特許第5969714号(P5969714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5969714射出成形、押出成形、又は引抜成形用の成形材料の集合体、炭素繊維強化熱可塑性樹脂ペレット、成形体、及び射出成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969714
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】射出成形、押出成形、又は引抜成形用の成形材料の集合体、炭素繊維強化熱可塑性樹脂ペレット、成形体、及び射出成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20160804BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160804BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20160804BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   C08J5/04CFG
   C08L101/00
   C08K7/06
   C08K9/04
【請求項の数】9
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-558835(P2015-558835)
(86)(22)【出願日】2015年1月19日
(86)【国際出願番号】JP2015051202
(87)【国際公開番号】WO2015111536
(87)【国際公開日】20150730
【審査請求日】2015年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-9516(P2014-9516)
(32)【優先日】2014年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115107
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151194
【弁理士】
【氏名又は名称】尾澤 俊之
(72)【発明者】
【氏名】三浦 香織
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 勝昭
【審査官】 福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−133378(JP,A)
【文献】 特開平07−156146(JP,A)
【文献】 特表2013−519762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08−15/14
C08J 5/04−5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長2mm以上の炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む、射出成形、押出成形、又は引抜成形用の成形材料の集合体であって、
前記炭素繊維がPAN系炭素繊維であり、
該成形材料が、
(1)平面Aと、それ以外の1つ以上の面Bとを有する立体であり、いずれかの面Bにおいて、前記炭素繊維の断面が1個以上観察され、面Bに観察される単位面積当たりの前記炭素繊維の断面数が、平面Aに観察される単位面積当たりの前記炭素繊維の断面数の2倍以上であり、平面Aと平行な面方向に、前記炭素繊維がランダムに分散し、
(2)50%以上の炭素繊維外周表面に、熱可塑性樹脂で被覆されている繊維の割合が、全炭素繊維に対して80〜100%であって、
該成形材料を分散パラメータが0〜10%となるまで溶融混練したとき、溶融混練された成形材料中に含まれる炭素繊維の重量平均繊維長が0.3mm以上であり、
成形材料の平面のうち、最大面積を有する平面の最小外接円の直径が8〜20mmである成形材料と、該最小外接円の直径が8mm未満の成形材料との重量割合が、30:70〜70:30である、成形材料の集合体。
【請求項2】
前記成形材料が、2次元ランダムに配向した板状の成形材料前駆体を切断して得られたものである、請求項1に記載の成形材料の集合体
【請求項3】
前記立体が平面Aに向かい合う平面Aを有する立体である請求項1または2に記載の成形材料の集合体
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の成形材料の集合体を単独、又は他の樹脂と溶融混練させて得られた、分散パラメータが0〜5%である射出成形、押出成形、又は引抜成形用の炭素繊維強化熱可塑性樹脂ペレット。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか1項に記載の成形材料の集合体を用いて成形した成形体。
【請求項6】
請求項1〜3いずれか1項に記載の成形材料の集合体である第1の成形材料と、任意の炭素繊維含有成形材料である第2の成形材料と、任意の熱可塑性樹脂である第3の成形材料とを用いて成形体を製造する方法であって、
該成形体に含まれる炭素繊維の重量平均繊維長が0.9mm以上であり、
第1の成形材料の投入体積をV1、第2の成形材料の投入体積をV2、第3の成形材料の投入体積をV3、第1の成形材料の繊維体積割合をVf1、第2の成形材料の繊維体積割合をVf2、成形体の繊維体積割合をVfpとしたとき、Vfp×(V1+V2+V3)/(V1×Vf1+V2×Vf2)が、0.8〜1.2である射出成形体の製造方法。
ただし、Vf1、Vf2、およびVfpは、それぞれ以下のように定義される。
Vf1=第1の成形材料に含まれる繊維体積/(第1の成形材料に含まれる繊維体積+第1の成形材料に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
Vf2=第2の成形材料に含まれる繊維体積/(第2の成形材料に含まれる繊維体積+第2の成形材料に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
Vfp=成形体に含まれる繊維体積/(成形体に含まれる繊維体積+成形体に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
【請求項7】
第2の成形材料を用いて、請求項6に記載の射出成形体を製造する方法であって、第2の成形材料に含まれる炭素繊維の平均繊維長が、2mm未満である請求項6に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の射出成形体の製造方法を用いて、連続して成形体を製造する方法であって、製造された各成形体の繊維体積割合(Vfp)のCV値が20%以下である射出成形体の製造方法。
【請求項9】
最大面積を有する平面の最小外接円の直径が8〜20mmである成形材料と、該最小外接円の直径が8mm未満の成形材料との重量割合が、45:55〜60:40である、請求項1に記載の成形材料の集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む、一定の立体形状を有した炭素繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形材料であって、射出成形、押出成形、引抜成形に用いる成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維強化樹脂複合材料の1つとして、例えば、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が、高速成形性の観点から提案されている。例えば、特許文献1には、射出成形用材料として、長さ1〜50mm(本明細書では、例えば、「1〜50」の表記は、1及び50を含むものとする)の強化繊維を含む熱可塑性樹脂含浸強化繊維テープを強化繊維の配向方向に沿って曲折して束ねた長繊維ペレットが提案されている。特許文献1には、この長繊維ペレットは射出成形機で混練される際に簡単に分解されて柔軟性が高く、射出成形中に強化繊維は折れ難いために、得られた成形体における繊維長を長く保つことができ、成形体は高強度・高剛性であることが記載されている。
また、特許文献2には、スタンピング成形用シートを成形する際に生ずる裁断片を用いて、ガラス繊維強化プラスチック再生成形品を製造する方法の記載がある。
特許文献3では、カーボン繊維マットに第1の熱可塑性樹脂を含浸させた後、粉砕又は切断して得られた粉粒体と第2の熱可塑性樹脂とを混合して溶融成形した雨樋用の基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特開2007−254566号公報
【特許文献2】日本国特開平5−116228号公報
