【文献】
長井 康貴 ほか,自動車触媒用酸素貯蔵材料CeO2-ZrO2複合酸化物の構造解析,R&D Review of Toyota CRDL,December 2002, Vol.37, No.4,pp.20-27
【文献】
Xiaohong WANG et al.,Structure, thermal-stability and reducibility of Si-doped Ce-Zr-O solid solution,Catalysis Today,2007, Vol.126,pp.412-419
【文献】
H.T. ZHANG et al.,Thermal stability and photoluminescence of Zr1-xCexO2 (0≦x≦1) nanoparticles synthesized in a non-a,Materials Chemistry and Physics,2007, Vol.101,pp.415-422
【文献】
Jiang XIAOYUAN et al.,Preparation and characterization of high specific surface area Ce0.5Zr0.5O2 mixed oxide,Indian Journal of Chemistry,February 2004, Vol.43A,pp.285-290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Ceと、Zrとを含有し、Ce及びZrの合計量を100原子%としたときの、Ceの含有割合が30原子%以上80原子%以下、Zrの含有割合が20原子%以上70原子%以下であり、CaF2型構造相またはCaF2類似構造相を有し、格子定数の理論値に対する(311)面の格子定数の実測値の比(実測値/理論値)が1.000であり、大気雰囲気下、1000℃、5時間焼成後に、全細孔容積が0.30cc/g以上を示すという特性を有する、複合酸化物。
アルカリ土類金属元素、Ceを除く希土類金属元素、希土類金属元素とZrとを除く遷移金属元素、ハロゲン元素、B、C、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種のM元素を更に含み、Ce、Zr及びM元素の合計量を100原子%としたときの、Ceの含有割合が30原子%以上80原子%未満、Zrの含有割合が20原子%以上70原子%未満、及びM元素の含有割合が0原子%を超え15原子%以下である請求項1記載の複合酸化物。
Ce、Zr及びM元素の合計量を100原子%としたときの、Ceの含有割合が40原子%以上60原子%未満、Zrの含有割合が40原子%以上60原子%未満、M元素の含有割合が0原子%を超え10原子%以下である請求項2記載の複合酸化物。
【背景技術】
【0002】
自動車などの内燃機関より排出される排ガスには、人体又は環境に有害である炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物が含まれている。現在、一酸化炭素及び炭化水素を炭酸ガスと水に酸化し、窒素酸化物を窒素と水に還元する、いわゆる三元触媒が排ガス浄化触媒として使用されている。三元触媒は、例えば、主触媒であるPt、Pd、Rh等の貴金属と、助触媒である酸化セリウムを含有する酸化物又は複合酸化物とが、アルミナ、コージェライト等の触媒担体に担持された構成となっている。助触媒は、含有されるCeが、酸化雰囲気下で3価から4価に価数を変えて酸素を吸収し、還元雰囲気下で4価から3価に価数を変えて酸素を放出するという特性、いわゆる酸素吸収放出能を有する。この酸素吸収放出能により、エンジンの加速、減速による排ガスの急激な雰囲気変化を緩和して、主触媒は高い効率で排ガスを浄化することができる。助触媒は、一般に高温時には大きな酸素吸収放出能を発揮するが、エンジン始動時のようにエンジンの温度が低いとき、特に400℃以下の低温下においても、十分な酸素吸収放出能を発揮することが求められる。また、助触媒には主触媒である貴金属が担持されるが、高温の排ガスに曝された場合に助触媒の焼結が進み、比表面積が小さくなると主触媒が凝集し、十分な触媒能を発揮できなくなる。したがって、助触媒には高温でも大きな比表面積を維持する耐熱性が求められる。
【0003】
助触媒に利用できる複合酸化物として、例えば、特許文献1には、酸化物換算でジルコニウム及びセリウムの配合比率が、重量比で51〜95:49〜5であり、500〜1000℃で焼成した後の比表面積が少なくとも50m
