特許第5969395号(P5969395)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969395
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】高分子量PHA生産微生物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20160804BHJP
   C12P 7/62 20060101ALI20160804BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12P7/62
   !C12N15/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-554861(P2012-554861)
(86)(22)【出願日】2012年1月27日
(86)【国際出願番号】JP2012051775
(87)【国際公開番号】WO2012102371
(87)【国際公開日】20120802
【審査請求日】2014年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-15720(P2011-15720)
(32)【優先日】2011年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】藤木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭司
【審査官】 宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−259708(JP,A)
【文献】 特開平10−108682(JP,A)
【文献】 特開2008−086238(JP,A)
【文献】 Microbiology, 2001, Vol.147, p3353-3358
【文献】 MUMBERG D et al., Database GenBank[online], Accession No.DQ019861,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/dq019861>, 28-SEP-2005 uploaded,[retrieved on 29-SEP-2015], DEFINITION: Saccharomyces cerevisiae expression vector p426GPD, complete sequence
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12P 7/62
C12N 15/00
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカン酸を生産可能な、phbC遺伝子が破壊されたCupriavidus necatorである微生物であって、
前記微生物が、下記(1)ないし(4)からなる群から選ばれる1以上の塩基配列からなるポリヒドロキシアルカン酸合成酵素をコードする外来の遺伝子を含んでおり;
(1)配列番号9に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(2)配列番号9に示されるアミノ酸配列に対して95%以上の配列同一性を有し、且つ、ポリヒドロキシアルカン酸合成活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(3)配列番号10に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(4)配列番号10に示されるアミノ酸配列に対して95%以上の配列同一性を有し、且つ、ポリヒドロキシアルカン酸合成活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
前記ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素をコードする遺伝子が下記(a)又は(b)の塩基配列により、細胞中のポリヒドロキシアルカン酸合成酵素の比活性が0.1U/mg-protein以下に制御されており;
(a)配列番号11に示される塩基配列、
(b)配列番号11に示される塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有し、かつ遺伝子の転写を制御する活性を有する塩基配列、
重量平均分子量が400万以上のポリヒドロキシアルカン酸を100g/L以上の生産性にて生産可能な微生物。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシアルカン酸が、P(3HB)、又はP(3HB-co-3HH)である請求項に記載の微生物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微生物を用いる重量平均分子量400万以上のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項4】
炭素源が糖である請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
炭素源が油脂及び/又は脂肪酸である請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子量ポリエステル生産微生物、特に高分子量ポリヒドロキシアルカン酸(以下PHA)生産微生物、また、それを用い工業的に効率よく微生物にPHAを産生させる方法に関する。