【特許文献3】日本国特開2002−349024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の長繊維ペレットは、強化繊維の束に熱可塑性樹脂を含浸した熱可塑性樹脂含浸強化繊維テープを束ねて融着し繊維の配向方向に垂直に所定長さに切断しているが、炭素繊維への樹脂の被覆が少なく、成形後の機械強度が低いものであった。そのため、十分な機械物性を安定して得ることが難しく、高い機械強度を有する成形体を得ることが困難であった。
特許文献2に記載の裁断片では、ガラス繊維がほとんど熱可塑性樹脂に被覆されておらず、成形時に繊維が分散せず成形品の外観が不良となる、又は、分散を良好にするため可塑化条件を厳しくすると繊維が折損して短くなり、強度が低下するという問題がある。また、強化繊維がガラス繊維であるため、炭素繊維のように単糸が細くなく、射出成形、押出し成形、又は引抜成形する際、混練時に、繊維同士が絡み合って凝集するために、成形品中の繊維割合がショット間で安定しないという炭素繊維特有の問題は発生していなかった。
特許文献3に記載の基材を射出成形、押出成形、又は引抜成形すると、カーボン繊維に対する熱可塑性樹脂の被覆率が低いため、先述のように分散不良の発生による外観不良、又は外観向上のため繊維が短くなることによる強度低下という問題がある。
【0005】
本発明の目的とするところは、炭素繊維への熱可塑性樹脂の被覆が十分であり、外観が良好で、高い機械強度の成形体を製造することができる炭素繊維強化熱可塑性樹脂からなる射出成形、押出成形、又は引抜成形用の成形材料、炭素繊維強化熱可塑性樹脂ペレット、及び当該成形材料を使用した繊維強化熱可塑性樹脂複合材料成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の成形材料は、上記目的を達成するために次の構成を有する。すなわち、
<1>
繊維長2mm以上の炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む、射出成形、押出成形、又は引抜成形用の成形材料の集合体であって、
前記炭素繊維がPAN系炭素繊維であり、
該成形材料が、
(1)平面Aと、それ以外の1つ以上の面Bとを有する立体であり、いずれかの面Bにおいて、前記炭素繊維の断面が1個以上観察され、面Bに観察される単位面積当たりの前記炭素繊維の断面数が、平面Aに観察される単位面積当たりの前記炭素繊維の断面数の2倍以上であり、平面Aと平行な面方向に、前記炭素繊維がランダムに分散し、
(2)50%以上の炭素繊維外周表面に、熱可塑性樹脂で被覆されている繊維の割合が、全炭素繊維に対して80〜100%であって、
該成形材料を分散パラメータが0〜10%となるまで溶融混練したとき、溶融混練された成形材料中に含まれる炭素繊維の重量平均繊維長が0.3mm以上であり、
成形材料の平面のうち、最大面積を有する平面の最小外接円の直径が8〜20mmである成形材料と、該最小外接円の直径が8mm未満の成形材料との重量割合が、30:70〜70:30である、成形材料の集合体。
<2>
前記成形材料が、2次元ランダムに配向した板状の成形材料前駆体を切断して得られたものである、<1>に記載の成形材料の集合体
<3>
前記立体が平面Aに向かい合う平面Aを有する立体である<1>または<2>に記載の成形材料の集合体
<4>
<1>〜<3>いずれか1項に記載の成形材料の集合体を単独、又は他の樹脂と溶融混練させて得られた、分散パラメータが0〜5%である射出成形、押出成形、又は引抜成形用の炭素繊維強化熱可塑性樹脂ペレット。
<5>
<1>〜<3>いずれか1項に記載の成形材料の集合体を用いて成形した成形体。
<6>
<1>〜<3>いずれか1項に記載の成形材料の集合体である第1の成形材料と、任意の炭素繊維含有成形材料である第2の成形材料と、任意の熱可塑性樹脂である第3の成形材料とを用いて成形体を製造する方法であって、
該成形体に含まれる炭素繊維の重量平均繊維長が0.9mm以上であり、
第1の成形材料の投入体積をV1、第2の成形材料の投入体積をV2、第3の成形材料の投入体積をV3、第1の成形材料の繊維体積割合をVf1、第2の成形材料の繊維体積割合をVf2、成形体の繊維体積割合をVfpとしたとき、Vfp×(V1+V2+V3)/(V1×Vf1+V2×Vf2)が、0.8〜1.2である射出成形体の製造方法。
ただし、Vf1、Vf2、およびVfpは、それぞれ以下のように定義される。
Vf1=第1の成形材料に含まれる繊維体積/(第1の成形材料に含まれる繊維体積+第1の成形材料に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
Vf2=第2の成形材料に含まれる繊維体積/(第2の成形材料に含まれる繊維体積+第2の成形材料に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
Vfp=成形体に含まれる繊維体積/(成形体に含まれる繊維体積+成形体に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
<7>
第2の成形材料を用いて、<6に記載の射出成形体を製造する方法であって、第2の成形材料に含まれる炭素繊維の平均繊維長が、2mm未満である<6>に記載の射出成形体の製造方法。
<8>
<6>または<7>に記載の射出成形体の製造方法を用いて、連続して成形体を製造する方法であって、製造された各成形体の繊維体積割合(Vfp)のCV値が20%以下である射出成形体の製造方法。
<9>
最大面積を有する平面の最小外接円の直径が8〜20mmである成形材料と、該最小外接円の直径が8mm未満の成形材料との重量割合が、45:55〜60:40である、<1>に記載の成形材料の集合体。
なお、本発明は上記<1>〜<>に関するものであるが、参考のためその他の事項(たとえば下記1.〜10.に記載した事項など)についても記載した。
1.
繊維長2mm以上の炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む、射出成形、押出成形、又は引抜成形用の成形材料であって、該成形材料が、
(1)平面Aと、それ以外の1つ以上の面Bとを有する立体であり、いずれかの面Bにおいて、前記炭素繊維の断面が1個以上観察され、面Bに観察される単位面積当たりの前記炭素繊維の断面数が、平面Aに観察される単位面積当たりの前記炭素繊維の断面数の2倍以上であり、
(2)50%以上の炭素繊維外周表面に、熱可塑性樹脂で被覆されている繊維の割合が、全炭素繊維に対して80〜100%である成形材料。
2.
前記立体が平面Aに向かい合う平面Aを有する立体である
上記1に記載の成形材料。
3.
上記1または2に記載の成形材料を、分散パラメータが0〜10%となるまで溶融混練したとき、溶融混練された成形材料中に含まれる炭素繊維の重量平均繊維長が0.3mm以上である成形材料。
4.
上記1〜3いずれか1項に記載の成形材料を単独、又は他の樹脂と溶融混練させて得られた、分散パラメータが0〜5%である射出成形、押出成形、又は引抜成形用の炭素繊維強化熱可塑性樹脂ペレット。
5.
上記1〜3いずれか1項に記載の成形材料を用いて成形した成形体。
6.
上記1〜3いずれか1項に記載の成形材料である第1の成形材料と、任意の炭素繊維含有成形材料である第2の成形材料と、任意の熱可塑性樹脂である第3の成形材料とを用いて成形体を製造する方法であって、
第1の成形材料の投入体積をV1、第2の成形材料の投入体積をV2、第3の成形材料の投入体積をV3、第1の成形材料の繊維体積割合をVf1、第2の成形材料の繊維体積割合をVf2、成形体の繊維体積割合をVfpとしたとき、Vfp×(V1+V2+V3)/(V1×Vf1+V2×Vf2)が、0.8〜1.2である射出成形体の製造方法。
ただし、Vf1、Vf2、およびVfpは、それぞれ以下のように定義される。
Vf1=第1の成形材料に含まれる繊維体積/(第1の成形材料に含まれる繊維体積+第1の成形材料に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
Vf2=第2の成形材料に含まれる繊維体積/(第2の成形材料に含まれる繊維体積+第2の成形材料に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
Vfp=成形体に含まれる繊維体積/(成形体に含まれる繊維体積+成形体に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
7.
第2の成形材料に含まれる炭素繊維の平均繊維長が、2mm未満である上記6に記載の射出成形体の製造方法。
8.
上記6または7に記載の射出成形体の製造方法を用いて、連続して成形体を製造する方法であって、製造された各成形体の繊維体積割合(Vfp)のCV値が20%以下である射出成形体の製造方法。
9.
上記6〜8いずれか1項に記載の製造方法を用いて得られた射出成形体。
10.
