(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら公報で提案された屋根板材は、雨水侵入の防止等の優れた利点を有するとはいえ、更なる形状の単純化とこれに伴うコスト低減や、更なる施工の簡便化が要請されている。
【0005】
本発明は、上記した課題を踏まえ、雨水侵入の確実な防止を図った上で、更なる構造の簡略化をもたらす新たな屋根板材を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の形態または適用例として実施することができる。
屋根外観をなすよう屋根組に葺かれる複数の屋根板材を用いて屋根を葺く屋根葺材において、
前記屋根板材のそれぞれは、
長尺状で所定幅の板材により形成され、屋根の棟側から軒側に掛けての葺き外観を呈し、
該屋根板部材の幅方向の一方端部の側に位置する端部第1部材と、
前記屋根板部材の幅方向の他方端部の側に位置する端部第2部材とを備え、
前記端部第1部材は、
前記屋根組から見て上向きに開口した上向き凹条をなして前記棟側から軒側に掛けて延び、前記一方端部の側に当たる前記上向き凹条の内側側壁において前記屋根板部材と液密に一体とされ、前記上向き凹条の底面を前記屋根組の表皮に接合させて前記屋根組に対して屋根板材を下支えし、
前記端部第2部材は、
前記屋根組から見て下向きに開口した下向き凹条をなして前記棟側から軒側に掛けて延び、前記他方端部の側に当たる前記下向き凹条の内側側壁において前記屋根板部材と液密に一体とされ、隣り合う前記屋根板部材における前記上向き凹条たる前記端部第1部材をその開口側から覆い隠すと共に、前記下向き凹条の前記内側側壁の開口側端面を前記屋根組の表皮に接合させて前記屋根組に対して屋根板材を下支えし、前記下向き凹条の前記内側側壁と向かい合う外側側壁を隣り合う前記屋根板部材の上面に向かわせており、
前記複数の屋根板材の少なくとも一つは
、該少なくとも一つの前記屋根板材を除く前記複数の屋根板材より前記下向き凹条を幅広にして備える。
【0007】
[適用例1:屋根板材]
屋根外観をなすよう屋根組に葺かれる屋根板材において、
長尺状で所定幅の板材により形成され、屋根の棟側から軒側に掛けての葺き外観を呈する屋根板部材と、
該屋根板部材の幅方向の一方端部の側に位置する端部第1部材と、
前記屋根板部材の幅方向の他方端部の側に位置する端部第2部材とを備え、
前記端部第1部材は、
前記屋根組から見て上向きに開口した上向き凹条をなして前記棟側から軒側に掛けて延び、前記一方端部の側に当たる前記上向き凹条の内側側壁において前記屋根板部材と液密に一体とされ、前記上向き凹条の底面を前記屋根組の表皮に接合させて前記屋根組に対して屋根板材を下支えし、
前記端部第2部材は、
前記屋根組から見て下向きに開口した下向き凹条をなして前記棟側から軒側に掛けて延び、前記他方端部の側に当たる前記下向き凹条の内側側壁において前記屋根板部材と液密に一体とされ、隣り合う前記屋根板部材における前記上向き凹条たる前記端部第1部材をその開口側から覆い隠すと共に、前記下向き凹条の前記内側側壁の開口側端面を前記屋根組の表皮に接合させて前記屋根組に対して屋根板材を下支えし、前記下向き凹条の前記内側側壁と向かい合う外側側壁を隣り合う前記屋根板部材の上面に向かわせる
ことを要旨とする。
【0008】
上記構成の適用例1の屋根板材は、屋根の棟側から軒側に掛けての葺き外観を呈する屋根板部材の幅方向両端に、端部第1部材と端部第2部材とを備える。この端部第1部材と端部第2部材は、それぞれ屋根組から見て上向き或いは下向きの凹条であるため、屋根板部材の端部側の内側側壁とこれに向かい合う外側側壁を有する。そして、端部第1部材は、上向き凹条の内側側壁において屋根板部材の一方端部で液密に一体化した上で、この内側側壁とこれに向かい合う外側側壁とが共に隣り合う屋根板部材における下向き凹条たる端部第2部材でその開口側から覆われる。その一方、端部第2部材は、内側側壁において屋根板部材の一方端部で液密に一体化した上で、隣り合う屋根板部材における上向き凹条たる端部第1部材をその開口側から覆うと共に、内側側壁と向かい合う外側側壁を隣り合う屋根板部材の上面に向かわせる。
【0009】
