾セルロースファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 251/02 20060101AFI20160804BHJP
   C08L 51/02 20060101ALI20160804BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20160804BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160804BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20160804BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   C08F251/02
   C08L51/02
   C08J5/06CER
   C08J5/06CEZ
   C08L101/00
   C08L67/04
   !C08L101/16
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-108446(P2012-108446)
(22)【出願日】2012年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-234283(P2013-234283A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】黒田 真一
(72)【発明者】
【氏名】林 寿人
(72)【発明者】
【氏名】河西 容督
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−068807(JP,A)
【文献】 特開平01−121307(JP,A)
【文献】 特開2003−231703(JP,A)
【文献】 特表2007−531827(JP,A)
【文献】 特開2009−067817(JP,A)
【文献】 特開2011−016927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 251/00 − 289/00
C08F 291/00 − 297/08
C08L 51/00 − 51/10
C08J 5/00 − 5/10,5/24
C08F 2/00 − 2/60
D06M 13/00 − 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースファイバーの水分散液中で、水溶性ラジカル発生剤及び分散剤としてポリビニルピロリドンの存在下、重合性基を有する単量体を前記セルロースファイバーにグラフト重合反応させる重合工程、及び、
セルロースファイバーにグラフトしていない前記単量体の重合物を重合反応系から除去する精製工程、
を含む、グラフトポリマー修飾セルロースファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基又はビニル基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記重合性基を有する単量体が、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、またはメタクリル酸グリシジルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の製造方法により得られるグラフトポリマー修飾セルロースファイバーの有機溶媒分散液に、該ファイバーと溶融ブレンド可能なマトリクス樹脂を溶解する工程、及び該マトリクス樹脂の溶解液から有機溶媒を除去する工程を含む、複合樹脂材料の製造方法
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の製造方法により得られるグラフトポリマー修飾セルロースファイバー、及び、該ファイバーと溶融ブレンド可能なマトリクス樹脂を溶融混練する工程を含む、複合樹脂材料の製造方法。
【請求項6】
前記マトリクス樹脂がポリ乳酸樹脂である、請求項4又は請求項5に記載の複合樹脂材料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフトポリマー修飾セルロースファイバーの製造方法に関し、詳細には、セルロースの変性やセルロースの分子量低下を引き起こすことなく、効率的にグラフトポリマー修飾セルロースファイバーを得られる製造方法、並びに該製造方法により得られるグラフトポリマー修飾セルロースファイバー及び該ファイバーを含有する複合樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境保護の観点からこれまで未利用の資源を有効活用する研究が盛んに行われている。中でもセルロースは、現存量が豊富であること、生分解性を有し環境負荷の低い資源であること、高い結晶化度、高い引張強度、低熱膨張率など、材料として優れた性質を持つことから今後期待される材料である。
セルロースの活用法の一つとして補強材としての利用が挙げられる。従来では、樹脂成形体の機械的強度を高めるために、ガラス等の無機繊維を配合したものが用いられている。しかし、無機繊維が配合された樹脂成形体は、焼却時に無機繊維に由来する残渣が発生するため、埋め立て処理等による廃棄が必要となる点が問題となっている。
一方、竹、麻、ケナフをはじめとするセルロースからなる植物繊維は、補強剤として樹脂成形体へ配合した後も、最終的に水と二酸化炭素に分解されるため、上記の廃棄の問題を回避することができる。
【0003】
ところで、植物由来の生分解性樹脂であるポリ乳酸は、非晶状態では透明性に優れる反面、耐熱性に欠けることや弾性率が充分でないなどの不利な点を有し、これら物性を補うための補強材の併用が有効であると考えられる。ポリ乳酸それ自体が植物由来の樹脂であることから、補強材においても植物性天然繊維を使用することが好ましく、この観点から、セルロースとポリ乳酸との複合材料に関する特許がいくつか提案されている。
