(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記浮上機構は前記容器の外側に配置された第4の磁力発生体を更に有し、前記第1及び第4の磁力発生体の間の磁力によって前記スクレーパを浮上させる、請求項1記載の培養装置。
前記回転軸は上端側に前記回転軸孔の内径よりも外径が大きいフランジ部を有し、前記回転軸孔の上側周縁部及び前記フランジ部は嵌合する凹部又は凸部をそれぞれ有する、請求項3に記載の培養装置。
前記浮上機構は前記第4の磁力発生体が固定されたプレートと、前記プレートのスライドをガイドするプレートガイドとを更に有する、請求項2〜6のいずれか一項に記載の培養装置。
前記プレート及び前記プレートガイドは前記容器の上方に配置されており、前記第1及び第4の磁力発生体の間の引力によって前記スクレーパが浮上する、請求項7又は8に記載の培養装置。
前記プレート及び前記プレートガイドは前記容器の下方に配置されており、前記第1及び第4の磁力発生体の間の斥力によって前記スクレーパが浮上する、請求項7又は8に記載の培養装置。
一方の前記アームに支持された前記ブレードは前記回転軸孔の近傍から前記容器の半径r1の位置まで延びており、他方の前記アームに支持された前記ブレードは前記容器の半径r2の位置から当該アームの先端側まで延びており、
前記半径r1と前記半径r2は式(1)の条件を満たす、請求項19記載の培養装置。
r1≧r2 ・・・(1)
前記浮上機構は、前記スクレーパの浮上状態と、前記スクレーパの浮上の解除状態とを双方向に切替可能であり、前記浮上状態では、前記第1の磁力発生体が浮上用の位置にあるときに、前記スクレーパを浮上させて前記容器に固定し、
前記駆動ユニットは、前記第2及び第3の磁力発生体が前記移動方向で前記浮上用の位置を挟んだ状態で前記スクレーパの移動を開始させ、前記第2及び第3の磁力発生体が前記移動方向で前記浮上用の位置を挟んだ状態で前記スクレーパの移動を停止させるように構成されている、請求項1〜20のいずれか一項記載の培養装置。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0027】
<培養装置>
図1に示す培養装置1は、培養器内で細胞を培養し、その後、培養器の底面上の付着性細胞を遠隔操作で掻き取ることができる装置である。培養装置1は、培養器2と駆動ユニット3とを備える。培養対象の細胞としては、付着性細胞(樹状細胞、間葉系幹細胞及び繊維芽細胞、ミクログリア細胞、骨芽細胞、心筋細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞など)が挙げられる。例えば、白血球中の単球を培養することによって樹状細胞に分化させることができる。
【0028】
培養器2は、容器4と、スクレーパ5と、浮力発生ユニット(浮上機構)6とを有する。容器4は、細胞を培養する培地を収容する。スクレーパ5は、培地と共に容器4内に収容されており、細胞の培養後に容器4内で回転して容器4の底面41aを掻く。浮力発生ユニット6は、容器4の上部に配置され、スクレーパ5を底面41aから離間させる。駆動ユニット3は、容器4外に配置され、細胞の培養後にスクレーパ5を回転させる。
【0029】
(容器)
容器4は、例えば透明な樹脂材料により構成されており、
図2及び
図3に示すように、円形の底板41と、底板41の周縁に沿って設けられた側壁42とを有する。底板41の内面41a(底面41a)の中心には、スクレーパ5を取り付けるための凸部43が形成されている。容器4の上部は、蓋材としての透明なフィルム(不図示)により塞がれている。フィルムの周縁部は、例えば溶着により、側壁42の上端部に接合されている。これにより、容器4内に閉鎖空間S1が構成されている。
【0030】
容器4の底面41aは略円形である。底面41aの直径は好ましくは30〜400mmであり、より好ましくは50〜250mmであり、更に好ましくは110〜250mmである。直径が30mm以上であれば一つの容器4内で十分量の細胞を培養することができ、他方、400mm以下であれば樹脂材料を使用し射出成型等によって十分に高い平面度の容器を作製できる。容器4の底面41aの平面度は、好ましくは40〜800μmであり、より好ましくは40〜500μmであり、更に好ましくは40〜150mである。平面度が40μm以上の容器であれば樹脂材料を使用してもこの条件を満たす容器を作製でき、他方、800μm以下であれば播種ムラが生じにくい。
【0031】
側壁42は、送液ポート44及び通気ポート45を有する。送液ポート44は、培地及び細胞を流入又は流出させるためのポートであり、閉鎖空間S1に連通している。送液ポート44は、側壁42に一体的に形成されており、底板41の近傍から斜め上方に突出した筒形状を呈している。送液ポート44には、送液用のチューブ(不図示)が着脱自在に接続される。通気ポート45は、培地及び細胞の流入及び流出に伴って閉鎖空間S1内の気体を流入又は流出させるためのポートであり、異物の混入防止用のフィルタ(不図示)を介して閉鎖空間S1に連通している。通気ポート45は、側壁42に一体的に形成されており、側方に突出した筒形状を呈している。通気ポート45の位置は、側壁42の周方向において送液ポート44の位置と異なっている。通気ポート45の基端部の位置は、送液ポート44の基端部の位置に比べ高い。このような配置により、通気ポート45からの培地及び細胞の漏出が防止される。
【0032】
(スクレーパ)
図3及び
図4に示すように、閉鎖空間S1内に収容されたスクレーパ5は、従動回転体(支持部)51と、2個のブレード52と、2個の永久磁石(第1の磁力発生体)53とを有する。2個の永久磁石53は、浮力発生ユニット6と共にスクレーパ5の浮上機構を構成する。
【0033】
従動回転体(支持部)51は、例えば容器4の材料と同じ樹脂材料により構成されており、円筒部54と、円筒部54の周面から互いに逆側に延出した2本の従動アーム55,56とを有する。
【0034】
円筒部54は、底面41aに対して直立し、凸部43を囲んでいる。円筒部54の孔(回転軸孔)には、上方からピン(回転軸)21が挿通されており、ピン21の下端部は凸部43に装着されている。ピン21の上端部にはフランジ部21aが形成されている。フランジ部21aは円筒部54の上昇を規制する。従動回転体51は、ピン21により底板41に取り付けられ、底面41aに直交する軸線CL1を中心に回転自在となっている。なお、容器4を覆う蓋材の材質によっては、ピン21を蓋材に設けてもよい。
