(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969316
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】免震建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-184891(P2012-184891)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-43675(P2014-43675A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(72)【発明者】
【氏名】九嶋 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】平川 恭章
(72)【発明者】
【氏名】佐分利 和宏
(72)【発明者】
【氏名】小島 一高
【審査官】
河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−140759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震層を上下から挟む構造部のうち、上方の構造部には、前記免震層内に突出する複数のエレベータピットが分散配置され、下方の構造部には、各エレベータピットの所定距離以上の水平移動を規制するストッパが複数設けられ、
前記ストッパは、少なくとも一部のエレベータピットについて所定の方向への水平移動のみを規制し、かつ、何れか一のエレベータピットについて規制していない方向への水平移動を、他の少なくとも一のエレベータピットについては規制するように配置されていることを特徴とする免震建物。
【請求項2】
前記免震層の隅部に配置された前記エレベータピットが一以上存在し、前記ストッパは、前記隅部に配置されたエレベータピットよりも前記免震層の外側に位置しないように配置されている請求項1に記載の免震建物。
【請求項3】
ストッパは、前記下方の構造部に一体化され前記免震層内に突出する突出部と、該突出部によってエレベータピットに向けて支持された衝撃吸収材とによって構成されている請求項1または2に記載の免震建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として免震装置を備えた免震層を有する免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
免震建物には、基礎と建物との間に免震装置を設けたいわゆる基礎免震や、中間階に免震装置を設けたいわゆる中間階免震がある。斯かる免震建物の全周には、横揺れによる建物の最大変位量を考慮した空間(クリアランス)が確保される。例えば通常の基礎免震建物の場合、免震クリアランスは免震層の変形の大きさに対応する500〜700mm程度とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−140759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、想定を超えた地震が発生すれば、建物が許容範囲を超えて変位し、この過大な変位によって被害が生じる可能性がある。
【0005】
また、地震によって免震建物に捩れ変形が生じることがあり、特に縦横共に100mを超える広大な免震建物では、捩れ変形に伴う建物隅部(端部)の変位量が著しく増大し得る。例えば、100m四方の建築面積を有する免震建物では、捩れ角度が僅か1°の場合でもその捩れの中心位置によっては建物隅部が水平方向に凡そ1.75m変位することも考えられる。そのため、このような大規模免震建物は、中小地震によっても許容範囲を超える変位をしかねない。
【0006】
ここで、特許文献1の
図10に開示された中間階免震建物では、上層階に吊り下げ支持されたエレベータシャフトの下端部が、上層階の下方の免震層を貫き、さらにその下方にある下層階の上端の凹部に進入する。
【0007】
斯かる中間階免震建物では、地震の際に免震装置が変形して上層階と下層階とが水平方向に所定値以上相対移動すると、エレベータシャフトの下端部と凹部の壁面(内周面)とが当たる。すなわち、エレベータシャフトの下端部と凹部とが移動量規制装置を構成するのであって、この移動量規制装置によって、上層階と下層階との水平方向の相対移動量を抑える一定の効果が得られる。そして、この移動量規制装置を中間階ではなく基礎と下層階との間に設けることもできる。
【0008】
しかし、エレベータシャフトが免震建物の外周部近傍に配置されていると、スペースの関係上、このエレベータシャフトの下端部を受ける凹部を基礎側あるいは下層階側に構築するのが不可能となったり、基礎あるいは下層階の拡張が必要となりコスト増を招来したりする恐れがある。
【0009】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、水平方向における建物の過大な変位を、低コストで容易に抑制することができる免震建物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る免震建物は、免震層を上下から挟む構造部のうち、上方の構造部には、前記免震層内に突出する複数のエレベータピットが分散配置され、下方の構造部には、各エレベータピットの所定距離以上の水平移動を規制するストッパが複数設けられ、前記ストッパは、少なくとも一部のエレベータピットについて所定の方向への水平移動のみを規制し、かつ、何れか一のエレベータピットについて規制していない方向への水平移動を、他の少なくとも一のエレベータピットについては規制するように配置されていることを特徴としている(請求項1)。
