(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969300
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】紫外線遮蔽素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/04 20060101AFI20160804BHJP
C01G 23/047 20060101ALI20160804BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20160804BHJP
A61K 8/29 20060101ALI20160804BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20160804BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20160804BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20160804BHJP
C09C 3/04 20060101ALI20160804BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
C01G23/04 B
C01G23/047
A61K8/02
A61K8/29
A61Q17/04
B82Y30/00
B82Y40/00
C09C3/04
C09D17/00
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-168027(P2012-168027)
(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2014-24732(P2014-24732A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】512064354
【氏名又は名称】日本パーミル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503397672
【氏名又は名称】加藤 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 基
(73)【特許権者】
【識別番号】592216384
【氏名又は名称】兵庫県
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】河南 治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直行
(72)【発明者】
【氏名】掃部 恭弘
【審査官】
佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−137549(JP,A)
【文献】
特開2009−208988(JP,A)
【文献】
特開2008−181854(JP,A)
【文献】
特開2006−301615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00 − 23/08
A61K 8/02
A61K 8/29
A61Q 17/04
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01G 23/047
C09C 3/04
C09D 17/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱合成により酸化チタンから酸化チタンナノチューブを合成する合成ステップと、
前記合成ステップで合成した酸化チタンナノチューブとビーズとを混合した状態で前記
酸化チタンナノチューブと前記ビーズとを攪拌する攪拌ステップと、
前記酸化チタンナノチューブに超音波を照射する超音波処理ステップと、
を含むことで、
チューブ長が150ナノメートルより大きく1000ナノメートルより短い酸化チタン
ナノチューブが水性溶媒に分散してなることを特徴とする、
紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項2】
前記合成ステップは、pHが13以上であり、かつ、常圧より高い圧力下で合成する合成ステップである、
請求項1に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項3】
前記常圧より高い圧力とは、0.2メガパスカル以上0.6メガパスカル以下の圧力である、
請求項2に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項4】
前記合成ステップは、15mol/dm3以上の水酸化ナトリウムによりpHが13以上に保たれている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法において、
