特許第5969410号(P5969410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969410
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20160804BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20160804BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20160804BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   B01J23/89 AZAB
   B01J37/34
   B01D53/86 222
   B01D53/86 245
   F01N3/10 A
【請求項の数】14
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-29887(P2013-29887)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-158992(P2014-158992A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2015年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】永田 直人
(72)【発明者】
【氏名】平田 裕人
(72)【発明者】
【氏名】小野 公靖
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】阿久澤 由紀
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/005345(WO,A1)
【文献】 特開2013−013864(JP,A)
【文献】 特開昭58−017838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86,53/94
F01N 3/00 − 3/38
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担体に銀とニッケルからなりかつ0nm超100nm未満の平均粒径を有する二元金属粒子を複数担持してなる排ガス浄化用触媒を製造する方法であって、
銀とニッケルを含有するターゲット材料をスパッタリングすることによりイオン液体中に銀とニッケルからなる二元金属粒子を堆積させる堆積工程、及び
得られた二元金属粒子を触媒担体に担持する担持工程
を含むことを特徴とする、排ガス浄化用触媒を製造する方法。
【請求項2】
前記二元金属粒子中の銀の平均含有量が5原子%超90原子%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二元金属粒子中の銀の平均含有量が10原子%以上70原子%以下であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記二元金属粒子中の銀の平均含有量が50原子%以上70原子%以下であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記二元金属粒子の平均粒径が0nm超20nm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記二元金属粒子の平均粒径が0nm超10nm以下であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記排ガス浄化用触媒がNOxを浄化するための触媒であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記担持工程の後に前記排ガス浄化用触媒を酸化性雰囲気中300℃超800℃以下の温度において熱処理する焼成工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記担持工程又は前記焼成工程の後に還元工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ターゲット材料が、銀板とニッケル板を放射状に交互に配列した円板状材料であることを特徴とする、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン液体が、脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記脂肪族系イオン液体が、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記イミダゾリウム系イオン液体が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ピリジニウム系イオン液体が、1−エチルピリジニウムブロマイド、1−エチルピリジニウムクロライド、1−ブチルピリジニウムブロマイド、1−ブチルピリジニウムクロライド、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ヘキシルピリジニウムブロマイド、1−ヘキシルピリジニウムクロライド、1−ヘキシルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒及びその製造方法、より詳しくは触媒成分としてニッケルを含む排ガス浄化用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の自動車の内燃機関から排出される排ガス中には、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれている。このため、一般的には、車両にこれらの有害成分を分解除去するための排ガス浄化装置が設けられており、当該排ガス浄化装置内に配備された排ガス浄化用触媒によってこれらの有害成分が無害化されている。従来、このような排ガス浄化用触媒としては、排ガス中のCO及びHCの酸化とNOxの還元とを同時に行う三元触媒が用いられており、具体的には、アルミナ(Al23)等の多孔質酸化物担体に、貴金属、特には白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の白金族元素を担持させたものが広く知られている。
【0003】
しかしながら、これらの白金族元素は、産出される地域が少なく、その産出が南アフリカやロシア等の特定の地域に偏っていることから、非常に高価な希少金属である。また、これらの白金族元素は、自動車の排ガス規制の強化とともに使用量が増加しており、それゆえ資源の枯渇が懸念されている。このため、白金族元素の使用量を減らすとともに、将来的には、当該白金族元素の役割を他の金属等で代替することが必要とされている。そこで、白金族元素の使用量を減らすための又はそれに代わる触媒成分について多くの研究が行われている。
【0004】
特許文献1では、AuとFeを触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒であって、AuとFeの少なくとも一部が互いに近接した状態で存在しているNOx浄化触媒が記載されている。また、特許文献1では、当該NOx浄化触媒の製造方法として、Au塩、Fe塩、さらにはポリビニルピロリドン(PVP)等の保護剤を含有する溶液に水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を添加して当該溶液中に含まれるAuイオンとFeイオンを還元し、そうして得られたAuとFeからなる金属粒子を触媒担体の粉末に担持する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−163059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
白金族元素に代わり得る触媒成分としては、上記の特許文献1において記載されているFe(鉄)等以外にも、幾つかの金属、特には幾つかの卑金属が他の文献等において提案されている。しかしながら、鉄等の卑金属は、白金族元素に比べて一般的に酸化されやすいことが知られている。それゆえ、このような卑金属を排ガス浄化用触媒の触媒成分として使用したとしても、当該卑金属は、排ガス中に含まれる酸素等の酸化性成分によって比較的容易に酸化されてしまう。この場合には、当該卑金属のメタル化が不十分となり、結果として、排ガスの浄化、特にはNOxの還元浄化に対して十分な触媒活性を達成することができない。
【0007】
そこで、卑金属を酸化物の状態ではなくメタルの状態に維持して排ガスの浄化に対して高い触媒活性を達成するためには、排ガスの空燃比を例えば理論空燃比(ストイキ)よりも十分にリッチな空燃比に制御することが典型的に必要とされる。しかしながら、このような燃料リッチ雰囲気下における運転は、燃費の大幅な悪化を招くため一般的には好ましくない。