【0035】
また、従動回転体51は、ピン21をガイドとして浮上可能となっており、その浮上高さはフランジ部21aにより制限されている。なお、フランジ部21aの下には、回転規制用の凸部21bが形成されており、円筒部54の上端部には、凸部21bと嵌合可能な凹部54aが形成されている。このため、従動回転体51は、上限まで上昇したときに、凸部21bと凹部54aの嵌合により回転不能となる。
【0036】
従動アーム55,56の長さは互いに異なっており、従動アーム55は従動アーム56と比べて短い。従動アーム55の先端部は円筒部54と側壁42の間に位置し、従動アーム55の先端部は側壁42の近傍に位置している。なお、2本の従動アーム55,56のなす角度は、必ずしも180°でなくてもよいが、160°〜200°の範囲であることが好ましい。この角度が160°〜200°であれば、回転軸を挟んで互いに異なる側に配置された永久磁石53の磁力を利用して、スクレーパ5をバランスよく浮上又は降下させることができる。
【0037】
2個のブレード52は、従動アーム55,56の下にそれぞれ着脱自在に取り付けられている。ブレード52は、例えばシリコーンゴム等の弾性材料により構成されており、従動アーム55,56の延出方向に沿って延在すると共に、従動アーム55,56から下方に張り出している。ブレード52の下端縁には、薄肉の刃先部52aが形成されている(
図6参照)。刃先部52aは底面41aに接触し、従動回転体51の回転に伴って底面41aを掻く。また、刃先部52aは、従動回転体51の浮上に伴って底面41aから離間する。
【0038】
短い方の従動アーム55に取り付けられたブレード52は、底面41aの中心寄りに位置し、円筒部54の近傍から底面41aの半径r1の位置まで延びている。長い方の従動アーム56に取り付けられたブレード52は、底面41aの外寄りに位置し、底面41aの半径r2の位置から先端側まで延びている。ここで、半径r1と半径r2は式(1)の条件を満たす。
r1≧r2 ・・・(1)
【0039】
上記式(1)は、従動アーム55のブレード52が掻く範囲と、従動アーム56のブレード52が掻く範囲との一部が重複することを意味する。これにより、スクレーパ5を一回転させるだけで底面41aを隙間少なく掻くことができる。
【0040】
2個の永久磁石53は、従動アーム55,56の上にそれぞれ配置されている。永久磁石53は、回転軸線CL1から離間し、ブレード52の上に位置している。永久磁石53は、従動アーム55,56の突出方向に沿って延伸した直方体である。すなわち、永久磁石53は、平面視で一方向に延伸した矩形(長方形)を呈する。永久磁石53のN極53NとS極53Sは、従動アーム55,56の幅方向に並んでいる(
図6参照)。永久磁石53は、従動アーム55,56の上にそれぞれ形成された磁石収容部57に収容されており、磁石収容部57は蓋部材58により密封されている。
【0041】
(浮力発生ユニット)
図2に示すように、浮力発生ユニット6は、プレート61と、プレート61を容器4の上に保持する冠状部材62とを有する。プレート61は、一方向に延伸した薄板形状を呈し、容器4の径方向に沿って水平に配置される。プレート61は、その長手方向に並ぶ2個の鉄板(第4の磁力発生体)63を有している。2個の鉄板63は、2個の永久磁石53をそれぞれ引き寄せ、スクレーパ5に浮力を発生させる。なお、上述のとおり、鉄板63も、永久磁石53と協働して磁力を発生するので磁力発生体に相当する。
【0042】
冠状部材62は、側壁42の上端部に装着される環状フレーム64と、容器4の径方向に沿うように環状フレーム64に架け渡されたプレートガイド65とを有する。プレートガイド65は、送液ポート44及び通気ポート45の位置を通らないように延在している。プレートガイド65の両端部は開口しており、プレート61の出し入れが可能となっている。
【0043】
プレート61及びプレートガイド65は、容器4の上方に配置されており、スクレーパ5の永久磁石53とプレート61の鉄板63との間の引力によってスクレーパ5を浮上させる。プレートガイド65からプレート61を取り出した状態では、スクレーパ5に浮力が発生しないので、
図4に示すようにブレード52は底面41aに接触する。一方、プレートガイド65にプレート61が挿入され且つスクレーパ5がプレート61に沿っている状態では、スクレーパ5に浮力が発生するので、
図5に示すようにスクレーパ5が浮上してブレード52が底面41aから離間する。このとき、ピン21の凸部21bと円筒部54の凹部54aとが嵌合し、スクレーパ5が回転不能となる。これにより、スクレーパ5がしっかりと容器に固定される。永久磁石53が鉄板63に引き寄せられることによってもスクレーパが容器に固定されるので、凸部21b及び凹部54aは必須ではない。なお、
図4,5において、プレートガイド65の図示は省略した。
【0044】
鉄板63及び永久磁石53の対はピン21を挟む2箇所に配置されるので、スクレーパ5の浮力はピン21を挟む2箇所で発生する。このため、スクレーパ5をよりしっかりと浮上状態に保つことができる。なお、プレート61をスライドさせ、永久磁石53と鉄板63の位置をずらすことでスクレーパ5の浮上状態を解除することができる。その後、スクレーパ5を再度浮上させるには、まず、スクレーパ5の角度をプレートガイド65の位置に合せ、その後、プレート61をプレートガイド65に挿入することによってスクレーパ5を磁力で浮上させることができる。このように、浮上機構は、スクレーパ5の浮上状態と、スクレーパ5の浮上の解除状態とを双方向に切替可能であり、浮上状態では、永久磁石53がプレートガイド65の下の位置(浮上用の位置)にあるときに、スクレーパ5を浮上させて容器に固定する。
【0045】
プレートガイド65は、送液ポート44及び通気ポート45を通らないように延在しているので、プレート61及びスクレーパ5は、送液ポート44及び通気ポート45を通らない状態で保持される。このため、送液ポート44を介した送液又は通気ポート45を介した通気がスクレーパ5により妨げられることがない。送液又は送気が妨げられる状態とは、例えば、従動アーム55の端部により送液ポート44又は通気ポート45の一部が閉塞される状態である。