前記合成ステップの後に、前記酸化チタンナノチューブが懸濁した懸濁液のpHが中性領域になるまで中和する中和ステップと、を更に含む、
紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項6】
前記超音波処理ステップの後に、径が0.1マイクロメートル以上10マイクロメートル以下のフィルタを用いて濾過する濾過ステップと、を更に含む、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項7】
前記超音波処理ステップは、振動数が15キロヘルツ以上30キロヘルツ以下であり、振幅が5マイクロメートル以上50マイクロメートル以下の超音波を前記酸化チタンナノチューブに照射するステップである、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項8】
前記ビーズは、0.1ミリメートル以上1.0ミリメートル以下の範囲のビーズであり、
前記攪拌ステップは、前記ビーズを攪拌領域の容積に対して50%以上90%以下の割合になるよう充填して攪拌するステップである、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項9】
前記ビーズの硬度は、モース硬度7以上10以下である、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項10】
前記酸化チタンナノチューブは、前記酸化チタンナノチューブの表面を親水性の官能基を有するカップリング剤で修飾したものである、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項11】
前記カップリング剤は、シランカップリング剤である、
請求項10に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項12】
前記シランカップリング剤は、イミダゾリウム基及び水酸基の両方の官能基を有する、
請求項11に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【請求項13】
前記シランカップリング剤は、イミダゾールシランを含む、
請求項11に記載の紫外線遮蔽素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明
は、紫外線遮蔽素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で紫外線の遮蔽が求められている。紫外線は太陽光線の中にも含まれており、人体に照射されれば日焼けやシミの発生等の原因となり、肌の老化の原因となる可能性があるばかりか、近年では、眼病の原因となる可能性も指摘されている。また、人体に限らず、紙やプラスチック、ゴムなどに長時間紫外線が照射されると、紫外線の持つエネルギーにより変色したり、劣化したりすることの原因となる。
【0003】
これに対して、紫外線を遮蔽する種々の紫外線遮蔽素材が知られている。紫外線遮蔽素材としては、例えば、酸化チタンや酸化亜鉛が知られている。対象物の表面を酸化チタンや酸化亜鉛で覆うことにより、紫外線が反射・散乱することにより、対象物に紫外線が照射されることを防いでいる。
【0004】
しかしながら、紫外線遮蔽素材として酸化チタンを使用した場合には、酸化チタンが光を吸収する際に生じる光触媒効果によって強力な酸化還元能力が発現し、周囲の有機物を分解してしまうという問題点がある。このため、例えば、化粧品等として肌に塗布した場合には、紫外線の遮蔽効果が期待できる一方で、メラニンやシミの発生等老化の原因となる可能性が指摘されており、そのまま使用することは難しいという課題がある。また、対象物の表面に塗剤等として塗布した場合には、酸化チタンによって紫外線の遮蔽効果が期待される一方で、酸化チタンの酸化還元能力により、塗剤や対象物の表面の有機物を分解し、期待する劣化防止効果が得られないという課題がある。
【0005】
また、酸化チタンや酸化亜鉛は、顔料として使用されていることから明らかなように、
白色を有する。このため、酸化チタンを使用した化粧品や塗剤は白色となり、透明な化粧
品や塗剤とすることができないという課題がある。
【0006】
対象物を紫外線から保護するための紫外線遮蔽素材が熱望されている中、本発明者らは、酸化チタンナノチューブの表面に自己組織膜を形成することにより、紫外線吸収材料として好適に使用することのできる機能性材料を発明した(特許文献1)。この文献に記載の機能性材料では、酸化チタンナノチューブの表面に自己組織膜を形成することにより、酸化チタンの有する光触媒活性を抑制している。このように、酸化チタンナノチューブの表面に自己組織膜を形成することにより、遮蔽素材として酸化チタンナノチューブを使用できる可能性が示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−208988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、酸化チタンナノチューブ又は自己組織膜を形成した酸化チタンナノチューブを水に溶かした場合には、非常に高い凝集性を有する。