【文献】
MAIER T,WAVELENGTH-TUNABLE MICROBOLOMETERS WITH METAMATERIAL ABSORBERS,OPTICS LETTERS,米国,OPTICAL SOCIETY OF AMERICA,2009年10月 1日,V34 N19,P3012-3014
【文献】
THOMAS MAIER,MULTISPECTRAL MICROBOLOMETERS FOR THE MIDINFRARED,OPTICS LETTERS,米国,OPTICAL SOCIETY OF AMERICA,2010年11月15日,V35 N22,P3766-3768
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
支持基板と、所定の寸法のマイクロボロメータピクセル(300)の配列とを備える、所定のスペクトル帯域の光放射線の熱検出のためのマイクロボロメータアレイにおいて、前記各マイクロボロメータピクセルは、
支持要素によって前記支持基板の上方に懸架される膜(301)であって、前記膜は、入射放射線を吸収するための素子(305)と、前記吸収素子と熱的に接触して前記吸収素子から電気的に絶縁される温度測定素子(304)とから成る、膜(301)と、
前記温度測定素子を前記支持基板に電気的に接続するための要素と、
前記温度測定素子と前記支持基板との間に配置される熱的絶縁アーム(306)と、
を備え、
前記吸収素子が少なくとも1つの第1の金属/絶縁体/金属(MIM)構造体を備え、該MIM構造体は、サブミクロン程度の厚さの3つの重ね合わされる膜、すなわち、第1の金属膜(311)、誘電体膜(310)、および、第2の金属膜(309)の多層構造を備え、前記MIM構造体は、前記スペクトル帯域の少なくとも1つの共鳴波長(λr)で前記入射放射線の共鳴吸収を有することができ、
前記MIM構造体の少なくとも1つの横方向寸法はλr/2n以下であり、λrは共鳴波長であり、nは前記MIM構造体中の誘電体膜の誘電体材料の屈折率であり、
前記MIM構造体の横方向寸法、前記誘電体膜の厚さ、および、前記第1の金属膜および前記第2の金属膜の厚さは、前記共鳴波長で最大の吸収を有するように共鳴波長と前記誘電体材料の屈折率とに応じて決定され、それにより、共鳴波長程度の少なくとも1つの寸法を有する前記MIM構造体の有効吸収面積が前記共鳴波長でもたらされ、
前記膜(301)によってカバーされる前記マイクロボロメータピクセルの面積は、前記マイクロボロメータピクセルの全面積の半分以下である、
マイクロボロメータアレイ。
前記各マイクロボロメータピクセルの前記熱的絶縁アームおよび/または前記温度測定素子が構造化された膜(930)を成して形成される、請求項1または請求項2に記載のマイクロボロメータアレイ。
前記各マイクロボロメータピクセルの前記温度測定素子は、アモルファスシリコン、バナジウム系化合物、および、Si−Ge合金から選択される材料または多層の材料を備える、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のマイクロボロメータアレイ。
前記各マイクロボロメータピクセルの前記温度測定素子は、電気絶縁膜によって前記吸収素子から絶縁される、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のマイクロボロメータアレイ。
前記マイクロボロメータピクセルのうちの少なくとも1つの前記第1のMIM構造は、前記マイクロボロメータピクセルのほぼ中心に位置される、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のマイクロボロメータアレイ。
前記マイクロボロメータピクセルのうちの少なくとも1つの前記吸収素子は、前記マイクロボロメータピクセルの表面上に配置される複数の前記MIM構造体を備える、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のマイクロボロメータアレイ。
前記MIM構造体のうちの少なくとも2つは、異なっており、前記スペクトル帯域の少なくとも2つの別個の波長で前記入射放射線の共鳴吸収を有することができる、請求項8に記載のマイクロボロメータアレイ。
前記マイクロボロメータピクセルのうちの少なくとも1つの前記吸収素子は、前記第1のMIM構造体上に重ね合わされる少なくとも1つの第2のMIM構造体を備え、前記第1および第2の構造体は、前記スペクトル帯域の少なくとも2つの別個の波長で前記入射放射線の共鳴吸収を有することができるとともに、共通の金属膜を共有する、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のマイクロボロメータアレイ。
前記各マイクロボロメータピクセルの前記MIM構造体の第1または第2の金属膜は、金、銅、アルミニウム、および、銀から選択される材料から形成される、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のマイクロボロメータアレイ。
前記各マイクロボロメータピクセルは、前記波長で共鳴キャビティを形成するために、前記膜の平面から距離dを隔てて配置される反射体(302)を更に備える、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載のマイクロボロメータアレイ。
前記支持基板は、前記各マイクロボロメータピクセルの前記温度測定素子の電気抵抗を読み出すための回路を備える、請求項1から請求項13のいずれか一項に記載のマイクロボロメータアレイ。
画像形成光学素子と、前記光学素子の焦点面付近に位置される請求項1から請求項14のいずれか一項に記載のマイクロボロメータアレイと、前記ボロメータを読み出すための回路によって供給される信号を処理するためのユニットとを備える、赤外放射線を検出するためのカメラ。
前記犠牲膜が堆積される前に、前記各マイクロボロメータピクセルごとに反射素子を形成するように構造化される反射膜を堆積させるステップを含む、請求項16に記載のマイクロボロメータアレイを形成するための方法。
【背景技術】
【0002】
非冷却赤外線検出器は、数十年間にわたって熱心な研究および開発の対象となってきた。そのような検出器のうちで、抵抗マイクロボロメータにおける市場は、現在のところ、特に公共の用途(家庭用電子機器、ドライバーまたはパイロットの支援、暗視、火災の調査など)においてかなりの成長を経験している。抵抗マイクロボロメータは、赤外線における検出に特に適しており、とりわけ、室温の物体によりあるいは生き物により発せられる熱を観察できるように大気を通じて伝えられるスペクトル帯域のうちの1つに対応する帯域III(8〜12μm)における検出に適している。
【0003】
カメラで使用されるようになっているマイクロボロメータアレイは、明細書本文の残りの部分で「マイクロボロメータピクセル」と呼ばれる検出素子の配列の形態で製造されてもよい。マイクロボロメータアレイは、本質的に、赤外線熱撮像(波長は、それぞれ3〜5μmおよび8〜12μmの赤外線帯域IIおよび赤外線帯域IIIにある)のために使用される。これらのマイクロボロメータアレイは、量子検出器に基づく撮像装置に優る2つの主な利点を有する。一方では、これらのマイクロボロメータアレイは室温で作用し、それにより、それらの製造コストおよびそれらを使用するカメラのランニングコストをかなり低減できる。他方では、これらのマイクロボロメータアレイは、シリコンマイクロ電子機器の技術に適合する技術で製造され、それにより、CMOS技術で形成される読み出し回路上に直接にアレイを形成できる。マイクロ技術および読み出し回路に対する直接的な接続は、大型マイクロボロメータアレイ(一般に1024×768)の非常に低コストな製造を可能にする。これらの2つの利点を組み合わせることにより、マイクロボロメータアレイは、量子検出器に基づく撮像装置を用いて可能であったよりもかなり低いコストで赤外線撮像を可能にする。したがって、現在において市場に出されるマイクロボロメータアレイは、これらのマイクロボロメータアレイの固有の能力から得られる性能が極限まで押し進められるのを見てきた成熟した技術を使用して形成される。特に、これらのマイクロボロメータアレイは、8〜12μmスペクトル帯域の入射放射線の90%以上を吸収することができ、また、それらのフィルファクタ、すなわち、検出器のアレイの全面積に対する高感度面積の比率はほぼ100%である。これらの性能にもかかわらず、マイクロボロメータアレイは、それらの限られた感度および遅い応答時間により、冷却技術にわたって不利な立場に置かれている。
【0004】
図1A、1B、および、1Cは、従来技術に係るマイクロボロメータピクセルの概略図である。
【0005】