2/g以上、かつ1100℃で6時間加熱後において少なくとも20m
2/g以上の比表面積を維持するジルコニウム−セリウム系複合酸化物が記載されている。
特許文献2には、Ceおよび/またはPrとZrとを特定割合で含有し、酸化ジルコニウムに由来する正方晶系の結晶相を含有せず、且つ電子線回折像が点状の回折スポットを示す複合酸化物が開示され、該複合酸化物は低温での酸素吸収放出能に優れることが記載されている。
非許文献1には、CeO
2−ZrO
2固溶体のCe原子、Zr原子の均一性が高いと、OSC(oxygen storage/release capacity)が増加することが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の複合酸化物は、CeとZrとを必須成分として含み、アルカリ土類金属元素、Ceを除く希土類金属元素、希土類金属元素とZrとを除く遷移金属元素、ハロゲン元素、B、C、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種のM元素を任意成分として含む。
本発明において、CeとZrとを含有し、M元素を含まない場合、酸素を除く各成分の含有割合は、Ce及びZrの合計量を100原子%としたときの、Ceの含有割合は30原子%以上80原子%以下、Zrの含有割合は20原子%以上70原子%以下である。
M元素を含有する場合、酸素を除く各成分の含有割合は、Ce、Zr及びM元素の合計量を100原子%としたときの、Ceの含有割合は30原子%以上80原子%未満、Zrの含有割合は20原子%以上70原子%未満、及びM元素の含有割合は0原子%を超え15原子%以下である。
【0011】
CeおよびM元素の1つであるPrは、酸素吸収放出能を発現する元素である。Prを含有すると低温における酸素吸収放出能を更に改善できる。ただし、本発明の複合酸化物はPrを含まなくとも低温において十分な酸素吸収放出能を発揮することができる。したがって、Ceと比較して資源量が少なく、価格も高いPrを必ずしも使用する必要はなく、使用する場合でも例えば15原子%以下とCeより少量でよい。
Zrは、CeおよびPrの酸化率および還元率(利用率)を高くし、複合酸化物の耐熱性を向上する。ただし、酸素吸収放出能を発現するのは前述の通りCeおよび必要により含有させることができるPrであるため、あまり多く含有すると複合酸化物の重量あたりの酸素吸収放出能が小さくなるおそれがある。したがって、Zrの含有量は多くとも70原子%である。30原子%未満であると利用率、耐熱性を向上させる効果が十分得られないおそれがある。工業的にはジルコニウム塩は数原子%のHfを含有している場合があり、本発明においてHfはZrに含めて取り扱う。
【0012】
以上の理由等から、CeとZrとを含有し、M元素を含まない場合、酸素を除く各成分の含有割合は、Ce及びZrの合計量を100原子%としたときの、Ceの含有割合は40原子%以上60原子%以下、Zrの含有割合は40原子%以上60原子%以下が好ましく、Ceの含有割合は45原子%以上55原子%以下、Zrの含有割合は45原子%以上55原子%以下が更に好ましい。
M元素を含有する場合、酸素を除く各成分の含有割合は、Ce、Zr及びM元素の合計量を100原子%としたときの、Ceの含有割合は40原子%以上60原子%未満、Zrの含有割合が40原子%以上60原子%未満、及びM元素の含有割合は0原子%を超え10原子%以下が好ましく、Ceの含有割合は45原子%以上55原子%以下、Zrの含有割合が45原子%以上58原子%以下、及びM元素の含有割合は1原子%以上10原子%以下が更に好ましい。
上記好ましい範囲、更に好ましい範囲において、高い耐熱性と低温における優れた酸素吸収放出能を高度に両立することが可能である。
【0013】
本発明の複合酸化物においてM元素は、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素、Sc、Y、La、Nd、Tb等のCeを除く希土類金属元素、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、Al、Ga、In、Ge、Sn、Bi等の希土類金属元素とZrとを除く遷移金属元素、F、Cl等のハロゲン元素、B、C、Si、Sを表す。特に、M元素として、La、Pr及びYの少なくとも1種を含有する場合は、耐熱性および低温における酸素吸収放出能が向上するため好ましい。Laは特に耐熱性を向上し、Pr及びYは特に低温における酸素吸収放出能が向上する。Laと、Prおよび/またはYとを同時に含有する場合、特にこれらの性能を著しく向上できる。また、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、Ti及びSnの少なくとも1種を含有する場合、酸素吸収放出能が向上できるため好ましい。また、これら以外の元素を不可避不純分として含んでいても良い。
