(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る繊維材料により補強したコンクリートポール1の構造と、前記繊維材料を使用した本発明のコンクリートポールの補強方法を図示の実施の形態を例にとって具体的に説明する。
最初に
図1乃至
図3に基づいて本実施の形態に係るコンクリートポール1の構造について説明する。
【0018】
本発明の繊維材料により補強したコンクリートポール1は、前述したように電力線や電話線に限らず、ケーブルテレビ・有線放送・PHSアンテナ用の通信線、無線LANケーブル、水道やガスメーターの監視線、交通信号の制御線、道路交通情報通信システム(VICS)の情報線や地域気象観測システム(AMeDAS)の情報線等、種々の架空ケーブルの支持柱として利用可能である。
そして、本発明の繊維材料により補強したコンクリートポール1は、内部に鉄筋3が配設されたコンクリートポール本体5を母体として構成されており、当該コンクリートポール本体5の外周面に形成した繊維強化プラスチック層11の存在が本発明の特徴的構成となっている。
【0019】
コンクリートポール本体5は、一例として上端面17が閉塞され下端面19が開放されている長尺な円管状の部材である。そして、該コンクリートポール本体5の側胴部21には、コンクリートポール本体5の長手方向Yに延びる一例として6本の鉄筋3が、同一円周上に等間隔で配置されている。
また、コンクリートポール本体5の上端面17の直径Dは、下端面19の直径D0(
図2参照)よりも幾分小さめに設定されており、下端面19から上端面17にかけて緩やかな傾斜を有するテーパ管形状のコンクリートポール本体5となっている。
【0020】
そして、上記コンクリートポール本体5の外周面のうち、劣化が確認された鉄筋3Cの配設位置外方の地上部には、長手方向Yに向けて延びるシート状の繊維材料7が上記地上部の全領域に貼設範囲が及ぶように設けられている。
また、上記繊維材料7を上記コンクリートポール本体5に貼設する接着剤として樹脂系接着剤9が使用されており、更に該樹脂系接着剤9を上記繊維材料7中に含浸させることによって上述した繊維強化プラスチック層11が形成されている。
【0021】
また、上記シート状の繊維材料7としては、炭素繊維シートが一例として使用でき、本実施の形態では「東レ株式会社」製造の商品名「トレカクロス」を使用している。尚、シート状の繊維材料7としては、他にアラミド繊維シートやガラス繊維シート等を適用することが可能である。
また、樹脂系接着剤9としては、エポキシ樹脂系やアクリル樹脂系の接着剤が一例として使用でき、他にポリアミド樹脂系、フェノール樹脂系や不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂系の接着剤を適用することが可能である。
【0022】
そして、繊維強化プラスチック層11は、上記炭素繊維シートにエポキシ樹脂系の接着剤を含浸させることによって形成される炭素繊維強化プラスチック層によって構成されており、該繊維強化プラスチック層11が上記コンクリートポール本体5の外周面に強固に接着し結合することによって両者は一体化されている。
従って、本発明の繊維材料により補強したコンクリートポール1の機械的強度は、コンクリートポール本体5の有する機械的強度に繊維強化プラスチック層11の有する機械的強度が加味された構成になっている。
【0023】
また、このようにして構成される本発明の繊維材料により補強したコンクリートポール1のサイズとしては、下記の表1に示すように設計許容曲げ荷重Pが5.0kN、全長Lが14m、地面GLに設置された時の地上高さHが11.6m、埋設深さUが2.4m、上端面17の直径Dが19cmのコンクリートポール1Aと、設計許容曲げ荷重Pが3.5kN、全長Lが12m、地面GLに設置された時の地上高さHが10m、埋設深さUが2m、上端面17の直径Dが19cmのコンクリートポール1Bとが一例として適用可能である。
【0025】
次に、
図5に示すブロック図に基づいて本発明のコンクリートポールの繊維材料による補強方法について説明する。尚、
図5は、劣化が確認されたコンクリートポール1に対して繊維材料7を使用して補強する場合の補強作業の流れをブロック図で示している。
【0026】
本発明のコンクリートポールの繊維材料による補強方法は、ステップS1で示す下地処理工程と、ステップS2で示すプライマー塗布工程と、ステップS3で示す接着剤下塗り工程と、ステップS4で示す繊維材料貼付工程と、ステップS5で示す接着剤含浸・脱泡工程と、ステップS6で示す接着剤上塗り工程と、を具備することによって基本的に構成されている。
また、本実施の形態では上記ステップS6の後、ステップS7で示す仕上げ塗装工程が実行される。
【0027】
以下、
図5に示すコンクリートポール1の補強作業の流れに従って上記各ステップS1−S7について具体的に説明する。
(1)下地処理工程(ステップS1)
ステップS1は、コンクリートポール本体5の外周面の下地処理を実行するステップである。
本ステップS1では、本ステップS1に先立って実行される目視点検と探査機械等を使用して行う内部点検等によってコンクリートポールの劣化が確認され、補強が必要と判断された部位のコンクリートポール本体5の外周面に対して下地処理を行う。
【0028】
尚、上記目視点検では、コンクリートポール本体5の外観に現れるひび割れ等の有無が点検され、上記内部点検では、コンクリートポール本体5内部の鉄筋3の破断等の有無が点検される。
そして、コンクリートポール本体5の外周面にひび割れ個所等がある場合には、そのひび割れ個所に補修材23を充填し、ハンディタイプのグラインダー25等によって凸部やこびりついたゴミ等を除去してコンクリートポール本体5の外周面を平滑にする。
【0029】
(2)プライマー塗布工程(ステップS2)
