特許第5969368号(P5969368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969368
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】電気化学素子用外装体
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/12 20060101AFI20160804BHJP
   H01M 2/30 20060101ALI20160804BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20160804BHJP
   H01M 2/06 20060101ALI20160804BHJP
   H01M 2/08 20060101ALI20160804BHJP
   H01G 11/78 20130101ALI20160804BHJP
【FI】
   H01M2/12 101
   H01M2/30 D
   H01M2/02 K
   H01M2/06 K
   H01M2/08 K
   H01G11/78
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-263054(P2012-263054)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-110114(P2014-110114A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】昭和電工パッケージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】永田 健祐
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−250526(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/122294(WO,A1)
【文献】 特開平10−302756(JP,A)
【文献】 特開平11−312505(JP,A)
【文献】 特開2000−058026(JP,A)
【文献】 特開2008−198664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/12
H01M 2/30
H01M 2/02
H01M 2/06
H01M 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面側のシーラント層が高分子化合物によって構成された2枚の外装フィルムが互いのシーラント層を対向させた状態で積層されるとともに、その積層状の外装フィルムの外周縁部が封止されるようにしたラミネート型の電気化学素子用外装体であって、
多孔質金属シートによって構成される内圧上昇防止用の安全弁の一端側が内部に配置されるとともに、他端側が外部に配置されるようにして、前記安全弁が積層状の2枚の前記外装フィルムにおける対応する外側縁部間に介在された状態で、前記安全弁が前記外装フィルムのシーラント層に、高分子化合物を含む接着層を介して固定されていることを特徴とする電気化学素子用外装体。
【請求項2】
前記接着層がポリオレフィン系高分子化合物を含んでいる請求項1に記載の電気化学素子用外装体。
【請求項3】
前記安全弁としての多孔質金属シートが、多孔質ニッケルシートである請求項1または2に記載の電気化学素子用外装体。
【請求項4】
前記安全弁は、表面が化成処理された多孔質金属シートである請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気化学素子用外装体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された外装体を備え、
前記外装体に電気化学素子本体が収容されていることを特徴とする電気化学素子。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された外装体を備え、
前記外装体の内部に電池本体である発電要素が収容されていることを特徴とする電池。
【請求項7】
前記安全弁が、リード端子を兼用している請求項6に記載の電池。
【請求項8】
片面側のシーラント層が高分子化合物によって構成された2枚の外装フィルムを互いのシーラント層を対向させた状態で積層するとともに、その積層状の外装フィルムの外周縁部を封止するようにしたラミネート型の電気化学素子用外装体の製造方法であって、
多孔質金属シートによって構成される内圧上昇防止用の安全弁を準備する準備工程と、
