【実施例】
【0056】
以下の実施例では、Ag−Ni二元金属粒子を触媒成分として含む排ガス浄化用触媒を調製し、その特性及びNOx浄化性能について調べた。
【0057】
[実施例1]
[Ag−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量62原子%)の合成]
まず、イオン液体として、以下の式:
【化1】
で表される1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩(BMI−PF6)2.40cm
3を使用し、これを乾燥前処理として120℃で3時間減圧乾燥して水分を十分に除去した。次いで、スパッタリング装置(Sanyu Electron社製SC−701HMCII4号機)内に、
図2に示すようなAg板とNi板を放射状に交互に配列した円板状の交互配列ターゲット(Ag板にNi板をカーボンテープで張り付けたもの、面積比Ag:Ni=2:1)を設置した。次いで、スパッタリング装置のチャンバー内をArガスで2回置換してから圧力3.0Pa、スパッタリング電流20mAの条件下で30分間プレスパッタリングを行い、安定してスパッタリングを行うことができる状態にした。
【0058】
次に、乾燥前処理を施した上記のBMI−PF6をシャーレ(直径:70mm)に均一に広げ、それをスパッタリング装置内に入れた後、さらに30分間減圧乾燥した。次いで、圧力を3.0Pa、スパッタリング電流を20mA、そしてターゲット材料とイオン液体であるBMI−PF6との距離を6.7cmとして、150分間にわたりスパッタリングを行った。一度、大気開放した後、スパッタターゲットを新しいAg−Ni交互配列ターゲット(Ag:Ni比は同じ)と交換し、さらに同条件で150分間スパッタリングした。合計のスパッタ時間は300分とした。その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、Ag−Ni二元金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg及びNiの各濃度は、Agが33.6mM、そしてNiが20.6mMであった。この分析結果から、Ag−Ni二元金属粒子中のAg平均含有量を62原子%と算出した。
【0059】
[Ag−Ni/SiO
2(Ag平均含有量62原子%)の調製]
次に、上で得られたAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量62原子%)を含む分散液3.6mLを50mLのフラスコに入れ、次いでこれに4mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)1.3gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag−Ni/SiO
2(Ag平均含有量62原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は1.00wt%、Ni担持量は0.33wt%であった。
【0060】
[実施例2]
[Ag−Ni/SiO
2(Ag平均含有量55原子%)の調製]
スパッタリングの途中で交互配列ターゲットを交換することなく連続して300分間スパッタリングしたこと以外は実施例1と同様にして、Ag−Ni二元金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg及びNiの各濃度は、Agが21.3mM、そしてNiが17.8mMであった。この分析結果から、Ag−Ni二元金属粒子中のAg平均含有量を55原子%と算出した。また、このサンプル合成操作を複数回繰り返して、以後の実験に必要な溶液量を得た。次に、得られたAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量55原子%)を含む分散液3.6mLを50mLのフラスコに入れ、次いでこれに4mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)0.9gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag−Ni/SiO
2(Ag平均含有量55原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は0.90wt%、Ni担持量は0.39wt%であった。
【0061】
[実施例3]
[Ag−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量10原子%)の合成]
面積比Ag:Ni=1:1の交互配列ターゲットを使用したこと以外は実施例2と同様にして、これをスパッタリング装置内に設置した。次いで、スパッタリング装置のチャンバー内をArガスで2回置換してから圧力3.0Pa、スパッタリング電流20mAの条件下で30分間プレスパッタリングを行った。次に、乾燥前処理を施したBMI−PF6をシャーレに均一に広げ、それをスパッタリング装置内に入れた後、さらに30分間減圧乾燥した。次いで、圧力を3.0Pa、スパッタリング電流を20mA、そしてターゲット材料とイオン液体であるBMI−PF6との距離を6.7cmとして、300分間にわたりスパッタリングを行った。このサンプル合成操作を合計で4回行った。その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、Ag−Ni二元金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg及びNiの各濃度は、Agが11.1mM、そしてNiが105.0mMであった。この分析結果から、Ag−Ni二元金属粒子中のAg平均含有量を10原子%と算出した。
