特許第5969391号(P5969391)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969391
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】蛍光体、発光装置及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   C09K11/64CQD
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-544270(P2012-544270)
(86)(22)【出願日】2011年11月16日
(86)【国際出願番号】JP2011076352
(87)【国際公開番号】WO2012067130
(87)【国際公開日】20120524
【審査請求日】2014年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2010-255561(P2010-255561)
(32)【優先日】2010年11月16日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】江本 秀幸
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/110457(WO,A1)
【文献】 特開2007−231245(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/015207(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/120216(WO,A1)
【文献】 Y.Q.Li et al,Yellow-Orange-Emitting CaAlSiN3:Ce3+ Phosphor: Structure, Photoluminescence, and Application in Whit,Chemistry of Materials,2008年10月21日,vol.21 No.20,6704-6714
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式M(Si,Al)(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0.06≦y≦0.23)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であって、Si/Al原子比が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比が0以上0.1以下であり、Mの5〜50mol%がLiであり、Mの0.5〜10mol%がCeである蛍光体。
【請求項2】
Mの0.5〜5mol%がCeである請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
アルカリ土類金属元素がCaである請求項1又は2記載の蛍光体。
【請求項4】
結晶構造が斜方晶系であり、格子定数aが0.935〜0.965nm、格子定数bが0.550〜0.570nm、格子定数cが0.480〜0.500nmの結晶を含む請求項1乃至3のいずれか一項記載の蛍光体。
【請求項5】
前記結晶と他の結晶相からなり、粉末X線回折法で評価した際の前記結晶の最強線回折強度に対する他の結晶相の最強線回折強度が40%以下である請求項4記載の蛍光体。
【請求項6】
他の結晶相が、α−サイアロン、AlN又はLiSiである請求項5記載の蛍光体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項記載の蛍光体と、発光光源とを有する発光装置。
【請求項8】
発光光源が紫外線又は可視光を発光する請求項7記載の発光装置。
【請求項9】
請求項7又は8記載の発光装置を有する画像表示装置。
【請求項10】
請求項7又は8記載の発光装置を有する照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橙〜赤色を発光する蛍光体及びそれを用いた発光装置、画像表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、白色LEDの赤色成分を補うために、YAG蛍光体とともに、橙〜赤色の窒化物及び酸窒化物蛍光体を併用した発光装置が開示されている。特許文献2、3には、橙〜赤色発光する代表的な蛍光体としては、Eu2+を付活した(Ca,Sr)(Si,Al)や(Ca,Sr)AlSiNがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−071726号公報(段落0037)