これは、酸化チタンナノチューブがチューブ形状であるというその立体的な性質と、酸化チタンナノチューブの表面に多数の水酸基が存在することにより、水酸基同士が水中で結合しやすいという化学的な性質によるものであると考えられる。特許文献1では、酸化チタンナノチューブの表面に存在する水酸基を自己組織膜で覆うことによって水酸基同士が結合すことを妨げてはいるが、十分とは言えない。事実、特許文献1では、修飾酸化チタンナノチューブが1180ppm、未修飾酸化チタンナノチューブが3440ppmの濃度でそれぞれ水中に分散させており、これ以上の濃度における水性溶媒への分散性については何ら開示されていない。
【0009】
紫外線遮蔽素材として酸化チタンナノチューブを使用するためには、上述した濃度では不十分である。このため、高濃度であっても水性溶媒に十分に分散可能な酸化チタンナノチューブの開発が熱望されていた。一方で、酸化チタンは白色を有するため、高濃度にすると、白色を帯びることになる。このため、高い紫外線遮蔽効果が求められるため高濃度で分散することと、高濃度でも透明性を保つこととの二つの要求を満たす紫外線遮蔽素材の開発が熱望されている。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、優れた紫外線遮蔽効果を有しながら、水性溶媒に対して優れた分散性を有し、透明性に優れた紫外線遮蔽素材
の製造方法を提供することを主目的とする。
【0011】
本発明者らは、上述した主目的を達成するために、水熱合成により酸化チタンから酸化チタンナノチューブを合成する合成ステップと、前記合成ステップで合成した酸化チタンナノチューブとビーズとを混合した状態で前記酸化チタンナノチューブと前記ビーズとを攪拌する攪拌ステップと、前記酸化チタンナノチューブに超音波を照射する超音波処理ステップと、を含む方法で製造されることで、チューブ長が150ナノメートルより大きく1000ナノメートルより短い酸化チタンナノチューブが水性溶媒に分散してなることにより、水性溶媒に十分な分散性を有し、高い紫外線遮蔽効果と透明性とが両立可能な紫外線遮蔽素材を見いだし、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の紫外線遮蔽素材
の製造方法は、
水熱合成により酸化チタンから酸化チタンナノチューブを合成する合成ステップと、
前記合成ステップで合成した酸化チタンナノチューブとビーズとを混合した状態で前記酸化チタンナノチューブと前記ビーズとを攪拌する攪拌ステップと、
前記酸化チタンナノチューブに超音波を照射する超音波処理ステップと、
を含むことで、
チューブ長が150ナノメートルより大きく1000ナノメートルより短い酸化チタンナノチューブが水性溶媒に分散してなることを特徴とする、
紫外線遮蔽素材
の製造方法である。
【0013】
本発明の紫外線遮蔽素材
の製造方法において、前記合成ステップは、アルカリ性雰囲気下であり、かつ、常圧より高い圧力下で合成する合成ステップであってもよい。ここで、アルカリ性雰囲気下とは、pHが13以上であることが好ましい。このとき、10mol/dm
3(以下、「M」と言う。)以上の水酸化ナトリウムによりpH13以上とすることが好ましく、15M以上の水酸化ナトリウムによりpH13以上とすることがより好ましい。また、常圧より高い圧力とは、圧力が0.2メガパスカル以上0.6メガパスカル以下が好ましく、0.25メガパスカル以上0.35メガパスカル以下がより好ましい。水熱合成を行う際の圧力を0.2メガパスカル以上の圧力とすることで、酸化チタンを十分にナノチューブ形状にすることができる。こうすることにより、紫外線の遮蔽効果を保ちつつ、水性溶媒に溶かした際に、十分な透明性を維持することができる。
【0014】
本発明の紫外線遮蔽素材
の製造方法において、前記酸化チタンナノチューブが懸濁した懸濁液のpHが中性領域になるまで中和する中和ステップと、を更に含むものであってもよい。このとき、中性領域とは、pH7.0以上
pH8.0以下が好ましく、pH7.0がより好ましい。アルカリ性雰囲気下で行う合成ステップにより、酸化チタンナノチューブがアルカリ塩状態であるため、pHが7.0以上
pH8.0以下となるまで中和することにより、水性溶媒への溶解度及び分散性を向上させることができる。また、pH7.0となるまで中和することにより、品質を一定に保ち、溶解度及び分散性を更に向上させることができる。
【0015】
本発明の紫外線遮蔽素材