ステップS2は、上記ステップS1で下地処理が実行されたコンクリートポール本体5の外周面にプライマー15を塗布するステップである。
プライマー15は最初に塗る塗料のことであり、本ステップS2では、次のステップS3で塗る樹脂系接着剤9の定着を良好にする目的で実施される。尚、プライマー15の塗布には、一例としてハンディタイプの塗工ロール27が使用可能である。
【0030】
(3)接着剤下塗り工程(ステップS3)
ステップS3は、上記ステップS2でプライマー15が塗布されたコンクリートポール本体5の外周面に樹脂系接着剤9を下塗りするステップである。
樹脂系接着剤9としては、前述したエポキシ樹脂系の接着剤が使用でき、本ステップS3では、次のステップS4でコンクリートポール本体5の外周面に貼り付ける繊維材料7の接着を目的として樹脂系接着剤9の下塗りが実施される。尚、樹脂系接着剤9の下塗りには、一例としてハンディタイプの塗工ロール27が使用可能である。
【0031】
(4)繊維材料貼付工程(ステップS4)
ステップS4は、上記ステップS3で樹脂系接着剤9が下塗りされたコンクリートポール本体5の外周面にシート状の繊維材料7を貼り付けるステップである。
シート状の繊維材料7としては、前述した「トレカクロス」等の炭素繊維シートが使用でき、貼付範囲に合わせて適宜の長さに裁断してコンクリートポール本体5の長手方向Yに沿うようにして貼付される。
【0032】
(5)接着剤含浸・脱泡工程(ステップS5)
ステップS5は、上記ステップS4で貼り付けたシート状の繊維材料7に上記ステップS3で下塗りした樹脂系接着剤9を含浸させながらシート状の繊維材料7とコンクリートポール本体5との間に残留している気泡29を取り除くステップである。
尚、本ステップS5では、一例としてハンディタイプの塗工ロール27が使用でき、該塗工ロール27をシート状の繊維材料7に押し付けて上記気泡29を外部に取り出すように転がすことで、上記樹脂系接着剤9の繊維材料7の裏面側からの含浸と脱泡とを同時に実行する。
【0033】
(6)接着剤上塗り工程(ステップS6)
ステップS6は、上記ステップS5で樹脂系接着剤9が含浸したシート状の繊維材料7の表面に樹脂系接着剤9を上塗りするステップである。
樹脂系接着剤9としては、前述したエポキシ樹脂系の接着剤が使用でき、本ステップS6では、シート状の繊維材料7の表面側からの樹脂系接着剤9の含浸と、該繊維材料7表面への樹脂層の形成を目的として樹脂系接着剤9の上塗りが実施される。尚、樹脂系接着剤9の上塗りには、一例としてハンディタイプの塗工ロール27が使用可能である。
【0034】
(7)仕上げ塗装工程(ステップS7)
ステップS7は、上記ステップS6でシート状の繊維材料7の表面に樹脂系接着剤9が上塗りされたコンクリートポール本体5の外周面に対して仕上げ塗装を施すステップである。
上記仕上げ塗装は、上記ステップS6で形成された繊維強化プラスチック層11を被覆する塗膜層を形成することで繊維強化プラスチック層11を保護する役割と、繊維材料7により補強していない他のコンクリートポールの外周面と同じ色になるように塗装することで他のコンクリートポールとの違和感を解消させる役割を有している。尚、仕上げ塗装には、一例としてエアコンプレッサによって生起された圧縮空気を利用して塗料31を吹き付け塗装するスプレーガン33等が使用可能である。
【0035】
次に、本発明の繊維材料により補強したコンクリートポール1の効果を試すために実施した比較試験の内容と結果について説明する。
図6は、本比較試験において採用した曲げ試験の条件を示している。図中Lは、試験体であるコンクリートポール1の全長、図中Hは、地上高さであり、内側の支持点35の内側端面とコンクリートポール1の上端面17間の距離である。
【0036】
また、
図6中のSは、内側の支持点35の内側端面と外側の支持点37の外側端面との間の距離であり、図中Pは設計許容曲げ荷重、図中δは荷重点Oでの撓みである。
また、荷重点Oをコンクリートポール1の上端面17から250mmの位置に取り、該荷重Oに無負荷の状態から設計許容曲げ荷重Pをかけ、一旦、該荷重Pを取り除いた後続いて設計許容曲げ荷重Pの1.5倍の荷重(1.5P)、同じく2倍の荷重(2P)と荷重を徐々に大きくして最終的にコンクリートポール1が破断される破壊荷重をかけることで撓みδの大きさとひび割れを計測し、破壊の状況を目視検査した。
【0037】
また、本比較試験を行った試験体は
図7と下記の表2に示す4種類であり、表2中の試験体1は、繊維材料7により補強がされていない表1中、上段に示す通常のコンクリートポールCPであり、全長Lが14m、上端面17の直径Dが19cm、設計許容曲げ荷重Pが5.0kN、地上高さHが11.6m、埋設深さUに対応する支持点間距離Sが2.4mである。
従って、表2中の試験体1及び2は、試験体1が繊維材料7により補強されておらず、且つ試験体2が繊維材料7により補強されている点で相違するのみで、その他の全長L、直径D、設計許容曲げ荷重P、地上高さH、支持点間距離S等の値は同一である。
【0038】
また、表2中の試験体3は、曲げ引張側のコンクリートポール1における外周面の地上部の全高さにわたって長尺の繊維材料7により補強すると共に、PC鉄筋6本のうち当該繊維材料7内方の曲げ引張側の1本の鉄筋3を除去した表1中、下段に示すコンクリートポール1Bであり、全長Lが12m、上端面17の直径Dが19cm、設計許容曲げ荷重Pが3.5kN、地上高さHが10.0m、埋設深さUに対応する支持点間距離Sが2.0mである。
【0039】
また、表2中の試験体4は、曲げ引張側の1本の鉄筋3が地上GLに対応する内側の支持点35における内側端面から距離E=1m(
図7(d)参照)の位置で予め切断されており、該切断されている劣化部位13(
図7(d)参照)を中心にして長手方向Yに沿って補強長さF=1mの繊維材料7を使用して補強した表1中、下段に示すコンクリートポール1Bである。