【特許文献2】特開2004−244560号公報(段落0056)
【特許文献3】特開2010−153746号公報(段落0012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
白色LEDの演色性改善を目的に、青色LEDとYAGに代表される緑〜黄色蛍光体と、窒化物、酸窒化物からなる橙〜赤色蛍光体の組み合わせでは、窒化物・酸窒化物蛍光体の励起帯は黄色領域にまで及んでいるために、緑〜黄色の蛍光発光の一部が窒化物系蛍光体の励起源となってしまう。このため、蛍光体単体の特性に比べ、複数の蛍光体を組み合わせた発光デバイスの光度が低くなるという問題がある。特に、赤系蛍光体の使用比率が高い色温度の低い光源でその影響は顕著となる。
【0005】
Eu2+を付活したα型サイアロン蛍光体やCe3+を付活したCaAlSiN蛍光体は青色LEDとの組み合わせにより、単独で電球色等の色温度の低い光源が得られるが、α型サイアロン蛍光体は、YAG蛍光体に比べ、蛍光スペクトルの幅がかなり狭いために演色性が低いという欠点があり、CaAlSiN蛍光体は発光効率が低く、十分な輝度が得られていないという欠点があった。
【0006】
本発明の目的は、橙色を発光する蛍光体及び当該蛍光体を用いた発光装置、画像表示装置及び照明装置を提供することにあり、青色LEDとの組み合わせにより、単独に近い形で色温度の低い白色光が得られ、且つ高演色性に有利なブロードな蛍光スペクトルを有しており、発光効率が高く、従来の窒化物系蛍光体の特徴である熱的・化学的安定性を有し、高温での輝度低下の小さい蛍光体及びそれを用いた装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、各種の窒化物及び酸窒化物蛍光体を鋭意検討した結果、特定の化学組成を有する結晶相を含有する蛍光体が、上記課題を解決する優れた蛍光体であることを見いだし、本発明に至ったものである。
【0008】
本発明は一般式M(Si,Al)(N,O)3±y(ただし、MはLi及び一種以上のアルカリ土類金属元素であり、0.52≦x≦0.9、0≦y≦0.3)で示され、Mの一部がCe元素で置換されている蛍光体であって、Si/Al原子比(モル比)が1.5以上6以下であり、かつO/N原子比(モル比)が0以上0.1以下であり、Mの5〜50mol%がLiであり、Mの0.5〜10mol%がCeである蛍光体である。
【0009】
前記Mの0.5〜5mol%はCeであるのが好ましい。
【0010】
前記アルカリ土類金属元素はCaであるのが好ましい。
【0011】
上述の蛍光体が、結晶構造として斜方晶系を採用し、格子定数aが0.935〜0.965nm、格子定数bが0.550〜0.570nm、格子定数cが0.480〜0.500nmの結晶を含むのが好ましい。
【0012】
上述の蛍光体が、結晶構造として斜方晶系を有し、格子定数aが0.935〜0.965nm、格子定数bが0.550〜0.570nm、格子定数cが0.480〜0.500nmの結晶と、他の結晶相からなり、格子定数を特定した結晶の粉末X線回折法で評価した最強線回折強度に対する他の結晶相の最強線回折強度が40%以下であるのが好ましい。
【0013】
他の結晶相が、α−サイアロン、AlN又はLiSiであるのが好ましい。
【0014】
他の観点からの発明は、上述の蛍光体と発光光源とを有する発光装置である。
【0015】
他の観点からの発明は、前述の発光光源が紫外線又は可視光を発光する発光装置である。
【0016】
他の観点からの発明は、前述の発光装置を有する画像表示装置である。
【0017】
他の観点からの発明は、前述の発光装置を有する照明装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の蛍光体は、従来に比べ、高輝度且つブロードなスペクトルを有する酸窒化物橙色蛍光体であり、発光効率が高く、熱的・化学的安定性に優れ、高温での輝度低下が少なく、紫外〜可視光域の光を励起源とする発光装置に好適に使用される。本発明の発光装置、画像表示装置及び照明装置は、上述の蛍光体を用いているので、高輝度化されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1及び比較例1の蛍光体のX線回折パターンを示す図である。
図2】実施例1及び比較例1の蛍光体の励起・蛍光スペクトルを示す図である。