例えば特許文献1では、微細化されたセルロースファイバーを樹脂に添加し、強化フィラーとして用いる技術が提案されており、微細化されたセルロースファイバーを用いる事によって、樹脂の補強効果が得られるのみならず、複合樹脂の外観も向上している。
【0004】
一方で、セルロースファイバーは、セルロース分子内のヒドロキシ基同士が強固な水素結合を形成しており、配合の対象となる樹脂との親和性が低いことが課題となる。セルロースファイバー表面のヒドロキシ基を変性させる事により表面の水素結合の強度を緩和させ、樹脂との親和性を向上させる方法として、セルロースファイバー表面へポリマーをグラフト修飾させる試みが報告されている。
特許文献2では、重合性化合物を付加重合したグラフトポリマー修飾セルロースが得られている。しかしながら、製造工程の中にアルカリ金属水酸化物水溶液による処理でアルカリセルロース化を形成させる工程を含んでいるため、セルロース本来の結晶性が崩れており、セルロース自体に期待される特徴を失いやすいという欠点があった。
特許文献3では、その表面が重合性成分のグラフト重合によりグラフト修飾されているセルロース繊維が得られている。但し、グラフト修飾の工程において、ラジカル発生剤として用いた硝酸セリウム塩が、セルロースラジカルを発生させるだけにとどまらず、セルロースからグルコース分子を切断する虞があり、セルロースの分子量低下やそれに付随した物性低下が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/093147号パンフレット
【特許文献2】特開2002−293801号公報
【特許文献3】特開2009−67817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、これら従来法が持つ欠点のない、すなわちセルロースの変性や分子量の低下が起こらず、セルロースファイバーの有する特徴を保持し、且つマトリクス樹脂との親和性を高めるべく重合性基を有する単量体を効率良くグラフト重合させたグラフトポリマー修飾セルロースファイバーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、セルロースファイバー水分散液中に、重合性基を有する単量体に加えて水溶性分散剤を分散させ、この水分散液中で水溶性ラジカル発生剤を用いてグラフト化反応を行うことにより、セルロースファイバーに該単量体の重合物がグラフトしたグラフトポリマー修飾セルロースファイバーが得られること、そしてろ過により水を除去し、単独で存在している(グラフトしていない)重合物を有機溶媒により洗浄、除去することにより、有機溶媒へ分散可能なグラフトポリマー修飾セルロースファイバーを製造できること、そして該ファイバーを用いてセルロースファイバーの特性を生かした複合樹脂材料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、第1観点として、セルロースファイバーの水分散液中で、水溶性ラジカル発生剤及び分散剤の存在下、重合性基を有する単量体を前記セルロースファイバーにグラフト重合反応させる重合工程、及び、セルロースファイバーにグラフトしていない前記単量体の重合物を重合反応系から除去する精製工程、を含む、グラフトポリマー修飾セルロースファイバーの製造方法に関する。
第2観点として、前記分散剤がポリビニルピロリドンである第1観点に記載の製造方法に関する。
第3観点として、前記重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基又はビニル基である、第1観点又は第2観点に記載の製造方法に関する。
第4観点として、前記重合性基を有する単量体が、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、またはメタクリル酸グリシジルである、第1観点又は第2観点に記載の製造方法に関する。
第5観点として、第1観点乃至第4観点のうちいずれかに記載の製造方法により得られるグラフトポリマー修飾セルロースファイバーに関する。
第6観点として、第5観点に記載のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー、及び、該ファイバーと溶融ブレンド可能なマトリクス樹脂を含む、複合樹脂材料に関する。
第7観点として、前記マトリクス樹脂がポリ乳酸樹脂である、第6観点に記載の複合樹脂材料に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、セルロースのグラフト修飾中にセルロースの変性や分子量低下を引き起こすことなく、セルロースファイバー表面にグラフトポリマーを効率的にグラフト化させることができる。
そして本発明のグラフトポリマー修飾セルロースファイバーは、使用するセルロースの原料の由来によらず、任意の有機溶媒へ分散させることができる。このため、有機溶媒へ溶解する幅広い種類のマトリクス樹脂との複合化が可能である。
また本発明のグラフトポリマー修飾セルロースファイバーを含有する複合樹脂材料は、セルロースファイバーの特性より、耐熱性および成型加工性に優れた複合樹脂材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1乃至実施例3及び比較例1で使用した、パルプ由来セルロースファイバー(グラフト修飾前)を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、実施例1より得られたグラフトポリマー修飾セルロースファイバーを観察した走査型電子顕微鏡写真である。