【0002】
また、本発明は、加工特性に優れた性質を示す超高分子量の生分解性ポリエステルの生産微生物に関する。さらに詳しくは、本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素比活性を高分子量のポリエステルが生産される程度に制御する技術に関する。また、本技術は概微生物を用い、工業的に超高分子量ポリエステルを高生産させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
PHAは、広範な微生物によって生成されるポリエステル型有機分子ポリマーである。PHAは生分解性を有し、熱可塑性高分子であること、また、再生可能資源から産生されることから、環境調和型素材または生体適合型素材として工業的に生産し、多様な産業へ利用する試みが行われている。
【0004】
このPHAを構成するモノマー単位は一般名3−ヒドロキシアルカン酸であって、具体的には3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシヘキサン酸、3−ヒドロキシオクタン酸、あるいはよりアルキル鎖の長い3−ヒドロキシアルカン酸が例示され、これらが単重合もしくは共重合することにより、ポリマー分子が形成される。
【0005】
このようなPHAの例として、3−ヒドロキシ酪酸(以下、3HBと略す)のホモポリマーであるポリ−3−ヒドロキシ酪酸(以下、P(3HB)と略す)が挙げられる。また、3−ヒドロキシ酪酸(3HB)と3−ヒドロキシ吉草酸(以下、3HVと略す)の共重合体(以下、P(3HB-co-3HV)と略す)が挙げられる。さらに、3HBと3−ヒドロキシヘキサン酸(以下、3HHと略す)の共重合体(以下、P(3HB-co-3HH)と略す)が挙げられる。
【0006】
ポリエステルはその分子量によって特性が変化し、繊維などに加工する際にはできるだけ高分子量であることが望ましい。微生物が産生するポリヒドロキシアルカン酸の分子量は、微生物毎に異なるものの、おおむね5万から100万であるので、より高分子量のPHAの生産が研究された。
【0007】
Ralstonia eutropha由来のPHA合成に関する遺伝子を組み込んだ大腸菌を用い、培養時のpH及びグルコース濃度をコントロールすることにより重量平均分子量が1000万を越えるP(3HB)の生産方法が示された。その中で高分子量P(3HB)では繊維状等への加工時に重要な物性(例えば引張り強度や再延伸性)が向上することが明らかにされている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)。
【0008】
インビトロでのP(3HB)生産ではPHA合成酵素濃度を変化させることにより、300万〜1200万の重量平均分子量を有するP(3HB)を生産可能であることも明らかにされた(非特許文献4参照)。
【0009】
誘導性プロモーターにより制御されたPHA合成酵素遺伝子等を有する発現ベクターを用いた大腸菌によるP(3HB)の生産では、誘導剤添加量で発現する酵素量を制御した結果、重量平均分子量を78万〜400万でコントロール可能であることが開示されている(特許文献1参照)。
【0010】
特許文献2ではPHA合成酵素遺伝子をバクテリアの染色体上に組み込んで発現させると、組み込み部位によって異なる分子量のPHAを生産できることが開示されている。R. eutrophaの染色体上にAeromonas caviae由来のPHA合成酵素遺伝子と基質モノマーを供給する遺伝子を組み込んだ例では40万〜1000万の分子量を有する3−ヒドロキシヘキサン酸と3−ヒドロキシオクタン酸の共重合ポリエステルが蓄積された。しかしながらその生産性については言及されていない。
【0011】
P(3HB-co-3HH)の生産研究も多く報告されている。
【0012】
一方で、安価炭素源としてパーム油を使用し、R. eutrophaにA. caviae由来のPHA合成酵素変異体遺伝子と大腸菌由来の3−ケトアシル−ACPレダクターゼ遺伝子(fabG)とを導入した形質転換株を用い、64時間の培養で菌体生産量109.2g/L、ポリエステル含量68.6%、重量平均分子量510万のP(3HB-co-3HH)を生産したことが報告されている。(特許文献3)。
【0013】
上記のように、高分子量P(3HB)や、P(3HB-co-3HH)を製造する従来の技術は重量平均分子量400万以上を達成しているが、高価な原料を用いていたり、生産性が低かったりするなど、高分子量ポリエステルを工業的に安価に高生産させるには課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許5811272号
【特許文献2】米国特許6593116号
【特許文献3】国際公開公報WO2006−101176号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Appl. Microbiol. Biotechnol., 47: 140-3 (1997)
【非特許文献2】J. Macromol. Sci., Pure Appl. Chem., A35: 319-35 (1998)
【非特許文献3】Int. J. Biol. Macromol., 25: 87-94 (1999)