図3】実施例1、比較例1及びYAG蛍光体、CaAlSiN:Eu蛍光体の室温における発光強度に対する、各温度における相対発光強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の蛍光体は、一般式M(Si,Al)(N,O)3±yで示される酸窒化物蛍光体である。この材料の骨格構造は、(Si,Al)−(N,O)正四面体が結合することにより構成されており、その間隙にM元素が位置するものである。この組成は、M元素の価数と量、Si/Al比、N/O比のパラメータの全体により電気的中性が保たれる幅広い範囲で成立する。この一般式で示される代表的な蛍光体として、M元素がCaでx=1、更にSi/Al=1、O/N=0となるCaAlSiNがある。CaAlSiNのCaの一部がEuで置換された場合には赤色蛍光体に、Ceで置換された場合には橙色蛍光体になる。赤色蛍光体は発光効率が非常に高く実用化が進んでいるが、同じホスト結晶でもCeを固溶させた場合は、Euほど高い発光効率が得られていない。
【0021】
本発明の蛍光体はCaAlSiN結晶をベースとしたものであるが、その特徴はCe付活でも非常に高い発光効率が得られるように構成元素、組成を大きく変えた点である。本発明の蛍光体は前記一般式において、M元素がLi元素とアルカリ土類金属元素の組み合わせであり、その一部が発光中心となるCe元素で置換されている。Li元素を用いることにより、二価のアルカリ土類元素及び三価のCe元素との組み合わせにより、M元素の平均価数を幅広く制御できる。また、Liはイオン半径が非常に小さく、その量により結晶サイズを大きく変化させることができ、多様な蛍光発光が得られる。前記一般式におけるM元素の係数xは、0.52〜0.9の範囲にあることが好ましい。係数xが0.9を越える、つまりCaAlSiN3結晶に近づくと蛍光強度が低下する傾向にあり、係数xが0.52よりも低いと、目的とする結晶相以外の異相が多量に生成するために蛍光強度が著しく低下する。
【0022】
本発明の蛍光体を構成する結晶では、M元素の平均価数や量及びSi/Al比、O/N比により電気的中性が保たれ、単一結晶で欠陥等がない場合には、y=0となる。しかしながら、蛍光体全体の組成を考えた場合、第二結晶相や非晶質相が存在したり、結晶自体を考えた場合にも結晶欠陥により電荷バランスが崩れたりする。本発明では、目的の結晶相を高め、蛍光強度を高くするという観点から、yは0以上0.3以下とすることが好ましい。
【0023】
本発明の蛍光体の好ましいO/N原子比(モル比)は、あまりに大きいと異相生成量が増大し、発光効率が低下するとともに、結晶の共有結合性が低下し、温度特性の悪化(高温での輝度低下)を引き起こす傾向にあり、あまりに小さいと窒化物に近くなって発光効率が高い傾向にあるが、原料に由来して必然的に酸素が結晶内に固溶してしまうため、0以上0.1以下でなければならない。
【0024】
Si/Al原子比(モル比)に関しては、前記M元素の平均価数や量及びO/N原子比を所定の範囲とすると必然的に決められ、その範囲は1.5以上6以下である。
【0025】
本発明の蛍光体のLi含有量は、M元素の5〜50mol%であることが好ましい。Liの効果は5mol%以上で発揮されやすいが、50mol%を越えると目的とする蛍光体の結晶構造が維持できず異相を生成してしまい、発光効率が低下しやすい。ここでのLi含有量とは最終的に得られる蛍光体に含まれる値であり、原料配合ベースではない。なぜならば、原料に使用するLi化合物は蒸気圧が高く揮発しやすく、高温で窒化物・酸窒化物を合成しようとした場合、相当量が揮発するためである。つまり、原料配合ベースのLi量は最終生成物中の含有量とは大きく乖離しているので、蛍光体中のLi含有量を意味しない。
【0026】
本発明の蛍光体の発光中心であるCe含有量は、あまりに少ないと発光への寄与が小さくなる傾向にあり、あまりに多いとCe3+間のエネルギー伝達による蛍光体の濃度消光が起こる傾向にあるため、M元素の0.5〜5mol%であることが好ましい。
【0027】
本発明の蛍光体のM元素として用いられるアルカリ土類金属元素は、いずれの元素でも構わないが、Caを用いた場合に、高い蛍光強度が得られ、幅広い組成範囲で結晶構造が安定であるため、Caであることが好ましい。複数のアルカリ土類金属元素の組み合わせ、例えばCa元素の一部をSr元素に置き換えることも良い。
【0028】
本発明の結晶構造は、斜方晶系で前記したCaAlSiN結晶と同一の構造であってよい。CaAlSiN結晶の格子定数は、a=0.98007nm、b=0.56497nm、c=0.50627nmである。本発明の蛍光体の格子定数は、a=0.935〜0.965nm、b=0.550〜0.570nm、c=0.480〜0.500nmであり、CaAlSiN結晶に比べ、いずれも小さい値となっている。この格子定数の範囲は、前述した構成元素及び組成を反映したものであり、この範囲を外れると蛍光強度が低下してしまいやすく、好ましくない。