【0062】
[Ag−Ni/SiO
2(Ag平均含有量10原子%)の調製]
次に、上で得られたAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量10原子%)を含む分散液6.8mLを50mLのフラスコに入れ、次いでこれに8mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)3.7gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag−Ni/SiO
2(Ag平均含有量10原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は0.20wt%、Ni担持量は1.11wt%であった。
【0063】
[実施例4]
[Ag−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量5原子%)の合成]
面積比Ag:Ni=1:2の交互配列ターゲットを使用したこと以外は実施例2と同様にして、これをスパッタリング装置内に設置した。次いで、スパッタリング装置のチャンバー内をArガスで2回置換してから圧力3.0Pa、スパッタリング電流20mAの条件下で30分間プレスパッタリングを行った。次に、乾燥前処理を施したBMI−PF6をシャーレに均一に広げ、それをスパッタリング装置内に入れた後、さらに30分間減圧乾燥した。次いで、圧力を3.0Pa、スパッタリング電流を20mA、そしてターゲット材料とイオン液体であるBMI−PF6との距離を6.7cmとして、300分間にわたりスパッタリングを行った。その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、Ag−Ni二元金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg及びNiの各濃度は、Agが8.3mM、そしてNiが142.3mMであった。この分析結果から、Ag−Ni二元金属粒子中のAg平均含有量を5原子%と算出した。
【0064】
[Ag−Ni/SiO
2(Ag平均含有量5原子%)の調製]
次に、上で得られたAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量5原子%)を含む分散液15mLを100mLのフラスコに入れ、次いでこれに10mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)10.5gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag−Ni/SiO
2(Ag平均含有量5原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は0.11wt%、Ni担持量は1.20wt%であった。
【0065】
[実施例5]
[Ag−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量68原子%)の合成]
イオン液体として、BMI−PF6の代わりに、以下の式:
【化2】
で表されるN,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(TMPA−TFSA)2.40cm
3を使用し、そしてターゲット材料としては銀粉末とニッケル粉末を混合して成型及び焼結したミクロ混合ターゲットを使用して、当該ミクロ混合ターゲットをスパッタリング装置内でTMPA−TFSAとの距離が30mmとなるように設置し、実施例1と同様にしてスパッタリングを行った。スパッタリングは、圧力5.0Pa、スパッタリング電流40mAの条件下で600秒間プレスパッタリングを行った後、150分間にわたり実施した。
【0066】
その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、再び別のTMPA−TFSA2.40cm
3を同様の条件でスパッタリング装置内に設置し、同様に150分間スパッタリングを実施した。このようなスパッタリング操作を合計で6回行った。その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、6回分のイオン液体を1つのサンプルとし、さらにTMPA−TFSAで1.5倍に希釈してAg−Ni二元金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg及びNiの各濃度は、Agが30.7mM、そしてNiが14.4mMであった。この分析結果から、Ag−Ni二元金属粒子中のAg平均含有量を68原子%と算出した。
