【実施例1】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0042】
α型窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製SN−E10グレード、酸素含有量1.0質量%)76.70質量%、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ株式会社製Eグレード、酸素含有量0.8質量%)18.94質量%、酸化アルミニウム(大明化学株式会社製TM−DARグレード)0.72質量%、酸化セリウム粉末(信越化学工業株式会社製Cタイプ)3.64質量%を窒化ケイ素製ポットとボールを使用し、溶媒としてエタノールを使用したボールミル混合を行った。溶媒を乾燥除去後、目開き75μmの篩を通過させ、凝集を取り除いた。
【0043】
上記混合粉末を窒素置換したグローブボックス内に搬入し、窒化カルシウム粉末(株式会社高純度化学研究所社製、純度99%)及び窒化リチウム粉末(株式会社高純度化学研究所社製、純度99%)と瑪瑙乳鉢により混合した。混合比は、前記混合粉末:窒化カルシウム粉末:窒化リチウム粉末=77.12:18.15:4.74質量%とした。得られた原料混合粉末を蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(電気化学工業株式会社製N−1グレード)に充填し、グローブボックスから取り出し、カーボンヒーターの電気炉に速やかにセットし、炉内を0.1Pa以下まで十分に真空排気した。真空排気したまま、加熱を開始し、600℃で窒素ガスを導入し、炉内雰囲気圧力を0.8MPaとした。ガス導入後もそのまま1800℃まで昇温し、1800℃で4時間の焼成を行った。
【0044】
冷却後、炉から回収した試料は、橙色の塊状物であった。この塊状物を目開き150μmの篩を全通するまで解砕し、得られた解砕物を最終的に目開き45μmの篩を通過させ、通過した粉末を最終生成物(蛍光体)とした。レーザー回折散乱法によりも求めた蛍光体の平均粒径は18μmであった。
【0045】
得られた蛍光体の組成分析は、次の様に行った。Ca、Li、Ce、Si及びAl含有量は、アルカリ融解法により、粉末を溶解させた後、ICP発光分光分析装置(株式会社リガク製CIROS−120)により測定した。また、酸素及び窒素含有量は、酸素窒素分析装置(堀場製作所製、EMGA−920)により測定した。この粉末の組成は、Ca:Li:Ce:Si:Al:O:N=8.08:3.18:0.34:28.1:8.38:2.31:49.6at%であった。これを前記一般式に当てはめると、x=0.64、y=0.15、Si/Al(モル比)=3.37、O/N(モル比)=0.047であった。Li含有量は、原料配合ベースで8.3at%であるのに対して、得られた蛍光体では3.2at%とかなり低い値となっている。
【0046】
この蛍光体に対して、X線回折装置(株式会社リガク社製UltimaIV)を用い、CuKα線を用いた粉末X線回折(XRD)を行った。得られたXRDパターンを
図1に示す。XRDパターンの解析から、斜方晶系(又は単斜晶系)で空間群Cmc21(又はP21)を持ち、格子定数a=0.9445nm、b=0.5591nm、c=0.4918nmの結晶を主相として、さらにαサイアロンを他の結晶相として含有していることが分かった。前記斜方晶結晶の最強線強度に対するαサイアロンの最強線強度は21%であった。
【0047】
<比較例1>
公知のCaAlSiN3蛍光体を目標に原料配合を行った。配合組成は、一般式(Ca
0.98Li
0.01Ce
0.01)SiAlN
3となるようにした。配合組成は各窒化物原料の酸素量は無視し、Ceは酸化物原料を使用し、窒化物換算で算出した。ここでのLi添加はCe3+の電荷補償を目的としたものである。実施例1と同様に大気中での予備混合、グローブボックス内での混合を実施した後、実施例1と同様の条件で焼成及び焼成物の処理を行った。
【0048】
比較例1のXRDパターンを
図1に示す。比較例1の回折パターンは実施例1と大きく異なり、公知のCaAlSiN
3結晶と同一の回折パターンを有していることが分かった。XRDパターンの解析から、結晶系、空間群は実施例1と同じ斜方晶系、Cmc21で同一の結晶構造であることが分かった。また、比較例1の蛍光体ではCaAlSiN
3結晶以外に明確な結晶相は認められなかった。格子定数は、a=0.9789nm、b=0.5659nm、c=0.5063nmであった。
【0049】
比較例1の蛍光体の化学組成を実施例1と同じ方法により測定した結果、組成はCa:Li:Ce:Si:Al:O:N=16.1:0.03:0.16:17:17.2:1.28:48.3at%であった。これを一般式に当てはめるとx=0.95、y=0.10、Si/Al=0.99、O/N=0.03であった。XRDでは、CaAlSiN3結晶単一相ではあるが、原料由来の酸素の混入や焼成過程での一部成分の揮発等により若干の組成ずれが起こり、x=y=1、Si/Al=1、O/N=0から若干外れていた。
