【実施例】
【0050】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。実験動物の使用にあたっては、動物を用いる生物医学研究に関する原則(International Guiding Principles for Biomedical Research involving Animals)なら
びに、動物の愛護及び管理に関する法律、実験動物の飼養及び保管等に関する基準に従った。また、本実験はGuidelines of the Association for Research in Vision and Ophthalmology on the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに従って行った。
【0051】
実施例1
ROCK阻害剤がウサギ角膜内皮細胞培養に与える影響の検討
安楽死後ただちに摘出したウサギ角膜組織から、角膜内皮細胞が付着したデスメ膜を分離した。デスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science)とと
もに37℃、5%CO
2の条件下で45分間インキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、ROCK inhibitor(+)群は10μMのY−27632を添加した角膜内皮用培地を用い、ROCK
inhibitor(−)群はY−27632を添加しない角膜内皮用培地を用いて同じ濃度に
なるように攪拌し、1ウェルあたり約2000個の密度で96ウェルプレートに播種した。角膜内皮用培地として、1%ウシ胎児血清および2mg/ml bFGF (Gibco Invitrogen)を添加した培養液(DMEM、Gibco Invitrogen)を用いた。プレートにはあらかじめ、FNC coating mix(Athena ES)で10分間の前処理を施した。培養開始後72時間目に培養液の交換を行い、72時間以降は、ROCK inhibitor(+
)群、ROCK inhibitor(−)群ともにY−27632を添加しない通常の角膜内皮用培
地を用いて5日目まで培養した。培養開始24時間後の初代培養ウサギ角膜内皮細胞の位相差顕微鏡写真を
図1に示す。培養開始後1日目から3日目まで、24時間毎に、CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Cell Proliferation(Promega)を用い
たMTS([3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium]アッセイにより細胞数を測定した(
図2)。
【0052】
ROCK inhibitor(+)群(
図1B)では、ROCK inhibitor(−)群(
図1A)に比べて細胞播種後24時間(day 1)での細胞接着は約2.8倍と有意に亢進していた(
図2
、3)。コンフルエントに到達した3日目時点では両群間で有意差を認めず(
図2)、このことからY−27632は初代培養のウサギ角膜内皮細胞において、継代後早期の細胞接着を亢進させる作用があることが明らかとなった。また継代培養したウサギ角膜内皮細胞を用いた検討でも同様の結果が得られており、初代培養および継代培養において、Y−27632は継代後早期の細胞接着に作用すると考えられた。
【0053】
実施例2
Y−27632がサル角膜内皮細胞培養に与える影響の検討
別の目的で安楽死させたカニクイザルから摘出した角膜組織から、角膜内皮細胞が付着
したデスメ膜を分離した。ROCK inhibitor(+)群では、デスメ膜を10μMのY−2
7632を添加した角膜内皮用培地に入れて37℃、5%CO
2の条件下で10分間インキュベートした。ROCK inhibitor(−)群では、Y−27632を添加しない角膜内皮
用培地に入れて同じ条件で10分間インキュベートした。角膜内皮用培地として、実施例1と同じ細胞培養液を用いた。インキュベート後のデスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science)とともに37℃、5%CO
2の条件下で45分間イ
ンキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、Y−27632(+)およびY−27632(−)の角膜内皮用培地に同じ濃度になるように攪拌し、1ウェルあたり約20000個の密度で12ウェルプレートに播種した。プレートにはあらかじめ、FNC coating mix(Athena ES)で10分間の前処理を施した。 培養開始後72時間目に培養液の交換を行い、72時間以降は、ROCK inhibitor(+)群、ROCK inhibitor(−)群ともにY−27632を添加しない通常の角膜内皮用培地を用いて培養した。
