特許第5969720号(P5969720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5969720
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 55/02 20060101AFI20160804BHJP
   B24B 53/007 20060101ALI20160804BHJP
   B24B 5/40 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   B24B55/02 A
   B24B53/007
   B24B5/40 Z
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-28223(P2016-28223)
(22)【出願日】2016年2月17日
【審査請求日】2016年2月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】歌田 英司
(72)【発明者】
【氏名】江上 和貴
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−148385(JP,A)
【文献】 実公昭39−031637(JP,Y1)
【文献】 英国特許出願公告第01074207(GB,A)
【文献】 特開2003−311617(JP,A)
【文献】 実開昭59−042847(JP,U)
【文献】 米国特許第03256647(US,A)
【文献】 実開昭57−181555(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 55/02
B24B 5/06
B24B 5/40
B24B 53/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状部材であるワークの内周面に研削加工を施す為の研削装置であって、
該ワークの内径側に配置され、回転駆動された状態で、外周面を該ワークの内周面に押し付けられる砥石と、
該砥石の外周面に対して流体を噴射する為のものであり、前記ワークの軸方向に関して離隔した状態で複数個の噴射口が形成された流体噴射用ノズルを有し、該各噴射口が、前記砥石の外周面のうち、該砥石と前記ワークとの当接部である加工点に対して該砥石の径方向反対側となる位置に前記流体を噴射可能な状態で、該砥石の外周面に対向している流体噴射装置と
加工点に研削油を供給する為のものであり、前記流体噴射用ノズルとは別体の研削油供給ノズルを有する研削油供給装置とを備えている、
研削装置。
【請求項2】
前記流体噴射用ノズルが、前記砥石の外周面と前記ワークの内周面との間に配置されている、請求項1に記載した研削装置。
【請求項3】
前記流体が、前記各噴射口のそれぞれから均一の圧力で噴射される、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した研削装置。
【請求項4】
前記流体噴射用ノズルのうち、前記各噴射口が形成された側の面の、前記砥石の中心軸を含む仮想平面に関する断面形状が、前記砥石の母線形状に沿う形状である、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した研削装置。
【請求項5】
前記各噴射口が、前記砥石の外周面のうち、該各噴射口の中心軸がぶつかる点に於ける接平面と該各噴射口の中心軸とが直交する状態で形成されている、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した研削装置。
【請求項6】
前記流体が研削油であり、
記研削油供給装置と前記流体噴射装置とが、共有ポンプを共有している、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載した研削装置。
【請求項7】
前記流体噴射装置が、前記共有ポンプよりも下流側に、前記共有ポンプから送り込まれた研削油を加圧する高圧ポンプを備えている、請求項6に記載した研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、転がり軸受を構成する軌道輪(外輪又は内輪)の素材となるリング状部材の内周面に研削加工を施す為の研削装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
各種回転機器の回転支持部に、図11に示す様なラジアル玉軸受1が組み込まれている。該ラジアル玉軸受1は、単列深溝型であって、互いに同心に配置された外輪2と内輪3との間に複数個の玉4、4を設置して成る。このうちの外輪2の内周面の軸方向中間部に深溝型の外輪軌道5を、内輪3の外周面の軸方向中間部に深溝型の内輪軌道6を、それぞれ全周に亙って形成している。前記各玉4、4は、保持器7により保持された状態で、前記外輪軌道5と前記内輪軌道6との間に転動自在に配置している。そして、この様な構成により、前記外輪2と前記内輪3との相対回転を自在としている。
【0003】
上述の様な構成を有するラジアル玉軸受1を構成する外輪2の内周面に前記外輪軌道5を形成する為の研削加工、或いは、同じく内輪3の内周面を所定の内径に加工する為の研削加工では、例えば、図12に示す様な研削装置8が使用されている。
該研削装置8は、特許文献1に記載されたものであり、リング状のワーク9を装置本体(図示省略)に固定する為のマグネットシュータイプの固定部10と、該ワーク9の外周面を支持する為の1対のシュー11a、11bと、該ワーク9の内径側に配置された砥石12と、駆動源(図示省略)の駆動力に基づいて該砥石12を回転駆動する為の砥石スピンドル13と、研削油供給装置14とを備えている。
【0004】