図3図3は、未修飾セルロースファイバー(図3(1))、比較例1のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(図3(2))、実施例1のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(図3(3))のXPS測定結果(C1s)を示す図である。
図4図4は、実施例1で得られたグラフトポリマー修飾セルロースファイバー、未修飾セルロースファイバーおよびPMMAの昇温過程での示差熱天秤測定結果を示す図である。
図5図5は、未修飾セルロースファイバー(図5(1))、実施例1のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(図5(2))、実施例2のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(図5(3))、及び実施例3のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(図5(4))の赤外吸収スペクトル測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、先に述べたように、セルロースファイバーとマトリクス樹脂との複合化にあたり、セルロースファイバーとマトリクス樹脂の親和性を向上させるために、セルロースファイバー表面へグラフトポリマー修飾を施したセルロースファイバーを製造する方法に関するものである。本発明によれば、グラフトポリマー修飾時にアルカリセルロース化を引き起こす強アルカリや、グルコース分子切断する恐れのある硝酸セリウム塩等を使用せずとも効率的にファイバーにグラフト修飾可能であり、セルロースファイバーの結晶性に由来する物性を保持したまま、マトリクス樹脂と複合化可能なグラフトポリマー修飾セルロースファイバーを製造できる点に大きな特徴を有する。
以下、本発明を詳細に記述する。
【0012】
[セルロース]
本発明のグラフトポリマー修飾セルロースファイバーの製造に使用されるセルロースファイバーは、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、藻類、農作物・食物残渣など植物由来のセルロース、又はバクテリアセルロース、灰色植物(グラウコキスチス)、ホヤセルロースなど、微生物産生若しくは動物産生のセルロースから得ることができる。これらのセルロースは、単独で、又は二種以上組み合わせて使用しても良い。
なお植物由来のセルロースはミクロフィブリルと呼ばれる非常に細い繊維がさらに束になりフィブリル、ラメラ、繊維細胞と段階的に高次構造を形成しているのに対し、バクテリアセルロースは菌細胞から分泌されたセルロースのミクロフィブリルが、そのままの太さで微細な網目構造を形成している。例えば、広葉樹パルプの繊維幅が数十μm程度であ
るのに対し、バクテリアセルロースのミクロフィブリルの繊維幅は数十nm程度である。
【0013】
[セルロースファイバーの微細化]
本発明においては、上記セルロースを粉砕し、微細化されたセルロースファイバーを用いる。セルロースの粉砕法は特に限定されず、ビーズミルやホモジナイザー等を用いた湿式粉砕法を用いて製造することができる。具体的には、特開2005−270891号公報に開示されるような湿式粉砕法、すなわち、セルロースを分散させた分散液を、一対のノズルから高圧でそれぞれ噴射して衝突させることにより、セルロースを粉砕するものであって、例えば(株)スギノマシン製の高圧粉砕装置を用いることにより実施できる。こうして微細化されたセルロースファイバーは、0.001μm乃至1μmの繊維径を有する。
【0014】
上述の湿式粉砕法によって得られるセルロースファイバー水分散液は、その後の重合性基を有する単量体をセルロースファイバー表面にグラフト重合させるにあたり、セルロースファイバー濃度が高い水分散液の方が、前記グラフト重合時の容積効率が向上し、コスト削減が期待できるという利点がある。この反面、セルロースファイバーはアスペクト比が著しく高く、ファイバー同士の絡み合いが無視できないため、セルロースファイバーの濃度があまり高いと、濃度上昇に伴う粘度上昇が顕著で液体としての取扱いが困難になる。このため、セルロースファイバー水分散液のセルロースファイバー濃度は、0.1質量%乃至20質量%が好ましく、より好ましくは1質量%乃至10質量%である。
【0015】
[重合性基を有する単量体]
本発明で用いられる重合性基を有する単量体は、好ましくは60℃乃至100℃の温度で、より好ましくは60℃乃至90℃の温度で加熱することにより重合体を形成する単量体であれば特に限定されないが、中でも、アクリロイル基、メタクリロイル基又はビニル基を有する単量体が好ましい。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸単量体;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のアルキル酸ビニル単量体などが挙げられる。中でも、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、またはメタクリル酸グリシジルが好ましい。重合性基を有する単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0016】
重合性基を有する単量体のセルロースファイバー水分散液への添加量は、該水分散液に含まれるセルロースファイバーの含量よりも多量であることが好ましく、すなわち、分散液中のセルロースファイバー含量と前記単量体の合計量を100質量%としたとき、重合性基を有する単量体が99.9質量%乃至50質量%であり、よってセルロースファイバーの含量が前記合計量の0.1質量%乃至50質量%であることが好ましい。