【0067】
[Ag−Ni/SiO
2(Ag平均含有量68原子%)の調製]
次に、上で得られたAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量68原子%)を含む分散液15mLを100mLのフラスコに入れ、次いでこれに15mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)4.6gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してTMPA−TFSAを十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag−Ni/SiO
2(Ag平均含有量68原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は1.05wt%、Ni担持量は0.27wt%であった。
【0068】
[比較例1]
[Ag/SiO
2(Ag平均含有量100原子%)の調製]
Niを含まないAgターゲットを使用したこと以外は実施例1と同様にして、Ag金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg濃度は55.5mMであった。次に、得られたAg金属粒子を含む分散液5.2mLを50mLのフラスコに入れ、次いでこれに5mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)2.3gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag/SiO
2(Ag平均含有量100原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は1.28wt%であった。
【0069】
[比較例2]
[Ni/SiO
2(Ag平均含有量0原子%)の調製]
Agを含まないNiターゲットを使用し、60分間のスパッタリング操作を合計で5回行ったものを1サンプルとし、それを5サンプル作製してそれらを最終的に混合したこと以外は実施例1と同様にして、Ni金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のNi濃度は46.2mMであった。次に、得られたNi金属粒子を含む分散液8.2mLを50mLのフラスコに入れ、次いでこれに8mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)1.7gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ni/SiO
2(Ag平均含有量0原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ni担持量は1.26wt%であった。
【0070】
[比較例3]
[含浸法によるAg/SiO
2(Ag平均含有量100原子%)の調製]
本比較例では、従来の含浸法によってAgのみをシリカに担持したAg/SiO
2(Ag平均含有量100原子%)を調製した。具体的には、まず、300mLのビーカーに蒸留水50mLを入れ、これに硝酸銀(I)(AgNO
3)0.32gを加えて室温で攪拌した。これらを完全に溶解させた後、シリカ(ナノテック社製球状シリカ)15gを加えて加熱し分散媒を除去した。次いで、120℃で1時間乾燥した後、これを乳鉢で粉砕して均一な粉状にし、得られた粉末を空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag/SiO
2(Ag平均含有量100原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は1.35wt%であった。
【0071】
[比較例4]
[含浸法によるNi/SiO
2(Ag平均含有量0原子%)の調製]
本比較例では、従来の含浸法によってNiのみをシリカに担持したNi/SiO
2(Ag平均含有量0原子%)を調製した。具体的には、まず、300mLのビーカーに蒸留水50mLを入れ、これに硝酸ニッケル(II)六水和物(Ni(NO
3)
2・6H
2O)1.00gを加えて室温で攪拌した。これらを完全に溶解させた後、シリカ(ナノテック社製球状シリカ)15gを加えて加熱し分散媒を除去した。次いで、120℃で1時間乾燥した後、これを乳鉢で粉砕して均一な粉状にし、得られた粉末を空気中500℃で2時間焼成することにより、Ni/SiO
2(Ag平均含有量0原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ni担持量は1.35wt%であった。
【0072】
[比較例5]
[含浸法によるAg/SiO
2とNi/SiO
2の物理混合触媒(Ag:Ni比(原子比)=52:48)の調製]
本比較例では、Ag/SiO
2とNi/SiO
2を単に物理混合することによってAg/SiO
2とNi/SiO
2からなる排ガス浄化用触媒を調製した。具体的には、まず、硝酸銀(I)(AgNO
3)を0.27gとしたこと以外は比較例3と同様にしてAg/SiO
2からなる触媒を得た。次に、硝酸ニッケル(II)六水和物(Ni(NO
3)
2・6H
