特許第5969414号(P5969414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969414
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】温度センサ
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/22 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   G01K7/22 L
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-46169(P2013-46169)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-173964(P2014-173964A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(72)【発明者】
【氏名】宮原 明宏
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−212195(JP,A)
【文献】 特開2011−127938(JP,A)
【文献】 特開2012−247243(JP,A)
【文献】 特開2007−240341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度に応じて抵抗値が変化する感熱部、および、延伸方向に沿って延び、一端側が前記感温部にそれぞれ接続される一対の第一導電線を有する感熱素子と、
前記延伸方向に沿って延び、一端側が、前記第一導電線の他端にそれぞれ接続され、他端側が、前記第一導電線の一端側とは反対側へそれぞれ向けられて配置される第二導電線と、
前記延伸方向に延び、自身を前記延伸方向に貫通する一対の孔部を有する絶縁性の絶縁部材であって、前記第一導電線の他端部と前記第二導電線の一端部とが接合する接合部を前記孔部内にそれぞれ配置する絶縁部材と、
を備える温度センサであって、
少なくとも前記孔部内における前記接合部の配置位置に対応する前記絶縁部材の外周面に、前記延伸方向に沿って延びる溝状に設けられ、前記一対の孔部それぞれの内部と外部とを接続する一対のスリット部と、
前記孔部のうち、少なくとも前記スリット部に接続される部位に設けられ、少なくとも前記接合部を前記孔部の内周面に固定する固定部材と、
を備え、
前記スリット部の開口幅は、前記孔部の孔径よりも小さく、前記孔部には、前記スリット部の開口幅よりも大きな寸法を内包する断面形状を有する前記第二導電線が配置されてなることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
前記絶縁部材は、前記延伸方向において、前記孔部内に前記接合部を配置したときに前記第一導電線の一端側が配置される側の端部である第一端部から、前記接合部の配置位置にかけての前記外周面に、前記スリット部の開口が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
前記絶縁部材は、前記延伸方向において、前記第一端部から、前記接合部の配置位置よりも、前記第一端部とは反対側の端部である第二端部寄りの位置にかけての前記外周面に、前記スリット部の開口が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の温度センサ。
【請求項4】
前記絶縁部材は、前記延伸方向において、前記孔部内に前記接合部を配置したときに前記第一導電線の一端側が配置される側の端部である第一端部から、前記第一端部とは反対側の端部である第二端部にかけての前記外周面に、前記スリット部の開口が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項5】
前記延伸方向と直交し、前記スリット部の形成位置を含む前記絶縁部材の断面において、前記一対のスリット部は、前記一対の孔部の内周面と前記絶縁部材の前記外周面との距離が最も小さい部位にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度に応じて抵抗値が変化する感熱素子を備えた温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気管等の排気ガス流路を流れる排気ガスの温度を、感熱素子(例えば、サーミスタ素子)によって検出する温度センサが知られている。例えば、特許文献1に記載の温度センサは、金属チューブの先端部内にサーミスタ素子を備える。サーミスタ素子に接続して出力を取り出す一対のジュメット線は、金属チューブ内を挿通する一対の導電線に、抵抗溶接によって接続する。導電線は、金属チューブの後端部において、外部機器との電気的な接続を担う一対のリード線と接続する。金属チューブは、内部に、軸方向に貫通する2つの孔部を有する絶縁管を配置する。一対の導電線はそれぞれの孔部内を挿通し、金属チューブおよび互いの導電線との絶縁状態を確保する。