前記安全弁の一端側が前記外装体の内部に配置されるとともに、他端側が前記外装体の外部に配置されるようにして、前記安全弁を積層状の2枚の前記外装フィルムにおける対応する外側縁部間に介在した状態で、前記安全弁を前記外装フィルムのシーラント層に、高分子化合物を含む接着層を介して固定する接着工程とを含むことを特徴とする電気化学素子用外装体の製造方法。
【請求項9】
前記接着工程を行う前に、前記安全弁としての多孔質金属シートの表面に化成処理を行うようにした請求項8に記載の電気化学素子用外装体の製造方法。
【請求項10】
前記接着層は、前記安全弁および前記外装フィルム間に塗布され、かつポリオレフィン系高分子化合物を含む接着剤によって構成されている請求項8または9に記載の電気化学素子用外装体の製造方法。
【請求項11】
前記接着工程は、前記接着剤をエージングするエージング工程を含んでいる請求項10に記載の電気化学素子用外装体の製造方法。
【請求項12】
前記接着層は、前記安全弁および前記外装フィルム間に配置され、かつポリオレフィン系高分子化合物を含む接着用フィルムによって構成されている請求項8または9に記載の電気化学素子用外装体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内部で発生したガスを外部に逃がすための内圧上昇防止用の安全弁が取り付けられているリチウムイオン電池や、リチウムイオンキャパシタ等のラミネート型の電気化学素子用外装体およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビデオカメラ、ノートパソコン、タブレットパソコン、携帯電話、多機能携帯電話等の電子機器においては、ポータブル化、小型軽量化の要望が強く、それに伴い、これらの電子機器の電源用の電池として用いられるリチウムイオン2次電池においても、小型軽量化、高性能化が強く求められている。
【0003】
また最近では、リチウムイオン2次電池を電気自動車やハイブリッド車の車載電源用に適用すべく、リチウムイオン2次電池の大型化も検討されている。
【0004】
リチウムイオン2次電池の中でも、アルミラミネートフィルムを使用したラミネート型の薄型電池は、重量やコストの面で優位性が高く、近年注目を集めている。
【0005】
ラミネート型のリチウムイオン2次電池は、重ね合わされた2枚の外装フィルムの外周縁部が封止された袋状の外装体を備え、その外装体の内部に発電要素としての電池本体が収容されている。このような電池は、過充電時や過昇温時に電池本体においてガスが発生し易く、そのガスが外装体の内部空間に充満していき外装体内部の内圧が上昇する場合がある。内圧が異常に高くなると、外装体が破裂(バースト)するに至って内部の収容物が飛散することが懸念されることから、このような外装体の破裂を防止する技術が提案されている。
【0006】
例えば特許文献1に示すリチウムイオン電池においては、外装体の周縁部の一部に、外装体内部で発生するガスを外部に逃がすための安全弁が設けられている。
【0007】
しかしながら、同文献の安全弁は構造が複雑であるため、電池自体の構造の複雑化を来すとともに、生産性の低下を来すおそれがある。
【0008】
一方、近年になって、特許文献2,3に示すように、ラミネート型と異なる箱封止型や缶封止型の電池において、多孔質金属シートを安全弁として利用する技術が提案されている。
【0009】
この電池は、外装容器の一部を、多孔質金属シートによって構成し、その多孔質金属シートを安全弁として機能させるものであり、電池内部に充満するガスを多孔質金属シートを介して外部に放出させて、内圧が異常に上昇するのを防止するようにしている。
【0010】
この電池に採用される安全弁としての多孔質金属シートは構造がシンプルであるため、この構成の安全弁を、上記特許文献1に示すラミネート型の電池に採用できれば、高性能かつ小型コンパクトな安全弁付きのラミネート型電池を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−265725号公報
【特許文献2】特開2004−221129号公報
【特許文献3】特開2003−217546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ラミネート型電池の外装体を構成する外装フィルムには、高分子化合物によって構成される難接着性のシーラント層が設けられているため、そのシーラント層に例えばヒートシールによって、安全弁としての多孔質金属シートを接着しただけでは、十分な接着強度を得ることができない。仮にそのシーラント層に多孔質金属シートをヒートシールによって接着した外装体の内部に、電池本体としての電解液を封入して電池を作製した場合には、長期間保管したり使用したりすると、多孔質金属シートおよびシーラント層間で層間剥離が発生するおそれがあり、これらの課題が実用化の妨げとなっている。
