特許第5969484号(P5969484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969484
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】抗血栓性材料および医療用具
(51)【国際特許分類】
   A61L 33/00 20060101AFI20160804BHJP
   A61L 29/00 20060101ALI20160804BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   A61L33/00 C
   A61L29/00 E
   A61L27/00 P
   A61L27/00 C
   A61L27/00 U
   A61L29/00 W
   A61L29/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-529949(P2013-529949)
(86)(22)【出願日】2012年8月2日
(86)【国際出願番号】JP2012069739
(87)【国際公開番号】WO2013027556
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2015年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-180925(P2011-180925)
(32)【優先日】2011年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-245614(P2011-245614)
(32)【優先日】2011年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-26401(P2012-26401)
(32)【優先日】2012年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安齊 崇王
(72)【発明者】
【氏名】袴谷 友恵
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2000/006651(WO,A1)
【文献】 特開2009−216572(JP,A)
【文献】 特開2001−145695(JP,A)
【文献】 特開平09−131396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
75〜25モル%の下記式(1):
【化1】
ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
で示されるダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)、ならびに、25〜75モル%の2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、硫酸アリル、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、およびスルホプロピル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも1つのスルホン酸基を分子内に有するモノマーまたはその塩由来の繰り返し単位(B)[繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の合計量は100モル%である]から構成される共重合体を含む抗血栓性材料。
【請求項2】
前記繰り返し単位(B)は下記式(2):
【化2】
ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
で示される2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸またはその塩由来の繰り返し単位を含む、請求項1に記載の抗血栓性材料。
【請求項3】
前記式(1)中、Rは水素原子であり、前記式(2)中、Rは水素原子である、請求項2に記載の抗血栓性材料。
【請求項4】
前記繰り返し単位(A)と前記繰り返し単位(B)とのモル組成比(A:B)が、30:70〜50:50である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗血栓性材料。
【請求項5】
基材と、
前記基材表面を被覆する、請求項1〜のいずれか1項に記載の抗血栓性材料を含むコート層と、を有する医療用具。
【請求項6】
前記コート層が、請求項1〜のいずれか1項に記載の抗血栓性材料と架橋剤との反応生成物で形成されている請求項に記載の医療用具。
【請求項7】
前記架橋剤が、一分子あたり少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物である請求項に記載の医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血栓性材料および当該抗血栓性材料で被覆した医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
人工血管、人工臓器等、生体内で使用される各種医療用具は、血液、体液または生体組織との親和性が求められる。中でも、血液の凝固を防ぐ抗血栓性が、血液と接触する医療用具においては非常に重要となる。
【0003】
通常、医療用具への抗血栓性の付与は、医療用具を構成する基材を抗血栓性材料で被覆する方法や、基材の表面に抗血栓性材料を固定する方法により行われる。
【0004】
例えば、水溶性高分子材料を基材表面にグラフト重合することにより、生体成分の基材表面への吸着を物理化学的に抑制し、基材表面での血栓形成を抑制させる方法が知られている。しかし、この方法は時間の経過とともに血漿蛋白質が表面グラフト層に入り込んだり、基材表面で活性化した血漿成分や血小板による凝固物の影響が生体に生じたりする等の問題を有している。さらに、当該方法は製造工程が煩雑であり、グラフトさせる基材の材質面の制約が大きいという問題もある。
【0005】
また、別の方法として、ヘパリン等の抗凝血活性を有する材料を基材の表面に固定したり徐放させたりすることにより、基材表面に抗血栓性を付与する方法も知られている。しかし、ヘパリンのような生体物質には、基材表面に固定させてもその後の滅菌処理により抗凝血活性が低下したり、生体中の酵素により分解されて長く活性を維持できないという問題点や、ヘパリン以外の抗凝血活性を有する化合物に対しては安全性上適用できないといった問題点がある。
【0006】