上記1〜3いずれか1項に記載の成形材料であって、平面Aに平行な面方向に、炭素繊維がランダムに分散している成形材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明の成形材料は、炭素繊維への樹脂の被覆が十分であるため、外観が良好で、高い機械強度の成形体を製造することができる。すなわち、本発明の成形材料を用いて繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を射出成形、押出成形、又は引抜成形する場合、既に炭素繊維が熱可塑性樹脂に十分に被覆されているため、穏やかな可塑化条件で成形しても、炭素繊維長が長いまま繊維が分散しやすく、表面外観と機械物性に優れた成形体を得ることができる。
また、本発明における成形材料に含まれる炭素繊維は、繊維が一方向に配列しているような従来型の芯鞘型長繊維ペレットとは異なり、炭素繊維が熱可塑性樹脂で十分に被覆されており、熱可塑性樹脂と炭素繊維の密着性が高い。このため、本発明の成形材料を用いて溶融混練した場合、混練中に炭素繊維が熱可塑性樹脂から抜けにくく(炭素繊維の供給状態が優れる)、連続して成形した場合、成形体に含まれる繊維体積割合(Vf)が安定するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る成形材料100を平面A側から見た概略図である。
図2】一方向繊維強化複合材料の製造工程を示す概略図である。
図3】実施の形態の成形材料100の製造に用いる粉砕機の構造を示す概略図である。
図4】実施の形態の成形材料100を用いる射出成形機の構造を示す概略断面図である。
図5】実施の形態に係る成形材料100の形状の概念図である。
図6】実施例に係る成形材料及び比較成形材料の形状を示した模式図である。
図7】従来の芯鞘型の成形材料を示した模式図である。
図8】成形材料100の最小外接円を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様に係る実施の形態を構成する各構成要素について説明する。
【0010】
<各構成要素>
図1は、実施の形態に係る成形材料100を面A1側から見た概略図である。図1に示すように、成形材料100はマトリックス樹脂として用いた熱可塑性樹脂110に、各種繊維長からなる炭素繊維120の単繊維121及び繊維束122が混合されてなる構造をなしている。
【0011】
1.炭素繊維
(1)材質
炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油・石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。
なかでも、本発明においては引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は100GPa〜600GPaの範囲内であることが好ましく、200GPa〜500GPaの範囲内であることがより好ましく、230〜450GPaの範囲内であることがさらに好ましい。また、引張強度は2000MPa〜10000MPaの範囲内であることが好ましく、3000MPa〜8000MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0012】
(2)繊維長
本発明における炭素繊維は、繊維長が2mm以上の炭素繊維を含んでいれば良く、繊維長が2mm未満の炭素繊維を別途含んでいても良い。繊維長が2mm以上の炭素繊維を含んでいることで、溶融混練後の繊維長を長く保つことができる。繊維長の上限についての限定は特に無いが、製造上の観点より、20mm以下が好ましく、15mm以下であればより好ましい。
本発明においては繊維長が互いに異なる炭素繊維を併用してもよく、成形材料100に含まれる炭素繊維は、繊維長の分布において単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
【0013】
本発明の成形材料に含まれる炭素繊維の重量平均繊維長は、0.3〜20mmが好ましく、強度と流動性に優れ、製造が容易になるといった観点から、好ましい重量平均繊維長の上限は15mm以下であり、10mm以下がより好ましい。好ましい重量平均繊維長の下限は0.3mm以上であり、1mm以上がより好ましい。重量平均繊維長は2mm以下となる場合は、本発明の成形材料において、繊維長が2mm以下の炭素繊維を併用した場合である。また、重量平均繊維長は、個々の繊維長をLi(mm)とし、次式に基づき求める。
重量平均繊維長(mm)=(ΣLi)/(ΣLi)
【0014】
(3)繊維径
本発明に用いられる炭素繊維の繊維径は、炭素繊維の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。平均繊維径は、通常、3μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、4μm〜12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm〜8μmの範囲内であることがさらに好ましい。炭素繊維の平均繊維径は、例えば、JIS R−7607に記載された方法によって測定することができる。
【0015】
(4)被覆率
本発明における炭素繊維は、50%以上の炭素繊維外周表面に、熱可塑性樹脂で被覆されている繊維の割合が、全炭素繊維に対して80〜100%存在する。
ここで、炭素繊維が、複数の単糸を含む束である場合には、束に含まれるそれぞれの単糸について考えるものとし、束の中で外周表面の50%以上が熱可塑性樹脂で被覆されている単糸の数が、全炭素繊維の数に対して80〜100%であることを指す。
被覆率の測定方法としては、断面積が10(mm)×t(100〜250)(μm)の成形材料の試験体において、所定の拡大倍率(本実施形態では800倍)で断面を観察したとき、当該観察断面内に存在する全炭素繊維のうち、各炭素繊維糸の外周表面50%以上(好ましくは80%、より好ましくは90%以上)が熱可塑性樹脂で被覆されている炭素繊維の割合(被覆率)でみることができる。なお、前記tは厚みを表す。
より詳細には、最初に、蛍光染料を混ぜたエポキシ樹脂を準備する。成形材料の試験体を、染色したエポキシ樹脂浴に完全に浸し、樹脂浴ごと減圧して脱泡し、未含浸部分に染色したエポキシ樹脂を含浸させる。その後、未含浸部分に染色したエポキシ樹脂が含浸した後、硬化させて、断面を削り出して研磨し、観察面を作成する。これを顕微鏡で観察すると、マトリックス樹脂の色と、染色したエポキシ樹脂のコントラスが異なるため、染色したエポキシ樹脂を観察することで、繊維の被覆率を測定できる。
炭素繊維を熱可塑性樹脂で含浸させた複合材料を切断することにより、マトリクス樹脂である熱可塑性樹脂が炭素繊維に被覆した本発明の成形材料を、容易に製造することができる。
なお、炭素繊維にサイジング剤やバインダーを付着させた後、熱可塑性樹脂で炭素繊維を含浸する場合は、厳密にはサイジング剤やバインダーの上に熱可塑性樹脂が被覆される場合がある。これらの場合は、炭素繊維外周表面に、熱可塑性樹脂が被覆されたものとみなす。
【0016】
(5)サイジング剤
本発明においては、サイジング剤が付着している炭素繊維を用いてもよい。
サイジング剤が付着している炭素繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、炭素繊維及び熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
【0017】
(6)繊維体積割合
本発明における成形材料の繊維体積割合(Vf)に特に限定は無いが、成形材料全体に対して、10〜60%であれば好ましく、20〜50%であればより好ましく、25〜40%であればより一層好ましい。繊維体積割合(Vf)が20%以上とすると成形体の機械物性が特に向上し、40%以下であれば、成形材料の製造が特に容易になる。
【0018】
2.熱可塑性樹脂
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、成形材料の用途等に応じて所望の軟化点又は融点を有するものを適宜選択して用いることができる。
上記熱可塑性樹脂としては、通常、軟化点が180℃〜350℃の範囲内のものが用いられるが、これに限定されるものではない。上記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等を挙げることができる。