【0008】
本発明では、白金族元素に代わる触媒成分として、種々の卑金属の中でも特にNi(ニッケル)に注目して検討を行った。したがって、本発明の目的は、ニッケルを触媒成分として含む新規の排ガス浄化用触媒であって、排ガスの浄化活性、特にはNOxの還元活性が改善された排ガス浄化用触媒及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は下記にある。
(1)触媒担体に銀とニッケルからなりかつ0nm超100nm未満の平均粒径を有する二元金属粒子を複数担持してなることを特徴とする、排ガス浄化用触媒。
(2)前記二元金属粒子中の銀の平均含有量が5原子%超90原子%以下であることを特徴とする、上記(1)に記載の排ガス浄化用触媒。
(3)前記二元金属粒子中の銀の平均含有量が10原子%以上70原子%以下であることを特徴とする、上記(2)に記載の排ガス浄化用触媒。
(4)前記二元金属粒子中の銀の平均含有量が50原子%以上70原子%以下であることを特徴とする、上記(3)に記載の排ガス浄化用触媒。
(5)前記二元金属粒子の平均粒径が0nm超20nm以下であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の排ガス浄化用触媒。
(6)前記二元金属粒子の平均粒径が0nm超10nm以下であることを特徴とする、上記(5)に記載の排ガス浄化用触媒。
(7)NOxを浄化するための触媒であることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の排ガス浄化用触媒。
(8)銀とニッケルを含有するターゲット材料をスパッタリングすることによりイオン液体中に銀とニッケルからなる二元金属粒子を堆積させる堆積工程、及び
得られた二元金属粒子を触媒担体に担持する担持工程
を含むことを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の排ガス浄化用触媒を製造する方法。
(9)前記担持工程の後に前記排ガス浄化用触媒を酸化性雰囲気中300℃超800℃以下の温度において熱処理する焼成工程をさらに含むことを特徴とする、上記(8)に記載の方法。
(10)前記担持工程又は前記焼成工程の後に還元工程をさらに含むことを特徴とする、上記(8)又は(9)に記載の方法。
(11)前記ターゲット材料が、銀板とニッケル板を放射状に交互に配列した円板状材料であることを特徴とする、上記(8)〜(10)のいずれか1つに記載の方法。
(12)前記イオン液体が、脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、上記(8)〜(11)のいずれか1つに記載の方法。
(13)前記脂肪族系イオン液体が、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、上記(12)に記載の方法。
(14)前記イミダゾリウム系イオン液体が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、上記(12)に記載の方法。
(15)前記ピリジニウム系イオン液体が、1−エチルピリジニウムブロマイド、1−エチルピリジニウムクロライド、1−ブチルピリジニウムブロマイド、1−ブチルピリジニウムクロライド、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ヘキシルピリジニウムブロマイド、1−ヘキシルピリジニウムクロライド、1−ヘキシルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、上記(12)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、銀とニッケルがナノレベルで共存した銀とニッケルからなる二元金属粒子を含む排ガス浄化用触媒を得ることができる。また、このような排ガス浄化用触媒によれば、銀とニッケルを同一の金属粒子内にナノレベルで共存させることで、例えばニッケル単独の金属粒子を含む排ガス浄化用触媒と比較して、ニッケルの酸化を顕著に抑制することが可能である。その結果として、本発明によれば、ニッケルの触媒活性を高い状態に維持することができるので、得られる排ガス浄化用触媒の排ガス浄化活性、特にはNOx還元活性を顕著に改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法を模式的に示した図である。
図2】本発明の方法の1つの実施態様において使用される銀とニッケルを含有するターゲット材料を模式的に示した図である。
図3】(a)及び(b)はBMI−PF6中で合成した実施例1におけるAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量62原子%)の透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を示し、(c)は(a)中の多数のAg−Ni二元金属粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示す。
図4】(a)及び(b)はBMI−PF6中で合成した実施例2におけるAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量55原子%)の透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を示し、(c)は(a)中の多数のAg−Ni二元金属粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示す。
図5】(a)及び(b)はBMI−PF6中で合成した実施例3におけるAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量10原子%)の透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を示し、(c)は(a)中の多数のAg−Ni二元金属粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示す。
図6】(a)及び(b)はBMI−PF6中で合成した実施例4におけるAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量5原子%)の透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を示し、(c)は(a)中の多数のAg−Ni二元金属粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示す。
図7】(a)はTMPA−TFSA中で合成した実施例5におけるAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量68原子%)の透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を示し、(b)は(a)中の多数のAg−Ni二元金属粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示す。
図8】(a)及び(b)はBMI−PF6中で合成した比較例1におけるAg金属粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を示し、(c)は(a)中の多数のAg金属粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示す。
図9】(a)はBMI−PF6中で合成した比較例2におけるNi金属粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を示し、(b)は(a)中の多数のNi金属粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示す。
図10】実施例2の排ガス浄化用触媒のエネルギー分散型X線分析装置付走査透過型電子顕微鏡(STEM−EDX)による分析結果を示す。
図11】実施例3の排ガス浄化用触媒のSTEM−EDXによる分析結果を示す。
図12】実施例5の排ガス浄化用触媒のSTEM−EDXによる分析結果を示す。
図13】比較例1の排ガス浄化用触媒の走査透過型電子顕微鏡(STEM)による写真を示す。
図14】比較例2の排ガス浄化用触媒のSTEMによる写真を示す。
図15】(a)は実施例1〜4並びに比較例1及び2の各排ガス浄化用触媒に関するNO転化率(%)を示すグラフであり、(b)は実施例5及び比較例3〜5の各排ガス浄化用触媒に関するNO転化率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<排ガス浄化用触媒>