【0011】
上記免震建物において、前記免震層の隅部に配置された前記エレベータピットが一以上存在し、前記ストッパは、前記隅部に配置されたエレベータピットよりも前記免震層の外側に位置しないように配置されていてもよい(請求項2)。
【0012】
上記免震建物において、ストッパは、前記下方の構造部に一体化され前記免震層内に突出する突出部と、該突出部によってエレベータピットに向けて支持された衝撃吸収材とによって構成されていてもよい(請求項3)。
【発明の効果】
【0013】
本願発明では、水平方向における建物の過大な変位を、低コストで容易に抑制することができる免震建物が得られる。
【0014】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の免震建物では、各エレベータピットの全周にストッパを設けてエレベータピットを個別に拘束するのではなく、全ストッパによりトータルで各エレベータピットの全方向への移動規制を行うようにしているので、ストッパの構成の簡素化、省スペース化及び低コスト化を同時に図ることができる。
【0015】
その上、エレベータピット自体は、構造上、当然に構築されるものであり、従って、本発明を実施するには免震建物にストッパを余分に設けるだけでよく、故に本発明は低コストで容易に実施することができる。
【0016】
それでいて、免震建物の前後左右への過大な水平移動は、エレベータピット及びストッパの組合せからなる複数の反力負担構造によって確実に規制されることになる。
【0017】
しかも、複数の反力負担構造が免震層において分散配置されていることは、以下の点でも有利である。すなわち、捩れ変形の軸心となる建物の剛心から離れた位置にある反力負担構造ほど、捩れ変形に抗する大きなモーメントを発生させ得る(
図3参照)。そして、本発明では複数の反力負担構造が分散配置されているので、剛心がどこの位置にあろうとも、少なくとも一つの反力負担構造はその剛心から離れた位置にあることになり、従って、免震建物の過大な捩れ変形も複数の反力負担構造によって良好に規制することができ、ひいては捩れ変形量の低減によって免震クリアランスの低減化及び安全性確保の両立を図ることも可能となる。
【0018】
請求項2に係る発明の免震建物では、ストッパは、エレベータピットよりも免震層の外側に位置しないように配置され、故にストッパが免震層の外側にはみ出すことがないので、ストッパを構築するための別途の拡張工事等は不要であり、敷地面積の有効利用を図ることができる。
【0019】
請求項3に係る発明の免震建物では、以下の効果が得られる。すなわち、ストッパはエレベータピットよりも小幅であり、エレベータピットとストッパとは相対的に前後左右に水平移動することを前提とすると、仮に衝撃吸収材をエレベータピット側に設ける場合、衝撃吸収材がストッパと同幅であると、ストッパがエレベータピットにおける衝撃吸収材の設けられていない部位に衝突する可能性があり、これを避けるために衝撃吸収材をストッパよりも幅広にすれば衝撃吸収材が大型化するというデメリットを伴う。しかし、本発明では衝撃吸収材をストッパ側に設けるので、上記のような衝撃吸収材の大型化は不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る免震建物の免震層の概略図である。
【
図2】上記免震建物の要部の構成を概略的に示す縦断面図である。
【
図3】上記免震建物の反力負担構造の剛心からの距離と発生するモーメントの関係を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0022】
本実施の形態に係る免震建物では、
図2に示すように、免震層1を上下から挟む構造部2,3のうち、上方の構造部2に、免震層1内に突出するエレベータピット4が配置され、下方の構造部3には、エレベータピット4の所定距離以上の水平移動を規制するストッパ5が設けられている。
【0023】
尚、本実施形態の免震建物は、基礎と建物下端との間に免震層1を形成したいわゆる基礎免震、中間階に免震層1を形成したいわゆる中間階免震の何れであってもよい。従って、本実施形態に言う下方の構造部3とは、基礎免震の場合、基礎躯体を意味し、中間階免震の場合、中間階の免震層1より下階の躯体を意味することになる。
【0024】
そして、
図1に示すように、免震層1は、積層ゴム等からなる複数の免震装置(免震材料)Dを備えている。
【0025】
また、上方の構造部2には、複数のエレベータピット4が分散配置されるのであり、
図1に示すように、本実施形態では、平面視略矩形状の免震層1の四つの隅部にエレベータピット4が一つずつ配置されている。
【0026】
ストッパ5は、
図2に示すように、下方の構造部3に一体化され免震層1内に突出する突出部6と、突出部6によってエレベータピット4に向けて支持された衝撃吸収材7とによって構成されている。尚、衝撃吸収材7としては、例えば、市販の防舷材を用いることができる。
【0027】
そして、本実施形態では、計四つのエレベータピット4の各々に対して二つのストッパ5を設けてあり、エレベータピット4及びストッパ5のセットによって反力負担構造8が構成され、各反力負担構造8は、エレベータピット4の四側方(前後左右)のうち、建物の中央に近い二つの側方にのみストッパ5を具備する。
【0028】
具体的には、