【0029】
蛍光体中に存在する結晶相は、前記結晶単相が好ましいが、蛍光特性に大きい影響がない限り、異相を含んでいても構わない。蛍光特性への影響が低い異相としては、αサイアロン、AlN、LiSiなどが挙げられる。異相の量は、粉末X線回折法で評価した際の前記結晶相の最強回折線強度に対する他の結晶相の回折線強度が40%以下であるような量であることが好ましい。
【0030】
上記構成要件を有する本発明の蛍光体は、紫外〜可視光の幅広い波長域の光で励起され、例えば波長450nmの青色光を照射した場合に、主波長が570〜590nmの橙色で、蛍光スペクトルの半値幅が125nm以上のブロードな蛍光発光を示してよく、幅広い発光装置用蛍光体として好適である。また、本発明の蛍光体は、CaAlSiNを代表とする従来の窒化物・酸窒化物系蛍光体と同様に耐熱性、耐化学的安定性に優れ、また温度上昇による輝度低下が小さいという特徴も併せもっており、特に耐久性が要求される用途に好適である。
【0031】
この様な本発明の蛍光体の製造方法は特に規定されないが、例えば、金属化合物の混合物であって、焼成することにより、前記一般式で表される組成物を構成しうる原料混合物を窒素雰囲気中において所定の温度範囲で焼成する方法をここでは例示する。
【0032】
原料粉末としては、構成元素の窒化物、即ち窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化リチウム、窒化セリウム及びアルカリ土類元素の窒化物が好適に使用される。一般的に、窒化物粉末は空気中では不安定であり、粒子表面が酸化物層で覆われており、窒化物原料を使用した場合でも、結果的に、ある程度の酸化物が原料に含まれている。蛍光体のO/N比を制御する場合、これらを考慮するとともに、酸素が不足する場合は、窒化物の一部を酸化物(加熱処理により酸化物になる化合物を含む)とする。
【0033】
原料粉末のうち、リチウム化合物は加熱による揮発が顕著であり、焼成条件によってはほとんどが揮発してしまうことがある。そこで、リチウム化合物の配合量は、焼成条件に応じて、焼成過程の揮発量を考慮して決める必要がある。
【0034】
窒化物原料粉末のうち、窒化リチウム、窒化セリウム、アルカリ土類元素の窒化物は、空気中の水分及び酸素と激しく反応するため、それらの取り扱いは不活性雰囲気で置換されたグローブボックス内で行う。空気中で取り扱い可能な窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び各種酸化物原料粉末を所定量秤量し、予め空気中で十分に混合し、これらをグローブボックス内に搬入し、前記窒化物原料と十分に混合を行い、混合粉末を焼成容器に充填する。
【0035】
焼成容器は、高温の窒素雰囲気下において安定で、原料粉末及びその反応生成物と反応しない材質で構成されることが好ましく、窒化ホウ素製が好適に使用される。
【0036】
グローブボックスから、原料混合粉末を充填した窒化ホウ素製焼成容器を取り出し、速やかに焼成炉にセットし、窒素雰囲気中、1600〜2000℃で焼成する。焼成温度が1600℃よりも低いと、未反応物残存量が多くなり、2000℃を越えると、リチウム元素の著しい揮発により目的とする結晶構造が維持できなくなるので好ましくない。
【0037】
焼成時間は、未反応物が多く存在したり、リチウムの揮発量が著しかったりという不都合が生じない時間範囲が選択され、2〜24時間程度であることが好ましい。
【0038】
焼成雰囲気の圧力は、焼成温度に応じて選択される。本発明の蛍光体は、約1800℃までの温度では大気圧で安定して存在することができるが、これ以上の温度では蛍光体の分解を抑制するために加圧雰囲気におく必要がある。雰囲気圧力は、高いほど、蛍光体の分解温度が高くなるが、工業的生産性を考慮すると1MPa未満とすることが好ましい。
【0039】
焼成物の状態は、原料配合や焼成条件によって、粉体状、塊状、焼結体と様々である。蛍光体として使用する場合には、解砕、粉砕及び/又は分級操作を組み合わせて、焼成物を所定のサイズの粉末にする。LED用蛍光体として好適に使用する場合には、焼成物の平均粒径を6〜30μmとなる様に調整することが好ましい。
【0040】
蛍光体の製造にあっては、不純物を除去する目的の酸洗浄工程、結晶性を向上する目的のアニール処理工程を更に行うのが好ましい。
【実施例1】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0042】