よって、複数の屋根板材を屋根組に屋根幅方向に並べると、隣り合う屋根板部材の繋ぎ箇所において、上向き凹条である端部第1部材と下向き凹条である端部第2部材とは、上記したように端部第2部材で端部第1部材がその開口側から覆われる関係をもったまま、屋根板部材の幅方向の両側において屋根の棟側から軒側に掛けて延びる。つまり、上向き凹条である端部第1部材は、下向き凹条である端部第2部材でその開口側から覆われた状態で、雨水を低所へと屋根勾配に沿って導く樋の作用をなすことになる。そして、これら両端部部材を屋根板部材に有する屋根板材は、屋根勾配に沿って傾斜して屋根の棟側から軒側に掛けて屋根を縦葺きする。こうして屋根を葺く屋根板材の屋根組に対する下支えは、端部第1部材が屋根組の表皮に接合させる上向き凹条の底面と、端部第2部材が屋根組の表皮に接合させる内側側壁の開口側端面とでなされる。つまり、屋根組に対する下支えは、個々の屋根板材にて自己完結し、隣り合う屋根板部材での下支えを要しない。
【0010】
上記構成の屋根板材で葺いた屋根に雨が降ると、その雨水の大部分は、屋根勾配に沿った屋根板部材の上面を棟側から軒側に掛けて流れ落ちる。隣り合う屋根板部材の繋ぎ箇所では、下向き凹条たる端部第2部材がその外側側壁を隣り合う屋根板部材の上面に向かわせていることから、屋根に降り落ちた雨水が端部第2部材の外側側壁と屋根板部材の上面との間から下向き凹条たる端部第2部材の内側に侵入することがあり得る。ところが、この端部第2部材の内側では、上向き凹条たる端部第1部材が端部第2部材で覆われていることから、端部第2部材の内側に侵入した雨水は、上向き凹条たる端部第1部材の側壁で止め置かれる。しかも、この端部第1部材にあっても屋根勾配に倣って傾斜していることから、端部第1部材の側壁で止め置かれた浸入雨水は、屋根勾配に沿って流れ落ちるので、より雨水浸入の防止効果は高まる。
【0011】
仮に、端部第1部材の側壁を乗り越えて雨水が浸入しても、その浸入雨水は、端部第2部材でその開口側から覆われた状態で樋の作用をなす上向き凹条たる端部第1部材に入り込むことから、この端部第1部材により軒側に排出される。よって、屋根組への雨水の浸入を確実に防止することができる。
【0012】
こうした雨水侵入回避を図るに当たり、上記の適用例1の屋根板材では、屋根板部材の幅方向両端に、上向き凹条たる端部第1部材と下向き凹条たる端部第2部材と液密に一体化した上で、隣り合う屋根板部材の繋ぎ箇所において、端部第1部材をその開口側から端部第2部材で覆うようにすればよい。つまり、屋根板部材の幅方向両端の部材についての回転対称性を必要としないばかりか、屋根組に対する下支えの自己完結により隣り合う屋根板材同士での下支えを要しないので、その分、構造の簡略化とこれに伴う製造コストの更なる低減を図ることができる。また、上記の適用例1の屋根板材では、隣り合う屋根板部材の繋ぎ箇所において、上向き凹条である端部第1部材を下向き凹条である端部第2部材で覆うよう屋根組に屋根幅方向に並べるだけで済むので、別部材にて繋ぎ箇所を覆うような作業が不要となり、葺き作業のより一層の簡便化とこれに伴う施工コストの低減も可能である。しかも、施工後の屋根板材の回収も簡便となると共に、回収後の屋根板材をそのまま再利用できる。更には、屋根葺き施行現場での曲げ等の現場加工を必要とせず、より一層作業性が高まる。
【0013】
なお、屋根板部材の幅は、屋根に使用する枚数を考えると、450mmないし1200mmが好ましく、より好ましくは600mmから1000mmである。このような寸法であれば、取り扱いの上からも好ましい。また、上記のように浸入雨水の止め置き作用をなす上向き凹条たる端部第1部材の側壁高さは、雨水の浸水をより確実に防止するという観点から50mmないし150mmが好ましく、下向き凹条たる端部第2部材は、この端部第1部材を覆うことができればよい。この場合、端部第1部材の側壁頂上部が隣り合う屋根板部材の下向き凹条たる端部第2部材の低壁内面に近接するようにすれば、下向き凹条たる端部第2部材の開口内において、雨水が端部第1部材の側壁頂上部を乗り越え難くできるので、雨水浸入をより確実に防止でき好ましい。ところで、上向き凹条たる端部第1部材については、既述したようにこれを樋として作用させる都合上、100〜200mm程度の幅の上向き凹条とすることが望ましい。
【0014】
なお、屋根板部材とその幅方向両端の両端部部材は、金属により形成されていることが加工性、耐久性および固定手法の観点から望ましく、特に鋼板、純度の高い鉄、チタン、ステンレス、アルミなどが耐久性の面からより好ましい。また、固定手法としては、重なり部分のスポット溶接、超音波溶接、隅肉溶接、シームレス溶接等の溶接手法が、固定の信頼性の上から好ましい。この場合、屋根板部材とその幅方向両端の両端部部材の板厚としては、いわゆるそりや不用意な変形を回避する上から、或いは重量の観点から、2mm〜6mmであればよい。