【0013】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、安全弁としての多孔質金属シートを十分な強度で取り付けることができるラミネート型の電池等の電気化学素子用外装体およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0015】
[1]片面側のシーラント層が高分子化合物によって構成された2枚の外装フィルムが互いのシーラント層を対向させた状態で積層されるとともに、その積層状の外装フィルムの外周縁部が封止されるようにしたラミネート型の電気化学素子用外装体であって、
多孔質金属シートによって構成される内圧上昇防止用の安全弁の一端側が内部に配置されるとともに、他端側が外部に配置されるようにして、前記安全弁が積層状の2枚の前記外装フィルムにおける対応する外側縁部間に介在された状態で、前記安全弁が前記外装フィルムのシーラント層に、高分子化合物を含む接着層を介して固定されていることを特徴とする電気化学素子用外装体。
【0016】
[2]前記接着層がポリオレフィン系高分子化合物を含んでいる前項1に記載の電気化学素子用外装体。
【0017】
[3]前記安全弁としての多孔質金属シートが、多孔質ニッケルシートである前項1または2に記載の電気化学素子用外装体。
【0018】
[4]前記安全弁は、表面が化成処理された多孔質金属シートである前項1〜3のいずれか1項に記載の電気化学素子用外装体。
【0019】
[5]前項1〜4のいずれか1項に記載された外装体を備え、
前記外装体に電気化学素子本体が収容されていることを特徴とする電気化学素子。
【0020】
[6]前項1〜4のいずれか1項に記載された外装体を備え、
前記外装体の内部に電池本体である発電要素が収容されていることを特徴とする電池。
【0021】
[7]前記安全弁が、リード端子を兼用している前項6に記載の電池。
【0022】
[8]片面側のシーラント層が高分子化合物によって構成された2枚の外装フィルムを互いのシーラント層を対向させた状態で積層するとともに、その積層状の外装フィルムの外周縁部を封止するようにしたラミネート型の電気化学素子用外装体の製造方法であって、
多孔質金属シートによって構成される内圧上昇防止用の安全弁を準備する準備工程と、
前記安全弁の一端側が前記外装体の内部に配置されるとともに、他端側が前記外装体の外部に配置されるようにして、前記安全弁を積層状の2枚の前記外装フィルムにおける対応する外側縁部間に介在した状態で、前記安全弁を前記外装フィルムのシーラント層に、高分子化合物を含む接着層を介して固定する接着工程とを含むことを特徴とする電気化学素子用外装体の製造方法。
【0023】
[9]前記接着工程を行う前に、前記安全弁としての多孔質金属シートの表面に化成処理を行うようにした前項8に記載の電気化学素子用外装体の製造方法。
【0024】
[10]前記接着層は、前記安全弁および前記外装フィルム間に塗布され、かつポリオレフィン系高分子化合物を含む接着剤によって構成されている前項8または9に記載の電気化学素子用外装体の製造方法。
【0025】
[11]前記接着工程は、前記接着剤をエージングするエージング工程を含んでいる前項10に記載の電気化学素子用外装体の製造方法。
【0026】
[12]
前記接着層は、前記安全弁および前記外装フィルム間に配置され、かつポリオレフィン系高分子化合物を含む接着用フィルムによって構成されている前項8または9に記載の電気化学素子用外装体の製造方法。
【0027】
なお本明細書において、「アルミニウム」の語は、アルミニウムおよびその合金を含む意味で用いる。
【発明の効果】
【0028】
発明[1]の電気化学素子用外装体によれば、安全弁としての多孔質金属シートを高分子化合物を含む接着層を介して外装フィルムのシーラント層に固定しているため、安全弁を十分な強度で取り付けることができる。
【0029】
発明[2]の電気化学素子用外装体によれば、より高い強度で多孔質金属シートを固定することができる。
【0030】
発明[3]の電気化学素子用外装体によれば、安全弁として多孔質ニッケルシートを使用しているため、内圧上昇時のガス抜きをより確実に行えて、防爆性をより一層高めることができる。
【0031】
発明[4]の電気化学素子用外装体によれば、より高い強度で多孔質金属シートを外装フィルムに固定することができる。
【0032】
発明[5]の電気化学素子によれば、上記と同様に、安全弁としての多孔質金属シートを外装フィルムに十分な強度で取り付けることができる。
【0033】