図1Aに示されるように、マイクロボロメータピクセル100は、主に、吸収素子および該吸収素子と非常に良好な熱的接触を成す温度測定素子を有する吸収素子/サーミスタアセンブリを形成する膜101と、支持基板103とを備え、支持基板の上方に膜101が懸架される。また、マイクロボロメータセルは、熱的絶縁アーム106、および、温度測定素子を支持基板上のパッド115と電気的に接続するための電気接続要素114も備える。例えばシリコンから形成される支持基板は、マイクロボロメータピクセルに対して機械的剛性を与えるとともに、温度測定素子にバイアスをかけてその抵抗を読み出すための回路(
図1に示されない)を備える。吸収素子/サーミスタアセンブリは、
図1の例では電気接続要素114でもある固定要素によって支持基板103の上方に懸架される。吸収素子における入射光子束の吸収は、吸収素子の温度を増大させる傾向がある。吸収素子/サーミスタアセンブリをその支持基板から(熱的絶縁アーム、および、吸収素子/サーミスタアセンブリの周囲で維持される絶縁真空によって)熱的に絶縁すると、所定の光子束に関して吸収素子/サーミスタユニットの温度増大を高めることにより、デバイスの感度が高まる。
【0006】
図1Bおよび
図1Cはそれぞれ、他の既知のマイクロボロメータピクセルの概略平面図および概略断面図を示す。吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜101は、固定要素(図示せず)と支持基板上の接続パッド115に電気的に接続する要素も形成する熱的絶縁アーム106とによって支持基板103の上方に懸架される。この例において、吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜101は、吸収素子105(
図1C)を一方側に備えるとともに、吸収素子と非常に良好な熱的接触を行う温度測定素子104を他方側に備える。従来技術における吸収素子は薄い金属膜から成る。サーミスタは、一般に、例えば酸化バナジウム(VO
x)またはアモルファスシリコン(a−Si)など、温度に伴うその抵抗率変化が高くなるように選択される材料から形成されるレジスタである。熱的絶縁アームは、例えば、吸収素子/サーミスタアセンブリを絶縁真空内で懸架する熱伝導率が低い機械的および電気的なリンクである。
【0007】
この場合、マイクロボロメータアレイの各マイクロボロメータピクセルは、熱的および電気的な絶縁マージンだけ、その隣接するピクセルから離間される。したがって、マイクロボロメータピクセルは、熱的絶縁アームと、支持基板に電気的に接続する要素と、絶縁マージとから成るそれらの領域の一部にわたって、入射光子束に対して感度がない。入射光子束に対して感度がないこの領域の存在によるマイクロボロメータピクセルの感度への影響は、本明細書本文においてはマイクロボロメータピクセルの全領域の面積(
図1Bでは枠113により表わされる)に対する吸収領域107の面積(
図1Bの例では、吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜101の面積である)の比率により規定されるフィルファクタによって与えられる。
【0008】
一次近似的には、入射光子束の作用下での温度測定素子の定常状態温度増大を定量化する温度変化ΔT(ケルビン)、および、マイクロボロメータピクセルの応答時間(秒)は、
ΔT=η・A・R
th・P (方程式1)
τ=C
th・R
th (方程式2)
によって与えられるのが分かる。
ここで、厳密に0〜1の値を有するηは、吸収素子により吸収される入射光エネルギーの割合、Pは光パワーフロー(W/m
2)、Aは膜の面積、C
thは温度測定素子の熱容量(J/K)、R
thは、温度測定素子と支持基板とを熱的に接続する全ての要素の熱抵抗(K/W)、特に熱的絶縁アームの熱抵抗である。
【0009】
温度変化(ΔT)は、入射光束の作用下での膜の温度増大を定量化する。この温度増大は、サーミスタによって電気信号へと変換される。したがって、測定された電気信号は、マイクロボロメータピクセルの吸収領域での光パワーフローに比例するとともに、熱抵抗R
thに比例するマイクロボロメータピクセルの「応答」と呼ばれるファクタに比例する。検出可能な光束の最小差を表すマイクロボロメータピクセルの感度は、一次近似的には応答に依存する。したがって、熱抵抗R
thの増大は、同様に増大する応答時間の損失に対する感度を高める。
【0010】
したがって、一次的には、マイクロボロメータピクセルの構造は、吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜の面積と様々な熱的絶縁要素(例えば、熱的絶縁アーム、および、絶縁マージン)により形成される「熱的絶縁」の面積との間におけるその面積の仕切り同士の間の折り合いである。具体的には、吸収される光パワーフローは、吸収素子/サーミスタ膜の面積(方程式1におけるP×Aの積)を増大することによって増大されるが、熱的絶縁の不良(低いR
th)は小さな温度増大をもたらす。逆に、大きな空間を占める熱的絶縁はより有効であるが、吸収される光子の数が減少する。マイクロボロメータピクセルの構造は、他の非吸収部分(例えば、電気接続部分)の面積を最小にするための要件によっても制約される。したがって、20μm未満のピクセルを有する最先端のマイクロボロメータアレイは、現在、約45mKの赤外線の感度に関してほぼ100%のフィルファクタを有する(例えば、J.L.Tissot"High performance Uncooled amorphous silicon VGA IRFPA with 17 μm pixel−pitch"、SPIEの議事録、7660巻、76600T−1(2010)を参照)。
【0011】
8〜12μmの範囲の大気透過帯域IIIの全体にわたって一般に90%の高い吸収を得ることができるようにする1/4波長キャビティを形成するために、吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜をミラー102から距離d=λ
0/4を隔てて配置することは知られている。なお、λ
0はスペクトル検出帯域の中心波長である。そのようなデバイスは、例えば、幅広いスペクトル吸収帯域を伴うマイクロボロメータアレイを開示する国際特許出願第2002/055973号明細書に記載されている。
【0012】
一方、2009年のMaier等による論文("Wavelength−tunable microbolometerswith metamaterial absorbers",Optics letters,Vol.34,No.19)は、制御されたスペクトル選択性を有するマイクロボロメータアレイについて記載する。ここに記載されるマイクロボロメータは、2つの窒化ケイ素膜間にアモルファスシリコン膜により形成される温度測定素子を備え、膜は、二次元配列で配置される正方形の金属/絶縁体/金属多層構造から成りかつ赤外線の共鳴吸収を示す一組の吸収素子で覆われる。金属/絶縁体/金属(MIM)多層構造は、各吸収素子の横方向寸法の選択により、スペクトル帯域の所定の波長でプラズモン共鳴を励起できるようにし、それにより、マイクロボロメータアレイに対してスペクトル選択性を与える。しかしながら、このスペクトル選択性は感度を損ねて達成され、吸収が入射放射線のスペクトル帯域の一部に制限され、また、応答時間を損ねて、加熱されるべき熱質量が増大される。
【0013】
また、2010年のMaier等による論文("Multispectral microbolometers for the midinfrared",Optics letters,Vol.35,No.22)は、プラズモン共鳴を使用するマイクロボロメータアレイについても記載する。
図2は、この論文に記載されるマイクロボロメータピクセルの吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜の概略図を示す。膜201は、温度測定素子204と、MIM多層構造から成る吸収素子205とを備え、この場合、吸収素子は、温度測定素子204と接触する連続する金属層と、誘電体層と、上端金属層とを備え、全体の横方向寸法は、共鳴波長を規定し、その結果として、マイクロボロメータアレイのスペクトル応答を規定する。2010年のMaier等による論文と比べて、ピクセル領域を完全に覆う金属連続層の配置は、マイクロボロメータの吸収を増大することができる。しかしながら、ピクセルの面積全体にわたる連続的な誘電体層および金属層の配置は、熱質量を増大させる。また、2009年のMaier等の場合と同様、MIM共鳴器によりもたらされるスペクトルフィルタリングは、マイクロボロメータピクセルの感度を損ねて達成される。
【0014】