の製造方法において、前記超音波処理ステップの後に、0.1マイクロメートル以上50マイクロメートル以下のフィルタを用いて濾過する濾過ステップと、を更に含むものであってもよい。このとき、フィルタの径は、0.3マイクロメートル以上20マイクロメートル以下がより好ましく、0.5マイクロメートル以上10マイクロメートル以下がより好ましい。ナノチューブ形状の酸化チタンが凝集した凝集体は、大きさが通常50マイクロメートル以上になるため、フィルタの径を50マイクロメートル以下とすることで、酸化チタンナノチューブの凝集体を効率的に除去することができるため、水性溶媒に溶かした際に、十分な透明性を維持することができるため好ましく、20マイクロメートル以下の径にすれば、より透明性を高くすることができるためより好ましく、10マイクロメートル以下にすれば、さらに透明性を高くすることができるため好ましい。一方、この透明性は0.1マイクロメートル以下の径のフィルタであっても同様の効果を得ることができるが、濾過ステップに大きな時間が必要となるため、十分な透明性を確保しつつ短時間で紫外線遮蔽材料を得るためにも、0.1マイクロメートル以上であってもよく、0.3マイクロメートルがより好ましく、0.5マイクロメートル以上がより好ましい。
【0016】
本発明の紫外線遮蔽素材
の製造方法において、前記超音波処理ステップで照射する超音波は、振動数が15キロヘルツ以上30キロヘルツ以下が好ましく、20キロヘルツ以上30キロヘルツ以下が好ましい。このとき、振幅は5マイクロメートル以上50マイクロメートル以下が好ましく、20マイクロメートル以上50マイクロメートル以下がより好ましい。超音波の振動数及び振幅をこの範囲内に設定すると、キャビテーションが大量に発生し、その崩壊に起因する衝撃波によるナノ粒子同士の衝突エネルギーが増大するためである。
【0017】
本発明の紫外線遮蔽素材の製造方法において、前記ビーズは、0.3ミリメートル以上1.0ミリメートル以下が好ましく、0.3ミリメートル以上0.5ミリメートル以下がより好ましい。このとき、前記
攪拌ステップにおいて充填されるビーズの割合は、攪拌領域の容積に対して50%以上90%以下が好ましく、70%以上80%以下がより好ましい。遠心分離などを利用した特殊な分離方式で分離するのでは無く、従来から信頼性のある手法として知られたスクリ−ンにより分離可能なビーズ径である0.3ミリメートル以上が好ましい。また、均質にナノ粒子にせん断力を付与することができる0.5ミリメートル以下がより好ましく、1.0ミリメートルより大きい場合には、均質にせん断力を付与できないため好ましくない。
【0018】
本発明の紫外線遮蔽素材
の製造方法において、前記ビーズの堅さは、モース硬度7以上10以下が好ましく、8以上9以下がより好ましい。ビーズのモース硬度が7未満の場合には、酸化チタンナノチューブを十分な細かさにすることができず、チューブ方向の長さが長くなる可能性があるため、好ましくない。
【0019】
本発明の紫外線遮蔽素材
の製造方法において、前記酸化チタンナノチューブは、前記酸化チタンナノチューブの表面を親水性の官能基を有するカップリング剤で修飾したものであってもよい。こうすれば、酸化チタンナノチューブの表面をカップリング剤で覆うことにより、酸化チタンの有する光触媒活性を抑制することができる。このとき、このカップリング剤は、シランカップリング剤であることが好ましく、親水性の官能基を有するカップリング剤であることがより好ましい。親水性の官能基を有するカップリング剤を使用することにより、水性溶媒への親和性を高め、均一に分散させることが可能になるためである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】IS−TNTの一例を示すTEMイメージ図。
【
図3】紫外線照射時間毎におけるTNTの可視光透過率の変化を示すグラフ。
【
図4】紫外線照射時間毎におけるIS−TNTの可視光透過率の変化を示すグラフ。
【
図5】濾過の有無によるTNTのカット率の違いを示すグラフ。
【
図6】濾過の有無によるIS−TNTのカット率の違いを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態の一例である紫外線遮蔽素材
の製造方法の実施形態について、詳細に説明する。この紫外線遮蔽素材は、主として、酸化チタンナノチューブ(以下、「TNT」と言う。)又はイミダゾールシラン修飾型酸化チタンナノチューブ(以下、「IS−TNT」と言う。)を含んでいるため、ここでは、TNTの調製方法について説明した後に、IS−TNTの調製方法について説明する。
【0022】
(水熱合成処理)
このTNTは、酸化チタンを出発原料として、水熱合成を用いて調製する。具体的には、10M以上20M以下の水酸化ナトリウム水溶液中に酸化チタンを添加し、110℃以上180℃以下の温度で0.2メガパスカル以上0.6メガパスカル以下の圧力に保ち、10時間以上100時間以下の時間で水熱合成を行った。なお、水熱合成の温度は120℃以上180℃以下であってもよく、140℃以上180℃以下であってもよく、155℃以上170℃以下であっても良い。こうすることにより、水性溶媒への分散性が高く、チューブ長が150ナノメートルより大きく1000ナノメートルより短い酸化チタンナノチューブが得られる。なお、このチューブ長は、水熱合成処理の圧力及び温度を変更することで適宜調製することができ、例えば、チューブ長が150ナノメートルより大きく500ナノメートルより短い酸化チタンナノチューブとしても良いし、チューブ長が150ナノメートルより大きく250ナノメートルより短い酸化チタンナノチューブとしても良いし、チューブ長が200ナノメートルの酸化チタンナノチューブとしてもよい。