本発明の排ガス浄化用触媒は、触媒担体に銀とニッケルからなりかつ0nm超100nm未満の平均粒径を有する二元金属粒子を複数担持してなることを特徴としている。
【0013】
鉄に関連して先に記載したとおり、ニッケル等の卑金属は、例えば、排ガス中に含まれる酸化性成分によって比較的容易に酸化されてそのメタル化が不十分となり、結果として、排ガスの浄化、特にはNOxの還元浄化に対して十分な触媒活性を達成することができないという問題がある。
【0014】
そこで、本発明者らは、酸素に対する親和力が比較的弱い銀(Ag)に着目して検討を行い、それをニッケル(Ni)とナノレベルで共存させた二元金属粒子を合成し、そして当該二元金属粒子を触媒担体に担持することで、ニッケル単独の金属粒子や銀単独の金属粒子を触媒担体に担持したもの、あるいはそれらの単純な物理混合物と比較して、最終的に得られる排ガス浄化用触媒の排ガス浄化活性、特にはNOx還元活性を顕著に改善することができることを見出した。
【0015】
なお、ニッケルについて言えば、自動車等の排ガス浄化用触媒において助触媒成分としての利用については提案がされているものの、ニッケルは上記のとおり比較的容易に酸化されてしまう金属であることから、排ガス浄化用触媒における触媒成分としての利用可能性については必ずしも一般的には認識されていない。したがって、本発明のように、触媒成分としてのニッケルに銀を添加してそれらをナノレベルで共存させることで、排ガス中の有害成分、特にはNOxの還元に対して高い活性を達成できるということは極めて意外であり、また驚くべきことである。
【0016】
何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、銀とニッケルをナノレベルで共存させることで、酸素に対する親和力が比較的弱い銀によってそれと近接して存在するニッケルの酸化が抑制されるものと考えられる。その結果として、ニッケルを活性の高いメタルの状態に維持することが可能となり、得られる排ガス浄化用触媒の排ガス浄化活性、特にはNOx還元活性を顕著に改善することができたと考えられる。
【0017】
[二元金属粒子]
本発明によれば、触媒担体に担持される銀とニッケルからなる二元金属粒子は、0nm超100nm未満の平均粒径を有する。
【0018】
銀とニッケルからなる金属粒子の平均粒径が100nm又はそれよりも大きくなると、銀とニッケルがナノレベルで共存した二元金属粒子を形成できなくなり、結果として、銀によるニッケルの酸化抑制効果を十分に得ることができない場合がある。また、銀とニッケルからなる金属粒子がこのような大きな平均粒径を有する場合には、当該金属粒子の表面積が小さくなってニッケルの活性点数が少なくなり、最終的に得られる排ガス浄化用触媒について十分なNOx還元能を達成できない場合がある。したがって、本発明の排ガス浄化用触媒においては、銀とニッケルからなる二元金属粒子は、0nm超100nm未満の平均粒径を有し、好ましくは0nm超90nm以下、0nm超80nm以下、0nm超70nm以下、0nm超60nm以下、0nm超50nm以下、0nm超40nm以下、0nm超30nm以下、0nm超20nm以下、0nm超15nm以下、0nm超10nm以下、又は0nm超5nm以下の平均粒径を有する。このような平均粒径を有する銀とニッケルからなる二元金属粒子を触媒成分として使用することで、銀とニッケルをナノレベルで確実に共存させて銀によるニッケルの酸化抑制効果を十分に発揮させることができるので、その結果としてNOx還元能が顕著に改善された排ガス浄化用触媒を得ることができる。
【0019】
なお、本発明において「平均粒径」とは、特に断りのない限り、透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡を用いて、無作為に選択した100個以上の粒子の定方向径(Feret径)を測定した場合のそれらの測定値の算術平均値を言うものである。
【0020】
本発明の排ガス浄化用触媒においては、例えば、銀の代わりに、銀と同様に酸素に対する親和力が弱い金(Au)を用いてそれをニッケルと組み合わせた二元金属粒子を使用することも可能である。しかしながら、金は0価のメタル状態が安定な元素であることから、触媒担体との相互作用が小さく、それゆえ300℃又はそれを超える程度の比較的低い温度下においても当該触媒担体上で粒成長しやすいという問題がある。しかも、金は銀と比べても非常に高価な貴金属である。したがって、自動車の排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒における比較的高温の使用条件、例えば温度が1000℃又はそれ以上に達することもある使用条件や材料コスト等を考慮すると、金とニッケルの組み合わせよりはむしろ、本発明のように銀とニッケルを組み合わせた二元金属粒子を使用するほうが有利である。
【0021】
本発明によれば、銀とニッケルからなる二元金属粒子中の銀の平均含有量は、5原子%超90原子%以下であることが好ましい。
【0022】
当該二元金属粒子中の銀の平均含有量が5原子%又はそれよりも低い場合には、銀によるニッケルの酸化抑制効果を十分に得ることができない場合がある。したがって、このような場合には、当然ながら排ガス浄化用触媒において十分なNOx還元能を達成することができない。一方で、二元金属粒子中の銀の平均含有量が90原子%よりも大きい場合には、二元金属粒子中のニッケルの活性点の数が少なくなる。加えて、この場合には、二元金属粒子中に比較的多い量で存在する銀によってその活性点が覆われることがあるため、最終的に得られる排ガス浄化用触媒について十分なNOx還元能を達成することができない場合がある。したがって、二元金属粒子中に含まれる銀とニッケルの割合には、銀によるニッケルの酸化抑制効果、及びニッケルの活性点数等を考慮した最適値が存在すると考えられる。
【0023】
本発明によれば、二元金属粒子中の銀の平均含有量を、5原子%超、特には10原子%以上、20原子%以上、30原子%以上、40原子%以上、50原子%以上又は55原子%以上とし、かつ90原子%以下、特には85原子%以下、80原子%以下、75原子%以下、70原子%以下又は65原子%以下とし、例えば5原子%超90原子%以下、10原子%以上80原子%以下、10原子%以上70原子%以下、20原子%以上70原子%以下、50原子%以上70原子%以下、又は55原子%以上65原子%以下とすることで、ニッケルの活性点数を維持しつつ、銀によるニッケルの酸化抑制効果を十分に発揮させ、その結果としてNOx還元能が顕著に改善された排ガス浄化用触媒を得ることが可能である。
【0024】
なお、本発明において「銀の平均含有量」とは、二元金属粒子中に含まれる銀原子とニッケル原子の合計原子数に対する銀原子数の割合を言うものである。例えば、本発明における「銀の平均含有量」は、二元金属粒子を合成する際に導入される銀前駆体及びニッケル前駆体の各量に基づいて算出することも可能であるし、あるいはまた触媒担体への担持前又はその後に二元金属粒子を光学的な方法を用いて分析することにより算出することも可能である。
【0025】
本発明の排ガス浄化用触媒では、二元金属粒子は、任意の適切な量において後で説明する触媒担体上に担持することができる。特に限定されないが、例えば、二元金属粒子は、当該二元金属粒子中に含まれる銀及び/又はニッケルの量が触媒担体に対して、一般的に、0.01wt%以上、0.1wt%以上、0.5wt%以上、1wt%以上、若しくは2wt%以上、及び/又は10wt%以下、8wt%以下、7wt%以下、若しくは5wt%以下となるような範囲において当該触媒担体上に担持することができる。
【0026】
[触媒担体]
本発明によれば、上記の銀とニッケルからなる二元金属粒子が担持される触媒担体としては、特に限定されないが、排ガス浄化用触媒の技術分野において一般に触媒担体として用いられる任意の金属酸化物を使用することができる。このような触媒担体としては、例えば、シリカ(SiO2)、ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)、アルミナ(Al23)、チタニア(TiO2)又はそれらの組み合わせ等が挙げられる。なお、触媒担体としては、上記のとおりアルミナ(Al23)を使用することが可能であるものの、アルミナは触媒成分であるニッケルと反応して固溶体を形成する場合があり得る。このような場合には、最終的に得られる排ガス浄化用触媒について十分な排ガス浄化活性、特には十分なNOx還元活性を達成できない虞がある。したがって、触媒担体としては、アルミナを含まない材料を使用することがより好ましい。
【0027】
<排ガス浄化用触媒の製造方法>
本発明では、上記の銀とニッケルからなる二元金属粒子を触媒担体に複数担持してなる排ガス浄化用触媒の製造方法がさらに提供され、当該製造方法は、銀とニッケルを含有するターゲット材料をスパッタリングすることによりイオン液体中に銀とニッケルからなる二元金属粒子を堆積させる堆積工程、及び得られた二元金属粒子を触媒担体に担持する担持工程を含むことを特徴としている。