これに対し、抗凝血活性および耐滅菌性に優れ、安全性と耐久性を向上しうる抗血栓性材料として、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(PAMPS)などのスルホン酸基含有ポリマーが知られている。PAMPSを基材表面に固定化する方法として、例えば、特許文献1には、カルボキシル基と反応するエポキシ基やイソシアネート基を有するポリマー(反応性化合物)を基材表面にコーティングした後に、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS)−アクリル酸共重合体をコートし、エポキシ基やイソシアネート基とカルボキシル基とを加熱等によって反応させ、化学結合を形成させることにより固定する方法が開示されている。
【0007】
一方、医療用具は、組織損傷の低減化や操作性の向上を目的として、潤滑性表面を有することが求められる。表面潤滑化の一例として、特許文献2には、親水性高分子化合物とヒドラジド化合物からなる架橋剤との反応生成物を含む表面潤滑層を形成する方法が開示されている。また、当該方法によれば、ヘパリンなどの水溶性の生理活性物質を共存させて表面潤滑化処理を行うことにより、基材表面に潤滑性と抗血栓性とを付与することも可能となる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−131396号公報
【特許文献2】米国特許第6540698号明細書
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、抗血栓性材料を基材表面に固定するために行われるエポキシ基やイソシアネート基とカルボキシル基との反応に加熱を要するため、基材の種類や形状が限定されるという問題がある。さらに、エポキシ基のような反応性の高いプロトン受容性官能基とプロトン供与性官能基との反応を利用しているため、溶媒が非プロトン供与性の有機溶媒に限定されてしまうだけでなく、コーティング操作の複雑化、コート溶液や作業域の厳密な水分管理が必要となり、製造工程が煩雑であった。
【0010】
また、特許文献2の方法では、抗血栓性を付与するためにヘパリン等を使用するため、安全性と耐久性が不十分であるという問題がある。
【0011】
そこで本発明は、優れた抗凝血活性を有し、簡便かつ穏和なコートプロセスにより、基材上に安定なコート層を形成しうる抗血栓性材料を提供することを目的とする。
【0012】
本発明者等は、上記課題を改善するために鋭意検討を行った結果、スルホン酸基を分子内に有するモノマーとダイアセトン(メタ)アクリルアミドとを共重合させ、かつ、その組成を特定の範囲とすることによって上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の抗血栓性材料は、75〜25モル%の下記式(1):
【0014】
【化1】
【0015】
ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
で示されるダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)、ならびに、25〜75モル%の2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、硫酸アリル、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、およびスルホプロピル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも1つのスルホン酸基を分子内に有するモノマーまたはその塩由来の繰り返し単位(B)[繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の合計量は100モル%である]から構成される共重合体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】実施例3で得たポリマーの抗血栓性試験における電子顕微鏡写真を示す図面である。
図1B】比較例3で得たポリマーの抗血栓性試験における電子顕微鏡写真を示す図面である。
図2A】実施例3で得たポリマーの抗バイオフィルム性試験における電子顕微鏡写真を示す図面である。
図2B】比較例3で得たポリマーの抗バイオフィルム性試験における電子顕微鏡写真を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の抗血栓性材料は、75〜25モル%の下記式(1):
【0018】
【化2】
【0019】
ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
で示されるダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)(以下、単に「繰り返し単位(A)」とも称する)、ならびに、25〜75モル%の2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、硫酸アリル、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、およびスルホプロピル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも1つのスルホン酸基を分子内に有するモノマーまたはその塩由来の繰り返し単位(B)(以下、単に「繰り返し単位(B)」とも称する)[繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の合計量は100モル%である]から構成される共重合体を含む。
【0020】
本発明によれば、加熱を必要とせず、一回の操作でかつ簡便なコートプロセスにより、優れた抗凝血活性、さらには、血液適合性および抗バイオフィルム性を有し、安定かつ均一なコート層を形成しうる抗血栓性材料が提供される。
【0021】
すなわち、本発明は、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)とスルホン酸基を分子内に有するモノマーまたはその塩由来の繰り返し単位(B)との組成を特定範囲とすることによって、そのポリマー自身が抗凝血活性を有し、なおかつ、医療用具を構成する様々なプラスチックや金属表面に対して、安定な(血液と接触しても溶出しない、斑なくコート層を形成できる)コート層を、簡便なコートプロセスで形成することができる。
【0022】