【0015】
上記した屋根板材は、次のような態様とすることができる。例えば、前記端部第1部材については、これを、前記上向き凹条の底面を前記屋根板部材の板材底面と面一にして、前記一方端部の側で前記屋根板部材と一体とし、前記端部第2部材にあっても、これを、前記下向き凹条の内側側壁の前記開口側端面を前記屋根板部材の板材底面と面一にして、前記他方端部の側で前記屋根板部材と一体とすることができる。こうすれば、屋根板部材の板材底面を、前記端部第1部材としての上向き凹条の底面と端部第2部材としての下向き凹条の内側側壁の開口側端面と共に、屋根組に対しての下支えとして機能させることがきるので、屋根板材の安定した下支えが可能となる。しかも、屋根板部材の板材底面が屋根組の表皮に接合して屋根板部材自体が屋根組から浮き上がらないので、葺き作業に際して、屋根板部材の上に作業者が乗っても陥没等を招かない。このため、葺き作業の作業性が高まる。
【0016】
また、前記端部第2部材については、これを、前記屋根板部材を前記他方端部の側で前記下向き凹条となるよう屈曲形成することができる。こうすれば、端部第2部材と屋根板部材との液密性が容易に確保され、簡便となる。この場合、前記端部第1部材については、これを、前記上向き凹条の前記内側側壁と向かい合う外側側壁を、前記屋根板部材を前記一方端部の側で上向きに屈曲形成して備えるものとした上で、前記上向き凹条の前記内側側壁を、該内側側壁をなす平板を前記屈曲形成された前記外側側壁と向かい合うよう前記屋根板部材の上面に立設させて形成することができる。こうすれば、内側側壁をなす平板を屋根板部材の上面に立設する際の液密性を確保することで、端部第1部材と屋根板部材との液密性が容易に確保され、簡便となる。
【0017】
また、前記屋根板部材の底面または前記端部第1部材における前記上向き凹条の底面の少なくとも一方に、前記屋根組に向けての引き寄せ固定を図る固定用シャフト材を突出させるようにできる。こうすれば、屋根板材にて屋根を葺いた後に、その屋根板材をこの固定用シャフトを介して屋根組に向けて引き寄せて固定できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。
図1は本実施例の屋根板材310を用いて葺いた屋根100の全体構成を概略的に説明するための説明図である。まずこの
図1を用いて、全体構成を説明する。
【0020】
図示するように、本実施例の屋根100は、切妻式の屋根組YHを備え、この屋根組YHの棟両側に所定の屋根勾配で左右の屋根葺材110L、110Rを取り付け、屋根両側の屋根葺材110L、110Rを棟において棟包み120で覆って構成される。屋根葺材110L、110Rは、屋根組YHにおける棟木MBから軒げたNBに掛けて、即ち、屋根の棟側から軒側に掛けて屋根を葺き、屋根外観をなす。棟包み120は、屋根葺材110L、110Rを屋根幅に亘って覆い、屋根の棟外観をなす。屋根組YHは、棟木MBから軒げたNBに亘って垂木Nを掛け渡し、棟木MBの並びに垂木Nを、もや、小屋ばり、小屋づか、妻げた等を用いて、柱で支持する。この場合、いくつかの垂木Nは、後述の屋根板材310の固定用の長寸ボルトが挿入される矩形形状の貫通孔NHを有する。
【0021】
図2は複数の屋根板材310で構成した屋根葺材110Lにより屋根を縦葺きする様子を示す説明図、
図3は屋根葺きの様子を屋根板材310の詳細構成と合わせて示す概略斜視図、
図4は屋根板材310の製造態様を示す説明図、
図5はこの屋根板材310の各部寸法の関係と屋根板材310が連結されている状態を断面視にて示す説明図、
図6は屋根の妻側に配設する屋根板材310REの概略斜視図である。屋根葺材110Rは、屋根葺材110Lと同一であり、その葺き側が異なるに過ぎない。
【0022】
これら図面に示すように、屋根板材310は、長尺状で所定幅の金属製鋼板(例えば、板厚約5mm程度のチタン製、ステンレス製の鋼板)から形成された屋根板部材312と、屋根板部材312の幅方向両端部の側に位置する左右の接合部材314R、314Lと、固定用の長寸ボルト316とを有する。屋根板部材312は、屋根100の棟側から軒側に掛けての葺き外観を呈し、屋根組YHにおいて屋根勾配θで傾斜する。
【0023】