(駆動ユニット)
【0046】
図1に示すように、駆動ユニット3は、筐体31と、動力源32と、駆動回転体33と、2箇所の引力発生部34とを有する。筐体31は容器4を水平に支持する。以下では、筐体31に支持された容器4を基準にして動力源32、駆動回転体33及び引力発生部34の配置を説明する。
【0047】
動力源32は筐体31内に設けられ、容器4の下方に位置する。動力源32は上方に突出した回転軸32aを有し、回転軸32aを回転させるモータ及び減速器(不図示)等を内蔵している。回転軸32aの中心軸線CL2はスクレーパ5の回転軸線CL1に一致する。
【0048】
駆動回転体33は、回転軸32aの上端部に固定されており、回転軸32aの周面から互いに逆側に延出した2本の駆動アーム35,36を有する。駆動アーム35の長さは従動アーム55の長さに対応し、駆動アーム36の長さは従動アーム56の長さに対応している。
【0049】
2箇所の引力発生部34は、駆動アーム35,36の上にそれぞれ設けられている。駆動アーム35,36が従動アーム55,56の下方にそれぞれ位置するときに、引力発生部34は、従動アーム55,56の永久磁石53の下方に位置する。
【0050】
図6に示すように、引力発生部34は、矩形の鉄板37と、永久磁石38,39(第2及び第3の磁力発生体)とを有する。鉄板37は、駆動アーム35,36上に水平に固定されており、永久磁石38,39は鉄板37上に固定されている。永久磁石38,39は、一方向に延伸した直方体であり、その延伸方向が鉄板37の平行な2辺にそれぞれ沿うように配置されている。このため、永久磁石38,39は、平面視で長方形を呈する。
【0051】
引力発生部34は、従動回転体51の回転に伴う永久磁石53の移動方向で永久磁石38,39が永久磁石53挟むように配置されている。永久磁石53のN極53N側に配置される永久磁石38は、S極38Sが上、N極38Nが下となるように配置されている。すなわち、永久磁石38の極は、永久磁石53の極のうち永久磁石38側の極を引き寄せるように上下に並んでいる。永久磁石53のS極53S側に配置された永久磁石39は、N極39Nが上、S極39Sが下となるように配置されている。すなわち、永久磁石39の極は、永久磁石53の極のうち永久磁石39側の極を引き寄せるように上下に並んでいる。
【0052】
3個の永久磁石53,38,39がこのように配置されることで、これらの磁石を繋ぐ磁力線のループMLが形成され、引力発生部34と永久磁石53の間に強い引力が生じる。鉄板37は、永久磁石38,39を結ぶ磁力線の経路として機能し、引力の強化に寄与している。
【0053】
図1に示す駆動回転体33は、引力発生部34が永久磁石53の下に位置する状態で動力源32により回転させられる。これに先立って、プレート61はプレートガイド65から取り出され、スクレーパ5が下降してブレード52が底面41aに接触する。駆動回転体33が回転すると、引力発生部34及び永久磁石53を介して従動回転体51に動力が伝わる。この動力により、スクレーパ5が回転する。すなわち、動力源32は、駆動回転体33を回転させると共に、引力発生部34及び永久磁石53を介して伝わる動力によりスクレーパ5を回転させる。
【0054】
引力発生部34及び永久磁石53の対はピン21を挟む2箇所に配置されるので、従動回転体51にはピン21の軸線CL1を中心とする偶力が発生する。この偶力を発生させることにより、軸線CL1を中心として従動回転体51をより円滑に回転させることができる。
【0055】
ここで、平面視における引力発生部34と永久磁石53の位置関係について説明する。駆動回転体33及び従動回転体51の回転中には、従動回転体51の遅れに起因して、駆動回転体33の位置と従動回転体51の位置とのずれが生じる。以下、このずれを「位相ずれ」という。
図7は、位相ずれが生じていない状態の引力発生部34と永久磁石53を示す平面図である。位相ずれが生じていない状態とは、引力発生部34が永久磁石53の下に位置すると共に、引力発生部34と永久磁石53の間の引力が従動回転体51の回転方向に作用しない状態を意味する。
【0056】
図7に示すように、永久磁石53は、従動回転体51の延伸方向に沿っている。引力発生部34は、従動回転体51の延伸方向を基準にして傾いている。引力発生部34が従動回転体51の延伸方向を基準にして傾く方向D1は、駆動回転体33の回転方向D2の逆側に設定されている。すなわち、位相ずれが生じていないときには、引力発生部34は永久磁石53を基準にして方向D1に傾く。このため、永久磁石53を基準にした引力発生部34の傾きは、
図8に示すように、位相ずれが生じると小さくなる。永久磁石53を基準にして引力発生部34が傾く角度(以下、単に「引力発生部34の傾き角度」という。)は、位相ずれが生じたときに略ゼロとなるように設定されている。具体的には、予め位相ずれの角度を測定しておき、その測定値に一致するように引力発生部34の傾き角度が設定されている。位相ずれの角度は、例えば、引力発生部34の傾き角度を仮設定した状態で、駆動ユニット3によりスクレーパ5を実際に回転させることで測定できる。
【0057】
なお、永久磁石53を基準にした引力発生部34の傾きは、永久磁石53の辺を基準にした永久磁石38,39の辺の傾きである。永久磁石53を基準にした引力発生部34の傾きは、永久磁石53の延伸方向を基準にした永久磁石38,39の延伸方向の傾きでもある。
【0058】
<培養方法>
培養装置1を用いた培養方法について説明する。まず、培養器2を準備する。このとき、
図5に示すようにスクレーパ5が浮上した状態、すなわち、プレートガイド65にプレート61を入れた状態としておくことが好ましい。
【0059】
(播種工程)
次に、送液ポート44に送液チューブを接続し、送液ポート44を介して培養溶液を容器4内に注入する((A)工程)。培養溶液は、液状の培地に細胞が分散した混濁液である。細胞の播種は、上記混濁液を容器4内に供給することによって行ってもよいし、予め培地又は細胞を容器4に収容し、その後、容器4内に培養器に細胞又は培地を供給することによって行ってもよい。
【0060】
(培養工程)