さらに、本発明者らは、当該抗血栓性材料が優れた血液適合性および抗バイオフィルム性を有することをも見出した。バイオフィルムとは、微生物が分泌生成する粘液質のフィルムで、その中に複数種類の微生物が共存して複合体(群生)を形成し、固体の表面に付着した状態のものをいう。一般に、バイオフィルム内の細菌は、大気中にいる細菌よりも抗生物質や免疫に対する抵抗性が高く、医療用具(特に移植されたデバイス)表面上の細菌のコロニー形成(バイオフィルム形成)は、患者の深刻な問題をもたらすことが知られている。例えば、カテーテル、インプラント、人工臓器、内視鏡等の医療用具に形成されたバイオフィルムは感染症を引き起こしうる。
【0023】
これに対し、本発明に係る抗血栓性材料を用いて被覆された基材表面は、緑膿菌等の微生物の成長および増殖を抑制でき、バイオフィルム形成を有意に防止または抑制できることが確認された。すなわち、本発明によれば、75〜25モル%の上記式(1)で示されるダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)、ならびに、25〜75モル%の2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、硫酸アリル、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、およびスルホプロピル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも1つのスルホン酸基を分子内に有するモノマーまたはその塩由来の繰り返し単位(B)[繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の合計量は100モル%である]から構成される共重合体を用いて基材の表面を被覆することにより、前記基材表面のバイオフィルム形成を阻害する方法をも提供する。
【0024】
上記一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基である。繰り返し単位(A)を形成するモノマーであるダイアセトン(メタ)アクリルアミドは常温架橋性を示す。すなわち、上記一般式(1)中のカルボニル基は穏和な条件で架橋剤との間に共有結合を形成しうる。このため、繰り返し単位(A)を有する重合体を含む抗血栓性材料は、加熱などを必要とせず、基材自体の物性を損なうことのない穏和な条件で、基材表面に固定化させうる。
【0025】
は、好ましくは、得られるポリマーの抗凝血活性、(抗血栓性)血液適合性、抗バイオフィルム性の観点から、水素原子である。すなわち、繰り返し単位(A)はダイアセトンアクリルアミド(DAAM)由来であることが好ましい。
【0026】
繰り返し単位(B)を形成するスルホン酸基を分子内に有するモノマー(以下、「モノマー(b)」とも称する)としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、硫酸アリル、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらのモノマー(b)中のスルホン酸基(−SOH)、硫酸基(−SOH)は、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の陽イオンと塩を形成して存在していてもよい。上記モノマー(b)は1種単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。
【0027】
上記モノマー(b)は水溶性または水膨潤性を有するため、ヘパリン、ヘパラン硫酸等の生体由来の抗凝血活性物質とは異なり、様々な水系溶媒、有機溶媒に可溶であり、さらに耐滅菌性に優れる。
【0028】
これにより、体液等の水系溶媒下では、抗血栓性材料が基材表面で膨潤して水系溶媒との界面(最外層)を形成し、効果的に抗凝血活性、(抗血栓性)血液適合性、抗バイオフィルム性を発現することができる。したがって、上記モノマー(b)由来の繰り返し単位(B)を有する共重合体は優れた抗凝血活性、(抗血栓性)血液適合性、抗バイオフィルム性を発揮しうる。
【0029】
なお、本発明において、抗血栓性材料とは、抗凝血活性を有する材料をいう。ここで、抗凝血活性を有する材料とは、生理食塩水中1.25mg/mLの添加量で、活性化部分トロンボプラスチン時間(以下、APTTと称す)が50秒以上、好ましくは55秒以上、さらに好ましくは60秒以上である材料をいう。
【0030】
また、本発明において、抗バイオフィルム性材料とは、バイオフィルムを生成しうる菌(例えば、緑膿菌、薬剤耐性菌など)を含有する菌液(濃度:約1×10個/ml)中に、7日間、材料をコートした基材を静置した後、そのコート表面を電子顕微鏡で観察した際に、表面積500μmの領域において菌の付着およびバイオフィルムの形成が100個以下、特に好ましくは全く見られないことをいう。
【0031】
上記モノマー(b)は、抗凝血活性、(抗血栓性)血液適合性、抗バイオフィルム性の点から、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、スチレンスルホン酸、またはそれらの塩が好ましく、より優れた抗凝血活性を発現しうる2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸もしくはスチレンスルホン酸、またはその塩がより好ましい。すなわち、繰り返し単位(B)は下記式(2):
【0032】
【化3】
【0033】
ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
で示される2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、もしくは、下記式(3):
【0034】
【化4】
【0035】
で示されるスチレンスルホン酸、またはその塩由来の繰り返し単位を含むことが好ましい。さらに好ましくは、繰り返し単位(B)は上記式(2)で示される2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸またはその塩由来の繰り返し単位を含む。なお、上記式(2)において、Rは、好ましくは、得られるポリマーの抗凝血活性、(抗血栓性)血液適合性、抗バイオフィルム性の観点から、水素原子である。
【0036】
上記モノマー(b)における塩としては、無機陽イオンの塩または有機陽イオンの塩が挙げられる。無機陽イオンの塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が好ましく、中でも、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩がより好ましい。有機陽イオンの塩としては、アンモニウム塩が好ましい。
【0037】
