特許第5969761号(P5969761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5969761粘着剤組成物の製造方法、粘着剤層の製造方法及び保護フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5969761
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】粘着剤組成物の製造方法、粘着剤層の製造方法及び保護フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/08 20060101AFI20160804BHJP
   C09J 133/10 20060101ALI20160804BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20160804BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   C09J133/08
   C09J133/10
   C09J11/06
   C09J7/02 Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-288182(P2011-288182)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136670(P2013-136670A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100075351
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 充
(72)【発明者】
【氏名】黒川 敦史
(72)【発明者】
【氏名】荒井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】所司 悟
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−158025(JP,A)
【文献】 特開2011−116972(JP,A)
【文献】 特開昭57−131254(JP,A)
【文献】 特開2003−013011(JP,A)
【文献】 特開昭61−148279(JP,A)
【文献】 特開2010−106231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 133/08
C09J 7/02
C09J 11/06
C09J 133/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中での懸濁重合により、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を得たのち、
前記成分(A)を含む液に固液分離処理を施し、得られた固形分を有機溶媒に溶解する有機溶媒置換を行い、
重量平均分子量が80万〜250万で、かつ分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比)が3.5以下の前記成分(A)を含み、前記成分(A)における分子量10万以下の低分子量重合体の含有割合が、2.0面積%未満である粘着剤組成物を得ることを特徴とする粘着剤組成物の製造方法。
【請求項2】
粘着剤組成物が架橋剤を含む請求項1に記載の粘着剤組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法で得られた粘着剤組成物により形成することを特徴とする粘着剤層の製造方法
【請求項4】
請求項に記載の方法で得られた着剤層を基材の一方の面に設けることを特徴とする保護フィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物の製造方法、この方法で得られた粘着剤組成物からなる粘着剤、及び上記粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有する保護フィルムに関する。さらに詳しくは、残留モノマー及び低分子量重合体が極めて少なく、高分子量で、かつ分子量分布3.5以下である(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含む粘着剤組成物を効率よく製造する方法、この方法で得られた粘着剤組成物からなる粘着剤、及び該粘着剤組成物より形成された粘着剤層を有し、各種被着体に貼付した場合に、充分な粘着力を発揮すると共に、剥離した際には、該粘着剤層に起因する残渣物の付着が極めて少ない保護フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、保護フィルムは、光学用として各種画像表示装置、例えばLCD(液晶表示体)、タッチパネル、CRT(ブラウン管)、PDP(プラズマディスプレイパネル)、EL(エレクトロルミネッセンス)、光記録媒体などにおいて、表面保護を始め、防眩性や反射防止などの目的で用いられている。また、LCDにおいては、偏光子を保護するために用いられている。この保護フィルムは、一般に、基材フィルムの一方の面に粘着剤層を有し、他方の面に帯電防止性能や防汚性能などの機能性コーティング層、あるいは必要に応じてハードコート層などが設けられている。そして、光学的特性に優れ、粘着剤の設計が比較的容易であることから前記粘着剤層には、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を主剤とするアクリル系粘着剤が用いられている。
このような保護フィルムを、前記被着体に粘着剤層を介して貼付すると、視認不可能なレベルで僅かな残渣物が付着することが知られており、これは、アクリル系粘着剤を用いる場合、主剤である(メタ)アクリル酸エステル共重合体中に存在する残留モノマーや低分子量成分に起因することが分かっている。
【0003】