α型窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製SN−E10グレード、酸素含有量1.0質量%)76.70質量%、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ株式会社製Eグレード、酸素含有量0.8質量%)18.94質量%、酸化アルミニウム(大明化学株式会社製TM−DARグレード)0.72質量%、酸化セリウム粉末(信越化学工業株式会社製Cタイプ)3.64質量%を窒化ケイ素製ポットとボールを使用し、溶媒としてエタノールを使用したボールミル混合を行った。溶媒を乾燥除去後、目開き75μmの篩を通過させ、凝集を取り除いた。
【0043】
上記混合粉末を窒素置換したグローブボックス内に搬入し、窒化カルシウム粉末(株式会社高純度化学研究所社製、純度99%)及び窒化リチウム粉末(株式会社高純度化学研究所社製、純度99%)と瑪瑙乳鉢により混合した。混合比は、前記混合粉末:窒化カルシウム粉末:窒化リチウム粉末=77.12:18.15:4.74質量%とした。得られた原料混合粉末を蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(電気化学工業株式会社製N−1グレード)に充填し、グローブボックスから取り出し、カーボンヒーターの電気炉に速やかにセットし、炉内を0.1Pa以下まで十分に真空排気した。真空排気したまま、加熱を開始し、600℃で窒素ガスを導入し、炉内雰囲気圧力を0.8MPaとした。ガス導入後もそのまま1800℃まで昇温し、1800℃で4時間の焼成を行った。
【0044】
冷却後、炉から回収した試料は、橙色の塊状物であった。この塊状物を目開き150μmの篩を全通するまで解砕し、得られた解砕物を最終的に目開き45μmの篩を通過させ、通過した粉末を最終生成物(蛍光体)とした。レーザー回折散乱法によりも求めた蛍光体の平均粒径は18μmであった。
【0045】
得られた蛍光体の組成分析は、次の様に行った。Ca、Li、Ce、Si及びAl含有量は、アルカリ融解法により、粉末を溶解させた後、ICP発光分光分析装置(株式会社リガク製CIROS−120)により測定した。また、酸素及び窒素含有量は、酸素窒素分析装置(堀場製作所製、EMGA−920)により測定した。この粉末の組成は、Ca:Li:Ce:Si:Al:O:N=8.08:3.18:0.34:28.1:8.38:2.31:49.6at%であった。これを前記一般式に当てはめると、x=0.64、y=0.15、Si/Al(モル比)=3.37、O/N(モル比)=0.047であった。Li含有量は、原料配合ベースで8.3at%であるのに対して、得られた蛍光体では3.2at%とかなり低い値となっている。
【0046】
この蛍光体に対して、X線回折装置(株式会社リガク社製UltimaIV)を用い、CuKα線を用いた粉末X線回折(XRD)を行った。得られたXRDパターンを図1に示す。XRDパターンの解析から、斜方晶系(又は単斜晶系)で空間群Cmc21(又はP21)を持ち、格子定数a=0.9445nm、b=0.5591nm、c=0.4918nmの結晶を主相として、さらにαサイアロンを他の結晶相として含有していることが分かった。前記斜方晶結晶の最強線強度に対するαサイアロンの最強線強度は21%であった。
【0047】
<比較例1>
公知のCaAlSiN3蛍光体を目標に原料配合を行った。配合組成は、一般式(Ca0.98Li0.01Ce0.01)SiAlNとなるようにした。配合組成は各窒化物原料の酸素量は無視し、Ceは酸化物原料を使用し、窒化物換算で算出した。ここでのLi添加はCe3+の電荷補償を目的としたものである。実施例1と同様に大気中での予備混合、グローブボックス内での混合を実施した後、実施例1と同様の条件で焼成及び焼成物の処理を行った。
【0048】
比較例1のXRDパターンを図1に示す。比較例1の回折パターンは実施例1と大きく異なり、公知のCaAlSiN結晶と同一の回折パターンを有していることが分かった。XRDパターンの解析から、結晶系、空間群は実施例1と同じ斜方晶系、Cmc21で同一の結晶構造であることが分かった。また、比較例1の蛍光体ではCaAlSiN結晶以外に明確な結晶相は認められなかった。格子定数は、a=0.9789nm、b=0.5659nm、c=0.5063nmであった。
【0049】
比較例1の蛍光体の化学組成を実施例1と同じ方法により測定した結果、組成はCa:Li:Ce:Si:Al:O:N=16.1:0.03:0.16:17:17.2:1.28:48.3at%であった。これを一般式に当てはめるとx=0.95、y=0.10、Si/Al=0.99、O/N=0.03であった。XRDでは、CaAlSiN3結晶単一相ではあるが、原料由来の酸素の混入や焼成過程での一部成分の揮発等により若干の組成ずれが起こり、x=y=1、Si/Al=1、O/N=0から若干外れていた。