本発明に係る共重合体において、共重合体を構成する全繰り返し単位(100モル%)に対して、繰り返し単位(A)は75〜25モル%であり、かつ、繰り返し単位(B)は25〜75モル%であり、この際、繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の合計量は100モル%である。すなわち、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)のモル組成比(以下、単に「モル比」とも称する)が75:25〜25:75である。
【0038】
繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)のモル組成比(A:B)が25:75未満である場合(Aの比率が25モル%未満の場合)には、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)が少ないために、基材表面を被覆する場合に架橋が不十分となり、安定なコート層を形成することができない。一方、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)のモル組成比(A:B)が75:25を超える(Aの比率が75モル%を超える場合)ポリマーは繰り返し単位(B)の占める割合が少なく、抗凝血活性(50秒以上のAPTT)、抗血栓性、(抗血栓性)血液適合性、抗バイオフィルム性を発現しないため好ましくない。
【0039】
このような点から、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)のモル組成比(A:B)は、30:70〜70:30が好ましい。このような繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)から形成される共重合体において、繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の組成を上記特定の範囲とすることで、簡便なコートプロセスにより優れた抗凝血活性と優れたコート性との両立を図ることができる。特に抗凝血活性を考慮すると30:70〜50:50がより好ましい。
【0040】
本発明に係る共重合体の末端は特に制限されず、使用される原料の種類によって適宜規定されるが、通常、水素原子である。本発明に係る共重合体の構造も特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。ただし、基材への被覆後の膜強度(架橋構造の強度)の向上という観点からは、架橋点の分散しているランダム共重合体の方が望ましい。
【0041】
本発明に係る共重合体の重量平均分子量は、溶解性の点から、好ましくは10,000〜10,000,000である。そして、共重合体の重量平均分子量は、コート液の調製のしやすさの点から、より好ましくは1,000,000〜10,000,000である。本発明において、「重量平均分子量」は、ポリエチレンオキサイド、または、プルランを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。
【0042】
本発明に係る共重合体の製造方法は特に制限されない。通常、上記繰り返し単位(A)に対応するモノマーであるダイアセトン(メタ)アクリルアミドと、上記繰り返し単位(B)に対応する上記モノマー(b)の一種または二種以上とを重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌・加熱することにより共重合させる方法が使用される。
【0043】
モノマーの重合方法は、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法が採用でき、好ましくは製造が容易なラジカル重合を使用する。
【0044】
重合開始剤は特に制限されず、公知のものを使用すればよい。好ましくは、重合安定性に優れる点で、レドックス系重合開始剤であり、具体的には、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t−ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物などの酸化剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせた系が挙げられる。重合開始剤の配合量は、上記モノマー(ダイアセトン(メタ)アクリルアミドとモノマー(b)との合計量=100モル%)に対して、0.0001〜1モル%が好ましい。
【0045】
共重合の際の重合温度は分子量の制御の点から、30℃〜100℃とするのが好ましい。重合時間は通常30分〜24時間である。重合溶媒としては、水、アルコール、ポリエチレングリコール類などの水性溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。これらは1種単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。重合溶媒中のモノマー濃度(固形分濃度)は、通常10〜90重量%であり、好ましくは15〜80重量%であり、より好ましくは20〜80重量%である。なお、重合溶媒に対するモノマー濃度は、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドおよびモノマー(b)の総重量の濃度を指す。
【0046】
さらに、共重合の際に、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、およびその他の添加剤を、適宜使用してもよい。
【0047】
共重合後の共重合体は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することが好ましい。
【0048】
本発明の抗血栓性材料は、医療用具を構成する基材の表面に被覆(固定)され、基材を被覆するコート層(表面改質層)として好適に使用することができる。すなわち、本発明の他の一形態によれば、基材と、前記基材表面を被覆する、上記抗血栓性材料を含むコート層と、を有する医療用具が提供される。上記抗血栓性材料を含むコート層は、医療用具に優れた抗凝血活性、さらには、抗バイオフィルム性、(抗血栓性)血液適合性を付与しうる。
【0049】
なお、「被覆」とは、基材の表面全体が抗血栓性材料により完全に覆われている形態のみならず、基材の表面の一部のみが抗血栓性材料により覆われている形態、すなわち、基材の表面の一部のみに抗血栓性材料が付着した形態をも含むものとする。
【0050】