【0014】
本発明の複合酸化物は、CaF
2型構造相またはCaF
2類似構造相を有し、格子定数の理論値に対する(311)面の格子定数の実測値の比(実測値/理論値)が1.000である。本発明において実測値/理論値が1.000であるということは、小数点以下の四桁目の数を四捨五入した場合の値が1.000となることを意味する。結晶構造の確認、格子定数の測定は、X線回折装置により、以下の条件で行う。
ターゲット:銅、管電圧:40kV、管電流:300mA、発散スリット:1°、散乱スリット:1°、受光スリット:0.15mm、操作モード:連続、スキャンステップ:0.02°、スキャンスピード:5°/分。
本発明の複合酸化物は、CaF
2構造相またはCaF
2類似構造相のみからなることが好ましい。CaF
2類似構造相とは、X線回折(XRD)測定によりCaF
2構造相として指数付できる結晶相を意味し、C型希土類構造、パイロクロア構造、またはパイロクロア構造に酸素が導入された準安定相等が含まれる。
【0015】
本発明の複合酸化物の格子定数の理論値に対する(311)面の格子定数の実測値の比(実測値/理論値)は、上記条件で測定したXRDパターンよりCaF
2構造相またはCaF
2類似構造相の(311)面の回折ピーク(2θ=58°付近)の角度より以下の通り算出した。
理論値は、ZrO
2とCeO
2の格子定数の理論値を用い、それぞれ含有率で按分した値を用いた。実測値は、上記条件で測定した(311)面の回折ピーク角度より、ブラッグの回折条件式を用いて算出した値を用いた。M元素については特に考慮せずに格子定数の理論値に対する実測値の値を算出したが、本発明の複合酸化物を規定する上で、性能との十分な相関がとれることを確認している。
本発明の複合酸化物は、格子定数の理論値に対する(311)面の格子定数の実測値の比(実測値/理論値)が1.000であることから、ほぼ理論的にCeのCaF
2構造相に、Zr、また必要によりM元素が固溶している。固溶状態が高い場合、酸素の吸蔵・放出時の格子間の歪が少ないため、酸素がスムーズに出入りすることが可能となり、特に低温時の酸素が移動しにくい状況において効果が顕著となると考えられる。
【0016】
本発明の複合酸化物は、大気雰囲気下、1000℃、5時間焼成後の全細孔容積が0.30cc/g以上を示すという特性を有する。1000℃、5時間焼成後の全細孔容積は、複合酸化物の耐熱性を表す指標となる。上述の格子定数で規定した高度な固溶状態にあり、かつ前記全細孔容積が0.30cc/g以上である本発明の複合酸化物は、低温における優れた酸素吸収放出能と十分な耐熱性の双方を備える。前記全細孔容積は、好ましくは0.35cc/g以上であり、その上限は特に限定されないが、通常、0.45cc/g程度である。本発明において全細孔容積は、Nova2000(Quantachrome社製)で窒素ガスを用い、BJH脱着法で測定できる。
【0017】
本発明の複合酸化物は、400℃において、複合酸化物1gあたり好ましくは300μmol以上、さらに好ましくは500μmol/g以上、最も好ましくは600μmol/g以上の酸素吸蔵量を示すという特性を有する。該酸素吸蔵量の上限は特に限定されないが、通常、700μmol/g程度である。本発明において複合酸化物の酸素吸蔵量は、ガス吸着装置を用いて、以下の方法により測定した。
まず、水素ガスを0.07MPaでフローさせながら、複合酸化物の試料50mgを1時間かけて400℃まで昇温し、10分間保持することで試料を還元する。試料は計測が終わるまで400℃に保持する。その後、ヘリウムガスをフローして水素ガスを十分に置換する。次いで、計量管にて正確に秤量した酸素1ccをサンプル管に導入し、試料を酸化する。この際、消費された酸素量をTCD(熱伝導型分析計)により定量して、酸素吸蔵量(μmol/g)とする。
【0018】
本発明の複合酸化物は、例えば、以下に示す湿式で調製した沈殿物を焼成する工程(a)〜(d)を含む方法で製造することができる。