更に、ピクセルサイズが波長に近づく現在の市場動向は、マイクロボロメータアレイの感度が非常に重要であることを意味する。赤外線撮像用途(家庭用電子機器、暗視、火災探知など)により課される新たな制約に直面して、感度およびピクセルサイズの両方に関しては、現在のところ、マイクロボロメータアレイの全ての利点、特に室温で作用できるマイクロボロメータアレイの能力およびマイクロボロメータアレイの低コストを維持しつつ、マイクロボロメータアレイの可能性を高めるための技術的進歩の真の必要性が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の一つの目的は、そのマイクロボロメータピクセルのそれぞれに入射する光子がMIM構造体によって吸収されるとともに、その構造によって吸収素子と入射波との結合を大幅に変えることができ、それにより、フィルファクタをほぼ1に維持しつつ、断熱体により占められる面積を増大させることができる、マイクロボロメータアレイを提供することである。この概念的な進歩により、光学的な吸収と熱的絶縁および質量との間の折り合いを再規定することができ、それにより、マイクロボロメータアレイの感度および/または応答時間を改善することができる。本発明の他の目的は、サイズが非常に小さい(一般的には、ほぼ波長)マイクロボロメータピクセルを形成できるようにすることである。これは、良好な感度が必要とされる場合に、現在の技術を用いてそのようなピクセルサイズを達成することが不可能だからである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の態様によれば、本発明は、支持基板と、所定の寸法のマイクロボロメータピクセルの配列とを備える、所定のスペクトル帯域の光放射線の熱検出のためのマイクロボロメータアレイに関し、各マイクロボロメータピクセルは、
支持要素によって前記支持基板の上方に懸架される膜であって、前記膜は、入射放射線を吸収するための素子と、吸収素子と熱的に接触して前記吸収素子から電気的に絶縁される温度測定素子とから成る、膜と、
前記温度測定素子を支持基板に電気的に接続するための要素と、
温度測定素子と支持基板との間に配置される熱的絶縁アームと、
を備え、
吸収素子が少なくとも1つの第1の金属/絶縁体/金属(MIM)構造体を備え、該MIM構造体は、サブミクロン程度の厚さの3つの重ね合わされる膜、すなわち、第1の金属膜、誘電体膜、および、第2の金属膜の多層構造を備え、前記MIM構造体は、前記スペクトル帯域の少なくとも1つの波長で前記入射放射線の共鳴吸収を有することができ、
前記膜によってカバーされるマイクロボロメータピクセルの面積は、マイクロボロメータピクセルの全面積の半分以下である。
【0017】
所定の波長に結合するように最適化されるMIM構造体の有効吸収面積は、前記構造体によって占められる実際の面積よりもかなり大きい。膜によりカバーされるマイクロボロメータピクセルの面積をマイクロボロメータピクセルの全面積の少なくとも半分に制限するように選択することにより、吸収面積を減らすことなく、断熱体の面積が増大される。結果として、応答時間を増大させることなく、マイクロボロメータの感度が高められ、温度測定素子の質量も制限される。
【0018】
また、吸収素子と温度測定素子とによって形成される膜の小さいフットプリントによりもたらされる利用可能な空間の増大により、熱抵抗をかなり増大させるのに十分な長さの熱的絶縁アームを形成することができ、それにより、マイクロボロメータの感度を高めることができる。あるいは、熱的絶縁アームの長さは、応答時間を制限するように減少されてもよい。
【0019】
有利には、熱的絶縁アームは、膜を支持する要素の一部を形成する。
【0020】
また、熱的絶縁アームは、温度測定素子を電気的に接続するための素子を形成してもよい。
【0021】
一つの変形実施形態によれば、各マイクロボロメータピクセルの熱的絶縁アームおよび/または温度測定素子が構造化された膜を成して形成される。
【0022】
他の変形実施形態によれば、熱的絶縁アームおよび/または温度測定素子を形成するために同じ膜が使用されてもよい。この場合、有利には、熱的絶縁アームを形成する膜の部分は、温度測定素子を形成する膜の部分よりも高い導電率を有する。この高い導電率は、例えば、膜を局所的にドープすることにより得られる。
【0023】
他の変形実施形態によれば、各マイクロボロメータピクセルの温度測定素子は、その幅よりもかなり大きい長さを有する蛇行形状を成して構造化され、それにより、温度測定素子を全電気抵抗に寄与させることができ、したがって、マイクロボロメータピクセルの感度を高めることができる。
【0024】
他の変形実施形態によれば、各マイクロボロメータピクセルの温度測定素子は、アモルファスシリコン、バナジウム系化合物、および、Si−Ge合金から選択される材料または多層の材料を備える。
【0025】
他の変形実施形態によれば、マイクロボロメータアレイの全てのマイクロボロメータピクセルは同一である。あるいは、マイクロボロメータピクセルは、互いに異なってもよく、また、多重スペクトル検出器および/または異なる偏光により入射波を吸収するのに適した検出器を得るために、異なる共鳴波長を有するMIM構造体を備えてもよい。
【0026】
他の変形実施形態によれば、マイクロボロメータピクセルのうちの少なくとも1つの前記第1のMIM構造は、マイクロボロメータピクセルのほぼ中心に位置される。MIM構造体は、例えば、その横方向寸法が所望の吸収波長によって規定される略正方形の構造体であってもよい。波長の平方程度の有効吸収面積は、MIM構造体のそれよりも大きく、また、マイクロボロメータピクセルの面積のほぼ全体をカバーするように調整されてもよい。したがって、より小さいピクセル、一般的には波長サイズ付近のピクセルを有するともに、熱的絶縁を与えるのに十分な空間を伴うマイクロボロメータアレイを形成することができ、該マイクロボロメータアレイは、入射波の偏光に対して感度がない。
【0027】
他の変形実施形態によれば、マイクロボロメータピクセルのうちの少なくとも1つの吸収素子は、マイクロボロメータピクセルの表面上に配置される複数の前記MIM構造体を備えてもよい。
【0028】
例えば、所定のマイクロボロメータピクセルにおいて、前記構造体は、同一であり、マイクロボロメータピクセルの面積にわたって分布される。例えば、MIM構造体は、所望の吸収スペクトルの所定の波長を吸収するように最適化される正方形形状を有し、それにより、より大きなマイクロボロメータピクセルを形成することができ、MIM構造体の全ての有効吸収面積がマイクロボロメータピクセルの面積の全てあるいはほぼ全てをカバーできるようにする。
【0029】
あるいは、所定のマイクロボロメータピクセルにおいて、前記MIM構造体のうちの少なくとも2つは、異なっており、前記入射放射線の下で前記スペクトル帯域の少なくとも2つの別個の波長においてプラズモン共鳴を発生させることができ、したがって、マイクロボロメータピクセルのスペクトル応答を「形作る」ことができる。
【0030】
他の変形実施形態によれば、マイクロボロメータピクセルのうちの少なくとも1つの吸収素子は、前記第1のMIM構造体上に重ね合わされる少なくとも1つの第2のMIM構造体を備え、前記第1および第2の構造体は、前記スペクトル帯域の少なくとも2つの別個の波長で入射放射線の共鳴吸収を有することができるとともに、共通の金属膜を共有する。この形態は、小さいピクセルの場合であっても、マイクロボロメータピクセルのスペクトル応答を形作ることができるようにし、また、構造体は、例えば、ピクセルの中心に積層される。
【0031】
有利には、MIM構造体は、対象のスペクトル帯域の波長で吸収を最適化するように合わせられる横方向寸法を伴う正方形形状を有する。実際に、前記MIM構造体の横方向寸法はλ
max/2n以下であり、λ
maxは前記スペクトル帯域の最高波長であり、nは前記MIM構造体中の誘電体膜の屈折率である。正方形MIM構造体は偏光に対して感度がない。
【0032】
あるいは、MIM構造体が長方形であってもよく、前記MIM構造体の少なくとも1つの横方向寸法はλ
max/2n以下である。この場合、構造体は偏光に対して感度が良い。2つの横方向寸法は、対象のスペクトル帯域の2つの別個の波長で共鳴吸収を得るように調整されてもよい。一方は、TE偏光を伴う波を検出するために使用され、他方は、TM偏光を伴う波を検出するために使用される。あるいは、単一の横方向寸法が所定の波長で共鳴吸収を得るように調整されてもよく、他の横方向寸法は、例えばかなり大きく、例えばおおよそピクセルの横方向寸法であり、このとき、検出器は1つの偏光のみに対して感度が良く、それにより、偏光フィルタが形成される。
【0033】
MIM構造体に関して他の形状が可能であり、例えば、MIM構造体は三角形または六角形であってもよく、それにより、検出器の偏光応答を調整できる。有利には、これらの場合のそれぞれにおいて、前記MIM構造体の少なくとも1つの横方向寸法はλ
max/2n以下である。
【0034】