従って、表2中の試験体3及び4は、共に繊維材料7により補強されており、しかも全長L、直径D、設計許容曲げ荷重P、地上高さH、支持点間距離S等の値は互いに同一である。
【0041】
そして、上記4種類の試験体1−4について行った曲げ試験の結果は、下記の表3−表6に示す通りである。
【0046】
先ず、表3と表4に基づいて試験体1と試験体2を比較すると、試験体2(表4)に係るコンクリートポール1Aの方が試験体1(表3)に係る通常のコンクリートポールCPよりも撓みδが設計荷重×2(2P)において1255mmから675mmへ小さくなっており、またひび割れの幅も設計荷重×2(2P)において0.30mmから0.10mmへ小さくなっていることが分かる。
また、試験体2(表4)の方が試験体1(表3)よりも破壊荷重が13.39kNから15.02kNへ大きくなり、繊維材料7によって補強した効果が数字の上でも明確に証明された。
【0047】
次に、表5と表6に基づいて試験体3と試験体4を比較すると、試験体3(表5)に係るコンクリートポール1Bの方が試験体4(表6)に係るコンクリートポール1Bよりも破壊荷重が7.15kNから7.80kNへと大きくなり、ひび割れの幅が設計荷重Pにおいて0.10mmから0.05mmへと小さくなっている。
設計荷重Pがかかっている状態では、幾分、試験体3(表5)の方が試験体4(表6)よりも撓みδが大きくなっているが、設計荷重Pの2倍の荷重(2P)がかかっている状態では、試験体3の方が試験体4よりも撓みδが1300mmから720mmへとかなり小さくなっている。
【0048】
従って、上記表3−表6の4本の試験体1−4を比較してみると、通常のコンクリートポールである試験体1(表3)に比して、引張側及び圧縮側に繊維材料の補強を行った試験体2では、たわみ、ひび割れが抑制され且つ破壊荷重がアップする。また、引張側の鉄筋1本を抜いた直上に長尺の繊維材料の補強を行った試験体3(表5)では、試験体1に比して、破壊安全率は若干低下するが設計荷重P×2(2P)において撓みδが抑制され、また引張側鉄筋1本を切断した直上に部分的長さの繊維材料の補強を行った試験体4(表6)では、試験体1(表3)に比して、やはり破壊安全率は若干低下するが設計荷重P×2(2P)において撓みδがほぼ同等であった。
上記の如く、試験体4(表6)の如く、繊維材料7の長さFを1m程度(
図7(d)参照)と短くしても、鉄筋3Cの劣化部位13の周辺領域に繊維材料7を貼付した場合には、鉄筋3に劣化のない通常のコンクリートポールCSに相当するような機械的強度が得られることが分かる。
【0049】
このように、本発明の繊維材料により補強したコンクリートポール1及びコンクリートポールの繊維材料による補強方法によれば、コンクリートポール1のほぼ本格的補強作業を簡単に短時間で実行することができるようになり、当該補強作業の際に従来、行っていた仮補強工事は不要となり且つその間の停電の告知・了解等の手間がなくなって大幅な労力の削減が図られるようになる。
また、コンクリートポール本体5と、繊維材料7を含む繊維強化プラスチック層11との一体化によって、従来、生じていたバンド部材の緩み等が生じないから長期に亘って安定した補強効果を得ることができる。
また、長さが決まっていた従来の補強板のような補強長さFの制限がないから、コンクリートポール1の地上部の全領域に及ぶような補強長さFにすることもできるし、鉄筋3の劣化部位13の周辺領域のみを補強長さFにするような繊維材料7の使い方が可能になる。
【0050】
以上が本発明の基本的な実施の形態であるが、本発明の繊維材料により補強したコンクリートポール1及びコンクリートポールの繊維材料による補強方法は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的構成の変更や省略、あるいは当業者において周知、慣用の技術を追加することが可能である。
例えば、本発明による繊維材料7によるコンクリートポール1の補強は、劣化が確認されたコンクリートポール1に限らず、劣化が確認されていないが一層の安全を図るためにコンクリートポール1を補強したいような場合にも適用可能である。
【0051】
具体的には、
図4(a)に示すように劣化が確認された鉄筋3Cの外方と、当該鉄筋3Cの反対側に位置する劣化が生じていない鉄筋3の外方との2個所を繊維材料7によって補強することが可能である。
因みにこのような構成にした場合には、同一直線上の2方向の曲げ荷重に対して上記2つの繊維材料7の引張強度が交互に作用してコンクリートポール1の撓みδが小さくなって曲げ強度が向上する。
【0052】
また、すべての鉄筋3に劣化が生じていない場合には、
図4(b)に示すように予めすべての鉄筋3の外方に位置するコンクリートポール本体5の外周面に対して複数の繊維材料7を貼付しておくことも可能である。
また、前記実施の形態の中でも一部言及したように、シート状の繊維材料7の長手方向Yにおける貼設範囲は、鉄筋3が配設されている地上部での全領域に限らず、
図4(c)に示すように鉄筋3の劣化部位13を含む周辺領域のみに設定することが可能である。
【0053】
この他、前記実施の形態で採用したステップS7の仕上げ塗装工程を省略してステップS1−ステップS6の工程によって本発明のコンクリートポールの繊維材料による補強方法を構成することが可能である。また、上記ステップS6の接着剤上塗り工程によって繊維材料7の表裏両面からの樹脂系接着剤9の含浸と脱泡が同時に実行できる場合には、ステップS5とステップS6を一工程にして同時に上記2つのステップS5とステップS6とを実行するように構成することも可能である。
【0054】
なお、
図4(c)及び