ジルコニウムイオンを含有するジルコニウム水溶液を加熱保持する工程(a)、加熱保持したジルコニウム水溶液と、必要に応じてM元素イオンを含む、セリウムイオンの90mol%以上が4価であるセリウム水溶液とを混合して混合水溶液とし、該混合水溶液を加熱保持する工程(b)、加熱保持した混合水溶液と界面活性剤とを含有する沈殿剤を混合し、沈殿物を得る工程(c)、及び得られた沈殿物を酸化雰囲気にて焼成する工程(d)を含む方法。
【0019】
上記工程(a)を行う前に、ジルコニウムイオンを含有するジルコニウム水溶液、セリウムイオンを含有するセリウム水溶液、及び界面活性剤を含有するアルカリ性水溶液を準備する。ここで、ジルコニウムイオンとは、Zr
4+もしくはZrO
2+であって、これらのいずれか、もしくは両方を含むことができる。また、セリウム水溶液には、必要によりM元素イオンを含有させることができる。
ジルコニウム水溶液およびセリウム水溶液は、それぞれCe、Zr、必要に応じてM元素の塩を水に溶解して調製する。Zr、Ce、M元素の塩としては、それぞれの硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の水溶性の塩が使用できる。
【0020】
アルカリ性水溶液は、例えば、アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を水に溶解して調製できる。アルカリ性水溶液は、ジルコニウムイオン、セリウムイオン、M元素イオンを中和、沈殿するに必要な理論量の1.1〜5倍のアルカリを含有することが好ましい。
界面活性剤としては、例えば、エトキシカルボキシレート等の陰イオン界面活性剤、アルコールエトキシレート等の非イオン界面活性剤、ポリエチレングリコール、カルボン酸及びそれらの混合物が挙げられ、特にカルボン酸の使用が好ましい。前記カルボン酸としては、例えば、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等の飽和カルボン酸が好ましく挙げられ、特にラウリン酸が好ましい。
アルカリ水溶液中の界面活性剤の含有割合は、通常1.0〜3.5wt%程度である。
【0021】
工程(a)において加熱保持は、90〜100℃で、5〜12時間行うことが好ましく、さらに好ましくは95〜98℃で、7〜10時間行う。ジルコニウム水溶液を加熱保持することにより、加水分解反応が進行し、Zrの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、これらの水和物等を含む微粒子が生じる。加熱保持の温度は高い方が、加熱保持の時間は長い方が加水分解反応は進行するが、発生したZrの微粒子の酸化が進み過ぎ、また粒成長が進み過ぎると、工程(b)において、Ceや、必要により含有されるM元素との混合状態の均一性が困難となるため、加熱保持前のジルコニウム水溶液の状態により、工程(a)の加熱保持の条件を適宜定めることが好ましい。
ジルコニウム水溶液の濃度は、ZrO
2換算で10〜100g/Lとすることが好しく、さらに好ましくは10〜50g/Lである。ジルコニウム水溶液の濃度は低い方が加水分解反応は生じやすいが、生産性が低くなる傾向がある。逆にジルコニウム水溶液の濃度が高いと加水分解反応が進行し難い傾向がある。
【0022】
工程(b)においてセリウム水溶液に、4価のセリウムイオンを含有させることにより、加水分解反応が進行し易くなる。セリウム水溶液中の4価のセリウムイオンの割合は95mol%以上が好ましい。
工程(b)において混合水溶液の加熱保持は、90〜100℃で、15〜25時間行うことが好ましく、さらに好ましくは98〜100℃で、18〜20時間行う。混合水溶液を加熱保持することで加水分解反応が進行し、Ceの水酸化物、酸化物及びこれらの水和物のいずれかの微粒子が生じる。同時に前述のZrの微粒子と均一に混合される。この際、Zrの微粒子およびCeの微粒子の一部が溶解・析出を繰り返しながら、原子レベルでの混合が行われ、さらにZr、Ceが原子レベルで均一に混合された粒子を成長させることが可能になる。
加熱保持の温度、時間は、上記セリウムイオンの加水分解反応、Zrの微粒子およびCeの微粒子の溶解・析出に影響し、最終的に得られる複合酸化物の酸素吸収放出能に関わる固溶度、耐熱性に関わる前記全細孔容積に影響するものと推測される。
混合水溶液の濃度は、CeはCeO
2換算、任意のM元素は大気雰囲気下、1000℃で焼成して得られる酸化物換算で、CeとM元素の合計量が20〜100g/Lとすることが好ましく、さらに好ましくは30〜70g/Lである。