この様な研削装置8の場合、前記ワーク9の軸方向一端面{図12(A)の左端面}を前記固定部10の先端面に吸着固定した状態で、前記砥石スピンドル13により回転駆動された前記砥石12の外周面を、前記ワーク9の内周面に押し付ける様にして、該ワーク9の内周面に研削加工を施す。この際、前記砥石12の外周面と、前記ワーク9の内周面との当接部である加工点15に、前記研削油供給装置14により研削油を供給している。
ところで、上述の様な研削加工の際には、加工中に砥石表面に付着した研磨屑を、効率良く除去できないと、加工効率や砥石の寿命が低下してしまう可能性がある。
又、特許文献2にも、砥石の外周面のうち、加工点と反対となる位置に切削油を供給し、この切削油を加工点に確実に供給する事を目的とした発明が記載されている。但し、この様な発明は、前記切削油を前記砥石の外周面に噴射する構成ではない為、加工中に砥石表面に付着した研磨屑を、効率良く除去する事ができない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−121388号公報
【特許文献2】特許第5211958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、加工中に砥石表面に付着した研磨屑を効率良く除去できる構造を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の研削装置は、リング状部材であるワークの内周面に研削加工を施す為のものであって、砥石と、流体噴射装置とを備えている。
このうちの砥石は、前記ワークの内径側に配置され、回転駆動された状態で、外周面を該ワークの内周面に押し付けられるものである。
前記流体噴射装置は、前記砥石の外周面に対して流体を噴射する為のものであり、前記ワークの軸方向に関して離隔した状態で複数個の噴射口が形成された流体噴射用ノズルを有している。そして、該各噴射口が、前記砥石の外周面のうち、該砥石と前記ワークとの当接部である加工点に対して、該砥石の径方向反対側となる位置に前記流体を噴射可能な状態で、該砥石の外周面に対向している。好ましくは、前記各噴射口のうちの前記砥石の軸方向に関して一端側の噴射口の軸方向一端縁を、前記砥石の軸方向一端縁よりも軸方向一方側に配置すると共に、前記各噴射口のうちの前記砥石の軸方向に関して他端側の噴射口の軸方向他端縁を、前記砥石の軸方向他端縁よりも軸方向他方側に配置する。
この様な構成を有する本発明の研削装置を実施する場合には、追加的に、加工点に研削油を供給する為のものであり、前記流体噴射用ノズルとは別体の研削油供給ノズルを有する研削油供給装置を備えた構成を採用できる。
【0008】
上述の様な本発明の研削装置を実施する場合には、追加的に、請求項2に記載した発明の様に、前記流体噴射用ノズルを、前記砥石の外周面と前記ワークの内周面との間に配置する構成を採用できる。即ち、前記ノズルを、前記砥石の外周面と前記ワークの内周面との間に形成される、軸方向から見た形状が三日月状の空間のうち、最も広い部分に配置する。
【0009】
上述の様な本発明の研削装置を実施する場合には、追加的に、請求項3に記載した発明の様に、前記流体を、前記各噴射口のそれぞれから均一(又は、ほぼ均一)の圧力で噴射する構成を採用できる。
【0010】
上述の様な本発明の研削装置を実施する場合には、追加的に、請求項4に記載した発明の様に、前記流体噴射用ノズルのうち、前記各噴射口が形成された側の面の、前記砥石の中心軸を含む仮想平面に関する断面形状を、前記砥石の母線形状に沿う形状とする構成を採用できる。
【0011】
上述の様な本発明の研削装置を実施する場合には、追加的に、請求項5に記載した発明の様に、前記各噴射口を、前記砥石の外周面のうち、該各噴射口の中心軸がぶつかる点に於ける接平面と該各噴射口の中心軸とが直交する状態で形成する構成を採用できる。
【0012】
上述の様な本発明の研削装置を実施する場合には、追加的に、請求項6に記載した発明の様に、前記流体を研削油とした構成を採用できる。そして、前記研削油供給装置と前記流体噴射装置とが、共有ポンプを共有する様に構成する。
【0013】
上述の請求項6に記載した発明を実施する場合には、追加的に、請求項7に記載した発明の様に、前記流体噴射装置が、前記共有ポンプよりも下流側(前記各噴射口に近い側)に、前記共有ポンプから送り込まれた研削油を加圧する高圧ポンプを備えた構成を採用できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の研削装置によれば、加工中に砥石表面に付着した研磨屑を効率良く除去する事ができる。
即ち、本発明の場合、流体噴射装置を構成する流体噴射用ノズルを、砥石とワークとの当接部である加工点の位置に対して、該砥石の径方向反対側となる位置に配置している。又、前記流体噴射用ノズルの各噴射口を、該砥石(ワーク)の軸方向(幅方向)に関して離隔した状態で設けると共に、該砥石の外周面に対向させている。そして、前記流体噴射装置により、前記流体噴射用ノズルの各噴射口から噴射された流体を、前記砥石に吹き付ける様に構成している。この為、例えば、研削加工中に生じた研磨屑のうち、前記砥石表面に付着した研磨屑を、該砥石から効率良く除去する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態の第1例の研削装置にワークを組み付けた状態の、ワーク、砥石、砥石スピンドル、及び流体噴射用ノズルの断面模式図。
図2】同じく、流体噴射用ノズルと砥石との位置関係を説明する為の図であって、流体噴射用ノズルを図1のイ矢印の方向から見た図。
図3】同じく、図1のA−A断面図。
図4】同じく、研削装置の構成を説明する為の模式図。
図5】同じく、研削装置の部分斜視図。
図6】本発明の実施の形態の第2例を示す、図2と同様の図。
図7】本発明の実施の形態の第3例を示す、図3と同様の図。
図8】本発明の実施の形態の第4例を示す、図3と同様の図。
図9】本発明の実施の形態の第5例を示す、図3と同様の図。
図10】比較例の構造を示す、図3に相当する図。
図11】本発明の研削装置の対象となる外輪及び内輪を組み込んだ転がり軸受の1例を示す、部分切断斜視図。