【0003】
一般に、ニッケル線を銅で被覆したジュメット線は、ステンレス合金等を用いた導電線よりも引張強度が低い。ジュメット線の破断を防止するため、絶縁管は、孔部内に充填されるセメント等の固定部材によって、導電線を孔部内に固定する。近年、温度センサの性能向上に伴う絶縁管の細径化によって、従来よりも細くなった孔部と導電線との間隙に、固定部材を充填しにくいという問題がある。特許文献1に記載の絶縁管は、孔部内でジュメット線と導電線との接続部が配置される部位に対応する外側面に、2つの孔部を露出する切欠部を形成する。切欠部から孔部内に固定部材が充填され、絶縁管は、それぞれの孔部に一対の導電線を確実に固定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−247243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の絶縁管は、切欠部が2つの孔部を露出する大きさであるため、切欠部の形成部位において、特に軸と直交する方向へ向けた外力受けた場合の強度が他の部位よりも低下する可能性があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、固定部材を孔部内に容易に配置でき、且つ、絶縁部材の強度を確保することができる温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様によれば、温度に応じて抵抗値が変化する感熱部、および、延伸方向に沿って延び、一端側が前記感温部にそれぞれ接続される一対の第一導電線を有する感熱素子と、前記延伸方向に沿って延び、一端側が、前記第一導電線の他端にそれぞれ接続され、他端側が、前記第一導電線の一端側とは反対側へそれぞれ向けられて配置される第二導電線と、前記延伸方向に延び、自身を前記延伸方向に貫通する一対の孔部を有する絶縁性の絶縁部材であって、前記第一導電線の他端部と前記第二導電線の一端部とが接合する接合部を前記孔部内にそれぞれ配置する絶縁部材と、を備える温度センサであって、少なくとも前記孔部内における前記接合部の配置位置に対応する前記絶縁部材の外周面に、前記延伸方向に沿って延びる溝状に設けられ、前記一対の孔部それぞれの内部と外部とを接続する一対のスリット部と、前記孔部のうち、少なくとも前記スリット部に接続される部位に設けられ、少なくとも前記接合部を前記孔部の内周面に固定する固定部材と、を備え、前記スリット部の開口幅は、前記孔部の孔径よりも小さく、前記孔部には、前記スリット部の開口幅よりも大きな寸法を内包する断面形状を有する前記第二導電線が配置されてなる温度センサが提供される。
【0008】
スリット部は、固定部材を孔部に設けて接合部を孔部の内周面に固定するため、接合部に対応する外周面の位置に開口するが、スリット状であるので開口幅は細い。ゆえに、絶縁部材において、スリット部として欠ける部分を支える部位の肉厚を大きく確保できる。よって、絶縁部材は、特に径方向への折れ曲がりに対して十分な強度を確保することができる。また、第二導電線は、断面形状でみたときに、スリット部の開口幅よりも大きな寸法を内包する大きさを有する。ゆえに温度センサの組み立て時に第二導電線を孔部内に挿通したとき、第二導電線がスリット部を介して抜け出すことがなく、組み立てが容易である。また、スリット部を設けたことで、接合部の配置位置に固定部材を設ける際あるいは設けた後に、スリット部を覗き込んで、固定部材による接合部の固定状態を確認することも可能となる。
【0009】
第1態様において、前記絶縁部材は、前記延伸方向において、前記孔部内に前記接合部を配置したときに前記第一導電線の一端側が配置される側の端部である第一端部から、前記接合部の配置位置にかけての前記外周面に、前記スリット部の前記開口部が形成されていてもよい。孔部内で接合部を配置する位置に対応する外周面の位置に開口したスリット部は、絶縁部材の全体には開口しないので、絶縁部材は強度を確保できる。スリット部は、絶縁部材の第一端部を起端として形成するので、少なくとも第一端部側においてはスリット部形成における位置決めを省略でき、手間を軽減できる。
【0010】