【0028】
まず第一に、銀とニッケルは、より大きな体積を有するバルクの状態では固溶しない系であり、それゆえ銀とニッケルを原子レベル又はナノレベルで共存させた二元金属粒子を製造することは一般に非常に困難である。
【0029】
ここで、複数の金属元素を触媒担体に担持してなる排ガス浄化用触媒を製造する方法としては、例えば、各金属元素をそれらの塩を含む混合溶液を用いて触媒担体に単に含浸担持するいわゆる共含浸法が一般に公知である。しかしながら、このような従来の共含浸法では、銀とニッケルの特定の組み合わせにおいてそれらの金属元素をナノレベルで共存させた二元金属粒子を形成することはできない。また、このような方法によって得られた排ガス浄化用触媒では、銀とニッケルがそれぞれ銀粒子及びニッケル粒子として別々に触媒担体上に存在し、それゆえ銀によるニッケルの酸化抑制効果等を得ることもできないと考えられる。したがって、従来の共含浸法によって銀とニッケルを触媒担体に担持してなる排ガス浄化用触媒では十分なNOx還元能を達成することはできない。
【0030】
加えて、例えば、含浸法によって調製した銀担持触媒とニッケル担持触媒のそれぞれを粉末状態において単に混合したいわゆる物理混合触媒についても、共含浸法の場合と同様に、銀とニッケルがそれぞれ銀粒子及びニッケル粒子として別々に触媒担体上に存在するため、銀によるニッケルの酸化抑制効果等を得ることはできない。
【0031】
一方、複数の金属元素を含む金属粒子を製造する方法の1つとして、当該金属粒子を構成する各金属元素の塩を含む混合溶液にアルコール等の還元剤を添加し、必要に応じて加熱等を行いながら、混合溶液中に含まれる各金属元素のイオンを同時に還元する方法が知られている。例えば、J.Phys.Chem.1933,97,5103−5114では、アルコール還元によって金とパラジウムを含む金属粒子を製造する方法が記載されている。また、特開2012−163059号公報では、先に記載したとおり、Au塩、Fe塩、さらにはポリビニルピロリドン(PVP)等の保護剤を含有する溶液に還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを添加して当該溶液中に含まれるAuイオンとFeイオンを還元し、そうして得られたAuとFeからなる金属粒子を触媒担体の粉末に担持する方法が記載されている。
【0032】
しかしながら、上記のような還元剤を用いた金属粒子の製造方法は、溶液中に溶解している各金属元素の塩又はイオンを還元する工程を含むため、当該各金属元素の塩又はイオンの還元されやすさに差がある場合には、各金属元素がナノレベルで共存した金属粒子を形成することは非常に困難である。より具体的に説明すると、例えば、銀イオンとニッケルイオンを含有する混合溶液にアルコール等の還元剤を添加した場合には、銀イオンとニッケルイオンが当該還元剤によって同時には還元されずに、ニッケルイオンに比べて還元されやすい銀イオンが優先的に還元されて粒成長すると考えられる。その結果として、銀とニッケルがナノレベルで共存した二元金属粒子は生成されずに、銀とニッケルの相が分離して銀粒子とニッケル粒子がそれぞれ生成してしまうものと考えられる。
【0033】
したがって、たとえこのような従来公知の方法を銀とニッケルの特定の金属元素の組み合わせに対して適用したとしても、これらの金属元素がナノレベルで共存した二元金属粒子を製造することは極めて難易度が高い。また、たとえこのような方法によって銀とニッケルを含む金属粒子を製造したとしても、これらの金属元素がナノレベルで共存していなければ、銀とニッケルを組み合わせたことによる特有の効果、すなわち銀によるニッケルの酸化抑制効果が得られる可能性も低いと考えられる。
【0034】
加えて、上記の還元剤を用いた金属粒子の製造方法において、特に還元剤として水素化ホウ素ナトリウム等を使用した場合には、生成した金属粒子を含む溶液中には当然ながら還元剤としての水素化ホウ素ナトリウムが残留している。そして、この水素化ホウ素ナトリウムは当該溶液を単に乾燥等させただけでは十分に分解除去することができない。したがって、当該金属粒子を触媒担体に担持する場合には、金属粒子と水素化ホウ素ナトリウムを含む上記溶液に精製処理等を施して当該溶液から水素化ホウ素ナトリウムを取り除く必要があり、それゆえ工程が複雑である。
【0035】
本発明者らは、従来公知の共含浸法や還元剤を用いた方法とは異なり、銀とニッケルを含有するターゲット材料を使用し、それをイオン液体中にスパッタリングすることによって当該イオン液体中に銀とニッケルからなる二元金属粒子を堆積させることができることを見出した。また、本発明者らは、そうして得られた二元金属粒子を含む分散液中に触媒担体又は当該触媒担体を含む分散液を導入し、次いで適切な熱処理を施すことにより、銀とニッケルがナノレベルで共存した二元金属粒子、特には銀とニッケルからなりかつ0nm超100nm未満の平均粒径を有する二元金属粒子を触媒担体に担持してなる排ガス浄化用触媒であって、NOx還元能が顕著に改善された排ガス浄化用触媒を得ることができることをさらに見出した。
【0036】
図1は、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法を模式的に示した図である。図1を参照して本発明の方法を具体的に説明すると、例えば、まず、銀1とニッケル2を含有するターゲット材料3をスパッタリング装置内の陰極上に設置し、そしてイオン液体4を載せたガラス基板5等を陽極上に配置する。次いで、スパッタリング装置のチャンバー内を希ガスや窒素等の不活性ガス、特にはアルゴン(Ar)ガスを含有する減圧雰囲気にした状態で陰極に高電圧を印加する。すると、陰極と陽極の間にグロー放電が発生し、当該グロー放電によって生じたArイオン等がターゲット材料3に衝突する。この衝突によってターゲット材料3中の銀原子6やニッケル原子7がはじき飛ばされ、そしてこれらの原子が図1(a)に示すようにイオン液体4中に堆積して二元金属粒子8が形成される。
【0037】
ここで、二元金属粒子8は金属で構成されていることから、その表面はδ+の電荷を帯びている。したがって、イオン性の性質を有するイオン液体4が当該δ+の電荷を帯びた二元金属粒子8の表面に付着すると考えられ、それによってイオン液体4が二元金属粒子8に対して保護剤的に作用し、当該二元金属粒子8同士の凝集や粒成長を抑制しかつ安定化させることができると考えられる。
【0038】
次に、スパッタリング装置から二元金属粒子8が堆積したイオン液体4を取り出し、当該イオン液体4中に触媒担体9が単独で又は分散液の状態で導入される(図1(b))。次いで、得られた分散液を適切な温度で加熱等することにより二元金属粒子8を触媒担体9上に担持させる(図1(c))。最後に、この分散液から濾過等により粉末を分離し、次いで必要に応じて洗浄等によりイオン液体を十分除去した後、乾燥等することで、触媒担体9に二元金属粒子8を複数担持してなる排ガス浄化用触媒10を得ることができる(図1(d))。
【0039】
[ターゲット材料]
本発明の方法によれば、銀とニッケルを含有するターゲット材料としては、任意の適切な材料を使用することができ、特に限定されないが、例えば、銀とニッケルを交互に配列したターゲット材料や、銀粉末とニッケル粉末を混合して成型及び焼結等したミクロ混合ターゲットなどを使用することができる。本発明の方法の1つの好ましい態様によれば、銀とニッケルを含有するターゲット材料としては、例えば、図2に示すように、銀板とニッケル板を放射状に交互に配列した円板状材料を使用することができる。このような円板状のターゲット材料によれば、銀板及びニッケル板の面積又は面積比を適切に変更することで、所望の銀又はニッケル含有量を有する二元金属粒子を比較的容易に合成することが可能である。ただし、銀とニッケルとを比較すると、一般に銀のほうがスパッタリングによってはじき飛ばされやすく、ニッケルのほうがはじき飛ばされにくい金属であるため、このような特性を考慮してターゲット材料における銀とニッケルの組成比等を決定することが好ましい。
【0040】
[イオン液体]
本発明の方法によれば、二元金属粒子が堆積されるイオン液体としては、陽イオンと陰イオンのみから構成される塩であるにもかかわらず常温で液体である任意の化合物を使用することができる。
【0041】
ここで、イオン液体は、高温安定性であり液体温度範囲が広い、蒸気圧が略ゼロ、イオン性でありながら低粘性、高い酸化・還元耐性などの特性を有しており、本発明の方法におけるような真空又は減圧下でのスパッタリング条件のもとでも蒸発することなく、安定に液体として存在することが可能である。また、イオン液体は、スパッタリングの際に高温になることがあるが、このような場合でも、その高温安定性のために分解等することなく安定に存在することが可能である。
【0042】
