【実施例】
【0063】
次に本発明に関連した実施例、および本発明の要旨を逸脱する比較例について説明する。
【0064】
【表1】
【0065】
なお表1において、下地処理とは、多孔質金属シート21に対する下地処理である。接着手段とは、多孔質金属シート21と外装フィルム11とを接着するために用いられる手段である。
【0066】
<実施例1>
外装体1を構成する外装フィルム11として、シーラント層が延伸ポリプロピレンからなり、中間層がアルミニウム箔からなり、外面層が6ナイロンからなる厚さ0.1mmの3層の積層体を準備した。この外装フィルム11のサイズは、長さ100mm、幅100mmである。
【0067】
安全弁2を構成する多孔質金属シート21として、電析法を用いて作製した多孔質ニッケル(Ni)シートを準備した。このシートは、厚さが0.05mm、長さが30mm、幅が30mmである。さらにこのシートは、直径1μmφの細孔が、100個/cm
2の密度で形成された多孔質のものである。
【0068】
ポリオレフィン系接着剤(PP接着剤)31として、東亜合成株式会社製のホットメルト接着剤「アロンメルト(商標)PPET−1600」と、ヘキサメチレンジイソシアナートとを100:1.5の組成で調合したものを準備した。
【0069】
そして、多孔質Niシート21の両面(外装フィルム11,11との接着面)に、PP接着剤31をヘラを用いて塗布した(
図4参照)。このときの塗布量は、2.2g/m
2とした。
【0070】
続いて
図1に示すように、多孔質Niシート21をその両側から2枚の外装フィルム11,11の外側縁部、つまり外周縁部の一辺部に挟み込まれるように、外装フィルム11,11を重ね合わせて配置する。
【0071】
さらにその状態で、重ね合わされた外装フィルム11,11の外周縁部をヒートシールによって溶着する一方、多孔質Niシート21をPP接着剤31を介して外装フィルム11,11のシーラント層に接着固定することにより、安全弁2(多孔質Niシート21)付きの外装体1を作製した。ヒートシールの条件は、温度を150℃〜200℃、圧力を0.1MPa〜0.3MPa、時間を2秒〜5秒とした。
【0072】
<初期接着性評価>
こうして得られた実施例1のサンプル(電池用外装体1)に対し、多孔質Niシート21と、外装フィルム11との間の層間接着強度(初期の層間接着強度)について評価した。
【0073】
すなわち実施例1のサンプルにおいて、多孔質Niシート21をPP接着剤31を介して外装フィルム11に接着した後、エージングを行わずに、多孔質Niシート21と外装フィルム11との接合部を切り取り、幅30mmのサンプル切出片を得た。
【0074】
この実施例1のサンプル切出片に対し、JIS K6854−2に準拠して、多孔質Niシート21と外装フィルム11との間の層間接着強度を測定した。その結果を表2に示す。なお、得られた結果は、15mm幅に換算した値(N/15mm)である。
【0075】
【表2】
【0076】
<封止性評価>
上記実施例1と同様に電池用外装体1を作製した。この場合、外装体1の内部に、電池本体(発電要素)である電解液が封入されるように、外装フィルム11,11の全周をヒートシールした。なお、外装体1の内部には、電解液として、1MのLiPF6溶液(EC:DEC=1:1)を5ml注入した。
【0077】
こうして得られた実施例1のサンプルに対し、60℃、湿度90%Rhの下で1週間保管した。この保管条件は、アレニウス加速に基づいて予測すると、20℃で4ヶ月間保管した場合に相当する。そして保管後に、液漏れが発生したか否かを観察した。その結果を表2に示す。
【0078】
<保管後接着性評価>
上記封止性評価の試験を行った後(上記と同様の条件で保管した後)、実施例1のサンプルに対し、上記の初期接着性評価と同様に、サンプル切出片を切り出して、上記と同様に、多孔質Niシート21と外装フィルム11との間の層間接着強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0079】
<実施例2>
実施例1と同様に、外装フィルム11および多孔質Niシート21とを接着した後、表1に示すように、PP接着剤31のエージングを行って、外装体1を作製し、実施例2のサンプルとした。エージングの条件は、圧力0.1MPa〜0.3MPa、温度30℃〜50℃、期間2日〜9日である。
【0080】
こうして得られた実施例2のサンプル(外装体1)に対し、上記実施例1と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0081】
<実施例3>
変性ポリオレフィン系フィルム32として、東亜合成株式会社製のホットメルト接着剤「アロンメルト(商標)PPET2102」のブロックを21cm×29cmの2枚のテフロン(登録商標)製の板(厚さ2mm)で挟み、190℃のホットプレスで1分間加熱溶融し、その後脱気し、3Mpaで加圧、冷却して得られた厚さ105μmの接着用フィルムを準備した。
【0082】
そして、安全弁2としての多孔質Niシート21の両面(外装フィルム11,11との接着面)に、変性ポリオレフィン系フィルム32を熱接着により溶着した(
図5参照)。この熱溶着の条件は、温度を150℃〜200℃、圧力を0.1MPa〜0.3MPa、時間を2〜5秒とした。
【0083】
こうして変性ポリオレフィン系フィルム32を溶着した多孔質Niシート21をその両側から2枚の外装フィルム11,11の周縁部(一辺)に挟み込まれるように、外装フィルム11,11を重ね合わせて配置する(
図2参照)。
【0084】
さらにその状態で、重ね合わされた外装フィルム11,11の全周をヒートシールによって溶着して、外装体1を作製し、実施例3のサンプルとした。ヒートシールの条件は上記実施例1と同様である。
【0085】
こうして得られた実施例3のサンプル(外装体1)に対し、上記実施例1と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0086】
<実施例4>