培養器2を水平にしてインキュベータに入れ、所定期間放置することで容器4内の細胞を培養する((B)工程)。培養工程において、細胞は底面41aに付着する。浮力発生ユニット6によりスクレーパ5が浮上させられているため、底面41aの全域を細胞の培養に用いることができる。なお、必要に応じ途中で培地の交換を行ってもよい。培地の交換は、送液ポート44を介して行うことができる。
【0061】
(スクレープ工程)
培養工程が完了すると、インキュベータから培養器2を取り出し、駆動ユニット3の筐体31上に設置する。このとき、駆動回転体33と従動回転体51の位置を揃える。次に、プレートガイド65からプレート61を取り出すことでスクレーパ5を下降させ、ブレード52を底面41aに接触させる。次に駆動回転体33を回転させる。すると、引力発生部34と永久磁石53を介して従動回転体51に動力が伝わってスクレーパ5が回転する。この回転に伴いブレード52が底面41aを掻くことで底面41aから細胞が剥離される。すなわち、培養器2の下方に位置する引力発生部34をピン21に対応する位置を中心として培養器2の底板41に沿って円運動させることによって、磁力を駆動力としてスクレーパ5を回転させると共にブレード52で底面41a上の付着物を掻き取る((C)工程)。
【0062】
スクレーパ5は予め容器4内に収容されているので、スクレーパ5を容器4内に挿入する必要がない。また、スクレーパ5を回転させる動力は、引力発生部34及び永久磁石53を介して容器4外から容器4内に伝わる。従って、容器4の閉鎖空間S1を開放することなく細胞を剥離させることができる。
【0063】
ここで、駆動回転体33と従動回転体51は直結されていないので、スクレーパ5を回転させる際には、スクレーパ5の位相遅れによって上記位相ずれが生じる。上述したように、永久磁石53を基準とした引力発生部34の傾きは、位相ずれが生じると小さくなる。仮に、位相ずれが生じていないときに、引力発生部34及び永久磁石53が互いに傾かないように構成されていると、永久磁石53を基準とした引力発生部34の傾きは位相ずれが生じたときに大きくなる。このような構成に比べ、永久磁石53を基準とした引力発生部34の傾きが駆動回転体及び従動回転体の回転中に小さくなるので、永久磁石53と引力発生部34の間の引力が大きくなる。更に、引力発生部34が永久磁石53を基準にして傾く角度は、位相ずれが生じると略ゼロとなるため、引力発生部34と永久磁石53の間の引力はより大きくなる。引力発生部34と永久磁石53の間の引力が大きくなることにより、ブレード52が底面41aにしっかりと密着すると共に、駆動回転体33から従動回転体51に十分な動力が伝わる。従って、細胞を十分に剥離させることができる。
【0064】
また、永久磁石38,39,53の極が
図6に示すように配置されている形態において、永久磁石53を基準とした引力発生部34の傾きが大きくなってしまうと、永久磁石53の両端部では引き合う極同士が遠ざかり、反発しあう極同士が接近する。例えば、
図6において、S極38SとN極53Nとが遠ざかり、N極39NとN極53Nとが接近する。永久磁石53を基準とした引力発生部34の傾きを小さくすることにより、このような現象も防止されるため、引力発生部34と永久磁石53の間の引力が更に大きくなる。
【0065】
なお、ブレード52は、永久磁石53と引力発生部34に挟まれている。このため、ブレード52には、スクレーパ5の自重に加え引力発生部34と永久磁石53の間の引力が作用する。これにより、ブレード52と底面41aの接触圧力が高くなるため、細胞をより十分に剥離させることができる。
【0066】
(回収工程)
スクレープ工程が完了すると、剥離した細胞を、培地と共に送液ポート44から回収する((D)工程)。容器4を駆動ユニット3から離脱させると共に、プレートガイド65にプレート61を挿入し、スクレーパ5を浮上させることが好ましい。スクレーパ5を浮上させることにより、スクレーパ5に妨げられることなく培地及び細胞を回収できる。
【0067】
培養装置1を用いることで、容器4の閉鎖空間S1を開放することなく、すなわち、播種工程の開始から回収工程の終了まで容器4の上部開口を蓋材で覆った状態で、細胞の培養及び回収を実施できる。つまり、本実施形態によれば、細胞の培養及び回収を閉鎖系で行うことができる。
【0068】
培養装置1を用いることで、容器4の閉鎖空間S1を開放することなく、すなわち、播種工程の開始から回収工程の終了まで容器4の上部開口を蓋材で覆った状態で、細胞の培養及び回収を実施できる。つまり、本実施形態によれば、細胞の培養及び回収を閉鎖系で行うことができる。
【0069】
培養装置1によれば、細胞の培養を阻害しないように、培養時にはスクレーパ5を容器4の底面41aから離隔させることができる。また、スクレーパ5は浮上した状態で容器4に固定されるので、容器4を駆動ユニット3上に設置する際に第1の磁力発生体53を容易に位置決めできる。このため、スクレーパ5の移動方向で第2及び第3の磁力発生体38,39が第1の磁力発生体53を挟むように、第1、第2及び第3の磁力発生体53,38,39の配置を容易に調整できる。このように配置を調整することで、第2及び第3の磁力発生体38,39から第1の磁力発生体53に十分な力を伝え、スクレーパをしっかりと移動させることができる。従って、細胞の培養を効率よく行い、培養後の細胞をしっかりと掻き取ることができる。
【0070】
浮上機構は、スクレーパ5の浮上状態と、スクレーパ5の浮上の解除状態とを双方向に切替可能であり、浮上状態では、第1の磁力発生体53が浮上用の位置にあるときに、スクレーパ5を浮上させて容器4に固定し、駆動ユニット3は、第2及び第3の磁力発生体38,39が移動方向で浮上用の位置を挟んだ状態でスクレーパ5の移動を開始させ、第2及び第3の磁力発生体38,39が移動方向で浮上用の位置を挟んだ状態でスクレーパ5の移動を停止させるように構成されていてもよい。この場合、スクレーパ5の移動方向で第2及び第3の磁力発生体38,39が第1の磁力発生体53を挟むように、第1、第2及び第3の磁力発生体53,38,39の配置を調整することを漏れなく実行できる。
【0071】
本実施形態により例示された培養器2は、細胞を培養する培地を収容するための容器と、容器内に収容されており、容器の底面上の付着物を掻き取るためのブレード及び当該ブレードを支持する支持部を有するスクレーパと、ブレードが容器の底面から離隔するように容器内においてスクレーパを浮上させるための浮上機構とを備える。