より好ましくは、重合性基を有する単量体の分散液への添加量が、単量体とセルロースファイバーの合計量の99質量%乃至70質量%、すなわちセルロースファイバーの含量を前記合計量の1質量%乃至30質量%とすることがより好ましい。
重合性基を有する単量体がセルロースファイバーに対して多量に存在していないと、セルロースファイバーの表面へのグラフトポリマー修飾が十分に進行せず、有機溶媒に分散するグラフトポリマー修飾セルロースファイバーが得られない虞がある。更には、後の工程でポリ乳酸等の熱可塑性樹脂と溶融ブレンドして複合樹脂材料を得る際、セルロースファイバー同士が凝集して塊を形成する虞がある。このため、複合樹脂材料中にセルロースファイバーが均一に分散した複合樹脂材料を得るべく、重合性基を有する単量体を前記配合量に示すように、セルロースファイバーに対して多量に存在させることが肝要である。
【0017】
[水溶性ラジカル発生剤]
本発明において、水溶性ラジカル発生剤として、好ましくはアゾ化合物、過硫酸塩又は過酸化物を用いる。例えば、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及び2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等の水溶性のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化ベンゾイル、t−ブチルヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられる。
前記ラジカル発生剤は、重合性基を有する単量体に対して0.01モル%乃至100モル%添加することが好ましく、1モル%乃至10モル%添加することがより好ましい。
【0018】
また、上記有機過酸化物及び過硫酸塩は還元剤と組み合わせてレドックス系ラジカル発生剤として用いることもできる。この場合には、(レドックス系)ラジカル発生剤は重合
性基を有する単量体に対して0.01モル%乃至100モル%添加することが好ましく、0.1モル%乃至5モル%添加することがより好ましい。
【0019】
[分散剤]
本発明で使用する分散剤としては、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物又は高分子化合物が挙げられる。具体的にはグリセリン、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオキシエチレンアルキルテーテル硫酸塩等の界面活性剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等のノニオン系ポリマー;ポリアクリル酸塩の部分中和物、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のアニオン系ポリマー;カチオン化セルロース、カチオン化デンプン等のカチオン系ポリマーが挙げられる。好ましくは、ノニオン系ポリマーであるポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールであり、更に好ましくはポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールである。
【0020】
分散剤の使用量はセルロースファイバーに対して10質量%以上1,000質量%以下が好ましく、50質量%以上500質量%以下が更に好ましい。これはグラフト率の観点から、10質量%以下の使用量では、セルロースファイバーに修飾されるグラフトポリマーが極端に減少し、グラフト修飾によって期待される効果が得られない。また、分散剤を無駄にせず、重合時の安定性に悪影響を与えない観点から1,000質量%以下が好ましい。
【0021】
[グラフトポリマー修飾セルロースファイバーの製造方法]
本発明において、グラフトポリマー修飾セルロースファイバーは、セルロースファイバーの水分散液中で、水溶性ラジカル発生剤及び分散剤の存在下、重合性基を有する単量体をセルロースファイバーにグラフト重合反応させる重合工程と、セルロースファイバーにグラフトしていない前記単量体の重合物を重合反応系から除去する精製工程を経て製造される。ここで、水溶性ラジカル発生剤、分散剤及び重合性基を有する単量体は、前述のそれぞれ前述したものを使用することができる。
また精製工程は、詳細には、重合反応系から水を除去する工程と、前記ラジカル発生剤と分散剤及びグラフトせずに単独で存在している重合物を反応系から除去する工程とを含む。
このようにして得られたグラフトポリマー修飾セルロースファイバーは有機溶媒へ分散可能であり、マトリクス樹脂への複合化が容易となる。
以下、本発明のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー製造手順について詳述する。
【0022】
<重合工程>
まず、セルロースファイバーの水分散液中で、前述の水溶性ラジカル発生剤並びに前述分散剤の存在下で、重合性基を有する単量体をセルロースファイバーにグラフト重合反応させる。
【0023】
<精製工程>
前記単量体のセルロースファイバーへグラフト重合反応させる重合工程の後、重合反応系から水を除去する。本工程は、重合反応の終了を確認後、ろ過することにより容易に実施される。
その後、ラジカル発生剤の除去は、先の工程で得られた重合物が不溶である溶剤を用いて実施される。具体的には、前工程でろ過して得られた残留物を、例えば、水、メタノール又はエタノールを用いて洗浄する。
次いで、有機溶媒によってセルロースファイバーにグラフト修飾していない、謂わば“単独で存在している”重合物を除去する。上記洗浄に使用する有機溶媒は、重合物を溶解する溶媒であれば、何れであってもよく、例えばクロロホルム、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、エタノール、1,3−ジオキソランが挙げられる。
【0024】