【0050】
次に、分光蛍光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製F7000)を用いて、励起・蛍光スペクトル測定を行った。蛍光スペクトルの励起波長は、455nmとし、励起スペクトルのモニター波長は455nm励起の蛍光スペクトルのピーク波長とした。結果を図2に示す。図中、縦軸は相対発光強度である。蛍光ピーク強度は測定装置や条件によって変化するため、その単位は任意単位であり、同一条件で測定した本実施例及び比較例で対比を行った。
【0051】
図2に示すように、蛍光体は、いずれも紫外〜緑色光の幅広い波長で励起され、実施例1はピーク波長が590nm、主波長が581nm、半値幅が132nmの蛍光スペクトルを、比較例1はピーク波長が580nm、主波長が581nm、半値幅が124nmの蛍光スペクトルを示した。また、波長470〜780nmの範囲での蛍光積分強度は比較例1を100%とした場合、実施例1は126%であった。実施例1の蛍光体は、単純なCaAlSiN:Ce(比較例1)に比べ、高い蛍光強度を示した。
【0052】
実施例1及び比較例1の蛍光体の30〜200℃の温度範囲での蛍光温度特性を大塚電子株式会社製の蛍光温度特性評価装置を用いて測定した。蛍光ピーク強度の温度依存性を図3に示す。図3には、リファレンスとして、YAG蛍光体(P46Y3)及び比較例1と同様の方法により合成した(Ca0.99Eu0.01)AlSiN赤色蛍光体のデータも併せて示す。比較例1のCaAlSiN:Ce蛍光体の温度特性は、YAG蛍光体のそれよりも優れるものの、CaAlSiN:Eu蛍光体のそれに比べ劣っている。実施例1は、比較例1に比べ、温度特性に優れ、CaAlSiN:Eu蛍光体に近い。
【0053】
<実施例2〜6、比較例2〜6>
実施例1と同様の原料粉末を用い、表1に示す全配合組成とし、実施例1と全く同じ処理により実施例2〜6及び比較例2〜6の蛍光体を得た。評価結果を実施例1及び比較例1の結果と合わせて表2、表3に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
<実施例7、比較例7>
実施例1と全く同じ原料粉末、原料配合で、実施例1と全く同じ処理を行い、実施例7、比較例7の蛍光体を得た。但し、実施例7は、焼成温度を1900℃、比較例7では2000℃とした。評価結果を実施例1の結果と合わせて表4(組成)、表5(物性)に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
同じ原料を使用しても、焼成温度が高くなるとともに、Li量が減少し、x値が低くなり、目的とする結晶構造が維持しがたく、第二相の量が大幅に増加し、蛍光特性低下が大幅に低下した。
【0061】
<実施例8>
実施例1の蛍光体をシリコーン樹脂に添加し、脱泡・混練後、ピーク波長450nmの青色LED素子を接合した表面実装タイプのパッケージにポッティングし、更にそれを熱硬化させることにより白色LEDを作製した。この白色LEDの色度は、シリコーン樹脂への蛍光体の添加量により、JIS Z9112の光源色区分で電球色の範囲内となるように制御した。
【0062】
<比較例8>
比較例1の蛍光体を使用し、実施例6と同様に電球色LEDを作製した。
【0063】
<比較例9>
CaCO−Si−AlN−Eu原料系を焼成し、得られた焼成物を解砕、篩分級することにより、平均粒径が18μmのCa−α−サイアロン:Eu黄色蛍光体を作製した。実施例1と同様に励起波長455nmで蛍光特性を評価したところ、ピーク波長が588nm、主波長が581nm、半値幅が90nmで蛍光積分強度が100%であった。このα型サイアロン蛍光体を使用し、実施例6と同様に電球色LEDを作製した。
【0064】
実施例8及び比較例8、9で作製した電球色LEDの同一条件下での発光特性を大塚電子社製発光スペクトル測定装置(MCPD7000)で測定した。測定は複数個のLEDに対して実施し、光度、色度、平均演色評価数を求めた。測定は、複数個のLEDに対して行い、相関色温度2800〜2900Kで偏差(Δuv)が±0.01の範囲にある少なくとも5個のデータを平均化し対比した。光度は実施例6を100%とした相対値で対比した。
【0065】
相対光度は、実施例8が100%、比較例8が89%、比較例9が92%で、平均演色評価数(Ra)は、実施例8が78、比較例8が75、比較例9が59であった。
【0066】
実施例8の電球色LEDは、比較例8に比べ、相対光度が高く、若干演色性が高くなった。比較例9に比べ、蛍光体の蛍光スペクトル幅が広いことから、演色性が高くなった。
図1
図2
図3