図1の左上にある反力負担構造8Aのエレベータピット4はストッパ5によって右向き及び下向きの移動が規制され、左向き及び上向きの移動は規制されていない。これに対して、
図1の右下にある(反力負担構造8Aの対角にある)反力負担構造8Bのエレベータピット4はストッパ5によって左向き及び上向きの移動が規制され、右向き及び下向きの移動は規制されていない。
【0029】
また、
図1の左下にある反力負担構造8Cのエレベータピット4はストッパ5によって右向き及び上向きの移動が規制され、左向き及び下向きの移動は規制されていない。これに対して、
図1の右上にある(反力負担構造8Cの対角にある)反力負担構造8Dのエレベータピット4はストッパ5によって左向き及び下向きの移動が規制され、右向き及び上向きの移動は規制されていない。
【0030】
このように複数(本実施形態では計8個)設けられるストッパ5は、少なくとも一部のエレベータピット4(本実施形態では全てのエレベータピット4)について所定の方向への水平移動のみを規制し、かつ、何れか一のエレベータピット4について規制していない方向への水平移動を、他の少なくとも一のエレベータピット4については規制するように配置されている。
【0031】
従って、本実施形態では、各エレベータピット4の四方(全周)にストッパ5を設けてエレベータピット4を個別に拘束するのではなく、全ストッパ5によりトータルで各エレベータピット4の前後左右(全方向)への移動規制を行うようにしているので、ストッパ5の構成の簡素化、省スペース化及び低コスト化を同時に図ることができる。
【0032】
また、ストッパ5は、エレベータピット4よりも免震層1の外側に位置しないように配置され、故にストッパ5が免震層1の外側にはみ出すことがないので、ストッパ5を構築するための別途の拡張工事等は不要であり、敷地面積の有効利用を図ることができる。
【0033】
その上、エレベータピット4自体は、構造上、当然に構築されるものであり、従って、本実施形態を実施するにはストッパ5を余分に設けるだけでよく、故に本実施形態は低コストで容易に実施することができる。
【0034】
それでいて、免震建物の前後左右への過大な水平移動は、複数(本実施形態では四つ)の反力負担構造8によって確実に規制されることになる。
【0035】
しかも、複数の反力負担構造8が免震層1において分散配置されていることは、以下の点でも有利である。すなわち、
図3に示すように、捩れ変形の軸心となる建物の剛心Cから離れた位置にある反力負担構造8ほど、捩れ変形に抗する大きなモーメントを発生させ得る。そして、本実施形態では複数の反力負担構造8が分散配置されているので、剛心Cがどこの位置にあろうとも、少なくとも一つ(本実施形態では最低三つ)の反力負担構造8はその剛心Cから離れた位置にあることになり、従って、免震建物の過大な捩れ変形も複数の反力負担構造8によって良好に規制することができ、ひいては捩れ変形量の低減によって免震クリアランスの低減化及び安全性確保の両立を図ることも可能となる。
【0036】
また、本実施形態では、
図1に示すように、ストッパ5はエレベータピット4よりも小幅であり、エレベータピット4とストッパ5とは相対的に前後左右に水平移動することを前提としている。そのため、仮に衝撃吸収材7をエレベータピット4側に設ける場合、衝撃吸収材7がストッパ5と同幅であると、ストッパ5がエレベータピット4における衝撃吸収材7の設けられていない部位に衝突する可能性があり、これを避けるために衝撃吸収材7をストッパ5よりも幅広にすれば衝撃吸収材7が大型化するというデメリットを伴う。しかし、本実施形態では衝撃吸収材7をストッパ5側に設けるので、上記のような衝撃吸収材7の大型化は不要となる。但し、ストッパ5をエレベータピット4と同幅以上としてもよいことはいうまでもない。
【0037】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0038】
本発明は、免震建物の新築・改修の何れの場面にも適用することができる。
【0039】
各エレベータピット4は、免震層1の隅部に配置されているものに限らず、例えば免震層1の中央部に設けられていてもよい。但し、エレベータピット4及びストッパ5のセットからなる反力負担構造8は、免震建物の捩れ変形及び水平方向の変位の両方を抑制する上では、建物の剛心からなるべく離れた位置であって、かつ、他の反力負担構造8から水平面におけるX及びY方向になるべく離れた位置にあることが望ましい。従って、エレベータピット4が三つ以上ある場合は、それら全てに対してストッパ5を設ける必要はなく、上記の条件に当てはまる二以上のエレベータピット4だけを対象にしてストッパ5を設けるようにしてもよい。例えば、
図1に示す例の場合、左上の反力負担構造8Aと右下の反力負担構造8Bとのみを用いる、あるいは、左下の反力負担構造8Cと右上の反力負担構造8Dとのみを用いる、といったことが可能である。
【0040】
上記実施形態では、全てのエレベータピット4について所定の方向への水平移動のみを規制しているが、これに限らず、例えば、一部のエレベータピット4について、前後左右の方向(全方向)への水平移動を規制するようにしてもよい。
【0041】
ストッパ5を構成する衝撃吸収材7を、建物の外壁や擁壁の内周にも設けるようにしてもよい。
【0042】
なお、上記実施形態中やその後に述べた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0043】
1 免震層
2 上方の構造部
3 下方の構造部
4 エレベータピット
5 ストッパ
6 突出部
7 衝撃吸収材
8 反力負担構造(8A〜8D)
C 剛心
D 免震装置