単独の重合物を除去した後、得られたグラフトポリマー修飾セルロースファイバーは有機溶媒へ分散可能となる。
ここでグラフトポリマー修飾セルロースファイバーの分散に用いる有機溶媒として、後述するマトリクス材料を溶解する有機溶媒を用いることにより、マトリクス材料との複合化工程が簡便となる。このような有機溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、アセトン、酢酸エチル、トルエンが挙げられる。
【0025】
こうして得られるグラフトポリマー修飾セルロースファイバーのグラフト率は、例えば50質量%以上であり、得られたセルロースファイバーも本発明の対象である。
グラフト率が高いほど、セルロースファイバーへ修飾したグラフトポリマー量が多いことを示す。
【0026】
[複合樹脂材料]
本発明の複合樹脂材料は、前述のグラフトポリマー修飾セルロースファイバーとマトリクス樹脂とを含む複合樹脂材料である。
【0027】
<マトリクス樹脂>
本発明の複合樹脂材料におけるマトリクス樹脂とは、前記グラフトポリマー修飾セルロースファイバーと溶融ブレンド可能な樹脂、すなわち融点が観測される樹脂であり、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンコポリマー、ポリプロピレン(PP)、ポリプロピレンコポリマー、ポリブチレン、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のポリオレフィン樹脂;ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂(PA);ポリアセタール樹脂(POM);ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS);ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリ乳酸樹脂が挙げられる。
【0028】
上記ポリ乳酸樹脂は、乳酸のホモポリマー又はコポリマーを含む。ポリ乳酸樹脂がコポリマーの場合、コポリマーの配列様式はランダムコポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーの何れであってもよい。また、乳酸のホモポリマー又はコポリマーを主体とする、他樹脂とのブレンドポリマーであってもよい。前記他樹脂とは、例えば、後述するポリ乳酸樹脂以外の生分解性樹脂、汎用の熱可塑性樹脂、汎用の熱可塑性エンジニアリングプラスチックが挙げられる。ポリ乳酸樹脂としては特に限定されるものではないが、例えば、ラクチドを開環重合させたもの、乳酸のD体、L体又はラセミ体を直接重縮合させたものが挙げられる。ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は、一般に10,000乃至500,000である。熱、光又は放射線を利用し、架橋剤を用いてポリ乳酸樹脂を架橋させたものも使用できる。
【0029】
上述のポリ乳酸樹脂以外の生分解性樹脂の例としては、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合体等のポリヒドロキシアルカン酸;ポリカプロラクトン、ポブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレ
ンサクシネート/アジペート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、変性でんぷん、酢酸セルロース、キチン、キトサン、リグニンが挙げられる。
【0030】
本発明の複合樹脂材料において、マトリクス樹脂100質量部に対するグラフトポリマー修飾セルロースファイバーの添加量は、例えば0.1質量部乃至100質量部、好ましくは1質量部乃至50質量部である。
【0031】
<その他添加剤>
本発明の複合樹脂材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでいてもよい。例えば、ガラス繊維、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、クレイ、ウオラストナイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化チタン等の無機充填剤が挙げられる。これらの無機充填剤の形状は、繊維状、粒状、板状、針状、球状及び粉末状の何れでもよい。これらの無機充填剤は、前記マトリクス樹脂100質量部に対して、300質量部以内で使用できる。
【0032】
上記他の添加剤として、さらに、臭素化合物、塩素化合物等のハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリコーン化合物等の無機系難燃剤;赤リン、リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン等のリン系難燃剤;メラミン、メラム、メレム、メロン、メラミンシアヌレート、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩、アルキルホスホン酸メラミン、フェニルホスホン酸メラミン、硫酸メラミン、メタンスルホン酸メラム等のメラミン系難燃剤;PTFE等のフッ素樹脂が挙げられる。これらの難燃剤は、前記マトリクス樹脂100質量部に対して、200質量部以内で使用できる。
【0033】
本発明の複合樹脂材料に使用されるマトリクス樹脂が、ポリ乳酸樹脂等の加水分解しやすい樹脂の場合には、公知の加水分解抑制剤を、他の添加剤として用いることができる。前記加水分解抑制剤としては、例えば、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン系化合物が挙げられ、これらのうち一種又は複数種を用いることができる。これら加水分解抑制剤は、前記マトリクス樹脂100質量%に対して、10質量%以内で使用でき、好ましくは5質量%以内、更に好ましくは1質量%以内である。