【0023】
上記工程(a)を行った後に工程(b)を行うことは重要である。ジルコニウム塩は、セリウム塩との共存下では加水分解反応が進行しにくい。工程(a)は、セリウム塩が存在しない環境下で行うことから、Zrの微粒子を生成させ、かつ発生した微粒子の酸化が進み過ぎ、また粒成長が進み過ぎることがない条件を自由に設定して行うことができる。その後、セリウム水溶液を混合して加熱保持する工程(b)を行うことで、Zrの微粒子のごく近傍で、Ceの微粒子が生成し、さらにはこれらの微粒子が溶解・析出を繰り返しながら、Ce、Zrが原子レベルで均一に混合された粒子となり、さらにそれを粒成長させることが可能になる。この段階で、粒子をある程度の大きさまで成長させることで、後工程の焼成時または複合酸化物とした後の高温での使用時に過度の焼結が抑制できるため、耐熱性が高く、かつ固溶度が高く酸素吸収放出能に優れた複合酸化物を得ることができる。
【0024】
工程(c)において生成する沈殿物の回収は、例えば、ヌッチェ、フィルタープレス、遠心分離等で、ろ過することにより行うことができる。回収の際、沈殿物は洗浄することが好ましい。洗浄はデカンテーション等の公知の方法で行うことができる。回収した沈殿物は次工程の前に乾燥を行ってもよい。また、スプレードライ法によりスラリーから直接、乾燥させた沈殿物を得ることもできる。
工程(c)により、Ce、Zr、必要によりM元素を含有する沈殿物が得られる。該沈殿物は、工程(b)において生成した粒子間に界面活性剤が分散して存在する形態として得られる。この界面活性剤は、いわゆる造孔剤として機能し、後工程の焼成により、沈殿物を多孔質の複合酸化物とすることができる。このような多孔質の複合酸化物とすることで、高温での使用時に過度の焼結が抑制できるため、耐熱性を高めることができる。
【0025】
工程(d)において焼成は、酸化雰囲気下で行うことができる。焼成条件は、工程(c)で得られた沈殿物が分解・酸化されて複合酸化物となり、CaF
2型構造相またはCaF
2類似構造相を有し、格子定数の理論値に対する(311)面の格子定数の実測値の比(実測値/理論値)が1.000となり、また、得られる複合酸化物が、大気雰囲気下、1000℃、5時間焼成後、全細孔容積が0.30cc/g以上を示す特性を有するような条件であれば特に限定されない。通常、300℃以上1200℃以下で、0.5時間以上24時間以下の条件が挙げられる。また、2段階以上の焼成を行うこともできる。例えば、沈殿物を200℃以上500℃以下の温度で0.5時間以上24時間以下の条件で第1焼成工程と、1000℃以上1200℃以下で、0.5時間以上24時間以下の条件で第2焼成工程とを行う2段階焼成が挙げられる。
【0026】
前記製造法においては、工程(d)の後、還元雰囲気下、焼成する工程(e)を行うことが好ましい。該工程(e)は、通常、800℃以上で、好ましくは1000℃以上1200℃以下で、0.5時間以上24時間以下の条件により行うことができる。また、前述の酸化雰囲気下での焼成と同様に2段階で行うことができる。
工程(e)において還元雰囲気は、水素または一酸化炭素を含有する還元雰囲気、もしくはアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスと水素の混合ガス雰囲気で行なうことができる。不活性ガスと水素の混合ガスの雰囲気で行うことが安全面、効率面で好ましい。
工程(e)を行うことで得られる複合酸化物は、さらに各元素の固溶状態が高くなり、各格子間の配列が整う、即ち、結晶性が高まるため、さらに酸素の吸蔵・放出時の格子間の歪を少なくすることができる。このため、酸素がスムーズに出入りすることが可能となり、特に酸素が移動しにくい低温時において酸素吸蔵・放出効果を顕著にすることが可能になるものと考えられる。
【0027】
前記製造法においては、さらに工程(e)の後、酸化雰囲気下、焼成する工程(f)を行うことが好ましい。ここでの焼成は、前述の沈殿物の焼成と同様に行うことができる。その後も同様に、還元雰囲気下の焼成、酸化雰囲気下での焼成を適宜行うことができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
尚、以下の例において、得られた複合酸化物の組成は、ICP発光分光分析装置で測定したところ、何れも原料組成と同様であった。
【0029】
実施例1
原料として硝酸ジルコニール水溶液を用い、ZrO