発明[6]の電池によれば、上記と同様に、安全弁としての多孔質金属シートを十分な強度で外装フィルムに取り付けることができる。
【0034】
発明[7]の電池によれば、安全弁をリード端子と兼用しているため、部品点数を削減できて、構造の簡素化および生産性の向上を図ることができる。
【0035】
発明[8]〜[12]の製造方法によれば、上記と同様に、安全弁としての多孔質金属シートが十分な強度で外装フィルムに取り付けられた電気化学素子用外装体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1はこの発明の実施形態である電池用外装体の一例を示す概略図である。
図2図2はこの発明の実施形態である電池用外装体の他の例を示す概略図である。
図3図3は実施形態の電池用外装体に適用された多孔質金属シートを示す概略図である。
図4図4は上記一例の電池用外装体の製造に用いられたPP接着剤付きの多孔質金属シートを示す概略図である。
図5図5は上記他の例の電池用外装体の製造に用いられたPPフィルム付きの多孔質金属シートを示す概略図である。
図6図6はこの発明の電池用外装体が適用された電池の一例を示す概略図である。
図7図7はこの発明の電池用外装体が適用された電池の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1および図2はこの発明の実施形態である電池用外装体1を示す概略図である。なお図1および図2においては、発明の理解を容易にするため、厚み方向の寸法割合を実際よりも厚く形成している(以下の図3図7においても同じ)。
【0038】
図1および図2に示すように、本実施形態の電池用外装体1は、リチウムイオン2次電池用の外装体として用いられるものである。この外装体1は、積層される2枚の外装フィルム(ラミネートフィルム)11,11を備えている。
【0039】
外装フィルム11は、例えば内面側(片面側)に配置されたシーラント層と、シーラント層上に積層された中間層と、中間層上に積層された外面層とを備えた3層の積層体によって構成されている。
【0040】
シーラント層は、熱接着性(熱可塑性)を有し、かつ金属塩および有機溶剤(エチレンカーボネートやジメチルカーボネート等)に侵食されないような化合物、例えば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエチレン系アイオノマー、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂等の高分子化合物からなるものを好適に用いることができる。
【0041】
または外面層は、電気絶縁性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルや、ナイロン等のポリアミドによって構成されるものを好適に用いることができる。この外面層は、機械的強度を有し、外面層およびシーラント層間に設けられる中間層を保護する役目を担っている。
【0042】
中間層は、金属箔、例えばアルミニウム箔、SUS箔によって構成されるものを好適に用いることができ、中でも特にアルミニウム箔によって構成されるものを用いるのが好ましい。この中間層によって、外部からの水分の浸入や内部からの電解液の蒸発が有効に防止されるようになっている。
【0043】
以上の構成の2枚の外装フィルム11,11が重ね合わされて(積層されて)、その周縁部がシートヒール(熱溶着)されて、袋状の外装体1を作製するものであるが、本実施形態においては、外周縁部の一部に安全弁2が取り付けられている。
【0044】
図3に示すように、本実施形態において、安全弁2としては、多数の微細孔が形成された多孔質金属シート21が用いられる。このシート21としては例えば、多孔質ニッケル(Ni)シート、多孔質ニッケル系合金シート、多孔質銅(Cu)シート、多孔質銅系合金シート、多孔質パラジウム(Pd)シートを好適に使用することができる。これらの中でも特に、めっき浴の安全性が高く、かつ加工性も良いという理由から、多孔質ニッケルシート、多孔質ニッケル系合金シートを用いるのが好ましい。
【0045】
また安全弁2としての多孔質金属シート21は、例えば電析法を用いて製作することができる。
【0046】
安全弁2として用いられる多孔質金属シート21は、その微細孔の孔径が0.1μm〜6μmのものを用いるのが好ましい。すなわち、孔径が大き過ぎる場合には、外装体1の内部に封入される電解液等の液漏れが発生するおそれがある。逆に孔径が小さ過ぎる場合には、外装体1の内圧上昇時におけるガスリーク性(ガス抜き性)が不十分となり、内圧上昇を確実に防止できないおそれがある。
【0047】