長寸ボルト316は、屋根板材310の幅方向のほぼ中央において、屋根板部材312の底面から下方に延びる。長寸ボルト316は、屋根板材310の底面に接合してシームレス溶接等の手法で液密に固定され、屋根板材310にて屋根組YHが葺かれると、垂木Nの貫通孔NHを貫通して雄ネジ部を垂木Nの下方に突出させる。なお、長寸ボルト316は、軒側、棟側およびその中央の3箇所において屋根板部材312の底面に設けられている。よって、垂木Nの貫通孔NHについては、この3箇所の長寸ボルト316が挿入できるよう、垂木Nに形成されている(
図1参照)。
【0024】
図示するように、屋根板部材312の左側端部に位置する接合部材314Lは、屋根板部材312の左端を曲げ加工により屋根組YHから見て下向きに開口した下向き凹条として形成されており、屋根板部材312の側の内側側壁314Liとこれと向かい合う外側側壁314Loとを有する。そして、この接合部材314Lは、屋根板部材312の曲げ加工を経て、屋根板部材312の左側端部に当たる内側側壁314Liにおいて屋根板部材312と液密に一体となると共に、下向き凹条をなして屋根100の棟側から軒側に掛けて延び、屋根勾配θで傾斜する。この場合、屋根板部材312との液密な一体化箇所は、内側側壁314Liの開口側端となり、接合部材314Lは、内側側壁314Liの開口側端面を屋根板部材312の板材底面と面一とする。
【0025】
屋根板部材312の右側端部に位置する接合部材314Rは、屋根組YHから見て上向きに開口した上向き凹条として形成されており、屋根板部材312の側の内側側壁314Riとこれと向かい合う外側側壁314Roとを有する。接合部材314Rは、外側側壁314Roを屋根板部材312の右端の曲げ加工を経て形成し、内側側壁314Riについては、これを屋根板部材312の上面から液密に立設させ、両内側側壁にて上向き凹条をなして、屋根100の棟側から軒側に掛けて延び、屋根勾配θで傾斜する。この場合、屋根板部材312との液密な一体化箇所は、内側側壁314Riの基部側となり、接合部材314Rは、上記の両内側側壁の間の上向き凹条の底面を屋根板部材312の板材底面と面一とする。
【0026】
屋根板部材312の上面からの内側側壁314Riの液密な立設は、種々の形態とできる。つまり、
図4に示すように、内側側壁314Riを形成する板材を屋根板部材312の上面に立設させて、その接合箇所たる基部をシームレス溶接等の手法で内側側壁長手方向に亘って液密に固定する(
図4(A)参照)。接合部材314Rを予め内側側壁314Riと外側側壁314Roとで上向き凹条としておき、内側側壁314Riの基部に屋根板部材312を接合させ、その接合箇所をシームレス溶接等の手法で内側側壁長手方向に亘って液密に固定する(
図4(B)参照)。或いは、
図4(C)に示すように、屋根板部材312を上向き屈曲と下向き屈曲させて内側側壁314Riを形成し、外側側壁314Roについては、屋根板部材312の右端の曲げ加工を経て形成することようにすることもできる、上記のいずれの形態であっても、接合部材314Rは、屋根板部材312の右側端部に当たる内側側壁314Riにおいて屋根板部材312と液密に一体となった上で、上向き凹条をなして屋根100の棟側から軒側に掛けて延びる。
【0027】
次に、屋根板部材312の幅方向両端に位置する接合部材314Lと接合部材314Rとの関係について説明する。
図5に示すように、下向き凹条の接合部材314Lは、向かい合う内側側壁314Liと外側側壁314Loの内壁面間の溝内寸法314Lwを、上向き凹条の接合部材314Rの外郭寸法314Rw、即ち、向かい合う内側側壁314Riと外側側壁314Roの外壁面間の外郭寸法より広くしている。また、接合部材314Lは、内側側壁314Liの開口側端から凹条の底壁面までの溝深さ314Lhを、接合部材314Rの底面から内外両側壁の開口端までの側壁高さ314Rhより大きくしている。更に、接合部材314Lは、屋根板部材312の側の内側側壁314Liと向かい合う外側側壁314Loの開口端から屋根板部材312の上面までのクリアランスCを数mm(好ましくは1〜3mm)ほど確保するよう、外側側壁314Loを延ばしている。
【0028】
これらの結果、屋根板材310を屋根組YHに並べて葺くと(
図1参照)、