図7(d)中、鉄筋3の劣化部位13を含む部分的周辺領域において、前記シート状の繊維材料7は、該劣化部位13を中心に長手方向に±50cmの範囲内の長さにわたって貼設されることが好ましい。これによれば、破壊が補強範囲の末端部の鉄筋抜けで決まるので、この程度の長さであれば目標とする補強効果に対して実用的に補強程度の最適化を図ることができ、コストダウンが可能である。この場合のシート状の繊維材料7の長さは上記下限数値より短いと補強効果が低下し、(つまり、引張鉄筋の抜けが早い段階で発生し)、また上記上限数値より長いと補強効果の割にコストが高くなってしまう(つまり、CFS(炭素繊維シート)とコンクリートの境界でひびわれから進展する引張鉄筋の抜けが抑制され、あたかも通常のコンクリートポールのような曲げ挙動を示すため破壊安全率は上昇する。しかし、安全率は上げる必要はない。)
【0055】
また、
図1、
図3、
図5中、前記樹脂系接着剤9は一例としてエポキシ樹脂系の接着剤を使用しているが、これに限らず、アクリル樹脂系の接着剤でもよい。アクリル樹脂系の接着剤の一例としては、「デンカ・ハードロックII」(登録商標:電気化学工業株式会社製)接着剤でよく、その仕様は、マイナス15°Cでも使用可能であり、初期硬化時間は30〜60分程度である。またアクリル樹脂系の特徴として、その下層のプライマー15が完全硬化しない半乾き状態でも引き続く接着剤下塗り(
図5中、ステップS3参照)が可能であり工期を短縮できる等のメリットがある。なお、上記乾燥時間については、プライマー、接着剤は気温によりまた、接着剤タイプ(S夏用、W冬用、R春秋用)でも変わってくる。本工法は乾燥時間の如何にかかわらず、生乾きでも接着工程へと進むことができるものである。
【0056】
すなわち、樹脂系接着剤にアクリル接着剤を用いた場合、前記コンクリートポール本体(5)の外周面にプライマー(15)を塗布するステップS2(
図5)と、前記シート状の繊維材料(7)の表面に樹脂系接着剤(9)を上塗りするステップS3(
図5)との間の時間は、60分以内で対応可能であり、更なる工期短縮を図ることができる。
【0057】
また、前記シート状の繊維材料(7)の引張剛性は、150−350kN/mmである。これにより、コンクリートポールの補強程度の最適化が図れ、且つコストダウンができる。この引張剛性が下限値150kN/mmより小さくなると、補強効果が低下し、また、上限値350kN/mmより大きくなっても、補強効果はさして変わらない。なお、今回検討した炭素繊維シートの機械的性質は引張強度が2.4kN/mm
2以上、弾性係数は245〜440kN/mm
2であり、また、引張り強度と弾性係数は比例関係ではない(つまり、どちらかが高ければ一方は低いという関係である)。補強効果は弾性係数が高いほど変形に対する剛性が上昇し、ひびわれ、全体変形などを抑制できる。一方、これが低ければその逆となる(特に伸びが大きいためシート剥離を助長する)引張り強度については、下限値2.4kN/mm
2でも本補強においては十分である。従って、本発明における補強効果は弾性係数が大なる方が有利である。
【0058】
ここで、前記表2及び表3においては、試験体1乃至4は、コンクリートポールの一本のみの鉄筋3が劣化(切断)したことを想定し、その代替鉄筋として、炭素繊維シート(CFRP)7を接着補強しその曲げ性能を次のように確認した。
[補強内容]
(1)(
図7(a)に対応)試験体1…14(m;全長、以下同様)−5(kN;設計荷重、以下同様)(無補強)
(2)(
図7(b)に対応)試験体2…14−5(補強)試験体1の曲げ引張縁に補強したもの
(3)(
図7(c)に対応)試験体3…12−3.5(引張鉄筋1本全長除去+その引張縁にCFRP7補強)
(4)(
図7(d)に対応)試験体4…12−3.5(引張鉄筋1本1箇所で予め切断+切断箇所にCFRP7部分補強)
[結果]
(1)試験体1、2…補強効果有り、(強度、ひび割れ抑制効果、変形抑制効果)
(2)試験体3…無補強コンクリートポールと同程度に回復(破壊安全率F=2.0以上)
(3)試験体4…無補強コンクリートポールと同程度に回復(破壊安全率F=2.0以上)
【0059】
なお、実際の現場では、前記試験体4のような状況において複数本の鉄筋3が同時に劣化(切断又は破断)する事態がしばしば起こると想定される。即ち、一本でなく複数本の鉄筋3が同時に劣化(切断又は破断)した箇所を炭素繊維シート7により部分補強した方が補強の無駄がなく、経済的である。従って、次のような条件(A)において、前記現実に起こり易い部分補強に焦点を絞り込み検証試験を行った。
(A)CP(コンクリートポール)の劣化条件として、鉄筋3は、1本の鉄筋でなく、全鉄筋の50%が部分的に劣化(破断)、即ち、試験体4(12−3.5)であれば全鉄筋6本中3本が部分的に破断し、試験体2(14−5)であれば、全鉄筋12本中6本が部分的に破断した状態を想定する。なお、50%の鉄筋3が劣化(破断)した場合、にコンクリートポール(CP)が無補強であると、
(1)試験体3又は4(前記12−3.5)の破壊荷重は約1.7kN実験値(破壊安全率F=0.5)であり、
(2)試験体1又は2(前記14−5)の破壊荷重約2.0kN計算値(破壊安全率F=0.4)であった。従って、コンクリートポール(CP)が無補強の場合、設計荷重(使用状態性能)の半分程度の耐力となってしまうことが分かる。
【0060】
この場合、現実に求められる補強効果は、(i)鉄筋が50%劣化した箇所を炭素繊維シート7で部分補強することにより、コンクリートポールの設計荷重(使用状態性能)以上の回復が可能である事、及び(ii)無補強コンクリートポール(引張鉄筋50%劣化)の2倍以上の安全率を確保することである。即ち、炭素繊維シート7による補強による目標破壊安全率は、試験体3及び4(12−3.5)、及び試験体1及び2(14−5)において、破壊安全率F>1.0以上である。ここで、CFS(炭素繊維シート)の長さを延長することにより、引張鉄筋の抜けを防止できるため、破壊安全率F=2に近づけることができる。
【0061】