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等を挙げることができる。
上記ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等を挙げることができる。
上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)等を挙げることができる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル等を挙げることができる。
上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートを挙げることができる。
上記ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル等を挙げることができる。
上記ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等を挙げることができる。
上記ポリスルホン樹脂としては、例えば、変性ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を挙げることができる。
上記ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂等を挙げることができる。
上記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化点又は融点が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
【0019】
3.他の剤
本発明の目的を損なわない範囲で、成形材料には、非繊維状フィラー、難燃剤、耐UV剤、顔料、離型剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。特に、成形体を製造する場合、マトリックス成分である熱可塑性樹脂の融点またはガラス転移点以上の温度に加熱するため、予め、酸化防止剤や熱安定剤を含む成形材料であると好ましい。
【0020】
<成形材料の形態>
本発明において、成形材料は平面Aと、それ以外の1つ以上の面Bとを有する立体であり、いずれかの面Bにおいて、炭素繊維の断面が1個以上観察され、面Bに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数が、面Aに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数の2倍以上である。
【0021】
1.「平面Aと、それ以外の1つ以上の面Bとを有する立体」
ここでいう「平面」とは、際立った凹凸面を有しないものであり、目視で平面と判断できるものであれば良い。「平面A」とは、立体の外表面を構成する任意の平面をさす。「それ以外の1つ以上の面B」とは、閉じている立体を形成するための面A以外の任意の面を指し、面Bは1つ以上あれば良い。成形材料の製造上の観点から、成形材料は4つ以上の面Bを有する事が好ましい。
【0022】
本発明の「立体」とは、平面A、それ以外の1つ以上の面Bとを有するものであれば、形状を問わない。図5は、成形材料100の形状の概念図である。例えば、図5(a)、(b)、(c)に示すような直方体、円柱、板状、円錐状、又は不定形の立体などが挙げられる。
【0023】
本発明における立体は、平面Aに向かい合う平面Aを有するのが好ましい。「向かい合う平面Aおよび平面A」とは、平面Aおよび平面Aとが平行面であっても非平行面であっても良いが、成形材料を容易に製造する観点からは平行面であることが好ましい。「向かい合う」とは、2つの平面のなす角度が、60度以下であれば良い。より好ましくは、向かい合う平面Aおよび平面Aのなす角度は、45度以下が好ましく、より好ましくは、30度以下であり、20度以下がより一層好ましい。
【0024】
2.「いずれかの面Bにおいて、炭素繊維の断面が1個以上観察」
本発明における面Bは、いずれかの面Bにおいて、繊維長2mm以上である炭素繊維の断面が1個以上観察される。成形材料を製造する観点より、いずれかの面Bにおいて、炭素繊維の断面数は、製造上の観点より、1mm当たり、100個以上観察されることが好ましく、より好ましくは300個以上であり、更に好ましくは700個以上である。また、いずれかの面Biに限らず、全ての面Bにおいて、炭素繊維の断面が1個以上観察されている事が、製造上の観点より好ましい。
観察される炭素繊維の断面形状は、炭素繊維の繊維方向に垂直に切断したときに現れる断面がそのまま観察されても良いし、繊維方向に斜め方向に切られた断面形状であっても良い。したがって、面Bに観察される炭素繊維の断面は、炭素繊維の断面形状と関係なく、真円であっても、楕円であっても良い。
【0025】
3.「面Bに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数が、平面Aに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数の2倍以上である。」
本発明における面Bに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数は、面Aに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数の2倍以上である。これは、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料として、2次元ランダム材や、一方向材は市中に大量に出回る可能性が高いため、成形材料に含まれる炭素繊維が2次元方向にランダム、又は1軸配向している事が、原料の入手上好ましいためである。
「単位面積当たりに観察される炭素繊維の断面の数」とは、光学顕微鏡で観察し、無作為に0.1mm×0.1mmの範囲を10カ所選び出し、その範囲内に含まれる炭素繊維の断面の数を測定し、この数をそれぞれ観察視野の面積で除し、平均することで求められる。
このような形態の炭素繊維は、成形材料中で繊維の長軸方向が一方向に配列した一方向配列や、上記長軸方向が複合材料の面内方向においてランダムに配列した2次元ランダム配列していることを意味する。後述するが、本発明における成形材料は、2次元ランダム又は一方向に配向した板状の成形材料前駆体を、板状前駆体の板表面及び/又は裏面を残して切断して得られるため、面Biに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数が、平面Aに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数の2倍以上、通常100倍以上になる平面A及び面Bの組合せが存在する。例えば、本実施の形態では380〜650倍の範囲に分布する。すなわち面Bに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数は、切断前の板状の成形材料前駆体に含まれる炭素繊維含有量よって決まる。
【0026】
一方、平面Aに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数は、炭素繊維が完全に2次元配向又は1次元配向された成形材料前駆体を用いれば、零となる。平面Aに観察される炭素繊維の断面数が零の場合、面Bに観察される炭素繊維の断面数は、平面Aに観察される炭素繊維の断面数の無限大倍となる。
【0027】
本発明の成形材料は、本発明の効果を奏する範囲内において、繊維長2mm未満の炭素繊維を含んでいてもよい。
【0028】
これに対して、炭素繊維と熱可塑性樹脂を含む組成物を押出成形で製造したペレットは通常円柱形状であることが多いが、平面A、平面Aにあたる円柱の上底面には炭素繊維の断面が多く観察されるが、面Bにあたる円柱の側面に観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面はほとんどない。このため、面Bに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数が、平面Aに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数の2倍以上にはならない。