図12】従来構造の研削装置の1例を示す断面図(A)、及び、軸方向から見た図(B)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例に就いて、図1〜5により説明する。尚、本例の研削装置は、例えば、リング状部材であるワーク9aの内周面を所定の内径寸法を有する円筒面に加工する際の研削加工に使用されるものである。この様な本例の研削装置は、装置本体(図示省略)と、ドライブプレート10aと、シュー(図示省略)と、砥石12aと、砥石スピンドル13aと、研削油供給装置14aと、流体噴射装置16とを備えている。
【0017】
このうちのドライブプレート10aは、マグネットタイプであり、前記装置本体に支持されている。又、該ドライブプレート10aは、先端部に前記ワーク9aの軸方向一側面(図4の左側面)を吸着固定する事により、該ワーク9aを、前記装置本体に固定する為のものである。この様なドライブプレート10aは、電動モータ等の駆動源(図示省略)により、図5に矢印Xで示す方向(図5の時計方向)に回転駆動される。
前記シューは、前述した従来構造と同様に、例えば、前記ワーク9の外径側の2箇所位置に配置されている。この様なシューは、案内面を、該ワーク9の外周面に当接させる事により、加工中の前記ワーク9の径方向に関する位置決めを図る為のものである。
【0018】
前記砥石12aは、砥石本体30と、砥石芯金48とから成る。
このうちの砥石本体30は、短円筒状に作られたものである。
前記砥石芯金48は、金属製の短円筒状部材である。この様な砥石芯金48の外周面には、接着により前記砥石本体30が外嵌固定されている。
以上の様な構成を有する砥石12aは、前記砥石スピンドル13aを構成するスピンドル軸部28の軸方向一端部(図4の左端部)に、前記砥石芯金48を外嵌した状態で、ボルト49(図3参照、図4、5には省略)により結合固定されている。この様な砥石12aは、前記砥石スピンドル13aにより、図5に矢印Yで示す方向(図5の時計方向)に回転駆動される。
【0019】
前記砥石スピンドル13aは、スピンドル軸部28と、スピンドルハウジング29とを有している。
このうちのスピンドル軸部28は、例えば、転がり軸受(図示省略)等により前記スピンドルハウジング29に、該スピンドルハウジング29に対する相対回転を可能な状態に支持されている。この様なスピンドル軸部28は、例えば電動モータ等の駆動源により、図5に矢印Yで示す方向(図5の時計方向)に回転駆動される。
又、前記スピンドルハウジング29は、前記装置本体に支持されており回転しない。
【0020】
前記研削油供給装置14aは、研削加工中に、油溜まり20から汲み上げた研削油を、前記砥石12aと前記ワーク9aの当接部である加工点21に供給する為のものであり、第1フィルタ22と、第1上流側通油路23と、共有ポンプ24と、第1下流側通油路25と、研削油供給ノズル26とを備えている。
このうちの第1フィルタ22は、流入口から流入した研削油をろ過して、流出口から送り出す為のものであり、前記油溜まり20内に配置されている。この様な第1フィルタ22の流出口には、前記第1上流側通油路23の上流端(前記油溜まり20に近い側の端部)が接続されている。
【0021】
前記第1上流側通油路23は、前記第1フィルタ22と前記共有ポンプ24との間に、研削油の受け渡しを可能な状態に設けられている。この様な第1上流側通油路23の上流端は、前記第1フィルタ22の流出口に接続されており、同じく下流端(前記油溜まり20から遠い側の端部)は、前記共有ポンプ24の流入口に接続されている。
【0022】
前記共有ポンプ24は、前記油溜まり20から汲み上げた研削油を、前記第1下流側通油路25に送り出す機能を有している。この様な共有ポンプ24は、流入口に、前記第1上流側通油路23の下流端が接続されると共に、第一流出口に前記第1下流側通油路25の上流端が接続されている。尚、前記共有ポンプ24は第二流出口も有しており、該第二流出口には、前記流体噴射装置16を構成する第2下流側通油路31の上流端が接続されている。そして、前記共有ポンプ24は、前記油溜まり20から汲み上げた研削油を、前記第2下流側通油路31に送り出す機能も有している。
【0023】
前記研削油供給ノズル26は、噴射方向の調節が可能なフレキシブルノズルにより構成されており、例えば、基端部が、前記装置本体の一部に支持されている。この様な研削油供給ノズル26の軸方向他端部(図4の右端部)には、前記第1下流側通油路25の下流端が接続されている。又、前記砥石12a(前記ワーク9a)の円周方向に関して、前記研削油供給ノズル26の軸方向一端側の開口部の位置は、前記加工点21よりもやや上流側に切削油を供給(噴射)できる位置としている。
【0024】
以上の様な構成を有する研削油供給装置14aは、前記共有ポンプ24が作動すると、前記油溜まり20内の研削油が、前記第1フィルタ22及び前記第1上流側通油路23を介して、前記共有ポンプ24に流入し、該共有ポンプ24の第一流出口から、前記第1下流側通油路25に所定圧力で送り出される。この様に送り出された研削油は、該第1下流側通油路25及び前記研削油供給ノズル26を通過して、該研削油供給ノズル26の軸方向一端側の開口部から流出して、前記加工点21に供給される。
【0025】
前記流体噴射装置16は、第1フィルタ22と、第1上流側通油路23と、共有ポンプ24と、第2下流側通油路31と、第2フィルタ32と、第3下流側通油路33と、高圧ポンプ34と、第4下流側通油路35と、第3フィルタ36と、第5下流側通油路37と、流体噴射用ノズル38とにより構成されている。
このうちの第1フィルタ22、第1上流側通油路23、及び共有ポンプ24に関しては、前記研削油供給装置14aと共有している為、詳しい説明は省略する。
【0026】
前記第2下流側通油路31は、前記共有ポンプ24と前記第2フィルタ32との間に、研削油の受け渡しを可能な状態に設けられている。この様な第2下流側通油路31の上流端は、前記供給ポンプ24の第二流出口に接続されており、同じく下流端は、前記第2フィルタ32の流入口に接続されている。