次に、上記試験体1乃至4の一部の複数の鉄筋のうち50%が切断された何れかを使用し、且つ特定の炭素繊維シート7(「トレカクロス(UM46−40G)」登録商標:東レ株式会社製)を補強用に使用したもので、3回の曲げ実験を行った。使用した炭素繊維シート7は、「東レ製トレカクロス:UM46−40G、1層あたり、長さ1m×幅25cm」を、次の表7に示す如く、使用した。ここで、曲げ試験は、UM40のCFSで、12−3.5を3回、14−5を3回実施した。また、UT70のCFSで12−3.5を1回実施した。
【0063】
なお、各3本の試験体5、6を使用し、各コンクリートポールの6本の鉄筋のうち3本(50%)を切断し、試験体5では、これを「トレカクロス(UM46−40G)」の炭素繊維シート7で2層補強し(表7中、CF2中の数値2が2層補強を意味する)、且つ試験体6では、これを「トレカクロス(UM46−40G)」の炭素繊維シート7で3層補強した(表7中、CF3中の数値3が3層補強を意味する)。また表7中、「UM40」は「UM46−40G」の略称であり、「UM」は高弾性を意味し、且つ「40」は繊維重量×10g/m
2を意味し、また「_50」は、ポールの切断位置から端部までの補強長さである。また、接着剤、プライマーは冬用(W)、プライマーと事前のコンクリート下地処理は、サンダー研磨で表面清掃処理を行った。又、表7中、「接着材令が15日」とは、接着剤を塗布してから15日が経過した時点を言う。
【0064】
次に、本発明の繊維材料により補強したコンクリートポール41(
図8参照)の効果を試すために実施した曲げ試験の内容と結果について説明する。
図8は、本曲げ試験において採用したコンクリートポール41(全長12m、設計荷重3.5kN)の曲げ条件を示している。図中L1(=12m)は、試験体であるコンクリートポール41の全長、図中H1(=9.5m)は、コンクリートポール41の地上高さであり、内側の支持点35の内側端面とコンクリートポール41の上端面17間の距離である。
【0065】
また、
図8中のS1は、内側の支持点35の内側端面と外側の支持点37の外側端面との間の距離でありこの場合2.0mである。また、図中Pは曲げ荷重(kN)、図中δは荷重点Oでの撓み量(mm)である。 また、内側支持点35から距離T(=1m)の位置の外周面に「トレカクロス(UM46−40G)」の炭素繊維シート7a(長さ1m)が2層分付着形成されている。従って、コンクリートポール41の荷重点Oに無負荷の状態から荷重P(kN)をかけ、この荷重Pの値を順次大きくしていって、最終的にポール41が破壊する荷重を測定、また破壊するまでの撓みδの量(mm)とひび割れ幅(mm)とを計測した。ここでいう破壊とは、「CFS破断」「CFS剥離」「鉄筋抜け」「コンクリート圧壊」が考えられる。し、破壊の状況を目視検査した。
【0066】
本比較試験を行った試験結果は表8に示されている。
【0068】
表8中、荷重P(kN)が3.50kN(設計荷重)→5.00kN(設計荷重×1.43)→最大荷重(6.00kN;この時点でCPは破壊される)→ポール41の破壊後に更に強制曲げて炭素繊維シート7aの境界部を大きく開かせたとき(以下、強制曲げ時という)の荷重値(4.35kN)、と変化するに応じて、たわみδ量(mm)は順次大きくなり、荷重Pが3.50kN及び5.00kNでひび割れ幅(mm)も順次大きくなるが、荷重Pが最大荷重及び強制曲げ時では、更に大きく開いてひび割れの概念を超えるため計測しなかった。また歪については、試験体5の曲げ引張側で、値「0」は炭素繊維シート7aの中間位置を示し、また「−100」、「−200」、・・・「−550」は夫々、炭素繊維シート7aの中間位置(引張り鉄筋を切断した位置)からポール41の根本方向への距離(mm)を示しており、最後の「GL」はグラウンドレベル位置を示している。なお、炭素繊維シート7aの長さは1mであり半分長さは500mmであるから数値「−450」と「−550」との中間位置の「−500」(mm)で終了していることになる。同様に、試験体5の曲げ圧縮側の数値「−200」、・・・「−550」についても同様である。これらによれば、荷重Pが3.50kN→5.00kN→6.00kN(最大荷重、破壊時)と大きくなるに連れて、曲げ引張り側及び曲げ圧縮側でも歪みは徐々に大きくなるが、ポール41の破壊後の強制曲げ時では弾性変形でなく塑性変形なので歪み値はむしろ小さくなっている。また破壊安全率は、(最大荷重)/(設計荷重)=1.71であり、1.0より大きいから安全と言える。
【0069】
図10のグラフは、上記表8中の数値を「荷重―CFSひずみ、たわみ図」として示したものであり、
図10中、距離「0(切断面)」(mm)(グラフ中、数値1、以下同様)、「−100」(mm)(数値2)、「−200」(mm)(数値3)、「−300」(mm)(数値4)、「−400」(mm)(数値5)、「−450」(mm)(数値6)、「−550」(mm)(数値7)、「GL引張」(数値8)、距離「0(切断面での解析値)」(mm)(数値9)の各位置に貼付したCFSひずみの分布である。また、ひずみ値を10で除した値はたわみ値「μ/10」(mm)(数値10)として読み取ることができ、たわみの単位はmmである。
表8及び
図10を比べて見ると、荷重を加えるに従い、各箇所のひずみ値は増加していき、その値は鉄筋切断位置「0」部を最大として、端部に行くほどその値は小さくなっていく。最大荷重後、引張鉄筋の抜けにより荷重がいったん落ちて、たわみの増加とともにCFSひずみ値は減少していくが、急激に倒壊する(破壊する)ことなくたわみが進行していくのが確認できる。通常のコンクリートポールは最大荷重に達した時点で脆性的に倒壊(破壊)するが、本補強工法では、破壊まで粘りある変形性能を有していると言える。
【0070】
また、
図11のグラフは、上記表8中の数値を「各荷重のCFSひずみ値」として示したものであり、