【0054】
図4より、培養開始後24時間のカニクイザル初代培養角膜内皮細胞において、ROCK inhibitor(+)(
図4B)ではROCK inhibitor(−)(
図4A)に比べて明らかに多くの細胞がプレート上に接着していた。コンフルエントに達するまでの日数は、ROCK inhibitor(+)では3日であったのに対し、ROCK inhibitor(−)では7日であった。このことから、ウサギに比べて生体外での細胞培養が困難であると考えられるサル角膜内皮細胞においても、Y−27632は培養開始後早期の細胞接着を亢進し、細胞培養を可能にする有用な薬剤であることが示された。
【0055】
実施例3
Y−27632がヒト角膜内皮細胞培養に与える影響の検討
米国アイバンクから入手したヒト角膜組織のうち、中心部の直径7mm部分を角膜移植に用いた残りの周辺部角膜組織を用いた。角膜内皮細胞が接着したデスメ膜を分離し、ROCK inhibitor(+)群では、デスメ膜を10μMのY−27632を添加した角膜内皮
用培地に入れて10分間37℃、5%CO
2の条件下でインキュベートした。ROCK inhibitor(−)群では、Y−27632を添加しない角膜内皮用培地に入れて同じ条件で1
0分間インキュベートした。角膜内皮用培地としては、実施例1と同じ培養液を用いた。インキュベート後のデスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science)とともに37℃、5%CO
2の条件下で45分間インキュベートした後、ピペッテ
ィング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、Y−27632(+)およびY−27632(−)の角膜内皮用培地に同じ濃度になるように攪拌し、あらかじめFNC coating mix(Athena ES)で前処理を施した48ウェルプレートに1ウェルあたり約10000個の密度で播種した。周辺部角膜組織から得られるヒト角膜内皮細胞は、きわめて細胞数が少ないために、1眼のドナー角膜から1ウェルの細胞培養を行った。本検討で使用したドナー角膜は、ROCK inhibitor(+)群が年齢69歳、ドナー死亡後培養開始まで6日間、ROCK inhibitor (−)群が年齢51歳、ドナー死亡後培養開始まで7日間のものを使用した。年齢およびドナー死亡後細胞培養までに経過した時間が、細胞培養に与える影響はほぼ等しいと考えられる。
培養開始後72時間に培養液の交換を行い、72時間以降は、ROCK inhibitor(+)
群、ROCK inhibitor(−)群ともにY−27632を添加しない通常の角膜内皮用培地
を用いて培養した。培養開始後の早期の細胞接着および細胞形態に与える影響を検討するために、培養開始後に位相差顕微鏡による細胞観察およびデジタルカメラによる写真撮影を行った(
図5)。
【0056】
図5より、培養開始後7日目には、ROCK inhibitor(+)群では均一な多角形細胞か
らなる、正常な角膜内皮細胞に類似した細胞からなるコンフルエントな高密度の単層細胞層が形成されていた(
図5B)のに対し、ROCK inhibitor(−)群では細胞密度の低い
線維芽細胞様に伸展した形態の内皮細胞が島状に生着していたのみであった(
図5A)。本結果から、培養が非常に困難なことが知られているヒト角膜内皮初代培養において、培養開始後早期の細胞接着を亢進する作用のあるY−27632を培養液に添加することにより、良好な細胞形態、高い細胞密度を持った角膜内皮細胞層を形成することが可能であると考えられた。
【0057】
製剤例1
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する前房内注射液
常法により下に示す前房内注射液を調製する。
Y−27632 10mg
リン酸二水素ナトリウム 0.1g
塩化ナトリウム 0.9g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
全量 100mL
(pH7)
Y−27632は和光純薬工業製を用いる。
【0058】
製剤例2
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する眼灌流液
常法により下に示す眼灌流液を調製する。
Y−27632 1.0mg
オペガードMA 適量
全量 100mL
オペガードMAは千寿製薬製、Y−27632は和光純薬工業製を用いる。
【0059】
製剤例3