【0029】
図7は、従来の芯鞘型の成形材料を示した模式図である。公知技術である図7に示す円柱状の芯鞘型の炭素繊維ペレットは、通常1000〜100000本程度の単糸から構成される炭素繊維束を芯部とし、熱可塑性樹脂を鞘部としてなるため、50%以上の炭素繊維外周表面に、熱可塑性樹脂で被覆されている繊維の割合が、全炭素繊維に対して80%未満である。そのため、繊維に樹脂を含浸させるときに強いせん断力が必要となり、成形時に繊維長が短くなってしまう。
【0030】
4.平面Aと、それ以外の1つ以上の面Bとの関係
本発明において、平面Aと、それ以外の1つ以上の面Bとは、立体の外表面を構成する任意の平面Aと、それ以外の1つ以上の面Bであればよい。平面A及び面Bの組合せは複数存在し、本発明で定義される平面Aと面Bの関係を1カ所以上で満たす平面A及び面Bの組合せを立体が有していればよい。
【0031】
<成形材料の集合体>
本発明における成形材料は、好ましくは集合体として用いられる。集合体のうち、下記条件(3)を満たす成形材料と、下記条件(3)を満たさずに下記条件(4)を満たす成形材料との割合が1:99〜99:1であれば好ましく、20:80〜80:20であればより好ましく、40:60〜80:20であれば更に好ましい。
条件(3) 50%以上の炭素繊維外周表面に、熱可塑性樹脂で被覆されている繊維の割合が、全炭素繊維に対して80〜100%である。
条件(4) 50%以上の炭素繊維外周表面に、熱可塑性樹脂で被覆されている繊維の割合が、全炭素繊維に対して80%未満である。
【0032】
<集合体を構成する各成形材料の大きさ>
集合体を構成する各成形材料の大きさに特に限定は無いが、好ましくは前記成形材料の平面のうち、最大面積を有する平面の最小外接円の直径が8〜20mmである成形材料と、該最小外接円の直径が8mm未満の成形材料との重量割合が、30:70〜70:30であるとよく、より好ましくは45:55〜60:40である。図8は、成形材料100の最小外接円を示した模式図である。ここで、立体面のうち、最大面積を有する平面の最小外接円とは、図8に示すように、成形材料の最大面積を有する面の最小外接円をさす。
本発明に用いられる成形材料が板状の場合、板厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.01mm〜100mmの範囲内が好ましく、0.01mm〜3mmの範囲内が好ましく、0.1〜1.5mmの範囲内がより好ましい。
【0033】
<分散パラメータ>
本発明における成形材料は、分散パラメータが0〜10%となるまで、前記成形材料を溶融混練したときの溶融混練された成形材料(樹脂組成物とも呼ぶ)中に、重量平均繊維長0.3mm以上の炭素繊維が含まれる事が好ましい。
ここでいう「分散パラメータ」とは、繊維強化熱可塑性樹脂組成物に含まれる炭素繊維の重量含有率のバラツキを表す指標であり、本発明では繊維強化熱可塑性樹脂組成物である成形材料の切断面における炭素繊維本数のバラツキを測定した値として表す。分散パラメータの測定方法は、溶融混練後の成形材料(繊維強化熱可塑性樹脂組成物)から一部を切り出し、その切断面を研磨し、光学顕微鏡で観察し、無作為に0.1mm×0.1mmの範囲を10カ所選び出し、その範囲内に含まれる炭素繊維の本数を測定する手順からなる。選び出した10カ所の炭素繊維の本数の平均値をA、標準偏差をSとし、次式により分散パラメータを求める。
分散パラメータ=100×S/A (単位:%)
本発明における成形材料は、後述するように、例えば予め成形材料前駆体をプレスして含浸度を高くした後に利用するため、分散パラメータを0〜10%となるまで溶融混練しても、比較的長い繊維長の炭素繊維を残存できる。
より好ましい態様としては機械物性確保という観点から、分散パラメータが0〜10%となるまで成形材料を溶融混練させ、得られた成形材料の溶融物について繊維長を測定した際に、重量平均繊維長が0.3mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましく、1.0mm以上であることがさらに好ましい。
【0034】
<熱可塑性樹脂ペレット>
また、本発明では、前記成形材料を単独、又は他の樹脂や添加剤を追加して溶融混練させて得られた炭素繊維強化熱可塑性樹脂ペレットとして、前記で定義した分散パラメータが0〜5%であるものを、射出成形、押出成形、又は引抜成形用に利用することができる。
【0035】
<成形材料の製造方法>
1.概要
50%以上の炭素繊維外周表面に、熱可塑性樹脂で被覆されている繊維の割合が、全炭素繊維に対して80〜100%である被覆率が高い成形材料を製造する方法であればよく特に限定は無い。例えば成形材料前駆体を準備し、これをプレスすることにより熱可塑性樹脂を炭素繊維に含浸させる方法であってもよい。
成形材料前駆体は特に限定されるものではなく、例えば特開2011−178890号公報や特開2011−178891号公報に記載の炭素繊維を10〜70wt%含んだ複合材料や、一方向性炭素繊維強化複合材料と組合せた、特開2011−241338号公報に記載ものなど、種々の材料を用いることもできる。
以下にその一例を示す。
【0036】
2.成形材料の製造原料である成形材料前駆体の製造方法
(1)ランダムマット成形体の製造方法
本実施の形態の成形材料100の集合体の製造原料である成形材料前駆体には、「ランダムマット」と呼ばれる、複数本の所定長さのランダムに配向した炭素繊維からなる炭素繊維束と熱可塑性樹脂からなる樹脂片とが互いに接合することなく混在する状態のものを用いることができる。
「ランダムマット成形体」とは、ランダムマット中の一部又は全部の樹脂片が溶融して炭素繊維束と接合したものをいう。
【0037】
以下、ランダムマット成形体を好ましく得る方法の一例について述べる。ランダムマット成形体は、例えば、特開2013−49208号公報等に記載の、以下の工程1〜5によって好ましく製造することができる。ランダムマット成形体の製造工程は以下の工程からなる。
1.クリール部から炭素繊維を供出し拡幅装置によって拡幅した後、糸導ガイド及び縦スリット装置を通して開繊し炭素繊維束を形成する工程。
2.炭素繊維束をカットし、カットされた炭素繊維束(以下、「繊維束片」とする。)を切断・開繊装置の管体内に導入し、空気を繊維束片に吹き付けることにより、繊維束片をある程度バラバラに開繊させる切断・開繊工程。
3.開繊工程を終えた繊維束片を拡散させながら、樹脂供給部から供給された繊維状又はパウダー状の熱可塑性樹脂とともに、吸引装置にて吸引しながら通気性支持体上に散布する散布工程。
4.散布された炭素繊維束および熱可塑性樹脂を予熱装置により加熱して定着させ、ランダムマットを得る定着工程。
5.得られたランダムマットをプレス成形して、ランダムマット成形体を得るプレス工程。
以上の工程により、繊維の長軸方向が複合材料の面内方向においてランダムに配列した板状のランダムマット成形体が得られる。
【0038】
(2)一方向繊維強化複合材料の製造方法
「一方向繊維強化複合材料」とは、一方向に連続した長繊維と熱可塑性樹脂とが混合された構造を有する繊維強化樹脂複合材料である。この一方向繊維強化複合材料は、例えば、特開2007−254566号公報等に記載の、製造方法によって好ましく製造することができる。図2は、一方向繊維強化複合材料の製造工程を示す概略図である。図2において、22は一方向繊維強化複合材料の製造装置である。26は、ほぼ直方体の溶融樹脂含浸装置で、下面が開放された筺状の上型部34と上面が開放された筺状の下型部38とからなり、上型部34と下型部38とを互いに嵌合することにより、その内部に空間部36を形成している。28は溶融熱可塑性樹脂供給用の樹脂供給経路である。上型部34の下流側端部には、ローラからなるノズル上部部材40が固定されている。下型部38の下流側端部には、ローラからなるノズル下部部材46が固定されている。ノズル上部部材40及びノズル下部部材46は何れも溶融樹脂含浸装置26内の温度から樹脂の融点付近の温度に加熱されている。また。その直ぐ下流に、20℃前後の温度にされた冷却ローラ74、76が設けられている。