【0023】
(中和処理)
水熱合成で得られた合成物に溶液のpHが中性領域となるまで酸を加えた後、水洗した。水洗後、100℃で2時間乾燥させたところ、白色の粉体(以下、「試料1」と言う。)を得た。このとき、中性領域とは、pH7.0以上8.0以下が好ましく、pH7.0がより好ましい。こうすることにより、水性溶媒への溶解度及び分散性を向上し、得られた合成物の品質を一定に保つことができる。
【0024】
(調製工程)
次に試料1を水に懸濁し、濃度が1wt%〜7wt%となるように調製して懸濁液を得た。この懸濁液に分散剤を少量添加し、分散用のビーズと試料1と混合し、超音波照射と合わせて分散化を行い、透明性の高い懸濁液(以下、「試料2」と言う。)を得た。このように、超音波による振動とビーズによる物理的な衝撃とを加えることにより、試料2中に含まれるナノチューブ形状の酸化チタンを所望の形状に調製することができる。
【0025】
試料1を水に懸濁する濃度は、1wt%〜7wt%が好ましく、2wt%〜4wt%がより好ましい。試料1は、主にナノチューブ形状の酸化チタンからなり、高アルカリ条件下で合成したナノチューブ形状の酸化チタンは、表面に水酸基が露出しているため、互いの水酸基同士が相互作用を起こしやすいため、高濃度にすることで、互いに凝集しやすくなる。そこで、水に懸濁する濃度を7wt%以下とすることにより、資料1同士が凝集し、凝集体を形成する可能性を未然に低減することができ、4wt%以下とすることで、凝集体を形成する可能性を更に低減することができる。
【0026】
ここで使用する分散剤としては、例えば、トリポリリン酸ナトリウムを使用することができ、分散剤の添加量は、添加剤の種類及び試料1の濃度に従って、適宜定めることができる。また、分散剤は添加しなくとも良い。
【0027】
ここで使用するビーズのモース硬度は7以上10以下が好ましく、8以上9以下がより好ましい。具体的には、例えば、ガーネット、石英、ケイ素、ベリリウム、ジルコニウム、オスミウム、トパーズ、タングステンカーバイド、コランダム、アルミナ、シリコンカーバイド、ダイヤモンド等が好ましい。ビーズのモース硬度が7未満の場合には、酸化チタンナノチューブを十分な細かさにすることができないため、好ましくない。
【0028】
ここで使用するビーズの径は、0.3ミリメートル以上1.0ミリメートル以下が好ましく、0.3ミリメートル以上0.5ミリメートル以下がより好ましい。このとき、充填されるビーズの割合は、攪拌領域の容積に対して50%以上90%以下が好ましく、70%以上80%以下がより好ましい。従来から信頼性のある手法として知られたスクリ−ンにより分離可能なビーズ径である0.3ミリメートル以上が好ましく、均質にナノ粒子にせん断力を付与することができる0.5ミリメートル以下が好ましい。また、1.0ミリメートルより大きい場合には、均質にせん断力を付与できないため好ましくない。
【0029】
ここで照射する超音波は、振動数が15キロヘルツ以上30キロヘルツ以下が好ましく、20キロヘルツ以上30キロヘルツ以下が好ましい。このとき、振幅は5マイクロメートル以上50マイクロメートル以下が好ましく、20マイクロメートル以上50マイクロメートル以下がより好ましい。超音波の振動数及び振幅をこの範囲内に設定すると、キャビテーションが大量に発生し、その崩壊に起因する衝撃波によるナノ粒子同士の衝突エネルギーが増大するためである。
【0030】
(濾過工程)
分散工程で得られた試料2を、膜フィルタ(孔径0.7マイクロメートル)を用いて、濾過を行い、濾過物(以下、「試料3」と言う。)を得た。この試料3には、粒径が0.7マイクロメートル以上に凝集した状態のものが取り除かれているため、粒径が0.7マイクロメートル未満のものが選択されることになる。試料3中に含まれる酸化チタンはナノチューブ形状であるため、具体的には、ナノチューブの長さが0.7マイクロメートル未満であると考えられる。このように、チューブの長さを0.7マイクロメートル未満とすることで、水性溶媒へ溶解した際に凝集を未然に低減し、優れた分散性を有する。このようにして得られたナノチューブ形状の酸化チタン(TNT)の一例として、透過型電子顕微鏡でTNTを撮影した画像をTEMイメージとして
図1に示す。
図1から明らかなように、処理前には粒子径状であった酸化チタンがナノチューブ形状に変わっている。
【0031】
(表面修飾工程)
次に、シランカップリング剤により表面修飾を行った紫外線遮蔽素材について説明する。ここで、IS−TNTは、上述した合成工程で調製したTNTをシランカップリング剤により表面修飾したものであり、表面修飾前のTNTの調製方法は、TNTの合成工程と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0032】