他の変形実施形態によれば、各マイクロボロメータピクセルの前記MIM構造体の誘電体膜は、高い屈折率を有する材料、例えば、硫化亜鉛(ZnS)、三フッ化イットリウム(YF
3)、窒化ケイ素(SiN
x)、酸化ケイ素(SiO
x)、酸窒化ケイ素(SiO
xN
y)、アモルファスゲルマニウム(a−Ge)、アモルファスシリコン(a−Si)、および、シリコンとゲルマニウムとのアモルファス合金(a−SiGe)から選択される材料から形成される。
【0035】
他の変形実施形態によれば、各マイクロボロメータピクセルの前記MIM構造体の第1または第2の金属膜は、対象のスペクトル帯域で損失が低い材料、例えば、金、銅、アルミニウム、および、銀から選択される材料から形成される。例えばチタンまたはクロムから形成される接着層を金属膜と誘電体膜との間に設けて、これらの2つの膜間で良好な接着を確保してもよい。
【0036】
他の変形実施形態によれば、温度測定素子は、電気絶縁膜によって吸収素子から絶縁される。
【0037】
有利には、各マイクロボロメータピクセルは、前記波長で共鳴キャビティを形成するために、前記膜の平面から距離dを隔てて配置される反射体を更に備える。したがって、光エネルギーの大部分が構造体によって吸収され、透過によるエネルギー損失は非常に小さい。
【0038】
他の変形実施形態によれば、支持基板は、各マイクロボロメータピクセルの温度測定素子の電気抵抗を読み出すための回路を備える。
【0039】
第2の態様によれば、本発明は、画像形成光学素子と、前記光学素子の焦点面付近に位置される第1の態様に係るマイクロボロメータアレイと、ボロメータを読み出すための回路によって供給される信号を処理するためのユニットとを備える、赤外放射線を検出するためのカメラに関する。
【0040】
第3の態様によれば、本発明は、先行する請求項に記載のマイクロボロメータアレイを形成するための方法であって、
支持基板上に犠牲膜を堆積させるステップと、
前記マイクロボロメータピクセルを固定するための要素の位置で、前記犠牲膜に開口を形成するステップと、
前記各マイクロボロメータピクセルごとに温度測定素子と熱的絶縁アームとを形成するために構造化された膜を堆積させるステップと、
形成された前記各温度測定素子上にMIM構造体を堆積させるステップと、
前記犠牲膜を除去するステップと、
を備える方法に関する。
【0041】
有利には、方法は、犠牲膜が堆積される前に、各マイクロボロメータごとに反射素子を形成するように構造化される反射膜を堆積させるステップを備える。
【図面の簡単な説明】
【0042】
本発明の他の特徴および利点は、図示される以下の説明を読むと明らかになる。
【
図1A】従来技術の第1の例に係るマイクロボロメータピクセルの斜視図である(既に説明した)。
【
図1B】従来技術の第2の例に係るマイクロボロメータピクセルの概略平面図および概略断面図である(既に説明した)。
【
図1C】従来技術の第2の例に係るマイクロボロメータピクセルの概略平面図および概略断面図である(既に説明した)。
【
図2】プラズモン共鳴を使用する従来技術に係るマイクロボロメータピクセルにおいて吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜の基本セルの概略図である(既に説明した)。
【
図3A】本発明の第1の実施形態に係るマイクロボロメータピクセルの概略平面図および概略断面図である。
【
図3B】本発明の第1の実施形態に係るマイクロボロメータピクセルの概略平面図および概略断面図である。
【
図4A】本発明に係るマイクロボロメータピクセルに適した単一のMIM構造体を使用する吸収素子の典型的な実施形態の概略図である。
【
図4B】この構造体を用いて得られる吸収を波長の関数として示すグラフである。
【
図4C】構造体の横方向寸法に応じた最大吸収の依存を示すグラフである。
【
図4D】誘電体膜の厚さに応じた最大吸収の依存を示すグラフである。
【
図4E】金属膜の厚さに応じた最大吸収の依存を示すグラフである。
【
図4F】キャビティの幅に応じた最大吸収の依存を示すグラフである。
【
図4G】入射角度に応じた最大吸収の依存を示すグラフである。
【
図4H】周期に応じた最大吸収の依存を示すグラフである。
【
図5】本発明に係るマイクロボロメータピクセルの他の実施形態における温度測定素子および絶縁アームを形成するために使用され得る構造化された膜の典型的な実施形態である。
【
図6A】本発明に係るマイクロボロメータピクセルの変形例に適した複数のMIM構造体の例である。
【
図6B】本発明に係るマイクロボロメータピクセルの変形例に適した複数のMIM構造体の例である。
【
図6C】本発明に係るマイクロボロメータピクセルの変形例に適した複数のMIM構造体の例である。
【
図7A】本発明に係るマイクロボロメータピクセルに適した二重MIM構造体を使用する複合吸収素子の典型的な実施形態の概略図である。
【
図7B】
図7Aの例において吸収を波長の関数として示すグラフである。
【
図8A】本発明の他の典型的な実施形態に係るマイクロボロメータピクセルの概略平面図である。
【
図8B】本発明の他の典型的な実施形態に係るマイクロボロメータピクセルの概略平面図である。
【
図8C】本発明の他の典型的な実施形態に係るマイクロボロメータピクセルの概略平面図である。
【
図8D】本発明の他の典型的な実施形態に係るマイクロボロメータピクセルの概略平面図である。
【
図9A】本発明の典型的な実施形態に係るマイクロボロメータアレイを製造するためのプロセスのステップを示す概略図である。
【
図9B】本発明の典型的な実施形態に係るマイクロボロメータアレイを製造するためのプロセスのステップを示す概略図である。
【
図9C】本発明の典型的な実施形態に係るマイクロボロメータアレイを製造するためのプロセスのステップを示す概略図である。
【
図9D】本発明の典型的な実施形態に係るマイクロボロメータアレイを製造するためのプロセスのステップを示す概略図である。
【
図9E】本発明の典型的な実施形態に係るマイクロボロメータアレイを製造するためのプロセスのステップを示す概略図である。
【
図9F】本発明の典型的な実施形態に係るマイクロボロメータアレイを製造するためのプロセスのステップを示す概略図である。
【
図10】本発明に係るマイクロボロメータアレイを組み込むサーマルカメラを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図3Aおよび
図3Bはそれぞれ、所定のスペクトル帯域の波長、例えば赤外線の波長を有する放射線を検出するための本発明に係る第1の典型的なマイクロボロメータピクセルの平面図および断面図を示す。本明細書本文の図に示される要素は、図面をより読みやすくするために、原寸に比例して示されない。マイクロボロメータピクセル300は、支持要素によって支持基板303の上方に懸架される膜(301、
図3B)を備える。膜301は、入射放射線を吸収するための素子305と温度測定素子302とによって形成され、温度測定素子は、吸収素子を均一に温めるために好ましくはその表面全体にわたってあるいはその表面のほぼ全体にわたって吸収素子と熱的に接触するが、例えば、例えば窒化ケイ素から形成される絶縁膜によって吸収素子から電気的に絶縁される。マイクロボロメータピクセル300は、有利には、温度測定素子を熱的に絶縁するためのアーム306を備え、アームの端部のうちの一方が温度測定素子に接続され、アームの他端部は、支持基板と接触する固定点に接続される。また、マイクロボロメータピクセル300は、温度測定素子を支持基板に対して電気的に接続するための素子も備える。支持基板303は例えばシリコンから形成され、それにより、支持基板は、マイクロボロメータピクセルに対して機械的剛性を与えるとともに、温度測定素子304にバイアスをかけてその抵抗を読み出すための回路(
図3に示されない)を備える。支持要素は、
図3Aおよび
図3Bの例では、熱的絶縁アーム306と、固定要素(
図3Aおよび
図3Bでは見ることができない)とを備える。固定要素は、有利には、温度測定素子304を読み出し回路の電気接続パッド315に電気的に接続するために少なくとも1つの導電材料を備える。有利には、熱的絶縁アームは、前記固定要素と共に、温度測定素子を支持基板の読み出し回路に対して電気的に接続するための要素を形成する。枠313は、略正方形状のマイクロボロメータピクセルの外側輪郭を示す。実際に、マイクロボロメータアレイに組み込まれるマイクロボロメータピクセルの外側の横方向寸法は、マイクロボロメータアレイの対応する寸法とその関連する寸法におけるマイクロボロメータピクセルの数との比率によって与えられてもよい。
【0044】