図5に示すように、接合部材314Lは、隣り合う屋根板部材312における上向き凹条たる接合部材314Rをその開口側から覆い隠すと共に、接合部材314Lを隣り合う屋根板部材312の上面に向かわせる。接合部材314Lで接合部材314Rを覆った際の接合部材314Lの凹条の底壁面と接合部材314Rの内外両側壁開口端との間には、既述した側壁高さ314Rhと側壁高さ314Rhの差分がクリアランスHcとして残り、接合部材314Lの内外両側壁の内側面と接合部材314Rの内外両側壁の外側面との間には、既述した溝内寸法314Lwと外郭寸法314Rwの差分が左右のクリアランスWcとして残る。この左右のクリアランスWcは、接合部材314Lにおける接合部材314Rの位置に応じて決まり、接合部材314Rが接合部材314Lの中央で覆われていれば、均等(上記差分の半分)となる。また、接合部材314Lの外側側壁314Loの開口側端と屋根板部材312の上面との間には、既述したクリアランスCが残る。そして、それぞれの屋根板材310は、上向き凹条たる接合部材314Rの底面と下向き凹条たる接合部材314Lにおける内側側壁314Liの開口側端面に加え、これらと面一とされた屋根板部材312の板材底面とが屋根組YHの表皮に接合して、この屋根組YHに対して下支えされる。こうして下支えされた屋根板材310のそれぞれは、
図3に示すように、屋根板部材312の板材底面から延びる長寸ボルト316を垂木Nの貫通孔NHを貫通させる。よって、葺き作業者は、保持用プレートBpと座金Wを垂木Nの下面側に介在させた上で、長寸ボルト316の雄ネジ部にナットNtを螺合させることで、屋根板材310のそれぞれは、屋根組YHの垂木Nの側に引き寄せられて固定される。
【0029】
上記した屋根板材310の幅310Wは、例えば延べ板鋼板の成形幅と等しくされており、長さは施工する屋根の棟から軒までの長さに合わせて製造、加工され、施工現場に搬入される。また、接合部材314Lや接合部材314Rの溝深さ314Lhや側壁高さ314Rhは、屋根板材310の幅310Wに対して短寸であることが好ましく、葺き後の屋根見栄えや後述の樋としての作用を考慮して定めればよい。例えば、屋根板材310の幅310Wを450〜1200mm(より好ましくは600〜1000mm)とすれば、接合部材314Rの側壁高さ314Rhと外郭寸法314Rwについては、これを後述するように樋としての機能確保や雨水浸入防止の上から、50〜150mmの側壁高さ314Rhとし、100〜200mmの外郭寸法314Rwとすればよい。そして、接合部材314Lについては、上記寸法の接合部材314Rをその開口側から覆えるよう、溝深さ314Lhや溝内寸法314Lwを定めればよい。
【0030】
この他、屋根葺材110Lは、
図2に示すように、屋根板材310の棟側上面に、雨仕舞板330を有する。この雨仕舞板330は、屋根組YHに葺かれた屋根板材310の接合部材314Lの棟側開口を塞ぐと共に、屋根板部材312の棟側端面から立ち上がるよう、設置される。よって、雨仕舞板330は、屋根板部材312の上面および接合部材314Lで覆われた接合部材314Rの溝内を屋根勾配θに逆らって移動しようとする雨水を、接合部材314Lの棟側開口および屋根板部材312の棟側端面にて堰き止める。なお、雨仕舞板330は、屋根板部材312の棟側端面にシームレス溶接されており、その接合・固定箇所で、図示しないL字形鋼等で補強されている。
【0031】
本実施例は、上記したように複数の屋根板材310で屋根を縦葺きするものであるが、屋根の妻側では、その妻部における葺きの見栄えを高めるため、屋根板材310REを有する。
図2および
図6に示すように、この屋根板材310REは、屋根葺材110Lの右側に当たる妻部に配設されるものであり、接合部材314Lと長寸ボルト316を有する屋根板部材312の端部に、妻側の垂木Nを取り囲むエンドプレート340Rを有する。このエンドプレート340Rは、屋根板部材312から接合部材314Lと同じように立ち上がった後に垂木Nの外側で下降して、垂木Nを抱え込むようにして覆う。屋根の左側妻部では、この屋根板材310Aをミラー反転させた構成の屋根板材が用いられる。
【0032】
この屋根板材310REは、既述した屋根板材310が定寸幅のものであるのに対し、不定寸法の幅とされている。つまり、屋根の妻間の屋根幅は種々多様であるので、屋根板材310REの幅は、この屋根幅と屋根板材310の幅から、葺き対象となる屋根ごとに個別に定められる。
【0033】