【0027】
前記第2フィルタ32は、流入口から流入した研削油をろ過して、流出口から送り出す為のものである。この様な第2フィルタ32の流入口には、前記第2下流側通油路31の下流端が接続されている。一方、該第2フィルタ32の流出口には、前記第3下流側通油路33の上流端が接続されている。本例の場合、前記第2フィルタ32は、前記第1フィルタ22よりも目が細かいフィルタ(メッシュ)により構成されている。
【0028】
前記第3下流側通油路33は、前記第2フィルタ32と前記高圧ポンプ34との間に、研削油の受け渡しを可能な状態に設けられている。この様な第3下流側通油路33の上流端は、前記第2フィルタ32の流出口に接続されている。一方、該第3下流側通油路33の下流端は、前記高圧ポンプ34の流入口に接続されている。
【0029】
前記高圧ポンプ34は、流入口から流入した研削油を所定圧力に加圧し、加圧した研削油を流出口から所定流量だけ送り出す機能を有している。具体的には、前記高圧ポンプ34は、前記流入口から流入した研削油を、例えば、1〜7MPaにまで加圧する。この様な高圧ポンプ34の流入口には、前記第3下流側通油路33の下流端が接続されると共に、流出口には、前記第4下流側通油路35の上流端が接続されている。本例の場合、前記第3下流側通油路33を通り、前記高圧ポンプ34の流入口から流入した研削油を、1〜7MPaにまで加圧して、前記第4下流側通油路35に送り出す様にしている。
【0030】
前記第4下流側通油路35は、前記高圧ポンプ34と前記第3フィルタ36との間に、研削油の受け渡しを可能な状態に設けられている。この様な第4下流側通油路35の上流端は、前記高圧ポンプ34の流出口に接続されている。一方、該第4下流側通油路35の下流端は、前記第3フィルタ36の流入口に接続されている。
【0031】
前記第3フィルタ36は、流入口から流入した研削油をろ過して、流出口から送り出す為のものである。この様な第3フィルタ36の流入口には、前記第4下流側通油路35の下流端が接続されている。一方、該第3フィルタ36の流出口には、前記第5下流側通油路37の上流端が接続されている。本例の場合、前記第3フィルタ36は、前記第2フィルタ32よりも目が細かいフィルタ(メッシュ)により構成されている。
【0032】
前記第5下流側通油路37は、前記第3フィルタ36と前記流体噴射用ノズル38との間に、研削油の受け渡しを可能な状態に設けられている。この様な第5下流側通油路37の上流端は、前記第3フィルタ36の流出口に接続されている。一方、該第5下流側通油路37の下流端は、前記流体噴射用ノズル38の流入口40に接続されている。
【0033】
前記流体噴射用ノズル38は、略矩形板状であり、内部通油路39と、流入口40と、複数個の噴射口41、41とを有している。
このうちの内部通油路39は、前記流体噴射用ノズル38の内側に形成されている。
前記流入口40は、前記内部通油路39と、前記流体噴射用ノズル38の外部に存在する空間(外部空間)とを連通する状態で形成されている。この様な流入口40には、前記第5下流側通油路37の下流端が接続されている。
【0034】
前記各噴射口41、41は、それぞれが円形であり、前記流体噴射用ノズル38の一側面(図1、3の左側面、図2の表側面、図4の上側面、図5の右側面)に、前記内部空間39と前記外部空間とを連通する状態で形成されている。具体的には、前記各噴射口41、41は、前記流体噴射用ノズル38の一側面に、前記砥石12aの軸方向に関して等間隔に離隔した状態で1列に形成されている。又、前記各噴射口41、41のうち、一端(図2の左端)に形成された噴射口41が、前記砥石12aの軸方向に関して、該砥石12aの軸方向一端縁(図2の左端縁)と整合している。一方、前記各噴射口41、41のうち、他端(図2の右端)に形成された噴射口41が、前記砥石12aの軸方向に関して、該砥石12aの軸方向他端縁(図2の右端縁)と整合している。尚、本例の場合、前記流体噴射用ノズル38の一側面を平坦面としている。別の言い方をすれば、前記流体噴射用ノズル38の一側面のうち、前記各噴射口41、41が形成された部分の形状を、前記砥石12aの外周面の、該砥石12aの中心軸を含む仮想平面に関する断面形状(母線形状)に沿う様な形状としている。この為、前記流体噴射用ノズル38の各噴射口41、41を、前記砥石12aの外周面に対向させた状態で、該各噴射口41、41と該砥石12aの外周面との距離を、総て等しくできる。
【0035】
この様な各噴射口41、41は、該各噴射口41、41の開口部の総面積をS(m2)とし、該各噴射口41、41から噴射される(流出する)前記研削油の流量をQ(m3/min)とし、該各噴射口41、41から該研削油が噴射される際の噴射圧力をP(MPa)とし、該研削油の密度をρ(kg/m)とし、前記ノズルの圧力損失係数をαとした場合に、S=Q√(ρ/2αP)の関係を満たす状態で形成されている。尚、前記圧力損失係数αは、0.4〜0.7とするのが好ましい。
又、前記各噴射口41、41の内径をdとした場合に、隣り合う前記各噴射口41、41の中心軸同士の、前記砥石12aの軸方向に関する距離(ピッチ)Lは、L=βdの関係を満たす状態で形成されている。尚、βは1.0〜2.0の係数である。
【0036】
又、前記流体噴射用ノズル38は、前記ワーク9aの内周面と前記砥石12aの外周面との間に存在する空間のうち、前記加工点21に対して、該砥石12aの径方向反対側となる位置(当該位置の近傍を含む)に配置されている。この状態で、前記流体噴射用ノズル38の各噴射口41、41は、該各噴射口41、41の中心軸が、前記砥石12aの径方向と一致した状態で、該砥石12aの外周面のうち、前記加工点21に対して、該砥石12aの径方向反対側となる部分に対向している。別の言い方をすれば、前記各噴射口41、41を、前記砥石12aの外周面のうち、該各噴射口41、41の中心軸がぶつかる点に於ける接平面と、該各噴射口41、41の中心軸とが、互いに直交する状態で形成している。従って、前記研削油は、前記各噴射口41、41から、前記砥石12aの外周面に直交する方向に噴射される。