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する角膜内皮シート調製用培養液
常法により下に示す培養液を調製する。
Y−27632 0.5mg
FBS 10mL
ペニシリン−ストレプトマイシン溶液 1mL
FGF basic 200ng
DMEM 適量
全量 100mL
FBSはインビトロジェン製、ペニシリン−ストレプトマイシン溶液はナカライテスク製(ペニシリン 5000u/mL,ストレプトマイシン 5000μg/mL含有)、FGF basicはインビトロジェン製、Y−27632は和光純薬工業製、DMEMはインビトロジェン製を用いる。
【0060】
製剤例4
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する角膜保存液
常法により下に示す保存液を調製する。
Y−27632 0.2mg
Optisol−GS 適量
全量 100mL
Optisol−GSはボシュ・ロム製、Y−27632は和光純薬工業製を用いる。
【0061】
実施例4
Y−27632がサル角膜内皮細胞の初代培養に与える影響の検討
安楽死させたカニクイザルから摘出した角膜組織から、角膜内皮細胞が付着したデスメ膜を分離した。実施例2と同様に、ROCK inhibitor(+)群では、デスメ膜を10μM
のY−27632を添加した角膜内皮用培地に入れて37℃、5%CO
2の条件下で10分間インキュベートした。ROCK inhibitor(−)群では、Y−27632を添加しない
角膜内皮用培地に入れて同じ条件で10分間インキュベートした。角膜内皮用培地として、実施例1と同じ細胞培養液を用いた。インキュベート後のデスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science)とともに37℃、5%CO
2の条件下で4
5分間インキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、Y−27632(+)およびY−27632(−)の角膜内皮用培地に同じ濃度になるように攪拌し、1ウェルあたり約2000個の密度で96ウェルプレートに播種した。培養開始後72時間目に培養液の交換を行い、72時間以降は、ROCK inhibitor(+)群、ROCK inhibitor(−)群ともにY−27632を添加しない通常の角膜内皮用培地を用いて培養した。培養10日目に、細胞を4%パラホルムアルデヒドを用いて10分間室温で固定後、トルイジンブルーを用いて染色した(
図6A、B)。細胞の総面積をImage J(アメリカ国立衛生研究所)を用いて測定して解析を行った(
図6C)。
培養開始後10日目のカニクイザル初代培養角膜内皮細胞において、ROCK inhibitor
(−)(
図6A)に比べてROCK inhibitor(+)(
図6B)は、培養初期における接着
を促進することによって、培養細胞の総面積を約1.6倍に有意に増加させた(
図6C)。このことから、生体外での細胞培養が困難であると考えられるサル角膜内皮細胞において、Y−27632は初代培養に有用な薬剤であることが示された。
【0062】
実施例5
Y−27632のサル角膜内皮細胞に対する至適濃度の検討
実施例2と同様に回収したサル角膜内皮細胞(初代培養)を、それぞれ1、10、33、100μMのY−27632を添加した角膜内皮用培地と、Y−27632を含まない角膜内皮用培地に入れて同じ濃度になるように攪拌し、1ウェルあたり約2000個の密度で96ウェルプレートに播種した。培養開始後24時間目にCellTiter-Glo(登録商標
)(Promega)を用いて生細胞数を測定した(
図7)。
培養開始後24時間の角膜内皮細胞において、10μMのY−27632を含む培地で細胞培養を行った場合は、Y−27632を含まない角膜内皮用培地やその他の濃度のY−27632を含む角膜内皮用培地で細胞培養を行った場合と比べて、プレート上に接着した細胞数が有意に多かった(
図7)。このことから、サル角膜内皮細胞において、10μMの濃度のY−27632が最も有効であることが示された。
【0063】
実施例6
Y−27632がサル角膜内皮細胞の継代培養に与える影響の検討
安楽死させたカニクイザルから摘出した角膜組織から、角膜内皮細胞が付着したデスメ膜を分離した。デスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science
)とともに37℃、5%CO
2の条件下で45分間インキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、角膜内皮用培地に播種した。コンフルエントに達した角膜内皮細胞を、0.05%トリプシンにて37℃、5%CO