屋根葺材110Rは、上記した屋根板材310、310REを用い、屋根葺材110Lとは屋根の葺き側が異なるだけであり、構成において屋根葺材110Lと異なるものではない。屋根組YHが屋根葺材110L、110Rで葺かれると、棟包み120が屋根板材310および屋根板材310REの棟側を塞ぐよう載置され、適宜な固定手段で屋根組YHに固定され、葺き作業が全て完了する。
【0034】
以上説明した本実施例の屋根100では、その葺き作業に際して、屋根板材310を垂木Nに並べて載置し、その際には、隣り合う屋根板部材312の繋ぎ箇所である接合部材314Rを接合部材314Lにて覆うようにすればよい。よって、簡便な施工により屋根葺きを行うことができ、屋根葺きの施工作業と移設・取り外し作業を簡便化することができる。しかも、隣接する屋根板材310の接合にネジやなどの機械的な結合が不要であることも相まって、屋根葺きの施工作業等をより一層簡便なものとできる。また、それぞれの屋根板材310が載置されれば、屋根板部材312から長寸ボルト316が垂木Nを貫通して突出するので、この長寸ボルト316を用いて屋根板部材312、延いては屋根板材310を屋根組YHの表皮に引き寄せて、容易に固定できる。
【0035】
ここで、本実施例の屋根100が発揮する雨仕舞いについて説明する。
屋根に降り注いだ雨は、棟包み120から屋根左右に流れ落ち、棟包み120で覆われていない領域の屋根葺材110L、110Rに達する。この雨は、屋根葺材110L、110Rに直接降り注いだ雨と一緒に屋根勾配θ(
図2参照)に沿って屋根板部材312の上面を軒げた方向に流れ落ちる。強風を伴わずにほぼ上方から降り注いだ雨は、屋根勾配θに逆らって屋根板部材312上面を棟側に流れることはない。よって、棟包み120から雨を屋根葺材110L、110Rに流すことで、こうした雨に対しては棟側において当然に好適な雨仕舞いを発揮する。
【0036】
一方、台風等による強風を伴って降る雨(強風雨)は、屋根勾配θに逆らって屋根板部材312上面を棟側に流れようとすることがある。この雨は、棟包み120が屋根板材310を覆う周縁部位によりまず遮られ、棟側へは、棟包み周縁部位下端の間隙を通って浸入するに過ぎず、この浸入雨水の量は僅かしかない。ところで、こうして棟側に浸入した雨水は、屋根勾配θに沿った重力を受けることから、自ずから屋根勾配に沿って流れ落ちようとする。このため、棟包み120の周縁部位下端の間隙を通った浸入雨水が当該周縁部より上流側で貯め置かれるような事態は起きがたい。
【0037】
風が極端に強い場合は、屋根勾配に逆らって流れるよう雨水に風が及ぼす力も大きくなるので、雨水は、棟包み120の周縁部位下端の間隙を通過後も、更に棟側に向けて流れる可能性もある。しかし、こうして棟包み120の周縁部位下端を越えて棟側に流れようとする浸入雨水の量は、棟包み120の周縁部位下端による遮蔽並びに上記の重力の作用により減少する。そして、棟包み120の周縁部位下端を越えた浸入雨水は、この棟包み120の周縁部位下端よりも上方で屋根板部材312上面から突出した
図2の雨仕舞板330で改めて遮られる。
【0038】
また、棟包み120から屋根葺材110L、110Rに流れ落ちた雨や、屋根葺材110L、110Rに直接降り注いだ雨にあっても、次のようにして好適な雨仕舞いを発揮する。
【0039】
図2〜
図3並びに
図5に示すように、隣り合う屋根板材310は、その繋ぎ箇所に当たる接合部材314Rを接合部材314Lで覆っているので、この両接合部材は機械的に結合されてはおらず、既述したように屋根板部材312の上面と外側側壁314Loの開口側端面との間にはクリアランスCが残っている。雨水は、このクリアランスCを通過するが、それ以降も内部に浸入することは以下に説明するように皆無に等しく、屋根板材310の下方に位置する垂木Nの側への防水はほぼ完全に達成される。すなわち、上記のクリアランスCを超えて垂木Nにまで雨水が浸入するためには、接合部材314Lの外側側壁314Loの開口側端面から入り込んだ雨水が、接合部材314Lで覆われた接合部材314Rの内側側壁314Riを越えて雨水が上って行かねばならず、不可能に等しい。
【0040】
たとえ、雨量が多く屋根板材310の屋根板部材312上に雨水の層が出来ようとも、屋根板材310は屋根勾配θで傾斜しているためにこの雨水の層の雨水は常に軒側に流れ落ち、この雨水の層が接合部材314Lで覆われた接合部材314Rの内側側壁314Riの突出高さ(側壁高さ314Rh)を上回る事態が継続して発生する可能性はない。更に、何らかの原因でこの内側側壁314Riの突出高さを越えて雨水が浸入したとしても、この内側側壁314Riと外側側壁314Roで形成される上向き凹条の接合部材314Rが屋根勾配θで傾斜した雨樋として作用するので、浸入雨水は上記の屋根勾配θの傾斜で流れ落ちることとなる。