抗血栓性材料を基材の表面に被覆(固定)する方法は、特に制限されないが、例えば、抗血栓性材料と架橋剤との反応生成物を基材表面に被覆することにより、抗血栓性材料を基材表面に固定する方法が挙げられる。すなわち、コート層は、前記血液適合性材料と架橋剤との反応生成物で形成され得る。これにより、反応生成物(架橋物)が基材表面で不溶化して強固に固定化されうる。
【0051】
使用しうる架橋剤としては、抗血栓性材料におけるダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)中のカルボニル基と反応して共有結合を形成しうるものであれば特に制限されないが、一分子内に少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物であることが好ましい。すなわち、コート層が、上記抗血栓性材料と一分子あたり少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物との反応生成物で形成されていることが好ましい。ヒドラジン残基は、穏和な条件、特に常温での反応によりカルボニル基との間に共有結合を形成させて、基材自体が本来要求されている物性を損なうことなく、抗血栓性材料を強固に基材表面に固定化することが可能となる。またこのような反応では、プロトン供与性の溶媒も用いることができ、反応時の作業域の厳密な水分管理等を行う必要もない。
【0052】
ヒドラジド化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、カルボヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントインなどが挙げられる。この他、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを重合後にヒドラジン残基を有するように処理した重合体もしくは共重合体、または、モノマーの時点でヒドラジン残基を有するように予め処理したモノマーの重合体或いは共重合体なども挙げられる。このうち、水への溶解性の点でアジピン酸ジヒドラジドが好ましい。
【0053】
ヒドラジド化合物と抗血栓性材料との架橋反応は、上述のように常温で進行し、通常触媒の添加は不要であるが、必要に応じて、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸コバルト等の水溶性金属塩等の添加や加熱乾燥を行うことにより促進されうる。加熱乾燥を行う場合の加熱温度は基材の物性を劣化させないという点から40〜150℃であることが好ましく、40〜60℃であることがより好ましい。
【0054】
これらの架橋剤は、上記共重合体100重量部に対して、1〜200重量部、好ましくは10〜100重量部となる比率で適用することが望ましい。
【0055】
基材表面に抗血栓性材料と架橋剤との反応生成物を被覆させる際の被覆方法は特に制限されない。例えば、抗血栓性材料および/または架橋剤を含有する溶液(コート溶液)を基材表面に塗布した後、該抗血栓性材料と該架橋剤とを反応させる方法が好ましい。これにより、基材の表面でこれらの反応生成物(架橋物)が不溶化することにより、基材の表面に抗血栓性材料が強固に固定化されうる。また、架橋剤が基材表面と抗血栓性材料とのバインダーとなるため良好な耐溶出性、耐剥離性等を得ることができる。
【0056】
具体的には、(1)抗血栓性材料および架橋剤を含有する溶液を基材表面に塗布した後、該抗血栓性材料と該架橋剤とを反応させる方法、または、(2)抗血栓性材料を有する溶液を基材表面に塗布した後、架橋剤を有する溶液を基材表面に塗布して該抗血栓性材料と該架橋剤とを反応させる方法、または、(3)架橋剤を有する溶液を基材表面に塗布した後、抗血栓性材料を有する溶液を基材表面に塗布して該抗血栓性材料と該架橋剤とを反応させる方法が挙げられる。好ましくは、一回の操作でかつ簡便なコートプロセスによりコート層の形成が可能である点で、上記(1)の方法である。
【0057】
抗血栓性材料や架橋剤を含有する溶液の基材表面への塗布方法は特に限定されず、ディップコーティング、噴霧、スピンコーティング、滴下、ドクターブレード、刷毛塗り、ロールコーター、エアーナイフコート、カーテンコート、ワイヤーバーコート、グラビアコート等が挙げられる。
【0058】
抗血栓性材料および/または架橋剤を溶解する溶媒としては、特に制限されず、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、水、クロロホルム、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ベンゼン等の非プロトン供与性の有機溶媒が例示できる。上記溶媒は、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0059】
ただし、抗血栓性材料の含有溶液と架橋剤の含有溶液とを別々に調製する場合(上記(2)または(3)の場合)には、抗血栓性材料を強固に基材表面に固定化するために、抗血栓性材料を溶解させる溶媒として、基材を膨潤させる溶媒を選択することが好ましい。これにより、抗血栓性材料が基材の内部に含浸され、強固に固定化される。一方、架橋剤を溶解させる溶媒としては、基材をあまり膨潤させない溶媒を用いることが好ましい。
【0060】
また、コート溶液に第三成分として界面活性剤等の可溶化剤や有機溶媒に可溶化させるための脂溶化剤等を添加しても良い。
【0061】
通常、抗血栓性材料および/または架橋剤を含有する溶液(コート溶液)を基材表面に塗布した後、常温で乾燥させることにより抗血栓性材料と架橋剤とが反応し、これらの反応生成物を基材表面に被覆することができる。ただし、基材と抗血栓性材料との接着性を向上させる上で、塗布後の基材に熱を加え乾燥させてもよい。
【0062】
上記方法の他、抗血栓性材料を溶媒に溶解することにより得られる溶液(抗血栓性材料の含有溶液)を基材表面に塗布した後、溶媒を除去することによって抗血栓性材料を基材表面に固定してもよい。
【0063】
抗血栓性材料を固定化しうる基材の材質や形状は特に限定されない。材質としては、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニルやそれらの共重合体などの各種高分子材料、金属、セラミック、カーボン、およびこれらの複合材料等が例示できる。また、基材の形態としては、上記のような材料を単独で用いた成型体に限定されず、ブレンド成型物、アロイ化成型物、多層化成形物なども使用可能である。ただし、溶媒で基材を膨潤させて抗血栓性材料を強固に固定化したい場合、少なくとも基材表面に存在させる材料としては、上記高分子材料が溶媒により良好に膨潤し得るため好ましい。また、好ましくは、基材表面に架橋剤を介して効果的に抗血栓性材料を固定化する上で、基材全体もしくは基材表面にプロトン供与性基が導入されているものが好ましい。基材の形状としては、シート状、チューブ状等の多様な形状を使用可能である。