図11中、荷重の変化に応じて、「0(切断面)」(mm)からの距離に対応した歪み(μ)の変化を示しており、荷重は「3.5kN」(グラフ中、数値1、以下同様)、「4kN」(数値2)、「4.9kN」(数値3)、「6kN」(mm)(数値4)、「3.5kN(ひび割れ拡大)」(数値5)と変化している。
表8中、設計荷重時(P=3.50kN)には、炭素繊維シート7aの引張歪みは応力換算値で、450,000×1,550×10
∧−6=697Mpa程度であると思われる。(炭素繊維シート7a自体の引張強度は2,500Mpa)次に、設計荷重×1.43(P=5.00kN)時には、炭素繊維シート7aの歪み分布は
図11のグラフから見て、「0(切断面)」(mm)で最大値となる山のような分布形状であり、データ上からCFSの剥離はないと言えるが、目視でも炭素繊維シート7a自体の剥離は観察されなかった。このとき、炭素繊維シート7a中央部のひび割れ幅は0.2mm。コンクリート部の地際付近に同程度のひび割れが確認できた。
【0071】
次に、最大荷重時(P=6.00kN)には、炭素繊維シート7a下端とコンクリートとの境界部でひび割れが拡大が始まる、荷重は徐々に落ちながら、たわみδが進行する。そして、ひび割れ拡大と同時に引っ張り鉄筋の抜けが支配的になり、その後、圧縮側コンクリートが圧縮破壊した。このとき鉄筋自体の破断は確認されなかった。次に、強制曲げ時では、荷重P=約4kNのままで、たわみだけが増大していった。最終的には、炭素繊維シート7a下端とコンクリートとの境界部のひび割れが拡大し、縮破壊されたコンクリートが崩れ落ちながら徐々に荷重は落ちていき、試験は終了した。なお、「破壊荷重」とは、最後にコンクリートが圧壊した時点、つまり、上記のように最大荷重以降、荷重の低下とともにたわみδが増大し、同時に境界のひびわれが鉄筋抜けととも大きく開き強制曲げにてコンクリートが圧壊した時点での荷重、を意味する。
【0072】
次に、
図9に示すコンクリートポール42(全長14m、設計荷重5.00kN)の曲げ条件試験を示している。図中L2(=14m)は、試験体であるコンクリートポール42の全長、図中H2(11.6m)は、地上高さであり、内側の支持点35の内側端面とコンクリートポール41の上端面17間の距離である。
【0073】
また、
図9中のS2は、2.4mである。また、図中Pは曲げ荷重(kN)、δは荷重点Oでの撓み量(mm)である。また、内側支持点35から距離T(=1m)の位置の外周面に「トレカクロス(UM46−40G)」の炭素繊維シート7b(長さ1m)が2層分でなく3層分付着形成されている。他の条件は
図8の場合と同様である。
【0074】
本曲げ試験を行った試験結果は表9に示されている。
【0076】
表9中、荷重P(kN)が5.00kN(設計荷重)→6.00kN(設計荷重×1.2)→最大荷重(6.40kN;この時点でCPは破壊)→ポール42の破壊後の強制曲げ(荷重値=4.40kN)、と変化するに応じて、たわみδ量(mm)、ひび割れ幅、ひび割れ個数、歪みを計測している。また、表9中、設計荷重時(P=5.00kN)には、炭素繊維シート7bの引張歪みは応力換算値で、450,000×1,907×10
∧−6=858Mpa程度であると思われる。その他の点は表8と同様である。また破壊安全率は、(最大荷重)/(設計荷重)=1.28であり、1.0より大きいから安全と言える。
【0077】
図12のグラフは、上記表9中の数値を「荷重―CFSひずみ、たわみ図」として示したものであり、
図12中に付した数値1、2、3、・・・10の折れ線の意味は
図10の場合と同様である。
表9及び
図12を比べて見ると、荷重を加えるに従い、各箇所のひずみ値は増加していき、その値は鉄筋切断位置「0」部を最大として、端部に行くほどその値は小さくなっていく。最大荷重後、引張鉄筋の抜けにより荷重がいったん落ちて、たわみの増加とともにCFSひずみ値は減少していくが、急激に倒壊する(破壊する)ことなくたわみが進行していくのが確認できる。通常のコンクリートポールは最大荷重に達した時点で脆性的に倒壊(破壊)するが、本補強工法では、破壊まで粘りある変形性能を有していると言える。
【0078】
また、
図13のグラフは、上記表9中の数値を「各荷重のCFSひずみ値」として示したものであり、
図13中に付した数値1、2、・・5の折れ線の意味は、荷重値が若干変化しているのみで、その意義は
図11の場合と同様である。
荷重の変化に応じて、「0(切断面)」(mm)からの距離に対応した歪み(μ)の変化を示しており、荷重は「5kN」(グラフ中、数値1、以下同様)、「5.9kN」(数値2)、「6.4kN(最大荷重)」(数値3)、「3.98kN(ひび割れ拡大)」(mm)(数値4)、「2.22kN(たわみ1m)」(数値5)と変化している。
【0079】
次に、上記
図8及び
図9の曲げ試験の結果の表8及び表9より、次のことが言える。コンクリートポール表面の下地処理は、コンクリート表面の清掃処理を24番手程度に行う。また、
図8及び
図9のコンクリートポール41及び42は夫々、実際に現場にあったコンクリート電柱を撤去して計測したものであり、何れも、炭素繊維シート7a、7b端部とコンクリートとの境界部におけるひび割れ幅が徐々に拡大することによるコンクリートの圧縮破壊を生ずるが、炭素繊維シート7a、7bも剥離することなく粘りのある破壊であることを確認した。なお、試験体5の条件では炭素繊維シート7aは2層で十分であり、他方、試験体6の条件では炭素繊維シート7bは3層が必要であることがわかった。
【0080】
次に、下記の表10に示した3種類の試験体7、8、9は何れも、複数の鉄筋のうち50%が切断され、使用した炭素繊維シート7は、「東レ製トレカクロス:UM46−40G、1層あたり、長さ1m×幅25cm」を、試験体7「12−3.5」(表10)では2層補強、試験体8「14−5」(表10)では3層補強、試験体9「12−3.5」(表10)では2層補強で使用した。なおこの場合、試験体7及び8では、表7の場合と同様に高弾性の炭素繊維シート7(「トレカクロス(UM46−40G)」登録商標:東レ株式会社製)を補強用に使用しているが、試験体9では、高強度の炭素繊維シート7c(「トレカクロス(UT70−40G)」(略称は「UT40」);登録商標:東レ株式会社製)を補強用に使用している。