さらに、このようなイオン液体は、イオン性を有していることから、先に述べたとおり、δ+の電荷を帯びた二元金属粒子の表面に付着して当該二元金属粒子同士の凝集や粒成長を抑制しかつ安定化させることができると考えられる。したがって、本発明の方法において使用されるイオン液体を適切に選択することで、合成される二元金属粒子の平均粒径等を所望の範囲に制御することが可能である。なお、本発明の方法において適用されるイオン液体は、親水性であってもあるいは疎水性であってもよく、またその種類は特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体、又はそれらの組み合わせなどを挙げることができる。
【0043】
脂肪族系イオン液体としては、例えば、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下、「TMPA−TFSA」ともいう)、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩、又はそれらの組み合わせなどを挙げることができ、好ましくはTMPA−TFSA等を使用することができる。
【0044】
イミダゾリウム系イオン液体としては、例えば、1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩、1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム塩、又はそれらの組み合わせなどを挙げることができる。そして、1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩としては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩(以下、「EMI−BF4」ともいう)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩(以下、「BMI−PF6」ともいう)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩(以下、「BMI−BF4」ともいう)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、又はそれらの組み合わせなどを挙げることができる。また、1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム塩としては、例えば、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、又はそれらの組み合わせなどを挙げることができる。これらのうち、好ましくはEMI−BF4、BMI−PF6、BMI−BF4等を使用することができる。
【0045】
ピリジニウム系イオン液体としては、例えば、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、ヘキシルピリジニウム塩、又はそれらの組み合わせなどを挙げることができる。そして、エチルピリジニウム塩としては、例えば、1−エチルピリジニウムブロマイド、1−エチルピリジニウムクロライド、又はそれらの組み合わせなどを挙げることができる。また、ブチルピリジニウム塩としては、例えば、1−ブチルピリジニウムブロマイド、1−ブチルピリジニウムクロライド、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、又はそれらの組み合わせなどを挙げることができる。一方、ヘキシルピリジニウム塩としては、例えば、1−ヘキシルピリジニウムブロマイド、1−ヘキシルピリジニウムクロライド、1−ヘキシルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、又はそれらの組み合わせなどを挙げることができる。
【0046】
なお、上記のイオン液体は、本発明の方法において使用する際には、乾燥前処理として、例えば、減圧下で所定の時間にわたって加熱等することにより水分を十分に除去することが好ましい。
【0047】
[堆積工程]
本発明の方法によれば、堆積工程において、銀とニッケルを含有するターゲット材料をスパッタリングすることにより、上記のイオン液体中に銀とニッケルからなる二元金属粒子が堆積される。このようなスパッタリングは、任意の適切な条件下で行うことができる。特に限定されないが、例えば、使用されるガスとしては、希ガス等の不活性ガス、特にはアルゴン(Ar)ガスが好ましく、圧力は一般的には20Pa以下とすることが好ましい。また、スパッタリング電流の大きさは、ターゲット材料の組成やスパッタリング装置等に応じて適宜設定すればよい。さらに、スパッタリング時間は、二元金属粒子の所望の堆積量や、他のパラメータ等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、数十分から数時間あるいは数十時間の間で適切に設定することができる。なお、銀とニッケルからなる二元金属粒子の所望の堆積量を達成するために長時間のスパッタリング操作を必要とするような場合には、イオン液体の温度が過度に上昇することを防ぐために、例えば、スパッタリング操作を数時間ごとに複数回に分けて実施するようにしてもよい。
【0048】
[担持工程]
本発明の方法によれば、上記の堆積工程において得られた二元金属粒子は、次の担持工程において触媒担体に担持される。ここで、当該担持工程において導入される触媒担体としては、特に限定されないが、排ガス浄化用触媒の技術分野において一般に触媒担体として用いられる任意の金属酸化物を使用することができる。このような触媒担体としては、先に述べたとおり、例えば、シリカ(SiO2)、ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)、アルミナ(Al23)、チタニア(TiO2)又はそれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0049】
なお、担持工程においては、先の堆積工程で合成した銀とニッケルからなる二元金属粒子を含む分散液を、例えば、所定量の溶剤に分散させた金属酸化物(触媒担体)の粉末に、銀及び/又はニッケルの量が当該触媒担体に対して一般的に0.01〜10wt%の範囲になるような量において添加する。次いで、この混合分散液が、二元金属粒子を触媒担体に担持するのに十分な温度及び時間において加熱され、必要に応じて攪拌等される。一般的には、上記の加熱は、不活性雰囲気下、例えば窒素雰囲気下において約80℃〜約250℃の温度で約5分〜約5時間、好ましくは約10分〜約1時間にわたって実施することができる。
【0050】
次に、二元金属粒子が担持された触媒担体を含む分散液から濾過等により粉末を分離し、次いで必要に応じてアセトニトリルなどの溶剤を用いて当該粉末を洗浄することによりイオン液体を十分に除去した後、乾燥等することで、触媒担体に二元金属粒子を複数担持してなる排ガス浄化用触媒を得ることができる。一般的には、このような乾燥は、減圧下又は常圧下において約80℃〜約250℃の温度で約1時間〜約24時間にわたって実施することができる。
【0051】
なお、本発明の方法において堆積工程において使用したイオン液体は、その後の担持工程における分離操作や乾燥処理によっては十分に除去することができない場合がある。したがって、本発明の方法は、イオン液体を確実に分解しそして除去するために、上記の担持工程の後に焼成工程をさらに含むことが好ましい。具体的には、上記の担持工程において得られた排ガス浄化用触媒を、酸化性雰囲気中、例えば空気中において、比較的高い温度、特には300℃超800℃以下の温度において熱処理することが好ましい。このような熱処理により触媒上に不純物として残留する場合があるイオン液体を確実に分解除去することができるので、最終的に得られる排ガス浄化用触媒においてより高い排ガス浄化活性、特にはより高いNOx還元活性を達成することが可能である。
【0052】
また、本発明の方法においては、上記担持工程又は焼成工程の後に任意選択で還元工程をさらに実施してもよい。本発明の方法によって得られた排ガス浄化用触媒を当該還元工程において還元処理することで二元金属粒子中のニッケルを活性の高いメタルの状態に確実に還元することができる。なお、このような還元処理は、当業者に公知の任意の方法によって行うことができる。例えば、本発明の方法によって得られた排ガス浄化用触媒の粉末を還元性雰囲気中、特には水素含有雰囲気中300〜800℃の温度で5分〜3時間にわたり実施することができる。あるいはまた、本発明の方法によって得られた排ガス浄化用触媒の粉末を所定のバインダ等を加えてコージェライト製ハニカム基材等の触媒基材上に塗布した後に、上記の還元処理を行うようにしてもよい。
【0053】
本発明の方法によって得られた排ガス浄化用触媒は、必要に応じて、例えば、高圧下でプレスしてペレット状に成形するか、又は所定のバインダ等を加えてスラリー化し、これをコージェライト製ハニカム基材等の触媒基材上に塗布することにより使用することができる。