特許文献1には、リビングラジカル重合によって得られた重量平均分子量20万〜200万及び分子量分布2.5未満の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を含む粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有する保護フィルムであって、前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)中の重量平均分子量5万以下の低分子量成分の割合が5質量%未満であることを特徴とする保護フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−74380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の技術におけるリビングラジカル重合は、重合時間が長く、コスト高となり、また重合開始剤由来の金属が粘着剤層に含まれ、環境保護の観点からも問題がある上、剥離シートとの間で重剥離化が問題となっていた。
本発明は、このような状況下になされたもので、粘着剤組成物中の主剤として(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用い、該粘着剤組成物より形成された粘着剤層を有し、各種被着体に貼付した場合、充分な粘着力を発揮する上、被着体から剥離した際には、該粘着剤層に起因する残渣物の付着が極めて少ない保護フィルムを提供すると共に、前記粘着剤組成物を効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
重量平均分子量が所定の範囲にある高分子量を有し、かつ分子量分布が3.5以下の(メタ)アクリル酸エステル共重合体を、水性媒体中での懸濁重合によって得たのち、有機溶媒置換することで、保護フィルムの粘着剤層形成に用いられる有機溶媒溶液からなる粘着剤組成物が効率よく得られることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]水性媒体中での懸濁重合により、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を得たのち、
前記成分(A)を含む液に固液分離処理を施し、得られた固形分を有機溶媒に溶解する有機溶媒置換を行い、
重量平均分子量が80万〜250万で、かつ分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比)が3.5以下の前記成分(A)を含み、前記成分(A)における分子量10万以下の低分子量重合体の含有割合が、2.0面積%未満である粘着剤組成物を得ることを特徴とする粘着剤組成物の製造方法、
[2]粘着剤組成物が架橋剤を含む上記[1]項に記載の粘着剤組成物の製造方法、
[3]上記[1]又は[2]項に記載の方法で得られた粘着剤組成物により形成することを特徴とする粘着剤層の製造方法、及び
[4]上記[]項に記載の方法で得られた着剤層を基材の一方の面に設けることを特徴とする保護フィルムの製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粘着剤組成物中の主剤として(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用い、該粘着剤組成物より形成された粘着剤層を有し、各種被着体に貼付した場合、充分な粘着力を発揮する上、剥離した際には、該粘着剤層に起因する残渣物の付着が極めて少ない保護フィルムを提供すると共に、前記粘着剤組成物を効率よく製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本発明の粘着剤組成物の製造方法について説明する。
[粘着剤組成物の製造方法]
本発明の粘着剤組成物の製造方法は、重量平均分子量が80万〜250万で、かつ分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比)が3.5以下の(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を含む有機溶媒溶液からなる粘着剤組成物の製造方法であって、水性媒体中での懸濁重合により、前記成分(A)を得たのち、有機溶媒置換することを特徴とする。
【0010】
((メタ)アクリル酸エステル共重合体(A))
本発明の粘着剤組成物の製造方法においては、まず、下記の性状を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)(以下、単に「共重合体(A)」と称することがある。)を水性媒体中での懸濁重合により製造する。
本発明の粘着剤組成物の製造方法において、水性媒体中での懸濁重合で得られる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、上記粘着剤組成物において、主剤として含まれる成分であって、以下に示す性状を有する。なお、前記「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を指す。他の類似用語も同様である。
【0011】
<共重合体(A)の性状>
当該(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重量平均分子量Mwが80万〜250万の範囲にあって、分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比)が3.5以下であることを要する。前記重量平均分子量が80万未満であると、必然的に分子量10万以下の低分子量重合体成分の比率が増えて、被着体への残渣物の付着を防止することができない。一方250万を超えると粘着剤組成物の粘度増加により塗工面の平滑性が悪化し、透明性等の光学特性が悪化する。また、このような粘度増加を抑えるには、後述の有機溶媒置換において、大量の溶媒が必要であり、コスト的観点あるいは環境対策上も好ましくない。少ない残渣物、接着耐久性及び塗工適性などを考慮すると、この重量平均分子量は100万〜240万のものが好ましく、120万〜230万のものがより好ましい。