2の条件下で10分間インキュベートし、継代培養を行った。4−6回の継代を行った後に、角膜内皮細胞を1/2、1/6、1/8の希釈になるように96ウェルプレートに入れ、ROCK inhibitor(+)群では10μMのY−27632
を添加した角膜内皮用培地を、ROCK inhibitor(−)群ではY−27632を添加しな
い角膜内皮用培地を用いて継代培養を続けた。継代後24時間目に、実施例5と同様にCellTiter-Glo(登録商標)(Promega)を用いて細胞数を測定した(
図8)。
継代後24時間のカニクイザル培養角膜内皮細胞において、Y−27632を含む培地で継代培養を行った場合は、Y−27632を含まない角膜内皮用培地と比べて、プレー
ト上に接着した細胞数が有意に多かった(
図8)。このことから、初代培養に加えてサル角膜内皮細胞の継代培養においても、Y−27632が有効であることが示された。
【0064】
実施例7
Y−27632がサル角膜内皮細胞の継代培養時に細胞形態に与える影響の検討
実施例6と同様に継代培養を行ったカニクイザル角膜内皮細胞を、1/4の希釈になるようにスライドガラス上に継代した。継代培養24時間目に、位相差顕微鏡にて細胞形態を観察した(
図9A、B)。さらにスライドガラス上の角膜内皮細胞を4%パラホルムアルデヒドにて室温10分間の固定後、ファロイジン蛍光染色にてアクチンファイバーの染色を行った(
図10A、B)。
継代後24時間のカニクイザル培養角膜内皮細胞において、Y−27632を含まない角膜内皮用培地と比べて(
図9A)、Y−27632を含む培地で継代培養を行った際には(
図9B)、細胞のスライドガラスへの接着が亢進しており、角膜内皮細胞様への扁平化が促進されており、細胞同士の集まりも亢進していた。また、ファロイジン蛍光染色では、Y−27632を含まない角膜内皮用培地と比べて(
図10A)、Y−27632を含む培地で継代培養を行った際には(
図10B)、アクチンストレスファイバーが明瞭に認められ、Y−27632が細胞骨格形成を促進することがわかった。
【0065】
実施例8
Y−27632がサル角膜内皮細胞の細胞周期に与える影響の検討
実施例6と同様に継代培養を行ったカニクイザル角膜内皮細胞を1/4の希釈になるようにスライドガラス上に継代した。ROCK inhibitor(+)群では10μMのY−276
32を添加した角膜内皮用培地を、ROCK inhibitor(−)群では、Y−27632を添
加しない角膜内皮用培地を用いた。継代培養1、2、14日目に、スライドガラス上の角膜内皮細胞を4%パラホルムアルデヒドにて室温10分間の固定後、抗Ki67抗体を用いて免疫染色を行った(
図11)。また、同様にカニクイザル角膜内皮細胞を1/4の希釈になるようにROCK inhibitor(+)とROCK inhibitor(−)群それぞれで継代培養し、継代培養1、2日目に0.05%トリプシンを用いて回収後、抗Ki67抗体を用いてフローサイトメトリーを行い細胞周期の検討を行った(
図12、13)。
ROCK inhibitor(−)群に比べてROCK inhibitor(+)群では継代培養1日目、2日目ともにKi67陽性細胞が多かった一方、14日目にほぼコンフルエントに達すると、ROCK inhibitor(+)群の陽性細胞はROCK inhibitor(−)群に比べて少なかった(
図11)。フローサイトメトリーにおいても、ROCK inhibitor(−)群に比べてROCK inhibitor(+)群では継代培養1日目、2日目ともにKi67陽性細胞が多く認められた(
図12、13)。 Ki67抗原は細胞増殖周期のG1、さらにSからM期までの細胞の核内に見出されることから、Y−27632は、カニクイザル角膜内皮細胞の継代培養後早期に、細胞周期を促進させる働きがあり、細胞培養を効率的に行うために有用な薬剤であることが示された。
【0066】
実施例9
Y−27632がサル角膜内皮細胞のアポトーシスに与える影響の検討
実施例6と同様に継代培養を行ったカニクイザル角膜内皮細胞を1/4の希釈になるように継代した。ROCK inhibitor(+)群では10μMのY−27632を添加した角膜
内皮用培地を、ROCK inhibitor(−)群ではY−27632を添加しない角膜内皮用培
地を用いた。継代培養1日目に0.05%トリプシンを用いて培地中の細胞を含めて全ての細胞を回収後、Annexin VとPI(Propidium Iodide)を用いてフローサイトメトリー
を行い、アポトーシスの検討を行った(
図14、15)。
ROCK inhibitor(−)群に比べてROCK inhibitor(+)群では、継代培養1日目の全細胞におけるアポトーシス細胞率の有意な減少を認めた(
図14)。さらに、1×10
4