【0082】
次に、本発明の繊維材料により補強したコンクリートポール43、44の効果を試すために実施した曲げ試験の内容と結果について説明する。
図8は、本曲げ試験において採用した試験体7及び9のコンクリートポール43(全長12m、設計荷重3.5kN)の曲げ試験状態図を示しており、
図8の試験体5の試験の場合と大略同様の構成であるから、その説明を省略する。ただし、炭素繊維シート7a(長さ1m)が2層分付着形成されている。
【0083】
試験体7(表10参照)の曲げ試験を行った結果が表11に示されている。
【0085】
表11中、荷重P(kN)が3.50kN(設計荷重)→5.00kN(設計荷重×1.43)→最大荷重(5.92kN;この時点でCPは破壊される)→強制曲げ荷重5.55kNと変化するに応じて、たわみδ量(mm)及びひび割れ幅(mm)は順次大きくなるが、荷重Pが最大荷重及び強制曲げ荷重時では、更に大きく開いてひび割れの概念を超えるため計測しなかった。また歪については、試験体5の曲げ引張側及び曲げ圧縮側の数値についても表8と同様の傾向を有している。また破壊安全率は、(最大荷重)/(設計荷重)=1.69であり、1.0より大きいから安全と言える。
【0086】
図14のグラフは、上記表11中の数値を「荷重―CFSひずみ、たわみ図」として示したものであり、
図14中に付した数値1、2、3、・・・10の折れ線の意味は
図10及び
図12の場合と同様である。
表11及び
図14を比べて見ると、荷重を加えるに従い、各箇所のひずみ値は増加していき、その値は鉄筋切断位置「0」部を最大として、端部に行くほどその値は小さくなっていく。最大荷重後、引張鉄筋の抜けにより荷重がいったん落ちて、たわみの増加とともにCFSひずみ値は減少していくが、急激に倒壊する(破壊する)ことなくたわみが進行していくのが確認できる。通常のコンクリートポールは最大荷重に達した時点で脆性的に倒壊(破壊)するが、本補強工法では、破壊まで粘りある変形性能を有していると言える。
【0087】
また、
図15のグラフは、上記表11中の数値を「各荷重のCFSひずみ値」として示したものであり、
図15中に付した数値1、2、・・5の折れ線の意味は、荷重値が若干変化しているのみで、その意義は
図11及び
図13の場合と同様である。
荷重の変化に応じて、「0(切断面)」(mm)からの距離に対応した歪み(μ)の変化を示しており、荷重は「3.5kN」(グラフ中、数値1、以下同様)、「5kN」(数値2)、「5.92kN(最大荷重時)」(数値3)、「5.39kN(たわみ530mm時)」(mm)(数値4)、「2.7kN(たわみ727mm時)」(数値5)と変化している。
【0088】
また、表11中、設計荷重時(P=3.50kN)には、炭素繊維シート7aの引張歪みは応力換算値で、450,000×1,693×10
∧−6=762Mpa程度であると思われる。(炭素繊維シート7a自体の引張強度は2,500Mpa)次に、設計荷重×1.43(P=5.00kN)時、最大荷重時(P=5.92kN)及び強制曲げ時(P=5.55kN)には、上記表8の場合と同様の事が言える。また、炭素繊維シート7aの歪み分布は、
図15のグラフ「各荷重のCFSひずみ値」切断位置を最大値とした山のような分布形状であり、データ上からもCFSの剥離はないと言える。
【0089】
次に、
図9は、本曲げ試験において採用した試験体8のコンクリートポール44(全長14m、設計荷重5.00kN)の曲げ試験状態図を示しており、コンクリートポール42の場合と大略同様の構成であるから、その説明を省略する。
【0090】
表12には、試験体8(表10参照)の曲げ試験を行った結果が示されている。
【0092】
表12中、荷重P(kN)が5.00kN(設計荷重)→6.00kN(設計荷重×1.2)→最大荷重(7.42kN;この時点でCPは破壊される)→強制曲げ荷重4.20kN、と変化するに応じて、たわみδ量(mm)及びひび割れ幅(mm)は順次大きくなるが、この場合荷重Pが6.00kN(設計荷重×1.2)になった時点で、更に大きく開いてひび割れの概念を超えるため計測しなかった。また歪については、試験体5の曲げ引張側及び曲げ圧縮側の位置を示す数値についても表8、表10と同様の傾向であり、何れも歪みは最大荷重(P=7.42Kg)時に最高値となった。また破壊安全率は、(最大荷重)/(設計荷重)=1.48であり、1.0より大きいから安全と言える。
【0093】
また、表12中、設計荷重時(P=5.00kN)には、炭素繊維シート7bの引張歪みは応力換算値で、450,000×1,671×10
∧−6=752Mpa程度であると思われる。(炭素繊維シート7a自体の引張強度は2,500Mpa)次に、設計荷重×1.2(P=6.00kN)時、最大荷重時(P=7.42kN)及び強制曲げ時(P=4.20kN)には、上記表8及び表10の場合と同様の事が言える。
【0094】
図16のグラフは、上記表12中の数値を「荷重―CFSひずみ、たわみ図」として示したものであり、
図16中に付した数値1、2、3、・・・10の折れ線の意味は
図10の場合と同様であり、数値11はたわみを10で除した値(mm)である。
表12及び
図16を比べて見ると、荷重を加えるに従い、各箇所のひずみ値は増加していき、その値は鉄筋切断位置「0」部を最大として、端部に行くほどその値は小さくなっていく。最大荷重後、引張鉄筋の抜けにより荷重がいったん落ちて、たわみの増加とともにCFSひずみ値は減少していくが、急激に倒壊する(破壊する)ことなくたわみが進行していくのが確認できる。通常のコンクリートポールは最大荷重に達した時点で脆性的に倒壊(破壊)するが、本補強工法では、破壊まで粘りある変形性能を有していると言える。