また、分子量分布(Mw/Mn比)が3.5を超えると、当該(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)中の低分子量重合体成分の増加を招くことになり、本発明の目的が達せられない場合がある。好ましい分子量分布(Mw/Mn比)は3.4以下であり、特に好ましくは2.0〜3.0である。なお、上記重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0012】
さらに、当該(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)においては、GPC法により測定される、その中に含まれる分子量10万以下の低分子量重合体成分の割合が5面積%未満であることが好ましい。この低分子量重合体成分の割合が5面積%以上であると、このような共重合体を含有する粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を有する保護フィルムを、被着体に該粘着剤層を介して貼付した場合、該被着体への残渣物の付着を十分に低いレベルに抑制できない場合がある。
したがって、分子量10万以下の低分子量重合体成分の割合は4.6面積%以下であることがより好ましく、3.6面積%以下であることがさらに好ましく、2.0面積%以下であることが特に好ましい。
【0013】
<共重合体(A)の組成>
当該(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a)(以下、非官能性単量体単位(a)と称することがある。)と、反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b)(以下、官能性単量体単位(b)と称することがある。)とを、質量比80:20〜99.9:0.1の割合で含むものが好ましい。前記官能性単量体単位(b)における反応性官能基は、後述の架橋剤によって架橋される架橋点となる官能基であり、該官能性単量体単位(b)の含有量が、前記非官能性単量体単位(a)との合計量に基づき、0.1質量%未満では、当該(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は架橋が不充分となり、得られる粘着剤は粘着力や耐久接着性の劣るものとなる場合がある。一方20質量%を超えると、粘着剤の製造時にゲル化を起こしやすくなり、さらに、架橋剤添加後のポットライフが短くなりすぎて作業性の問題が生じる恐れがある。また、凝集力が高くなりすぎ粘着力が低下して被着体に対する密着性が悪くなる恐れもある。
官能性単量体単位(b)のより好ましい含有量は、非官能性単量体単位(a)との合計量に基づき、0.5〜10質量%であり、さらに好ましくは1〜8質量%である。
【0014】
当該(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、前記の非官能性単量体単位(a)を形成する炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、前記の官能性単量体単位(b)を形成する反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、所望により用いられる他の単量体とを共重合させることにより製造することができる。
【0015】
アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
一方、反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのモノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、本発明においては、架橋性などの観点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0017】
また、所望により用いられる他の単量体の例としては酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類;塩化ビニル、ビニリデンクロリドなどのハロゲン化オレフィン類;スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル系単量体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド類などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
当該(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)としては、粘着剤としての性能の観点から、ブチルアクリレートと、4−ヒドロキシブチルアクリレートとの共重合体、ブチルアクリレートと、2−エチルヘキシルアクリレートと、4−ヒドロキシブチルアクリレートとの共重合体、ブチルアクリレートと、2−ヒドロキシエチルアクリレートとの共重合体、ブチルアクリレートと、シクロヘキシルアクリレートと、4−ヒドロキシブチルアクリレートとの共重合体、あるいはブチルアクリレートと、メチルアクリレートと、4−ヒドロキシブチルアクリレートとの共重合体が好適である。
この場合、共重合体中の架橋点となる4−ヒドロキシブチルアクリレート単位や2−ヒドロキシエチルアクリレート単位の含有量は、0.5〜10質量%程度が好ましい。
【0019】
<共重合体(A)の重合>
本発明の粘着剤組成物の製造方法においては、該粘着剤組成物において、主剤として含まれる成分である(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、前述したように高分子量(Mw:80万〜250万)を有すると共に、分子量分布が小さい(3.5以下)ものであり、このような性状を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体を得るためには、本発明には水性媒体中での懸濁重合法を採用する。
【0020】
《懸濁重合法》