2O)を0.14gとしたこと以外は比較例4と同様にしてNi/SiO
2からなる触媒を得た。最後に両触媒を混合し、乳鉢で粉砕してAg/SiO
2とNi/SiO
2からなる排ガス浄化用触媒(Ag:Ni比(原子比)=52:48)を得た。なお、Ag担持量は0.90wt%、Ni担持量は0.45wt%であった。
【0073】
[金属粒子の分析]
実施例1〜5並びに比較例1及び2において得られた各金属粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM)(日立製H−7650)によってそれらの測定を行った。なお、測定試料としては、触媒担体に担持する前の実施例1〜5並びに比較例1及び2におけるAg−Ni二元金属粒子、Ag金属粒子又はNi金属粒子を含む各分散液を使用した。そして、多数の粒子の粒径を測定してヒストグラムを作成し、実施例1〜5並びに比較例1及び2における各金属粒子の平均粒径(d
av)と標準偏差(σ)を算出した。これらの結果を
図3〜9及び下表1に示す。なお、下表1には、実施例1〜5及び比較例1〜5の各排ガス浄化用触媒に関する触媒構成や各金属の担持量等についても併せて示している。
【0074】
【表1】
【0075】
図3〜9は、実施例1〜5並びに比較例1及び2における各金属粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)による分析結果を示し、具体的には各金属粒子のTEMによる写真と、写真中の多数の金属粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示している。
【0076】
まず、実施例1〜3及び5に関する
図3〜5及び7のTEM写真及びヒストグラムを参照すると、一部に一次粒子の凝集が散見されるものの(例えば、
図3(b)や
図4(a)中の黒い大きな粒子の塊)、約3nm又はそれよりも小さい平均粒径を有する非常に微細な一次粒子が形成されていることがわかる。
【0077】
次に、実施例4のAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量5原子%)に関する
図6のTEM写真を参照すると、必ずしも粒子の形態を示していないアモルファスのニッケル酸化物と推測されるものが観察され、平均粒径も他の実施例のものと比較してわずかに高い傾向を示した。この結果は、実施例4のAg−Ni二元金属粒子では、Agの平均含有量が比較的低いために、AgによるNiの酸化抑制効果が他の実施例のものと比較して小さいことを示唆していると考えられる。
【0078】
一方で、比較例1のNiを含まないAgのみからなる金属粒子は、平均粒径が6.6nmと他のものと比較して大きく(
図8)、また、比較例2のAgを含まないNiのみからなる金属粒子については、アモルファスのニッケル酸化物と推測される像が観察された(
図9(a))。
【0079】
[触媒の分析]
実施例2、3及び5並びに比較例1及び2において得られた各排ガス浄化用触媒について、エネルギー分散型X線分析装置付走査透過型電子顕微鏡(STEM−EDX)(JEOL製JEM1000)によってそれらの測定を行った。これらの結果を
図10〜12に示す。
【0080】
図10〜12は、実施例2、3及び5の各排ガス浄化用触媒のSTEM−EDXによる分析結果を示している。具体的には、
図10〜12は、(a)が実施例2、3及び5の各排ガス浄化用触媒のSTEM−EDXによる写真を示し、(b)が(a)中の金属粒子に関する各測定点におけるAgとNiの組成比(原子%)を示している。
【0081】
図10(a)及び11(a)を参照すると、イオン液体としてBMI−PF6を使用してAg−Ni二元金属粒子を合成した実施例2及び3の各排ガス浄化用触媒では、平均粒径が明らかに10nm以下の非常に微細な金属粒子がシリカ担体上に存在していることを確認することができる。なお、図中の金属粒子以外の大きな白い像はシリカである。また、図中の多くの金属粒子においてその粒径が5nm以下であった。
【0082】
これに対し、
図12(a)を参照すると、イオン液体としてTMPA−TFSAを使用してAg−Ni二元金属粒子を合成した実施例5の排ガス浄化用触媒では、実施例2及び3の排ガス浄化用触媒(
図10(a)及び11(a))と比較して、金属粒子の粒径が幾分大きくなる傾向が観察された。一方で、イオン液体中に二元金属粒子を堆積させた直後のTEM写真(
図4、5及び7)では、実施例2、3及び5のAg−Ni二元金属粒子の粒径に大きな差異は観察されなかった。
【0083】
したがって、イオン液体については、BMI−PF6のほうがTMPA−TFSAよりもAg−Ni二元金属粒子に対する保護力、すなわちAg−Ni二元金属粒子同士の凝集や粒成長を抑制する能力が高いと考えられる。逆に言えば、イオン液体としてTMPA−TFSAを使用した実施例5の排ガス浄化用触媒では、Ag−Ni二元金属粒子の堆積工程から担持工程までの間に当該Ag−Ni二元金属の一部が凝集してしまったものと考えられる。しかしながら、いずれにしても、実施例2、3及び5の各排ガス浄化用触媒において、触媒担体への担持操作、さらには空気中500℃の焼成処理後においても、Ag−Ni二元金属粒子が非常に微細な粒子サイズに維持されることを確認した。
