【実施例】
【0044】
以下に実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。なお全体的な遺伝子操作は、Molecular Cloning (Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989))に記載されているように行うことができる。また、遺伝子操作に使用する酵素、クローニング宿主等は、市場の供給者から購入し、その説明に従い使用することができる。なお、酵素としては、遺伝子操作に使用できるものであれば特に限定されない。
【0045】
(製造例1)プロモーターを連結していないP(3HB-co-3HH)合成酵素遺伝子導入ベクターの構築
特開2007-259708号明細書に記載の発現ベクターpCUP2EEREP149NS/171DG(C. necator H16のPHBオペロンプロモーター(以下、REP)+PHA合成酵素)をテンプレートとして配列番号1及び配列番号2で示されるプライマー1及び2を用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で2分を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。PCRで得たDNA断片を末端リン酸化およびEcoRI、MunI消化した。このDNA断片を、MunI消化した特開2007-259708号明細書に記載のベクターpCUP2とDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、プロモーターを連結していないP(3HB-co-3HH)合成酵素遺伝子を有するプラスミドベクターpCUP2/149NS171DGdPを作製した。
【0046】
(製造例2)プロモーターを連結していないP(3HB)合成酵素遺伝子導入ベクターの構築
C. necator H16のゲノムをテンプレートとして配列番号1及び配列番号2で示されるプライマー1及び2を用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で2分を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。PCRで得たDNA断片を末端リン酸化およびEcoRI、MunI消化した。このDNA断片を、MunI消化した特開2007-259708号明細書に記載のベクターpCUP2とDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、プロモーターを連結していないP(3HB)合成酵素遺伝子を有するプラスミドベクターpCUP2/phbCdPを作製した。
【0047】
(製造例3)lacP連結P(3HB-co-3HH)合成酵素遺伝子発現ベクターの構築
pCR-Blunt2-TOPO(invitrogen社製)をテンプレートとして、配列番号3及び配列番号4で示されるプライマー3及び4を用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で30秒を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。得られた増幅断片を末端リン酸化、及びMunI処理し、MunI処理したpCUP2phaCdPベクターに連結し、プラスミベクターpCUP2/lacP149NS171DGを作製した。
【0048】
(製造例4)phaP連結P(3HB-co-3HH)合成酵素遺伝子発現ベクターの構築
C. necator H16のゲノムをテンプレートとして、配列番号5及び配列番号6で示されるプライマー5及び6を用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で30秒を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。得られた増幅断片を末端リン酸化、及びMunI処理し、MunI処理したpCUP2/149NS171DGdPベクターに連結し、プラスミベクターpCUP2/phaP149NS171DGを作製した。
【0049】
(製造例5)lacP連結P(3HB)合成酵素遺伝子発現ベクターの構築
プラスミドとしてpCUP2phbCdPを使用した以外は実施例3と同じ方法にて、プラスミドベクターpCUP2/lacPphbCを作製した。
【0050】
(製造例6)phaP連結P(3HB)合成酵素遺伝子発現ベクターの構築
プラスミドとしてpCUP2phbCdPを使用した以外は実施例4と同じ方法にて、プラスミドベクターpCUP2/phaPphbCを作製した。
【0051】
(製造例7)野生型プロモーター連結P(3HB-co-3HH)合成酵素遺伝子発現ベクターの構築
WO2005/098001国際公開公報明細書に記載のプラスミドベクターpJRDdTC+149NS171DGをEcoRI処理し、A. caviae由来のPHAオペロンプロモーター(ACP)、及びPHA合成酵素遺伝子断片を得た。この断片をpCUP2をMunIで切断した部位に挿入して発現ベクターpCUP2/ACP149NS/171DGを構築した。
【0052】
(製造例8)C. necator H16 REP連結P(3HB)合成酵素発現ベクターの構築
C. necator H16のゲノムをテンプレートとして、配列番号7及び配列番号8で示されるプライマー7及び8を用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で3分を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD-plus-(東洋紡社製)を用いた。得られた増幅断片を末端リン酸化、及びEcoRI処理し、MunI処理したpCUP2ベクターに連結し、プラスミベクターpCUP2/REPphbCを作製した。
【0053】
(実験例1)形質転換体の作製
製造例3〜8にて作製した発現ベクター、及び特開2007-259708号明細書に記載の発現ベクターpCUP2EEREP149NS/171DGを導入した各種形質転換体を電気パルス法により作製した。ベクターを導入する宿主としては、特開2007-259708号明細書に記載されているC. necator H16株のphbC遺伝子破壊株であるΔB1133株を用いた。作製した形質転換体をそれぞれ、ΔB+pCUP2/lacP149NS171DG(実施例1)、ΔB+pCUP2/phaP149NS171DG(実施例2)、ΔB+pCUP2/lacPphbC(実施例3)、ΔB+pCUP2/phaPphbC(実施例4)、ΔB+pCUP2/ACP149NS/171DG(比較例1)、ΔB+pCUP2/REPphbC(比較例2)、ΔB+pCUP2EEREP149NS/171DG(比較例3)とした。遺伝子導入装置はBiorad社製のジーンパルサーを用い、キュベットは同じくBiorad社製のgap0.2cmのものを用いた。キュベットに、コンピテント細胞400μlと発現ベクター20μlを注入してパルス装置にセットし、静電容量25μF、電圧1.5kV、抵抗値800Ωの条件で電気パルスをかけた。パルス後、キュベット内の菌液をNutrientBroth培地(DIFCO社製)で30℃、3時間振とう培養し、選択プレート(NutrientAgar培地(DIFCO社製)、カナマイシン100mg/L)で、30℃にて2日間培養して、形質転換体を取得した。
