(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969308
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】血管内皮細胞の一酸化窒素分泌促進剤又は分泌誘導剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/28 20060101AFI20160804BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20160804BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
A61K36/28
A61K9/20
A61P43/00 111
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-179475(P2012-179475)
(22)【出願日】2012年8月13日
(65)【公開番号】特開2014-37360(P2014-37360A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100150681
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 荘助
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100105061
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 喜博
(72)【発明者】
【氏名】金 辰也
【審査官】
鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−046420(JP,A)
【文献】
特開平07−324039(JP,A)
【文献】
特開2005−343836(JP,A)
【文献】
特表2004−520357(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/083190(WO,A2)
【文献】
特開2007−063135(JP,A)
【文献】
Journal of Cardiovascular Pharmacology,2002年,Vol.40, No.5,p.701-713
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A23L 33/10
A23K 20/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カレープラント(Helichrysum italicum)の水抽出物を有効成分とする一酸化窒素分泌促進剤又は分泌誘導剤。
【請求項2】
経口剤である請求項1に記載の一酸化窒素分泌促進剤又は分泌誘導剤。
【請求項3】
錠剤の形態である請求項1又は2に記載の一酸化窒素分泌促進剤又は分泌誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮細胞の一酸化窒素分泌を促進する剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内では一酸化窒素は、一酸化窒素合成酵素 (NOS) によってアルギニンと酸素とから合成される。一酸化窒素は細胞内の可溶型グアニル酸シクラーゼを活性化してサイクリックGMP (cGMP) を合成させることによりシグナル伝達に関与する。この機構を介して一酸化窒素は生体内の様々な器官で種々の機能の発現を担っている。
【0003】
例えば、血管内皮は一酸化窒素をシグナルとして周囲の平滑筋を弛緩させ、それにより動脈を拡張させて血流量を増やす。この作用は、ニトログリセリン、亜硝酸アミル、一硝酸イソソルビド(5-ISMN,アイトロール(R))などの亜硝酸誘導体の心臓病の治療の基本的な作用機構である。これらの亜硝酸化合物は血流内で一酸化窒素に変化し、心臓の冠動脈を拡張させて血液供給を増やす。
また、発毛剤ミノキシジル(商品名:リアップ)は cGMP 分解を抑制して毛細血管の血流量を増やす。一酸化窒素は陰茎の勃起機構にも係わっており、やはり cGMP 分解抑制薬であるシルデナフィル(商品名:バイアグラ)はこのメカニズムを利用したものである。
【0004】
一酸化窒素を気管内に吸入させることにより、肺動脈の血管平滑筋を弛緩させ、肺高血圧を改善させることができる。特に新生児の新生児遷延性肺高血圧や、開心術後の心臓の負荷軽減、原発性肺高血圧症の治療などに利用される。
【0005】
免疫系に於いては、マクロファージは病原体を殺すために一酸化窒素を産生する。
一酸化窒素は神経伝達物質としても働く。シナプス間隙のみで働く多くの神経伝達物質と異なり、一酸化窒素分子は広い範囲に拡散して直接接していない周辺の神経細胞にも影響を与える。このメカニズムは記憶形成にも関与すると考えられている。
【0006】
このように、一酸化窒素の生物機能は多岐にわたっており、一酸化窒素の生体内での分泌を制御することで種々の疾患の治療や予防効果が期待できる。このためいくつかの提案がすでになされている。特許文献1(特開2010−254589号公報)には、一酸化窒素の前駆物質であるシトルリンやアルギニン又はアルギノコハク酸を投与して、ドライマウス患者の一酸化窒素分泌量を増加させ、それによってドライマウスやドライアイを改善しようとする試みが提案されている。特許文献2(特開2008−255075号公報)はハイペロサイドとイソクエルシトルリンの混合物を投与して、血管内皮細胞の一酸化窒素分泌を促進させることによって血管内皮機能を改善し動脈硬化や高血圧の予防を行う試みが提案されている。また特許文献3(特開2000−290198号公報)には一酸化窒素の産生を抑制することで、血管の透過性と血管の拡張を抑制し、花粉症によるくしゃみや鼻汁の分泌を抑制しようという試みが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−254589号公報