細胞あたりのアポトーシス細胞数を比較するとROCK inhibitor(−)群に比べてROCK i
nhibitor(+)群では有意な減少を認めた(
図15)。 このことから、Y−27632はカニクイザル角膜内皮細胞の継代培養時に、アポトーシスを抑制する働きがあることが示された。
【0067】
実施例10
Y−27632が培養サル角膜内皮細胞の密度に与える影響の検討
安楽死させたカニクイザルから摘出した角膜組織から、角膜内皮細胞が付着したデスメ膜を分離した。デスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science
)とともに37℃、5%CO
2の条件下で45分間インキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、角膜内皮用培地に播種した。コンフルエントに達した角膜内皮細胞を、0.05%トリプシンにて37℃、5%CO
2の条件下で10分間インキュベートし、継代培養を行った。ROCK inhibitor(+)群では10μMのY−27632を添加した角膜内皮用培地を、ROCK inhibitor(−)群では、Y−27632を添加しない角膜内皮用培地を用いた。培養開始後72時間目に培養液の交換を行い、72時間以降は、ROCK inhibitor(+)群
、ROCK inhibitor(−)群ともにY−27632を添加しない通常の角膜内皮用培地を
用いて培養した。毎回継代時には位相差顕微鏡を用いて細胞の写真を撮影し、細胞密度を測定してY−27632が培養サル角膜内皮細胞の密度に与える影響を検討した。
継代を7回繰り返したところ、継代培養を行った全期間においてROCK inhibitor(−
)群に比べてROCK inhibitor(+)群では高い細胞密度が認められた(
図16)。この
ことから、Y−27632を用いることで高い密度の角膜内皮細胞の培養が可能となり、将来的に培養角膜内皮シート移植といった再生医療を行う上でも有用であると考えられた。
【0068】
実施例11
ファスジルがサル角膜内皮細胞培養に与える影響の検討
安楽死させたカニクイザルから摘出した角膜組織から、角膜内皮細胞が付着したデスメ膜を分離した。デスメ膜を1.2U/mlのディスパーゼII(Roche Applied Science
)とともに37℃、5%CO
2の条件下で45分間インキュベートした後、ピペッティング操作により機械的に角膜内皮細胞を分離した。分離した角膜内皮細胞は遠心分離の後、角膜内皮用培地で継代培養した。角膜内皮用培地として、実施例1と同じ細胞培養液を用
いた。継代培養時に0.05%トリプシン処理により回収した培養サル角膜内皮細胞を分離し遠心分離の後、ファスジル群は10μMのファスジル(SIGMA-ALDRICH)を添加した
角膜内皮用培地を用い、コントロール群はファスジルを添加しない角膜内皮用培地を用いて同じ濃度になるように攪拌し、1ウェルあたり約2000個の密度で96ウェルプレートに播種した。培養開始24時間後にCellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay (Promega)を用いて接着細胞数を測定した(
図17)。ROCK inhibitorであるファスジルにおいても角膜内皮細胞の細胞接着を促進する効果が認められた。
【0069】
製剤例5
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する前房内注射液
常法により下に示す前房内注射液を調製する。
ファスジル 10mg
リン酸二水素ナトリウム 0.1g
塩化ナトリウム 0.9g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
全量 100mL
(pH7)
【0070】
製剤例6
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する角膜内皮シート調製用培養液
常法により下に示す培養液を調製する。
ファスジル 0.5mg
FBS 10mL
ペニシリン−ストレプトマイシン溶液 1mL
FGF basic 200ng
DMEM 適量
全量 100mL
FBSはインビトロジェン製、ペニシリン−ストレプトマイシン溶液はナカライテスク製(ペニシリン 5000u/mL,ストレプトマイシン 5000μg/mL含有)、FGF basicはインビトロジェン製、DMEMはインビトロジェン製を用いる。
【0071】
本出願は、日本で出願された特願2007−223141(出願日:2007年8月29日)および特願2008−016088(出願日:2008年1月28日)を基礎としており、それらの内容は本明細書に全て包含されるものである。