【0072】
上記培養器によれば、細胞の培養時、培地表面よりも高い位置にスクレーパを浮上させることで、スクレーパに細胞が付着することを防止でき、またブレードから化学物質が培地に溶出することを防止できる。ブレードの材質としてはある程度の弾性を有し、細胞毒性やその他安全性が担保できれば特に制限はない。具体例として、フッ素ゴム、ブチルゴム、イソブレンゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーンゴムが挙げられ、弾性と滑り性からシリコーンゴムが最も好ましい。
【0073】
浮上機構は磁力によってスクレーパを浮上させるものとすることができる。例えば、スクレーパが第1の磁力発生体を有し、この第1の磁力発生体が容器の外側に配置される第4の磁力発生体と共に浮上機構を構成してもよい。あるいは、浮上機構が容器の外側に配置された第4の磁力発生体を更に有し、第1及び第4の磁力発生体の間の磁力によってスクレーパが浮上する構成であってもよい。なお、ここでいう「磁力発生体」とは、磁場の発生源である磁石(永久磁石及び電磁石)に加え、磁場の発生源ではないものの磁石との間に引力が生じる部材(鉄板、コバルト板及びニッケル板など)をも包含する概念である。
【0074】
スクレーパが浮上した状態を安定的に維持するため、上記第1及び第4の磁力発生体は以下の構成とすることができる。すなわち、第1の磁力発生体は一対の磁力発生体からなり且つ支持部は棒状部材からなり、当該一対の磁力発生体は棒状部材の長手方向に並ぶように棒状部材に設けられていてもよい。第4の磁力発生体は一対の磁力発生体からなり且つ浮上機構は当該一対の磁力発生体が互いに離れた位置に固定されたプレートと、当該プレートがスクレーパの長手方向に沿ってスライドするようにガイドするプレートガイド部とを有してもよい。一対の磁力発生体が配されたプレートをスライドさせることで、スクレーパの浮上状態を解除することができ、その後、スクレーパを再度浮上させることが必要となった場合にはスクレーパの位置を調整し且つプレートをスライドさせることによってスクレーパを再び浮上させることができる。
【0075】
上記のプレート及びプレートガイド部が容器の上方に配置される場合、第1及び第4の磁力発生体の間の引力によってスクレーパが浮上する。他方、プレート及びプレートガイド部が容器の下方に配置される場合、第1及び第4の磁力発生体の間の斥力によってスクレーパが浮上する。
【0076】
スクレーパに配置された第1の磁力発生体は、スクレーパの浮上のみならず、スクレーパを磁力で遠隔操作するのにも利用できる。この場合、棒状部材は第1の磁力発生体である一対の磁力発生体の間に設けられた回転軸孔を有し、容器は略円形の底面と、スクレーパの回転軸孔に挿入するための回転軸とを有する構成とすることが好ましい。かかる構成を採用することにより、スクレーパの回転によって底面上の細胞を掻き取ることが可能となる。また回転軸及び回転軸孔が容器内におけるスクレーパの上下方向の移動をガイドする役割を担うことができる。
【0077】
容器の上記回転軸は上端側に回転軸孔の内径よりも外径が大きいフランジ部を有し、回転軸孔の上側周縁部及びフランジ部は嵌合する凹部又は凸部をそれぞれ有してもよい。かかる構成を採用することにより、浮上状態のスクレーパを回転不能とすることができる。これにより、多少の衝撃を受けてもスクレーパの浮上状態を維持でき、例えば浮上状態で培養器を出荷したい場合などに有用である。
【0078】
容器の底面の直径は30〜400mmとすることができる。容器の底面の平面度は好ましくは40〜800μmである。なお、ここでいう平面度はCNC三次元測定機 株式会社ミツトヨ製 FalcioApex910による測定に基づいて得られる値である。すなわち、容器中心から約10mm間毎の同心円上の等間隔各8点を測定し、容器の底面の最も高い所と最も低い所を通る二つの平行な平面を想定し、これらの平面間の距離を平面度とする。
【0079】
培養器は閉鎖系において細胞を培養するために使用してもよい。この場合、培養器は、容器の上部開口を塞ぐように配置される蓋材を更に備えてもよい。また、容器は、液体ポートと、通気ポートとを側壁に有することが好ましい。
【0080】
本実施形態により例示された培養装置1は、上記培養器と、培養器の底面上の付着物(細胞、細胞シート、培養中の分泌物等)を掻き取れるようにブレードが底面に接した状態でスクレーパを移動させる駆動ユニットとを備える。上述のとおり、培養器の浮上機構は、磁力によってスクレーパを浮上させるものであり、スクレーパは第1の磁力発生体を有し、第1の磁力発生体は容器の外側に配置される第4の磁力発生体と共に浮上機構を構成する。駆動ユニットは、培養器の下方に配置され且つ当該培養器の底面に沿う方向に移動可能な第2及び第3の磁力発生体を有し、スクレーパは第1の磁力発生体と第2及び第3の磁力発生体との間の磁力によってブレードが底面に接した状態で移動する。
【0081】
上記培養装置によれば、細胞の培養時、培地表面よりも高い位置にスクレーパを浮上させることで、スクレーパに細胞が付着することを防止でき、またブレードから化学物質が培地に溶出することを防止できる。また、駆動ユニットは、容器の外側から磁力によってスクレーパを操作することを可能にするため、閉鎖系で培養するのに有用である。
【0082】
培養器の容器が上記のように略円形の底面と回転軸とを有する場合、培養装置1は以下の構成とすることができる。すなわち、培養装置1は、当該培養器と、培養器の底面上の付着物を掻き取れるようにブレードが底面に接した状態でスクレーパを移動させる駆動ユニットとを備える。駆動ユニットは、培養器の下方に配置され且つ回転軸に対応する位置を中心として当該培養器の底面に沿って円運動する第2及び第3の磁力発生体を有し、スクレーパは第1の磁力発生体と第2及び第3の磁力発生体との間の磁力によってブレードが底面に接した状態で回転する。かかる構成を採用することにより、スクレーパの回転によって底面上の細胞を掻き取ることが可能となる。
【0083】