第1態様において、前記絶縁部材は、前記延伸方向において、前記第一端部から、前記接合部の配置位置よりも、前記第一端部とは反対側の端部である第二端部寄りの位置にかけての前記外周面に、前記スリット部の前記開口部が形成されていてもよい。スリット部を、第一端部側から、接合部の配置位置を超えて第二端部寄りの位置にかけての部分に形成するので、接合部の配置位置に固定部材を設ける際あるいは設けた後に、第一端部側から覗き込むだけでなく、第二端部側から覗き込んでも、固定部材による接合部の固定状態を確認できる。
【0011】
第1態様において、前記絶縁部材は、前記延伸方向において、前記孔部内に前記接合部を配置したときに前記第一導電線の一端側が配置される側の端部である第一端部から、前記第一端部とは反対側の端部である第二端部にかけての前記外周面に、前記スリット部の前記開口部が形成されていてもよい。スリット部を絶縁部材の全長にわたって設けることで、絶縁部材の作製時に第一端部側と第二端部側の両方側においてスリット部形成における位置決めを省略でき、手間を軽減できる。また、スリット部を全長に形成したことによって、絶縁部材の延伸方向における方向性を考慮することなく用いることができる。つまり、温度センサの製造時に、絶縁部材の向きを特定する必要がなく、第二導電線を絶縁部材の第一端部側から挿入しても第二端部側から挿入してもよいので、温度センサの組み立てにおけるリードタイムを短縮することができる。
【0012】
第1態様において、前記延伸方向と直交し、前記スリット部の形成位置を含む前記絶縁部材の断面において、前記一対のスリット部は、前記一対の孔部の内周面と前記絶縁部材の前記外周面との距離が最も小さい部位にそれぞれ形成されていてもよい。スリット部の形成位置は、スリット部を構成する溝の深さが最も浅い部分となる。ゆえに、固定部材をスリット部に設ける上で開口から固定部材を注入したときに孔部内に到達させやすい。このため、溝内で固定部材の注入が留まってしまったり、到達しても接合部を覆うまでに至らなかったりするおそれを軽減できる。また、固定部材の使用量を減らすことができ、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】温度センサ100の縦断面図である。
図2】絶縁管4の斜視図である。
図3図2の一点鎖線A−Aにおいて矢視方向から見た絶縁管4の断面図である。
図4】絶縁管104の斜視図である。
図5図4の一点鎖線B−Bにおいて矢視方向から見た絶縁管104の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した温度センサの実施形態について、図面を参照して説明する。参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いるものであり、記載している装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0015】
図1を参照し、温度センサ100の構成について説明する。以下の説明において、図1の上下方向は、温度センサ100の上下方向である。図1の上方は、温度センサ100の後端側であり、下方は、温度センサ100の先端側である。図1において一点鎖線で示す軸線Oは、温度センサ100の軸線である。
【0016】
温度センサ100は、サーミスタ素子2を備える。サーミスタ素子2は、温度に応じて抵抗値が変化することで温度検出が可能な感熱素子の一例である。温度センサ100は、例えば、自動車(図示外)のエンジンから排出される排気ガスを車外に放出する排気管に装着する。サーミスタ素子2は排気管内に配置され、排気ガスの温度検出を行う。
【0017】
図1に示すように、温度センサ100は、金属チューブ1、サーミスタ素子2、素子保持体3、絶縁管4、主体金具5、及びグロメット7等を備える。金属チューブ1は、軸線O方向に沿って延び、先端部11が閉じた金属管であり、例えばステンレス合金を用いて形成する。金属チューブ1は、先端部11側から後端部12側へ向かって外径が順に大きくなる小径部13、第1中径部14、第2中継部15および大径部16を備える。
【0018】
金属チューブ1は、内部に、サーミスタ素子2、素子保持体3、絶縁管4およびグロメット7を収容する。サーミスタ素子2は金属チューブ1の内側、すなわち小径部13内に配置される。サーミスタ素子2は、サーミスタ焼結体21、一対のジュメット線22および封止体23を備える。サーミスタ焼結体21は温度に応じて抵抗値が変化するチップ状の素体である。ジュメット線22はニッケル鋼線を銅で被覆した導電線である。ジュメット線22の先端は、サーミスタ焼結体21の対向する表裏面に形成された電極にそれぞれ接続する。ジュメット線22は、軸線O方向の後方へ向けて延び、並んで配置される。封止体23はガラスであり、ジュメット線22の先端部とサーミスタ焼結体21を内部に封止する。封止体23の先端は金属チューブ1の先端部11内面に当接する。