【0064】
抗血栓性材料が固定化された本発明の医療用具は、血液、体液または生体組織と接触して使用されるものであり、例えば、体内埋入型の人工器官や治療用具(インプラント)、体外循環型の人工臓器類、カテーテル、ガイドワイヤー等を例示できる。具体的には、血管や管腔内へ挿入または置換される人工血管、人工気管、ステントや、人工皮膚、人工心膜等の埋入型医療用具;人工心臓システム、人工肺システム、人工腎臓システム、人工肝臓システム、免疫調節システム等の人工臓器システム;留置針;IVHカテーテル、薬液投与用カテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテル及びダイレーターもしくはイントロデューサー等の血管内に挿入ないし留置されるカテーテル、または、これらのカテーテル用のガイドワイヤー、スタイレット等;胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用(ED)チューブ、尿道カテーテル、導尿カテーテル、バルーンカテーテル、気管内吸引カテーテルをはじめとする各種の吸引カテーテルや排液カテーテル等の血管以外の生体組織に挿入ないし留置されるカテーテル類;が例示できる。特に、大量の血液と接する人工肺システムとして好適に使用される。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、ポリマーの重量平均分子量は、GPC(装置:SHODEX社 GPCシステム;標準物質:プルラン)を用いて測定した。
【0066】
[実施例1:AMPS−DAAM 2:1の合成]
2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS) 14.9g(72mmol)とダイアセトンアクリルアミド(DAAM) 6.1g(36mmol)とを純水100mLに溶解し、四つ口フラスコに入れて50℃のオイルバス中で1時間窒素バブリングした。その後、過硫酸カリウム(KPS) 0.146g(AMPSとDAAMの総モル量に対して0.5mol%)と亜硫酸ナトリウム 0.068g(KPSと等モル)とを水2mLに溶解して窒素パージした溶液を添加し、50℃で5時間撹拌させて重合した。
【0067】
重合後、得られた水溶液を透析膜(分画分子量:12,000〜14,000)に入れ、RO水で3日以上透析することにより精製した。透析後、凍結乾燥により、AMPS由来の繰り返し単位およびDAAM由来の繰り返し単位から構成される固体ポリマー(ランダム共重合体)を得た。
【0068】
得られた固体ポリマーの重量平均分子量は750万であった。また、固体ポリマーのAMPSおよびDAAMの組成を中和滴定で測定したところ、AMPS:DAAM=2:1(モル比)であった。
【0069】
[実施例2:AMPS−DAAM 1:1の合成]
2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS) 11.1g(54mmol)とDAAM 9.12g(54mmol)とを純水100mLに溶解し、四つ口フラスコに入れて50℃のオイルバス中で1時間窒素バブリングした。その後、過硫酸カリウム(KPS) 0.146g(AMPSとDAAMの総モル量に対して0.5mol%)と亜硫酸ナトリウム 0.068g(KPSと等モル)とを水2mLに溶解して窒素パージした溶液を添加し、50℃で5時間撹拌させて重合した。
【0070】
重合後、得られた水溶液を透析膜(分画分子量:12,000〜14,000)に入れ、RO水で3日以上透析することにより精製した。透析後、凍結乾燥により、AMPS由来の繰り返し単位およびDAAM由来の繰り返し単位から構成される固体ポリマー(ランダム共重合体)を得た。
【0071】
得られた固体ポリマーの重量平均分子量は350万であった。また、固体ポリマーのAMPSおよびDAAMの組成を中和滴定で測定したところ、AMPS:DAAM=1:1(モル比)であった。
【0072】
[実施例3:AMPS−DAAM 1:2の合成]
2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS) 7.47g(36mmol)とDAAM 12.2g(72mmol)とを純水100mLに溶解し、四つ口フラスコに入れて50℃のオイルバス中で1時間窒素バブリングした。その後、過硫酸カリウム(KPS) 0.146g(AMPSとDAAMの総モル量に対して0.5mol%)と亜硫酸ナトリウム 0.068g(KPSと等モル)とを水2mLに溶解して窒素パージした溶液を添加し、50℃で5時間撹拌させて重合した。
【0073】
重合液をアセトンへ滴下したところ、白い固体が生成した。デカンテーションの後、メタノールに溶解させた。そして、溶解させたものを、再度、アセトン中に沈殿させた。再びデカンテーションを行った後、吸引濾過、減圧乾燥することで、AMPS由来の繰り返し単位およびDAAM由来の繰り返し単位から構成される固体ポリマー(ランダム共重合体)を得た。
【0074】
得られた固体ポリマーの重量平均分子量は210万であった。また、固体ポリマーのAMPSおよびDAAMの組成を中和滴定で測定したところ、AMPS:DAAM=1:2(モル比)であった。
【0075】
[比較例1:AMPS−DAAM 1:8の合成]
2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS) 2.49g(12mmol)とDAAM 16.25g(96mmol)とを純水100mLに溶解し、四つ口フラスコに入れて50℃のオイルバス中で1時間窒素バブリングした。その後、過硫酸カリウム(KPS) 0.146g(AMPSとDAAMの総モル量に対して0.5mol%)と亜硫酸ナトリウム 0.068g(KPSと等モル)とを水2mLに溶解して窒素パージした溶液を添加し、50℃で5時間撹拌させて重合した。
【0076】
得られた白い固体部分をアセトンに溶解し、一晩撹拌した後、ヘキサンに滴下した。デカンテーションの後、減圧乾燥してヘキサンを除去し、AMPS由来の繰り返し単位およびDAAM由来の繰り返し単位から構成される固体ポリマー(ランダム共重合体)を回収した。
【0077】
得られた固体ポリマーの重量平均分子量は120万であった。また、固体ポリマーのAMPSおよびDAAMの組成を中和滴定で測定したところ、AMPS:DAAM=1:8(モル比)であった。
【0078】
[比較例2:AMPS−DAAM 8:1の合成]