この製造装置22において、炭素繊維束24は12000本以上、好ましくは12000〜50000本の単繊維からなる繊維束の形態で上流側スリットノズル30から樹脂含浸装置空間部36に供給される。樹脂含浸装置空間部36を走行中の炭素繊維束24は、しごきバー材64a、64bに押圧されてジグザグに走行しながら開繊されると共に溶融熱可塑性樹脂が含浸せしめられる。溶融熱可塑性樹脂で含浸された炭素繊維束24は、下流側スリットノズル32に通され、幅広薄肉テ−プの形態で矢印X方向に引き出される。以上により、12000本以上の互いに平行に配向した強化繊維からなり、テ−プ幅が10mm以上、テ−プ厚さが200μm以下である一方向繊維強化複合材料(U)が得られる。
【0039】
3.成形材料の製造方法
図3は、実施の形態の成形材料100の製造に用いる切断機200の構造を示す概略図である。切断機200は市販のプラスチック切断機である。ランダムマット成形体と一方向繊維強化複合材料Uの破材、廃材、製造廃材などの複合材料破材101を切断機200に供給して切断する。
切断機200の切断刃寸法、切断刃間隔、粉砕時間、回転数を適宜変更して切断片の容積分布を測定することにより、切断片102の容積が上記成形材料の好ましい大きさに入る条件に調整することができる。さらに、切断片102をフィルター210に通し、一定粒度以下の切断片を成形材料100として回収する。フィルター210を通過しない切断片102は再度、切断機200に供給して切断を行う。このように、フィルター210の開口面積を調整することにより、本実施の形態に係る成形材料を得る事が出来る。成形材料の集合体について、前記成形材料の平面のうち、最大面積を有する平面の最小外接円の直径が8〜20mmである成形材料と、該最小外接円の直径が8mm未満の成形材料との重量割合が、上述の範囲に調整することができる。
【0040】
<成形方法>
本発明の成形方法は、射出成形、押出成形、または引抜成形に関するものである。これらの成形方法は、成形までに混練過程が存在し、樹脂を炭素繊維に含浸させる工程がある。本発明による成形材料を用いれば、混練過程において低いせん断力であっても樹脂が含浸するため、射出成形、押出成形、または引抜成形しても繊維長を長く残存させることができる。
【0041】
<成形材料を含む集合体を用いて製造した成形体>
以下、上記成形材料の製造方法で得られた成形材料の集合体を加熱して熱可塑性樹脂を溶融させると共に、混練した混練物を射出成形型に射出して成形する例を説明する。
図4は、本実施の形態の成形材料100を用いる射出成形機の構造を示す概略断面図である。射出成形機としては、図4に示すような公知のものを用いることができる。
【0042】
図4中、302は射出成形機であり、スクリュー本体304と、加熱シリンダー306とからなる。スクリュー本体304には、成形材料100の集合体が供給されるホッパー310側(上流側)から金型312側(下流側)に向かってフライト314a、314b、314c、…、314k、314l、…、314r、314s、314tが形成され、各フライト間は、スクリュー溝316a、316b、…、316k、…、316r、316sが形成されている。
スクリュー本体304の下流側には小径部318を間に置いてスクリューヘッド320が形成されている。小径部318の向かいの加熱シリンダー306にはチェックリング322が形成されている。
金型312は前型324と後型326とからなり、ゲート328から供給される成形材料100の集合体の混練物は、前型と後型との間隙330に導入され、ここで成形体が得られる。
ホッパー310から供給された成形材料100の集合体は、加熱シリンダー306内で外部からの加熱溶融作用と材料自身のせん断発熱、およびスクリュー本体304の回転に伴う混練作用により均一に溶融する。こうして得られる混練物は、チェックリング322を通って金型312に送り込まれる。
このとき、剪断流動により樹脂を混練し、炭素繊維に熱可塑性樹脂が十分に含浸させることが必要である。従来、この剪断流動の際の剪断力によって繊維が折損され易く、得られる繊維強化熱可塑性樹脂複合材料成形体中の炭素繊維の繊維長が短くなり、成形体の機械的特性が低下するおそれがあった。
【0043】
これに対し、本実施の形態の成形材料100の集合体では、前述のとおり成形材料100の集合体の製造原料であるランダムマット成形体や一方向繊維強化複合材料の製造工程において炭素繊維は熱可塑性樹脂で十分に被覆されている。このため、スクリュー本体304における剪断流動の際に低い剪断力によって熱可塑性樹脂を混練させた場合でも、十分に炭素繊維が熱可塑性樹脂に分散した外観の良い成形体を得ることができ、かつ成形体中の炭素繊維の繊維長を長く残せるため、機械的特性も高く保つことができる。
【0044】
<射出成形体の製造方法>
本発明の射出成形体の製造方法は、
本発明における成形材料である第1の成形材料と、任意の炭素繊維含有成形材料である第2の成形材料と、任意の熱可塑性樹脂である第3の成形材料とを用いて成形体を製造する方法であって、
第1の成形材料の投入体積をV1、第2の成形材料の投入体積をV2、第3の成形材料の投入体積をV3、第1の成形材料の繊維体積割合をVf1、第2の成形材料の繊維体積割合をVf2、成形体の繊維体積割合をVfpとしたとき、Vfp×(V1+V2+V3)/(V1×Vf1+V2×Vf2)が、0.8〜1.2である射出成形体の製造方法である。
ただし、Vf1、Vf2、およびVfpは、それぞれ以下のように定義される。
Vf1=第1の成形材料に含まれる繊維体積/(第1の成形材料に含まれる繊維体積+第1の成形材料に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
Vf2=第2の成形材料に含まれる繊維体積/(第2の成形材料に含まれる繊維体積+第2の成形材料に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
Vfp=成形体に含まれる繊維体積/(成形体に含まれる繊維体積+成形体に含まれる熱可塑性樹脂の体積)
【0045】
第1の成形材料の繊維体積割合Vf1、第2の成形材料の繊維体積割合Vf2、成形体の繊維体積割合Vfpとの関係Vfp×(V1+V2+V3)/(V1×Vf1+V2×Vf2)が、0.8〜1.2を満たすことは、すなわち、成形体の繊維体積割合が、成形材料の繊維体積割合とほぼ等しくなることを意味する。従来、比較的繊維長が長い炭素繊維を含有する成形材料を用いた場合には、成形体の繊維体積割合が不安定となりやすいが、本発明の成形材料を用いた場合、成形体の繊維体積割合が成形材料の繊維体積割合とほぼ等しいため、所望の繊維体積割合を有する成形体が安定して得られる。
【0046】
<第2の成形材料>
上記第2の成形材料は任意であるため、本発明の射出成形体の製造方法においては第2の成形材料を用いてもよいし、用いなくてもよい。
上記第2の成形材料に含まれる炭素繊維の平均繊維長に特に限定は無いが、好ましくは2mm未満、より好ましくは1mm未満、更に好ましくは0.5mm未満である。
上記第2の成形材料に含まれる熱可塑性樹脂は特に限定は無く、具体例及び好ましい範囲は第1の成形材料の熱可塑性樹脂と同様である。
第2の成形材料の製造方法に特に限定は無く、第1の成形材料をさらに細かく粉砕したものであれば、追加の設備・技術が少なくて良くなるため好ましい。
【0047】
<第3の成形材料>
上記第3の成形材料は任意であるため、本発明の射出成形体の製造方法においては第3の成形材料を用いてもよいし、用いなくてもよい。
上記第3の成形材料に含まれる熱可塑性樹脂は特に限定は無く、具体例及び好ましい範囲は第1の成形材料の熱可塑性樹脂と同様である。
【0048】
<製造された各成形体の繊維体積割合(Vfp)のCV値>
本発明における成形材料を用いて、連続して成形体を製造する場合、製造された各成形体の繊維体積割合(Vfp)のCV値は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましい。
ここでいうCV値とは、得られた成形体の炭素繊維体積割合(Vfp)のショット間の変動係数であり、この値が小さければ小さいほど、炭素繊維体積割合(Vfp)のショット間の変動が小さく、一定の繊維体積割合(Vf)を有する成形体を安定して得られることを意味する。
【0049】
本発明における成形材料に含まれる炭素繊維は、1方向に平行配列しておらず、平面Aと平行な面方向に、ランダムに分散していることが好ましい。この場合は、ペレット中に炭素繊維を平行配列したときに比べて、成形材料中で繊維が一定方向を向いていないため、混練中に炭素繊維が熱可塑性樹脂から「抜ける」という現象が起こりにくい。