【0019】
素子保持体3は、サーミスタ素子2の後端側で、金属チューブ1の小径部13と第1中径部14との間の段部を跨ぐ位置に配置される。素子保持体3は、絶縁セラミック体に一対の孔部31を形成した筒状の部材である。素子保持体3は、各孔部31にジュメット線22を挿通し、先端を封止体23に当接させて、サーミスタ素子2を位置決めする。
【0020】
絶縁管4は、軸線O方向に延びるアルミナ等のセラミック製の絶縁体に、軸線O方向に貫通する一対の孔部43を形成した筒状の部材である。絶縁管4は素子保持体3の後端側に配置され、金属チューブ1の第1中径部14の先端側から大径部16の中央付近に延びる。絶縁管4の詳細については後述する。
【0021】
絶縁管4は2つの孔部43内に一対の導電線8をそれぞれ配置する。導電線8は軸線Oに沿って延びる2本の金属線であり、例えばSUS304等のステンレス合金を用いて断面円形に形成される。導電線8は孔部43内で絶縁管4の先端部41に先端部81が配置され、後端側へ向けて軸線Oに沿って孔部43内を後方へ延びる。導電線8の先端部81は平板状に加工されている。導電線8の後端部82は絶縁管4の後端部42から露出する。導電線8の先端部81はサーミスタ素子2のジュメット線22の後端部24と抵抗溶接によって接合し、接合部80を形成する。接合部80は絶縁管4の先端部41において孔部43内にそれぞれ配置される。なお、導電線8の外径R1はジュメット線22の外径Pよりも大きい(図3参照)。
【0022】
グロメット7は軸線O方向に延び、軸線O方向に貫通する一対の孔部73を有するゴム製の部材である。グロメット7は金属チューブ1の後端部12内に嵌め込まれて大径部16に配置される。グロメット7の先端部の一部分は絶縁管4の後端50に当接し、且つ後端部42の周囲を覆う。金属チューブ1は大径部16に、加締めによって外径が小さく変形した加締部17を備える。金属チューブ1は加締部17でグロメット7を径方向内向きに押圧し、大径部16内でグロメット7を保持する。グロメット7は加締部17の形成によって弾性変形して軸線O方向に延び、軸線O方向の先端側へ向けて絶縁管4を押圧する。サーミスタ素子2は絶縁管4および素子保持体3を介して金属チューブ1の先端部11内面へ向けて押圧される。金属チューブ1は、先端部11内面とグロメット7との間に、サーミスタ素子2、素子保持体3および絶縁管4を挟んで固定する。
【0023】
導電線8の後端部82は一対のリード線95の先端部にそれぞれ設けた接続端子96に、抵抗溶接によって接合されている。リード線95はグロメット7の孔部73内を通り、温度センサ100の外部に引き出されている。グロメット7は、上記した加締部17の形成によって孔部73とリード線95との間隙を封止し、水密性を確保する。
【0024】
金属チューブ1は第2中径部15の外周に、軸線O方向に貫通する筒孔55を有する筒状の主体金具5を外嵌めする。主体金具5は温度センサ100を排気管(図示略)に取り付けるための金具である。筒孔55は後端側に、金属チューブ1の第2中径部15と大径部16との間の段部18が係止する段部56を有する。主体金具5は、段部56に金属チューブ1を位置決めした状態で、筒孔55の内周面と第2中径部15の外周面とがロウ付けされることで、金属チューブ1と一体に接合する。
【0025】
主体金具5は取付部52と工具係合部54を備える。取付部52は外周面に雄ネジ53を有し、排気管に設けられる取付穴(ネジ穴)に主体金具5をねじ込み方式で固定する。工具係合部54は取付部52の後端側において径方向外側へ向けて鍔状に突出する。工具係合部54は、軸線Oと直交する断面が、主体金具5を排気管に取り付ける際に使用する工具を係合可能な、例えば六角形状を有する。主体金具5は、取付部52と工具係合部54との間のネジ首に、環状の板材を屈曲して形成したガスケット51を装着する。ガスケット51は、温度センサ100を排気管の取付穴(ネジ穴)にねじ込む時に潰れて変形し、取付穴の開口周縁の部位と、工具係合部54の先端面57との間の隙間を封止する。
【0026】
次に、図2図3を参照し、絶縁管4について説明する。前述したように、絶縁管4は絶縁性セラミック製の絶縁体に一対の孔部43を形成した筒状の部材である。図3に示すように、絶縁管4の外周面46と、孔部43の内周面44は、軸線Oと直交する断面の形状が略円形形状である。孔部43は絶縁管4内で並んで配置され、それぞれに、孔部43の内部と絶縁管4の外部とを接続するスリット部45が形成されている。図2に示すように、スリット部45は、軸線O方向に沿って延びる幅の細い溝形状を有し、絶縁管4の先端部41の外周面46に開口する。
【0027】