【非特許文献4】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92: 6279-83 (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、これまで必ずしも産業利用を可能にする生産性で生産できなかった分子量400万以上のPHAを生産する微生物を育種することを課題とする。具体的には、微生物のPHA合成に関与する酵素の比活性を低位に制御することで、高分子量のPHAを高生産する微生物の育種や微生物によるPHAの製造を、工業的に効率よく行う方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、高分子量のPHAを高生産する微生物を育種するための検討を鋭意行った。その結果、PHA合成酵素の比活性を遺伝子レベルで制御することにより、様々な分子量のPHAを高生産することを見出し、その中から、高分子量のPHAを合成する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0018】
本発明の特徴の1つは、細胞中のPHA合成酵素比活性が0.1U/mg-protein以下に制御され、かつ、100g/L以上の生産性にて高分子量PHAが生産可能なCupriavidus属に属する微生物である。
【0019】
本発明の高分子量PHAの重量平均分子量は400万以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の微生物は、配列番号9又は10で表されるアミノ酸配列をコードするPHA合成酵素遺伝子、又は、該アミノ酸配列対して85%以上の配列同一性を有し、且つ、PHA合成活性を有するポリペプチドをコードするPHA合成酵素遺伝子を有する微生物であることが好ましい。
【0021】
本発明の微生物は、PHA合成酵素遺伝子の転写を制御するプロモーターの塩基配列が配列番号11、又は12に記載の塩基配列、またはそれらの塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列である上記微生物である。
【0022】
本発明の微生物は、特には、PHAを生産可能なCupriavidus属微生物であって、前記微生物が、下記(1)ないし(4)からなる群から選ばれる1以上の塩基配列からなるPHA合成酵素をコードする遺伝子を含んでおり;
(1)配列番号9に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(2)配列番号9に示されるアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有し、且つ、PHA合成活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(3)配列番号10に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(4)配列番号10に示されるアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有し、且つ、ポリヒドロキシアルカン酸合成活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
前記ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素をコードする遺伝子が下記(a)ないし(d)からなる群から選ばれる1以上の塩基配列により、細胞中のポリヒドロキシアルカン酸合成酵素の比活性が0.1U/mg-protein以下に制御されており;
(a)配列番号11に示される塩基配列、
(b)配列番号11に示される塩基配列に対して85%以上の配列同一性を有し、かつ遺伝子の転写を制御する活性を有する塩基配列、
(c)配列番号12に示される塩基配列、
(d)配列番号12に示される塩基配列に対して85%以上の配列同一性を有し、かつ遺伝子の転写を制御する活性を有する塩基配列、
重量平均分子量が400万以上のポリヒドロキシアルカン酸を100g/L以上の生産性にて生産可能なCupriavidus属微生物である。
【0023】
本発明の微生物は、Cupriavidus necatorであることが好ましい。
【0024】
本発明の微生物を、糖、油脂、及び/又は脂肪酸など、該微生物が資化可能な原料を炭素源として用いて培養することによって高分子量PHAを生産することができる。
【0025】
本発明の高分子量PHAは、特にはP(3HB)、P(3HB-co-3HV)、P(3HB-co-3HH)である。
【0026】
本発明の別の特徴は、上記の微生物を用いる重量平均分子量400万以上のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、産業上有用な高分子量PHAを、糖や油脂などの比較的安価、かつ再生可能資源より工業的に高効率に高生産することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施例9に係る各種形質転換体の培養時間と蓄積するポリエステルの重量平均分子量(Mw)を示した図である。
図2】本発明の実施例10に係る各種形質転換体の培養時間と菌体中のPHA合成酵素比活性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