【0054】
なお、本明細書では、自動車の排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒について詳しく説明したが、本発明の排ガス浄化用触媒は、このような特定の技術分野に何ら限定されるものではなく、工場排ガスの浄化等、特にはNOxの浄化が必要とされる任意の技術分野において幅広く適用することが可能である。
【0055】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
以下の実施例では、Ag−Ni二元金属粒子を触媒成分として含む排ガス浄化用触媒を調製し、その特性及びNOx浄化性能について調べた。
【0057】
[実施例1]
[Ag−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量62原子%)の合成]
まず、イオン液体として、以下の式:
【化1】
で表される1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩(BMI−PF6)2.40cm3を使用し、これを乾燥前処理として120℃で3時間減圧乾燥して水分を十分に除去した。次いで、スパッタリング装置(Sanyu Electron社製SC−701HMCII4号機)内に、図2に示すようなAg板とNi板を放射状に交互に配列した円板状の交互配列ターゲット(Ag板にNi板をカーボンテープで張り付けたもの、面積比Ag:Ni=2:1)を設置した。次いで、スパッタリング装置のチャンバー内をArガスで2回置換してから圧力3.0Pa、スパッタリング電流20mAの条件下で30分間プレスパッタリングを行い、安定してスパッタリングを行うことができる状態にした。
【0058】
次に、乾燥前処理を施した上記のBMI−PF6をシャーレ(直径:70mm)に均一に広げ、それをスパッタリング装置内に入れた後、さらに30分間減圧乾燥した。次いで、圧力を3.0Pa、スパッタリング電流を20mA、そしてターゲット材料とイオン液体であるBMI−PF6との距離を6.7cmとして、150分間にわたりスパッタリングを行った。一度、大気開放した後、スパッタターゲットを新しいAg−Ni交互配列ターゲット(Ag:Ni比は同じ)と交換し、さらに同条件で150分間スパッタリングした。合計のスパッタ時間は300分とした。その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、Ag−Ni二元金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg及びNiの各濃度は、Agが33.6mM、そしてNiが20.6mMであった。この分析結果から、Ag−Ni二元金属粒子中のAg平均含有量を62原子%と算出した。
【0059】
[Ag−Ni/SiO2(Ag平均含有量62原子%)の調製]
次に、上で得られたAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量62原子%)を含む分散液3.6mLを50mLのフラスコに入れ、次いでこれに4mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)1.3gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag−Ni/SiO2(Ag平均含有量62原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は1.00wt%、Ni担持量は0.33wt%であった。
【0060】
[実施例2]
[Ag−Ni/SiO2(Ag平均含有量55原子%)の調製]
スパッタリングの途中で交互配列ターゲットを交換することなく連続して300分間スパッタリングしたこと以外は実施例1と同様にして、Ag−Ni二元金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg及びNiの各濃度は、Agが21.3mM、そしてNiが17.8mMであった。この分析結果から、Ag−Ni二元金属粒子中のAg平均含有量を55原子%と算出した。また、このサンプル合成操作を複数回繰り返して、以後の実験に必要な溶液量を得た。次に、得られたAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量55原子%)を含む分散液3.6mLを50mLのフラスコに入れ、次いでこれに4mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)0.9gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag−Ni/SiO2(Ag平均含有量55原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は0.90wt%、Ni担持量は0.39wt%であった。
【0061】
[実施例3]
[Ag−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量10原子%)の合成]
面積比Ag:Ni=1:1の交互配列ターゲットを使用したこと以外は実施例2と同様にして、これをスパッタリング装置内に設置した。次いで、スパッタリング装置のチャンバー内をArガスで2回置換してから圧力3.0Pa、スパッタリング電流20mAの条件下で30分間プレスパッタリングを行った。次に、乾燥前処理を施したBMI−PF6をシャーレに均一に広げ、それをスパッタリング装置内に入れた後、さらに30分間減圧乾燥した。次いで、圧力を3.0Pa、スパッタリング電流を20mA、そしてターゲット材料とイオン液体であるBMI−PF6との距離を6.7cmとして、300分間にわたりスパッタリングを行った。このサンプル合成操作を合計で4回行った。その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、Ag−Ni二元金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg及びNiの各濃度は、Agが11.1mM、そしてNiが105.0mMであった。この分析結果から、Ag−Ni二元金属粒子中のAg平均含有量を10原子%と算出した。
【0062】
[Ag−Ni/SiO2(Ag平均含有量10原子%)の調製]
次に、上で得られたAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量10原子%)を含む分散液6.8mLを50mLのフラスコに入れ、次いでこれに8mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)3.7gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag−Ni/SiO2(Ag平均含有量10原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は0.20wt%、Ni担持量は1.11wt%であった。
【0063】
[実施例4]
[Ag−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量5原子%)の合成]
面積比Ag:Ni=1:2の交互配列ターゲットを使用したこと以外は実施例2と同様にして、これをスパッタリング装置内に設置した。次いで、スパッタリング装置のチャンバー内をArガスで2回置換してから圧力3.0Pa、スパッタリング電流20mAの条件下で30分間プレスパッタリングを行った。次に、乾燥前処理を施したBMI−PF6をシャーレに均一に広げ、それをスパッタリング装置内に入れた後、さらに30分間減圧乾燥した。次いで、圧力を3.0Pa、スパッタリング電流を20mA、そしてターゲット材料とイオン液体であるBMI−PF6との距離を6.7cmとして、300分間にわたりスパッタリングを行った。その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、Ag−Ni二元金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg及びNiの各濃度は、Agが8.3mM、そしてNiが142.3mMであった。この分析結果から、Ag−Ni二元金属粒子中のAg平均含有量を5原子%と算出した。
【0064】
[Ag−Ni/SiO2(Ag平均含有量5原子%)の調製]