本実施形態により例示された培養方法は、(A)容器内にスクレーパを有する培養器に細胞又は培地を供給する工程と、(B)容器内において細胞を培養する工程と、(C)培養終了後、容器の底面上の付着物をスクレーパが有するブレードで掻き取る工程と、(D)培養した細胞を容器から排出する工程とを備え、容器内において培地よりも高い位置にスクレーパを浮上させた状態で(B)工程を実施する。
【0084】
上記培養方法によれば、(B)工程において培地表面よりも高い位置にスクレーパを浮上させることで、スクレーパに細胞が付着することを防止でき、またブレードから化学物質が培地に溶出することを防止できる。容器内において培地よりも高い位置にスクレーパを浮上させた状態で(A)工程を実施してもよく、この状態で(D)工程を実施してもよい。
【0085】
培養方法は閉鎖系において実施してもよい。この場合、少なくとも(A)工程の開始から(D)工程の終了まで、蓋材が容器の上部開口を覆った状態とすることが好ましい。
【0086】
(C)工程において、培養器の下方に配置した第2及び第3の磁力発生体を培養器の底面に沿う方向に移動させることによって、第1の磁力発生体と第2及び第3の磁力発生体との間の磁力を駆動力としてスクレーパを移動させると共にブレードで底面上の付着物を掻き取ってもよい。培養器の容器が上記のように略円形の底面と回転軸とを有する場合、(C)工程において、培養器の下方に配置した第2及び第3の磁力発生体を回転軸に対応する位置を中心として培養器の底面に沿って円運動させることによって、第1の磁力発生体と第2及び第3の磁力発生体との間の磁力を駆動力としてスクレーパを回転させると共にブレードで底面上の付着物を掻き取ってもよい。
【0087】
本実施形態により開示された培養装置1は、細胞を培養する培地を収容する容器と、培地と共に容器内に収容され、容器の底面を掻くスクレーパと、容器外に配置され、スクレーパを駆動する駆動ユニットとを備え、スクレーパは、底面に交差する一軸線を中心に回転自在となるように設けられた従動回転体と、従動回転体から張り出して底面に接触するブレードと、一軸線から離間して従動回転体に設けられた従動側の磁力発生体とを有し、駆動ユニットは、一軸線を中心に回転自在となるように設けられた駆動回転体と、一軸線から離間して駆動回転体に設けられ、従動側の磁力発生体を引き寄せる駆動側の磁力発生体と、駆動回転体を回転させると共に、駆動側及び従動側の磁力発生体を介して伝わる動力によりスクレーパを回転させる動力源とを有し、駆動側及び従動側の磁力発生体は、それぞれ平面視で矩形を呈し、駆動回転体に対する従動回転体の位相ずれが生じていないときに、平面視で互いに傾くように設けられており、その傾きは、位相ずれが生じたときに小さくなるように設定されている。
【0088】
従動側及び駆動側の磁力発生体は、それぞれ平面視で一方向に延伸した形状を呈してもよい。
【0089】
この培養装置では、スクレーパは予め容器内に収容されているので、スクレーパを容器内に挿入する必要がない。また、スクレーパを回転させる動力は、磁力発生体を介して容器外から容器内に伝えられる。従って、容器を開放することなく細胞を剥離させることができる。
【0090】
ここで、従動側及び駆動側の磁力発生体は、駆動回転体に対する従動回転体の位相ずれが生じていないときに、平面視で互いに傾くように設けられており、その傾きは、位相ずれが生じたときに小さくなるように設定されている。仮に、位相ずれが生じていないときに磁力発生体同士が傾かないように構成されていると、位相ずれが生じたときには磁力発生体同士の傾きが大きくなる。このような構成に比べ、磁力発生体同士の傾きが駆動回転体及び従動回転体の回転中に小さくなるので、磁力発生体同士の引力が大きくなる。これにより、ブレードが底面にしっかりと密着すると共に、駆動回転体から従動回転体に十分な動力が伝わる。従って、細胞を十分に剥離させることができる。
【0091】
従動回転体には、従動側の磁力発生体として第1の磁石が設けられ、駆動回転体には、駆動側の磁力発生体として第2及び第3の磁石が設けられ、第1の磁石の極は従動回転体の回転に伴う移動方向に沿って並び、第2及び第3の磁石は移動方向で第1の磁石を挟むように配置され、第2の磁石の極は、第1の磁石の極のうち第2の磁石側の極を引き寄せるように上下に並び、第3の磁石の極は、第1の磁石の極のうち第3の磁石側の極を引き寄せるように上下に並んでいてもよい。この場合、第1〜第3の磁石により磁力線のループを構成し、より強い引力を発生させることができる。従って、細胞をより十分に剥離させることができる。
【0092】
本実施形態により例示された培養方法は、培養装置1を用い、容器に培地を収容して細胞を培養する培養工程と、駆動ユニットによりスクレーパを回転させることで底面を掻くスクレープ工程と、を備え、スクレープ工程では、駆動回転体に対する従動回転体の位相ずれにより、駆動側及び従動側の磁力発生体の傾きが小さくなるように駆動回転体を回転させる。
【0093】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、容器4の底面41aの形状は略円形に限定されず、他の形状であってもよい。
図9に示す容器4Aは略矩形の底面4aを有する。スクレーパ5Aは磁力によって浮上するように構成されている。またスクレーパ5Aが容器4Aの一辺4b側から対向する一辺4c側に移動するように構成されており、2本のブレード52Aによって略矩形の底面4a上の細胞を掻き取ることができる。
【0094】
ブレードを2本に分けずに、1本の長いブレードを採用した場合、底面の凹凸や撓みに対するブレードの追従性が不十分となりやすい。従って、使用するブレードの長さを制限して複数のブレードで底面の略全体をカバーできるようにすることで、底面の凹凸や撓みに対する追従性が向上し、より効率的に付着性細胞を掻き取ることができる。ブレードの長さは、培養皿が円形の場合(容器4)、半径の20〜50%であることが好ましく、培養皿が矩形の場合(容器4A)、培養皿の幅の10〜50%であることが好ましい。複数のブレードを使用し、ブレードの長さの合計を、培養皿の半径又は幅よりも長くすることが好ましい。
【0095】
図10〜
図13に容器4に装着可能なスクレーパの他の例を示す。