【0095】
また、
図17のグラフは、上記表12中の数値を「各荷重のCFSひずみ値」として示したものであり、
図17中に付した数値1、2、・・5の折れ線の意味は、荷重値が若干変化しているのみで、その意義は
図11、13及び15の場合と同様である。
荷重の変化に応じて、「0(切断面)」(mm)からの距離に対応した歪み(μ)の変化を示しており、荷重は「3.5kN(設計荷重時)」(グラフ中、数値1、以下同様)、「5kN」(数値2)、「5.92kN(最大荷重時)」(数値3)、「5.39kN(たわみ530mm時)」(mm)(数値4)、「2.7kN(たわみ727mm)」(数値5)と変化している。
また、3層の炭素繊維シート7bの歪み分布は、
図17のグラフ「各荷重のCFSひずみ値」切断位置を最大値とした山のような分布形状であり、データ上からもCFSの剥離はないと言える。
【0096】
次に、表13に、
図8に示したコンクリートポール43とほぼ同様にセットした、試験体9(表10参照)の新品のコンクリートポール43´(図示せず;全長12m、設計荷重3.50kN)に2層の炭素繊維シート7bを接着した場合の曲げ試験結果を示している。
【0098】
表11及び12中では、コンクリートポール43及び44に対して使用された炭素繊維シート7は、高弾性の「UM46−40G」(略して、UM40)シートであったが、表13中で使用した炭素繊維シートは、高強度の炭素繊維シート7c(「トレカクロス(UT70−40G)」(略して、UT40)(長さ1m)が2層にして使用している。
【0099】
高強度の「UT70−40G」(略して、UT40)は、弾性係数が「UM46−40G」(略して、UM40)より低いためひずみ値が大きくまたひび割れ幅も大きい。変形抑止効果という点では、高弾性(UM40)が有利な結果となった。なお、UM40とUT40との違いは、試験体7(UM40)及び9(UT40)「12−3.5のシート」中央(0)のひび割れ幅の値が、荷重P=3.5kN時において、UM40→0.05mm、UT40→0.15mmであった。つまり、ひび割れ幅について、UM40はUT40の1/3まで抑えられており、ひび割れ抑止効果があることがわかった。従って、14−5の試験体についても同じ結果になることが予想される。
【0100】
表13によれば、試験体9(表10参照)の曲げ試験を行った結果が示されている。表13中、荷重P(kN)が3.50kN(設計荷重)→5.00kN(設計荷重×1.2)→最大荷重(5.15kN;この時点でCPは破壊される)→強制曲げ荷重4.37kN、と変化するに応じて、たわみδ量(mm)及びひび割れ幅(mm)は順次大きくなるが、この場合荷重Pが5.15kN(最大荷重)になった時点で、更に大きく開いてひび割れの概念を超えるため計測しなかった。また歪については、試験体1−9の曲げ引張側及び曲げ圧縮側の位置を示す数値についても表11、表12と同様であり、何れも歪みは最大荷重(P=5.15Kg)時に最高値となった。また破壊安全率は、(最大荷重)/(設計荷重)=1.47であり、1.0より大きいから安全と言える。
【0101】
また、表13中、設計荷重時(P=3.50kN)には、炭素繊維シートの引張歪みは応力換算値で、2350,000×3,322×10
∧−6=780Mpa程度であると思われる。(炭素繊維シート7a自体の引張強度は3,500Mpa)次に、設計荷重×1.2(P=5.00kN)時、最大荷重時(P=5.15kN)及び強制曲げ時(P=4.37kN)には、上記表11及び表12の場合と同様の事が言える。
【0102】
図18のグラフは、上記表13中の数値を「荷重―CFSひずみ、たわみ図」として示したものであり、
図18中に付した数値1、2、3、・・・10の折れ線の意味は
図10の場合と同様である。
表13及び
図18を比べて見ると、荷重を加えるに従い、各箇所のひずみ値は増加していき、その値は鉄筋切断位置「0」部を最大として、端部に行くほどその値は小さくなっていく。最大荷重後、引張鉄筋の抜けにより荷重がいったん落ちて、たわみの増加とともにCFSひずみ値は減少していくが、急激に倒壊する(破壊する)ことなくたわみが進行していくのが確認できる。通常のコンクリートポールは最大荷重に達した時点で脆性的に倒壊(破壊)するが、本補強工法では、破壊まで粘りある変形性能を有していると言える。
【0103】
また、
図19のグラフは、上記表13中の数値を「各荷重のCFSひずみ値」として示したものであり、
図19中に付した数値1、2、・・5の折れ線の意味は、荷重値が若干変化しているのみで、その意義は
図11、13、15及び17の場合と同様である。
荷重の変化に応じて、「0(切断面)」(mm)からの距離に対応した歪み(μ)の変化を示しており、荷重は「3.5kN」(グラフ中、数値1、以下同様)、「5kN」(数値2)、「5.15kN(最大荷重時)」(数値3)、「4.37kN(たわみ534mm時)」(mm)(数値4)、「2.82kN(たわみ797mm)」(数値5)と変化している。また、炭素繊維シート7cの歪み分布は、
図19のグラフ「各荷重のCFSひずみ値」切断位置を最大値とした山のような分布形状であり、データ上からもCFSの剥離はないと言える。
【0104】
次に、上記
図8及び
図9の曲げ試験の結果の表11乃至表13より、次のことが言える。コンクリートポール表面の下地処理は、コンクリート表面の清掃処理を24番手程度に行う。また、
図8及び
図9のコンクリートポール41、42、43、44は夫々、実際に現場にあったコンクリート電柱を撤去して計測したものであり、何れも、炭素繊維シート7a−7c端部とコンクリートとの境界部におけるひび割れ幅が徐々に拡大することによるコンクリートの圧縮破壊を生ずるが、炭素繊維シートも剥離することなく粘りのある破壊であることを確認した。