水性媒体中での懸濁重合法については特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。
具体的には、まず、水性媒体中に、前述した(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する各単量体成分、油溶性ラジカル開始剤、ドデシルメルカプタンなどの連鎖移動剤、界面活性剤及び必要に応じて用いられるポリビニルアルコールなどの分散安定剤、その他の添加剤を加えプレミックスし、ホモジナイザーにより均質化処理して、油滴の粒径調節を行う。該ホモジナイザーとしては、例えばコロイドミル、振動撹拌機、二段式高圧ポンプ、ノズルやオリフィスからの高圧噴出、超音波撹拌などが挙げられる。さらに、油滴の粒径の調節は、均質化処理時の剪断力の制御、重合中の撹拌条件、反応装置の形式、界面活性剤や添加剤の量などにより影響されるが、これらは簡単な予備実験により、適当な条件を選択することができる。
次に、このようにして均質化処理された液は重合用容器に送られ、ゆっくりと撹拌しながら昇温し、通常30〜80℃の範囲の温度において、6〜24時間程度重合が行われる。
【0021】
前記油溶性ラジカル開始剤(重合触媒)としては、例えばジベンゾイルペルオキシド、ジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルペルオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネートなどのペルオキシジカーボネート類、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシネオデカノエートなどのペルオキシエステル類、あるいはアセチルシクロヘキシルスルホニルペルオキシド、ジサクシニックアシッドペルオキシドなどの有機過酸化物、さらには2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2'−アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などを使用することができる。これらの触媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができ、その使用量は、単量体の種類と量及び仕込方式などによって適宜選ばれるが、通常使用単量体100質量部当たり、0.001〜5.0質量部の範囲で選択することができる。
【0022】
一方、前記界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸エステルナトリウム、ミリスチル硫酸エステルナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホコハク酸エステル塩類、ラウリン酸アンモニウム、ステアリン酸カリウムなどの脂肪酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類、さらにはドデシルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤類、ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類などのノニオン性界面活性剤類、セチルピリジニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミドなどのカチオン性界面活性剤などが挙げられ、これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、その使用量は、通常使用単量体100質量部当たり、0.05〜5質量部、好ましくは0.2〜4.0質量部の範囲で適宜選択することができる。
【0023】
なお、当該懸濁重合において用いられる水性媒体とは、水又は、水と混和性を有する有機溶媒、例えば低級アルコール類と水との混合溶媒等を指す。
このような水性媒体中での懸濁重合により、重量平均分子量が80万〜250万及び分子量分布が3.5以下であり、かつ平均粒径が10〜200μm程度、好ましくは10〜150μmの(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)粒子を含む懸濁液が得られる。
なお、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の分子量(重量平均重合度)は、反応温度、ラジカル開始剤や連鎖移動剤(分子量調整剤)の量などによって調製することができる。また、前記共重合体(A)粒子の平均粒径は光散乱法により測定することができる。
【0024】
<有機溶媒置換>
本発明の粘着剤組成物の製造方法においては、前述したように(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を水性媒体中で懸濁重合して得られた該共重合体(A)粒子を含む懸濁液を、有機溶媒置換し、所望により後述の添加成分を配合することによって、有機溶媒溶液からなる粘着剤組成物を調製する。
当該有機溶媒置換は、例えば以下に示す方法により行うことができる。
まず、共重合体(A)粒子を含む懸濁液に、ろ過や遠心分離などの固液分離処理を施して、共重合体(A)のウェットケーキを得たのち、このウェットケーキに有機溶媒を加えて溶解し、該共重合体(A)を含む有機溶媒溶液とする。この際、水層が有機層から分離した場合、該水層は取り除くことが好ましい。また、共重合体(A)粒子を含む懸濁液に疎水系の有機溶媒を加え、分液操作により共重合体(A)粒子を前記有機溶媒側へ溶解・抽出することも好ましい。
【0025】
この有機溶媒置換に用いる有機溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、イソホロンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤などが挙げられる。
これらの有機溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その使用量としては、粘着剤組成物としてコーティング可能な濃度や粘度になる量であればよく、特に制限はない。
【0026】
なお、粘着剤組成物は、このようにして得られた(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が溶解されてなる有機溶媒溶液に、所望により、添加成分を配合することにより調製される。
<添加成分>
このようにして有機溶媒置換して得られた有機溶媒溶液には、必要に応じ、各種添加成分、例えば架橋剤、粘着付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、無機・有機フィラー、着色剤などを適宜量添加することができる。
【0027】
《架橋剤》
本発明の方法で得られた有機溶媒溶液において、必要に応じて配合される架橋剤としては特に制限はなく、従来アクリル系樹脂において架橋剤として慣用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。このような架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、アジリジン系化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩などが挙げられるが、ポリイソシアネート化合物が好ましく用いられる。
ここで、ポリイソシアネート化合物の例としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体(例えば、トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート)などを挙げることができる。
本発明においては、この架橋剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その使用量は、架橋剤の種類にもよるが、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、通常0.01〜20質量部、好ましくは、0.1〜10質量部、特に好ましくは0.5〜5質量部の範囲で選定される。なお、架橋剤の配合は、前記粘着剤組成物から形成される粘着剤層の凝集力を好適に向上させ、粘着剤層を被着体から剥離した際、被着体上の残渣物の付着を低減する観点から好ましい。
【0028】
《粘着付与剤》
本発明の方法で得られた有機溶媒溶液において、必要に応じて含有される粘着付与剤としては特に制限はなく、例えばロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂及びその水素化物、テルペンフェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂及びその水素化物、スチレン又は置換スチレンの低分子量重合体などが挙げられる。この粘着付与剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。当該粘着付与剤の含有量は、当該粘着剤組成物の所望性能に応じて適宜選定すればよい。
なお、当該粘着付与剤は、前述した(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の水性媒体中での懸濁重合時に、単量体混合物中に溶解させて用い、該粘着剤組成物中に含有させてもよい。
【0029】
前記共重合体(A)の有機溶媒溶液は、前述のとおり、所望により各種添加成分が配合され、さらに、塗工に最適な粘度となるように有機溶媒を追加して粘度調整をすることにより粘着剤組成物となる。なお、粘度調整する有機溶媒は前記共重合体(A)の有機溶媒溶液を調製するために用いたものと同一であっても良いし、異なっていても良い。有機溶媒置換に使用される有機溶媒から適宜選択して使用することができる。
このようにして得られた有機溶媒溶液からなる粘着剤組成物は、保護フィルムの粘着剤層形成用として用いることができる。該粘着剤層を有する保護フィルムは、被着体に貼付した場合に充分な粘着力で被着体に接着できると共に、剥がした際には、被着体への残渣物の付着が極めて少ないなどの特徴を有している。
【0030】
本発明はまた、前述した製造方法で得られた粘着剤組成物からなる粘着剤、及び該粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有する保護フィルムも提供する。
次に、本発明の保護フィルムについて説明する。
[保護フィルム]
本発明の保護フィルムは、前述した製造方法で得られた粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有するものである。すなわち、本発明の保護フィルムとしては、基材の一方の面に、前記粘着剤層を有するものであることが好ましく、さらに該粘着剤層の露出面側に離型フィルムが積層されてなる構成の積層フィルムが特に好ましい。
【0031】
(基材)
本発明の保護フィルムにおいて、基材として紙基材、プラスチックフィルム等が好ましく挙げられる。紙基材としては、特に制限はなく、例えば、和紙、洋紙、上質紙、グラシン紙、クラフト紙、フルパック紙、クレープ紙、クレーコート紙、トップコート紙、合成紙等を挙げることができる。一方、プラスチックフィルムとしては特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等を挙げることができる。なお、保護フィルムを光学用途で使用する場合には、被着体に貼付した状態で検品作業を行ったり、需要者の好みにより保護フィルムを貼付した状態のままその上から視認するような使用がされることもあるので、基材としては透明プラスチックフィルムであることが好ましい。
このプラスチックフィルムは、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。また、片面又は両面にプライマー処理を施したものも用いることができる。
基材の厚さは特に制限はなく、適宜選定されるが、通常10〜250μm、好ましくは25〜200μmの範囲である。
【0032】