【0037】
以上の様な構成を有する前記流体噴射装置16は、前記油溜まり20内の研削油を、前記第1フィルタ22 → 前記第1上流側通油路23 → 前記共有ポンプ24 → 前記第2下流側通油路31 → 前記第2フィルタ32 → 前記第3下流側通油路33 → 前記高圧ポンプ34 → 前記第4下流側通油路35 → 前記第3フィルタ36 → 前記第5下流側通油路37 → 前記流体噴射用ノズル38の順に通過させて、該流体噴射用ノズル38の各噴射口41、41から、前記砥石12aの外周面に向けて噴射する機能を有する。
【0038】
具体的には、前記共有ポンプ24が作動すると、前記油溜まり20内の研削油が、前記第1フィルタ22及び前記第1上流側通油路23を介して、該共有ポンプ24に流入し、該共有ポンプ24の第二流出口から前記第2下流側通油路31に送り出される。次いで、研削油は、該第2下流側通油路31から前記第2フィルタ32に流入し、ろ過される。該第2フィルタ32によりろ過された研削油は、該第2フィルタ32の流出口から、前記第3下流側通油路33を通り、前記高圧ポンプ34の流入口から、該高圧ポンプ34に流入する。該高圧ポンプ34に流入した研削油は、該高圧ポンプ34内で所定圧力(本例の場合、1〜7MPa)に加圧される。この様に加圧された研削油は、前記高圧ポンプ34の流出口から前記第4下流側通油路35に送り出され、前記第3フィルタ36の流入口から該第3フィルタ36に流入し、ろ過される。該第3フィルタ36でろ過された研削油は、該第3フィルタ36から前記第5下流側通油路37に送り出されて、前記流体噴射用ノズル38の流入口40から前記内部通油路39に流入する。そして、該内部通油路39に流入した研削油は、前記各噴射口41、41から前記砥石12aの外周面に向けて噴射される。本例の場合、噴射される研削油の圧力(1〜7MPa)及び流量{10〜20L/mim、0.01〜0.02m3/min(前記各噴射口41、41から噴射する研削油の流量)}を、該各噴射口41、41同士で互いに等しく(又は、ほぼ等しく)なる様に規制している。この為に、前記各噴射口41、41から噴射された研削油を、該各噴射口41、41と対向する前記砥石12aの外周面の軸方向全長(幅方向全長)に、均一(又は、むらの少ないほぼ均一な状態)に噴射する事ができる。
【0039】
次に、本例の研削装置を使用して、前記ワーク9aの内周面に研削加工を施す手順の1例に就いて、簡単に説明する。
先ず、前記砥石12a及び前記砥石スピンドル13aを退避させた状態で、前記ドライブプレート10aの先端部に、前記ワーク9aの軸方向一側面を吸着固定する。
次いで、前記砥石スピンドル13aのスピンドル軸部28に外嵌固定された前記砥石12aを、前記ワーク9aの内径側に挿入する。この状態では、前記ワーク9aの中心軸に対して、前記砥石スピンドル13a及び前記砥石12aの中心軸がオフセットしている。これと共に、前記流体噴射用ノズル38を、前記ワーク9aの内周面と前記砥石12aの外周面との間に存在する空間のうち、前記加工点21に対して、該砥石12aの径方向反対側となる位置に配置する。この状態で、前記流体噴射用ノズル38の各噴射口41、41を、該各噴射口41、41の中心軸が、前記砥石12aの径方向と一致した状態で、該砥石12aの外周面(該外周面のうち、前記加工点21に対して、該砥石12aの径方向反対側に位置する部分)に対向させる。
【0040】
次いで、前記砥石スピンドル13a(前記砥石12a)及び前記ドライブプレート10a(前記ワーク9a)を回転駆動させると共に、前記研削油供給装置14a及び流体噴射装置16を作動させる。尚、前記砥石スピンドル13a(前記砥石12a)と前記ドライブプレート10a(前記ワーク9a)とは、逆方向に回転する。この状態で、前記研削油供給装置14aが、前記加工点21となる位置に、研削油を供給する。一方、前記流体噴射装置16が、前記砥石12aの外周面のうち、前記加工点21に対して、径方向反対側となる位置に、研削油を噴射する。
そして、前記砥石スピンドル13aを前記ワーク9aの径方向外方に変位させる事により、前記砥石12aの外周面を、前記ワーク9aの内周面に当接させる。この様にして、前記ワーク9aの内周面を円筒面状に研削加工する。
【0041】
以上の様な構成を有する本例の研削装置によれば、加工中に砥石表面に付着した研磨屑を効率良く除去する事ができる。
即ち、本例の場合、前記流体噴射用ノズル38を、前記加工点21に対して、前記砥石12aの径方向反対側となる位置に配置すると共に、前記流体噴射用ノズル38の各噴射口41、41を前記砥石12aの外周面の軸方向全長に亙り対向させている。そして、前記流体噴射用ノズル38の各噴射口41、41から噴射された高圧の研削油を、前記砥石12aの外周面のうちの該各噴射口41、41と対向する部分の軸方向全長に、ほぼ均一な状態で吹き付ける様に構成している。即ち、本例の場合、前記砥石12aの外周面のうちの前記各噴射口41、41と対向する部分のそれぞれに、前記切削油を、当該各部分に直交する方向から噴射する様にしている。この為、例えば、研削加工中に生じた研磨屑のうち、前記砥石12aの外周面に付着した研磨屑を、該砥石12aから効率良く除去する事ができる。
【0042】
特に本例の場合、前記砥石12aの外周面に直交する方向から高圧の研削油を噴射する様にしている。この為、該砥石12aを構成する砥粒同士の間部分に溶着した研磨屑を、効率良く除去する事ができる。この結果、前記砥石12aの目詰まりを防止して、加工効率の向上、及び、該砥石12aの長寿命化を図る事ができる。