C. necatorを宿主にてPHAを生産する場合、そのPHAの重量平均分子量は数10万〜200万程度であり、従来400万以上の分子量を有するPHAを培養液あたりのPHA生産量として100g/L以上の高生産性を維持したままで達成することは困難であった。しかしながら、本発明によれば、100g/L以上の高生産性を維持したまま、平均重量分子量400万以上の高分子量のPHAを生産することが可能となる。
【0031】
本発明におけるCupriavidus属に属する微生物は、PHA合成酵素比活性が0.1U/mg-protein以下に制御され、かつ、100g/L以上のPHA生産性を有している微生物である。これら微生物が生産するPHAの分子量は、平均重量分子量400万以上であり、さらには400万超であり、特には420万以上である。
【0032】
本発明で得られるPHAの生産量は100g/L以上であるが、これは110g/L以上、さらには120g/L以上、特には130g/L以上にも達しうる。
【0033】
本発明において制御するPHA合成酵素比活性は0.1U/mg-protein以下が好ましく、0.06U/mg-protein以下がさらに好ましく、0.05U/mg-protein以下がより好ましく、0.04U/mg-protein以下がさらにより好ましく、0.03U/mg-protein以下がもっとも好ましい。PHAを生産するために宿主に外来のPHA合成酵素遺伝子を導入しながら、0U/mg-protein超かつ0.1U/mg-protein以下に制御することで、平均重量分子量400万以上のPHAを培養液に対して100g/L以上の生産性で製造することができる。
【0034】
PHA合成酵素遺伝子としては、C. necator H16株が元来保有する配列番号9に記載するアミノ酸配列をコードするPHA合成酵素遺伝子、又は、該アミノ酸配列対して85%以上の配列同一性を有し、且つ、PHA合成活性を有するポリペプチドをコードするPHB合成酵素遺伝子や、A. caviaeが元来保有するPHA合成酵素遺伝子、又は、該アミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有し、且つ、PHA合成活性を有するポリペプチドをコードするPHA合成酵素遺伝子が利用出来る。上記配列同一性はさらに好ましくは90%以上であり、さらにより好ましくは95%以上である。例えば配列番号10に記載するアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードするPHA合成酵素遺伝子などが利用できる。また、いうまでも無く、その他のPHA合成酵素遺伝子も好適に利用出来る。
【0035】
上記PHA合成酵素遺伝子の細胞内での転写を制御するプロモーターとしては、例えばこれまでCupriavidus属細菌での転写活性が知られていなかった配列番号12に記載する大腸菌のLacオペロン由来のlacプロモーター(以下、lacP)や、配列番号11に記載のC. necator H16株由来のPhasin遺伝子由来のphasinプロモーター(以下、phaP)が好ましい。配列番号11や12に記載の塩基配列と85%以上の配列同一性を持つ塩基配列であり、遺伝子の転写を制御する活性を有する限り本発明に好適に用いることができる。上記配列同一性はさらに好ましくは90%以上であり、さらにより好ましくは95%以上である。細胞中のPHA合成酵素比活性を0.1U/mg-protein以下に制御可能であれば、あらゆるプロモーターが好適に利用できる。
【0036】
本発明におけるPHA合成酵素比活性は、Gerngrossらによる方法(Biochemistry, 33, 9311-9320 (1994))を用いて測定する。具体的には実施例にしめした方法を用いて測定することができる。
【0037】
また、本発明におけるPHA合成の炭素源としては、Cupriavidus属細菌が資化可能であればどんな炭素源でも使用可能であるが、好ましくは、グルコース、フルクトース、シュークロースなどの糖類、パーム油、パーム核油、コーン油、やし油、オリーブ油、大豆油、菜種油、ヤトロファ油などの油脂やその分画油類、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリンスチン酸などの脂肪酸やそれらの誘導体などが好ましい。
【0038】
本発明のCupriavidus属細菌は、PHAを合成すれば種を問わないが、好ましくは、C. necator、より好ましくはC. necator H16を用いることが出来る。勿論、前記微生物を人工的に突然変異処理して得られる変異株、遺伝子工学的手法により変異処理された菌株も使用できる。
【0039】
本発明におけるプロモーター、およびPHA合成酵素は宿主染色体上に存在してもよいし、プラスミド上に存在してもよい。
【0040】
PHAの種類としては、微生物が生産するPHAであれば特に限定されないが、好ましくは、炭素数4〜16の3−ヒドロキシアルカン酸から選択される構成成分を重合して得られるPHAや炭素数4〜16の3−ヒドロキシアルカン酸から選択される構成成分を共重合して得られる共重合PHAが良い。例えば炭素数4の3−ヒドロキアルカン酸を重合して得られるポリヒドロキシブチレートP(3HB)、炭素数4と6の3−ヒドロキシアルカン酸を共重合して得られるポリヒドロキシブチレートヘキサノエートP(3HB-co-3HH)、炭素数4と5の3−ヒドロキシアルカン酸を共重合して得られるポリヒドロキシブチレートバレレートP(3HB-co-3HV)、炭素数4〜14の3−ヒドロキシアルカン酸を重合或いは共重合して得られるポリヒドロキシアルカノエート(PHA)などが挙げられる。製造するPHA種はホストに用いるCupriavidus属細菌に例えば公知のPHA合成に関する遺伝子を導入することで適宜選択することができる。PHA合成酵素比活性を0.1U/mg-protein以下に制御する限り、本発明の効果を得ることが可能になる。