さらに安全弁2としての多孔質金属シート21は、厚みが15μm〜150μmのものを使用するのが好ましい。すなわち、厚みが厚過ぎる場合には、多孔質金属シート21と外装フィルム11との間を確実にシールすることが困難になるおそれがなる。逆に厚みが薄過ぎる場合には、安全弁2として十分な機械的強度を確保できないおそれがある。
【0048】
本実施形態においては、安全弁2としての多孔質金属シート21の表面に、クロメート処理等による化成処理を施しておくのが好ましい。すなわちこのクロメート処理によって多孔質金属シート21の表面の反応性を向上させることができ、多孔質金属シート21を、後述する接着層3を介して外装体1のシーラント層への接着強度を向上させることができる。
【0049】
なお、クロメート処理としては、実施例の欄で詳述するように、塗布型のクロメート処理を行うのが好ましい。
【0050】
本実施形態においては、積層状の外装フィルム11,11の外周縁部を熱溶着するのと並行して、安全弁2としての多孔質金属シート21を、外装フィルム11,11間に介在させて接着固定するものである。
【0051】
本実施形態において、多孔質金属シート21を外装フィルム11,11に接着固定する方法としては、接着剤31を用いる方法と、接着用(溶着用)フィルム32を用いる方法との2通りの方法を採用することができる。
【0052】
図4に示すように、接着剤31を用いる方法は、安全弁2としての多孔質金属シート21の両面における外装フィルム11,11との接着面に、予めペースト状態の接着剤31を塗布しておく。そして図1に示すように、その多孔質金属シート21をその両側から外装フィルム11,11の外周縁部の一部によって挟み込まれるようにして、外装フィルム11,11を重ね合わせて配置する。その状態で、重ね合わされた外装フィルム11,11の外周縁部のシーラント層同士をヒートシールによって溶着する一方、多孔質金属シート21に対し外装フィルム11,11を両側から挟圧して、多孔質金属シート21を接着剤31による接着層3を介して外装フィルム11,11のシーラント層にそれぞれ接着固定する。これにより図1に示すように、安全弁2としての多孔質金属シート21の一部分(一端側)が外部に配置されるとともに、他の部分(他端側)が内部に配置された状態で、外周縁部の全周がシールされた袋状の電池用外装体1が形成される。
【0053】
本実施形態において、接着剤31の塗布量は、1g/m〜5g/mに設定するのが好ましい。すなわち塗布量をこの範囲内に調整することによって、接着剤31を余分に使用せずに安定状態に確実に接着することができる。
【0054】
また本実施形態においては、接着剤31によって、多孔質金属シート21を外装フィルム11,11に接着する際には、接着剤31をエージング(養生硬化)させることによって、より一層安定状態に接着できて、より一層接着強度を向上させることができる。従って接着剤31を用いる場合には、エージング処理を行うのが好ましい。
【0055】
エージング条件としては、外装フィルム11,11により多孔質金属シート21を両側から挟持した状態で、挟持圧を0.1MPa〜10MPa、温度を30℃〜50℃、期間を2〜9日間に設定するのが好ましい。
【0056】
一方図5に示すように、接着用フィルム32を用いる方法は、安全弁2としての多孔質金属シート21の両面における外装フィルム11,11との接着面に、接着用フィルム32を熱溶着して取り付ける。その後図2に示すように、多孔質金属シート21をその両側から外装フィルム11,11の外周縁部の一部によって挟み込まれるようにして、外装フィルム11,11を重ね合わせて配置する。そしてその状態で、重ね合わされた外装フィルム11,11の外周縁部のシーラント層同士をヒートシールによって溶着すると同時に、多孔質金属シート21の接着用フィルム32とおよび外装フィルム11,11のシーラント層とを熱溶着して接着固定する。これにより、安全弁2としての多孔質金属シート21の一部分(一端側)が外部に配置されるとともに、他の部分(他端側)が内部に配置された状態で、外周縁部の全周がシールされた袋状の電池用外装体1が形成される。
【0057】
ここで、本実施形態において、接着剤31および接着用フィルム32としては、ウレタン系、酸変性ポリオレフィン系、スチレンエラストマー系、アクリル系、シリコーン系、エーテル系、エチレン−酢酸ビニル系、ポリプロプレン系のものを使用でき、中でも、接着性の観点から、アクリル系およびポリプロピレン系のものを使用するのが好ましく、特にポリプロピレン系のものを使用するのが、より一層好ましい。
【0058】
ところで、本実施形態の外装体1を電池として使用する場合には、内部に、電池本体としての電解液等の発電要素が封入されるとともに、外装体1の外部と内部とを電気的に繋ぐリード端子が設けられる。電解液の封入方法や手順は従来より周知の方法や手順を使用でき、リード端子の取付方法等も、従来より周知の方法を使用することができる。