図3の例では、吸収素子がMIM構造体305を備え、MIM構造体305は、3つの膜、すなわち、第1の金属膜311、誘電体膜310、および、第2の金属膜309のそれぞれから成る多層構造を成し、これらの3つの膜は重ね合わされる。明細書本文の残りの部分において、用語「誘電体」は、その誘電率が対象のスペクトル帯域の放射線の波長でプラスの実数部分とゼロの虚数部分とを有するあるいは実数部分に対して非常に小さい虚数部分を有する材料を意味するべく理解される。したがって、誘電体は、関連するスペクトル帯域の波長で、透過しあるいは弱く吸収できる。誘電体膜の両側にある金属膜を形成する金属は、それらに関する限り、例えば金、銀、アルミニウム、または、銅など、関連する波長で低い損失を示すマイナスの誘電率εを有する金属または材料である。吸収構造体における吸収を最大にすることが望ましいため、例えばチタンまたはクロムから形成される薄い接着層を使用して、金属材料と誘電体との間の接着、または、吸収素子と温度測定素子との間に絶縁膜が存在する場合には金属材料と絶縁膜との間の接着を促進させることが好ましい。この接着層は、互いに弱く接着する材料を含むより幅広い範囲から使用材料を選択できるようにする。MIM構造体305は、有利には、略長方形、好ましくは正方形であり、前記スペクトル帯域に含まれる周波数の入射放射線によりプラズモン共鳴を発生させるように選択される少なくとも1つの横方向寸法を有する。有利には、これらの膜は略同一の横方向寸法を有する。金属膜309、311および誘電体膜310は、有利には入射放射線によりプラズモン共鳴を発生させるように選択されるサブミクロン程度の厚さを有し、前記共鳴は、以下で詳しく説明するように、誘電体/金属界面に結合される。MIM構造体は、例えば、マイクロボロメータピクセル300の中心付近に位置される。温度測定素子304は、この例では、吸収素子との良好な熱的接触を行なうために吸収素子の横方向寸法と略同一である横方向寸法を有する。
【0045】
有利には、支持基板303は、MIM構造体から距離dを隔てて配置される例えば金またはアルミニウムから形成される反射体302で覆われ、距離dは、MIM吸収素子305の平面と反射体との間に第2のキャビティを形成するように選択される。従来技術のボロメータにおいて約λ/4となるように選択される距離dは、以下で説明するように、プラズモン共鳴機構を考慮に入れるべく最適化されてもよい。
【0046】
有利には、温度測定素子304および絶縁アーム306は、同じ材料または多層の材料から形成される。有利には、温度に伴って大きく変化する電気抵抗を有する材料が選択される。一般に、約±2%/Kの相対電気的抗変化と低レベルのノイズとを有する材料が選択される。この材料は、例えば、アモルファスシリコン(a−Si)、シリコン−ゲルマニウム合金、または、酸化バナジウムに基づく化合物から選択される。
【0047】
図4A〜4Gは、本発明に係るマイクロボロメータの吸収素子におけるMIM構造体の最適化を更に詳しく示す。
【0048】
図4Aは、第1の横方向寸法w
1と第2の横方向寸法w
2とを有する一組の長方形MIM構造体405を一般的な態様で示し、該MIM構造体は、マイクロボロメータピクセルの支持基板(図示せず)上に堆積されて吸収素子405から距離dを隔てて位置される反射体402と対向する。寸法w
2は、MIM構造体が半無限のストリップであると見なされてもよいように、寸法w
1よりもかなり大きいものとし、横方向寸法w
1は、共鳴波長を規定する唯一の特徴的寸法である。一般に、吸収素子の最大寸法は、ピクセルの略全長にわたって延びる。各吸収素子405は3膜金属/絶縁体/金属多層構造体を備える。
図4Aには、2つのマイクロボロメータピクセルのみから成るMIM構造体が示され、各MIM構造体はピクセルの中心付近に位置される。マイクロボロメータピクセルの他の要素(温度測定素子、熱的絶縁アーム、電気接続部、基板など)は図示されていない。MIM構造体405は、アレイ内のマイクロボロメータピクセルの配置に起因して、ピクセルのサイズに等しいピッチpを伴って周期的に分布される。
【0049】
ストリップ(その幅よりもかなり大きい長さを有する)の形態を成すMIM構造体が一次近似的に2つの金属シート間の縦方向ファブリーペローキャビティとして振る舞うことは知られており(例えば、Le Perchec等の"Plasmon−based photosensors comprising a very thin semiconducting region"アプライドフィジックスレターズ 94,181104(2009)または仏国特許出願第2,940,522号を参照)、キャビティの共鳴波長λ
rは、以下の式:
λ
r=2n
effw (方程式3)
により与えられ、ここで、wは、MIM構造体の横方向寸法(または幅)であり、また、n
effは、MIMキャビティの有効屈折率である。
【0050】
有効屈折率の値は必然的に1よりも大きいため、方程式3を踏まえると、MIM構造体の横方向寸法が所望の共鳴波長の半波長よりも小さくなければならないことが分かる。実際に、1よりもかなり大きい有効屈折率を得るために構造体を最適化することが求められる。特に、高屈折率誘電体が選択される。例えば、帯域III作用に関して構造体を最適化するために、誘電体は、硫化亜鉛(ZnS)、三フッ化イットリウム(YF
3)、窒化ケイ素(SiN
x)、酸化ケイ素(SiO
x)、酸窒化ケイ素(SiO
xN
y)、アモルファスゲルマニウム(a−Ge)、アモルファスシリコン(a−Si)、および、シリコンとゲルマニウムとのアモルファス合金(a−SiGe)から選択されてもよい。
【0051】
構造体は、既知のコンピュータコード、例えば、P.LalanneおよびJ.P.Hugoninによって開発された1Dまたは2D Reticolo Software(著作権2005 IOTA/CNRS)、あるいは、Comsol(登録商標)によって開発されたソフトウェアパッケージComsol Multiphysicsにより最適化される。
【0052】
本出願人らは、所望の波長で最大の吸収を得るために以下の方法で構造体を最適化できることが分かった。第1のステップでは、誘電体膜のために選択された誘電体の屈折率および所望の共鳴波長に応じて、方程式(3)に基づき、誘電体の実際の屈折率を使用して、構造体の横方向寸法が推定される。第2のステップでは、吸収を最大にするために、膜409、411に関して十分に大きい(一般的には数百ナノメートルよりも大きい)金属厚さを最初に選択することにより、誘電体膜の厚さを最適化することが求められる。その後、第3のステップでは、反射体が存在するときに反射体402までの距離dを最適化することが求められる。次に(第4のステップ)、全吸収を可能にする最小の金属厚さが計算される。最後に、所望の共鳴波長を得るために、構造体の横方向寸法wが僅かに増大して変えられる(第5のステップ)。
【0053】
したがって、
図4Bは、
図4AにおけるタイプのMIM構造体に関して計算された吸収を示し、これらの構造体は、形状が長方形であるとともに、一次元モデルを使用して構造体をモデリングできるように、ピッチpと、横方向寸法(幅)w
1と、幅に対して大きい長さw
2とを有する。実際に、その波長が幅よりも5〜10倍大きい帯域に対して一次元モデルが完全にうまく適することが明らかになった。より短い長さを有する長方形構造体または正方形構造体の場合には、2Dソフトウェアプログラムが使用されなければならないが、前述した最適化原理は同じままである。MIM構造体は、帯域III、約8.5μmにおける吸収に関して最適化された。計算は、ピッチp=7μmを使用して行われた。この例において、金属膜411、409に関して選択される金属は金であり、また、誘電体膜410に関して選択される誘電体は、屈折率n=2.2を有するZnSであった。これらの膜の厚さはそれぞれ、50nm(膜411)、180nm(膜410)、50nm(膜409)であり、また、MIM構造体と反射体402との間の距離はd=4.5μmであった。MIM構造体は横方向寸法w
1=1.6μmを有していた。吸収曲線は、ほぼ100%の最大吸収を示すとともに、スペクトル半値全幅に対する最大吸収の波長の比率として規定される約15のQ−ファクタを示す。
【0054】
図4C〜
図4Hはそれぞれ、
図4Aの形態と同様でかつ同じパラメータ値を有する形態において、構造体の寸法wの影響、誘電体厚さの影響、金属膜の厚さの影響、構造体の平面と反射体402との間の距離dの影響、入射角度の影響、ピッチの影響を示す。
【0055】
図4Cにおける曲線441〜447はそれぞれ、吸収素子(405、
図4a)の横方向寸法w
1を1.7μm〜2.3μmの間で0.1μmずつ変えることによって得られた。予期されるように、共鳴波長は、より高い波長へと移行するように観察され、共鳴波長は、9μmよりも低い値から、12μmよりも高い値へと移行する。これらの曲線は、共鳴の小さいスペクトル幅(約15のQ−ファクタ)により、スペクトルフィルタリング機能を得ることができ、場合により帯域IIIの全てが掃引されることも示す。