【0041】
培養方法としては、培地に炭素源を添加する方法を用いる微生物の培養方法であれば、培地組成、炭素源の添加方法、培養スケール、通気攪拌条件や培養温度、培養時間などに一切限定されないが、連続的、または、間欠的に培地に炭素源を添加する培養方法がより好ましい。
【0042】
本発明のPHAの製造方法は、上述した培養方法によって微生物内にPHAを蓄積させ、その後、周知の方法を用いて菌体からPHAを回収すれば良い。例えば、次のような方法により行うことができる。培養終了後、培養液から遠心分離機等で菌体を分離し、その菌体を蒸留水およびメタノール等により洗浄し、乾燥させる。この乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶剤を用いてPHAを抽出する。このPHAを含んだ溶液から、濾過等によって菌体成分を除去し、そのろ液にメタノールやヘキサン等の貧溶媒を加えてPHAを沈殿させる。さらに、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させてPHAを回収する方法などが挙げられる。
【0043】
微生物菌体の生産量は吸光度法や乾燥菌体重量測定法などの公知の方法で測定でき、また、微生物が産生する物質の生産量はGC法、HPLC法などの公知の方法で測定できる。細胞中に蓄積されたPHAの含量は、加藤らの方法(Appl. MicroBiol. Biotechnol., 45, 363 (1996); Bull. Chem. Soc., 69, 515 (1996))に従い、培養細胞からクロロホルムなどの有機溶媒を用いて抽出し、乾燥することで測定出来る。
【実施例】
【0044】
以下に実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。なお全体的な遺伝子操作は、Molecular Cloning (Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989))に記載されているように行うことができる。また、遺伝子操作に使用する酵素、クローニング宿主等は、市場の供給者から購入し、その説明に従い使用することができる。なお、酵素としては、遺伝子操作に使用できるものであれば特に限定されない。
【0045】
(製造例1)プロモーターを連結していないP(3HB-co-3HH)合成酵素遺伝子導入ベクターの構築
特開2007-259708号明細書に記載の発現ベクターpCUP2EEREP149NS/171DG(C. necator H16のPHBオペロンプロモーター(以下、REP)+PHA合成酵素)をテンプレートとして配列番号1及び配列番号2で示されるプライマー1及び2を用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で2分を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。PCRで得たDNA断片を末端リン酸化およびEcoRI、MunI消化した。このDNA断片を、MunI消化した特開2007-259708号明細書に記載のベクターpCUP2とDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、プロモーターを連結していないP(3HB-co-3HH)合成酵素遺伝子を有するプラスミドベクターpCUP2/149NS171DGdPを作製した。
【0046】
(製造例2)プロモーターを連結していないP(3HB)合成酵素遺伝子導入ベクターの構築
C. necator H16のゲノムをテンプレートとして配列番号1及び配列番号2で示されるプライマー1及び2を用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で2分を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。PCRで得たDNA断片を末端リン酸化およびEcoRI、MunI消化した。このDNA断片を、MunI消化した特開2007-259708号明細書に記載のベクターpCUP2とDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、プロモーターを連結していないP(3HB)合成酵素遺伝子を有するプラスミドベクターpCUP2/phbCdPを作製した。
【0047】
(製造例3)lacP連結P(3HB-co-3HH)合成酵素遺伝子発現ベクターの構築
pCR-Blunt2-TOPO(invitrogen社製)をテンプレートとして、配列番号3及び配列番号4で示されるプライマー3及び4を用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で30秒を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。得られた増幅断片を末端リン酸化、及びMunI処理し、MunI処理したpCUP2phaCdPベクターに連結し、プラスミベクターpCUP2/lacP149NS171DGを作製した。
【0048】
(製造例4)phaP連結P(3HB-co-3HH)合成酵素遺伝子発現ベクターの構築