次に、上で得られたAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量5原子%)を含む分散液15mLを100mLのフラスコに入れ、次いでこれに10mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)10.5gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag−Ni/SiO2(Ag平均含有量5原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は0.11wt%、Ni担持量は1.20wt%であった。
【0065】
[実施例5]
[Ag−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量68原子%)の合成]
イオン液体として、BMI−PF6の代わりに、以下の式:
【化2】
で表されるN,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(TMPA−TFSA)2.40cm3を使用し、そしてターゲット材料としては銀粉末とニッケル粉末を混合して成型及び焼結したミクロ混合ターゲットを使用して、当該ミクロ混合ターゲットをスパッタリング装置内でTMPA−TFSAとの距離が30mmとなるように設置し、実施例1と同様にしてスパッタリングを行った。スパッタリングは、圧力5.0Pa、スパッタリング電流40mAの条件下で600秒間プレスパッタリングを行った後、150分間にわたり実施した。
【0066】
その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、再び別のTMPA−TFSA2.40cm3を同様の条件でスパッタリング装置内に設置し、同様に150分間スパッタリングを実施した。このようなスパッタリング操作を合計で6回行った。その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、6回分のイオン液体を1つのサンプルとし、さらにTMPA−TFSAで1.5倍に希釈してAg−Ni二元金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg及びNiの各濃度は、Agが30.7mM、そしてNiが14.4mMであった。この分析結果から、Ag−Ni二元金属粒子中のAg平均含有量を68原子%と算出した。
【0067】
[Ag−Ni/SiO2(Ag平均含有量68原子%)の調製]
次に、上で得られたAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量68原子%)を含む分散液15mLを100mLのフラスコに入れ、次いでこれに15mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)4.6gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してTMPA−TFSAを十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag−Ni/SiO2(Ag平均含有量68原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は1.05wt%、Ni担持量は0.27wt%であった。
【0068】
[比較例1]
[Ag/SiO2(Ag平均含有量100原子%)の調製]
Niを含まないAgターゲットを使用したこと以外は実施例1と同様にして、Ag金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のAg濃度は55.5mMであった。次に、得られたAg金属粒子を含む分散液5.2mLを50mLのフラスコに入れ、次いでこれに5mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)2.3gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag/SiO2(Ag平均含有量100原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は1.28wt%であった。
【0069】
[比較例2]
[Ni/SiO2(Ag平均含有量0原子%)の調製]
Agを含まないNiターゲットを使用し、60分間のスパッタリング操作を合計で5回行ったものを1サンプルとし、それを5サンプル作製してそれらを最終的に混合したこと以外は実施例1と同様にして、Ni金属粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のNi濃度は46.2mMであった。次に、得られたNi金属粒子を含む分散液8.2mLを50mLのフラスコに入れ、次いでこれに8mLのアセトン中に分散させたシリカ(ナノテック社製球状シリカ)1.7gを加えた。次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥した後、空気中500℃で2時間焼成することにより、Ni/SiO2(Ag平均含有量0原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ni担持量は1.26wt%であった。
【0070】
[比較例3]
[含浸法によるAg/SiO2(Ag平均含有量100原子%)の調製]
本比較例では、従来の含浸法によってAgのみをシリカに担持したAg/SiO2(Ag平均含有量100原子%)を調製した。具体的には、まず、300mLのビーカーに蒸留水50mLを入れ、これに硝酸銀(I)(AgNO3)0.32gを加えて室温で攪拌した。これらを完全に溶解させた後、シリカ(ナノテック社製球状シリカ)15gを加えて加熱し分散媒を除去した。次いで、120℃で1時間乾燥した後、これを乳鉢で粉砕して均一な粉状にし、得られた粉末を空気中500℃で2時間焼成することにより、Ag/SiO2(Ag平均含有量100原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ag担持量は1.35wt%であった。
【0071】
[比較例4]
[含浸法によるNi/SiO2(Ag平均含有量0原子%)の調製]
本比較例では、従来の含浸法によってNiのみをシリカに担持したNi/SiO2(Ag平均含有量0原子%)を調製した。具体的には、まず、300mLのビーカーに蒸留水50mLを入れ、これに硝酸ニッケル(II)六水和物(Ni(NO32・6H2O)1.00gを加えて室温で攪拌した。これらを完全に溶解させた後、シリカ(ナノテック社製球状シリカ)15gを加えて加熱し分散媒を除去した。次いで、120℃で1時間乾燥した後、これを乳鉢で粉砕して均一な粉状にし、得られた粉末を空気中500℃で2時間焼成することにより、Ni/SiO2(Ag平均含有量0原子%)からなる排ガス浄化用触媒を得た。なお、Ni担持量は1.35wt%であった。
【0072】
[比較例5]
[含浸法によるAg/SiO2とNi/SiO2の物理混合触媒(Ag:Ni比(原子比)=52:48)の調製]
本比較例では、Ag/SiO2とNi/SiO2を単に物理混合することによってAg/SiO2とNi/SiO2からなる排ガス浄化用触媒を調製した。具体的には、まず、硝酸銀(I)(AgNO3)を0.27gとしたこと以外は比較例3と同様にしてAg/SiO2からなる触媒を得た。次に、硝酸ニッケル(II)六水和物(Ni(NO32・6H2O)を0.14gとしたこと以外は比較例4と同様にしてNi/SiO2からなる触媒を得た。最後に両触媒を混合し、乳鉢で粉砕してAg/SiO2とNi/SiO2からなる排ガス浄化用触媒(Ag:Ni比(原子比)=52:48)を得た。なお、Ag担持量は0.90wt%、Ni担持量は0.45wt%であった。
【0073】
[金属粒子の分析]
実施例1〜5並びに比較例1及び2において得られた各金属粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM)(日立製H−7650)によってそれらの測定を行った。なお、測定試料としては、触媒担体に担持する前の実施例1〜5並びに比較例1及び2におけるAg−Ni二元金属粒子、Ag金属粒子又はNi金属粒子を含む各分散液を使用した。そして、多数の粒子の粒径を測定してヒストグラムを作成し、実施例1〜5並びに比較例1及び2における各金属粒子の平均粒径(dav)と標準偏差(σ)を算出した。これらの結果を図3〜9及び下表1に示す。なお、下表1には、実施例1〜5及び比較例1〜5の各排ガス浄化用触媒に関する触媒構成や各金属の担持量等についても併せて示している。
【0074】
【表1】
【0075】
図3〜9は、実施例1〜5並びに比較例1及び2における各金属粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)による分析結果を示し、具体的には各金属粒子のTEMによる写真と、写真中の多数の金属粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示している。
【0076】