(粘着剤層)
本発明の保護フィルムにおいて、前記基材の一方の面に設けられる粘着剤層は、前述した本発明の製造方法で得られた粘着剤組成物を、基材に直接塗布・乾燥することにより形成することができる。なお、粘着剤層への埃等の付着防止等の観点から、さらにその粘着剤層上に離型フィルムを積層することも好ましい。また、離型フィルムの離型処理面に前記粘着剤組成物を塗布・乾燥して粘着剤層を形成することも好ましい。この場合、この離型フィルム付き粘着剤層を基材の一方の面に貼着させることにより保護フィルムを製造することができる。
粘着剤組成物の塗布方法としては、公知の方法、例えばナイフコート法、ロールコート法、バーコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより、所定の厚さになるように塗布・乾燥する方法を用いることができる。
粘着剤層の厚さは、通常2〜30μm程度、好ましくは5〜25μmである。
ここで、前記粘着剤層の基材と接しない側(被着体貼付側)の表面粗さは、1μm未満であることが好ましく、0.5μm未満であることがさらに好ましく、0.3μm未満であることが特に好ましい。被着体への粘着力を十分に維持しながら、剥離時には被着体への糊残りを防止する観点から、該粘着剤層の表面粗さ(Ra)が上記範囲となることが好ましい。なお、表面粗さは、JIS B 0601−1994により求めることができる。
また、前記粘着剤層のヘーズ値は、0〜10%であることが好ましく、0.01〜2%であることがさらに好ましく、0.1〜1%であることが特に好ましい。糊残り防止性と粘着力確保の観点から、ヘーズ値を上記範囲とすることが好ましい。なお、ヘーズ値は、JIS K 7136により求めることができる。
【0033】
(コーティング層)
本発明の保護フィルムにおいては、基材の粘着剤層とは反対側の面に、帯電防止性能及び/又は防汚性能を有するコーティング層を設けることができる。
帯電防止性能を有するコーティング層は、例えば熱可塑性樹脂マトリックス中に、導電性材料が分散してなる塗工液を塗布・乾燥することにより形成することができる。
一方、防汚性能を有するコーティング層は、一般にフッ素系樹脂を含む塗工液を塗布・乾燥することにより形成することができる。
前記各種塗工液の塗布方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを用いることができる。
このようにして形成された導電性能を有するコーティング層の厚さは、通常0.05〜1μm程度、好ましくは0.3〜0.7μmであり、防汚性能を有するコーティング層の厚さは、通常1〜10nm程度、好ましくは3〜8nmである。なお、このようなコーティング層を設けることは、離型フィルムを使用せずに、巻回体(ロール)として使用時まで保護フィルムを保管できることからも好ましい。
【0034】
(離型フィルム)
前記粘着剤層上へ所望により設けられる離型フィルムとしては、例えばグラシン紙、コート紙、ラミネート紙などの紙及び各種プラスチック製フィルムに、シリコーン樹脂などの離型剤を塗布したものなどが挙げられる。プラスチック製フィルムとしては、上記プラスチックフィルムで挙げたものを適宜使用することができる。この離型フィルムの厚さについては特に制限はないが、通常10〜100μm程度である。
(粘着剤層の性状)
<粘着力>
保護フィルムは、被着体に貼付している間は剥がれることなく十分に密着され、不要になった際は容易に剥せることが求められる。光学用途で用いられることを考慮して、本発明においては、ポリメチルメタクリレート板(以下、「PMMA板」と称する場合がある)を被着体として測定する。
測定は、25mm幅×100mm長の保護フィルムの粘着剤層をPMMA板に圧着し、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置したのち、同環境下で、剥離速度300mm/分、剥離角度180°で剥すことにより行う。
粘着力としては、30〜1000mN/25mmであることが好ましく、60〜500mN/25mmであることがさらに好ましい。30mN/25mm未満であると意図せずに剥がれてしまう場合があり、1000mN/25mmを超えると残渣物の付着が増加する場合がある。
<ゲル分率>
本発明の保護フィルムにおける粘着剤層のゲル分率は、90〜100%の範囲にあることが好ましい。このような範囲内のゲル分率とすることは、得られる粘着剤層を被着体に貼付し、剥がしたあとの被着体への残渣物の付着を極めて少ないものとするうえで効果的である。このような観点からゲル分率は95〜100%であることが特に好ましい。
なお、上記ゲル分率の測定方法については、後で詳述する。
<残留パーティクル数試験>
本発明の保護フィルムを、粘着剤層を介して被着体に貼付した場合に付着する残渣物の量は、被着体としてシリコンウエハを選択し、レーザー表面検査装置を用いて(詳細は後述の通りである)、その表面に付着した残渣物の量を確認することにより判断することができる。なお、被着体としてシリコンウエハを選択するのは、残渣物の付着する量を数値的に測定することが容易であるためである。残留パーティクル数が200(個/4インチウェハ)以下であれば、各種被着体への残渣物の非常に少ない粘着剤層であると言える。
<重剥離性>
本発明の保護フィルム(構成:PET/粘着剤層/離型フィルム)を70℃、dryの条件で500時間放置した後の剥離力上昇率は100%未満であり、塗工経時での剥離力上昇が少ない粘着剤層であると言える。
【0035】
このような性状を有する本発明の保護フィルムを用いることにより、被着体の中でも高いレベルで表面の清浄さが要求される機能性光学部材への適用においても、残渣物の付着により、各機能が損なわれるのを抑制し得ることが期待される。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって、なんら限定されるものではない。
なお、各例で得られたアクリル酸エステル共重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、並びに重量平均分子量10万以下の低分子量重合体の含有量を、下記の方法により求めた。