C. necator H16のゲノムをテンプレートとして、配列番号5及び配列番号6で示されるプライマー5及び6を用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で30秒を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。得られた増幅断片を末端リン酸化、及びMunI処理し、MunI処理したpCUP2/149NS171DGdPベクターに連結し、プラスミベクターpCUP2/phaP149NS171DGを作製した。
【0049】
(製造例5)lacP連結P(3HB)合成酵素遺伝子発現ベクターの構築
プラスミドとしてpCUP2phbCdPを使用した以外は実施例3と同じ方法にて、プラスミドベクターpCUP2/lacPphbCを作製した。
【0050】
(製造例6)phaP連結P(3HB)合成酵素遺伝子発現ベクターの構築
プラスミドとしてpCUP2phbCdPを使用した以外は実施例4と同じ方法にて、プラスミドベクターpCUP2/phaPphbCを作製した。
【0051】
(製造例7)野生型プロモーター連結P(3HB-co-3HH)合成酵素遺伝子発現ベクターの構築
WO2005/098001国際公開公報明細書に記載のプラスミドベクターpJRDdTC+149NS171DGをEcoRI処理し、A. caviae由来のPHAオペロンプロモーター(ACP)、及びPHA合成酵素遺伝子断片を得た。この断片をpCUP2をMunIで切断した部位に挿入して発現ベクターpCUP2/ACP149NS/171DGを構築した。
【0052】
(製造例8)C. necator H16 REP連結P(3HB)合成酵素発現ベクターの構築
C. necator H16のゲノムをテンプレートとして、配列番号7及び配列番号8で示されるプライマー7及び8を用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で3分を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。得られた増幅断片を末端リン酸化、及びEcoRI処理し、MunI処理したpCUP2ベクターに連結し、プラスミベクターpCUP2/REPphbCを作製した。
【0053】
(実験例1)形質転換体の作製
製造例3〜8にて作製した発現ベクター、及び特開2007-259708号明細書に記載の発現ベクターpCUP2EEREP149NS/171DGを導入した各種形質転換体を電気パルス法により作製した。ベクターを導入する宿主としては、特開2007-259708号明細書に記載されているC. necator H16株のphbC遺伝子破壊株であるΔB1133株を用いた。作製した形質転換体をそれぞれ、ΔB+pCUP2/lacP149NS171DG(実施例1)、ΔB+pCUP2/phaP149NS171DG(実施例2)、ΔB+pCUP2/lacPphbC(実施例3)、ΔB+pCUP2/phaPphbC(実施例4)、ΔB+pCUP2/ACP149NS/171DG(比較例1)、ΔB+pCUP2/REPphbC(比較例2)、ΔB+pCUP2EEREP149NS/171DG(比較例3)とした。遺伝子導入装置はBiorad社製のジーンパルサーを用い、キュベットは同じくBiorad社製のgap0.2cmのものを用いた。キュベットに、コンピテント細胞400μlと発現ベクター20μlを注入してパルス装置にセットし、静電容量25μF、電圧1.5kV、抵抗値800Ωの条件で電気パルスをかけた。パルス後、キュベット内の菌液をNutrientBroth培地(DIFCO社製)で30℃、3時間振とう培養し、選択プレート(NutrientAgar培地(DIFCO社製)、カナマイシン100mg/L)で、30℃にて2日間培養して、形質転換体を取得した。
【0054】
(実験例2)PHAの生産
種母培地の組成は1w/v%Meat-extract、1w/v%Bacto-Trypton、0.2w/v%Yeast-extract、0.9w/v%Na2HPO4・12H2O、0.15w/v%KH2PO4、5×10-6w/v%カナマイシンとした。
【0055】
前培養培地の組成は1.1w/v%Na2HPO4・12H2O、0.19w/v%KH2PO4、1.29w/v%(NH4)2SO4、0.1w/v%MgSO4・7H2O、2.5w/v%パームWオレイン油、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v%FeCl3・6H2O、1w/v%CaCl2・2H2O、0.02w/v%CoCl2・6H2O、0.016w/v%CuSO4・5H2O、0.012w/v%NiCl2・6H2Oを溶かしたもの。)とした。
【0056】
ポリエステル生産培地の組成は0.385w/v%Na2HPO4・12H2O、0.067w/v%KH2PO4、0.291w/v%(NH4)2SO4、0.1w/v%MgSO4・7H2O、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v%FeCl3・6H2O、1w/v%CaCl2・2H2O、0.02w/v%CoCl2・6H2O、0.016w/v%CuSO4・5H2O、0.012w/v%NiCl2・6H2Oを溶かしたもの。)とした。炭素源はパーム核油を分別した低融点画分であるパーム核油オレインを単一炭素源として用いた。
【0057】