【0054】
(実験例2)PHAの生産
種母培地の組成は1w/v%Meat-extract、1w/v%Bacto-Trypton、0.2w/v%Yeast-extract、0.9w/v%Na
2HPO
4・12H
2O、0.15w/v%KH
2PO
4、5×10
-6w/v%カナマイシンとした。
【0055】
前培養培地の組成は1.1w/v%Na
2HPO
4・12H
2O、0.19w/v%KH
2PO
4、1.29w/v%(NH
4)
2SO
4、0.1w/v%MgSO
4・7H
2O、2.5w/v%パームWオレイン油、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v%FeCl
3・6H
2O、1w/v%CaCl
2・2H
2O、0.02w/v%CoCl
2・6H
2O、0.016w/v%CuSO
4・5H
2O、0.012w/v%NiCl
2・6H
2Oを溶かしたもの。)とした。
【0056】
ポリエステル生産培地の組成は0.385w/v%Na
2HPO
4・12H
2O、0.067w/v%KH
2PO
4、0.291w/v%(NH
4)
2SO
4、0.1w/v%MgSO
4・7H
2O、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v%FeCl
3・6H
2O、1w/v%CaCl
2・2H
2O、0.02w/v%CoCl
2・6H
2O、0.016w/v%CuSO
4・5H
2O、0.012w/v%NiCl
2・6H
2Oを溶かしたもの。)とした。炭素源はパーム核油を分別した低融点画分であるパーム核油オレインを単一炭素源として用いた。
【0057】
実験例1で作製した各種形質転換株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL-300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度30℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養した。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0058】
ポリエステル生産培養は6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL-1000型)に前培養種母を5.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量3.6L/minとし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。培養は約65時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0059】
得られた乾燥菌体約1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のポリエステルを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が約30mlになるまで濃縮後、約90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したポリエステルをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥ポリエステルの重量を測定し、ポリエステル生産量を算出した。その結果を表1に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
(実験例3) ポリエステルの重量平均分子量(Mw)分析
実験例2にて培養した各種形質転換体の分子量を測定した。ポリエステルの重量平均分子量(Mw)分析はゲル・パーミッション・クロマトグラフィー法により行った。抽出したポリエステル約15mgを10mlのクロロホルムに溶解し、0.2μmのフィルターで濾過して測定用サンプルとし、その0.05mlを用いて分析した。測定システムはSLC-10A(島津製作所製)、カラムはShodex GPC K-806L(昭和電工製)を2本直列に接続し、40℃で測定した。移動層は1.0ml/分のクロロホルムとし、RI検出器(RID-10A、島津製作所製)を用いた。標準品としては同様に処理したポリスチレン(昭和電工製、重量平均分子量:約700万、約107万、15万、3万)を用い、検量線によりポリエステルの重量平均分子量を算出した。結果を
図1に示した。
【0062】
(実験例4) PHA合成酵素比活性測定
PHA合成酵素比活性は、以下の方法にて測定した。
【0063】
実験例1にて培養した培養液を2ml採取し、4℃で10000×g、1分間の遠心分離を行い菌体を集めた。この菌体を緩衝液(0.5M リン酸カリウムバッファー)で2回洗浄し、1mlの同緩衝液に懸濁した。これを超音波処理して菌体を破砕した後、15000×g、4℃、5分間の遠心分離した上清を粗酵素液として用いた。
【0064】
PHA合成酵素比活性はCoAの放出を測定することによって算出し、具体的にはGerngrossらによる方法(Biochemistry, 33, 9311-9320 (1994))を用いた。なお、タンパク質の定量はウシ血清アルブミンをスタンダードとして、Bio-Radプロテインアッセイ試薬(バイオラッド社製)を用いたブラッドフォード法で測定した。結果を
図2に示した。
【0065】
(実験例5)3HH組成分析
各形質転換体により生産されたポリエステルの3HH組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥ポリエステルの約20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することでポリエステル分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC-17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND-1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100〜200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、形質転換体ΔB+pCUP2/lacP149NS171DG、同ΔB+pCUP2/phaP149NS171DG、同ΔB+pCUP2/ACP149NS/171DG、同ΔB+pCUP2EEREP149NS/171DGを用いて製造したPHA(配列番号10に記載PHA合成酵素をコードするPHA合成酵素遺伝子を導入した形質転換体)はP(3HB-co-3HH)を合成することを確認した。また、形質転換体ΔB+pCUP2/lacPphbC、同ΔB+pCUP2/phaPphbC、同ΔB+pCUP2/REPphbC(配列番号9に記載するPHA合成酵素をコードするPHA合成酵素遺伝子を導入した形質転換体)は3HHモノマーを含まないP(3HB)を合成することを確認した。