【0059】
以上の構成の電池において、内圧が異常に上昇した場合には、内部のガスが、安全弁2を構成する多孔質金属シート21の微細孔を通って外部に放出されることにより、内圧が過度に上昇するのが防止されて、バーストの発生を確実に防止できて、封入物が飛散するような不具合を確実に防止することができる。
【0060】
また本実施形態の電池用外装体1によれば、安全弁2としての多孔質金属シート21を外装フィルム11,11によって挟み込んで接着するだけのものであるため、構造の簡素化を図ることができるとともに、簡単に製造できて、生産効率を向上させることができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、図6および図7に示すように、安全弁2,2である多孔質金属シート21,21を、タブリード等のリード端子4,4と兼用して使用することが可能である。この場合、2本のリード端子のうち、一方のみを、安全弁2と兼用させるようにしても良いし、双方共に、安全弁2と兼用させるようにしても良い。
【0062】
また、上記実施形態等では、外装体1の内部に、電気化学素子本体として電池本体を封入する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明の外装体には、電池本体以外の電気化学素子本体を封入することができる。例えば、本発明の外装体に、コンデンサ本体としての蓄電要素を封入することにより、本発明をラミネート型キャパシタ等のコンデンサ素子にも適用することができる。
【実施例】
【0063】
次に本発明に関連した実施例、および本発明の要旨を逸脱する比較例について説明する。
【0064】
【表1】
【0065】
なお表1において、下地処理とは、多孔質金属シート21に対する下地処理である。接着手段とは、多孔質金属シート21と外装フィルム11とを接着するために用いられる手段である。
【0066】
<実施例1>
外装体1を構成する外装フィルム11として、シーラント層が延伸ポリプロピレンからなり、中間層がアルミニウム箔からなり、外面層が6ナイロンからなる厚さ0.1mmの3層の積層体を準備した。この外装フィルム11のサイズは、長さ100mm、幅100mmである。
【0067】
安全弁2を構成する多孔質金属シート21として、電析法を用いて作製した多孔質ニッケル(Ni)シートを準備した。このシートは、厚さが0.05mm、長さが30mm、幅が30mmである。さらにこのシートは、直径1μmφの細孔が、100個/cmの密度で形成された多孔質のものである。
【0068】
ポリオレフィン系接着剤(PP接着剤)31として、東亜合成株式会社製のホットメルト接着剤「アロンメルト(商標)PPET−1600」と、ヘキサメチレンジイソシアナートとを100:1.5の組成で調合したものを準備した。
【0069】
そして、多孔質Niシート21の両面(外装フィルム11,11との接着面)に、PP接着剤31をヘラを用いて塗布した(図4参照)。このときの塗布量は、2.2g/mとした。
【0070】
続いて図1に示すように、多孔質Niシート21をその両側から2枚の外装フィルム11,11の外側縁部、つまり外周縁部の一辺部に挟み込まれるように、外装フィルム11,11を重ね合わせて配置する。
【0071】
さらにその状態で、重ね合わされた外装フィルム11,11の外周縁部をヒートシールによって溶着する一方、多孔質Niシート21をPP接着剤31を介して外装フィルム11,11のシーラント層に接着固定することにより、安全弁2(多孔質Niシート21)付きの外装体1を作製した。ヒートシールの条件は、温度を150℃〜200℃、圧力を0.1MPa〜0.3MPa、時間を2秒〜5秒とした。
【0072】
<初期接着性評価>
こうして得られた実施例1のサンプル(電池用外装体1)に対し、多孔質Niシート21と、外装フィルム11との間の層間接着強度(初期の層間接着強度)について評価した。
【0073】
すなわち実施例1のサンプルにおいて、多孔質Niシート21をPP接着剤31を介して外装フィルム11に接着した後、エージングを行わずに、多孔質Niシート21と外装フィルム11との接合部を切り取り、幅30mmのサンプル切出片を得た。
【0074】
この実施例1のサンプル切出片に対し、JIS K6854−2に準拠して、多孔質Niシート21と外装フィルム11との間の層間接着強度を測定した。その結果を表2に示す。なお、得られた結果は、15mm幅に換算した値(N/15mm)である。
【0075】
【表2】
【0076】
<封止性評価>