【0056】
図4Dにおける曲線450は、横方向寸法w
1=1.6μmに関して誘電体膜410の厚さを変えることによって得られた。本出願人らは、吸収が最大にされる最適な誘電体厚さが存在することを実証した。したがって、構造体の最適化中、構造体のおおよその幅(方程式3)が計算されると、前述したように、所定の誘電体に関して最適な誘電体厚さを規定することができる。この曲線は、ほぼ全ての吸収が得られる最適な誘電体厚値に対して約±10%の範囲が存在することも示す。
【0057】
図4Eにおける曲線460は、最大吸収に対する金属膜409、411の厚さの影響を示す。所定の閾値を上回ると、全吸収が得られる。この閾値を下回ると、吸収が減少し、金属膜は、もはや、光がMIM構造体を素通りするのを防止するのに十分厚くない。構造体を最適化するために、最大吸収を可能にする最小厚さが、この例では一般に40nm〜60nmの間で選択される。
【0058】
図4Fにおける曲線470は、吸収素子405の平面と反射体402との間の距離dに対する構造体の最大吸収の依存度を示す。反射体が存在しない場合、本出願人らは、MIM構造体による反射が共鳴波長ではゼロであるが、最適化されない吸収であり、エネルギーの一部が透過してMIM構造体により吸収されないことを明らかにした。キャビティの厚さの最適化は、全てのエネルギーが共鳴で吸収されるようにし、したがって、全てのエネルギーが温度測定素子の加熱に寄与するようにする。そのため、
図4Fにより示される例では、約3.5μm〜4.5μmの厚さdを有するキャビティにおいて最大吸収が観察される。
【0059】
図4Gは、先に使用された計算条件と同様の計算条件下で、放射線の入射角度に応じた最大吸収を示す。約15°の角度までほぼ全吸収であり、その後、吸収がゆっくりと減少するのが観察される。この結果は注目に値する。これは、このようにして形成されるマイクロボロメータピクセルが、特に検出器への放射線の通例の入射範囲で、入射放射線の入射角度に対して非常に低い感度を有するからである。
【0060】
このように、
図4B〜
図4Gは、赤外線の帯域IIIにおける所定の誘電体に関するMIM構造体の最適化を示す。同じ最適化方法は、場合により、選択された誘電体に応じて、検出にとって望ましいスペクトル帯域に基づいて適用される。例えば、再び帯域IIIでの検出において、選択される誘電体が屈折率n=4のゲルマニウムであれば、9μmの共鳴波長における1Dの構造体の最適化は、w=1.1μmの横方向ストリップ寸法、金属膜、例えば金膜における60nmの厚さ、誘電体における260nmの厚さ、および、キャビティ厚d=4μmを与える。
【0061】
例えば
図4Aに描かれるような1つの変形によれば、MIM構造体405がストリップ(長さw
2が幅w
1よりも大きい)を形成し、また、TM偏光放射線だけ、すなわち、その磁場が磁力線と平行な放射線だけが吸収される。共鳴波長は、前述したように、ストリップの幅を調整することによって調整される。有利には、偏光とは無関係に吸収を行うために、MIM構造体の形状を正方形にすることができる。この場合には、正方形の横方向寸法を変えることによって共鳴波長を調整できる。そのような実施形態の一例が
図3Aに示される。他の変形実施形態によれば、MIM構造体は、第1の横方向寸法w
1と第2の横方向寸法w
2とを有する長方形の形状を成してもよく、2つの寸法は、対象のスペクトル帯域内の2つの波長でそれぞれ共鳴を発生させるように合わせられる。この場合、マイクロボロメータの作用は、TE偏光およびTM偏光のそれぞれにおける共鳴を伴って偏光される。また、異なる偏光を伴って共鳴するようになっているMIM構造体をマイクロボロメータピクセルの組にわたって分布させることもでき、それにより、様々な偏光を伴う入射放射線を選択的に吸収して、例えば1つのシーンの2つの画像、すなわち、TE偏光画像およびTM偏光画像を供給することができる。
【0062】
したがって、MIM構造体における最適なパラメータ(金属膜および誘電体膜の厚さ、誘電体の性質、構造体の横方向寸法)の選択は、1または複数の共鳴波長でほぼ100%の吸収を可能にし、これは、入射角度への弱い依存を伴い、また、選択される場合には、随意的な偏光依存を伴う。
【0063】
そのようなMIM構造体が光学的なナノアンテナとして振る舞うことが分かってきた。そのような構造体は、アンテナの幾何学的形態によって設定される周波数で共鳴する。共鳴では、適した設計により、ほぼ完全な吸収が観察される。正方形のMIM構造体においては、このように最適化されるMIM構造体の有効吸収面積が共鳴波長の平方程度であることが実証されてきた。ストリップタイプのMIM構造体の場合には、有効1D吸収面積が共鳴波長程度である。
【0064】
図4Hは、誘電体(ZnS、屈折率n=2.2)膜の厚さが180nm、金から形成される2つの金属膜の厚さが50nm、キャビティ幅d=4.5μm、および、横方向ストリップ寸法w
1=1.7μmである、
図4Aの形態などの一次元形態において、ピッチPの関数として計算された最大吸収曲線490を示す。共鳴波長は約8μmであった。ピッチが共鳴波長よりも小さいと、入射光子の全てを吸収することができ、吸収が最大となる。ピッチが共鳴波長よりも大きいと、最大吸収が減少する。これは、共鳴体(405、
図4A)間の間隔がそれらの有効面積よりも大きいからである。したがって、一次元形態で行われるこのシミュレーションは、波長付近の有効1D吸収面積を裏付ける。正方形の共鳴体の場合、有効吸収面積は共鳴波長の平方程度である。
【0065】
したがって、前述した方法で最適化されるMIM構造体を使用すると、波長の平方程度の有効吸収面積を保持しつつ、吸収素子の面積を制限することができる。そのため、マイクロボロメータピクセルの横方向寸法L
p(
図3A参照)を実質的に共鳴波長の値まで減少させて、ピクセルの面積(
図3Aにおいて枠313により表わされる)に等しい吸収面積307から利益を得ることができ、したがって、吸収素子と温度測定素子とによって形成される膜(301、
図3B)の横方向寸法をピクセルの横方向寸法よりもかなり小さくしつつ、ほぼ100%のフィルファクタを得ることができる。
【0066】
一般に、方程式(3)に関して、吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜301の面積は、略正方形のMIM構造においては約(λ/2n)
2である。ここで、λは最大吸収の波長、nは誘電体の屈折率である。膜の面積は、その幅がλ/2nでありかつその長さが実質的にピクセルのサイズである長方形のMIM構造体においては約L
p・λ/2nである。したがって、1番目のケースにおいて、膜の面積は、場合によりピクセルの面積の1/4よりも小さく、誘電体の屈折率nは1よりも大きい。この面積は、2番目のケースでは、マイクロボロメータピクセルの面積の半分に制限される。実際に、誘電体の屈折率は、1よりも大きく、一般に2よりも大きくなるように選択され、また、5程度では、容易に分かるように、MIM構造体のパラメータに応じて、吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜の面積は、場合により、ピクセルの面積の10%またはそれ以下を下回る。
【0067】
吸収素子のサイズの大きな減少は、特に、高分解能赤外線撮像用の小さい(すなわち、検出波長とほぼ同じサイズ)ピクセルを有するマイクロボロメータアレイを設計するために使用されてもよい。吸収素子のサイズのこの減少は、吸収素子の面積がピクセルの面積のほぼ全てをカバーしなければならない従来技術のマイクロボロメータピクセルとは対照的に、熱的絶縁面積を(マイクロボロメータピクセルの面積の50%を上回るまで)増大させることもできる。例えば、絶縁アームの長さを増大させ、したがって、マイクロボロメータの感度を高めることができる。
【0068】
マイクロボロメータピクセルが対象のスペクトル帯域の平均波長よりも大きい場合には、有効吸収面積がピクセルの面積全体をカバーするように、(後述する
図8Dの例に示されるように)幾つかのMIM構造体がピクセルの領域の上方に配置されてもよい。しかしながら、この場合も先と同様に、吸収素子によってカバーされるマイクロボロメータピクセルの面積は、ピクセルの全体の面積よりもかなり小さく、それにより、熱的絶縁のために更に大きい面積を使用できる。
【0069】
ピクセルの面積内の自由に使える余分な空間は、例えば、例として絶縁アームを
図3Aに示されるように更に長くすることにより、熱抵抗を増大させるべく使用されてもよく、それにより、マイクロボロメータの感度が高まる。また、温度測定素子が接触する吸収素子の面積に有利には制限される温度測定素子の面積は減少される。したがって、温度測定素子の質量も減少され、それにより、温度測定素子の熱容量(温度測定素子の質量に直接に関連する)を減少させることができ、そのため、応答時間を減らすことができる。