図3に示すように、スリット部45は、絶縁管4の断面において、2つの孔部43が並ぶ方向に沿い、外周面46とそれぞれの孔部43とを接続する位置に形成されている。より具体的に、スリット部45は、溝内に、それぞれの孔部43の内周面44の中央の位置C1,C2を通る仮想線L1(二点鎖線で示す)を含む位置に形成されている。スリット部45の形成位置は、絶縁管4の断面において、孔部43の内周面44と絶縁管4の外周面46との距離Dを最も小さくすることのできる位置である。言い換えると、スリット部45の形成位置は、外部から孔部43内部に達するまでの溝の深さを最も浅くすることができる位置である。望ましくは、絶縁管4の断面において、スリット部45の幅方向の中央の位置が、仮想線L1上に位置するとよい。
【0028】
図1図2に示すように、スリット部45は、絶縁管4の先端部41において、先端47の位置から、孔部43内でジュメット線22と導電線8との接合部80が配置される位置にかけての外周面46に開口する。すなわち、孔部43内に配置される接合部80は、スリット部45を介して絶縁管4の外部から目視可能である。スリット部45は、さらに、接合部80の配置位置から、その位置よりも後端部42寄りの位置にかけての外周面46にも開口する。つまり、軸線O方向において、スリット部45の先端48は絶縁管4の先端47の位置にあり、スリット部45の後端49は接合部80の配置位置よりも後方に位置する。言い換えると、スリット部45の開口は、絶縁管4の先端部41の外周面46において、軸線O方向に沿って先端47の位置から接合部80の配置位置を跨いで後端部42寄りの位置にかけて、形成されている。
【0029】
図3に示すように、スリット部45の開口幅Q1は、孔部43の孔径Sよりも小さい。導電線8の外径R1は、スリット部45の開口幅Q1よりも大きい。また、導電線8における平板状に加工されている先端部81の幅Wについても、スリット部45の開口幅Q1よりも大きい。つまり、孔部43には、スリット部45の開口幅Q1よりも大きな寸法を内包する断面形状を有する導電線8が配置されている。これにより、導電線8は、絶縁管4の孔部43内に挿通した状態において、スリット部45を介して絶縁管4から抜け出してしまうことがなく、温度センサ100の製造過程において、作業者は、導電線8を絶縁管4に挿通した状態でサーミスタ素子2のジュメット線22と接合する作業を容易に行うことができる。
【0030】
図2図3に示すように、絶縁管4は孔部43内に固定部材9を設ける。固定部材9は、例えばアルミナを主成分とするセメントである。温度センサ100の製造過程において、作業者は、例えば注射器等を用い、スリット部45を介して孔部43内に固定部材9を注入する。固定部材9は、少なくとも導電線8とジュメット線22の接合部80を孔部43の内周面44に固定する。作業者は、軸線O方向の先端側からスリット部45を介して孔部43内を目視することで、固定部材9による孔部43の内周面44への接合部80の固定状態を確認することができる。また、スリット部45の後端49が軸線O方向において接合部80の配置位置よりも後方に位置する。ゆえに作業者は、軸線O方向の後端側からスリット部45を介して孔部43内を目視して、固定部材9による孔部43の内周面44への接合部80の固定状態を確認することもできる。
【0031】
なお、孔部43内への固定部材9の配置は注射器等による注入に限らない。例えば絶縁管4の先端部41を液状の固定部材9に浸けてスリット部45内に浸透させて、固定部材9を孔部43内に配置し、接合部80を内周面44に固定してもよい。あるいは、絶縁管4の先端部41の外周面46に粘性の高い固定部材9を厚めに塗布した後、孔部43の一方を塞ぎ他方から真空引きを行うことで固定部材9を孔部43内に配置し、接合部80を内周面44に固定してもよい。
【0032】
このような構成の温度センサ100は、概略、以下のように製造される。まず、スリット部45が形成された絶縁管4を準備する。
【0033】
導電線8の接続工程では、先端部81を平板状に加工した一対の導電線8を絶縁管4の後端部42側から孔部43内にそれぞれ挿入し、先端47から孔部43外へ露出する。導電線8の外径R1がスリット部45の開口幅Q1よりも大きく、また、平板状に加工されている先端部81の幅Wについても、スリット部45の開口幅Q1よりも大きいため、導電線8はスリット部45の溝を介して外部に抜け出すことがなく、孔部43内に位置する。他の工程により形成したサーミスタ素子2のジュメット線22を素子保持体3の一対の孔部31に挿通する。ジュメット線22の後端部24と導電線8の先端部81とを公知の抵抗溶接によって接続し、接合部80を形成する。
【0034】