<GPC法>
測定装置:東ソー社製の高速GPC装置「HLC−8120GPC」に、高速カラム「TSK gurd column HXL−H」、「TSK Gel GMHXL」、「TSK Gel G2000 HXL」(以上、全て東ソー社製)をこの順序で連結して測定した。
カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分、検出器:示差屈折率計
【0037】
また、各例で得られた保護フィルムについて、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に対する粘着力、粘着剤層のゲル分率、残留パーティクルの数(残留パーティクル数試験)及び重剥離性を下記の方法により求めた。
(1)PMMAに対する粘着力
保護フィルムから、25mm幅、100mm長のサンプルを切り出し、離型フィルムを剥して、PMMA板[三菱レイヨン社製、「アクリライトL001」]に貼付したのち、栗原製作所製オートクレーブにて、0.5MPa、50℃、20分間の条件で加圧する。その後、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置したのち、同環境下で、引張試験機[オリエンテック社製、「テンシロン」]を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で粘着力を測定する。
(2)ゲル分率
粘着剤厚20μmを80mm×80mmのサイズにサンプリングして、ポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包み粘着剤のみの重さを精密天秤にて秤量した。この時の重さをM1とする。ソックスレー(抽出器)を用いて酢酸エチル溶剤に粘着剤を浸漬させ、還流を行い16時間処理した。その後粘着剤をとり出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下、24時間で風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後の粘着剤のみの重さを精密天秤にて秤量した。この時の重さをM2とする。ゲル分率は、(M2/M1)×100で表される(%)。
(3)残留パーティクル数試験
実施例あるいは比較例において得られた保護フィルムをクリーンルーム内にて、室温下で、4インチシリコンウエハの鏡面に5kg(49N)ゴムローラーを1往復させることにより貼り付け、60分間放置した後、剥離を行った。このときウエハ上の粒径0.27μm以上の残留異物の数をレーザー表面検査装置[日立電子エンジニアリング社製]により測定した。
(4)重剥離性
実施例あるいは比較例で得られた保護フィルムを、70℃、dry条件下で500時間放置後(以下、「70℃促進投入後」と称する場合がある)の剥離力の上昇率を下記の式で求め、下記の判定基準で重剥離性を評価した。
<剥離力の測定方法>
25mm幅×150mm長にサンプリングして、オリエンテック社製テンシロンを用いて離型フィルムの剥離力を測定した。剥離速度:300mm/min、剥離角度:180°
<剥離力上昇率の計算式>
[(70℃促進投入後の剥離力)/(70℃促進投入前の剥離力)]×100
<重剥離性の評価>
○:剥離力の上昇率が150%未満
×:剥離力の上昇率が150%以上
(5)粘着剤層の表面粗さ
レーザー顕微鏡[キーエンス社製「VK−9700」]を用いて、JIS B 0601−1994に準拠して測定した。
(6)粘着剤層のヘーズ値
粘着剤単体をソーダライムガラスに貼合し、[日本電色工業(株)製ヘーズメーター「NDH−2000」]を用い、JIS K 7136に準拠して測定した。
【0038】
実施例1(参考例1)
(1)懸濁重合によるランダム共重合体からなるアクリル酸エステル共重合体の製造
単量体としてブチルアクリレート(BA)とシクロヘキシルアクリレート(CHA)と4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)とを、質量比78:20:2の割合で用い、以下に示す水性媒体中で懸濁重合により、BA/CHA/4HBAのランダム共重合体からなるアクリル酸エステル共重合体を製造した。この共重合体の性状を第1表に示す。
<懸濁重合>
撹拌機を備えたガラス製の丸底フラスコに水300質量部を入れ、これに分散安定剤としてポリビニルアルコール0.7質量部及び界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2質量部を溶解し、撹拌翼により300rpmで撹拌しながら、前出のBAとCHAと4HBAからなる単量体混合物(質量比78:20:2)と、重合開始剤として、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.9質量部を一括投入してプレミックスしたのち、ホモジナイザーにより均質化処理して、油滴の粒径を調整した水性懸濁液を作製した。次いで、この水性懸濁液を撹拌下に反応系内の温度を約70℃まで昇温させ、4時間一定温度に保って反応させ、平均粒径が50μm程度の粒子状BA/CHA/4HBAのランダム共重合体からなるアクリル酸エステル共重合体を製造した。
(2)粘着剤組成物の調製
上記(1)で得られたアクリル酸エステル共重合体粒子を含む懸濁液をろ過して該共重合体のウェットケーキを得たのち、このウェットケーキに酢酸エチルを加えて溶解し、固形分濃度15質量%の酢酸エチル溶液を得た。
この溶液に、該共重合体100質量部当たり、架橋剤としてイソシアヌレート型HDI[日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートHX」、NCO含量:21.3質量%、固形分100%]3質量部、架橋促進剤としてジブチルスズジラウレート0.005質量部、及び架橋遅延剤としてアセチルアセトン2質量部を加え、粘着剤組成物を調製した。
(3)保護フィルムの作製