上述した合成工程と同様の方法で調製したTNTを有機溶媒に懸濁して得られた懸濁液に、シランカップリング剤を添加した後、100〜150℃で12時間〜24時間攪拌した。
【0033】
ここで用いるシランカップリング剤は、分子内に有機材料と反応結合する官能基及び無機材料と反応結合する官能基を同時に有する有機ケイ素化合物で、ケイ素原子に1つの有機官能基と2〜3の無機物と反応する加水分解基を持っている構造を有しており、これによって無機物表面を修飾できる化合物である。
【0034】
このようなシランカップリング剤としては、例えば、RSiX
3 (X:ケイ素原子に結合している加水分解性基でアルコキシ基,アセトキシ基,クロル原子など; R:有機官能基、この部分にエポキシ基,ビニル基,アミノ基などの有機材料と反応結合する官能基を導入できる) という構造式で書くことができる。具体的な化合物としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリブトキシシラン、n−プロピルブトキシシラン、イソプロピルブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン等のアルキル側鎖を有するもの、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどの末端にエポキシ基を有するもの、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、トリクロロビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するもの、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するもの、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート、3−(トリエトキシシリル)プロピルメタクリレート、クロロメチルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン等の様々な官能基を有するものが挙げられる。
【0035】
このようなシランカップリング剤の中でも、例えば、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3−メルカプトトリメトキシシラン等が末端に親水性の官能基を有するもの好ましく、例えば、イミダゾールシラン、2,3−ジヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、2,3−ジヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イミダゾリウムプロピルトリエトキシシラン、3−イミダゾリウムプロピルトリメトキシシラン等の末端に水酸基やイミダゾリウム基等の高い親水性を有する官能基を有するものがより好ましい。また、イミダゾールシランは末端に水酸基とイミダゾリウム基の両方を有するため、高い親水性を有する官能基を有する点でより好ましい。
【0036】
ここで使用する反応促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の第三級アミンを用いても良い。反応促進剤を添加することにより、反応時間を短縮し、生産性を向上することができる。
【0037】
(精製工程)
こうして得られた表面修飾が施されたTNTを含む溶液を室温まで自然冷却した後、遠心分離を行い、得られた沈殿画分を得た。この沈殿画分を脱水トルエンに再度懸濁し、125℃で約6時間攪拌した後、再度遠心分離を行って沈殿画分を得た。この沈殿画分を3回ヘキサンで洗浄した後、100℃で約16時間乾燥し、表面修飾が施されたTNTを得た。なお、ヘキサンでの洗浄方法は、沈殿画分をヘキサンに再懸濁した後、遠心分離を行って沈殿画分を得るという方法で行った。
【0038】
こうして得られた表面修飾が施されたTNTは、遠心分離を行い、得られた沈殿画分を脱水トルエンに再度懸濁し、室温で約6時間攪拌した。続いて、更に遠心分離を行い、得られた沈殿画分をヘキサンにて3回洗浄し、得られた沈殿画分を回収し、120℃の温風乾燥機中で2時間乾燥させて表面修飾が施されたTNTを精製し、表面修飾が施されたTNTを得た。このようにして得られた表面修飾が施されたTNTの一例として、イミダゾールシランで表面修飾を施したTNTを透過型電子顕微鏡で撮影した画像をTEMイメージとして
図2に示す。
図2から明らかなように、イミダゾールシランで表面修飾を施した状態であっても、ナノチューブ形状を保っている。
【実施例】
【0039】
(各サンプルの調製)
10Mの水酸化ナトリウム水溶液中にアナターゼ型酸化チタンを質量比が10:1の割合で添加し、150℃の温度で20時間水熱合成を行った。こうして得られた反応物を中和した後水洗し、100°で2時間乾燥させたところ、白色の粉体を得た。
【0040】