接合部80の配置工程では、導電線8を絶縁管4の後端部42側へ引っ張り、接合部80を孔部43内に引き込む。素子保持体3は後端が絶縁管4の先端47に当接する。接合部80は孔部43内でスリット部45の形成位置の範囲内に位置する。すなわち、接合部80は軸線O方向においてスリット部45の先端48と後端49との間(より詳細には後端49寄りの位置)に位置する。
【0035】
接合部80の固定工程では、注射器等を用い、スリット部45を介して固定部材9(セメント)を絶縁管4の孔部43内に注入する。固定部材9の注入位置は、少なくとも接合部80の配置位置を含む。目視により、固定部材9が孔部43の内周面44と接合部80との間に確実に位置するか確認する。固定部材9を乾燥させ、固定部材9によって孔部43の内周面44に接合部80を固定する。以上の工程を経て、サーミスタ素子2と導電線8を絶縁管4に保持した組立体を得る。
【0036】
温度センサ100の組立工程では、組立体の導電線8の後端部82をリード線95の接続端子96に抵抗溶接する。組立体を金属チューブ1内に挿入し、サーミスタ素子2を金属チューブ1の小径部13内に配置する。グロメット7の孔部73内にリード線95を挿通し、グロメット7を金属チューブ1の大径部16内に嵌め込んで、先端部の一部分を絶縁管4の後端50に当接させる。そして、大径部16の外周を内向きに加締めて加締部17を形成し、大径部16にグロメット7を固定し、金属チューブ1内を封止する。
【0037】
他の工程で作製した主体金具5の後端側から筒孔55内に金属チューブ1を挿入し、金属チューブ1の段部18を主体金具5の段部56に係止して位置決めする。筒孔55の内周面と第2中径部15の外周面とをロウ付けし、主体金具5と金属チューブ1を一体に接合する。主体金具5のネジ首にガスケット51を装着し、抜け止め加工して、温度センサ100が完成する。
【0038】
以上説明したように、スリット部45は、固定部材9を孔部43に設けて接合部80を孔部43の内周面44に固定するため、接合部80に対応する外周面46の位置に開口するが、スリット状であるので開口幅Q1は細い。ゆえに、絶縁管4において、スリット部45として欠ける部分を支える部位の肉厚を大きく確保できる。よって、絶縁管4は、特に径方向への折れ曲がりに対して十分な強度を確保することができる。また、導電線8は、先端部81を含めて、断面形状でみたときにスリット部45の開口幅Q1よりも大きな寸法を内包する形態に形成されている。ゆえに温度センサ100の組み立て時に導電線8を孔部43内に挿通したとき、導電線8がスリット部45を介して抜け出すことがなく、組み立てが容易である。また、スリット部45を設けたことで、接合部80の配置位置に固定部材9を設ける際あるいは設けた後に、スリット部45を覗き込んで、固定部材9による接合部80の固定状態を確認することも可能となる。
【0039】
孔部43内で接合部80を配置する位置に対応する外周面46の位置に開口したスリット部45は、絶縁管4の全体には開口しないので、絶縁管4は強度を確保できる。また、スリット部45は、絶縁管4の先端47を起端として形成するので、少なくとも先端47側においてはスリット部45形成における位置決めを省略でき、手間を軽減できる。さらに、スリット部45を、先端47側から、接合部80の配置位置を超えて第二端部寄りの位置にかけての部分に形成すれば、接合部80の配置位置に固定部材9を設ける際あるいは設けた後に、先端47側から覗き込むだけでなく、第二端部側から覗き込んでも、固定部材9による接合部80の固定状態を確認できる。
【0040】
また、スリット部45を、絶縁管4の断面(軸線O方向に直交する断面)において、孔部43の内周面44と絶縁管4の外周面46との距離Dを最も小さくすることのできる位置に形成した。すなわち、スリット部45の形成位置は、スリット部45を構成する溝の深さが最も浅い部分である。ゆえに、固定部材9をスリット部45に設ける上で開口から固定部材9を注入したときに孔部43内に到達させやすい。このため、溝内で固定部材9の注入が留まってしまったり、到達しても接合部80を覆うまでに至らなかったりするおそれを軽減できる。また、固定部材9の使用量を減らすことができ、製造コストを低減することができる。
【0041】
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。例えば、図4に示す絶縁管104のように、スリット部145を絶縁管104の軸線O方向の全長にわたって形成してもよい。言い換えると、スリット部145の開口を、絶縁管104の外周面146において、軸線O方向に沿って先端147の位置から後端150の位置にかけて形成してもよい。全長にわたってスリット部145を形成した絶縁管104は、軸線O方向における方向性を考慮することなく用いることができる。すなわち、温度センサの組み立てにおいて、図4における先端147を先端側へ向けて金属チューブ1内に絶縁管104を配置してもよいし、後端側へ向けて配置してもよい。絶縁管104の向きを特定することなく作業を行えるので、温度センサの組み立てにおけるリードタイムを短縮することができる。また、絶縁管104の製造工程において、スリット部145を形成する上で、スリット部145の後端149の位置をジュメット線22と導電線108との接合部180の配置予定位置付近に位置決めしなくともよいので、手間を軽減できる。