【0041】
更に、本実施例によれば、上記した雨仕舞いに優れた効果と再利用性の向上等の種々の利点を奏することのできる屋根100を得るに当たり、これを葺く屋根板材310を、平板状の屋根板部材312の幅方向両端に上向き凹条たる接合部材314Rと下向き凹条たる接合部材314Lとを液密に一体化する構造と、隣り合う屋根板部材312の繋ぎ箇所たる接合部材314Rをその開口側から接合部材314Lで覆うようにする構造とするに過ぎない。こうした構造では、屋根板部材312の幅方向両端の接合部材314R、314Lの形状および両接合部材に対する屋根板部材312の設置位置についての回転対称性を必要としない。しかも、本実施例によれば、屋根組YHに対する屋根板材310の下支えを、上向き凹条たる接合部材314Rの底面と下向き凹条たる接合部材314Lにおける内側側壁314Liの開口側端面に加え、これらと面一とされた屋根板部材312の板材底面とが屋根組YHの表皮に接合することで自己完結的に達成する。よって、本実施例の屋根板材310によれば、隣り合う屋根板材310同士での下支えを要しないので、その分、構造の簡略化とこれに伴う製造コストの更なる低減を図ることができる。
【0042】
また、本実施例の屋根板材310では、隣り合う屋根板部材312の繋ぎ箇所において、上向き凹条である接合部材314Rを下向き凹条である接合部材314Lで覆うよう、屋根組YHに屋根板材310を屋根幅方向に並べるだけで済む。よって、本実施例の屋根板材310によれば、屋根板材310とは別部材にて繋ぎ箇所を覆うような作業が不要となり、葺き作業のより一層の簡便化とこれに伴う施工コストの低減を図ることができる。
【0043】
また、本実施例の屋根板材310では、屋根板部材312の幅方向両端に接合部材314Rと接合部材314Lを液密に一体化するに当たり、屋根板部材312の板材底面を上向き凹条たる接合部材314Rの底面と下向き凹条たる接合部材314Lにおける内側側壁314Liの開口側端面とに面一とした。よって、屋根板材310は、接合部材314Rの底面と接合部材314Lにおける内側側壁314Liの開口側端面の屋根組YHの表皮への接合による下支えに加え、広い範囲に亘る屋根板部材312の板材底面の屋根組YHの表皮への接合によっても屋根組YHに対して下支えされる。このため、本実施例によれば、屋根板材310を屋根組YHに対して極めて安定させて下支えでき、好ましい。しかも、屋根板部材312については、これを、その板材底面の屋根組YHの表皮への接合により、屋根組YHから浮き上がらないようにできる。このため、葺き作業や補修や点検の作業に際して、屋根板部材312の上に作業者が乗っても陥没等を招かないようにできるので、葺き作業等の作業性を向上させることができる。
【0044】
また、外側側壁314Loと内側側壁314Liとを有する接合部材314Lについては、屋根板部材312をその端部の側で屈曲させることで、下向き凹条となるよう形成した。よって、接合部材314Lと屋根板部材312との液密性を容易に確保でき、簡便である。この場合、外側側壁314Roと内側側壁314Riとを有する接合部材314Rについては、外側側壁314Roを屋根板部材312をその端部の側で上向きに屈曲させて形成した上で、内側側壁314Riについては、これを、当該内側側壁をなす平板を屈曲形成された外側側壁314Roと向かい合うよう屋根板部材312の上面に立設させて形成した(
図4(a)参照)。よって、内側側壁314Riをなす平板を屋根板部材212の上面に立設する際の液密性を確保することで、接合部材314Rと屋根板部材212との液密性を容易に確保でき、簡便である。
【0045】
また、本実施例では、隣り合う屋根板部材312の繋ぎ箇所において接合部材314Rを接合部材314にて覆った上で、外側側壁314Loの開口端と屋根板部材312の上面との間にクリアランスCを確保した。これに加え、接合部材314Lの凹条の底壁面と接合部材314Rの内外両側壁開口端との間にもクリアランスHcを確保した。このため、大気温の上昇や日差しの増加により屋根板材310の各部材が膨張しても、外側側壁314Loの開口端が屋根板部材312の上面に当接しないようにすることや、当接しても過大な力が外側側壁314Loに掛からないようにできるので、外側側壁314Loの湾曲や反りを抑制できる。接合部材314Lの凹条の底壁面と接合部材314Rの内外両側壁開口端とについても同様であり、接合部材314Lの凹条の底壁や接合部材314Rの内外両側壁の湾曲や反りを抑制できる。