この白色粉体を水に3wt%となるように懸濁し、株式会社井上製作所社製のナノソニックミル(型式:NSM−0.1C)に投入して分散化を行いサンプル1を得た。このナノソニックミルに投入された試料は、装置内でビーズと混合され、超音波を照射されて、白色粉体は水中に均一に分散する。
【0041】
続いて、株式会社ロキテクノ社製膜フィルタ(品番:20L−SLF−007XS)を用いて濾過を行い、濾液(サンプル2)を得た。
【0042】
10Mの水酸化ナトリウム水溶液中にアナターゼ型酸化チタンを質量比が10:1の割合で添加し、150℃の温度で20時間水熱合成を行った。こうして得られた反応物を中和した後水洗し、100°で2時間乾燥させたところ、白色の粉体を得た。
【0043】
この白色粉体30gを有機溶媒に懸濁した懸濁液に、25mlのイミダゾールシラン(JX日鉱日赤金属株式会社製,商品名:イミダゾールシランIS−3000)及び0.4mlのトリエチルアミンを添加し、約125℃に保ったまま、マグネットスターラー等を用いて約16時間攪拌した。続いて、室温まで自然冷却した後、遠心分離を行い、得られた沈殿画分を得た。この沈殿画分を脱水トルエンに再度懸濁し、125℃で約6時間攪拌した後、再度遠心分離を行って沈殿画分を得た。この沈殿画分を3回ヘキサンで洗浄した後、100℃で約16時間乾燥し、IS−TNTを得た。なお、ヘキサンでの洗浄方法は、沈殿画分をヘキサンに再懸濁した後、遠心分離を行って沈殿画分を得るという方法で行った。
【0044】
こうして得られたIS−TNTは、遠心分離を行い、得られた沈殿画分を脱水トルエンに再度懸濁し、室温で約6時間攪拌した。続いて、更に遠心分離を行い、得られた沈殿画分をヘキサンにて3回洗浄し、得られた沈殿画分を回収し、120℃の温風乾燥機中で2時間乾燥させてIS−TNTを精製し、表面修飾が施されたIS−TNTを得た。
【0045】
こうして得られたIS−TNTを水に3wt%となるように懸濁し、株式会社井上製作所社製のナノソニックミル(型式:NSM−0.1C)に投入して分散化を行いサンプル3を得た。
【0046】
続いて、株式会社ロキテクノ社製膜フィルタを用いて濾過を行い、濾液(サンプル4)を得た。
【0047】
(各サンプルの可視光透過率の評価)
こうして得られたサンプル1〜4及びアナターゼ型酸化チタンについて、それぞれ0.16wt%となる割合で樹脂(DIC株式会社製,ボンコートCF−6240)に添加し、60マイクロメートルの膜厚となるように石英板に塗布した。
【0048】
続いて、それぞれの石英板を水中に浸漬した状態で紫外線ランプ(東芝ライテック株式会社製 殺菌ランプGL−6)を3センチメートル離れた距離から6時間照射し、37℃で12時間乾燥させた後に分光測定を行い、6時間後の透過率を測定した。同様にして、6時間毎に66時間測定を行った。この測定結果からJIS R 3106の手法に従って可視光透過率を算出し、可視光透過率と紫外線照射時間との関係を
図3及び
図4に示す。なお、ここで
図3及び
図4は可視光透過率と紫外線照射時間の関係を示すグラフである。
図3には、酸化チタン(実線)、ブランク(点線)、サンプル1(一点鎖線),サンプル2(二点鎖線)がそれぞれ示されており、
図4には、酸化チタン(実線)、ブランク(点線)、サンプル3(一点鎖線)、サンプル4(二点鎖線)がそれぞれ示されている。なお、縦軸は可視光透過率を示し、横軸は紫外線照射時間を示す。
【0049】
図3及び
図4から明らかなように、サンプル1及びサンプル2の可視光透過率と比較して、サンプル3及びサンプル4の可視光透過率が高い。このことから、濾過の有無にかかわらず、TNTと比較してIS−TNTの透過率が高いと言える。言い換えると、TNTと比較してIS−TNTを塗布した石英板の透明性が高いと言える。このことから、TNTの表面をイミダゾールシランで修飾することにより、TNTと比較して透明性の低下を抑制することができると言える。これは、TNTの表面をイミダゾールシランで修飾することにより、TNTの表面に存在する水酸基を覆うことができるため、水酸基同士の相互作用により、凝集することを抑制することができるためであると発明者らは考えている。この結果、凝集体が生じることを未然に防止し、比較的大きな凝集体によって透明性が低下することを未然に防ぐことができたと考える。
【0050】
また、それぞれのサンプルの6時間後の可視光透過率と62時間後の可視光透過率とを比較すると、サンプル1及びサンプル2の可視光透過率の変化(
図3参照)と比較して、サンプル3及びサンプル4の可視光透過率の変化(
図4参照)が小さい。このことから、長時間紫外線が照射された場合であっても、TNTと比較してIS−TNTは可視光透過率の低下が小さいと言える。言い換えると、TNTと比較してIS−TNTを塗布した石英版の透明度が高く保たれていると言える。このことから、TNTの表面をイミダゾールシランで修飾することにより、TNTと比較して透明性の低下を抑制することができると言える。これは、TNTの表面をイミダゾールシランで修飾することにより、TNTの表面に自己組織膜を形成することができるため、酸化チタンの有する光活性作用により周囲の樹脂を劣化(白化)させることを抑制することができたためであると発明者らは考えている。この結果、樹脂が劣化することを未然に防止し、樹脂の劣化によって透明性が低下することを未然に防ぐことができたと考える。