【0042】
また、図4図5に示すように、導電線108は断面円形の金属線に限らず、細幅の板状に形成した金属線であってもよい。この場合に、導電線108の厚みTがスリット部145の開口幅Q2よりも小さいものであったとしても、絶縁管104の孔部143内に接合部180を配置した場合の導電線108の断面形状が、開口幅Q2をよりも大きな寸法を内包すればよい。具体的には、図5に示すように、孔部143内に接合部180を配置した場合の導電線108の断面形状において、スリット部145の溝の深さ方向と直交する方向の長さR2が、スリット部145の開口幅Q2よりも大きければよい。
【0043】
より詳細に、孔部143内に接合部180を配置した状態において、軸線Oと直交し、導電線108を含む絶縁管104の断面を見る。当該断面において、絶縁管104の外周面146においてスリット部145の開口の中央の位置C3と、孔部143の内周面44の中央の位置C2とを通る仮想線L2(二点鎖線で示す)と、仮想線L2に直交する仮想線L3(二点鎖線で示す)を考える。仮想線L2に沿って、導電線108とスリット部145の開口とを仮想線L3に投影する。なお、便宜上、スリット部145の溝の深さ方向が仮想線L2に沿う方向と同一であるものとする。このとき、仮想線L3に投影したスリット部145の開口の投影範囲の長さ、すなわち上記のスリット部145の開口幅Q2は、仮想線L3に投影した導電線108の投影範囲の長さ、すなわち導電線108の断面形状における上記の長さR2よりも短い。このように構成することで、導電線108の厚みTがスリット部145の開口幅Q2よりも小さい場合でも、孔部143内に導電線108を配置した状態では、導電線108がスリット部145を介して外部に抜け出すことがない。
【0044】
導電線8,108は、本実施形態のような円形の断面を有する金属線や、上記のような矩形の断面を有する細幅の板状の金属線に限らない。すなわち導電線8,108は、孔部43,143内に導電線8,108を配置した状態において、スリット部45,145の開口幅Q1,Q2よりも大きな寸法を内包する断面形状を有すればよい。例えば、上記実施形態では、導電線8の先端部81を平板状に加工したが、先端部81に加工を施さず、断面円形形状のままジュメット線22との間で抵抗溶接等の接合を行うようにしてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、固定部材9はスリット部45の孔部43の内周面44に接合部80を固定したが、固定部材9が接合部80の全体を覆う形態に限られず、接合部80の一部を内周面44に固定する形態であってもよい。また、固定部材9は孔部43内を満たさなくともよく、例えば孔部43内でスリット部45に接続する部位に設けるだけでもよく、少なくとも孔部43の内周面44に接合部80を固定できれば足りる。また、固定部材9はアルミナを主成分としたセメントであったが、これに限定されない。例えば、マグネシアを主成分としたセメントであってもよいし、セメント以外にセラミック接着剤、UV硬化性接着剤等を用いてもよい。
【0046】
本実施形態において、サーミスタ焼結体21が、本発明の「感熱部」に相当する。ジュメット線22が「第一導電線」に相当する。サーミスタ素子2が「感熱素子」に相当する。導電線8の先端部81が第二導電線の「一端」に相当する。導電線8の後端部82が第二導電線の「他端」に相当する。導電線8が「第二導電線」に相当する。絶縁管4が「絶縁部材」に相当する。絶縁管4の先端47が請求項2、3における「第一端部」に相当し、先端147が請求項4における「第一端部」に相当する。絶縁管4の後端50が請求項2、3における「第二端部」に相当し、後端150が請求項4における「第二端部」に相当する。
【符号の説明】
【0047】
2 サーミスタ素子
4,104 絶縁管
8,108 導電線
9 固定部材
21 サーミスタ焼結体
22 ジュメット線
43,143 孔部
44,144 内周面
45,145 スリット部
46,146 外周面
47,147 先端
50,150 後端
80,180 接合部
81,181 先端部
82,182 後端部
100 温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5