【0034】
上記無機充填剤、難燃剤及び加水分解防止剤以外に、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、帯電防止剤、顔料、着色剤、離型剤、滑剤、可塑剤、相溶化剤、発泡剤、香料、抗菌抗カビ剤、シラン系,チタン系,アルミニウム系などの各種カップリング剤、その他の各種充填剤、セルロース以外の結晶核剤等、一般的な合成樹脂の製造時に通常使用される各種添加剤も、本発明の複合樹脂材料に含有することができる。
【0035】
<複合樹脂材料の製造>
該複合樹脂材料の製造・成形には慣用の溶融混錬や、先行技術(特許文献1)にあるような、有機溶媒を用いた複合化方法を用いることができる。
複合樹脂材料の製造における溶融混錬としては、公知の手段、例えば、ニーダー、ロールミキサー、バンバリーミキサー、押出機(単軸又は二軸押出機)を用いることができる。また、溶融混錬に先立って、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、V型ブレンダー、ナウターミキサー等、任意の手段を用いて、グラフトポリマー修飾セルロースファイバーとマトリクス樹脂、又は他の成分(例えば、後述の添加剤)とを予備混合してもよい。
本発明において、溶融混練温度は、マトリクス樹脂の種類により異なるが、例えばポリ乳酸樹脂の場合には、樹脂のガラス転移温度と樹脂分解温度の観点から、例えば100℃乃至250℃であり、好ましくは150℃乃至220℃である。また、溶融混練時間は、例えば1分乃至20分であり、好ましくは2分乃至10分である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明の特徴をより具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0037】
<セルロースファイバー水分散液>
以下の実施例及び比較例で使用したセルロースファイバー水分散液(固形分:0.8質量%)は、特許文献1に記載の手順に基づき、市販パルプ由来セルロース(セライト社製
BH−100)を用いて調製した。
【0038】
[実施例1:メタクリル酸メチルを用いたセルロースファイバーのグラフトポリマー修飾]
0.8質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液579質量部に、純水421質量部を加えて撹拌した。次いでメタクリル酸メチル(和光純薬工業(株)製 以下、MMA)を40質量部、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プ
ロピオンアミド](和光純薬工業(株)製 VA−086)を0.58質量部、ポリビニルピロリドン((株)日本触媒製 K−30)を7.5質量部加え、300rpmにて撹拌した。それから75℃に設定したオイルバスにて昇温し、5時間反応させた。
反応物を冷却後、ろ過を行い、ろ物をテトラヒドロフラン500質量部へ加え12時間撹拌した後、ろ過した。この操作を4回繰り返すことによって水溶性ラジカル発生剤、および重合性基を有する単量体の単独重合体を除去した。
以上の工程により、グラフトポリマー修飾セルロースファイバーの湿品290質量部(固形分含有量4.4質量%(=1g/(1g+THF21.5g)))を作製した。
【0039】
[実施例2:アクリル酸メチルを用いたセルロースファイバーのグラフトポリマー修飾]
0.8質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液67質量部に、純水23質量部を加えて撹拌した。次いでアクリル酸メチル(和光純薬工業(株)製)を3.1質量部、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](和光純薬工業(株)製 VA−086)を0.052質量部、ポリビニルピロリドン((株)日本触媒製 K−30)を0.81質量部加え、300rpmにて撹拌した。それから75℃に設定したオイルバスにて昇温し、4.5時間反応させた。
反応物を冷却後、ろ過を行い、ろ物をテトラヒドロフラン100質量部へ加え12時間撹拌した後、ろ過した。この操作を3回繰り返すことによって水溶性ラジカル発生剤、および重合性基を有する単量体の単独重合体を除去した。以上の工程により、グラフトポリマー修飾セルロースファイバー1.09質量部が得られた。
【0040】
[実施例3:メタクリル酸グリシジルを用いたセルロースファイバーのグラフトポリマー修飾]
0.8質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液67質量部に、純水23質量部を加えて撹拌した。次いでメタクリル酸グリシジル(和光純薬工業(株)製)を5.1質量部、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミ
ド](和光純薬工業(株)製 VA−086)を0.052質量部、ポリビニルピロリドン((株)日本触媒製 K−30)を0.81質量部加え、300rpmにて撹拌した。
それから75℃に設定したオイルバスにて昇温し、4.5時間反応させた。
反応物を冷却後、ろ過を行い、ろ物をテトラヒドロフラン100質量部へ加え12時間撹拌した後、ろ過した。この操作を3回繰り返すことによって水溶性ラジカル発生剤、および重合性基を有する単量体の単独重合体を除去した。以上の工程により、グラフトポリマー修飾セルロースファイバー0.83質量部が得られた。
【0041】
[比較例1:分散剤を用いないセルロースファイバーのグラフトポリマー修飾]
分散剤としてポリビニルピロリドンを添加しない以外は、実施例1乃至実施例3と同様の手順にてグラフトポリマー修飾セルロースファイバーを作製した。