【0070】
あるいは、応答時間を減らすことが決定される場合には、更に短い熱的絶縁アームが選択されてもよい。
【0071】
他の変形実施形態によれば、一方では温度測定素子が、他方では熱的絶縁アームが、構造化された膜を用いて形成されてもよい。
【0072】
図5は、その領域が枠513によって境界付けられる典型的なマイクロボロメータピクセルを示し、このマイクロボロメータピクセルは吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜501を備える。参照符号504が与えられるサーミスタまたは温度測定素子は、この図に示されない吸収素子と接触する。この例では、材料または多層の材料を備える所定の膜が、一方では温度測定素子を他方では絶縁アームを形成するように構造化される。この例では、その一部が温度測定素子504を形成する膜が、温度測定素子の電気抵抗を増大させつつ吸収素子と温度測定素子との間の接触面積を最大にするように構造化される。例えば、その一部が温度測定素子504を形成する膜は、その長さがその幅よりもかなり大きい蛇行形状を成して構造化される。マイクロボロメータの全体の電気抵抗は、その絶縁アームの電気抵抗とサーミスタの電気抵抗との和である。しかしながら、吸収された放射線の影響下で最も大きく変化するのはサーミスタの電気抵抗であり、絶縁アームの電気抵抗は、絶縁アームのそれぞれの端部間にもたらされる温度勾配の影響下で部分的にしか変化せず、これらの端部のうちの一方は温度測定素子に接続され、他端部は、支持基板と接触する固定点に接続される。このように温度測定素子を構造化すると、全体の電気的抗に対する温度測定素子の寄与度を高めることができ、したがって、マイクロボロメータピクセルの応答を向上させることができる。また、熱的絶縁アームを形成する膜の部分の導電率を増大させることによって、例えば、その膜が半導体膜である場合には、イオン注入により膜を局所的にドープすることによって、この寄与度を高めることもできる。
【0073】
一例として、その側辺寸法が12μmに等しくなるように選択され、絶縁アームの幅が1μm、折り返し部間の絶縁隙間が1μmである
図3Aまたは
図5に示されるタイプのマイクロボロメータピクセルの場合、各アームの熱抵抗は約25平方である(すなわち、各アームは、直列に配置される同じ厚さの所定の材料の25平方に等しい熱抵抗を有する)。
図5における蛇行は、場合により、60平方の電気抵抗を得るために、幅が0.2μmであり、折り返し部間の絶縁間隔の幅が0.2μmである。
【0074】
先に明らかにしたように、最適化されたMIMプラズモン構造体は、共鳴波長の光をある程度全吸収できるプラズモン共鳴の領域である。MIM構造体のスペクトル応答の形状は、必要に応じて、多くの異なる共鳴体を組み合わせることによって更に変えられてもよい。後述する例は、その様々な変形実施形態を示す。
【0075】
図6A〜
図6Cは、吸収素子/サーミスタユニットを形成する膜がマイクロボロメータアレイのスペクトル応答を調整できるようにする特定の構造を有するマイクロボロメータピクセルの3つの概略図を示す。この図には、
図4Aの場合と同様に、吸収素子と反射体だけが示される。これらの例において、MIM吸収素子は、複合体であり、様々な波長で共鳴する複数の簡単な吸収素子によって形成される。
【0076】
図6Aに示される第1の例において、吸収素子は、マイクロボロメータピクセルの面積全体にわたって空間的に分布される605A〜605Dで示される複数のMIM構造体を備える。これらの構造体は、支持基板(図示せず)上に堆積される反射体602から距離dを隔てて位置される同じ平面内に位置される。各MIM構造体は、3つの膜609、610、611、すなわち、第1の金属膜611と、誘電体膜610と、第2の金属膜609とから成る多層構造を備える。好ましくは、これらの3つの膜の厚さは、様々なMIM構造体に関して同じである。各MIM構造体は、例えば、所望のスペクトル吸収帯域の波長をほぼ完全に吸収するために、前述したステップを使用して最適化される。吸収波長は、特に、MIM構造体の横方向寸法によって規定される。したがって、この例では、スペクトル帯域の異なる波長で共鳴を得るために、MIM構造体は、正方形であり、それぞれが異なる横方向寸法を有する。このようにして得られるマイクロボロメータアレイは偏光依存である。各MIM構造体は、共鳴波長の平方程度の有効吸収面積、したがって、吸収素子の実際の面積よりもかなり大きい有効吸収面積、一般的には吸収素子の実際の面積の4〜20倍の有効吸収面積を有する。前記マイクロボロメータピクセルの配列を備えるマイクロボロメータアレイにおいて、MIM構造体のそれぞれは、アレイ(図示せず)内のピクセルの配置に起因して、ピクセルのサイズに対応するピッチを伴ってボロメータの全体にわたって周期的に繰り返される。したがって、マイクロボロメータアレイの面積全体に入射する光子の吸収は、MIM構造体のそれぞれの吸収波長で確保され得る。例えば、
図6Aに示されるように、4つの異なる波長に関して最適化される4つの異なるMIM構造体がピクセルごとに設けられると、対象のスペクトル帯域において広帯域吸収を得ることができる。
【0077】
図6Bは変形例を示し、この変形例においても吸収素子605が複数の異なるMIM構造体605A〜605Dを有する複合体であるが、この例のMIM構造体は、ピクセルの面積にわたって空間的に分布されるのではなく、互いに上下に積層される。したがって、この例では、第1のMIM構造体605Aの第1の金属膜611Aが第2のMIM構造体605Bの第2の金属膜611Bを形成し、以下同様である。この例では、MIM構造体605A〜605Dが
図6Aの例の場合のように異なる横方向寸法を有し、それにより、検出器により使用されるスペクトル帯域の様々な波長で吸収が可能となる。有利には、多層のMIM構造体は、マイクロボロメータピクセルのほぼ中心付近に配置される。このようにすると、有効吸収面積がピクセルの面積の全てあるいはほぼ全てをカバーし、それにより、吸収波長のそれぞれにおいてほぼ100%のフィルファクタを保証できる。
【0078】
図6Cは、
図6Bの場合のようにMIM構造体が積層される第3の変形を示す。この変形では、共鳴波長を変えるために、誘電体材料の性質がMIM構造体ごとに異なり、また、吸収される波長の選択の自由度を大きくするために、MIM構造体の横方向寸法が随意的に略同一であってもよい。
【0079】
図6A〜
図6Cにおける例は正方形MIM構造体を用いて示されてきたが、長方形のMIM構造体を用いて同じタイプのマイクロボロメータピクセルを形成することも全く可能である。この場合、構造体は、偏光に対してもはや感度がない。随意的に、それぞれの(TEまたはTM)偏光ごとに異なる吸収波長を得るために、構造体の横方向寸法を最適化することができる。MIM構造体に関して他の形状が想起されてもよく、例えば、それらの形状は、マイクロボロメータピクセルの偏光応答を調整するために、三角形または六角形であってもよい。
【0080】
図7Aは、2つのMIM構造体705
A、705
Bを備える吸収素子の典型的な実施形態を示す。この例では、
図4Aの場合と同様に、吸収素子および反射体702だけが示されている。また、MIM構造体は、該構造体を半無限ストリップとしてモデリングできるように、それらの幅(w
1A、w
1B)よりも非常に大きくかつ一般的にはピクセルとほぼ同じ長さである長さw
2を有する。この例では、2つのMIM構造体が同じマイクロボロメータピクセル内に配置される。マイクロボロメータアレイがマイクロボロメータの配列を伴って形成されると、一方では構造体705
Aが、他方では構造体705
Bが、ピクセルのサイズに対応するピッチを伴って周期的に配置される。
【0081】
図7Bは、ストリップ幅w
1A=1.8μmおよびw
1B=2.1μm、ピッチp=6μm、キャビティ厚さd=4.6μm、金属膜の厚さ50nm、および、誘電体膜の厚さ190nmに関して、誘電体が2.2の屈折率を有する場合において、
図7Aに示されるタイプのマイクロボロメータを用いて得られる吸収曲線720を波長の関数として示す。この曲線は、約9.5μmおよび11μmのそれぞれの共鳴波長で2つの吸収ピークを有し、これはスペクトル帯域を形作る実現可能性を示す。
【0082】
図8A〜
図8Dは、本発明に係るマイクロボロメータピクセルの他の典型的な実施形態の平面図を示す。同一の要素には同じ参照数字が与えられている。
【0083】
マイクロボロメータピクセルは枠813によって境界付けられ、一方、枠807は、それぞれの図において、有効吸収面積を表す。支持基板には参照数字803が与えられている。
図3Aの場合と同様に、支持基板には、読み出し回路(図示せず)と、温度測定素子を読み出し回路に接続するための電気接続パッド815とが設けられている。