上記実施例1と同様に電池用外装体1を作製した。この場合、外装体1の内部に、電池本体(発電要素)である電解液が封入されるように、外装フィルム11,11の全周をヒートシールした。なお、外装体1の内部には、電解液として、1MのLiPF6溶液(EC:DEC=1:1)を5ml注入した。
【0077】
こうして得られた実施例1のサンプルに対し、60℃、湿度90%Rhの下で1週間保管した。この保管条件は、アレニウス加速に基づいて予測すると、20℃で4ヶ月間保管した場合に相当する。そして保管後に、液漏れが発生したか否かを観察した。その結果を表2に示す。
【0078】
<保管後接着性評価>
上記封止性評価の試験を行った後(上記と同様の条件で保管した後)、実施例1のサンプルに対し、上記の初期接着性評価と同様に、サンプル切出片を切り出して、上記と同様に、多孔質Niシート21と外装フィルム11との間の層間接着強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0079】
<実施例2>
実施例1と同様に、外装フィルム11および多孔質Niシート21とを接着した後、表1に示すように、PP接着剤31のエージングを行って、外装体1を作製し、実施例2のサンプルとした。エージングの条件は、圧力0.1MPa〜0.3MPa、温度30℃〜50℃、期間2日〜9日である。
【0080】
こうして得られた実施例2のサンプル(外装体1)に対し、上記実施例1と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0081】
<実施例3>
変性ポリオレフィン系フィルム32として、東亜合成株式会社製のホットメルト接着剤「アロンメルト(商標)PPET2102」のブロックを21cm×29cmの2枚のテフロン(登録商標)製の板(厚さ2mm)で挟み、190℃のホットプレスで1分間加熱溶融し、その後脱気し、3Mpaで加圧、冷却して得られた厚さ105μmの接着用フィルムを準備した。
【0082】
そして、安全弁2としての多孔質Niシート21の両面(外装フィルム11,11との接着面)に、変性ポリオレフィン系フィルム32を熱接着により溶着した(図5参照)。この熱溶着の条件は、温度を150℃〜200℃、圧力を0.1MPa〜0.3MPa、時間を2〜5秒とした。
【0083】
こうして変性ポリオレフィン系フィルム32を溶着した多孔質Niシート21をその両側から2枚の外装フィルム11,11の周縁部(一辺)に挟み込まれるように、外装フィルム11,11を重ね合わせて配置する(図2参照)。
【0084】
さらにその状態で、重ね合わされた外装フィルム11,11の全周をヒートシールによって溶着して、外装体1を作製し、実施例3のサンプルとした。ヒートシールの条件は上記実施例1と同様である。
【0085】
こうして得られた実施例3のサンプル(外装体1)に対し、上記実施例1と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0086】
<実施例4>
表1に示すように、上記実施例1と同様の多孔質Niシート21に対し、下地処理として、塗布型クロメート処理を行った。塗布型クロメート処理は、リン酸クロム(III )2%とキトサン系樹脂2%を分散した原液と、純水と、IPA(イソプロピルアルコール)とを1:2:0.5の組成で調合した液に、多孔質Niシート21を浸漬した後、引き上げて、150℃〜250℃、10秒〜10分の条件で乾燥を行うものである。
【0087】
この塗布型クロメート処理を行った多孔質Niシート21を用いて、上記実施例2と同様にして、外装体1を作製し、実施例4のサンプルとした。
【0088】
こうして得られた実施例4のサンプルに対し、上記実施例1と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0089】
<実施例5>
表1に示すように、上記と同様の多孔質Niシート21に対し、下地処理として塗布型クロメート処理を行った。その後、そのシート21に実施例3と同様に、変性ポリオレフィン系フィルム32を溶着した後、外装フィルム11,11を溶着して、外装体1を作製し、実施例5のサンプルとした。
【0090】
こうして得られた実施例5のサンプルに対し、上記と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0091】
<実施例6>
安全弁2を構成する多孔質金属シート21として、電析法を用いて作製した多孔質銅系合金(Cu系合金)シートを準備した。このシートは、厚さが0.05mm、長さが30 mm、幅が30mmである。さらにこのシートは、直径1μmφの細孔が、100個/cmの密度で形成された多孔質のものである。
【0092】