【0042】
<グラフト率>
実施例1乃至実施例3及び比較例1で調製したグラフトポリマー修飾セルロースファイバーについて、重合性基を有する単量体のグラフト重合前後のセルロースファイバーの乾燥質量をそれぞれ測定し、以下の計算式を用いてグラフト率を算出した。得られた結果を表1に示す。
グラフト率=[(WPolymer−g−CF−WCF)/(WCF)]×100(%)
※WCF:未修飾セルロースファイバー乾燥質量(グラフト重合前)
Polymer−g−CF:グラフトポリマー修飾セルロースファイバー乾燥質量(グラフト重合後)
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、反応系に分散剤を添加して調製した実施例1乃至実施例3のグラフトポリマー修飾セルロースファイバーは、分散剤を添加せずに調製した比較例1のグラフトポリマー修飾セルロースファイバーと比べ、格段にグラフト率が向上するとする結果が得られた。比較例1ではグラフト率がマイナスの値となったが、これは分散剤を使用していないために、重合反応中にグラフトポリマーがセルロースファイバーを修飾していく過程で、水中における分散状態を維持できなくなることによって凝集塊を形成し、次いで得られる生成物の収率が低下したことを示している。
【0045】
<元素組成比の測定>
実施例1及び比較例1で調製したグラフトポリマー修飾セルロースファイバー、並びに、グラフト修飾に用いた原料のパルプ由来セルロースファイバー(未修飾)について、XPS測定により元素組成を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
<走査型電子顕微鏡による観察結果>
グラフト修飾前後でのセルロースファイバーの外観の観察を走査型電子顕微鏡(JEOL(日本電子(株))製 JSM−7400F)を用いて、観察した。図1に実施例1乃至実施例3及び比較例1で使用した、パルプ由来セルロースファイバー(グラフト修飾前)を観察した走査型電子顕微鏡写真を、図2に実施例1より得られたグラフトポリマー修飾セルロースファイバーを観察した走査型電子顕微鏡写真を、それぞれ示す。
図1及び図2に示すように、グラフト修飾後のセルロースファイバー(図2)は、修飾前(図1)と比べて、ファイバー表面がなめらかになっている様子が観察された。
【0048】
<XPS測定>
実施例1及び比較例1で調製したグラフトポリマー修飾セルロースファイバー、並びに、グラフト修飾に用いた原料のパルプ由来セルロースファイバー(未修飾)について、X線光電子分光測定(XPS)(PerkinElmer Inc.製 ESCA5600、X線源:MgKα、14.0kV、250W)を行った。図3に、未修飾セルロースファイバー(1)、比較例1のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(2)及び実施例1のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(3)のXPS測定結果(C1s)をそれぞれ示す。
図3に示すように、実施例1のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(図3(3))では、285eVの炭化水素のピーク、287eV付近にはカルボニル基炭素やエーテル炭素が見られるのに加え、未修飾セルロースファイバー(図3(1))及び比較例1のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(図3(2))では殆ど見られない289eV付近にカルボキシル基炭素に帰属されるピークが顕著に見られた。
以上、XPSの測定結果からも、実施例1のセルロースファイバーが、カルボニル基を有するPMMAからなるグラフトポリマーによって修飾されているものであることが確認された。
【0049】
<示差熱天秤測定>
実施例1で調製したグラフトポリマー修飾セルロースファイバー、グラフト修飾に用いた原料のパルプ由来セルロースファイバー(未修飾)、さらにポリメタクリル酸メチル(PMMA)について、TG−DTA(セイコーインスツル(株)製 TG/FTA6200)を用いて、空気雰囲気中にて30℃から500℃まで昇温し、質量変化を測定した。得られた結果を図4に示す。
図4に示すように、実施例1で得られたグラフトポリマー修飾セルロースファイバーの昇温過程での質量減少は、未修飾セルロースファイバーのものと比較すると、質量減少温度が高温側へシフトしており、グラフトポリマー修飾により未修飾のセルロースファイバーと比べて耐熱性が向上したファイバーとなっていることが確認された。
【0050】
<赤外吸収スペクトル(FT−IR)測定>
実施例1乃至実施例3で調製したグラフトポリマー修飾セルロースファイバー、並びにグラフト修飾に用いた原料のパルプ由来セルロースファイバー(未修飾)について、FT
−IR(日本分光(株)製 FT/IR−8000、KBr法)を測定した。図5に、未修飾セルロースファイバー(1)、実施例1のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(2)、実施例2のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(3)及び実施例3のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(4)のFT−IR測定結果をそれぞれ示す。
図5に示すように、未修飾セルロースファイバーの測定結果(図5(1))に対して、実施例1:メタクリル酸メチルを用いたグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(図5(2))、実施例2:アクリル酸メチルを用いたグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(図5(3))、及び実施例3:メタクリル酸グリシジルを用いたグラフトポリマー修飾セルロースファイバー(図5(4))の測定結果では、1733cm−1にカルボニル基の伸縮振動に由来する吸収が現れており、いずれもグラフトポリマー修飾がなされている事が確認された。