図10に示すように、従動アーム55,56のなす角は90°程度、あるいは、90°以下であってもよい。この角度が90°以内であると、2本の従動アーム55,56間の互いの垂直方向の動きの影響が少なく、容器底面の平面度への対応がしやすい。この角度の下限値は30°程度である。てこの原理により従動アーム56(長いアーム)と従動アーム55(短いアーム)の駆動力を均等に設定しやすい点から、長いアームに配されるブレードは短いアームに配されるブレードよりも短いことが好ましい。なお、ここでは2本の従動アーム55,56が一体的に形成されていて同時に回転することを想定しているが、それぞれ独立して回転できるように構成されていてもよい。
【0096】
図11に示すように、2本の従動アーム55,56の長さは互いに均等であってもよい。また、従動回転体51は、必ずしも2本の従動アーム55,56を有していなくてもよく、
図12に示すように、1本の従動アーム59のみを有していてもよい。
図11,12に示す態様の場合、1本のブレード52が円筒部54から側壁42に亘っていてもよいが、長いブレードを採用すると、底面の凹凸や撓みに対する追従性が不十分となる傾向にある。従って、
図11に示すとおり、複数の短いブレードを採用することが好ましい。あるいは、
図12に示すとおり、ブレードの途中に切り欠き52bを入れることで上記追従性を向上させてもよい。
図13に示すスクレーパ5Bは、幅の広い1本の従動アーム59に3本のブレード52が配置されている。
【0097】
図3,10〜13に示すとおり、培養皿が円形である場合、効率的な掻き取り作業を実施する観点から、スクレーパが一回転することによってブレードが培養皿の底面積の95%以上の領域をカバーすることが好ましい。他方、
図9に示すとおり、培養皿が矩形である場合、同様の観点から、スクレーパが培養皿の一方から他方に移動(片道運動)することによってブレードが培養皿の底面積の95%以上の領域をカバーすることが好ましい。つまり、スクレーパの一回転又は片道運動(スクレーパの単位動作)によって培養皿の底面積の95%以上の領域の付着物をブレードが掻き取ることが好ましい。
【0098】
上記実施形態においては、プレート61及びプレートガイド65を容器4の上方に配置する場合を例示したが、プレート61及びプレートガイド65を容器4の下方に配置し、スクレーパ5の永久磁石53とプレート61に配置した磁石(第4の磁力発生体)との間の斥力によってスクレーパ5を浮上させてもよい。
【0099】
従動回転体51の延伸方向を基準にして引力発生部34を傾けるのに代えて、従動回転体51の延伸方向を基準にして永久磁石53を傾けてもよい。また、従動回転体51の延伸方向を基準にして引力発生部34及び永久磁石53の両方を傾けてもよい。いずれの場合も、引力発生部34が永久磁石53を基準にして傾く方向D1が、駆動回転体33の回転方向D2の逆側となるように、引力発生部34及び永久磁石53の傾きを設定する。
【0100】
永久磁石53,38,39は、平面視で矩形を呈する場合、必ずしも平面視で一方向に延伸した形状を呈しなくてもよく、例えば正方形を呈してもよい。また、永久磁石53,38,39は、平面視で一方向に延伸した形状を呈する場合、必ずしも平面視で矩形を呈しなくてもよく、例えば楕円形を呈してもよい。
【0101】
スクレーパ5と駆動ユニット3の磁力発生体は永久磁石に限られず、浮力発生ユニット6の磁力発生体は鉄板に限られない。プレート61と従動回転体51の間に磁力を発生すると共に、駆動回転体33と従動回転体51の間に磁力を発生する組み合わせであれば、各部にどのような磁力発生体を採用してもよい。例えば、駆動回転体33の磁力発生体を鉄板としてもよい。従動回転体51の磁力発生体を鉄板とし、駆動回転体33及びプレート61の磁力発生体を永久磁石としてもよい。更に、電磁石を磁力発生体として採用することも可能である。
【0102】
2本の従動アーム55,56の長さは互いに均等であってもよい。また、従動回転体51は、必ずしも2本の従動アーム55,56を有していなくてもよく、1本の従動アーム55のみを有していてもよい。これらの場合、一つのブレード52が円筒部54から側壁42に亘っていてもよい。
【0103】
浮上機構は、磁力によりスクレーパ5を浮上させるものに限られない。例えば容器4に内蔵された弾性部材によりスクレーパ5を浮上させるものであってもよい。
【0104】
駆動ユニット3は、移動方向において永久磁石38,39が上記浮上用の位置(プレートガイド65の下の位置)を挟んだ状態でスクレーパ5の移動を開始させ、移動方向において永久磁石38,39が上記浮上用の位置を挟んだ状態でスクレーパ5の移動を停止させるように構成されていてもよい。この具体例として、次のように構成することが挙げられる。培養器2を筐体31上に設置する際に、プレートガイド65の位置が一定となるように、例えば突起等の位置決め部を筐体31に設ける。移動方向において永久磁石38,39が上記浮上用の位置を挟んだ状態で駆動回転体33の回転を開始させ、移動方向において永久磁石38,39が上記浮上用の位置を挟んだ状態で駆動回転体33の回転を停止させるように動力源32を制御する。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0106】
<比較評価1>
以下に示す実施例1〜3と、比較例1との比較を行った。
(実施例1)
【0107】
上記実施形態に係る培養装置1(培養器2及び駆動ユニット3)と同様の構成の装置を作製した。永久磁石38,39,53の極の配置は
図6のようにした。容器4の底面の直径を230mmとした。この装置を使用してRAW264.7細胞の培養及び回収を行った。細胞の培養時にはスクレーパを浮上させ、掻き取り時には降下させ、掻き取り後の細胞懸濁液の回収時には再浮上させた。詳細な培養及び回収の操作は次のとおりとした。
1.まず、スクレーパに設けられたブレードが培地に浸らないように、培養皿内のスクレーパを磁力で上方に浮上させた状態とした。その後、50mLの培地にRAW264.7細胞(細胞数:3×10
6)を懸濁させることによって培養皿に細胞を播種した。この培養皿をCO
2インキュベータ内で入れ、37℃で二日間にわたって培養した。なお、培地として、10%ウシ胎児血清を含むD−MEM培地(DSファーマバイオメディカル社製Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(w/ NaHCO
3 w/o Glutamine)を使用した。