まず、実施例1〜3及び5に関する図3〜5及び7のTEM写真及びヒストグラムを参照すると、一部に一次粒子の凝集が散見されるものの(例えば、図3(b)や図4(a)中の黒い大きな粒子の塊)、約3nm又はそれよりも小さい平均粒径を有する非常に微細な一次粒子が形成されていることがわかる。
【0077】
次に、実施例4のAg−Ni二元金属粒子(Ag平均含有量5原子%)に関する図6のTEM写真を参照すると、必ずしも粒子の形態を示していないアモルファスのニッケル酸化物と推測されるものが観察され、平均粒径も他の実施例のものと比較してわずかに高い傾向を示した。この結果は、実施例4のAg−Ni二元金属粒子では、Agの平均含有量が比較的低いために、AgによるNiの酸化抑制効果が他の実施例のものと比較して小さいことを示唆していると考えられる。
【0078】
一方で、比較例1のNiを含まないAgのみからなる金属粒子は、平均粒径が6.6nmと他のものと比較して大きく(図8)、また、比較例2のAgを含まないNiのみからなる金属粒子については、アモルファスのニッケル酸化物と推測される像が観察された(図9(a))。
【0079】
[触媒の分析]
実施例2、3及び5並びに比較例1及び2において得られた各排ガス浄化用触媒について、エネルギー分散型X線分析装置付走査透過型電子顕微鏡(STEM−EDX)(JEOL製JEM1000)によってそれらの測定を行った。これらの結果を図10〜12に示す。
【0080】
図10〜12は、実施例2、3及び5の各排ガス浄化用触媒のSTEM−EDXによる分析結果を示している。具体的には、図10〜12は、(a)が実施例2、3及び5の各排ガス浄化用触媒のSTEM−EDXによる写真を示し、(b)が(a)中の金属粒子に関する各測定点におけるAgとNiの組成比(原子%)を示している。
【0081】
図10(a)及び11(a)を参照すると、イオン液体としてBMI−PF6を使用してAg−Ni二元金属粒子を合成した実施例2及び3の各排ガス浄化用触媒では、平均粒径が明らかに10nm以下の非常に微細な金属粒子がシリカ担体上に存在していることを確認することができる。なお、図中の金属粒子以外の大きな白い像はシリカである。また、図中の多くの金属粒子においてその粒径が5nm以下であった。
【0082】
これに対し、図12(a)を参照すると、イオン液体としてTMPA−TFSAを使用してAg−Ni二元金属粒子を合成した実施例5の排ガス浄化用触媒では、実施例2及び3の排ガス浄化用触媒(図10(a)及び11(a))と比較して、金属粒子の粒径が幾分大きくなる傾向が観察された。一方で、イオン液体中に二元金属粒子を堆積させた直後のTEM写真(図4、5及び7)では、実施例2、3及び5のAg−Ni二元金属粒子の粒径に大きな差異は観察されなかった。
【0083】
したがって、イオン液体については、BMI−PF6のほうがTMPA−TFSAよりもAg−Ni二元金属粒子に対する保護力、すなわちAg−Ni二元金属粒子同士の凝集や粒成長を抑制する能力が高いと考えられる。逆に言えば、イオン液体としてTMPA−TFSAを使用した実施例5の排ガス浄化用触媒では、Ag−Ni二元金属粒子の堆積工程から担持工程までの間に当該Ag−Ni二元金属の一部が凝集してしまったものと考えられる。しかしながら、いずれにしても、実施例2、3及び5の各排ガス浄化用触媒において、触媒担体への担持操作、さらには空気中500℃の焼成処理後においても、Ag−Ni二元金属粒子が非常に微細な粒子サイズに維持されることを確認した。
【0084】
次に、図10(b)を参照すると、実施例2の排ガス浄化用触媒では、金属粒子に関する測定点1〜6のうち全ての測定点においてAgとNiの両方の元素が検出されていることがわかる。また、図11(b)においても、金属粒子に関する測定点1〜10のうち測定点4を除く9個の測定点においてAgとNiの両方の元素が検出され、同様に、図12(b)でも、測定点10を除く全ての測定点においてAgとNiの両方の元素が検出された。これらの結果は、実施例2、3及び5の各排ガス浄化用触媒において同一の金属粒子内にAgとNiがナノレベルで共存していることを示唆するものである。
【0085】
次に、比較例1の排ガス浄化用触媒(Ag/SiO2)に関する図13のSTEM写真を参照すると、触媒担体であるシリカ上に微細なAg金属粒子が観察され、担持後においても担持前と同様の粒径が維持されていることを確認した。一方で、比較例2の排ガス浄化用触媒(Ni/SiO2)に関する図14のSTEM写真を参照すると、金属粒子の存在を明確には確認できなかったが、EDXによる分析からNiが存在することを確認した。
【0086】
[触媒の活性評価]
次に、実施例1〜5及び比較例1〜5の各排ガス浄化用触媒に関し、下記式(1)のNO−CO反応:
NO + CO → 1/2N2 + CO2 (1)
においてそれらのNOx還元能を評価した。具体的には、上で調製した各排ガス浄化用触媒の粉末を196MPaの圧力で圧粉成型した後、ふるいにかけて1.0〜1.7mmのペレット触媒を得た。次いで、このペレット触媒0.2gを流通型反応炉に入れ、1vol%H2/N2バランスからなる還元性ガスの流通下において600℃で30分間にわたり還元処理した。その後、同じ雰囲気の下で100℃以下まで冷却した。次に、評価用モデルガス(NO:3000ppm、CO:3000ppm、N2バランス)を1L/分の流量で触媒床に流しながら、当該触媒床の温度を100℃から20℃/分の速度で昇温し、600℃までのNO転化率をFT−IR分析計を用いて測定した。その結果を図15に示す。
【0087】
図15(a)は、実施例1〜4並びに比較例1及び2の各排ガス浄化用触媒に関するNO転化率(%)を示すグラフであり、図15(b)は、実施例5及び比較例3〜5の各排ガス浄化用触媒に関するNO転化率(%)を示すグラフである。図15(a)及び(b)は、横軸に触媒床の温度(℃)を示し、縦軸にNO転化率(%)を示している。
【0088】
なお、図15(a)中の約220℃付近のピークは、FT−IR分析計の結果から主として一酸化二窒素(N2O)の生成に関するものであることを確認した。すなわち、この部分では、上記式(1)の反応よりはむしろ、下記式(2):
2NO + CO → N2O + CO2 (2)
の反応が進行しており、それよりも高い温度、特には300℃よりも高い温度において上記式(1)の反応が主として進行し、NOがN2に還元浄化されている。
【0089】
ここで、図15(a)及び(b)の特に300℃を超える温度領域における結果から明らかなように、Agのみを担持した比較例1及び3の排ガス浄化用触媒はすべての触媒の中で最も低いNOx転化率、特にはNOx還元能を示した。このことから、AgはNOxの還元に対してほとんど活性を示さないことがわかる。一方で、Niのみを担持した比較例2及び4の排ガス浄化用触媒、さらにはAg担持触媒とNi担持触媒を物理混合した比較例5の排ガス浄化用触媒では、上記比較例1及び3の排ガス浄化用触媒よりは高いNOx転化率を示したものの、十分な触媒活性を達成することはできなかった。
【0090】
これに対し、本発明によれば、Agの平均含有量が比較的低い実施例4の排ガス浄化用触媒(Ag平均含有量5原子%)については、Niのみを担持した比較例2の排ガス浄化用触媒とほぼ同等のNOx転化率であったが、他の実施例1〜3及び5の排ガス浄化用触媒では、比較例2の排ガス浄化用触媒と比較して、すべての温度において非常に高いNOx転化率を達成することができた。これは、図10〜12等において示したように、AgとNiを同一の金属粒子内にナノレベルで共存させることで、図9(a)のTEM写真において比較例2の金属粒子に関して観察されたようなNiの酸化が抑制されたことに起因するものであると考えられる。
【0091】
同様に、実施例1〜3及び5の排ガス浄化用触媒では、Agのみを担持した比較例1の排ガス浄化用触媒、Agを含浸担持した比較例3の排ガス浄化用触媒、Niを含浸担持した比較例4の排ガス浄化用触媒、及びAg担持触媒とNi担持触媒を物理混合した比較例5の排ガス浄化用触媒と比較しても、すべての温度において非常に高いNOx転化率を達成することができた。なお、イオン液体としてTMPA−TFSAを使用した実施例5の排ガス浄化用触媒では、イオン液体としてBMI−PF6を使用しかつ比較的近いAg平均含有量を有する実施例1の排ガス浄化用触媒と比較してわずかに低いNOx転化率を示した。これは、図12等に関連して説明したように、BMI−PF6と比較してAg−Ni二元金属粒子に対するTMPA−TFSAの保護力が低く、それゆえ実施例5の排ガス浄化用触媒ではAg−Ni二元金属粒子の一部が凝集してしまったことに起因するものと考えられる。
【符号の説明】
【0092】
1 銀
2 ニッケル
3 ターゲット材料
4 イオン液体
5 ガラス基板
6 銀原子
7 ニッケル原子
8 二元金属粒子
9 触媒担体
10 排ガス浄化用触媒
図1
図2
図15
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14