実験例1で作製した各種形質転換株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL-300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度30℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養した。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0058】
ポリエステル生産培養は6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL-1000型)に前培養種母を5.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量3.6L/minとし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。培養は約65時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0059】
得られた乾燥菌体約1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のポリエステルを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が約30mlになるまで濃縮後、約90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したポリエステルをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥ポリエステルの重量を測定し、ポリエステル生産量を算出した。その結果を表1に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
(実験例3) ポリエステルの重量平均分子量(Mw)分析
実験例2にて培養した各種形質転換体の分子量を測定した。ポリエステルの重量平均分子量(Mw)分析はゲル・パーミッション・クロマトグラフィー法により行った。抽出したポリエステル約15mgを10mlのクロロホルムに溶解し、0.2μmのフィルターで濾過して測定用サンプルとし、その0.05mlを用いて分析した。測定システムはSLC-10A(島津製作所製)、カラムはShodex GPC K-806L(昭和電工製)を2本直列に接続し、40℃で測定した。移動層は1.0ml/分のクロロホルムとし、RI検出器(RID-10A、島津製作所製)を用いた。標準品としては同様に処理したポリスチレン(昭和電工製、重量平均分子量:約700万、約107万、15万、3万)を用い、検量線によりポリエステルの重量平均分子量を算出した。結果を図1に示した。
【0062】
(実験例4) PHA合成酵素比活性測定
PHA合成酵素比活性は、以下の方法にて測定した。
【0063】
実験例1にて培養した培養液を2ml採取し、4℃で10000×g、1分間の遠心分離を行い菌体を集めた。この菌体を緩衝液(0.5M リン酸カリウムバッファー)で2回洗浄し、1mlの同緩衝液に懸濁した。これを超音波処理して菌体を破砕した後、15000×g、4℃、5分間の遠心分離した上清を粗酵素液として用いた。
【0064】
PHA合成酵素比活性はCoAの放出を測定することによって算出し、具体的にはGerngrossらによる方法(Biochemistry, 33, 9311-9320 (1994))を用いた。なお、タンパク質の定量はウシ血清アルブミンをスタンダードとして、Bio-Radプロテインアッセイ試薬(バイオラッド社製)を用いたブラッドフォード法で測定した。結果を図2に示した。
【0065】
(実験例5)3HH組成分析
各形質転換体により生産されたポリエステルの3HH組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥ポリエステルの約20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することでポリエステル分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC-17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND-1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100〜200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、形質転換体ΔB+pCUP2/lacP149NS171DG、同ΔB+pCUP2/phaP149NS171DG、同ΔB+pCUP2/ACP149NS/171DG、同ΔB+pCUP2EEREP149NS/171DGを用いて製造したPHA(配列番号10に記載PHA合成酵素をコードするPHA合成酵素遺伝子を導入した形質転換体)はP(3HB-co-3HH)を合成することを確認した。また、形質転換体ΔB+pCUP2/lacPphbC、同ΔB+pCUP2/phaPphbC、同ΔB+pCUP2/REPphbC(配列番号9に記載するPHA合成酵素をコードするPHA合成酵素遺伝子を導入した形質転換体)は3HHモノマーを含まないP(3HB)を合成することを確認した。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]