2.上記二日間の培養後に培地交換を行い、更に二日間にわたって37℃のCO
2インキュベータ内で培養を行った。なお、ここでも上記と同じ培地を使用した。
3.計約四日にわたる培養後、培養皿表面を顕微鏡観察したところ、培養皿全体に一様に細胞が接着していた。
4.培養皿の底面に接着している細胞をスクレーパで掻き取って回収した。具体的には、まず、浮上していたスクレーパを降下させた。その後、磁力でスクレーパを回転させることによって、スクレーパが備えるブレードで細胞を掻き取った。その後、スクレーパを再浮上させた状態で培養皿を傾け、懸濁液を回収した。
【0108】
(実施例2)
計約四日間にわたる培養及びその途中の培地交換を、スクレーパが降下した状態、すなわちブレードが培養皿の底面に接した状態で行ったことの他は実施例1と同様にしてRAW264.7細胞(細胞数:3×10
6)の培養及び回収を行った。培養後の培養皿表面を顕微鏡観察したところ、周辺と比べると極端に細胞密度が低い部分が観察された。培養皿の底面に接着した細胞をスクレーパで回収した。
【0109】
(実施例3)
懸濁液の回収をスクレーパが降下した状態、すなわちブレードが培養皿の底面に接した状態で行ったことの他は実施例1と同様にしてRAW264.7細胞(細胞数:3×10
6)の培養及び回収を行った。培養皿の底面に接着した細胞をスクレーパで掻き取り、懸濁液を回収した後に培養皿表面を顕微鏡観察したところ、残留した懸濁液及びその中に浮遊した多くの細胞が観察された。
【0110】
(比較例1)
永久磁石38,39に代えて、鉄板37上に1個の永久磁石のみを配置したことの他は実施例1と同様にしてRAW264.7細胞(細胞数:3×10
6)の培養及び回収を行った。培養皿の底面に接着した細胞をスクレーパで掻き取り、懸濁液を回収した後に培養皿表面を顕微鏡観察したところ、接着した多くの細胞が観察された。
【0111】
(比較結果)
実施例1により回収された細胞の数は2.2×10
8細胞であった。実施例2により回収された細胞の数は1.7×10
8細胞であった。実施例3により回収された細胞の数は1.8×10
8細胞であった。比較例1により回収された細胞の数は1.6×10
8細胞であった。
【0112】
実施例2で回収された細胞の数が実施例1よりも少ない主因は、実施例2では培養皿の底面にブレードが常に接した状態であったため、培地交換や、培養皿の移動の際にスクレーパの移動によって好ましくないタイミングで細胞がブレードによって掻き取られ、培地と共に捨てられたためと推察される。
【0113】
実施例3で回収された細胞の数が実施例1よりも少ない主因は、実施例3では懸濁液回収時に、ブレードにより一部の懸濁液が堰止められて容器中に残留したためと推察される。
【0114】
比較例1で回収された細胞の数が実施例1よりも少ない主因は、比較例1ではスクレーパに対する力の伝わりが不十分であったため、細胞の掻き残しが生じたためと推察される。
【0115】
<比較評価2>
以下に示す実施例4〜6と比較例2との比較を行った。
【0116】
(実施例4)
上記実施形態に係る培養装置1(培養器2及び駆動ユニット3)と同様の構成の装置を作製した。容器4の底面の直径は230mmである。従動アーム55,56のブレード52の長さが60mmである。
【0117】
平面視における引力発生部34と永久磁石53の位置関係を次のように設定した。位相ずれが生じていない状態で、永久磁石53は、従動回転体51の延伸方向に沿う。引力発生部34は、従動回転体51の延伸方向を基準にして、方向D1に5°傾く。
【0118】
上記実施形態に係る培養方法によって、容器4内でHela細胞を培養した。培養完了後に、容器4を駆動ユニット3上に設置し、駆動回転体33を1rpmで2回転させることで従動回転体51を約2回転させた。回転中に位相ずれの角度を測定し、回転後に細胞の剥離率を測定した。
細胞の剥離率は、次の式により算出される値である。
細胞の剥離率=(培養後の細胞数−スクレープ工程後の残存細胞数)/培養後の細胞数
【0119】
(実施例5)
培養装置1における引力発生部34と永久磁石53との位置関係を除き、実施例4と同様にHela細胞の培養、位相ずれの角度の測定、及び細胞の剥離率の測定を行った。平面視における引力発生部34と永久磁石53の位置関係を次のように設定した。位相ずれが生じていない状態で、引力発生部34は、従動回転体51の延伸方向に沿う。永久磁石53は、従動回転体51の延伸方向を基準にして、上記方向D2に5°傾く。
【0120】
(実施例6)
培養装置1における引力発生部34と永久磁石53との位置関係を除き、実施例4と同様にHela細胞の培養、位相ずれの角度の測定、及び細胞の剥離率の測定を行った。平面視における引力発生部34と永久磁石53の位置関係を次のように設定した。位相ずれが生じていない状態で、引力発生部34は、従動回転体51の延伸方向を基準にして、上記方向D1に2.5°傾く。永久磁石53は、従動回転体51の延伸方向を基準にして、上記方向D2に2.5°傾く。
【0121】
(比較例2)
培養装置1における引力発生部34と永久磁石53との位置関係を除き、実施例4と同様にHela細胞の培養、位相ずれの角度の測定、及び細胞の剥離率の測定を行った。平面視における引力発生部34と永久磁石53の位置関係を次のように設定した。位相ずれが生じていない状態で、引力発生部34及び永久磁石53は、共に従動回転体51の延伸方向に沿う。
【0122】
(比較結果)
実施例4における位相ずれの角度は約5.1°であった。実施例4による細胞の剥離率は98.3%であった。実施例5における位相ずれの角度は約5.4°であった。実施例5による細胞の剥離率は94.7%であった。実施例6における位相ずれの角度は約5.5°であった。実施例6による細胞の剥離率は95.8%であった。
【0123】
比較例2において、回転中の従動回転体51には遅れと急な追従とを繰り返す振動現象が発生した。従動回転体51の急な追従に際して、ブレード52のわずかな浮上が確認された。振動現象に伴う変動により、位相ずれの角度は測定不能であった。比較例2による細胞の剥離率は65%であった。
【0124】
以上の結果から、引力発生部34と永久磁石53との位置関係を調整することで、より確実にスクレーパを回転させ、細胞を十分に剥離させることができることが確認された。