【0051】
[複合樹脂材料の調製]
以下に示す実施例及び比較例にて調製した複合樹脂材料は、特許文献1に記載の手順に準じ、セルロースファイバーの有機溶媒分散液にマトリクス樹脂を溶解し、樹脂が均一に溶解した状態で溶媒を除去することにより、マトリクス樹脂中の分散性に優れる複合樹脂材料を製造した。
【0052】
[実施例4:実施例1のグラフトポリマー修飾セルロースファイバー−PLA−複合樹脂材料]
実施例1で作製したグラフトポリマー修飾セルロースファイバーのテトラヒドロフラン湿品68.2質量部(固形分含有量4.4質量%)を100℃に加熱したジメチルスルホキシド500質量部へ加え、300rpmの撹拌速度にて全体が均一になるように1時間撹拌した。ここへポリ乳酸樹脂(ネイチャーワークス社製 3001D)100質量部を徐々に添加し、2時間撹拌して完全にポリ乳酸樹脂を溶解させた。得られたポリ乳酸樹脂の溶解したスラリーを1,000質量部のメタノールへ滴下し、次いで沈殿物をろ過し、得られたろ物を80℃にて48時間乾燥させることにより、103質量部の複合樹脂材料を得た。
【0053】
[参考例1:PLA−樹脂材料]
グラフトポリマー修飾セルロースファイバーのテトラヒドロフラン湿品を配合しない、ポリ乳酸樹脂のみのものを参考例1の樹脂材料とした。
【0054】
[参考例2:PMMA−PLA−複合樹脂材料]
グラフトポリマー修飾セルロースファイバーのテトラヒドロフラン湿品の代わりに、ポリメタクリル酸メチル樹脂(和光純薬工業(株)製、以下、PMMA)3質量部を用いた以外は、実施例4と同様にして複合樹脂材料を作製した。
【0055】
[比較例2:未修飾セルロース粉−PMMA−PLA−複合樹脂材料]
グラフトポリマー修飾セルロースファイバーのテトラヒドロフラン湿品の代わりに、PMMA1.7質量部及び未修飾セルロース粉(セライト社製FIBRA−CEL BH−100)1.3質量部を用いた以外は、実施例4と同様にして複合樹脂材料を作製した。
【0056】
[比較例3:微細化したセルロースファイバー−PLA−複合樹脂材料]
グラフトポリマー修飾セルロースファイバーのテトラヒドロフラン湿品の代わりに、特許文献1を参考にして作製した微細化したセルロースファイバーのジメチルスルホキシド分散液72.2質量部(固形分:1.8質量%)を用いた以外は、実施例4と同様にして複合樹脂材料を作製した。
【0057】
[比較例4:微細化したセルロースファイバー−PMMA−PLA−複合樹脂材料]
グラフトポリマー修飾セルロースファイバーのテトラヒドロフラン湿品の代わりに、特許文献1を参考にして作製した微細化したセルロースファイバーのジメチルスルホキシド分散液72.2質量部(固形分:1.8質量%)及びPMMA1.7質量部を用いた以外は、実施例4と同様にして複合樹脂材料を作製した。
【0058】
実施例4、参考例1及び参考例2、並びに比較例2乃至比較例4の樹脂材料を用いて、下記手順によりフィルム状成形体を作製し、フィルム厚、ヘイズ及びYI値(以下参照)を測定した。得られた結果を表3に示す。また表3には、上記樹脂材料の組成比並びにセルロース含有量も併せて示す。
フィルム状成形体は、実施例4、参考例1及び参考例2、並びに比較例2乃至比較例4の樹脂材料を、200℃でホットプレス(テスター産業(株)製、SA−302卓上型テストプレス)を用いて5分間溶融させた後、5MPaに加圧して5分間保持し、次いで10MPaにて5分間保持した。この後、ホットプレスから樹脂材料を取り出し、水中へ投入し急冷することによりフィルム状成形体を作製した。
【0059】
[フィルム厚測定]
デジタルマイクロメーター((株)ミツトヨ製、MDQ−30M)を用いて、フィルム状成形体の異なる三点について厚さを測定し、その平均値を測定値とした。
【0060】
[ヘイズ測定]
ヘイズメーター(全光透過率及び濁度測定)(日本電色工業(株)製、NDH5000
)を用いて、フィルム状成形体の異なる三点についてヘイズ(HAZE値/%)を測定し、その平均値から、当該成形体の厚さを100μmとした場合の換算値としてヘイズ(%)を求めて透明性を評価した。測定値が小さいほど(0%に近いほど)、透明性が高いことを示す。換算式は下記のとおりである。
H100(%)=H×100/d
H100:フィルム状成形体の厚さを100μmに換算したヘイズ値(%)
H:フィルム状成形体のヘイズ平均値(%)
d:フィルム状成形体の平均厚さ(μm)
【0061】
[YI値]
黄色度を示すYI(イエローインデックス)値を分光式測色色差計[(有)東京電色製、オートマチックカラーアナライザー TC−1800 MK−II]を用いて測定した。なおYI値は、無色または白色から色相が黄色へ向かう度合いで、プラスの量として表示される。
【0062】
【表3】
【0063】
表3に示すように、実施例4の複合樹脂材料は、比較例2乃至比較例4の未修飾セルロース粉又は未修飾セルロースファイバーを含む複合樹脂材料と比較して、複合樹脂材料のヘイズが低く抑えられているとする結果となった。特に未修飾セルロースファイバーを含む比較例3及び比較例4の複合樹脂材料と比較して、ヘイズのみならずYI値が低く抑えられたとする結果が得られた。この結果は、比較例2乃至比較例4の複合樹脂材料は、未修飾のセルロース粉又はセルロースファイバーを含むため、複合樹脂材料におけるセルロースの分散状態が悪く、耐熱性に劣るためヘイズやYI値が高い結果となり、一方、実施例4の複合樹脂材料は、グラフトポリマー修飾によって複合樹脂材料中への分散性が高まったこと、及び耐熱性が向上したことによるものといえる。
図3
図4
図5
図1
図2