【特許文献2】特開2008−255075号公報
【特許文献3】特開2000−290198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は天然物由来の一酸化窒素分泌促進剤又は分泌誘導剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、天然物の一酸化窒素分泌促進又は分泌誘導を探索したところ、カレープラント(Helichrysum italicum)、イチョウ(Ginkgo biloba)、ショウガ(Zingiber officinale)に強い一酸化窒素分泌誘導を起こすことを見出した。すなわち本発明の主な構成は以下のとおりである。
(1)カレープラント(Helichrysum italicu
m)の水抽出物を有効成分とする一酸化窒素分泌促進剤又は分泌誘導剤。
(2)経口剤である(
1)に記載の一酸化窒素分泌促進剤又は分泌誘導剤。
(3)錠剤の形態である(1)
又は(2)に記載の一酸化窒素分泌促進剤又は分泌誘導剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有効成分であるカレープラント(Helichrysum italicum)、イチョウ(Ginkgo biloba)、ショウガ(Zingiber officinale)抽出物は、一酸化窒素の分泌促進又は分泌誘導作用を有しており、一酸化窒素の生体内濃度が減少することに伴う、各種疾患や症状の予防や治療に効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】カレープラント抽出物の正常ヒト血管内皮細胞における一酸化窒素(NO)産生促進効果を確認したグラフである。
【
図2】イチョウ葉エキス、ショウガエキスの正常ヒト血管内皮細胞における一酸化窒素(NO)産生促進効果を確認したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
カレープラント(学名: Helichrysum italicum、英語: curry plant)はキク科に属する多年草の一種である。葉茎からカレーの香りがするためカレープラントと呼ばれる。イモーテル、エバーラスティングともいう。本発明で用いる抽出物は、カレープラント地上部が好適である。また、カレープラントの植物体はそのままの形態で抽出してもよい。抽出効率を高めるために好ましくは乾燥させて粉砕して抽出する。
イチョウ(銀杏、公孫樹、鴨脚樹、学名:Ginkgo biloba)は、裸子植物の1種であり、中国原産の落葉高木であり、夏季に採取した葉を用いる。抽出効率を高めるために好ましくは乾燥させて粉砕して抽出する。
ショウガ (Zingiber officinale) はショウガ科の多年草である。熱帯アジア原産で、地下に根茎があり、地上には葉だけが出る。ショウガは全草を利用可能であるが、根茎の利用が好ましい。抽出に当たっては、抽出効率を高めるために好ましくは乾燥させて粉砕して抽出する。
なお、イチョウ及びショウガは生薬原料として市販されている生薬エキスなどを用いることもできる。
【0014】
抽出には、溶媒抽出や圧搾抽出等種々の抽出方法を用いることができるが、好ましくは、溶媒抽出を用いることができる。抽出に使用される溶媒としては、水、エチルアルコール、エーテル、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等が挙げられるがこれに限定されるものではない。これらの溶媒の中から1種または2種以上選択して使用するが、安全性の見地から、水、エチルアルコールが好ましく、更に好ましくは、水とエチルアルコールの混合物、例えば1〜99%のエチルアルコール水溶液、特に20〜80%のエチルアルコール水溶液を使用することが好ましい。
【0015】
抽出方法は、植物体の粉砕物100gに対して0.1〜10リットル、好ましくは1リットルの溶媒を加え、1時間〜1週間、室温にて放置、あるいは抽出効率を高めるため攪拌する。あるいは溶媒を加温してもよい。
【0016】
抽出は不溶物と抽出液を濾過あるいは沈降法等により分離する。好ましくは、不溶物は同様の抽出操作を繰り返し、適当な濃縮処理により、例えばエバポレーターのような減圧濃縮装置や加熱による溶媒除去などにより濾別後、濾液を濃縮し濃縮液を得ることが出来る。さらに濃縮液を凍結乾燥させて濃縮乾固物を得ることも出来る。さらには、カラムクロマトグラフィー等各種のクロマトグラフィー等、植物成分の分離、抽出に利用される公知の方法を用いて有効成分を分画し、その純度を高めてもよい。
【0017】
上述のようにして得られる抽出物は、一酸化窒素の分泌促進又は分泌誘導剤としてそのまま直接使用してもよいが、種々の剤型での投与が可能であり、一般的には薬学的に許容される適当な液体担体に溶解するか若しくは分散させ、または薬学的に許容される適当な粉末担体と混合するか若しくはこれに吸着させ、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤等の経口投与剤や、座薬や点滴剤などの非経口投与剤として使用できる。投与量は患者の症状や年齢に応じて適宜変更できるが、1日当たり、乾燥抽出物0.01〜1000mg/kg体重の範囲で用いればよく、更に0.1〜100mg/kg体重の範囲で用いるのが好ましい。