【0046】
次に、変形例について説明する。
図7は
図5相当図であり変形例の屋根板材310Aの構成と屋根板材310Aが連結されている状態を断面視にて示す説明図である。
【0047】
図示するように、この変形例の屋根板材310Aは、下向き凹条の接合部材314Lを接合部材314Rに比して大きく幅広とした点に特徴がある。この幅広程度は種々設定できるが、接合部材314Lが屋根板材310の幅310W(450〜1200mm)のほぼ1/4〜1/2を占めるようにし、接合部材314Rについては、100〜200mmの外郭寸法314Rwとする。接合部材314Lにおける内側側壁314Liの溝深さ314Lhと、接合部材314Rにおける側壁高さ314Rhについては、既述した通りであり、接合部材314Lにおける外側側壁314Loの開口端から屋根板部材312の上面までのクリアランスCについても同様である。
【0048】
この変形例の屋根板材310Aでは、次の利点がある。屋根板材310Aを並べて屋根を葺く際に、
図7に示すように、隣り合う屋根板部材312の繋ぎ箇所となる接合部材314Rを接合部材314Lで塞ぐ場合の接合部材314Rが占める位置の自由度が高まる。よって、隣り合って屋根を葺くことになる屋根板材310Aと屋根板材310Aとの隔たりを調整できるので、屋根組YHの屋根幅の変更への汎用性が高まる。
【0049】
図8はまた別の変形例の屋根板材310Bを
図5相当にその構成と連結の状態を断面視にて示す説明図、
図9はこの屋根板材310Bの更なる変形を示す説明図である。
【0050】
図8に示す変形例の屋根板材310Bは、屋根板部材312を接合部材314Rの底面および接合部材314Lにおける内側側壁314Liの開口側端面からズラしている。この屋根板材310Bでは、屋根板部材312を屋根組YHの表皮から僅かに浮かせた状態で屋根を葺くことになる点で、上記の実施例と相違する。ところが、屋根組YHに対する屋根板材310Bの下支えは、屋根板部材312の幅方向両端の接合部材314Rの底面と接合部材314Lにおける内側側壁314Liの開口側端面との屋根組YHの表皮への接合により確保できるので、屋根の葺きに際して支障はないと共に、既述した好適な雨仕舞いを発揮できる。
【0051】
図9では、屋根板部材312の板材底面に、当該底面と屋根組YHの表皮との隙間に相当するブロック材312Bを配している。こうすれば、ブロック材312Bを介して屋根板部材312を屋根組YHに対して下支えできるので、葺き作業等の際の屋根板材310Bの陥没を抑制できる。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を実施例にて説明したが、本発明は上記した実施例や変形例の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、実施例の屋根板材310やその変形例は、
図5等に示すようにその断面形状が単純であることから、上下の合わせ型を用いた金属の型成型品や、強度向上が図られたエンジニアプラスチックの型成型品とすることもできる。また、長寸ボルト316については、これを屋根板部材312の底面に設けたが、接合部材314Rの底面、或いは屋根板部材312と接合部材314Rの両底面に設けることもできる。
【0053】
この他、本実施例では、外側側壁314Loの開口端と屋根板部材312の上面との間や、接合部材314Lの凹条の底壁面と接合部材314Rの内外両側壁開口端との間に既述したクリアランスを確保したが、外側側壁314Loの開口端が屋根板部材312の上面に当接するようにしたり、接合部材314Rの内外両側壁開口端が接合部材314Lの凹条の底壁面に当接するようにすることもできる。これは、屋根板材310の形成用の鋼板の板厚がある程度あれば、湾曲や反りの起きる可能性が低いからである。そして、上記した開口端を当接させれば、外側側壁314Loの開口側端面からその内側の接合部材314Rの側への雨水通過と、内側側壁314Rinの開口側端面からその内側の接合部材314Rの凹条への雨水通過を抑制できる。