2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS) 19.9g(96mmol)とDAAM 2.03g(12mmol)とを純水100mLに溶解し、四つ口フラスコに入れて50℃のオイルバス中で1時間窒素バブリングした。その後、過硫酸カリウム(KPS) 0.146g(AMPSとDAAMの総モル量に対して0.5mol%)と亜硫酸ナトリウム 0.068g(KPSと等モル)とを水2mLに溶解して窒素パージした溶液を添加し、50℃で5時間撹拌させて重合した。
【0079】
重合後、得られた水溶液を透析膜(分画分子量:12,000〜14,000)に入れ、RO水で3日以上透析することにより精製した。透析後、凍結乾燥により、AMPS由来の繰り返し単位およびDAAM由来の繰り返し単位から構成される固体ポリマー(ランダム共重合体)を得た。
【0080】
得られた固体ポリマーの重量平均分子量は890万であった。また、固体ポリマーのAMPSおよびDAAMの組成を中和滴定で測定したところ、AMPS:DAAM=8:1(モル比)であった。
【0081】
[比較例3:PMEAの合成]
アクリル酸2−メトキシエチル(MEA)26.3g(0.2mol)をトルエン100mLに溶解し、四つ口フラスコに入れて80℃のオイルバス中で1時間窒素バブリングした。その後、アゾビスイソブチロニトリル0.03gをトルエン2mLに溶解して窒素パージした溶液を添加し、80℃で8時間撹拌させて重合した。
【0082】
重合液をヘキサンへ滴下したところ、白い粘性物を生成した。デカンテーションの後、アセトンに溶解させた。これを再びヘキサンに滴下し、デカンテーションを行った後、アセトンに溶解した。これを減圧乾燥してアセトンを除去し、水あめ状のポリマー(PMEA)を回収した。
【0083】
得られた固体ポリマーの重量平均分子量は10万であった。
【0084】
[実施例4:スチレンスルホン酸ナトリウム−DAAM 2:1の合成]
スチレンスルホン酸ナトリウム 7.1g(118mmol)とDAAM 2.9g(59mmol)とを純水47mLに溶解し、四つ口フラスコに入れて50℃のオイルバス中で1時間窒素バブリングした。その後、過硫酸カリウム(KPS) 0.069g(スチレンスルホン酸ナトリウムとDAAMの総モル量に対して0.05mol%)と亜硫酸ナトリウム 0.032g(KPSと等モル)とを水3mLに溶解して窒素パージした溶液を添加し、50℃で窒素バブリングを継続しながら5時間撹拌させて重合した。
【0085】
重合後、重合液をアセトンに再沈殿させ、吸引ろ過により析出した、スチレンスルホン酸ナトリウム由来の繰り返し単位およびDAAM由来の繰り返し単位から構成される、白い固体ポリマー(ランダム共重合体)を回収した。得られた固体ポリマーは4時間減圧乾燥を行った。
【0086】
また、固体ポリマーのスチレンスルホン酸ナトリウムおよびDAAMの組成を中和滴定で測定したところ、スチレンスルホン酸ナトリウム:DAAM=2:1(モル比)であった。
【0087】
[評価]
(試験1−1.抗凝固時間(活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT))測定)
実施例1〜3、比較例1および比較例3で得たポリマーを用いて、下記方法によりAPTT測定を行った。
【0088】
スチールボールを入れ、37℃に温めておいたキュベットに、管理血漿(ベリハイ) 50μLと、測定するポリマーの生理食塩水溶液(1.25mg/mL) 5μLと、APTT試薬 50μLとを分注して、37℃で180秒間静置した。その後、塩化カルシウム試薬 50μLを分注し、スチールボールの振動(振幅)が終了する時間を測定した。測定は2回行い、その平均値を採用した(n=2)。
【0089】
コントロールとして、管理血漿(ベリハイ)50μLおよびAPTT試薬50μLのみからなるものを用いて測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
上記表1から、繰り返し単位(B)に相当するAMPSの含有量(ポリマー(100モル%)に対するモル含有量)が25モル%以上である実施例1〜3のポリマーは、コントロール(管理血漿:ベリハイ)に比べて凝固時間(APTT)が有意に延長され、抗凝血活性を発現することが確認された。
【0092】
一方、AMPSの含有量(ポリマー(100モル%)に対するモル含有量)が25モル%未満である比較例1のポリマーは、コントロール(管理血漿:ベリハイ)と同等の凝固時間(APTT)示し、凝固時間の延長効果を発揮できなかった。
【0093】
また、実施例1〜3の比較から、AMPSの含有量が多いほど凝固時間の延長効果(抗凝血活性)が大きいという傾向が確認された。
【0094】
(試験1−2.抗凝固時間(活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT))測定)
実施例4で得たポリマーを用いて、下記方法によりAPTT測定を行った。
【0095】
スチールボールを入れ、37℃に温めておいたキュベットに、管理血漿(ベリハイ) 50μLと、測定するポリマーの生理食塩水溶液(1.25mg/mL) 5μLと、APTT試薬 50μLとを分注して、37℃で180秒間静置した。その後、塩化カルシウム試薬 50μLを分注し、スチールボールの振動(振幅)が終了する時間を測定した。測定は2回行い、その平均値を採用した(n=2)。
【0096】
コントロールとして、管理血漿(ベリハイ) 50μLおよびAPTT試薬50μLのみからなるものを用いて測定を行った。結果を下記表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
上記表2から、繰り返し単位(B)に相当するスチレンスルホン酸ナトリウムの含有量(ポリマー(100モル%)に対するモル含有量)が25モル%以上である実施例4のポリマーは、コントロール(管理血漿:ベリハイ)に比べて凝固時間(APTT)が有意に延長され、抗凝血活性を発現することが確認された。
【0099】
(試験2−1.コート性試験1:PP(ポリプロピレン)シート)
(1)コート溶液の調製
実施例1〜3、および比較例2で得たポリマーを1重量%の濃度で水/メタノール(1/1体積比)混合溶液に溶解し、架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジドをポリマーと等量(ポリマーそのものの重量と同重量)を添加し、コート溶液を調製した。
【0100】
(2)コート層の形成
このコート溶液を、ポリプロピレン製のシート基材にディップコートした後、常温で乾燥することにより、基材上にポリマーのコート層を形成した。
【0101】