なお、平面Aと平行な面方向とは、向かい合う平面Aが有る場合、成形材料の面内方向となる。
【実施例】
【0050】
1.成形材料の作成
1.1 成形材料100−1の集合体の作成
炭素繊維として、東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24K(平均繊維径7μm、繊維幅10mm)を開繊して、繊維幅を20mmとしたものを使用した。カット装置にはロータリーカッターを用い、刃のピッチを10mmとし、炭素繊維を繊維長15mmにカットするようにした。
熱可塑性樹脂としては、宇部興産社製のナイロン6樹脂(PA6)“UBEナイロン”(登録商標)1015Bペレットを冷凍粉砕した粒子を用いた。そして、炭素繊維の供給量を200g/min、マトリックス樹脂の供給量を450g/min、にセットし、装置を稼動して、炭素繊維と熱可塑性樹脂(ナイロン6)が混合された繊維の目付け量が240g/mのランダムマットを得た。得られたランダムマットを3枚積層し、260℃に加熱したプレス装置にて、2MPaにて3分間加熱し、厚さ2.5mmのランダムマット成形体を得た。
得られた成形体を切断機により切断することで成形材料100−1の集合体を製造した。成形材料の集合体の中から任意に1つ取り出したところ、図6の100−1の形状をしていた。また、成形材料100−1の繊維体積割合(Vf1)を測定したところ33%であった。
【0051】
1.2 成形材料100−2及び成形材料100−3の集合体の作成
成形体を切断して成形材料100−2及び成形材料100−3の集合体を製造し、任意の成形材料を2つ取り出したところ、図6に示す100−2、100−3に示す形状の成形材料であった(図6は、実施例に係る成形材料及び比較成形材料の形状を示した模式図である)。また、成形材料100−2及び成形材料100−3の繊維体積割合(Vf1)を測定したところ34%であった。
得られた成形材料100−1〜100−3の平均厚みは、いずれも2.5mmであった。
【0052】
1.3 成形材料100−4の集合体の作成
ランダムマット成形体を製造する際、プレス条件を2MPaで6分間にすることで、炭素繊維の被覆率を95%に上昇させたこと以外は、1.1と同様に成形材料を作成し、成形材料100−4の集合体を製造した。成形材料100−4の集合体から、任意に1つ取り出したところ、図6の100−4に示す形状をしていた。
【0053】
1.4 成形材料31の集合体の作成
繊維体積割合(Vf)を18%に調整したこと以外は、1.1と同様に成形材料を作成し、成形材料31の集合体を製造した。
【0054】
1.5 比較成形材料11〜13の集合体の作成
1.1で成形体を製造する際のプレス条件を弱めて、かつランダムマット成形体を得た際の端材付近である、炭素繊維への熱可塑性樹脂の被覆率が低い部分を取り出して切断し、比較成形材料11を得た。任意に1つ取り出したところ、図6の100−5に示す形状をしていた。比較成形材料11の集合体の繊維体積割合(Vf)は10%であった。
繊維体積割合(Vf)を、25%、40%になるように、成形体を得た際の端材を選択して調整したこと以外は、比較成形材料11と同様にして、比較成形材料12および13を製造した。任意に1つ取り出したところ、いずれも図6の100−5に示す形状をしていた。
【0055】
1.6 比較成形材料21〜23の作成
含浸助剤として、p−ヒドロキシ安息香酸2−へキシルデシルエステル(花王株式会社製のエキセパールHD−PB)を用い、これを不揮発分12質量%にエマルジョン化した溶液内に、炭素繊維束としてPAN系炭素繊維フィラメント(東邦テナックス社製STS40−24K相当 繊維直径7.0μm フィラメント本数 24000本、引張強度4000MPa)を通過させた後、炭素繊維束に過剰に付着した溶液を、ニップロールにて取り除いた。更に、この含浸助剤が付着した炭素繊維束を180℃に加熱された熱風乾燥炉内を2分間かけて通過させることにより乾燥させ、易含浸炭素繊維束を得た。この易含浸炭素繊維束を200℃に加熱した直径60mmの2本の金属製ロールに沿わせ、再度の加熱処理を行い、炭素繊維束に、含浸助剤がより均一に付着した易含浸性炭素繊維束とした。
次に、上記で得られた易含浸性炭素繊維束を、出口径3mmの電線被覆用クロスヘッドダイを用いて、ポリアミド6(宇部興産株式会社製:UBEナイロン)で被覆し、これを長さ6mmに切断し、炭素繊維含有率が20質量%(炭素繊維100質量部あたり、ポリアミド66が393.6質量部)、直径3.2mm、長さ6mmの射出成形に適した図7に示すような芯鞘型ペレットである比較成形材料21を得た。
比較成形材料21に示す成形材料の形態は、平面Aに向かい合う平面Aを有する円柱体であるが、いずれの面Bにおいても、炭素繊維の断面が1個以上観察されなかった。
また、比較成形材料21の繊維体積割合(Vf)を変えて、比較成形材料22、23を作成した。
【0056】
1.7 比較成形材料3
ランダムマット成形体を製造する際、プレス条件を2MPaで1分間にすることで、熱可塑性樹脂の炭素繊維への被覆率を75%に低下させ、また、繊維体積割合(Vf)を40%にしたこと以外は、1.1と同様に成形材料を作成し、比較成形材料3の集合体を製造した。比較成形材料3の集合体から、任意に1つ取り出したところ、図6の100−6に示す形状をしていた。
【0057】
1.8 比較成形材料4
「1.1」で得られた成形材料100−1の集合体を、熱可塑性樹脂を追加投入して粉砕し、繊維体積割合(Vf)が18%、重量平均繊維長が0.5mmの成形材料を製造した。
【0058】
1.9 比較成形材料5
マトリックス樹脂としてポリプロピレン(PP)(融点165℃、分解温度230℃)樹脂シートを、繊維長13mm、繊維径10μmのガラス繊維を繊維体積割合(Vf)で33%含有するように挟み込み、スタンピング成形用シート(目付け2000g/m、厚み1.7mm)を用いて、厚み3.2mm、一辺の長さ500mmの正方形板状の成形品を作製した。これを、一辺の長さ50mmの正方形状に裁断し、比較成形材料5を得た。
【0059】
1.10 比較成形材料6
カーボン繊維マット(繊維長100mm、繊維径9μm)33%(Vf)にPET67%(Vf)を混合してなる混合シートを加熱加圧し、PET(ポリエチレンテレフタレート)を溶融することによりカーボン繊維マットに積層させ、連続的に製造した繊維強化複合シートを、シートペレタイザーにより5mm角に裁断し、比較成形材料6を得た。
2.成形体の作製
(実施例1)
下記表3に示すように、第1の成形材料として、成形材料100−1を23重量%、第2の成形材料として、比較成形材料13を10重量%、第3の成形材料として、宇部興産社製のナイロン6樹脂(PA6)“UBEナイロン”(登録商標)1015Bペレットを67重量%用い、表3に示した成形方法で成形体(ダンベル形状試験片)を作製した。ダンベル試験片の作製条件としては、樹脂温度300℃、背圧10MPa、スクリュー回転数80rpmとした。
(実施例2〜13、比較例1〜13)
下記表3〜表6に示す成形材料を用いた以外は実施例1と同様に成形体を作製した。
ただし、比較例7、8の射出成形機の条件は、可塑化条件を弱めて繊維長を長めに残すように調整してダンベル形状試験片を作製した。また、成形方法として押出成形を用いた実施例12、13については、後述する作製条件とした。
なお、実施例8は参考例8に読み替えるものとする。
【0060】
3.評価試験及び結果
(1)成形材料の形状
成形材料100−1、100−2、100−3の形態は、平面Aに向かい合う平面Aを有する略直方体であり、いずれかの面Bにおいて、炭素繊維の断面が1個以上観察され、面Bに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数が、面Aに観察される単位面積当たりの炭素繊維の断面数の2倍以上であり、本実施の形態では380〜650倍の範囲に分布する。これは、炭素繊維を2次元にランダム配向させたランダムマット成形体を切断して、成形材料を得ているためである。
結果を表1及び表2に記載した。
【0061】
(2)成形材料の熱可塑性樹脂の被覆率
成形材料100−1、100−2、100−3の熱可塑性樹脂含浸率に関しては、50%以上の炭素繊維外周表面に、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂で被覆されている繊維の割合が、全炭素繊維に対して80〜100%であった。成形材料100−1、100−2、100−3、及びその他の成形材料について、結果を表1及び表2に記載した。