【0084】
図8Aの例は、単純な吸収素子805、すなわち、単一のMIM構造体を備える素子、または、複合吸収素子805、すなわち、例えば
図6Bおよび
図6Cに示されるような一組の積層されたMIM構造体を備える素子のうちのいずれかを備えるマイクロボロメータピクセル800を示す。吸収素子は、有利には、マイクロボロメータピクセルの中心付近に位置される。ピクセルのサイズは、構造体の吸収波長程度であり、例えば帯域IIIの場合には12μmである。したがって、ピクセル800などのピクセルにより形成されるマイクロボロメータアレイのスペクトルサインは、狭くてもよく(単純吸収素子)、あるいは、形作られてもよい(複合吸収素子)。
図8Aでは、吸収素子の下側に位置される温度測定素子を見ることができない。吸収素子を形成するMIM構造体の最適化により、吸収素子自体の面積よりも非常に大きい有効吸収面積807を得ることができ、それにより、ほぼ100%の有効充填率および非常に大きな絶縁マージンを得ることができる。
図8Aの例において、この絶縁マージンは、有利には、より長い絶縁アーム806を形成するために使用され、それにより、熱抵抗が増大し、したがって、感度が高まる。それによってもたらされる応答時間の増大は膜の熱容量の減少によって補償され、この減少は、その面積が吸収素子の面積に制限される温度測定素子の質量の減少に起因する。
【0085】
図8Bに示されるマイクロボロメータピクセル820は、
図8Aにおけるマイクロボロメータピクセル800に類似し、その主な違いは、絶縁アーム806が更に短い点である。この形態は、高速撮像用途においては、感度よりも応答時間において利益をもたらす。
【0086】
図8Cは、吸収素子845が一組の吸収素子850、851、852、853を備える複合体であるマイクロボロメータピクセル840を示す。これらの吸収素子のそれぞれは、単純なMIM構造体であってもよく、あるいは、
図6Bまたは
図6Cに示されるような多層のMIM構造体であってもよい。そのようなピクセルを用いると、対象のスペクトル帯域の全体にわたって形作られるスペクトル応答を得ることができる。有利には、吸収素子はピクセルの中心に配置され、各吸収素子は、先の例の場合と同様に、ピクセルの面積とほぼ同じ有効吸収面積を有する。したがって、この形態も、小さいピクセル、すなわち、対象のスペクトル帯域の平均波長程度のサイズのピクセルにおいて適している。
【0087】
図8Dにおける例は、サイズが例えば24μmのマイクロボロメータピクセル860のケースを示す。このケースでは、吸収素子865が一組の同一の吸収素子871〜874によって形成され、それぞれの吸収素子は、単純なMIM構造体または多層のMIM構造体のいずれかによって形成される。吸収素子のそれぞれは、4つの吸収素子から成る組が前述のようにピクセルの面積全体をカバーする有効吸収面積807を有するように、ピクセルの面積の一部、例えば
図8Dの例ではピクセルの面積の1/4をカバーする有効吸収面積を与えるべく最適化される。
【0088】
図9A〜
図9Fは、本発明に係るマイクロボロメータアレイを製造するための方法を1つの例にしたがって説明する概略図を示す。この例によれば、マイクロボロメータアレイのマイクロボロメータピクセルの全てが同じプロセスで形成される。第1のステップ(
図9A)では、例えばアルミニウムから形成される金属製の反射体902が支持基板903の上側表面上に堆積され、前記基板は、読み出し回路(
図9Aには示されない)と、温度測定素子を読み出し回路に接続するための電気接続パッド915とを備える。反射体は、例えば、アルミニウム膜のフォトリソグラフィ/エッチングによって形成される。反射体は、例えば、基板の面積の全体にわたって連続層を形成してもよく、その場合、接続パッドのために開口が設けられる。第2のステップ(
図9B)では、犠牲膜、例えばポリイミド膜920が支持基板903上に堆積される。この膜は、懸架される膜を形成するために使用される。膜の厚さは、吸収素子の平面と反射体との間に形成することが望ましいキャビティの高さに応じて規定される。その後、例えばドライエッチングによって犠牲膜920に開口が形成され、それにより、固定要素を所定の位置に置くことができる(
図9C)。その後のステップ(
図9D)では、例えばアモルファスシリコンから形成される熱抵抗膜、および、例えば窒化ケイ素から形成される絶縁膜が堆積され、また、温度測定素子および絶縁アームを形成するために、熱抵抗膜と絶縁膜とによって形成されるアセンブリ930が例えばドライエッチングによってあるいはリフトオフによって構造化される。その後、温度測定素子を形成するようになっている領域で、アセンブリ930の絶縁膜の上面に、例えばリフトオフによって、吸収素子として作用するMIM構造体905が堆積される(
図9E)。絶縁膜は、温度測定素子の熱抵抗膜を構造体の金属膜911から電気的に絶縁するという機能を有する。MIM構造体は、第1の金属膜911と、誘電体膜910と、第2の金属膜909とから成る多層構造を備え、膜の寸法は、前述したように、必要とされる波長で吸収するように最適化される。MIM構造は、例えば、金/ZnS/金の多層構造であってもよい。最後に、絶縁アーム906および固定要素912により基板の上方に懸架される膜(904)を形成するために、例えばドライエッチングにより、犠牲層が除去され(
図9F)、吸収素子905と反射体902との間にはキャビティ908が形成される。
【0089】
有利には温度測定素子が半導体から形成される場合に適するプロセスの第1の変形では、
図9Eに示されるステップの後に、例えばイオン注入により、熱的絶縁アームを形成するようになっている部分930にドープするための工程が導入される。有利には、構造体905が注入イオンのためのマスクとして使用される場合には、この局所的なイオン注入が自動位置合わせされてもよい。また、この局所的なイオン注入は、熱的絶縁アームを形成するようになっているアセンブリ930の部分のみに注入領域を制限するために、フォトレジストマスクを使用して得られてもよい。
【0090】
プロセスの第2の変形では、更なる金属膜を使用して固定要素が形成される。これを行うために、
図9Bに示されるステップの後、例えばアモルファスシリコンから形成される熱抵抗膜が犠牲膜920上に堆積される。その後、ステップ9Cで形成される開口がアモルファスシリコン膜および犠牲膜の両方を連続して貫通する。この段階で、単一の金属膜、例えばチタン膜、または、例えばチタンと窒化チタンとアルミニウムとから成る一組の金属膜を堆積させることによって、固定要素が所定位置に置かれ、これらの膜は、電気接続パッド915とアモルファスシリコン膜の端部の上面との間に機械的および電気的な結合を与えるために、フォトリソグラフィ/エッチングによって規定されて構造化される。その後のステップ(
図9D)では、絶縁膜、例えば窒化ケイ素膜が堆積される。その後、熱抵抗膜と絶縁膜とによって形成されるアセンブリが例えばドライエッチングにより構造化され、それにより、温度測定素子と絶縁アームとが形成される。
【0091】
他の想定し得る変形例は、固定要素を形成するために使用される金属膜(随意的には複数の金属膜)を熱的絶縁アームの全部または一部にわたって延ばすことにある。この選択肢は、アームに対して低い電気抵抗を与え、それにより、プロセスの第1の変形のイオン注入工程を冗長にする可能性があり、そのため、温度測定素子が半導体でない場合に有利となる場合がある。
【0092】
図10は、本発明に係るピクセルを備えるマイクロボロメータアレイを組み込む典型的なカメラを示す。例えば赤外線撮像を対象としたこのカメラは、画像を形成するための入力光学素子2と、前記光学素子2の焦点面内で真空パッケージ4内に配置されるマイクロボロメータアレイ3であって、前記パッケージングが対象の波長で透過するキャップを備えるマイクロボロメータアレイ3と、電力をマイクロボロメータアレイに供給するとともにマイクロボロメータアレイの読み出し回路により供給される信号を処理するための電子機器5とを備える。得られた画像を表示するためにディスプレイ6が設けられてもよい。本発明に係るマイクロボロメータアレイのおかげにより、非常に良好な感度を維持しつつ、分解能が非常に高い画像を得ることができる(サイズが波長程度のマイクロボロメータピクセル)。
【0093】
本発明に係るマイクロボロメータは、多くの詳細な典型的実施形態によって説明されるが、当業者に明らかな様々な変形実施形態、変更、および、改良を備え、これらの様々な変形実施形態、変更、および、改良が以下の特許請求の範囲により規定されるような本発明の範囲内に入ることは言うまでもない。
【0094】
特に、実施例の大部分が赤外線の帯域IIIにおける作用に関して記載されたが、本発明は、他のスペクトル帯域、特に最大でミリメートル波長範囲にまで至る遠赤外線のスペクトル帯域に適用できる。