【0051】
ここで、本紫外線ランプで照射した紫外線量について評価する。紫外線ランプ(東芝ライテック株式会社製 殺菌ランプGL−6)を5センチメートル離れた距離から照射した際の紫外線の強度は、19μW/cm
2であるため、5cm離れた状態で照射した際の紫外線強度は、7600W/cm
2であり、これは、76J/m
2sに相当する。よって、1時間当たりのエネルギーは、273、6kJ/m
2sに相当する。一方、兵庫県姫路市内で定点観測を行ったUV−Bの照射強度における日積算量は、13.61795J/m
2sdayであることが分かっている。このことから、この紫外線ランプの1時間当たりのエネルギーは、兵庫県姫路市内では、おおよそ2.008日に相当する。
【0052】
(各サンプルのカット率の評価)
次にサンプル1〜4について、TNT(又はIS−TNT)の濃度とカット率との関係を
図5及び
図6に示す。ここで、「カット率」とは、波長が280ナノメートルから370ナノメートルにおける透過率を積算した数値について、TNT(又はIS−TNT)のそれぞれの濃度のサンプルがTNT(又はIS−TNT)の濃度が0の場合と比較して、どの程度の割合であるかを示す値であり、具体的には、TNT(又はIS−TNT)の各濃度における280ナノメートルから370ナノメートルの波長における吸光度の積分値をTNT(又はIS−TNT)が含まれていない280ナノメートルから370ナノメートルの波長における吸光度の積分値で除算したものを値100から減算したものである。この式で表されるカット率が大きければ大きいほど、280ナノメートルから370メートルの波長(すなわち、地表に到達している紫外線に相当する領域の波長)を遮蔽していることを示す。
【0053】
まず、
図5に、サンプル1(実線)とサンプル2(点線)の各濃度におけるカット率の変化を示す。ここで、
図6は、サンプル1とサンプル2の各濃度におけるカット率の変化を示すグラフであり、縦軸がカット率を,横軸が酸化チタンの濃度をそれぞれ示している。
図5から明らかなように、サンプル1は20%のカット率を得るためには、酸化チタン濃度が0.4wt%程度必要であることに対し、サンプル2は、約0.05wt%で20%のカット率が得られる。このことから、サンプル2はサンプル1と比較して、低濃度であっても20%以上のカット率が得られることは明らかである。言い換えると、低濃度でも高い紫外線遮蔽効果を有していると言える。これは、濾過を行うことにより、紫外線遮蔽効果の低い凝集体を除去することができたためであると考えられる。
【0054】
次に、
図6に、サンプル3とサンプル4の各濃度におけるカット率の変化を示す。ここで、
図6は、サンプル3(点線)とサンプル4(実線)の各濃度におけるカット率の変化を示すグラフであり、縦軸がカット率を、横軸が酸化チタン濃度をそれぞれ示している。
図6から明らかなように、サンプル3及びサンプル4のいずれも酸化チタン濃度が約0.05wt%を境にカット率が大きく上昇している。このことから、サンプル3及びサンプル4において、十分な紫外線遮蔽効果を得るためには、酸化チタン濃度が0.05wt%以上必要であることは明らかである。また、サンプル3とサンプル4とを比較すると、サンプル3と比較して、サンプル4の方がいずれの濃度であっても高いカット率を有している。このことから、サンプル3と比較して、サンプル4は高い紫外線遮蔽効果を有していると言える。これは、濾過を行うことにより、紫外線遮蔽効果の低い凝集体を除去することができたためであると考えられる。
【0055】
(各サンプルの透明性の変化)
最後に、サンプル1〜4について、目視により塗膜がどの濃度で白濁したかを目視で確認した。その結果、サンプル1は、0.099wt%以下では白濁が確認できなかったが、0.119wt%以上では白濁した。また、サンプル2は、0.102wt%以下では白濁が確認できなかったが、0.255wt%以上では白濁した。また、サンプル3は、0.063以下では白濁が確認できなかったが、0.071wt%以上では白濁した。また、サンプル4は、0.16wt%以下では白濁が確認できなかったが、0.4wt%以上では白濁した。なお、比較対象としてアナターゼ型酸化チタンで同様の実験を行ったところ、0.04wt%で既に白濁が確認され、透明性を確保することができなかった。このことから、濾過を行ったか否かについてTNTで比較すると、濾過を行うことにより、より高い濃度でも白濁しないことが言える。また、濾過を行ったか否かについてIS−TNTで比較すると、濾過を行うことにより、より高い濃度でも白濁しないことが言える。以上より、TNTとIS−TNTのいずれに対しても、濾過を行うことにより、白濁することなく多くのTNT又はIS−TNTを分散することができる。TNT又はIS−TNTの添加量が多くなれば多くなるほど紫外線遮蔽効果が高まることから、透明性を保ちつつ、高い紫外線遮蔽効果を得られたと言える。