表1に示すように、上記実施例1と同様の多孔質Niシート21に対し、下地処理として、塗布型クロメート処理を行った。塗布型クロメート処理は、リン酸クロム(III )2%とキトサン系樹脂2%を分散した原液と、純水と、IPA(イソプロピルアルコール)とを1:2:0.5の組成で調合した液に、多孔質Niシート21を浸漬した後、引き上げて、150℃〜250℃、10秒〜10分の条件で乾燥を行うものである。
【0087】
この塗布型クロメート処理を行った多孔質Niシート21を用いて、上記実施例2と同様にして、外装体1を作製し、実施例4のサンプルとした。
【0088】
こうして得られた実施例4のサンプルに対し、上記実施例1と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0089】
<実施例5>
表1に示すように、上記と同様の多孔質Niシート21に対し、下地処理として塗布型クロメート処理を行った。その後、そのシート21に実施例3と同様に、変性ポリオレフィン系フィルム32を溶着した後、外装フィルム11,11を溶着して、外装体1を作製し、実施例5のサンプルとした。
【0090】
こうして得られた実施例5のサンプルに対し、上記と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0091】
<実施例6>
安全弁2を構成する多孔質金属シート21として、電析法を用いて作製した多孔質銅系合金(Cu系合金)シートを準備した。このシートは、厚さが0.05mm、長さが30
mm、幅が30mmである。さらにこのシートは、直径1μmφの細孔が、100個/cm
2の密度で形成された多孔質のものである。
【0092】
この多孔質Cu系合金シートを使用した以外は、上記実施例5と同様にして、外装体1を作製し、実施例8のサンプルとした。
【0093】
こうして得られた実施例8のサンプルに対し、上記と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0094】
<実施例7>
安全弁2を構成する多孔質金属シート21として、電析法を用いて作製した多孔質パラジウム系合金(Pd系合金)シートを準備した。このシートは、厚さが0.05mm、長さが30mm、幅が30mmである。さらにこのシートは、直径1μmφの細孔が、100個/cm
2の密度で形成された多孔質のものである。
【0095】
この多孔質Pd系合金シートを使用した以外は、上記実施例5と同様にして、外装体1を作製し、実施例9のサンプルとした。
【0096】
こうして得られた実施例9のサンプルに対し、上記と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0097】
<比較例1>
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
表3に示すように、多孔質Niシート21に対し下地処理を行わず、さらにPP接着剤や変性ポリオレフィン系フィルム等も用いずに、多孔質Niシート21と外装フィルム11とをヒートシールによって溶着して、比較例1のサンプル(外装体1)を作製した。換言すると、PP接着剤を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のサンプルを得た。なおヒートシールの条件や、多孔質Niシート21および外装フィルム11の構成は、上記実施例1と同様である。
【0101】
こうして得られた比較例1のサンプルに対し、上記と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表4に示す。
【0102】
<比較例2>
表3に示すように、多孔質Niシート21に対し下地処理として塗布型クロメート処理を行った以外は、上記比較例1と同様にして、外装体1を作製し、比較例2のサンプルとした。
【0103】
こうして得られた比較例2のサンプルに対し、上記と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表4に示す。
【0104】
<評価結果>
表2および表4から明らかなように、比較例1,2のサンプルに対し、実施例1〜7のサンプルは、良好な結果が得られた。
【0105】
特に実施例4に示すように多孔質金属シート21を、下地処理後に、エージングを伴うPP接着剤によって外装フィルム11に接着したサンプルや、実施例3,5,6,7に示すように多孔質金属シート21を外装フィルム11に変性ポリオレフィン系フィルムによって接着したサンプルは、多孔質金属シート21を外装フィルム11に接着した直後から十分な接着性(初期の層間強度)が得られ、さらに漏れの発生が一切なく封止性も良好であった。さらに保管後においても十分な接着性(保管後の層間強度)を得ることができ、長期間の使用によっても良好な接着性を維持できることを確認できた。
【0106】
また実施例2に示すように下地処理を行わずに、エージングを伴うPP接着剤によって接着したサンプルは、下地処理を行ったサンプル(実施例4,6等)よりも接着性や封止性が少し劣るものの、まずまずの評価を得ることができた。
【0107】
さらに実施例1に示すように、下地処理もエージングも行わずに、PP接着剤によって接着したサンプルは、保管試験において、つまり長期間経過した後に液漏れの発生が認められたものの、初期の段階では、液漏れはなく、短期間であれば使用できるものと考えられる。
【0108】
また初期と保管後の層間強度を比較した場合、実施例1では1/3程度まで層間強度が低下していた。さらに実施例2,3では層間強度の低下が1/2程度に抑えられていた。また下地処理を行った実施例4〜7では、層間強度の低下が少なかった。
【0109】
これに対し、比較例1,2に示すように、PP接着剤や変性ポリオレフィン系フィルムを使用しないサンプルでは、下地処理を行っても行わなくとも、多孔質金属シートを外装フィルムに十分に接着することができず、接着性(層間接着強度)の評価や、封止性の評価を行うことができなかった。