コート層をカチオン性の水溶性色素であるトルイジンブルーで染色し、コート班の有無を確認した。
【0102】
結果を下記表3に示す。
【0103】
(試験2−2.コート性試験2:PP(ポリプロピレン)シート)
(1)コート溶液の調製
実施例4で得たポリマーを1重量%の濃度で、水:エタノール:メタノール=6:3:1(体積比)の混合溶媒に溶解し、架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジドをポリマーと等量(ポリマーそのものの重量と同重量)を添加し、コート溶液を調製した。
【0104】
(2)コート層の形成
このコート溶液をポリプロピレン製のシート基材にディップコートした後、常温で3時間乾燥することにより、基材上にポリマーのコート層を形成した。
【0105】
コート層をカチオン性の水溶性色素であるトルイジンブルーで染色し、コート班の有無を確認した。結果を下記表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
上記表3から、繰り返し単位(A)に相当するDAAMの含有量(ポリマー(100モル%)に対するモル含有量)が25モル%以上である実施例1〜4のポリマーは、コート班のない、均一なコート層が簡便なディップコーティングにより得られることが確認された。
【0108】
一方、繰り返し単位(A)に相当するDAAMの含有量(ポリマー(100モル%)に対するモル含有量)が25モル%未満である比較例2のポリマーは、コート班が存在し、コート層が不安定であることが確認された。
【0109】
(試験2−3.コート性試験3:ポリ塩化ビニルチューブ)
(1)コート溶液の調製
実施例4で得たポリマーを1重量%の濃度で、メタノール:水=5:1(体積比)の混合溶媒に溶解し、架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジドをポリマーと等量(ポリマーそのものの重量と同重量)を添加し、コート溶液を調製した。
【0110】
(2)コート層の形成
このコート溶液を基材であるポリ塩化ビニルチューブにディップコートした後、常温で3時間乾燥することにより、基材上にポリマーのコート層を形成した。
【0111】
コート層をカチオン性の水溶性色素であるトルイジンブルーで染色し、コート斑の有無を確認した。
【0112】
染色後のコート層は、コート斑無く染色されていた。この結果から、基材としてポリ塩化ビニルチューブを用いた場合にも、斑無くコートできる事が確認された。
【0113】
(試験3−1.血液適合性試験1:ポリ塩化ビニルチューブ)
内径6mm、外径9mmの軟質PVCチューブの内面に実施例1〜3、比較例3のポリマーをそれぞれコートした。
【0114】
各々のチューブにヘパリン濃度0.2U/mLに調整したヒト血液を8mL充填し、ポリカーボネート製のコネクターで両端を接続しループ状とした。円筒型の回転装置に配置、室温、40回転/分の速度で、120分間回転した。その後、血液を回収、プロトロンビンフラグメント濃度をEIA法で測定した。結果を下記表4に示す。
【0115】
【表4】
【0116】
上記表4から、所定の組成を有するAMPS−DAAM共重合体を使用した場合(実施例1〜3)、従来から抗血栓性材料として使用されるPMEAを使用した場合(比較例3)と比べて、凝固系の活性化の程度を示すパラメータであるプロトロビンF1+2の生成量が有意に低かった。これにより、所定の組成を有するAMPS−DAAM共重合体が優れた血液適合性を有することが確認された。
【0117】
(試験3−2.血液適合性試験2:人工肺)
実施例3および比較例3で得たポリマーを1重量%の濃度で、水/メタノール(1/1体積比)混合溶液に溶解した。これを人工肺(テルモ社製)に血液インポート側から充填し、120秒間静置した後に除去、送風乾燥した。
【0118】
これらの人工肺を体外循環回路中に組み込み、ヘパリン加入新鮮血200mlおよび乳酸リンゲル液200mlで充填し、37℃の血液温で500ml/minで3時間灌流した。そして、血液中の凝固系の活性化指標である血中プロトロンビンフラグメント濃度(プロトロンビンフラグメント1+2濃度)をEIA法で測定した。結果を表5に示す。
【0119】
【表5】
【0120】
実施例3のポリマーは、比較例3のポリマーをコートした人工肺と比べ、血液凝固系の活性化指標である血中プロトロンビンフラグメント濃度が有意に低く、血液凝固系の活性化を能動的に抑制する性質を有することが確認された。
【0121】
(試験4.抗血栓性試験:ポリウレタン製チューブ;カテーテル形状)
実施例3および比較例3で得たポリマーを1重量%の濃度で、水/メタノール(1/1体積比)混合溶液に溶解した。これを外径2mmのポリウレタン製チューブの外面にディップコートした後、室温で12時間以上、乾燥した。その後、ヘパリン加新鮮血中に2時間静置した後に生理食塩水で洗浄し、グルタルアルデヒドで固定し、上記外面を電子顕微鏡で観察した。
【0122】
結果を図1Aおよび図1Bに示す。
【0123】
実施例3で得たポリマーをコートした場合(図1A)には血球等の付着がみられなかった。これに対して、比較例3で得たポリマーをコートした場合(図1B)には表面に多数の血球等の付着が観察された。これにより、所定の組成を有するAMPS−DAAM共重合体は従来の抗血栓性材料であるPMEA(比較例3)に比べて優れた抗血栓性を有することが示された。
【0124】
(試験5.抗バイオフィルム性試験)
実施例3および比較例3で得たポリマーを1重量%の濃度で、水/メタノール(1/1体積比)混合溶液に溶解した。これを、2cm×5cmのポリウレタン製シートの表面にディップコートし、室温で12時間以上、乾燥した。
【0125】
ステリテスト用ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地(シスメックス・ビオメリュー株式会社製)に緑膿菌を懸濁させた菌液(約1×10個/ml)中にコートした試験片を入れ7日間、32℃のインキュベーター中に静置した。生理食塩水で洗浄、グルタルアルデヒドで固定した後、電子顕微鏡で表面を観察した。
【0126】
結果を図2Aおよび図2Bに示す。
【0127】
実施例3で得たポリマーをコートした表面(図2A)の表面積500μmの領域には緑膿菌の付着、バイオフィルムの形成は全くみられなかった。これに対して、比較例3で得たポリマーをコートした表面(図2B)の表面積500μmの領域には緑膿菌によるバイオフィルムの形成が観察された。これにより、所定の組成を有するAMPS−DAAM共重合体は従来の抗血栓性材料であるPMEAに比べて抗バイオフィルム性にも優れることが確認された。
図1A
図1B
図2A
図2B