【0084】
次に、
図10(b)を参照すると、実施例2の排ガス浄化用触媒では、金属粒子に関する測定点1〜6のうち全ての測定点においてAgとNiの両方の元素が検出されていることがわかる。また、
図11(b)においても、金属粒子に関する測定点1〜10のうち測定点4を除く9個の測定点においてAgとNiの両方の元素が検出され、同様に、
図12(b)でも、測定点10を除く全ての測定点においてAgとNiの両方の元素が検出された。これらの結果は、実施例2、3及び5の各排ガス浄化用触媒において同一の金属粒子内にAgとNiがナノレベルで共存していることを示唆するものである。
【0085】
次に、比較例1の排ガス浄化用触媒(Ag/SiO
2)に関する
図13のSTEM写真を参照すると、触媒担体であるシリカ上に微細なAg金属粒子が観察され、担持後においても担持前と同様の粒径が維持されていることを確認した。一方で、比較例2の排ガス浄化用触媒(Ni/SiO
2)に関する
図14のSTEM写真を参照すると、金属粒子の存在を明確には確認できなかったが、EDXによる分析からNiが存在することを確認した。
【0086】
[触媒の活性評価]
次に、実施例1〜5及び比較例1〜5の各排ガス浄化用触媒に関し、下記式(1)のNO−CO反応:
NO + CO → 1/2N
2 + CO
2 (1)
においてそれらのNOx還元能を評価した。具体的には、上で調製した各排ガス浄化用触媒の粉末を196MPaの圧力で圧粉成型した後、ふるいにかけて1.0〜1.7mmのペレット触媒を得た。次いで、このペレット触媒0.2gを流通型反応炉に入れ、1vol%H
2/N
2バランスからなる還元性ガスの流通下において600℃で30分間にわたり還元処理した。その後、同じ雰囲気の下で100℃以下まで冷却した。次に、評価用モデルガス(NO:3000ppm、CO:3000ppm、N
2バランス)を1L/分の流量で触媒床に流しながら、当該触媒床の温度を100℃から20℃/分の速度で昇温し、600℃までのNO転化率をFT−IR分析計を用いて測定した。その結果を
図15に示す。
【0087】
図15(a)は、実施例1〜4並びに比較例1及び2の各排ガス浄化用触媒に関するNO転化率(%)を示すグラフであり、
図15(b)は、実施例5及び比較例3〜5の各排ガス浄化用触媒に関するNO転化率(%)を示すグラフである。
図15(a)及び(b)は、横軸に触媒床の温度(℃)を示し、縦軸にNO転化率(%)を示している。
【0088】
なお、
図15(a)中の約220℃付近のピークは、FT−IR分析計の結果から主として一酸化二窒素(N
2O)の生成に関するものであることを確認した。すなわち、この部分では、上記式(1)の反応よりはむしろ、下記式(2):
2NO + CO → N
2O + CO
2 (2)
の反応が進行しており、それよりも高い温度、特には300℃よりも高い温度において上記式(1)の反応が主として進行し、NOがN
2に還元浄化されている。
【0089】
ここで、
図15(a)及び(b)の特に300℃を超える温度領域における結果から明らかなように、Agのみを担持した比較例1及び3の排ガス浄化用触媒はすべての触媒の中で最も低いNOx転化率、特にはNOx還元能を示した。このことから、AgはNOxの還元に対してほとんど活性を示さないことがわかる。一方で、Niのみを担持した比較例2及び4の排ガス浄化用触媒、さらにはAg担持触媒とNi担持触媒を物理混合した比較例5の排ガス浄化用触媒では、上記比較例1及び3の排ガス浄化用触媒よりは高いNOx転化率を示したものの、十分な触媒活性を達成することはできなかった。
【0090】
これに対し、本発明によれば、Agの平均含有量が比較的低い実施例4の排ガス浄化用触媒(Ag平均含有量5原子%)については、Niのみを担持した比較例2の排ガス浄化用触媒とほぼ同等のNOx転化率であったが、他の実施例1〜3及び5の排ガス浄化用触媒では、比較例2の排ガス浄化用触媒と比較して、すべての温度において非常に高いNOx転化率を達成することができた。これは、
図10〜12等において示したように、AgとNiを同一の金属粒子内にナノレベルで共存させることで、
図9(a)のTEM写真において比較例2の金属粒子に関して観察されたようなNiの酸化が抑制されたことに起因するものであると考えられる。
【0091】
同様に、実施例1〜3及び5の排ガス浄化用触媒では、Agのみを担持した比較例1の排ガス浄化用触媒、Agを含浸担持した比較例3の排ガス浄化用触媒、Niを含浸担持した比較例4の排ガス浄化用触媒、及びAg担持触媒とNi担持触媒を物理混合した比較例5の排ガス浄化用触媒と比較しても、すべての温度において非常に高いNOx転化率を達成することができた。なお、イオン液体としてTMPA−TFSAを使用した実施例5の排ガス浄化用触媒では、イオン液体としてBMI−PF6を使用しかつ比較的近いAg平均含有量を有する実施例1の排ガス浄化用触媒と比較してわずかに低いNOx転化率を示した。これは、
図12等に関連して説明したように、BMI−PF6と比較してAg−Ni二元金属粒子に対するTMPA−TFSAの保護力が低く、それゆえ実施例5の排ガス浄化用触媒ではAg−Ni二元金属粒子の一部が凝集してしまったことに起因するものと考えられる。