【0062】
(3)成形材料に含まれる炭素繊維の重量平均繊維長
成形材料の試料をルツボに入れ、550℃にて1.5時間有酸素雰囲気下で加熱し樹脂成分を燃焼除去した。残った炭素繊維を界面活性剤入りの水に投入し、超音波振動により十分に撹拌させた。撹拌させた分散液を計量スプーンによりランダムに採取し評価用サンプルを得て、ニレコ社製画像解析装置Luzex APにて、繊維数100本の長さを測定し炭素繊維の重量平均繊維長を求めた。
結果を表1及び表2に記載した。
【0063】
(4)分散パラメータと繊維長の評価
成形材料を射出成形する際、可塑化後であって金型内に射出される前の樹脂組成物を一部切り出し、切り出した樹脂組成物をエポキシ樹脂中に包埋し、繊維強化熱可塑性樹脂成形体の切断面を研磨し観察用サンプルを作成する。
研磨して得た繊維強化熱可塑性樹脂組成物の切断面を光学顕微鏡にて観察し、無作為に0.1mm×0.1mmの範囲を10カ所選び出し、その範囲内に含まれる炭素繊維の本数を測定する。選び出した10カ所の炭素繊維の本数の平均値をA、標準偏差をSとし、次式により分散パラメータを求める。
分散パラメータ=100×S/A (単位:%)
また、樹脂組成物の分散パラメータの測定用サンプルは、樹脂組成物の端部を避け、できるだけ中央近辺を用いた。
樹脂組成物の分散パラメータが0〜10%となるまで可塑化を行い、得られた樹脂組成物をルツボに入れ、550℃にて1.5時間有酸素雰囲気下で加熱し樹脂成分を燃焼除去した。残った炭素繊維を界面活性剤入りの水に投入し、超音波振動により十分に撹拌させた。撹拌された分散液を計量スプーンによりランダムに採取し評価用サンプルを得て、ニレコ社製画像解析装置Luzex APにて繊維数100本の長さを計測し重量平均繊維長を算出した。
一般に、個々の炭素繊維の繊維長をLiとすると、成形材料中の数平均繊維長Lnと重量平均繊維長Lwは、以下の式により求められるものである。
数平均繊維長 Ln=ΣLi/n
重量平均繊維長 Lw=(ΣLi)/(ΣLi)
本実験例における炭素繊維についても、上式により重量平均繊維長Lwを求めた。
結果を表1及び表2に記載した。
なお、成形材料100−1、100−2、100−3、100−4、31、比較成形材料11、12、13、21、22、23、3、及び6には、繊維長2mm以上の炭素繊維が含まれており、比較成形材料4には、繊維長2mm以上の炭素繊維は含まれていなかった。比較成形材料5には、繊維長2mm以上のガラス繊維が含まれていた。
【0064】
(5)集合体を構成する各成形材料の大きさとして、最小外接円直径を測定した。
成形材料の集合体を振動篩にかけ、8mm未満と8〜20mmと20mm超で分級した。ここで、ある篩の目の大きさを通過した粉砕材は、最小外接円直径がその篩の目以下であることを示す。
結果を表3、表4、表5及び表6の「第1の成形材料」の欄に記載した。
【0065】
(6)成形体に含まれる炭素繊維長
得られた成形体をルツボに入れ、550℃にて1.5時間有酸素雰囲気下で加熱し樹脂成分を燃焼除去した。残った炭素繊維を界面活性剤入りの水に投入し、超音波振動により十分に撹拌させた。撹拌された分散液を計量スプーンによりランダムに採取し評価用サンプルを得て、ニレコ社製画像解析装置Luzex APにて繊維数100本の長さを計測し、炭素繊維の重量平均繊維長を算出した。
結果を表3、表4、表5及び表6に記載した。
【0066】
(7)成形体の機械的特性
ダンベル形状試験片に対して、ISO527に準拠して引張試験を実施し、引張強度及び引張弾性率を測定した。引張試験は、射出成形機(日本製鋼社製 JSW180H)、物性測定用テストピース金型(ISO 527規定、厚み2mmの引張試験片、金型温度80℃)、試験機としてインストロン製5982型を使用し、試験速度10mm/minで実施した。
【0067】
表3及び表4に示すように、実施例においては、いずれも外観と機械物性に優れた成形体を得ることができた。
これは、炭素繊維の外周表面の50%以上がマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂で被覆されている繊維数の割合が、80〜100%である成形材料を用いることで、可塑化条件が緩やかでも炭素繊維が熱可塑性樹に十分に分散し、繊維長がより長く残るためと考えられる。
【0068】
(8)成形体の表面外観の評価
得られた成形体の表面外観を観察し、直径3mm以上の繊維状物質の塊、および気泡が表面に確認されなかったものを○(excellent)、繊維状物質の塊が確認されたものを×(bad)とした。比較例6では、被覆率が低い比較成形材料22を用いて、可塑化条件を弱めて繊維長を長めに残すように調整したため、外観が悪化した。
【0069】
(9)炭素繊維の供給状態
成形材料について、炭素繊維の供給状態を観察し、以下のように評価した。結果を表3、表4、表5及び表6に記載した。なお、この評価は表3、表4、表5及び表6の第1の成形材料についての評価である。
Excellent:成形材料中の繊維が樹脂から抜け出ずに、共に供給される状態
good:成形材料中の繊維が樹脂から抜け出ることがあるが、実用上問題ない状態
bad:成形材料中の繊維が樹脂から抜け出てしまい、繊維が供給されにくい状態
【0070】
(10)押出成形の条件
実施例において、押出成形する際の条件としては、表4に記載の成形材料(複数種類の成形材料を用いる場合はドライブレンドした後)を、シリンダー温度を280℃、スクリュー回転数を160rpmに設定した、TEX90α型二軸押出機(日本製鋼所製)で溶融混練して押し出した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
<変形例>
上記した実施の形態に係る成形材料の集合体では、製造原料としての複合材料又は複合材料には、ランダムマット成形体や、ランダムマット成形体と一方向繊維強化複合材料等とを組合せて用いることもできる。また、製造原料は上記構成に限られず適宜変更可能である。
【0078】
≪補足≫
以上で説明した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。
実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない工程については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0079】
また、発明の理解の容易のため、上記各実施の形態で挙げた各図の構成要素の縮尺は実際のものと異なる場合がある。また本発明は上記各実施の形態の記載によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
さらに、繊維強化樹脂複合材料の製造方法に用いる製造装置においては、構造部材、駆動部品、配管、電気部品、基板上に回路部品、リード線等の部材も存在するが、電気的配線、電気回路について複合材料等の技術分野における通常の知識に基づいて様々な態様を実施可能であり、本発明の説明として直接的には無関係のため、説明を省略している。尚、上記示した各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示したものではない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る成形材料は、例えば、自動車、鉄道車両、航空機等の内板、外版、構成部材等、さらには、各種電気部品、機械・装置類等のフレームや筐体等の成形材料として広く活用することができる。
【0081】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2014年1月22日出願の日本特許出願(特願2014−009516)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0082】
100 成形材料
101 複合材料破材
102 切断片
110 熱可塑性樹脂
120 炭素繊維
121 単繊維
122 繊維束
200 切断機
210 フィルター
302 射出成形機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8