2換算で濃度15g/Lのジルコニウム水溶液を調整した。ジルコニウム水溶液1Lを冷却管、攪拌機を備えた容器に入れ、98℃で8時間、攪拌しながら加熱・保持した。
次いで、室温まで冷却したジルコニウム水溶液にCeO
2換算でセリウムイオンの95mol%が4価であり、CeO
2換算で濃度200g/Lの硝酸セリウム水溶液を60mlと、La
2O
3換算で濃度300g/Lの硝酸ランタン水溶液10mlとを加え、混合水溶液を得た。得られた混合水溶液を98℃で20時間、攪拌しながら加熱・保持した。
続いて、室温まで冷却した混合水溶液を攪拌しながら、ラウリン酸アンモニウム6.8gを含有する12.5質量%のアンモニア水溶液315mlを20分間かけて添加した。アンモニア水溶液を投入した後の混合水溶液のpHは9.5であった。その後、得られた沈殿物をヌッチェ濾過、デカンテーション洗浄を繰り返し行った。
得られた沈殿物を大気雰囲気下にて400℃、5時間焼成後、一旦、乳鉢にて粉砕し、再度、大気雰囲気下にて1000℃、2時間焼成し、複合酸化物を得た。
得られた複合酸化物について、前述した方法により、XRD、400℃における酸素吸蔵量、大気雰囲気下、1000℃、5時間焼成後の全細孔容積をそれぞれ測定した。その結果、得られた複合酸化物はCaF
2構造相として指数付できる結晶相のみを含有し、格子定数の理論値に対する(311)面の格子定数の実測値の比(実測値/理論値)が1.000、400℃における酸素吸蔵量が323μmol/g、大気雰囲気下、1000℃、5時間焼成後の全細孔容積が0.378cc/gであった。
【0030】
実施例2〜10
表1の組成となるように原料水溶液の配合を変えた以外は、実施例1と同様にして複合酸化物を得た。原料水溶液に加えるPr、Y源としては、それぞれ硝酸プラセオジム水溶液、硝酸イットリウム水溶液を用いた。得られた複合酸化物について、実施例1と同様な測定を行った。結果を表1に示す。CaF
2構造相として指数付できる結晶相のみを含有する場合、表1には単にCaF
2と記載している。
【0031】
実施例11〜20
それぞれ実施例1〜10と同様にして沈殿物を得た。得られた沈殿物を大気雰囲気下にて400℃、5時間焼成後の試料について、水素を2L/分の流量でフローしながら1000℃、1時間焼成を行い、次いで、大気中にて700℃、5時間焼成し、複合酸化物を得た以外はそれぞれ実施例1と同様の方法で行った。得られた複合酸化物について、実施例1と同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0032】
実施例21〜23
表1の組成となるように原料水溶液の配合を変えた以外は、実施例11と同様にして複合酸化物を得た。原料水溶液に加えるNd、Gd源としては、それぞれ硝酸ネオジム水溶液、硝酸ガドリニウム水溶液を用いた。得られた複合酸化物について、実施例1と同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0033】
比較例1
ジルコニウム水溶液を加熱・保持せず、混合水溶液を98℃、20時間、攪拌しながら加熱・保持した以外は実施例1と同様にして行い複合酸化物を得た。得られた複合酸化物について、実施例1と同様に測定を行った。結果を表1に示す。CaF
2構造相として指数付できる結晶相だけでなく、ZrO
2に由来する正方晶も含有する場合、表1にはCaF
2+t−ZrO
2と記載している。
【0034】
比較例2
ジルコニウム水溶液を加熱・保持せず、また混合水溶液にラウリン酸アンモニウムを含まない12.5質量%のアンモニア水溶液315mlを20分間かけて添加した。その後、得られた沈殿物をヌッチェ濾過、デカンテーション洗浄を繰り返し行った。次いで、得られた沈殿物にラウリン酸アンモニウム6.8gを加え、よく混合した。以上の点以外は実施例11と同様にして焼成を行い、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物について、実施例1と同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0035】
比較例3及び4
原料の配合を表1に示す通り変更した以外は、実施例11と同様にして、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物について、実施例1と同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】