基材フィルムとして、厚さ38μmの帯電防止性防汚ポリエチレンテレフタレートフィルム[東レ社製、商品名「PET38SLD52」]の非AS・防汚処理面に上記(2)で得た粘着剤組成物を、ナイフ式塗工機により、乾燥厚さが5μmになるように塗布したのち、90℃にて1分間加熱乾燥して粘着剤層を形成した。
次いで、厚さ38μmの離型フィルム[リンテック社製、商品名「SP−PET381031」]の離型処理面に、上記で得られたPET基材付き粘着剤層を貼合して、保護フィルムを作製し、この保護フィルムについて、諸特性を求めた。その結果を第2表に示す。
【0039】
実施例2〜3(参考例2〜3)、実施例4
実施例1におけるBAとCHAと4HBAとの単量体混合物(質量比78:20:2)の代わりに、第1表に示す質量比の単量体混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして水性媒体中での懸濁重合を行い、3種のランダム共重合体からなるアクリル酸エステル共重合体を製造した。各共重合体の性状を第1表に示す。
なお、実施例4は、懸濁重合で得られた上記共重合体7.2質量部をメタノール100質量部中に加え、室温でかきまぜて、沈澱を形成させた。次いで、この沈殿物を、デカンテーションにより分離したのち、メタノール50質量部で洗浄した。その後、デカンテーションでメタノールを取り除き、この沈殿物についての性状を第1表に示した。このような精製処理により、実施例1〜3に比べて、重量平均分子量がかなり大きくなると共に、分子量10万以下の低分子量重合体の含有割合が少なくなり、かつ分子量分布が小さくなっていることが分かる。
【0040】
次いで、実施例1と同様にして各粘着剤組成物を調製し、さらに各保護フィルムを作製し、諸特性を求めた。その結果を第2表に示す。
【0041】
比較例1
(1)溶液重合(フリーラジカル重合)によるアクリル酸エステル共重合体の製造
単量体としてBAと2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)と4HBAとを質量比75:20:5の割合で用い、以下に示すフリーラジカル重合により、BA/2EHA/4HBAのアクリル酸エステル共重合体を製造した。この共重合体の性状を第1表に示す。
<溶液重合(フリーラジカル重合)>
撹拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを封入後、酢酸エチル90質量部、2EHA20質量部、BA75質量部、4HBA5質量部、重合開始剤2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部を仕込み、撹拌しながら酢酸エチルの還流温度で7時間反応させた。反応終了後、トルエン95質量部を添加して室温まで冷却し、固形分30質量%であるアクリル酸エステル共重合体溶液を得た。
以下、実施例1と同様にして、粘着剤組成物を調製し、さらに保護フィルムを作製した。この保護フィルムの諸特性を第2表に示す。
【0042】
比較例2
(1)溶液重合(リビングラジカル重合)によるアクリル酸エステル共重合体の製造
単量体としてBAとCHAと4HBAとを質量比78:20:2の割合で用い、以下に示すリビングラジカル重合により、BA/CHA/4HBAのランダム共重合体からなるアクリル酸エステル共重合体を製造した。この共重合体の性状を第1表に示す。
<溶液重合(リビングラジカル重合)>
アルゴン置換したグローブボックス内で、エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート68.5μL、BA107g、CHA27.4g、4HBA2.7g及び2,2'−アゾビスイソブチロニトリル4.6mgを60℃で20時間反応させた。
反応終了後、反応器をグローブボックスから取り出し、該反応器中の反応物を酢酸エチル500mLに溶解したのち、そのポリマー溶液を活性アルミナ[和光純薬工業社製]で作製したカラムに通したのち、このポリマー溶液の固形分が30質量%になるようにトルエンを添加した。
以下、実施例1と同様にして粘着剤組成物を調製し、さらに保護フィルムを作製した。この保護フィルムの諸特性を第2表に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
[注]
Mw:重量平均分子量
Mn:数平均分子量
BA:ブチルアクリレート
CHA:シクロヘキシルアクリレート
4HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート
MA:メチルアクリレート
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
【0045】
【表2】
【0046】
第1表から分かるように、水性媒体中での懸濁重合で得られた実施例1〜4のアクリル酸エステル共重合体は、比較例1のフリーラジカル法による溶液重合で得られたアクリル酸エステル共重合体に比べて重量平均分子量が大きい上、分子量10万以下の低分子量重合体の含有割合が少なく、かつ分子量分布が小さい。
また、第2表から分かるように、実施例1〜4の本発明の保護フィルムは、比較例1の保護フィルムに比べて、PMMAに対する粘着力が高く、かつ残留パーティクル数が少ない。
一方、リビングラジカル法による溶液重合の粘着剤組成物を用いた比較例2の保護フィルムは、経時により重剥離性が大きくなるという問題を有している。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の粘着剤組成物の製造方法は、残留モノマー及び低分子量重合体が極めて少なく、高分子量で、かつ分子量分布が3.5以下である(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含む粘着剤組成物を効率よく製造することができる。
また、前記粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有し、各種被着体に貼付した場合に、充分な粘着力を発揮すると共に、剥離した際には、該粘着剤層に起因する残渣物の付着が極めて少ない保護フィルムを提供することができる。