【0018】
また、本発明の一酸化窒素の分泌促進又は分泌誘導剤は、通常の飲食品に抽出物を添加することもできる。例えば、チョコレート、キャンディ、ゼリー、ビスケット、チューインガム、アイスクリーム、シャーベット、氷菓、和菓子等の菓子、清涼飲料、ジュース、ウーロン茶等の飲料、畜肉加工品、魚肉・水産加工肉、乳・卵加工品、野菜加工品、穀類加工品、冷凍食品、調味料、スプレッド等の飲食品に用いることができる。添加量は、対象の飲食品に対して重量を基準として乾燥抽出物を0.01〜10%、好ましくは0.05〜5%の範囲で添加するのが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0020】
各抽出物の血流改善効果確認試験
[材料]
カレープラントの抽出物は以下の方法で調製した。
地上部全草を採取したカレープラントは乾熱乾燥を経て室温保管した乾燥物を使用した。採取物に対する植物乾燥物の乾燥歩留は15%から30%の範囲で、一般的な植物の乾燥歩留と大差無かった。
カレープラント水抽出物(以下CPW)はカレープラント乾燥物1Kgを1時間60℃の温水10Kgに浸漬して抽出した抽出液を減圧濃縮により固形化し、ドラムドライヤーにて加熱乾燥させた固形物にして使用した。
カレープラント40%エチルアルコール抽出物(以下CPEt)は、カレープラント乾燥物1Kgを室温で1時間40%(v/v)エチルアルコール10Kgに浸漬して得た抽出液を減圧濃縮により固形化し、ドラムドライヤーにて加熱乾燥させた固形物にして用いた。
またショウガは市販のショウガエキス(ジンジャーパウダーHG;富士フレーバー(株)製、以下「Shoga」)、イチョウは市販のイチョウ葉エキス(ギンコロン−24F;(株)常盤植物化学研究所製、以下「Ichou」)を用いた。
【0021】
<試験例>
正常ヒト血管内皮細胞(Human Aortic Endothelial Cells、以下HAEC)における一酸化窒素(NO)産生促進効果
正常ヒト大動脈内皮細胞(三光純薬より購入)を培養液EBM-2(添加剤EGM-2(いずれもLONZA)含有)にて継代培養し、継代数4に達した細胞を用いて効果を確認した。
平板12ウェルプレートに2×10
4cell/wellの細胞密度で細胞を播種し、24時間37℃5%二酸化炭素インキュベーターで培養して細胞を定着させた。その後、培地をフェノールレッドフリーEBM-2に置換して、カレープラントは各サンプルを30、10μg/ml添加、IchouとShogaは30、10、3μg/ml添加して、さらに2時間37℃5%二酸化炭素インキュベーターで培養した。
培養終了直後の培養液を回収し、NO
2/NO
3Assay Kit FX(同仁化学)で溶液中のNitrite量を求め、一酸化窒素(NO)量として、各群n=3でmean±S.D.表記して各群を比較した。
【0022】
結果
図1にカレープラント抽出物による効果、
図2にイチョウエキス、ショウガエキスの試験結果を示す。各試料はいずれも濃度依存的に血管内皮細胞の一酸化窒素産生を促進することが確認できた。
【0023】
処方例1(錠剤)
カレープラント水抽出物 40.0
乳糖 40.0
コーンスターチ 19.0
シュガーエステル 1.0
100.0重量%
【0024】
処方例2(錠剤)
カレープラント40%エチルアルコールの抽出物 10.0
D−マンニトール 35.0
乳糖 40.0
結晶セルロース 10.0
ヒドロキシプロピルセルロース 5.0
100.0重量%
【0025】
処方例3(散剤)
カレープラントの水抽出物 20.0
コーンスターチ 25.0
乳糖 55.0
100.0重量%
【0026】
処方例4(カプセル剤)
カレープラントエチルアルコール抽出物 50.0
乳糖 48.0
ステアリン酸マグネシウム 2.0
100.0重量%
上記成分を均一に混合し次いで造粒し、その造粒物をハードカプセルに充填した。
【0027】
処方例5(シロップ剤)
カレープラントの40%エチルアルコール抽出物 0.1
精製水 69.8
単シロップ 30.0
炭酸カルシウム 0.1
100.0重量%
【0028】
処方例6(錠菓)
砂糖 76.6
グルコース 18.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
香料 0.2
処方例1の抽出物 5.0
100.0 重量%
【0029】
処方例7(飲料)
果糖ブドウ糖液糖 5.00
砂糖 4.50
酸味料 1.28
香料 0.20
カレープラントの水抽出物 0.02
水 89.00
100.00重量%
【0030】
処方例8(飲料)
オレンジ果汁 80.0
砂糖 11.7
酸味料 2.0
香料 1.0
カレープラントのエチルアルコール抽出物 0.0005
水 残余
100.0重量%
【0031】
処方例9(錠剤)
ショウガエキス(ジンジャーパウダーHG;富士フレーバー製) 40.0
乳糖 40.0
コーンスターチ 19.0
シュガーエステル 1.0
100.0重量%
【0032】
処方例10(錠剤)
イチョウ葉エキス(ギンコロン−24F;常盤植物化学研究所製) 10.0
D−マンニトール 35.0
乳糖 40.0
結晶セルロース 10.0
ヒドロキシプロピルセルロース 5.0
100.0重量%