又、本例の場合、前記流体噴射用ノズル38を、前記ワーク9aの内周面と前記砥石12aの外周面との間に存在する空間に配置している。この為、省スペース化並びに研削装置の小型化を図り易い。特に、この省スペース化に関しては、前記ワーク9aの内径と、前記砥石12aの外径との比が所定値以上となる構造の場合により大きな効果を得られる。以下、この理由に就いて説明する。研削加工に於いては、できるだけ外径が大きい砥石を使用するのが、砥石交換の間隔が延び、生産効率を向上できる為に好ましい。例えば、転がり軸受を構成する軌道輪(外輪又は内輪)の内径加工では、ワークの内径の80%程度の外径寸法を有する砥石を使用する事がある。この様に、ワークの内径に対する砥石の外径の比が大きい構造の場合、ノズルを配置する為のスペースが小さくなってしまう。この場合でも、本例の構造は、前記ワーク9aの内周面と前記砥石12aの外周面との間に存在する空間に前記流体噴射用ノズル38を配置する為、少ないスペースを有効に活用して省スペース化を図る事ができる。特に、本例の構造は、砥石の外径が、ワークの内径の50%以上となる構造に採用すると有効的である。
又、前記流体噴射用ノズル38を、前記ワーク9aの内周面と前記砥石12aの外周面との間に存在する空間(軸方向から見た形状が三日月状の空間)のうち最も広い部分に配置している。この為、前記流体噴射用ノズル38の、厚さ寸法(前記砥石12aの円周方向に関する寸法)及び幅寸法(前記砥石12aの軸方向に関する寸法)を確保する事ができる。この結果、高圧の研削を噴射する前記流体噴射用ノズル38の高剛性化を図る事ができる。
【0043】
更に、本例の場合、前記各噴射口41、41を、前記砥石12aの外周面のうち、該各噴射口41、41の中心軸がぶつかる点に於ける接平面と、該各噴射口41、41の中心軸とが、互いに直交する状態で形成する事により、前記研削油を、前記砥石12aの外周面に対して、この外周面に直交する方向から噴射する(当てる)様に構成している。又、本例の場合、前記研削油が吹き付けられる位置を、前記加工点21に対して、前記砥石12aの径方向反対側となる位置に配置している。この様な研削油は、該砥石12aの外周面に高圧で吹き付けられる為、該砥石12aを、前記ワーク9aに押し付ける力を補助する事ができる(該砥石12aに対して、該ワーク9aに押し付ける方向の力を付与する事ができる)。
又、前記研削油を、前記砥石12aの外周面に対して、該外周面に直交する方向から噴射する(当てる)様に構成している為、前記研削油から前記砥石12aに付与される力が、前記砥石12aの回転(回転の加減速)に影響する事がない(又は、与える影響を小さくできる)。
【0044】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例に就いて、図6を参照しつつ説明する。本例の研削装置の場合、流体噴射装置を構成する流体噴射用ノズル38aの構造が、前述した実施の形態の第1例の構造と異なっている。
具体的には、本例の場合、前記流体噴射用ノズル38aの一側面(図6の表側面)に、それぞれが砥石12aの軸方向(図6の左右方向)に等間隔に離隔した状態で形成された複数個(本例の場合、4個)の噴射口41a、41aから成る、1対の噴射口列43a、43bが、前記砥石12aの円周方向(図6の上下方向)に間隔をあけて設けられている。この様な1対の噴射口列43a、43b同士で、軸方向(図6の左右方向)に関する前記各噴射口41a、41aの配置の位相は、互いに反ピッチずれている。即ち、前記1対の噴射口列43a、43bを構成する各噴射口41a、41aは、軸方向に関して千鳥配置されている。
【0045】
尚、本例の場合、前記1対の噴射口列43a、43aのうちの一方(図6の上方)の噴射口列43aを構成する各噴射口41a、41aが対向する前記砥石12aの外周面の位置を、加工点21(図1参照)に対して該砥石12aの径方向反対側となる位置から、該砥石の円周方向一方側(図1の反時計方向)に所定間隔だけオフセットさせている。一方、前記1対の噴射口列43a、43aのうちの他方(図6の下方)の噴射口列43aを構成する各噴射口41a、41aが対向する前記砥石12aの外周面の位置を、前記加工点21(図1参照)に対して該砥石12aの径方向反対側となる位置から、該砥石の円周方向他方側(図1の時計方向)に所定間隔だけオフセットさせている。この様にして、前記1対の噴射口列43a、43aを構成する各噴射口41a、41aから噴射された研削油を、前記砥石12aの外周面のうち、前記加工点21に対して該砥石12aの径方向反対側となる位置に噴射可能としている。又、本例の場合、前記一方の噴射口列43aに関するオフセット量と、前記他方の噴射口列43aに関するオフセット量とを等しくしている。但し、前記一方の噴射口列43aに関するオフセット量と、前記他方の噴射口列43aに関するオフセット量とを、互いに異ならせる事もできる。又、前記1対の噴射口列43a、43aのうちの何れか一方の噴射口列43aを構成する各噴射口41a、41aを、前記砥石12aの外周面のうち、前記加工点21に対して該砥石12aの径方向反対側となる位置に対向させる構成を採用する事もできる。
【0046】
又、本例の場合、前記各噴射口列43a、43bのうちの一方(図6の上方)の噴射口列43aを構成する各噴射口41a、41aのうちの、前記砥石12aの軸方向に関する一端(図6の左端)の噴射口41aが、該砥石12aの軸方向一端縁(図6の左端縁)と整合している。又、前記各噴射口列43a、43bのうちの一方の噴射口列43aを構成する各噴射口41a、41aのうちの、前記砥石12aの軸方向に関する他端(図6の右端)の噴射口41aは、該砥石12aの軸方向他端縁(図6の右端縁)よりも軸方向一方側(図6の左側)に位置している。
【0047】
一方、前記各噴射口列43a、43bのうちの他方(図6の下方)の噴射口列43bを構成する各噴射口41a、41aのうちの、前記砥石12aの軸方向に関する他端の噴射口41aが、該砥石12aの軸方向他端縁と整合している。又、前記各噴射口列43a、43bのうちの他方の噴射口列43bを構成する各噴射口41a、41aのうちの、前記砥石12aの軸方向に関する一端の噴射口41aは、該砥石12aの軸方向一端縁よりも軸方向他方側(図6の右側)に位置している。