この多孔質Cu系合金シートを使用した以外は、上記実施例5と同様にして、外装体1を作製し、実施例8のサンプルとした。
【0093】
こうして得られた実施例8のサンプルに対し、上記と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0094】
<実施例7>
安全弁2を構成する多孔質金属シート21として、電析法を用いて作製した多孔質パラジウム系合金(Pd系合金)シートを準備した。このシートは、厚さが0.05mm、長さが30mm、幅が30mmである。さらにこのシートは、直径1μmφの細孔が、100個/cmの密度で形成された多孔質のものである。
【0095】
この多孔質Pd系合金シートを使用した以外は、上記実施例5と同様にして、外装体1を作製し、実施例9のサンプルとした。
【0096】
こうして得られた実施例9のサンプルに対し、上記と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0097】
<比較例1>
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
表3に示すように、多孔質Niシート21に対し下地処理を行わず、さらにPP接着剤や変性ポリオレフィン系フィルム等も用いずに、多孔質Niシート21と外装フィルム11とをヒートシールによって溶着して、比較例1のサンプル(外装体1)を作製した。換言すると、PP接着剤を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のサンプルを得た。なおヒートシールの条件や、多孔質Niシート21および外装フィルム11の構成は、上記実施例1と同様である。
【0101】
こうして得られた比較例1のサンプルに対し、上記と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表4に示す。
【0102】
<比較例2>
表3に示すように、多孔質Niシート21に対し下地処理として塗布型クロメート処理を行った以外は、上記比較例1と同様にして、外装体1を作製し、比較例2のサンプルとした。
【0103】
こうして得られた比較例2のサンプルに対し、上記と同様に、初期接着性、封止性および保管後接着性の各評価を行った。その結果を表4に示す。
【0104】
<評価結果>
表2および表4から明らかなように、比較例1,2のサンプルに対し、実施例1〜7のサンプルは、良好な結果が得られた。
【0105】
特に実施例4に示すように多孔質金属シート21を、下地処理後に、エージングを伴うPP接着剤によって外装フィルム11に接着したサンプルや、実施例3,5,6,7に示すように多孔質金属シート21を外装フィルム11に変性ポリオレフィン系フィルムによって接着したサンプルは、多孔質金属シート21を外装フィルム11に接着した直後から十分な接着性(初期の層間強度)が得られ、さらに漏れの発生が一切なく封止性も良好であった。さらに保管後においても十分な接着性(保管後の層間強度)を得ることができ、長期間の使用によっても良好な接着性を維持できることを確認できた。
【0106】
また実施例2に示すように下地処理を行わずに、エージングを伴うPP接着剤によって接着したサンプルは、下地処理を行ったサンプル(実施例4,6等)よりも接着性や封止性が少し劣るものの、まずまずの評価を得ることができた。
【0107】
さらに実施例1に示すように、下地処理もエージングも行わずに、PP接着剤によって接着したサンプルは、保管試験において、つまり長期間経過した後に液漏れの発生が認められたものの、初期の段階では、液漏れはなく、短期間であれば使用できるものと考えられる。
【0108】
また初期と保管後の層間強度を比較した場合、実施例1では1/3程度まで層間強度が低下していた。さらに実施例2,3では層間強度の低下が1/2程度に抑えられていた。また下地処理を行った実施例4〜7では、層間強度の低下が少なかった。
【0109】
これに対し、比較例1,2に示すように、PP接着剤や変性ポリオレフィン系フィルムを使用しないサンプルでは、下地処理を行っても行わなくとも、多孔質金属シートを外装フィルムに十分に接着することができず、接着性(層間接着強度)の評価や、封止性の評価を行うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
この発明の電気化学素子用外装体は、ラミネート型の電池や、ラミネート型のキャパシタに適用可能である。
【符号の説明】
【0111】
1:外装体
11:外装フィルム
2:安全弁
21:多孔質金属シート
3:接着層
31:接着剤
32:接着用フィルム
4:リード端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7