【0050】
次に、分光蛍光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製F7000)を用いて、励起・蛍光スペクトル測定を行った。蛍光スペクトルの励起波長は、455nmとし、励起スペクトルのモニター波長は455nm励起の蛍光スペクトルのピーク波長とした。結果を
図2に示す。図中、縦軸は相対発光強度である。蛍光ピーク強度は測定装置や条件によって変化するため、その単位は任意単位であり、同一条件で測定した本実施例及び比較例で対比を行った。
【0051】
図2に示すように、蛍光体は、いずれも紫外〜緑色光の幅広い波長で励起され、実施例1はピーク波長が590nm、主波長が581nm、半値幅が132nmの蛍光スペクトルを、比較例1はピーク波長が580nm、主波長が581nm、半値幅が124nmの蛍光スペクトルを示した。また、波長470〜780nmの範囲での蛍光積分強度は比較例1を100%とした場合、実施例1は126%であった。実施例1の蛍光体は、単純なCaAlSiN
3:Ce(比較例1)に比べ、高い蛍光強度を示した。
【0052】
実施例1及び比較例1の蛍光体の30〜200℃の温度範囲での蛍光温度特性を大塚電子株式会社製の蛍光温度特性評価装置を用いて測定した。蛍光ピーク強度の温度依存性を
図3に示す。
図3には、リファレンスとして、YAG蛍光体(P46Y3)及び比較例1と同様の方法により合成した(Ca
0.99Eu
0.01)AlSiN
3赤色蛍光体のデータも併せて示す。比較例1のCaAlSiN
3:Ce蛍光体の温度特性は、YAG蛍光体のそれよりも優れるものの、CaAlSiN
3:Eu蛍光体のそれに比べ劣っている。実施例1は、比較例1に比べ、温度特性に優れ、CaAlSiN
3:Eu蛍光体に近い。
【0053】
<実施例2〜6、比較例2〜6>
実施例1と同様の原料粉末を用い、表1に示す全配合組成とし、実施例1と全く同じ処理により実施例2〜6及び比較例2〜6の蛍光体を得た。評価結果を実施例1及び比較例1の結果と合わせて表2、表3に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
<実施例7、比較例7>
実施例1と全く同じ原料粉末、原料配合で、実施例1と全く同じ処理を行い、実施例7、比較例7の蛍光体を得た。但し、実施例7は、焼成温度を1900℃、比較例7では2000℃とした。評価結果を実施例1の結果と合わせて表4(組成)、表5(物性)に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
同じ原料を使用しても、焼成温度が高くなるとともに、Li量が減少し、x値が低くなり、目的とする結晶構造が維持しがたく、第二相の量が大幅に増加し、蛍光特性低下が大幅に低下した。
【0061】
<実施例8>
実施例1の蛍光体をシリコーン樹脂に添加し、脱泡・混練後、ピーク波長450nmの青色LED素子を接合した表面実装タイプのパッケージにポッティングし、更にそれを熱硬化させることにより白色LEDを作製した。この白色LEDの色度は、シリコーン樹脂への蛍光体の添加量により、JIS Z9112の光源色区分で電球色の範囲内となるように制御した。
【0062】
<比較例8>
比較例1の蛍光体を使用し、実施例6と同様に電球色LEDを作製した。
【0063】
<比較例9>
CaCO
3−Si
3N
4−AlN−Eu
2O
3原料系を焼成し、得られた焼成物を解砕、篩分級することにより、平均粒径が18μmのCa−α−サイアロン:Eu黄色蛍光体を作製した。実施例1と同様に励起波長455nmで蛍光特性を評価したところ、ピーク波長が588nm、主波長が581nm、半値幅が90nmで蛍光積分強度が100%であった。このα型サイアロン蛍光体を使用し、実施例6と同様に電球色LEDを作製した。
【0064】
実施例8及び比較例8、9で作製した電球色LEDの同一条件下での発光特性を大塚電子社製発光スペクトル測定装置(MCPD7000)で測定した。測定は複数個のLEDに対して実施し、光度、色度、平均演色評価数を求めた。測定は、複数個のLEDに対して行い、相関色温度2800〜2900Kで偏差(Δuv)が±0.01の範囲にある少なくとも5個のデータを平均化し対比した。光度は実施例6を100%とした相対値で対比した。
【0065】
相対光度は、実施例8が100%、比較例8が89%、比較例9が92%で、平均演色評価数(Ra)は、実施例8が78、比較例8が75、比較例9が59であった。
【0066】
実施例8の電球色LEDは、比較例8に比べ、相対光度が高く、若干演色性が高くなった。比較例9に比べ、蛍光体の蛍光スペクトル幅が広いことから、演色性が高くなった。