又、本例の場合、前記各噴射口列43a、43b毎に、内部通油路39a、39aと流入口40aを設けている。従って、本例の場合、第5下流側通油路37(図4参照)の下流端が2経路に分かれており、該各径路の下流端が、それぞれ前記流入口40aに接続されている。
【0048】
この様な本例の構造は、例えば、軸方向に隣り合う噴射口の中心軸同士の距離が、該各噴射口の内径よりも小さい場合や、加工の困難性等の事情により、該各噴射口を、前述した実施の形態の第1例の様に、軸方向に1列に形成できない場合に採用する。
但し、本例の内部通油路39aよりも断面積が大きい1本の内部通油路を形成し、該内部通油路に、1乃至複数列の噴射口列を設ける構成を採用する事もできる。噴射口列を複数列設けた場合には、該各噴射口列を構成する噴射口の配置は、本例の様な千鳥配置だけでなく、各噴射口列を構成する噴射口同士の軸方向位置が整合した配置とする事もできる。
その他の部分の研削装置の構造及び作用・効果は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0049】
[実施の形態の第3例]
本発明の実施の形態の第3例に就いて、図7を参照しつつ説明する。本例の研削装置は、リング状部材であるワークの内周面に、ラジアル玉軸受1(図11参照)を構成する内輪3の内輪軌道6を形成する際の研削加工に使用されるものである。この為に、本例の場合、研削装置を構成する砥石12b、及び、流体噴射装置16aの流体噴射用ノズル38bの構造を、前述した実施の形態の第1例の構造と異ならせている。以下、前記砥石12b、及び、前記流体噴射用ノズル38bの構造に就いて説明する。
【0050】
本例の研削装置を構成する砥石12bは、短円筒状に造られたものであり、外周面が、軸方向(図7の上下方向)両端側に向かうほど外径が小さくなる曲面状に形成されている。別の言い方をすれば、前記砥石12bの外周面の母線形状は、軸方向中央部で最も外径が大きく、軸方向両端側に向かうほど外径が小さくなる、凸円弧状である。
この様な砥石12bは、スピンドル軸部28の軸方向一端部(図7の下端部)の外周面に外嵌固定されている。この他の前記砥石12bの構造は、前述した実施の形態の第1例の砥石12a(図1、3参照)と同様である。
【0051】
又、前記流体噴射装置16aの流体噴射用ノズル38bは、略矩形板状であり、内部通油路39と、流入口40と、複数個の噴射口41b、41bとを有している。
特に本例の場合、前記流体噴射用ノズル38bの一側面(図7の左側面)のうち、前記砥石12bの軸方向に関する1箇所位置には、幅方向(図7の表裏方向)の全長に亙り、断面形状が、前記砥石12bの外周面の母線形状に沿う(該砥石12bの母線形状よりも曲率半径が大きい)凹円弧状の凹部44が形成されている。そして、該凹部44の幅方向中央部に、前記砥石12bの軸方向に等間隔に離隔した状態で、前記各噴射口41b、41bが形成されている。即ち、前記各噴射口41b、41bは、前記凹部44の幅方向中央部に、前記砥石12bの軸方向に1列に形成されている。尚、本例の場合、前記砥石12bの軸方向に関して、前記各噴射口41b、41bのうちの一端側(図7の下端側)の噴射口41bを、該砥石12bの軸方向一端縁と整合させている。一方、前記砥石12bの軸方向に関して、前記各噴射口41b、41bのうちの他端側(図7の上端側)の噴射口41bを、該砥石12bの軸方向他端縁と整合させている。
又、本例の場合、前記各噴射口41b、41bから噴射される研削油の方向を、前記砥石12bの径方向に一致させている。別の言い方をすれば、前記噴射口41b、41bの中心軸の方向を、前記砥石12bの径方向に一致させている。
【0052】
以上の様な構成を有する本例の研削装置の場合、前記各噴射口41b、41bを、前記砥石12bの母線形状に沿う状態で形成された前記凹部44の幅方向中央部に、該砥石12bの軸方向に1列になる状態で形成している。この為、前記砥石12bの外周面と、前記各噴射口41b、41bとの距離を、総ての噴射口41b、41bに関して等しく(又は、ほぼ等しく)できる。この結果、前記砥石12bの外周面に付着(溶着)した研磨屑を、むらなく除去する事ができる。
その他の部分の研削装置の構造及び作用・効果は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0053】
[実施の形態の第4例]
本発明の実施の形態の第4例に就いて、図8を参照しつつ説明する。
本例の場合には、流体噴射装置16bの流体噴射用ノズル38cの凹部44に開口する状態で設けられた、各噴射口41c、41cの形成方向を、前記実施の形態の第3例の場合と異ならせている。
【0054】
即ち、本例の場合、前記各噴射口41c、41cから噴射される研削油の方向を、該各噴射口41c、41cが対向する位置の、前記砥石12bの外周面の母線形状の接線に対して直交する方向(法線の方向)に一致する様にしている。別の言い方をすれば、本例の場合、前記各噴射口41c、41cを、前記砥石12bの外周面のうち、該各噴射口41c、41cの中心軸がぶつかる点に於ける接平面と、該各噴射口41b、41bの中心軸とが、互いに直交する状態で形成している。
この様な本例の研削装置によれば、前記砥石12bの様に、外周面の母線形状が曲面状の砥石の場合でも、前記各噴射口41c、41cから噴射された研削油が、前記砥石12bの外周面に衝突する状態を、総ての噴射口41c、41cに関して均一(又は、ほぼ均一)にできる。この結果、前記砥石12bの外周面に付着(溶着)した研磨屑を、よりむらなく除去する事ができる。
その他の部分の研削装置の構造及び作用・効果は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0055】
[実施の形態の第5例]
本発明の実施の形態の第5例に就いて、図9を参照しつつ説明する。本例の研削装置は、リング状のワークの内周面に、ラジアル円錐ころ軸受(図示省略)を構成する内輪45の内輪軌道46を形成する際の研削加工に使用されるものである。即ち、本例の研削装置は、前記ワークの内周面を円錐面状に加工する為のものである。
【0056】
この様な本例の研削装置の場合、前述した実施の形態の第1例の構造に対して、砥石スピンドル13a及び砥石12aの中心軸Oの方向を、前述した実施の形態の第1例の砥石スピンドル13a及び砥石12aの中心軸Oに対して、該中心軸Oに対する前記内輪軌道(円錐面部)46の傾斜角度θだけ傾斜させている。これに伴い、流体噴射装置16cを構成する流体噴射用ノズル38も、前記中心軸Oに対して角度θだけ傾斜させている。尚、本例の場合も、前記流体噴射用ノズル38の各噴射口41、41が、前記ワークの内周面のうちの加工点21と、前記砥石12aの径方向に関して反対となる位置に対向している。
【0057】
又、本例の場合も、前記各噴射口41、41の中心軸は、前記砥石12aの径方向と一致している。従って、研削油は、前記各噴射口41、41から、前記砥石12aの外周面に直交する方向に噴射される。この他の前記流体噴射用ノズル38及び流体噴射装置16cの構造は、前述した実施の形態の第1例の構造と同様である。
【0058】
又、本例の場合、加工中に、前記砥石12aを、該砥石12aの中心軸の方向に往復運動(オシレーション)させる様にしている。この為に、前記砥石12aの軸方向長さ寸法L12aを、前記ワークの内周面(前記内輪45の内輪軌道46)の母線の長さ寸法L46よりも大きくしている(L46<L12a)。この様にして、前記往復運動(オシレーション)のストロークの範囲内で、前記ワークの内周面(円周方向に関して前記加工点21と整合する位置)の軸方向全長に亙り、前記砥石12aが当接する様にしている。
又、本例の場合、前記流体噴射用ノズル38の一部を前記砥石スピンドル13aに固定している。この為、該流体噴射用ノズル38は、前記砥石12aと共に該砥石12aの中心軸の方向に往復運動(オシレーション)する。そして、前記流体噴射用ノズル38の吹き付け範囲(前記各噴射口41、41のうちの一端に形成された噴射口41と他端に形成された噴射口41との距離L41)を、前記砥石12aの軸方向寸法L12aよりも小さくしている。更に、本例の場合、前記距離L41を、前記長さ寸法L46と前記往復運動の揺動ストロークとの合計よりも大きくする事で、前記砥石12aが、前記往復運動のストロークの一端(前進端)にある状態から他端(後進端)にある状態の範囲で、前記砥石12aの外周面の軸方向全長に、前記各噴射口41、41から噴射された研削油を吹き付けられる様にしている。この様にして、前記砥石12aの往復運動に拘わらず、前記砥石12aの外周面に付着した研磨屑を、該砥石12aから除去できる様にしている。
【0059】
以上の様な構成を有する本例の場合も、前記研削油を、前記各噴射口41、41から、前記砥石12aの外周面に対して、該外周面に直交する方向から噴射する様に構成している。この為、例えば、図10に示すスプレーノズル50の場合と比べて、研削加工中に生じた研磨屑のうち、前記砥石12aの外周面に付着した研磨屑を、該砥石12aから効率良く除去する事ができる。即ち、前記スプレーノズル50の場合、このスプレーノズル50の中心軸から離れる方向に噴射される切削油は、前記砥石12aの外周面に斜めに(前記砥石12aの外周面に直交する方向に対して、所定の角度で傾斜した状態で)吹き付けられる。この為、前記砥石12aの外周面に付着した研磨屑を、該砥石12aから除去する効果が小さくなってしまう。
その他の部分の研削装置の構造及び作用・効果は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明を実施する場合に、ノズルに形成する噴射口の数、形状等は、前述した実施の形態の各例の場合に限定されるものではない。
前述した実施の形態の第2例では、2列の噴射口列を形成しているが、3列以上とする事もできる。
又、本発明の研削装置は、転がり軸受を構成する軌道輪だけでなく、リング状部材の内周面に研削加工を施して造られる各種部材を対象とする事ができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ラジアル玉軸受
2 外輪
3 内輪
4 玉
5 外輪軌道
6 内輪軌道
7 保持器
8 研削装置
9、9a ワーク
10 固定部
10a ドライブプレート
11a、11b シュー
12、12a、12b 砥石
13、13a 砥石スピンドル
14、14a 研削油供給装置
15 加工点
16、16a、16b、16c 流体噴射装置
20 油溜まり
21 加工点
22 第1フィルタ
23 第1上流側通油路
24 共有ポンプ
25 第1下流側通油路
26 研削油供給ノズル
28、28a スピンドル軸部
29 スピンドルハウジング
30 砥石本体
31 第2下流側通油路
32 第2フィルタ
33 第3下流側通油路
34 高圧ポンプ
35 第4下流側通油路
36 第3フィルタ
37 第5下流側通油路
38、38a、38b、38c 流体噴射用ノズル
39、39a 内部通油路
40、40a 流入口
41、41a、41b、41c 噴射口
42 空間
43a、43b 噴射口列
44 凹部
45 内輪
46 内輪軌道
48 砥石芯金
49 ボルト
50 スプレーノズル
【要約】
【課題】加工中に生じる研磨屑を効率良く除去できる構造を実現する。
【解決手段】ワーク9aの内径側に砥石12aを配置した状態で、ワーク9aの内周面と砥石12aの外周面との間に存在する空間のうち、加工点21に対して、砥石12aの径方向反対側となる位置に流体噴射装置16を構成する流体噴射用ノズル38を配置する。そして、流体噴射用ノズル38に形成された複数個の噴射口41を、砥石12aの外周面のうち、加工点21に対して径方向反対側となる部分に対向させた状態で、各噴射口41から当該部分に研削液を噴射する。
【選択図】図1
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